6話 ヒトのカタチをしたケモノ
ゲーム開始数分で彼はこう呟いた。
少年、山面天は9歳の齢にして超越した能力。俗に云う『超能力』の持ち主である。
そしてこの少年は、人が知り得ぬ辺境地で産まれ、そしてそこで生きてきた。
山面少年の生まれたそこは、殺し合いの聖地であった。
日本のどこか、どこかと言われても、そこだと言えないほどに誰も知らない辺境の地で生まれたこの少年は、生を受けて1時間にも満たぬうちに殺されかけた。
その理由は単純明快である。彼の生まれたその地が、人が一日に何回も何回も、当たり前のように同じ人間を殺しているからだ。
その地は、一般の人間が俗に言うスラム街という所である。が、赤子も子供も大人も――いつ命を落とすか分からない。そんな過酷な地であった。
少年は、そんな所で生まれ、そして生まれながらに人智を超越した能力をその身に宿していた。
そして――山面天はその地でずっと生き続けて生き続けて――ただ生き続けて、9歳の誕生日を迎えた一日目。
山面にとっては生まれてから2923日目の朝。
のはずだった。
山面は、いつものようにその地で、殺すか殺されるかの一日を過ごすはずだった。
しかし今は、殺し合いの舞台にいる。
しかも、他人の自分勝手な要望で、だ。
山面はそれが許せなかった。
自分は毎日殺し合いをやっているようなものだ。それはとても常人の精神では耐えきれるようなものではない。
自分はその地で生まれてきたから――この"呪い"があったからこそ、他人を呪って呪って呪い続けて今まで生き残ることができた。
だからこそ、だ。
自分以外の人間に、こんな馬鹿げた理由で殺し合いをさせるわけにはいかない――だからこそ、山面は殺し合いを止める決意をした。
「とりあえず、使える武器があれば持っておきたいな……」
山面はそう思いディパックを漁ったが、ルールブックに記載してあった基本的な支給品しか入っていなかった。
なぜ? と思い、超能力で支給品を個別に分けて確認してみた――しかし、やはりそれらしき物は無い。
「僕の武器は……なんで支給されてないんだ……?
あのオッサン、入れ忘れたのかな……まあ、いいんだけれど」
仕方ない。武器がないならそれでもいい。山面はそう思った。
理由は簡単である。
武器は『相手を苦しめる』ものだからだ。
武器なんて、使ったら相手が痛がって死ぬじゃないか。
それならば、相手が痛くないように対応するのがいい。
自分の超能力なら、相手を痛がらせもしないし苦しませもしない。
人間の心を壊して殺してしまえば痛みも苦しみもない。だから大丈夫。
それに、殺しは極力しない。自分を殺そうとするのなら容赦は微塵もしないけど。
だから殺すか殺さないかだ。
つまり、超能力を使うか使わないかってことだ。
なんだ。いつも通りじゃないか。
いつもの――日常か。
山面はそんな事を考えていた。
普通の人間から見ればこの思考は異端である。しかし、彼の存在自体が異端である。違和感は全く無い。
「とりあえず、協力してくれる人を探さなきゃ」
そう口に出すと、山面は行動を始めた――いや、始めようとした。と言った方が正しいか。
理由は簡単だ。山面が参加者に遭遇したからだ。
殺し合いの参加者に。
「えーっと……君も、参加者?」
「……」
"参加者"は、山面の質問に答えはしなかった。
「もし、この殺し合いをする気がないのなら、僕と一緒に――」
――と、山面の台詞はそこまでだった。
山面の声は、相手の爪に遮られていた。
山面は、どうして声が出せないのか。という疑問にとらわれた。が、自分の喉を見て確信する。
――ああ。
自分は、喉を爪で抉られたのだと。
鋭く尖った敵の爪からは、山面の新鮮な血がポタポタと滴っている。
敵は、山面の喉にさらに爪を立て、さらに喉の奥まで抉る。
それに比例して、喉から流れ出る血の量も徐々に増えていく。
山面は久しぶりにまずい、と思った。
久しぶりなのは、その感覚が久しぶりだったからだった。
その、死が自分に迫ってくる感覚が。
「ぅ……ぐぁ」
このままでは死ぬ――
敵は、自分を殺しにかかっている。
だから自分も超能力をその敵に向かって使おう。
なに、簡単だ。
敵の心を壊せば、敵は死ぬ。
またか――
昨日もおとといも、その前も自分を殺そうと大人が襲ってきた。だから殺した。
今日も――結局何ら変わりない日常だった。
山面は、そう思った。
もしかしたら、今日は殺し合いを打倒する
ヒーローにでもなれるのではないかと絵空事を描いていた。
しかし蓋を開けてみれば、いつも通り、ただの日常だった。
そう、殺し合いという名の。
山面は、いつものように、自分の命を奪いにくる敵の心を壊した。
――はずだった。
「……ぁ」
「……は?」
「……ぎ……」
「な……なん、だ……よ……」
「ギグギアァァアァァ!」
「……ほう…………こう…………?」
敵は死んではいなかった。
自分は、確かに超能力を敵に向かって使用したはず、なのに――
死なない。死なない。死なない。死なない。死なない。
壊れない。壊れない。壊れない。壊れない。壊れない。
殺せない。殺せない。殺せない。殺せない。殺せない。殺せない。
殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。
生きられない。生きられない。生きられない。生きられない。生きられない。
敵は、爪を山面の喉をさらに抉る。
山面は、もう息はほぼしてはいなかった。
いくら超能力を持つ少年とはいえ、自分の心臓を無理矢理動かす超能力などは持ち合わせていない。
つまり、山面はもう死ぬしか道はなかった。
敵の爪の動きは、ある程度山面の喉肉の奥に侵入すると、コツンという音とともに停止した。山面の首の骨の部分まで到達したということだろう。
山面は、なぜ今日の敵には超能力が効かなかったのだろう――そんな疑問を持ったまま死んだ。
山面は、今日殺し合いに始めて負けたのだ。
そして、再び起き上がることは二度となかった。
「ウァ、ウアー」
山面を殺した"敵"は、山面が死亡したことを確認すると、喉の奥まで突き刺さった爪を抜いた。
と同時に、その傷口から真っ赤な血液が噴水のように噴き出る。
そのまま自分の噴水が作り出した血だまりの上に倒れこんだ。
山面を殺したその人間。いや、人間とは言えないかもしれないその男は、ただ歩き始めた。
そう、ただ歩き始めただけだ。
彼には思考も目的も心も無いのだから。
山面天を殺害した、その男の名は園生絶対という。
彼は、なんと人間にしてマズルを持つ、なんとも珍しき人間である。
ただそれだけの特徴を持つ彼なのだが、実は彼には心がない。
そう。山面天が超能力で殺せなかったのはそのためだ。
山面の超能力は、詳しくは分からないのだが、人間に使用すると心を破壊して死に至らしめるものらしい。
だからだ。
園生絶対には心というものが無い。
だから心を壊せずに山面は死んだのだ。
既に心が無い人間の心を破壊できるわけがない。破壊できる心が存在しないのだから。
園生は、ただ歩き出す。
理由もなく、目的もなく。ただ歩き続ける。
だって彼には、自分自身の意志で行動する心なんて持ち合わせていないのだから。
【B-3/森/一日目/0:42】
【園生絶対】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品
[思考] 0:……
【山面天 死亡】
[残り46人]
【キャラクター紹介】
【山面 天(ヤマオモテ テン)】
生まれながらに超能力を持つ少年。
人間の心を破壊して殺害するなどの能力が使用できる。詳しい情報は不明。
大人も子供も殺し合いが当たり前だと言われる辺境のスラム街で生まれ、9歳になった今日までずっと殺し合いを続けてきた。
そのせいか、殺しに関する感覚が他の人間と大分違っている。
【園生 絶対(ソノウ ゼッタイ)】
人間にしてマズルを持つ男。
人としての心を全く持たない。
幼少時にホームレス生活を送っていたとの情報が確認されている。
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最終更新:2013年12月02日 20:05