女子出席番号十二番、中野杏は同年代の少女と並ぶと必ず注目を集めるような少女だった。
と言っても、とびっきりに容姿が整っているわけではない。
いや、別に醜女であるわけでもない。どちらかと言うと整った容姿をしているだろう。
僅かに、だが鋭く釣り上がった瞳。
4歳の頃から行っている空手によって鍛えられたスレンダーな肉体。
そして、荒っぽくポニーにして纏めた髪型。
その全てがマッチしており、男性よりも女性に惹かれる凛々しさを持っている。
だが、その容姿よりも強く印象にもたれるのは、彼女の背が異常に高いことだ。
春に行われた身体測定の際で179cm、この一年でかなり伸びた自覚もあるためひょっとすると185cmを超えているかもしれない。
そのためか、男子女子問わずに避けられているような気もする。
その彼女が、思いつめた表情で目の前のガソリンとライターを見つめていた。
これは
殺し合い、担任の村越一がそう言っていた。
生き残れるのは一人だけ。残りの相手は同じ、クラスメイト。
それには親友の木崎奈美や、愛想もなくおっかない姿をしている自分にも優しくしてくれた多くの友人もいるのだ。
そして何よりも、何よりもこの世で最も大事な人がいる。
「……けーくん」
その意中の人の名を呟く。
間宮圭吾、物心ついた時から傍に居た大事な幼馴染で、半年前に恋人となった男の子。
あの時のことはよく覚えている、忘れようがない。
「ごめんね、けーくん。アンは……アンは、駄目だから。こんなことしか出来ないから」
ガソリンを持ち上げて、中身を思いきり自身の体にかける。
かなりの重量だったがしっかりと鍛えられた杏には持ち上げることができた。
少し、それが女の子らしくなく嫌だった。
何度も何度も男の子にから笑われたりした自分の体のことだ。
思えば圭吾にも何度もから笑われた。
「……さよなら、けーくん」
その言葉とともに、杏はガソリンに塗れた身体にライターで火をつけた。
◆ ◆ ◆
バンダナを巻いて短い髪を隠してうろつき回っている田中智司(男子8番)は目に見えて浮かれていた。
最初はやってられない、と思った。
自身の能力は確かにこんな状況では強力だが、それ以上に強力な能力の持ち主は存在する。
その代表格が智司と同じく問題児の一人である井東龍一(男子3番)だ。
井東は自身の能力の強力さを誇って誰も彼もに自分が不死系統の持ち主だと公言している。
超能力とはおおよそ三つに分けることができる。
一つは、自分自身に作用するもの。
また一つは、他人に作用するもの
最後の一つは、物を操るor造り出すもの。
稀に分類されたものの二つに属する能力もある(村越の催眠が自己暗示も可能とすれば、それにあたる)。
智司や井東は一番最初の『自分自身に作用するもの』に分類される。
その中でもこの状況で厄介なのが不死系統のものだ。
もちろん『絶対に死なない』という能力を持つ生徒はいない。
だが、不死系統の人間はとにかく死ににくい。少なくとも病死や事故程度では死にはしない。
故にやってられるか、と匙を投げかけたが智司に渡された武器で、とたんにやる気が湧き上がってきた。
その武器とはサブマシンガン、ミニウージーである。
フルオート射撃の上に連射速度が非常に速い。
これを智司の【喪神猟奇(サイレントダンス)】と組み合わせれば、ひょっとするとひょっとするかもしれない。
【喪神猟奇(サイレントダンス)】とは、智司が発した全ての音を消し去る能力。
能力の発動中に智司が大声で歌を歌いだそうとぐーすかイビキをかこうと誰も気づかない。
それは人だけではなく機械も一緒で、能力発動中に録音をしようとしても何の音も入りはしない。
これをうまく使えば、不死系統の中でも衝撃に弱いタイプは殺せる。
それに不死系統は死ににくいだけの人間が多い。
たっぷりと支給された銃弾はかなりの重量を与えてくるが、それすらも心地よく感じる。
生まれて初めて担任・村越のへと感謝した。
「……ん、火事か?」
はしゃぎまわっていると、ちょうど真向かいの民家から火の手が上がるのが見えた。
これは良い、能力を発動させて近づけば気付かれる可能性も少ない。
万が一気付かれてもミニウージーで蜂の巣にしてやればいい。
笑いながらその方向へと足を進めていく。
木枝をいくつか踏んだが、全く音を立てない。
当たり前だが智司の能力は絶好調、なんと幸先の良い
スタートだ。
「おーおー、燃えてる燃えてる。でもボヤだなこりゃ」
誰にも聞こえない大声で叫びながらそれを眺める。
明るさから家の一つは燃えていると思ったが、その実倉庫の扉すら燃えていない。
それにしてもこの程度の火でここまで明るくなるのかと思った。
「そろそろやべえな、ここは引いとくか」
だがこれ以上ここに居るのは危険、火を焚いた人間が見当たらない。
恐らく何処からか見張っているのだろう。
先制されてはせっかくのアドバンテージが台無しになる。
まあ、簡単に見つかるつもりはないが。
「それにしても暑い……!?」
そこまで考えて、ようやく感づいた。
突如、激しく民家が燃えだした。それも光を放っている民家だけじゃない、隣の民家もだ。
つまり風が全くないこの状態で炎を移動させたのだ。
「チクショウ、炎使いかよ!」
やはり誰にも聞こえない叫びを上げながら民家から転げ出る。
炎使いならば熱量や発光量も調整できる。まんまと乗っちまった、畜生。
だが、所詮は炎使いだ。ミニウージーで簡単に死体に出来る。
それを思うと頬が緩んでいた。
柄が悪いとは言え普通の男子生徒の田中智司、彼は早くもこの異常な空間に支配されていた。
「さぁて、炎系って言うと……たしかぽい能力名が女子に居たな、中野だったか?」
ぺろりと唇を嘗めながら呟く。
能力の詳細は知らないが、能力の名前ならばクラスメイト全員の名を知っている。
名簿に能力名付きで書き込まれるのだ。
その中で炎を操れるとしたらあからさまに『炎』という字が入っている奴に決まっている。
「へ……あの電柱野郎、蜂の巣にしてやんよ。っと、野郎じゃなくて女だったな」
余裕たっぷりにコンクリート製の壁にもたれかかりながらミニウージーを構える。
あの女とは思えない巨体に銃弾を打ち込む、それに不思議と嫌悪感は覚えなかった。
ただ、殺さなければ殺され、自分は十分に相手を殺せる。
その思いが智司の気を大きくしていた。
ボゥっと、何かがはじける音が聞こえる。
近づいてきている、しかも能力を使いながらだ。
上等、と呟いてミニウージーのトリガーに指をかける。
そして、素早くコンクリートの壁から通りへと出て、ミニウージーを打ち放した。
思ったよりも強烈な反動がくるものの、意外性以上にそれほどの強い力を手に入れたという興奮の方が大きかった。
「喰らいやがれえええええ!!」
叫んでも聞こえやしないのだが、とにかく叫びながら打った。
興奮のままに相手もよく見ずに、ただ正面へと向けて撃ち続けた。
ヒャハハハッハ!と狂ったように笑って空を見上げる。
智司の勝利を祝福するように満天の星たちが輝いている。
「ハァ……ハァ……!ハ、ハハハハ!」
「……田中くん、かな?」
「……あん?」
相変わらず空を眺めていた智司に降りかかったのは、勝利を称える星の光ではなく。
チリチリと肌が火傷するのではないかという熱と、その熱とは対照的な冷たい声だった。
それにようやく反応して、智司は自分が襲った人間の姿を直視した。
と、同時に、思考が止まった。
「あ……ああ……ああ、はあ?」
「……謝って済む問題じゃないけど、ごめんなさい」
そこに会ったのは智司が想像していた中野杏の死体ではなく。
人の形をしたごうごうと燃え続ける炎だった。
そう、炎だ。間違いない、だって智司のバンダナに火の粉が飛び散ったのだから。
その炎は人の形を維持し続ける。
腕のように螺旋を描き、脚のように螺旋を描き、頭のように螺旋を描く。まさに炎の魔人だ。
「もう一度だけ、ごめんなさい」
茫然とその炎の魔人を眺め続ける。
炎の魔人は一瞬だけ背を向けたような気がして。
その先からは分からない。
燃えるような衝撃が智司の頭蓋を襲い、それから意識が飛び散ったから。
◆ ◆ ◆
【炎色消去(バーニングデリート)】、それが中野杏の能力名。
【全身に炎が回った瞬間に『炎』となる】、それが杏の能力。
炎に衝撃は効きはしない、炎は重さを持たないから。
炎に刃は聞かない、炎に刃は立たないから。
杏は不死系統の能力の持ち主、ということだ。
最初にガソリンとライターが目前にあったのはこれを使えと言うことだろう。
そして、杏に人を殺せと言うこと。
炎を纏えば自分で能力を解除しなければ消えはしない、別の超能力で無理やりかき消されない限り。
「……ごめんなさい、田中くん」
杏は目の前に転がる一人の男子生徒を見下ろす。
コメカミに後ろ廻し蹴りが見事に命中した、こんな姿を見たために呆然して身動きが取れなかったのだ。
これで死んでいるかもしれないが、念には念を入れた方がいい。
ゆっくりと、本当にゆっくりと右脚を空へと向かって持ち上げる。
やがて天空へと捧げた右脚と地面を噛み締めた左脚が真っすぐになった。
そして、その右脚を田中智司への喉元へと、思い切り振り下ろした。
「……」
わずかに嫌な音を出しながら、田中智司の喉元は歪なデコボコを作り出した。
これで死んだはずだ、少なくとも喉元の火傷でやがては死ぬ。
それを認識した瞬間に炎を纏っている杏に寒気が走る。
炎を纏っているというのに、だ。
「けーくん……」
その寒気を打ち消すために静かに愛しい人の名前をつぶやく。
もう、会えないだろう。人を殺してしまったのだから。
でもそれでいい、それは杏の望むところだ。
自分が圭吾以外のクラスメイト全員を殺して、最後に自分が死ぬ。
そう決めたのだ。
自分以外にも殺し合いに秀でた能力を持つクラスメイト居る。
決して無敵なわけではない、単純な攻撃能力を持たない田中智司とは相性がすこぶる良かっただけに過ぎないのだ。
「けーくん、私はもうけーくんとは会えないよ」
誰に言うまでもなく自分に言い聞かせる。
ミニウージーは拾わない、自身の熱で不良を起こしてしまうだろう。
だから今必要なのは銃ではなく、リーチのある金属バットか鉄パイプの類だ。
ある程度形が崩れても使えるし、リーチがある上に高熱が加わる。
木材は燃えきってしまうので駄目だ。
「……ごめんなさい、けーくん。私はバカでマヌケだから、こんなことしか思いつかなかった」
【田中智司(男子8番)死亡】
【残り30名】
【一日目/深夜/C-2村】
【中野杏 女子12番】
【炎色消去(バーニングデリート)】
[装備]:なし
[所持品]:なし
[状態]:人型の炎
[思考・行動]
0:間宮圭吾(男子15番)のために全員殺す。
[備考]
※C-2にデイパック二つとミニウージーが放置されています。
男子 8番 田中智司 【喪神猟奇(サイレントダンス)】
自分から発する全ての音を消すことができる。
足音や声などはもちろん、閉めた扉や何かにぶつかった音、果ては銃声や料理の際の炒める音まで消すことができる。
女子12番 中野杏 【炎色消去(バーニングデリート)】
炎を操るのではなく炎になる能力。
形は人型で固定されて、それ以外の形になることはできない。時間制限はなしの無制限。
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最終更新:2009年12月08日 20:40