錆付いた歯車

15話「錆付いた歯車」

推理小説作家である壮年の紳士、アルソンズ・ベイルは憤慨していた。
やっと原稿を口うるさい担当編集者に渡し、久方振りの休息の時を迎えようとしていたと言うのに、
気がついたらセイファートと名乗る狼獣人の女性が主催する殺し合いの参加者になっていた。

「ふざけおって! こっちはせっかくの休日を楽しもうと思っていたと言うのに、
何が殺し合いだ! 何様のつもりなんだ、あのセイファートとか言う女は!」

H-5の森林地帯を怒り心頭の様子で愚痴をこぼしながら歩くアルソンズ。
右手には自分のランダム支給品であるリボルバー拳銃、左手には明るく周囲を照らし出すランタンが握られている。

「しかもスタート地点はこんな森の中か! 暗くてこのランタン無しではほとんど視界が利かんわ!
その上食糧はペットボトル入りの水二本とコッペパンだと、ふざけておる!
大の大人が十分足りる量などでは無いぞ! いや、子供でも足りないだろう!
さすがこんな狂ったゲームを開く主催者、悪意に満ち満ちてるな!
まあワシのランダム支給品がリボルバー拳銃だったのは良かったが……」

静かな森の中に禿頭の壮年の男の怒りの愚痴が響く。
その怒りの余りアルソンズは失念していたようだ。
明かりを点けていると、自分の位置を明確に知らしめる事になると。
大きな声を出すなどもっての他だと言う事に。
そして、アルソンズの背後から、ゆっくりと忍び寄る人影があった。
当然、アルソンズはまだ気がつかない。

「それにしてもどうするか。殺し合いなどする気は全く無いが、死ぬのは御免だしな」
「あの……」
「やはりどこかで身を潜めるべきか。しかしまずはこの森を抜けないとな」
「あの~……すいません」
「しかしキツイな、流石に50を超えると長距離の歩きは……」
「あの~~」
「ええいうるさいな! 誰だ!?」
「ひっ、あ、えーと」

鬼の形相でアルソンズが振り向くと、そこにはスーツ姿の若い青年がいた。
見るからに優男と言った風貌である。

「ああ? いつからいたんだお前は」
「結構前からあなたの後ろをついて来ていたんですけど」
「何? 気が付かなかったな」
「あの~、あんな大声出して、しかもそんな明かり点けてたら、凄く目立つと思うんですが、
ここ、殺し合いの場ですよね? 俺は殺し合いする気は無いですけど、
もし俺じゃなくて殺し合いに乗っている人だったら危なかったですよ」
「む……」

青年に言われ、アルソンズはやっと自分が危険な行動を取っていた事に気付く。
すぐにランタンのスイッチを切り、デイパックの中へ押し込む。
当然辺りは闇に包まれ、光源は木々の葉の間から僅かに覗ける星空のみ。

「……お前、殺し合いに乗っていない、というのは本当か?」
「本当ですよ。乗っていたら声なんて掛けずそのまま殺してます」
「だろうな。いいだろう、信じよう」
「ありがとうございます」

暗くて青年の表情は分からなかったが、どうやら安心した、と言う事だけは分かる。

「ワシはアルソンズ・ベイル。本名はジェームズ・ベイルだが、一応作家でな。
名前だけでも聞いた事は無いか?」
「えーと、俺本は余り読まないもんで……」
「そうか……まあいい。お前の名前は?」
「あ、はい、章高と言います。章が名字で高が名前です」
「面倒だ、章高で良いか?」
「いいですよ」

互いに自己紹介を終えた所で、アルソンズが本題を切り出す。

「さてと、章高とやら。互いに殺し合いをする気は無いのは分かった。
どうだ、一緒に行動しないか?」
「僕も、同行を願おうと思って声を掛けたので、喜んで。宜しくお願いします」

握手を交わすアルソンズと章高。
そして、先程までのアルソンズの声と光で誰か来るかもしれないと言う事で、
二人はデバイスを頼りに北の方向へ歩きながら情報交換をする事にした。
幸いデバイスの画面は仄かに光り、確認出来るレベルで、周囲に気付かれる程では無い。
そしてしばらく歩いた所で、少しばかり開け、夜空の満月の明かりで十分視界が利く場所を見つけた。
中央付近に岩があるので、その陰に腰掛ける。

「章高、お前の支給品は何なんだ?」
「えーと、これ、何ですけど……」

そう言って章高は自分のデイパックから、何やら書類のような物と、
小さなスプレー缶を三本取り出し、アルソンズの前に置いた。
スプレー缶は催涙スプレーのようだが、もう一つの書類は、内容を読んでみないと良く判断出来ない。

「多少明るいとは言え読みにくいな……しかし明かりを点けるのはまずい」
「ですね」
「これはもっと別の、明かりが漏れないような場所か、夜明けが近付いて明るくなってからでも、
良いと思うが、どうだ」
「じゃあそれで」
「じゃあそれで行こう」

書類は後回しにし、次にアルソンズが自分の支給品であるリボルバー拳銃を見せる。

「いいですね」
「やらん」
「ですよね」

そして支給品の確認が一先ず終わった所で、アルソンズが章高に尋ねる。

「章高、お前はこの殺し合いで誰か知り合いは呼ばれているか?」

その質問を聞いた途端、章高の身体がビクンッと震えた。
何事かと目を丸くするアルソンズに向かって、震えた口調で章高が問いに答える。

「い、一応、いますけど、費覧って言う、妖狐の女性が」
「そうか……それは残念だな。ワシは一人もおらん」
「そうですか……」
「……どうした? 何を怖がっている?」
「……」

章高は、この殺し合いに呼ばれている妖狐の女性、費覧について、
大まかにアルソンズに説明した。

そして数分後、説明を聞き終えたアルソンズは、
章高に対する憐れみと、費覧に対する恐怖心で一杯になっていた。

「……お前、費覧という女性と再会したいと思っているか?」
「正直、思いません」
「……気持ちは分かる」

妙な空気が、二人の周囲に漂っていた。


【一日目/深夜/H-5森】

【アルソンズ・ベイル@オリキャラ】
[状態]:健康、費覧に対する恐怖
[装備]:マニューリンMR73(6/6)
[所持品]:基本支給品一式、357マグナム弾(30)
[思考・行動]:
0:殺し合いはしない。何とかして脱出したい。
1:殺しはしたく無いが、正当防衛ならば止むを得まい。
2:とにかく北へ。森を抜ける。
3:章高と行動を共にする。
4:章高……気の毒にな……。
[備考]:
※費覧という人物の特徴をおおよそ把握しました。

【章高@オリキャラ】
[状態]:健康、費覧に対する恐怖
[装備]:小型催涙スプレー
[所持品]:基本支給品一式、小型催涙スプレー(2)、
自主製作映画企画書@自作キャラでバトルロワイアル
[思考・行動]:
0:殺し合いはしない。とにかく生き残る。
1:もっとマシな武器が欲しい。
2:アルソンズさんと行動を共にする。
3:森を抜ける。
4:費覧には出来れば会いたくない。会いたくない。


≪オリキャラ紹介≫
【名前】アルソンズ・ベイル
【年齢】55
【性別】男
【職業】推理小説作家
【性格】気難しいが、根は誠実
【身体的特徴】黒髪で禿頭。髭を生やし小太り
【服装】オーバーコートを羽織っている
【趣味】釣り
【特技】多少推理力はある
【経歴】多くのヒット作を生み出している作家で、幾度か賞にも輝いている。
結婚し子供もいたが家庭を顧みなかったため10年前に離婚している
【備考】本名はジェームズ・ベイル

【名前】章高(しょう・こう)
【年齢】22
【性別】男
【職業】食品会社事務員
【性格】温厚で柔和
【身体的特徴】黒髪の中肉中背、優男
【服装】黒っぽいスーツに赤いネクタイ
【趣味】TVゲーム、食べ歩き
【特技】これと言って無し
【経歴】15歳の時に近所の森の中にある社に住み付く妖狐・費覧と出会い、
現在に至るまで親友として付き合っている、が、頻繁に性交を求められ、
その度に搾り尽くされるため、費覧は恐怖対象でもある。
【備考】一般人


≪支給品紹介≫
【マニューリンMR73】
1973年にフランスのマニューリン社が開発したリボルバー拳銃。
各部品は手間が掛かる削り出し加工で製造され、仕上げと精度の高さには定評がある。
強力な357マグナム弾を使用し、登場から30年以上経過しても、
会社のカタログに載っている現役と言う事から、フランス版コルト パイソンとも言える。

【小型催涙スプレー】
使い捨て方式の、相手の視力を数分間奪う事の出来るガスを発射する小型スプレー。
護身用具として広く普及している。

【自主製作映画企画書@自作キャラでバトルロワイアル】
「自作キャラでバトルロワイアル」の真の黒幕達が記した、
自主製作映画=バトルロワイアルの企画書。
結局の所、この自主製作映画の結末は監督・脚本を手掛けた者にとっては、
全く予想外の結末を迎える事となった。





BACK:月下幽鬼 時系列順 NEXT:
BACK:月下幽鬼 投下順 NEXT:
GAME START アルソンズ・ベイル NEXT:赤い水
GAME START 章高 NEXT:赤い水

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2010年01月09日 16:41
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。