84話「いんふぇるの」
放送終了後、ホテル一階にいる6人――即ち、現時点での生存者全員の間には重苦しい空気が立ち込めていた。
発表された死者の中には、つい数時間前まで同行し、
そして恐らく兄を捜すため単独で出ていってしまった
リーヴァイと、本人から聞かされた兄の名前、
ノーチラス、フラウのクラスメイト、
伊賀榛名のクラスメイトの名前も呼ばれた。
当然、仲間や知人の名前が呼ばれてしまった事に6人は悲しんだが、
この重苦しい空気の原因はそれでは無く別の所にあった。
「…6人って事は、つまり、俺達しかもう生き残っていないって事…?」
恭也が口を開く。
そう、もうここにいる6人しか生き残りはいない。
襲われる心配が無くなったと言えばそうかもしれないが、
ここで6人は
セイファートが開催式の時に言っていたある言葉を思い出す。
――24時間以内に新しい死者が一人も出なかったら、全員の首輪が無条件で爆破される。
今、フラウと
早野正昭の二人で首輪の機能を無効化するために、
ホテルのパソコンを使って運営のコンピューターへハッキングを仕掛けている。
二人の話によれば少しずつではあるが確実に上手く行っているらしい。
だが、もし24時間以内にハッキングが成功しなければ?
もし、運営側にハッキングをしている事がバレたりでもしたら?
待っているのは、紛う事無き、死…!
「…ま、まあ、考えていても始まらんだろう。とりあえず、それぞれ持ち場に戻るんだ」
沈黙を無理に破るかのようにレイが全員に自分の持ち場に戻るよう促す。
とは言っても実際に持ち場があるのはフラウと早野正昭の二人だけなのだが。
レイに促され、フラウと正昭は再びハッキング作業を再開し、
レイを含む他の4人はパソコンルーム内で思い思いの行動を取り始めた。
ここで、フラウと共にパソコンに向かって作業を続ける早野正昭の心の中に、ある不穏な考えが浮かんでくる。
現在生き残っているのはここにいる、自分を含めた6人のみ。
加えて、今自分の手元には、先程ホテルに乗り込んで伊賀榛名を銃撃し、
返り討ちにされた男の持っていた武器の一つ――グロック19がある。
もし、ここで自分が全員を殺せば、もう、それで優勝だ。
そうすれば元の世界に帰れるし、また、何か願いを一つだけ叶えるとも主催者は言っていた。
今自分は狐娘のフラウと一緒に運営コンピューターへのハッキングを仕掛けているが、
そっちの方が、確実なのではないか?
生存者がここにいる、自分を含めた6人しかいないという事実、
そしてハッキングが成功する確率の不安さから、正昭の黒い考えは益々膨らんでいく。
「…早野さん? どうかしたの?」
少し正昭の様子がおかしい事に気付き、横にいるフラウが声を掛ける。
「……ちょっと、休憩していいかな? 流石に目が疲れてきた」
「え? ……分かった。ちょっと休んでて」
「ああ」
作業の続きをフラウに任せ、正昭が座っていた椅子から立ち上がる。
そして再度パソコンルーム内の様子を確認する。
レイ・ブランチャード、ノーチラス、伊賀榛名、須田恭也、そしてフラウ。
それぞれ武器は持っているが、やれない事は無い。
「……」
正昭はとうとう、決断を下してしまった。
ノーチラスは椅子に座りながら、先の放送で名前が呼ばれたクラスメイトのエルフィの事を思い返していた。
他にも森屋英太、吉良邑子、北沢樹里の名前が呼ばれたが、
特に思い入れがあったのはエルフィである。
開催式の時に会ってから、結局一度も再会する事は無かった。
どこで、どのような死に方をしたのだろうか。
「ノーチラス…」
「あ、ああ、済まないレイ、ちょっと感傷的になってたかな」
「いや、無理も無い…気にしなくていい」
余り言葉を発さなくなってしまったノーチラスを心配するレイ。
伊賀榛名は遂に自分が一人ぼっちになってしまった事を知り、
表には出さないようにしていたが、心の中ではとても悲しんでいた。
先の放送で「
平池千穂」の名前が呼ばれ、
この
殺し合いに呼ばれた自分のクラスメイト二人はどちらも死んでしまった。
(千穂ちゃん、アヤちー…信じられないよ、二人が死んじゃったなんて…)
いつも教室で仲良く話していた友達が、
この見知らぬ土地で、どこかで無惨な死体を晒しているのだろうか。
そう考えるととても辛く、悲しかった。
だが、まだ泣く訳にはいかない。今、早野正昭とフラウの二人が、
運営のコンピューターへのハッキングを仕掛けている。
脱出への光明が見え始めている。
自分は何としても、二人のためにも生きて帰ろう。
榛名はそう決心した。
須田恭也は手に九九式小銃を持ちながら、特に何をする訳でも無く立っていた。
(でも、思えば、物凄く非現実的な事だよな…)
尋ねた村で謎の秘祭を目撃し、駐在警官を謝ってトラックで撥ね、
直後に大きな地震と共にサイレンが鳴り響き、そして瀕死だったはずの駐在警官が起き上がり、
そして自分を拳銃で撃ち抜き、自分は背後の川に落下した。
気が付いた時には、空想の世界の生き物であるはずの獣人達が沢山周りにいて、
そして始まったバトルロワイアル――殺人ゲーム。
恭也はこの殺し合いの中で、二回程本気で殺されかけた。
何とか切り抜け、いつ襲われるとも分からない状況だったが、
どうにか生き延び、今ここにいる。
(俺、どうなるんだろ)
最後には自分はどうなってしまうのだろうか。
放送で名前を呼ばれた他参加者、先程の襲撃者の男のように、
ここで死ぬのだろうか。
出来ればまだ死にたくは無い。
「ん?」
レイが、正昭が作業を中断して、自分の方に近付いてくるのを確認した。
「どうした、正昭?」
レイが正昭に声を掛けるが、どういう訳か返事をしない。
何か、決意を固めたような表情が気に掛かった。
「おい、どうし――」
レイの言葉がそこで止まる。正昭がベルトに差していたグロック19を引き抜いたのだ。
そして、銃口をレイの身体に向け、引き金を引いた。
五発の銃弾が胸元を貫き、レイは口から血を吐いて短い悲鳴を上げながら、
呆気無く絶命した。
「な、何を」
次に正昭はノーチラスに四発の銃弾を、胸元に撃ち込む。
ノーチラスは椅子から転げ落ち、しばらく悶絶していたが、遂に血溜まりを作って静かになった。
「ア、アンタ……!!」
正昭の突然の凶行に、伊賀榛名は持っていたモスバーグM500を構えようとした。
だが、それよりも前に、正昭のグロック19が火を噴くのが早かった。
喉元に一発の銃弾が食い込み、大量の血液が噴き出す喉元を押さえながら、
榛名はしばらく床に倒れてのたうち回っていたが、最期に正昭を睨み付け、
そして――身体中の力が抜け、血溜まりを作って、目を見開いたまま息絶えた。
「あ……あ……!」
恭也は余りの事態に言葉を発する事も出来ず、口をパクパクさせ目を見開いていた。
次の瞬間、恭也の額に小さな穴が空き、恭也の身体は糸の切れた操り人形のように床の上に崩れ落ちる。
「ふ……ふふ……」
いつしか正昭は、明らかに正気とは思えないような笑みを浮かべていた。
「は、早野、さん……!?」
そして、正昭以外で最後に生き残ったフラウが、
正昭の突然の凶行に、身体を震わせ、呆然としていた。
「こ、これで……これで……」
そして正昭が、フラウに銃口を向ける。
「俺が優勝だッ……!!」
パンッ、という音が、パソコンルームの中に響いた。
だが、弾丸はフラウの尖った狐の右耳を掠めるに留まった。
舌打ちをしながら正昭は今度こそはと、再び引き金を引こうとした。
だが――グロック19のスライドはオープン状態で固定され、
引き金を引く事は出来なかった。弾切れである。
「う…うわああああああ!!!」
フラウが叫びながら、すぐ傍に立て掛けてあった九九式小銃を手に取り、
正昭に向けて発砲した。
10メートル程度の距離で小銃弾を胸元に受けた正昭は、
ガクリと膝を突き、仰向けに倒れ最期を迎えた。
「……ハァ……ハァ……」
最期に生き残ったのは、狐獣人の少女、フラウただ一人。
つまり、この殺し合いにおいての最後の一人となったのだ。
それが意味する事は――。
「…早野正昭の死亡を確認しました」
主催本部のモニタールームで、監視員の一人がセイファートに報告する。
「ウフフ……面白い事になったでしょ?
ヴェルガー」
「はぁ……」
「それじゃ、放送で知らせてあげなきゃね」
セイファートは定時放送の時に使う放送器具の前に移動し、
スイッチを押して放送可能な状態にする。
そして、殺し合いの舞台に残っているはずの、優勝者に告げる。
『はーい、これでバトルロワイアルは終了でーす。
フラウさん、よく頑張りましたね。お見事、あなたが優勝ですよー。
それじゃあこれから迎えをよこしますから、
ちょっとそこで待ってて下さいねー』
「優勝、ね――」
ホテル玄関前の階段に腰掛け、フラウは呆然と空を眺めた。
【レイ・ブランチャード@オリキャラ 死亡】
【ノーチラス@自作キャラでバトルロワイアル 死亡】
【伊賀榛名@オリキャラ 死亡】
【須田恭也@SIREN 死亡】
【早野正昭@オリキャラ 死亡】
【残り1人/ゲーム終了・以上本部選手確認モニタより】
【フラウ@自作キャラでバトルロワイアル 優勝】
最終更新:2010年02月28日 22:52