「ふう、着いたか」
天まで届くかのような高さを誇る灯台の下で上を見上げながら立つ青年の姿があった。
対馬レオ。先程、主催への反抗の啖呵を切った男である。
レオは自分の彼女である佐藤良美を探すために灯台に来ていた。
「しかし、高いなあ……」
少なくとも高層マンションレベルの高さはあるだろうなと、レオは思った。
レオはとりあえず中に入ろうと灯台の扉を開ける。
「……え?」
レオが扉の取っ手に手をとった瞬間、扉が勝手に開いた。
いや、違う。扉の向こうから大きな“何か”が飛んできたのだ。
そしてレオはそれに巻き込まれ一緒に吹っ飛んだ。
(な、なんだ!?何が起こった?どうして俺は、というか重いって!何が飛んできたんだよ)
レオは飛んできた“何か”の下敷きとなっていた。
“何か”はもぞもぞと動き突然レオから離れる。
「ちくしょう……!やりやがるじゃねえか」
レオに覆いかぶさっていた“何か”が声を発する。
ボサボサの髪に頭につけている赤いバンダナ。
身体はラフな服装で包んでいて、肉体は筋骨隆々としている。
どこからどう見ても人である。
「おいあんた!どうして飛んできたんだよ」
「あん?ってうわあああああああ!いきなり人が出やがったあああああ!!」
「それはこっちのセリフだ!!いきなり下敷きにされて、結構痛かったんだぞ!!!!!」
その場で漫才のような掛け合いをする二人の青年。
レオは立ち上がり、赤いバンダナの青年に問い詰める。
「ああ、すまねえ、ってそんなこと言ってる場合じゃねえ!おいお前、名前は!」
「いきなりなんだよ」
「俺は井ノ原真人。それがよ……」
「あら、まだ人がいたんですか」
真人の声を遮るかのように扉の向こうから若い女性の声が響いた。
そして出てきたのは。
「……メイド?」
現れたのはメイド。どこからどう見てもメイド。
頭にはカチューシャをつけて、身に纏うのは白のエプロンに黒のメイド服。
もう一度言おう。どこからどう見てもメイドである。。
普段のレオならうわーメイドだ!、と驚くところだが今はそのような場合ではないためただ黙って見ているだけである。
しかし、次の一言で空気はひんやりとしたものに変わる。
レオの表情が驚愕に変わる。
この温和そうなメイドさんが?こいつは何を言ってるんだ、とレオは思う。
「ち、違います!わたしは乗ってなんかいません!」
「おいおいしらばっくれるな、後ろから襲いかかってきただろうが!」
どっちを信じればいい。レオは思考を重ねる。
(あの真人とかいう男、嘘はついてなさそうだけど、でも吹っ飛んできたってことはあのメイドさんにやられたってことだよな。
ということは乗っているのはメイドさん?
いや、でもそんな簡単に決めていいのか)
レオは思考の海に身を投じ、黙ったまま。困惑の迷路から抜け出せない。
その思考も終わりを告げる。
「おい!」
「!?」
突然真人がレオの腕を引っ張ったのだ。真人に引っ張られ、レオは思わずよろけてしまう。
そして少し前までレオの顔があった場所をすごい勢いで拳が通過した。
「あら、失敗しましたわ。結構いいタイミングだと思ったのですけどね」
「な……」
メイドはさらに態勢が崩れているレオに迫り掌底をぶつけようとするが、
真人がレオの前に割り込み、掌底を両腕でガードする。
「痛ってなあ!そんな細い腕でどんなすげぇ筋肉してんだよ!」
「……女性にすごい筋肉だなんて、失礼ですよっ!!」
真人の言葉に反応するよりも先にメイドは右足を踏み出して、右の拳を下からすくい上げるように放つ。
その拳はガードしていた両腕をするりとすり抜けて、真人の顎に直撃。
再び真人は後方へ吹っ飛んでいった。
「形意拳が五行拳の一つ、鑚拳です。顎に当てたのでしばらくは立ち上がれませんよ」
そう言ってメイドは妖艶な表情を浮かべ微笑む。
そのままレオの懐に入り、掌底を叩き込もうとするが。
「そう、簡単にくらってたまるか!」
レオが後ろに勢いよく跳ぶことによって掌底は空を切る。
そして即座に体制を立て直す。
「四の五の言ってる場合じゃねえよな、少しの怪我は覚悟してもらうぜ」
レオは腰に付けていた匕首を抜き横向きに構える。
一方のメイドは構えることなくただゆらりと立っているだけ。
空気が静まる。
タンッ。
地面を踏む音が鳴った。
レオがメイドの懐へ一気に走り出し、手に持った匕首を横に振り払う。
だが。
「効きませんよ」
ガキン、と金属同士のぶつかったような鈍い音が草原に響く。
匕首はメイドによってあっさりと受け止められる。
そしてメイドの手には黒い手袋がつけられていた。
手袋には傷ひとつない。おそらく手袋に何か仕込んでいるのか、とレオは考える。
「これで終わりですか?」
「まさか!!」
レオは刃を翻し、反対の方向へ斬りつける。
メイドはそれを安々と弾く。
斬る。弾く。突く。流す。
「おおおおおおおお!!!」
「…………」
縦横無尽に刃が駆け、メイドの両手がそれを寸分の狂いなく弾き返す。
踊るように、リズムよく二人は動き、匕首と手袋からはカンカンキンキンと鉄の音が打ち鳴らされる。
拳と剣によるダンスが続く。しかし、ダンスは突然終焉を告げる。
「遅いです」
その言葉と同時にレオは腹部に強烈な痛みを感じた。
いつの間に?そんなことを考える暇もなくレオは真人と同じように吹っ飛んだ。
「すいません、隙があったものですから」
おそらくは振り下ろした刃を受け流して、そのままの勢いでのカウンターの掌底であろう。
レオは為す術も無くこれをまともに受けてしまった。
(このメイド、どんだけ強いんだよ。乙女さんよりは少し見劣りするけど……
俺なんかじゃ敵わない)
到底自分では敵いそうもない。故に、レオは。
「だけどっ!諦めてたまるかよ!!!!!!」
テンションに身を任せ、捨て身で向かう。
「あぁああっっああああああああああ――」
レオは思う。
力の差?それがなんだ。そんなの気合で縮めればいい。
テンションは最高潮。いい気分だ。
それに相手が強かろうが。
そんなこと。
「知ったことかあぁああぁぁああああぁああ!」
咄嗟に起き上がり、一足飛びにメイドに再び迫る。
「一直線に猪のように突っ込むだけ。芸がないですよっ」
メイドは疾風の如き速さで近づいてくるレオを叩き潰そうと前を見据えて構える。
レオは手には何も持たず。匕首は先程吹っ飛ばされたときに手から離れてしまっている。
「これで、終わりです」
右腕による掌底が一閃。狙われたのは腹部。一撃で気絶させるくらいの掌底を。
ドンと鈍い音がレオの腹部から聞こえた。
衝撃と共にレオは吹っ飛ばされ――
「げほっ…………捕まえたぜ――」
「!!?」
いや、とどまった。
レオはメイドの掌底を受ける直前に両手でメイドの腕を掴み押し返したのだ。
それにより、腹部に伝う衝撃は勢いをそがれる。
ダメージもかなり軽減され何とか気絶せずにすんだ。
両手で腕を力一杯握っていることにより吹っ飛ばされもしない。
「さっきの一撃と今の分、まとめて返してやる!!!!!!」
レオはメイドの腹めがけて思い切り蹴りつける。
女性に対する手加減などない、全力全開の蹴りだ。
これで決まる。レオはそう思っていた。
「――――え」
だが。
それよりも早く。
「形意拳が五行拳の一つ――――」
メイドは左足で半歩踏み込み、左腕は突き通すように。
全てを穿つ瞬の一撃を放つ。
その名は――
「崩拳!」
レオの蹴りは届かない。
その蹴りが届くよりも早くレオは後方に弧を描いて転がってしまったのだから。
「があっ!!!!」
崩拳による一撃と地面との激突による衝撃によりレオは立つことができない。
頭を打ち付けたのだろう、だが幸か不幸かは知らないが意識はまだある。
(くそっ!動けよ、俺の身体……こんな所で俺は死ねないんだ。
スバル、カニ、フカヒレ、姫……俺の大切な親友達、失いたくない日常のかけら。
それに、世界で一番大切な、何よりもどんなものよりも大切な―――良美とだってまだ会ってねえのに)
もう動けないレオに止めを刺そうとメイドが近づいてくる。
手には落とした匕首が握られて。
(……良美を残して俺は逝くのか?それだけは駄目だ!
誰も助けてくれない闇の中で苦しんでいたあいつを残して……)
後もう少し。もう少しでメイドはレオの元へたどり着く。
(死ねないんだ、俺は……まだだ!せめて、良美を生きてこの島から脱出させてからじゃないと死ねない。
そうだ、こんな所で――)
レオが見上げるともうそこにはメイドが立っていた。
死が迫る。確定事項でそれはもう覆すには厳しいもの。
それでもレオは。
「終われないんだ!!!!!!」
抗って、命を守ろうと精一杯動く。
レオは腰に下げていた匕首の鞘を上に思い切り投げつける。
「きゃっ!」
投げつけた鞘はメイドの顎に綺麗に命中してメイドがひるんだ。
そのままレオは足を横に大きくなぎ払う。
足払いだ。足払いは見事に成功し、メイドが後ろにのけぞった。
その隙をレオは逃さない。
「今度こそ……返すぜ」
今残っている力を全部振り絞って。
レオは無理やり起き上がって大きく拳を振り上げ、思い切り叩き潰すように殴った。
「ガッ……ッ」
メイドがその拳を受け、地面を転がるが、すぐに立ち上がりレオを睨みつける。
その振る舞いにもう余裕などなく相手を油断なく殺そうとする空気だ。
「一発私に入れたのは褒めてあげますが、」
メイドは改めて匕首を構えて。
「もうこれで終わりです」
レオに突き刺そうと迫り。
「おいおい誰か忘れてやいませんかってんだ」
パンと軽い音と同時にメイドの歩みは止まった。
レオの後ろからにょっと出てきたのは。
「できればこいつは使いたくなかったんだがな。そうも言ってられねえか」
井ノ原真人。手には鉄の塊――――いや拳銃だ。
拳銃は無骨な鉄の輝きを放ちながら、銃口をメイドに向けていた。
「ここから立ち去りな。命まではとらねえからよ」
「あらあら、そんな甘いこと言ってていいんですか?これでも私、このゲームに乗っているんですけど」
「それでも、だ。俺はもう誰かが死ぬとこなんて見たくねえ…………鈴みたいに死ぬ姿はな」
最後の声は小さく、か細いものだったため誰にも聞こえない囁きだった。
だが真人の人を殺したくないという意志はメイドには聞こえたはずだ。
「そうですか。私としてはこのまま抵抗してもいいんですか、」
真人の銃を握る手が強くなり、レオは起き上がり何時でも迎撃出来るよう構える。
「止めておきます。無駄にこんな初めから怪我はしたくありませんし」
そう言ってメイドは踵を返して灯台とは逆の方向へ歩き出す。
「おい、お前」
「はい?」
「俺が後ろから撃つとは思わねえのかよ?」
真人は問いかける。自分が抱いている疑問を隠すことなく。
「だって貴方からは殺してやるって意志が感じられませんから」
その言葉を最後に再びメイドは歩き出し、闇夜に消えていった。
草原に静寂が戻る。ここに居るのは真人とレオの二人だけ。
「悪い、助かったよ」
「いいっていいって、気にすんな。それより大丈夫か?結構やられてただろ」
「何とかな。全身痛いけど動けないって訳じゃない。それよりえーと、」
「井ノ原真人だ。俺に対しては心配いらねえぜ。日々筋肉を鍛えているからな」
「そうか、よかった。俺は対馬レオだ。今はお互い生き残ったことを喜ぼうぜ」
二人は危機を乗り越えたことを笑う。まだ時間に換算しても何時間も過ぎていないけど。
それでも今生きているから。
だから二人は生き残れたことを――笑った。
【A-10灯台前/1日目/黎明】
【対馬レオ@つよきす】
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式
【状態】:全身に打ち身、腹部打撲(ダメージ中)
【思考・行動】
1:今は生きていることを喜ぶ。
2:仲間との合流。佐藤良美を最優先。
3:全員無事にこの島からの脱出。
※佐藤良美ルートEnd後からの参戦です。
【井ノ原真人@リトルバスターズ!】
【装備】:ベレッタM93R(20/20+1)
【所持品】:支給品一式 、予備マガジン×2、不明支給品0~2
【状態】:全身に打ち身、顎打撲(ダメージ小)
【思考・行動】
1:今は生きていることを喜ぶ。
2:このゲームについては――――
3:???
【ベレッタM93R】
ベレッタ社がイタリア政府からの要請で、M92に改良を加えて開発した機関拳銃。
自動拳銃でありながら、セミオートと3点バースト射撃の切り替えが可能となっている。
ちなみに本来は市販はされてないが、どこか裏の伝を頼れば一般の方々でも入手出来るらしい。
実際にそれなりの数が出回っているとのこと。
◆ ◆ ◆
「何とか乗り切れましたね……」
草原を一人歩くメイド――マリアはそっと呟いた。
腰には先程奪った匕首を下げて、手には変わらず黒い手袋を。
(ごめんなさい、ハヤテ君……私はナギのために、)
大切な人のためにゲームに乗る。例えどれほど罵られようとも。
この意志は変わらない。それなのに。
「ハヤテ君……私は――」
どうして迷っているのだろう、とマリアは思う。
人を殺すこと。現代社会ではしてはならぬこととして法律で禁じられている。
だが、ここでその法律は通用しない。
(他の人にも大切な人はいるはずだ。
さっき敵対した二人の少年にもきっと……)
そう。人を殺すということは、他の人から大切な人を奪うことと同じだ。
(例えば私がその立場だとしたら……)
マリアは悩む。一度決意したこのゲームに乗るということを。
「でも、それでも私はナギに生きていて欲しいから。罪は、背負います。迷いなんてありません」
執事と同じくメイドも道化。無知は罪だ。
愛する主人は、三千院ナギはもう死んでいるというのに。
哀れなメイドは踊る。死を運ぶピエロのように滑稽に。
【A-10/1日目/黎明】
【マリア@ハヤテのごとく!】
【装備】:匕首@操り世界のエトランジェ、黒の手袋@操り世界のエトランジェ
【所持品】:支給品一式
【状態】:腹部打撲(ダメージ小)
【思考・行動】
1:三千院ナギをこのゲームで優勝させる
2:ナギとの合流最優先。
3:綾崎ハヤテに対しては――
【黒の手袋@操り世界のエトランジェ】
一巻で闇宮冥がカタナとの戦闘で使っていた黒の手袋。
刀とも打ち合える代物。中に何か仕込まれているのであろう。
最終更新:2010年06月30日 18:23