ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko2900 友達がいた‐後編
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『友達がいた‐後編』 27KB
愛で ギャグ 誤解 日常模様 捕食種 現代 グンマーの戦士
愛で ギャグ 誤解 日常模様 捕食種 現代 グンマーの戦士
僕にとって、中々に得難き一日が終わりを告げた。そして、この日を境にして何かが変わった……訳でもない。
やっていることは昨日までと全く同じで、昼寝をするか、何もしないか、馬鹿なことをする程度だ。
大きな違いと云えば、今まで一人でやっていたことを二人でやっていると云う程度のものだ。
僕が持ってきた御菓子や給食の残りを二人で食べると、短い草の上に寝転がる。
一言、二言会話することがあっても、大して会話が続かずに、どちらかが眠ってしまうのが常だ。
大抵の小さな子供は、じっとしているのを嫌がるものなのだけれど、どうにもれみりゃ嬢には、それが当てはまらない。
早々に姿を見せなくなるだろうと予想していた彼女は、ほぼ毎日、秘密の場所にやって来るようになった。
大きな違いと云えば、今まで一人でやっていたことを二人でやっていると云う程度のものだ。
僕が持ってきた御菓子や給食の残りを二人で食べると、短い草の上に寝転がる。
一言、二言会話することがあっても、大して会話が続かずに、どちらかが眠ってしまうのが常だ。
大抵の小さな子供は、じっとしているのを嫌がるものなのだけれど、どうにもれみりゃ嬢には、それが当てはまらない。
早々に姿を見せなくなるだろうと予想していた彼女は、ほぼ毎日、秘密の場所にやって来るようになった。
無論、毎日昼寝している訳でもなく、れみりゃ嬢の踊り――自称・カリスマ☆ダンス、他称・喜びの舞を一緒に踊ってみたり、意味も無く落とし穴を掘ってみたり、野犬に追い回されて二人で泣きながら逃げ回ったりした。
こうして代わり映え無くも新鮮な日々が過ぎ去り、夏休みに入る頃、僕はれみりゃを名前で呼び捨てるほど身近な存在として感じるようになっていた。
別段、何が楽しいわけでもなく、家の仕事の手伝いばかり増える分、一頭煩わしいだけだった去年までの夏休み。
七月二十一日:眠かった
一日中ダラダラ過ごした。
一日中ダラダラ過ごした。
で始まる日記は、「ダラダラ」の部分が「寝て」に変わったり、文章全体が「〃」に姿を変えて
八月三十一日:疲れた
夏休みの宿題を泣きながら終わらせた。
夏休みの宿題を泣きながら終わらせた。
で締めくくられるのが常だったのに、今年は、細かすぎて書いた僕自身でも解読出来ない文字でびっしり埋め尽くされていた。
何とか読めそうな物を挙げてみる。
何とか読めそうな物を挙げてみる。
七月二十三日:復活
れみりゃが来てから、何故かゆっくりを見なくなったので秘密基地を復活させた。
諸々の事情かられみりゃを家に呼ぶことは出来ず、雨の日は遊んでやれなかったけれど、これで問題が解決した。
れみりゃが秘密基地に住み着きかねないという新たな懸念が生まれた。
れみりゃが来てから、何故かゆっくりを見なくなったので秘密基地を復活させた。
諸々の事情かられみりゃを家に呼ぶことは出来ず、雨の日は遊んでやれなかったけれど、これで問題が解決した。
れみりゃが秘密基地に住み着きかねないという新たな懸念が生まれた。
七月二十八日:狩猟蜂・大往生
れみりゃが蜂の巣を見つけたようだ。
二人して蜂蜜狩人を気取って山中へ分け入ると、木の上から確かに不気味な羽音が聞こえる。
早くも涎を滴らせ始めるれみりゃを嗜めると、ゲームセンターでラーニングした正拳突きを木に向かって豪快に決める。
冗談だったのに意外と綺麗に入ったのか、物凄い揺れて巣が落ちてきた。
ホーネットさんのお住まいだった。
二人で泣きながら山中を走り回った。
れみりゃが蜂の巣を見つけたようだ。
二人して蜂蜜狩人を気取って山中へ分け入ると、木の上から確かに不気味な羽音が聞こえる。
早くも涎を滴らせ始めるれみりゃを嗜めると、ゲームセンターでラーニングした正拳突きを木に向かって豪快に決める。
冗談だったのに意外と綺麗に入ったのか、物凄い揺れて巣が落ちてきた。
ホーネットさんのお住まいだった。
二人で泣きながら山中を走り回った。
八月一日:格差社会の極み
れみりゃの背中の羽みたいなのを引っ張っていたら取れた。
弁償、傷物、損害賠償と云った言葉が頭の中をぐるぐるして泣きそうになった。
一方、れみりゃはと言うと「あう、とれちゃったんだどぅ?」と至って冷静な様子。
短い手を器用に背中に回して、取れてしまった羽を背中に持っていき、忽ちくっつけてしまった。
マジックテープとか磁石とかは、無かったと思う。
曰く「着脱式だから空は飛べないけど、直ぐに治せる。トレーディングも可」
つまり、着脱式じゃなければ空が飛べるということじゃないか。
経済格差め!!
れみりゃの背中の羽みたいなのを引っ張っていたら取れた。
弁償、傷物、損害賠償と云った言葉が頭の中をぐるぐるして泣きそうになった。
一方、れみりゃはと言うと「あう、とれちゃったんだどぅ?」と至って冷静な様子。
短い手を器用に背中に回して、取れてしまった羽を背中に持っていき、忽ちくっつけてしまった。
マジックテープとか磁石とかは、無かったと思う。
曰く「着脱式だから空は飛べないけど、直ぐに治せる。トレーディングも可」
つまり、着脱式じゃなければ空が飛べるということじゃないか。
経済格差め!!
八月五日:帽子
暑かったので、橋の上で涼んでいたられみりゃの帽子が川に落ちた。
何の躊躇もなく後追いしようとするれみりゃを止めるのは、大変だった。
直ぐヘタレるくせに、妙に突発的な行動力があるから困る。
この後、二人で泣きながら下流へ向けて走った。
暑かったので、橋の上で涼んでいたられみりゃの帽子が川に落ちた。
何の躊躇もなく後追いしようとするれみりゃを止めるのは、大変だった。
直ぐヘタレるくせに、妙に突発的な行動力があるから困る。
この後、二人で泣きながら下流へ向けて走った。
八月七日:狩猟蜂・大復活
終に明日『Bee of chief who is angry』にリベンジする。
今回は、虫網、殺虫剤、餅、キャラメルコーン、ポテトチップスも用意した。
更に、防護服として、五年くらい前にやった年始のお楽しみ会的な集まりで用いた『親子熊』の着ぐるみを採用。
昔僕が使った小熊の着ぐるみをれみりゃに着せ、僕は父が使った親熊の着ぐるみを着た。
どうみても本物の熊の親子にしか見えない。
僕の凝り性は、間違いなく父親譲りだ。
終に明日『Bee of chief who is angry』にリベンジする。
今回は、虫網、殺虫剤、餅、キャラメルコーン、ポテトチップスも用意した。
更に、防護服として、五年くらい前にやった年始のお楽しみ会的な集まりで用いた『親子熊』の着ぐるみを採用。
昔僕が使った小熊の着ぐるみをれみりゃに着せ、僕は父が使った親熊の着ぐるみを着た。
どうみても本物の熊の親子にしか見えない。
僕の凝り性は、間違いなく父親譲りだ。
八月八日:今までにない強大な力
防護服を身に纏い、いざ山中へ。
道中、僕らと同じ様な格好をした人と出会ったので「貴方も蜂の巣狩りですか」と声をかけたのだけれど様子がおかしい。
ガタガタ震える小熊れみりゃが呆然と呟いた言葉が耳に入って、僕は現状を把握した。
防護服を身に纏い、いざ山中へ。
道中、僕らと同じ様な格好をした人と出会ったので「貴方も蜂の巣狩りですか」と声をかけたのだけれど様子がおかしい。
ガタガタ震える小熊れみりゃが呆然と呟いた言葉が耳に入って、僕は現状を把握した。
「い、いんっ、らん、てでぃーべあ……」
「ああ、本物か……」
「ああ、本物か……」
二人で泣きながら山中を逃げ惑った。
咄嗟の機転で放ったワンインチパンチと夏休みに入る前に掘った落とし穴が無ければ、間違いなく死んでいたに違いない。
その後、親熊のまま村に戻ったため、猟銃を持った村人に追い回された。
最終的に若い女性を三人程食い殺したことにされていた。
一人で泣いた。
咄嗟の機転で放ったワンインチパンチと夏休みに入る前に掘った落とし穴が無ければ、間違いなく死んでいたに違いない。
その後、親熊のまま村に戻ったため、猟銃を持った村人に追い回された。
最終的に若い女性を三人程食い殺したことにされていた。
一人で泣いた。
八月十三日:Xファイル
暑かったので、また懲りずに橋の上に来た。
今回は、胡瓜を持参した。
因みに、家の畑で採れた物ではなく、ネット通販で購入した物だ。運送料を無料にするのに、あと百円足りなかったから購入した。
そして、案の定、れみりゃが川に落とした。
「れみりゃのきゅーりぃ……」と食べかけの胡瓜にバイバイしていたれみりゃが何かを発見したようだ。
気になって目を凝らせて見ると……。
暑かったので、また懲りずに橋の上に来た。
今回は、胡瓜を持参した。
因みに、家の畑で採れた物ではなく、ネット通販で購入した物だ。運送料を無料にするのに、あと百円足りなかったから購入した。
そして、案の定、れみりゃが川に落とした。
「れみりゃのきゅーりぃ……」と食べかけの胡瓜にバイバイしていたれみりゃが何かを発見したようだ。
気になって目を凝らせて見ると……。
ぼくは、なにもみなかった。
「かっぱっぱー」と云う声が頭から離れない。
八月十七日:ボブスレー
秘密基地でゴロゴロしている時、不意にれみりゃがいないことに気付く。
紆余曲折を経て、恰もボブスレーの様に山道に沿ってゴロゴロ転がり落ちるれみりゃを泣きながら追いかけることになった。
本人は楽しかったようで「ともくん、もっかい!!」と言っていた。
頭ぐりぐりの刑に処した。
秘密基地でゴロゴロしている時、不意にれみりゃがいないことに気付く。
紆余曲折を経て、恰もボブスレーの様に山道に沿ってゴロゴロ転がり落ちるれみりゃを泣きながら追いかけることになった。
本人は楽しかったようで「ともくん、もっかい!!」と言っていた。
頭ぐりぐりの刑に処した。
八月二十一日:死
虫除けスプレーのかけ合いをして遊んでいる時に、恐ろしい事実に気付く。
ラベルに殺虫剤と記載されていた。
うわーっ、死ぬーっと二人で泣いた。
家に帰って事の仔細を伝え「先立つ不幸をお許し下さい」と告げると、怪訝な顔をした父母に「アホ」と言われた。
翌日、れみりゃは、昨日のことをすっかり忘れていた。
虫除けスプレーのかけ合いをして遊んでいる時に、恐ろしい事実に気付く。
ラベルに殺虫剤と記載されていた。
うわーっ、死ぬーっと二人で泣いた。
家に帰って事の仔細を伝え「先立つ不幸をお許し下さい」と告げると、怪訝な顔をした父母に「アホ」と言われた。
翌日、れみりゃは、昨日のことをすっかり忘れていた。
八月二十六日:三度目の正直
今度は、釣りに来た。
魚が食べたい訳でなく、仮に釣っても捌けないので、餌は付いていない。
それどころか、針さえ付けていない。
その辺から無断で伐採してきた細い竹に、ガムテープで糸をくっつけただけだ。
針を付けると、きっとれみりゃの服に引っかかった後、川に落ちる。何となくそんな気がした。
手摺の無い木製の橋の上に腰掛けて糸を垂らす。
三十分くらいは、中々風流で楽しかったのだけれど、二人でするようなことでもないことに気付く。
れみりゃが釣竿を持ちたそうにしていたので代わってやると、片手で竿を持ち急に立ち上がった。
何だろうと思って見ていると、ゆらりと後ろに下がり、腕を引いて体を捻る。
今度は、釣りに来た。
魚が食べたい訳でなく、仮に釣っても捌けないので、餌は付いていない。
それどころか、針さえ付けていない。
その辺から無断で伐採してきた細い竹に、ガムテープで糸をくっつけただけだ。
針を付けると、きっとれみりゃの服に引っかかった後、川に落ちる。何となくそんな気がした。
手摺の無い木製の橋の上に腰掛けて糸を垂らす。
三十分くらいは、中々風流で楽しかったのだけれど、二人でするようなことでもないことに気付く。
れみりゃが釣竿を持ちたそうにしていたので代わってやると、片手で竿を持ち急に立ち上がった。
何だろうと思って見ていると、ゆらりと後ろに下がり、腕を引いて体を捻る。
「れみ、りゃ、うーーー!!」
投げた。
忘れそうになるが、この少女は、見た目よりも遥かに膂力が強い。
僕がポカーンと呆けている横で、彼女もぽかーんとしていた。
自分でも何でこんなことをしたのか分かっていない顔をしていた。
暫くして、まあいいかと思い直すと、れみりゃを抱き寄せて隣に座らせた。
川の流れに揉まれ、すぃーっと流れていく釣竿に向けて二人でいつまでも手を振り続けた。
忘れそうになるが、この少女は、見た目よりも遥かに膂力が強い。
僕がポカーンと呆けている横で、彼女もぽかーんとしていた。
自分でも何でこんなことをしたのか分かっていない顔をしていた。
暫くして、まあいいかと思い直すと、れみりゃを抱き寄せて隣に座らせた。
川の流れに揉まれ、すぃーっと流れていく釣竿に向けて二人でいつまでも手を振り続けた。
……。
おかしい。何故か泣きながら走り回っている記録しか残っていない。
ただ、それすらも楽しかったと今の僕は思える。
おかしい。何故か泣きながら走り回っている記録しか残っていない。
ただ、それすらも楽しかったと今の僕は思える。
それで何となく分かった。
れみりゃの根本的な思考は、かなり僕に近い。
特にヘタレなところなど、そっくりだ。
だからなのか、僕は彼女に微塵の嫌悪も抱かなかった。
実の父母にすら僅かに感じるそれを。
れみりゃの根本的な思考は、かなり僕に近い。
特にヘタレなところなど、そっくりだ。
だからなのか、僕は彼女に微塵の嫌悪も抱かなかった。
実の父母にすら僅かに感じるそれを。
彼女は、僕を友達と言った。
今なら僕も、彼女を友達だと断言できる。
正直、今まで友情と云うものを小馬鹿にしていた節があったのだけれど、成程、これは得ることで初めて理解できる。
とても得難いものだと。
失うことが恐ろしい。
今なら僕も、彼女を友達だと断言できる。
正直、今まで友情と云うものを小馬鹿にしていた節があったのだけれど、成程、これは得ることで初めて理解できる。
とても得難いものだと。
失うことが恐ろしい。
しかし、僕は知っていた。
いや、気付いていた。
この友情は、いずれ必ず終わりが来るものだと。
いや、気付いていた。
この友情は、いずれ必ず終わりが来るものだと。
ただ、その終わりが僕の予想や都合を無視して、唐突に舞い込んで来ただけの話なのだ。
それは、九月に入りツクツクボウシが本格的な大合唱を始める頃だった。
日の入りが早くなるのをすっかり失念していた僕は、秘密基地でうっかりと寝過ごしてしまい、帰宅した直後、父に呼び出された。
日の入りが早くなるのをすっかり失念していた僕は、秘密基地でうっかりと寝過ごしてしまい、帰宅した直後、父に呼び出された。
うがい、手洗いをして、軽く身を検め、書斎へ踏み込みと、仁王像の様に険しい顔をした父がいた。
本当に怒っている時の父は、声を荒げることもなく、相手を嗜めることもない。
低い声で事務的に淡々と詰問してくる。
何が悪かったのか、当人が本当に理解するまで尋問は続く。
本当に怒っている時の父は、声を荒げることもなく、相手を嗜めることもない。
低い声で事務的に淡々と詰問してくる。
何が悪かったのか、当人が本当に理解するまで尋問は続く。
「今、何時か言ってみろ」
「もう、十八時を回ったところでしょうか」
「もう、十八時を回ったところでしょうか」
夏と秋の門限には、かなり大きな差がある。開運と開脚の間にあるやつだ。
どうやら父は、怒り心頭のようであった。
どうやら父は、怒り心頭のようであった。
重苦しい空気が漂う中、雄虫の放つ雌を誘う調だけが空間に染み渡る。
暫し間を空けると、父は「こんなに遅くまでどこに行っていた」と問い、疚しいことの無い僕は「友達と山で遊んでいました」と、ある意味正直に答えた。
父の険しい顔が少し緩んだ。
暫し間を空けると、父は「こんなに遅くまでどこに行っていた」と問い、疚しいことの無い僕は「友達と山で遊んでいました」と、ある意味正直に答えた。
父の険しい顔が少し緩んだ。
父と母は、僕に学校の友達がいないことを知っていた。
そして、自分達が過疎化の進む寒村で暮らすことが、その理由の一端であると考え、自責の念に駆られている節がある。
だからこそ、僕の口から出た友達と云うキーワードに閉口せざるをえない。
尤も、それは、父母の完全な勘違いであり、その勘違いの中身を読み切っていたからこそ、僕は正直に答えた訳なのだけれど。
そして、自分達が過疎化の進む寒村で暮らすことが、その理由の一端であると考え、自責の念に駆られている節がある。
だからこそ、僕の口から出た友達と云うキーワードに閉口せざるをえない。
尤も、それは、父母の完全な勘違いであり、その勘違いの中身を読み切っていたからこそ、僕は正直に答えた訳なのだけれど。
「ん、そうか……。次からは、もう少し早く帰ってきなさい」
「はい、申し訳ありませんでした」
「はい、申し訳ありませんでした」
凡そ僕の思惑通りに事が進み、もう退出しても構わないだろうと思っていた時だった。
父が妙なことを口走った。
父が妙なことを口走った。
「それと、暫く山に行くのは止めにしなさい。最近は、ドスが出るそうだ」
ドス。
久しぶりに聞いた言葉だ。
それ程この近辺は、ヤクザと関連性があるのだろうか。
少々気になったので尋ねてみると、少しの間、父は豆鉄砲食らった鳩が脳漿をぶちまけて死んだのを偶々目撃した通行人の様な顔をしていた。
暫くして気を取り直した父は、眉根に寄ってしまう皺を揉み解しながら答えてくれた。
久しぶりに聞いた言葉だ。
それ程この近辺は、ヤクザと関連性があるのだろうか。
少々気になったので尋ねてみると、少しの間、父は豆鉄砲食らった鳩が脳漿をぶちまけて死んだのを偶々目撃した通行人の様な顔をしていた。
暫くして気を取り直した父は、眉根に寄ってしまう皺を揉み解しながら答えてくれた。
「ドスと云うのは、ゆっくりの親玉のことだ。ドスまりさと云ったか。私もよく知らないが非常に大きく、口からビームを吐くようだ」
もう少し常識を知りなさいと言外に告げる父。
一瞬、父が冗談を言っているのかとも思ったけれど、父が冗談でビームなどと言うキャラクターでないことは重々承知している。
つまり、十分に警戒する必要のある化け物なのだろう。
一瞬、父が冗談を言っているのかとも思ったけれど、父が冗談でビームなどと言うキャラクターでないことは重々承知している。
つまり、十分に警戒する必要のある化け物なのだろう。
「成程、そのような怪物が出没するのならば、暫くは自重します。明日、友人のれみりゃにも、そう伝えましょう」
未知の怪物に思いを馳せつつそう答えた時、父の顔から表情が消えた。
唇がわなわなと震え、瞳が明後日の方角を向いている。
怒っている様には感じないが、同時に何を考えているのか読めない。
唇がわなわなと震え、瞳が明後日の方角を向いている。
怒っている様には感じないが、同時に何を考えているのか読めない。
「友人の名前、今、れみりゃと言わなかったか?」
滅多に動揺することのない父が、言の葉に載った動揺を隠すことさえしなかった。
やはり、彼女はどこかの有名な息女なのだろうか。
その問いに是と答えると、父の顔色は目まぐるしく変わった。
人間の表情が同時に表現し得る限界が存在する以上、その許容量を超えた感情は、このように表現されるらしい。
暫し、自問自答を繰り返していた父は「まあ、お前ならそうか……」と一人納得すると、僕が知りたくなかったことを告げた。
やはり、彼女はどこかの有名な息女なのだろうか。
その問いに是と答えると、父の顔色は目まぐるしく変わった。
人間の表情が同時に表現し得る限界が存在する以上、その許容量を超えた感情は、このように表現されるらしい。
暫し、自問自答を繰り返していた父は「まあ、お前ならそうか……」と一人納得すると、僕が知りたくなかったことを告げた。
父曰く、れみりゃは、ゆっくりである。
ゆっくりれみりゃと呼ばれる種族の中でも胴付きと呼ばれる特異な変異体であり、人間の様な体を有している。
体内には、血と筋の代わりに豚肉、椎茸、玉葱などを刻み混ぜ合わせた、所謂中華饅の具が詰まっており、外皮は限りなく花巻に近い組成をしている。
そして、その特異な性質の中で極めて異質なものが、ゆっくりの人格形成に関する自己認識の根幹部分に据えられている性質だ。
例えば、その部分に『自由』と云う性質が据えられているゆっくりがいるとしよう。
それは、ゆっくりと云う種族の持つ普遍的な特性故に、多数の無能とゲスを排出し、少数の良を生み、一厘に満たない極端に突出した優を輩出することになる。
ゆっくりれいむと呼ばれる存在がそれだ。
では、そこに据えられたのが『誇り(プライド)』であった場合どうなるか。
ゆっくりが持つ根拠の無い全能感、それ故に派生する『家柄に対する拘り』。
ゆっくりれみりゃと呼ばれる種族の中でも胴付きと呼ばれる特異な変異体であり、人間の様な体を有している。
体内には、血と筋の代わりに豚肉、椎茸、玉葱などを刻み混ぜ合わせた、所謂中華饅の具が詰まっており、外皮は限りなく花巻に近い組成をしている。
そして、その特異な性質の中で極めて異質なものが、ゆっくりの人格形成に関する自己認識の根幹部分に据えられている性質だ。
例えば、その部分に『自由』と云う性質が据えられているゆっくりがいるとしよう。
それは、ゆっくりと云う種族の持つ普遍的な特性故に、多数の無能とゲスを排出し、少数の良を生み、一厘に満たない極端に突出した優を輩出することになる。
ゆっくりれいむと呼ばれる存在がそれだ。
では、そこに据えられたのが『誇り(プライド)』であった場合どうなるか。
ゆっくりが持つ根拠の無い全能感、それ故に派生する『家柄に対する拘り』。
それこそ、僕が友と呼んだ存在の全てだった。
それ以後のことは、よく覚えていない。
退出の挨拶もせずに、ふらふらと書斎を後にした。
父は、それを見咎めるようなことはしなかったと思う。
夕飯を食べたのか、食べなかったのかも定かでない。
風呂に入った記憶だけは、妙に鮮明に覚えている。
仄かに自分の体から漂う「美味そうな匂い」を洗い流して、事実を否定したかったのかもしれない。
床に就いても瞼が閉じられず、夜なのか朝なのかも分からない内に夜が明けた。
まるで大きな機械を動かす歯車になってしまったかの様に呆けた頭で、学校に行かなくてはと思い立ち、身支度を始めた時だった。
電話が掛ってきた。
臨時休校を知らせる内容だった。
隣町で目撃されていた怪物が、付近の山林で目撃されたらしく、決して外出しないようにとの通達だった。
電話を切った後、不意に脳裏を過ぎった笑顔を打ち消すと、フラフラする足取りでその場を後にした。
退出の挨拶もせずに、ふらふらと書斎を後にした。
父は、それを見咎めるようなことはしなかったと思う。
夕飯を食べたのか、食べなかったのかも定かでない。
風呂に入った記憶だけは、妙に鮮明に覚えている。
仄かに自分の体から漂う「美味そうな匂い」を洗い流して、事実を否定したかったのかもしれない。
床に就いても瞼が閉じられず、夜なのか朝なのかも分からない内に夜が明けた。
まるで大きな機械を動かす歯車になってしまったかの様に呆けた頭で、学校に行かなくてはと思い立ち、身支度を始めた時だった。
電話が掛ってきた。
臨時休校を知らせる内容だった。
隣町で目撃されていた怪物が、付近の山林で目撃されたらしく、決して外出しないようにとの通達だった。
電話を切った後、不意に脳裏を過ぎった笑顔を打ち消すと、フラフラする足取りでその場を後にした。
こうして、ツクツクボウシが夏の終わりを告げる頃、僕の夕焼け色の青春は終わりを告げた。
友達がいたという事実を置き去りにして。
友達がいたという事実を置き去りにして。
……。
…………。
…………。
…………。
……。
唐突に意識が浮き上がる。
七年前の世界から目覚めた僕の目に映ったのは、生まれた時から一時期を除いて毎日のように見てきた木製の梁だった。
時計の針は、八時を少し過ぎたところだった。
懐かしい夢を見たいた気がする。
思えば、あの日が僕の運命の全てを大まかに決定してしまったようにも感じる。
紆余曲折を経て、現在の僕は無職だった。
父が所有していた畑も既に他人の所有だ。
……。
唐突に意識が浮き上がる。
七年前の世界から目覚めた僕の目に映ったのは、生まれた時から一時期を除いて毎日のように見てきた木製の梁だった。
時計の針は、八時を少し過ぎたところだった。
懐かしい夢を見たいた気がする。
思えば、あの日が僕の運命の全てを大まかに決定してしまったようにも感じる。
紆余曲折を経て、現在の僕は無職だった。
父が所有していた畑も既に他人の所有だ。
最早、目を瞑ってでも辿り着ける洗面所まで、ぼんやりとした視界で赴くと、井戸から電動ポンプを用いて蛇口へと引いている冷たい水を頭から被ってシャンとする。
短く刈った黒髪に残留した水分をタオルで大雑把に除去して顔を上げた時、嵌め殺しの窓から垣間見えた紅葉の舞い落ちるのを見て、恰も夢から今までが一続きになっているかの様な錯覚に陥った。
一人笑いながら水を溜めて、もう一度被り直した。
短く刈った黒髪に残留した水分をタオルで大雑把に除去して顔を上げた時、嵌め殺しの窓から垣間見えた紅葉の舞い落ちるのを見て、恰も夢から今までが一続きになっているかの様な錯覚に陥った。
一人笑いながら水を溜めて、もう一度被り直した。
テレビのある居間へ移ると、見たい番組があるでもなしに、惰性でテレビの電源を入れる。
純和風の部屋にそぐわない薄型の液晶には、最近巷を騒がせている『悪魔』と対峙する、竹槍で武装した逞しく勇敢な戦士達が映し出された。
どうやら、グンマーからの緊急生放送のようだ。
不思議と懐かしさを感じる異国の言語を聞き流しながら畳の上に腰を下ろすと、目の前の卓袱台に右手の肘を置いて頬杖を付く。
一番テレビを見やすい席で、新聞を広げる父の姿はない。
部屋が広くなってしまったのを改めて実感した。
純和風の部屋にそぐわない薄型の液晶には、最近巷を騒がせている『悪魔』と対峙する、竹槍で武装した逞しく勇敢な戦士達が映し出された。
どうやら、グンマーからの緊急生放送のようだ。
不思議と懐かしさを感じる異国の言語を聞き流しながら畳の上に腰を下ろすと、目の前の卓袱台に右手の肘を置いて頬杖を付く。
一番テレビを見やすい席で、新聞を広げる父の姿はない。
部屋が広くなってしまったのを改めて実感した。
父と母には、もうどうやったら会えるのか分からない。
全てが変わったあの日、父母は、ドスまりさの凶行にその身を焼かれた。
村を蹂躙せんとして山から降りてきたドスと偶々最初に出会ってしまい、不運にも見せしめにされたのだそうだ。
その知らせを聞いて、僕は生まれて初めて身を焦がす程の殺意を覚えた。
不思議だった。
父と母を愛することが出来なかったと、それは今でも断言できる。
それでも尚、やはり、尊敬する父母であり、僕を育ててくれた紛れもない恩人でもあったのだ。
村を蹂躙せんとして山から降りてきたドスと偶々最初に出会ってしまい、不運にも見せしめにされたのだそうだ。
その知らせを聞いて、僕は生まれて初めて身を焦がす程の殺意を覚えた。
不思議だった。
父と母を愛することが出来なかったと、それは今でも断言できる。
それでも尚、やはり、尊敬する父母であり、僕を育ててくれた紛れもない恩人でもあったのだ。
しかし、僕がドスに復讐することは、叶わなかった。
近隣住民の通報により、駐在さんが駆けつけた時は、奇しくも父母が倒れ伏す瞬間であったらしい。
「にやにやと厭味たらしい饅頭に、震える手でなんとか拳銃を抜いて構えたけど、引き金を引いたときは、もう全て終わった後だったよ」と若い警察官は語った。
「にやにやと厭味たらしい饅頭に、震える手でなんとか拳銃を抜いて構えたけど、引き金を引いたときは、もう全て終わった後だったよ」と若い警察官は語った。
その彼曰く「山から血の様に紅い霧が噴き出し、その中から躍り出てきた、全長十メートル近くある怪獣の着ぐるみを着た巨大で悪魔の様なゆっくりが、笑いながらドスまりさを嬲殺しにして、動かなくなったドスを紅い霧が咽ぶ山中に引き摺って行った」らしい。
一拍遅れて飛び出した鉛球は、怪物の表皮に弾かれて明後日の方角に飛んで行ったとも言っていた。
一拍遅れて飛び出した鉛球は、怪物の表皮に弾かれて明後日の方角に飛んで行ったとも言っていた。
今では誰もが疑うことのない信憑性の高い話であるが、当時は俄かには信じ難い話であった。
尤も、それから一晩中断続的に鳴り響いたドスまりさの無惨な悲鳴と勝ち鬨を上げる魔獣の咆哮、そして、多くの人間が目撃した東方へと飛び去る巨大な影を鑑みれば、否が応でも信じない訳にもいかない話であった。
その翌日、ドスの死体を確認するため山狩りが計画されたのだが、実行に移されたのは、それから一週間程経過した後であった。
紅い霧。その正体は、極辛のデスソースだった。
霧が晴れて尚、周囲に付着したソースから遊離した細かな粒子は、領域に踏み込む者の粘膜を容赦なく破壊した。
最初に山中へ向かった村人達は、数日間、聴覚以外の感覚が麻痺してしまい、まともに動けなくなってしまった。
尤も、そのデスソース、文字通り死ぬほど辛い反面、相当美味しいらしく匂いだけでも幸せになれるようだ。皆一様に極楽にいるような顔で痙攣していた。
当初、山林に生息する動物達に相当な被害が出ていることが予想されたものの、後の調査によると、真赤に染まって死んでいたのは、ドスのコミュニティーに属していたと思われるゆっくりだけだったそうだ。
当時は、不思議に思ったものの、よく考えれば当然のことなのかもしれない。野生の動物は、何かしらの災害が起こる前に、感覚的にそれを察知して逃れることが出来ると云う。特に辛味とは、生物学的には痛みであり、絶対に回避すべき感覚なのだ。
曲がりなりにも社会性などを身に着けてしまったゆっくりに、その対極にある野生を求めるのは酷な話と云えよう。
尤も、それから一晩中断続的に鳴り響いたドスまりさの無惨な悲鳴と勝ち鬨を上げる魔獣の咆哮、そして、多くの人間が目撃した東方へと飛び去る巨大な影を鑑みれば、否が応でも信じない訳にもいかない話であった。
その翌日、ドスの死体を確認するため山狩りが計画されたのだが、実行に移されたのは、それから一週間程経過した後であった。
紅い霧。その正体は、極辛のデスソースだった。
霧が晴れて尚、周囲に付着したソースから遊離した細かな粒子は、領域に踏み込む者の粘膜を容赦なく破壊した。
最初に山中へ向かった村人達は、数日間、聴覚以外の感覚が麻痺してしまい、まともに動けなくなってしまった。
尤も、そのデスソース、文字通り死ぬほど辛い反面、相当美味しいらしく匂いだけでも幸せになれるようだ。皆一様に極楽にいるような顔で痙攣していた。
当初、山林に生息する動物達に相当な被害が出ていることが予想されたものの、後の調査によると、真赤に染まって死んでいたのは、ドスのコミュニティーに属していたと思われるゆっくりだけだったそうだ。
当時は、不思議に思ったものの、よく考えれば当然のことなのかもしれない。野生の動物は、何かしらの災害が起こる前に、感覚的にそれを察知して逃れることが出来ると云う。特に辛味とは、生物学的には痛みであり、絶対に回避すべき感覚なのだ。
曲がりなりにも社会性などを身に着けてしまったゆっくりに、その対極にある野生を求めるのは酷な話と云えよう。
山中へ踏み込めるようになったのは、その後、雨でソースが洗い流され、ぬかるんだ土壌がしっかり乾き安定した後だった。
その頃には、デスソースに犯されていた人達もすっかり元気、いや、過剰なカプサイシンで中枢神経がやられたのか元より暑苦しくなっていた。
そのお蔭か、ドスの死体は、気持ち悪いくらい早く見つかった。
側頭部に穴を空けられてそこから中身を喰われたようで、見つかったのはデスソースで汚染されて真赤に染まった巨大な饅頭皮だけだった。
実際に僕も見に行ったのだけれど、雨でぐずぐずに崩れたそれは、深海から打ち上げられた新種の生物のようであった。
ただ、そのグロテスクな新生物の表情には、深淵でも垣間見てしまったかのような絶望だけが張り付いていた。
その頃には、デスソースに犯されていた人達もすっかり元気、いや、過剰なカプサイシンで中枢神経がやられたのか元より暑苦しくなっていた。
そのお蔭か、ドスの死体は、気持ち悪いくらい早く見つかった。
側頭部に穴を空けられてそこから中身を喰われたようで、見つかったのはデスソースで汚染されて真赤に染まった巨大な饅頭皮だけだった。
実際に僕も見に行ったのだけれど、雨でぐずぐずに崩れたそれは、深海から打ち上げられた新種の生物のようであった。
ただ、そのグロテスクな新生物の表情には、深淵でも垣間見てしまったかのような絶望だけが張り付いていた。
この一連の騒動を起こした怪物。
実際にその姿を目撃した訳ではないけれど、その正体は、テレビ画面の向こう側、グンマーで猛威を振るっている真紅の悪魔と見て間違いないだろう。
現在、デスソースの結界に潜む悪魔は、グンマー戦士達の崇める神オーム・ケイドの加護により白日の元にその姿を晒していた。
実際にその姿を目撃した訳ではないけれど、その正体は、テレビ画面の向こう側、グンマーで猛威を振るっている真紅の悪魔と見て間違いないだろう。
現在、デスソースの結界に潜む悪魔は、グンマー戦士達の崇める神オーム・ケイドの加護により白日の元にその姿を晒していた。
「Gyaooooo!! わ、われはひとり、す、すかーれっと・でびるなりーーーーーッ!!」
緑の鱗で覆われた全身を己の体液で紅く染めた悪魔は、自身をそう呼称した。
巨大な龍の顎門の中にゆっくりの顔が納まった異質な生物。遠目には、子供がドラゴンの着ぐるみを着ているようにも見え、一見微笑ましくもあるけれど、その性格は極めて残虐で無慈悲でもある。常に笑顔でいるのも恐怖を演出する一要因と化している。
巨大な龍の顎門の中にゆっくりの顔が納まった異質な生物。遠目には、子供がドラゴンの着ぐるみを着ているようにも見え、一見微笑ましくもあるけれど、その性格は極めて残虐で無慈悲でもある。常に笑顔でいるのも恐怖を演出する一要因と化している。
一ヶ月程前に、グンマーに出現した悪魔は、グンマー戦士達と一進一退の攻防を繰り広げていた。
途中、自衛隊の介入があったものの、悪魔は、戦士達との心踊る戦いに水を射されたことに憤り、山間部に布陣する自衛隊にその牙を向けた。戦車の砲弾すら弾き返す鱗と大空を自由に飛び回る翼を持った悪魔の前に、自衛隊は、為す術も無く敗退を喫し、今はまたグンマー戦士達との凌ぎを削る戦いが続いている。
途中、自衛隊の介入があったものの、悪魔は、戦士達との心踊る戦いに水を射されたことに憤り、山間部に布陣する自衛隊にその牙を向けた。戦車の砲弾すら弾き返す鱗と大空を自由に飛び回る翼を持った悪魔の前に、自衛隊は、為す術も無く敗退を喫し、今はまたグンマー戦士達との凌ぎを削る戦いが続いている。
嘗て、この生き物が僕の村にいたことを考えると今でも背筋が氷りそうになる。
もし、連絡網の電話が遅れていたら、もし、僕が即座に決断できなかったら、僕は、全身を襲う辛味でショック死することになっていただろう。
しかし、僕は、そのギリギリの状況を潜りぬけることに成功した。
だからこそ、今僕は生きている。
そして、彼女がここにいる。
もし、連絡網の電話が遅れていたら、もし、僕が即座に決断できなかったら、僕は、全身を襲う辛味でショック死することになっていただろう。
しかし、僕は、そのギリギリの状況を潜りぬけることに成功した。
だからこそ、今僕は生きている。
そして、彼女がここにいる。
「うっうー!! ともくん、おはようだどぅ!!」
「おはよう。今日も元気いーな」
「おはよう。今日も元気いーな」
土鍋と漬物と蓮華の乗ったおぼんを持って、危なげない足取りでやって来たれみりゃに挨拶を返す。
僕の誤解が解た今でも、僕はれみりゃにともくんと呼ばせている。今更、それ以外の名前で呼ばれるのも違和感があったというより、なんとなく今まで築いてきた過去が音を立てて崩れてしまう気がしたからだ。
「きょうも、おいしく、できたのよぉー!!」と言って、僕の目の前におぼんを置いた彼女は、再び台所へ行ってしまった。戻ってくるまで待っていようかとも思ったけれど、腹の虫が胃に穴を空けそうだったので、さっさと土鍋の蓋を開けた。
湯気と共に立ち昇った生姜の香りが鼻腔をくすぐった。仄かに色付いた御飯の中から覗く万能葱の緑の部分と無作為に散らした白髪葱の白が目にも美味しい。葱と生姜の薬膳粥だ。
二年前に戯れで行ったプリン作り対決で圧倒的大差で敗北して以降、台所の全権は、完全に彼女に掌握されてしまった。敢えて、風味の弱く卵黄の張りが無い古い卵を使うことで、濃厚な牛乳の風味を際立たせた解ける食感のプリンを作るとは、思いもよらなかった。
七年前まで箸すら使えなかったくせに、今では米粒同士がくっつかない、所謂パラパラの炒飯が作れる腕前だ。正直悔しい。
しかし、何故かその料理の才能は、プリンと中華料理にのみ傾倒しているようで、洋食に至っては、何を作らせても大英帝国暗黒の料理史の流れを汲んだものになってしまう。
結構量のある中華粥を食べながら、れみりゃの謎過ぎる料理スキルについて考察していると、一枚の皿の上に粘性の高いモチモチとした黄色い塊を乗せた、件のゆっくりが戻ってきた。
「れみりゃのごはんは、こっちー」と言いながら僕の対面に座ると、短い指で器用に箸を握り、横に伸びたスライムの様な塊を箸で千切って食べ始めた。
皿からぷっつりと切り取った粘塊を口の中にテュルンと流しこんで、暫くもきゅもきゅしている。程なくして「しあわせぇー!!」と声が上がった。
三不粘。澱粉、卵黄、砂糖を水で溶いて和わせた生地を鍋で炒めながら少しづつラードを馴染ませることで完成する中国の御菓子だ。
作り方だけを見れば、一見簡単に作れてしまう様に見えるのだけれど、ラードを生地に馴染ませるのが非常に難しく、大抵それっぽい物が出来たとしても、『三不』が抜けた只の『粘』である場合が多い。上手く作ることが出来れば、皿にくっつかず、箸にもくっつかず、歯にすらくっつかない、不思議な食感の御菓子に仕上がる。
れみりゃは、三回目くらいでコツを掴んでしまった。今では安定してこの御菓子を供給できるようになっている。
僕の誤解が解た今でも、僕はれみりゃにともくんと呼ばせている。今更、それ以外の名前で呼ばれるのも違和感があったというより、なんとなく今まで築いてきた過去が音を立てて崩れてしまう気がしたからだ。
「きょうも、おいしく、できたのよぉー!!」と言って、僕の目の前におぼんを置いた彼女は、再び台所へ行ってしまった。戻ってくるまで待っていようかとも思ったけれど、腹の虫が胃に穴を空けそうだったので、さっさと土鍋の蓋を開けた。
湯気と共に立ち昇った生姜の香りが鼻腔をくすぐった。仄かに色付いた御飯の中から覗く万能葱の緑の部分と無作為に散らした白髪葱の白が目にも美味しい。葱と生姜の薬膳粥だ。
二年前に戯れで行ったプリン作り対決で圧倒的大差で敗北して以降、台所の全権は、完全に彼女に掌握されてしまった。敢えて、風味の弱く卵黄の張りが無い古い卵を使うことで、濃厚な牛乳の風味を際立たせた解ける食感のプリンを作るとは、思いもよらなかった。
七年前まで箸すら使えなかったくせに、今では米粒同士がくっつかない、所謂パラパラの炒飯が作れる腕前だ。正直悔しい。
しかし、何故かその料理の才能は、プリンと中華料理にのみ傾倒しているようで、洋食に至っては、何を作らせても大英帝国暗黒の料理史の流れを汲んだものになってしまう。
結構量のある中華粥を食べながら、れみりゃの謎過ぎる料理スキルについて考察していると、一枚の皿の上に粘性の高いモチモチとした黄色い塊を乗せた、件のゆっくりが戻ってきた。
「れみりゃのごはんは、こっちー」と言いながら僕の対面に座ると、短い指で器用に箸を握り、横に伸びたスライムの様な塊を箸で千切って食べ始めた。
皿からぷっつりと切り取った粘塊を口の中にテュルンと流しこんで、暫くもきゅもきゅしている。程なくして「しあわせぇー!!」と声が上がった。
三不粘。澱粉、卵黄、砂糖を水で溶いて和わせた生地を鍋で炒めながら少しづつラードを馴染ませることで完成する中国の御菓子だ。
作り方だけを見れば、一見簡単に作れてしまう様に見えるのだけれど、ラードを生地に馴染ませるのが非常に難しく、大抵それっぽい物が出来たとしても、『三不』が抜けた只の『粘』である場合が多い。上手く作ることが出来れば、皿にくっつかず、箸にもくっつかず、歯にすらくっつかない、不思議な食感の御菓子に仕上がる。
れみりゃは、三回目くらいでコツを掴んでしまった。今では安定してこの御菓子を供給できるようになっている。
因みに、こう云うのがゾルであり、プリンはゲルらしい。
嘗ての僕の勘違いを正してくれた中学校の頃の理科の先生は、もうこの村にいない。
家庭科の先生と社会の先生のプリン論争に参戦した理科の先生。
俗に云う『フラグ』なるものを両先生に立ててしまったようで、泥沼の三角関係に発展。
逃げる様にして村から去ってしまわれた。
こうして過疎化の進む村落から『三名』もの人間が姿を消した。
もっと、三不粘の様なくっつき過ぎない関係でいればよかったものを……。
嘗ての僕の勘違いを正してくれた中学校の頃の理科の先生は、もうこの村にいない。
家庭科の先生と社会の先生のプリン論争に参戦した理科の先生。
俗に云う『フラグ』なるものを両先生に立ててしまったようで、泥沼の三角関係に発展。
逃げる様にして村から去ってしまわれた。
こうして過疎化の進む村落から『三名』もの人間が姿を消した。
もっと、三不粘の様なくっつき過ぎない関係でいればよかったものを……。
そんな益体もないことを考えている時だった、テレビの中のリポーターが唐突に声を荒げた。
どうやら、老練のグンマー戦士が悪魔の猛攻を掻い潜って、懐に潜り込むことに成功したようだ。年老いて尚剽悍な肉体を駆使して竹槍をぶん回すと、加速させた矛先を鱗の無い腹の部分に突き入れた。
殺った。誰もがそう思ったであろうその時だった。悪魔の傷口から回避不能なタイミングで噴出した熱々のデスソースが、腰巻き以外の防具らしい防具を一切纏わない、はちきれんばかりの美しい肉体を強襲した。頭からそれを被ったグンマーの老戦士は、デスソースの力に必死に抗っていたようだが、暫くすると「ナッカランマイ!!」と皺枯れた声で一声上げると、すっげー幸せそうな顔で倒れ伏した。
老戦士が斃されたことを受けて、グンマー戦士達の間に動揺が走っているようだ。先んじて一太刀を入れた勇者に続けとばかりに滾る血気盛んな若人達の士気が高まる中、それを「ヤメヤッセ、ヤメヤッセ!!」と嗜める大人たちは、一先ず遠距離からこんにゃくをぶつけて相手の出方を見る心算のようだ。
その一方で、竹槍を自力で体内から引き抜いた悪魔は「U! U! UAUAAAAAAA!!」とまるで、果敢に戦った戦士に追悼の意を捧げるかの様にして天に向かって咆哮している。
どうやら、老練のグンマー戦士が悪魔の猛攻を掻い潜って、懐に潜り込むことに成功したようだ。年老いて尚剽悍な肉体を駆使して竹槍をぶん回すと、加速させた矛先を鱗の無い腹の部分に突き入れた。
殺った。誰もがそう思ったであろうその時だった。悪魔の傷口から回避不能なタイミングで噴出した熱々のデスソースが、腰巻き以外の防具らしい防具を一切纏わない、はちきれんばかりの美しい肉体を強襲した。頭からそれを被ったグンマーの老戦士は、デスソースの力に必死に抗っていたようだが、暫くすると「ナッカランマイ!!」と皺枯れた声で一声上げると、すっげー幸せそうな顔で倒れ伏した。
老戦士が斃されたことを受けて、グンマー戦士達の間に動揺が走っているようだ。先んじて一太刀を入れた勇者に続けとばかりに滾る血気盛んな若人達の士気が高まる中、それを「ヤメヤッセ、ヤメヤッセ!!」と嗜める大人たちは、一先ず遠距離からこんにゃくをぶつけて相手の出方を見る心算のようだ。
その一方で、竹槍を自力で体内から引き抜いた悪魔は「U! U! UAUAAAAAAA!!」とまるで、果敢に戦った戦士に追悼の意を捧げるかの様にして天に向かって咆哮している。
粥を食べる手を止めて見入ってしまう程、凄まじい臨場感だった。
お隣さんの家まで数百メートル離れているからといって、音量を自重しなかったのが悪かったのだろうか。
すっかり怯えてしまったれみりゃが、攻略中の三不粘を放棄して、援軍を求めて僕に縋り付き「うーうー」言っていた。
こうやって、ガタガタ震えている様子を見ていると、ついあの日のことを思い出してしまう。
お隣さんの家まで数百メートル離れているからといって、音量を自重しなかったのが悪かったのだろうか。
すっかり怯えてしまったれみりゃが、攻略中の三不粘を放棄して、援軍を求めて僕に縋り付き「うーうー」言っていた。
こうやって、ガタガタ震えている様子を見ていると、ついあの日のことを思い出してしまう。
父から、れみりゃがゆっくりであることを聞かされた日。
僕は相当なショックを受けて打ち拉がれていた。
彼女が人間でなかったからではない。
僕が彼女の同胞を殺してきたからである。
僕は相当なショックを受けて打ち拉がれていた。
彼女が人間でなかったからではない。
僕が彼女の同胞を殺してきたからである。
胴付きゆっくりと云うものを知らない僕であったが、れみりゃが何となくゆっくりかもしれないと云うことを薄々感付いてはいた。
ただ、ずっと気付かない振りをしていた。
もし気付いてしまったとき、僕は正気を保てる自信が無かった。
農作業の手伝いをする傍ら、畑への侵入を試みようとするゆっくりを、これまで流れ作業の様に淡々と殺してきた。主にクラヴ・マガっぽい動きを駆使して。
れみりゃが友達である過去が変わらないように、僕が彼女の仲間を殺してきたと云う過去も変わらない。知りたくなかった真相を知ったとき、案の定、僕は自責の念に駆られて、その重圧から逃れようとした自我があやふやな状態になった。
結局、僕は、本質的にヘタレなのだ。
後に、れみりゃが他のゆっくりを主食とする捕食種であると知った時も、複雑すぎる感情の奔流に呑まれた精神が平衡を保てず、三日ほど意識不明になった。
ただ、ずっと気付かない振りをしていた。
もし気付いてしまったとき、僕は正気を保てる自信が無かった。
農作業の手伝いをする傍ら、畑への侵入を試みようとするゆっくりを、これまで流れ作業の様に淡々と殺してきた。主にクラヴ・マガっぽい動きを駆使して。
れみりゃが友達である過去が変わらないように、僕が彼女の仲間を殺してきたと云う過去も変わらない。知りたくなかった真相を知ったとき、案の定、僕は自責の念に駆られて、その重圧から逃れようとした自我があやふやな状態になった。
結局、僕は、本質的にヘタレなのだ。
後に、れみりゃが他のゆっくりを主食とする捕食種であると知った時も、複雑すぎる感情の奔流に呑まれた精神が平衡を保てず、三日ほど意識不明になった。
そして運命の日、父母がドスまりさと鉢合わせる十五分程前。
臨時休校の通達を受けた僕は、血が出るほど下唇を噛締めることで浮き足立っていた心を無理に落ち着かせると、すぐさまその場を後にして、秘密基地へ向かっていた。
ドスやら正体不明の怪物やらが徘徊する危険な場所に、れみりゃを一人で放置していることを考えると、胸が張り裂けそうだった。
睡眠不足と極度のストレス疲労で、まともに動かない体を叱咤して、歩き慣れたコースの最短距離を進む。舗装されていない畦道を駆け抜け、常ならば飛び越える浅い小川を走り抜け、底冷えするように静かで無機質な雑木林を駆け上がる。
ブルーシートの簡易テントの中には、いつだったかの様に『ゆっくり』がいた。今度は、ネリチャギを放たなかった。
テントの中で目に見えない正体不明の何かに怯え、膝を抱えてガタガタ震えるれみりゃに声をかけると、泣きながら縋り付いてきた。
この時、あやしてやる時間すら無いことを野生の直感で理解した僕は、彼女を抱き上げて一度だけ強く抱きしめた後、背中に背負い、元来た道を行きの倍ほどの速さで駆け下りた。
どうにもこの時、人間の限界をギリギリ超過するような動きをしていた気がする。父母に訪れた不幸を知ったのは、まさに家に辿り着き、不思議そうにしているれみりゃの側平で、酸欠と鋭い関節の痛みと全身の肉離れと云う三重苦に喘ぎ、白目を向いて口から血の泡を吹きのた打ち回っている時だった。
臨時休校の通達を受けた僕は、血が出るほど下唇を噛締めることで浮き足立っていた心を無理に落ち着かせると、すぐさまその場を後にして、秘密基地へ向かっていた。
ドスやら正体不明の怪物やらが徘徊する危険な場所に、れみりゃを一人で放置していることを考えると、胸が張り裂けそうだった。
睡眠不足と極度のストレス疲労で、まともに動かない体を叱咤して、歩き慣れたコースの最短距離を進む。舗装されていない畦道を駆け抜け、常ならば飛び越える浅い小川を走り抜け、底冷えするように静かで無機質な雑木林を駆け上がる。
ブルーシートの簡易テントの中には、いつだったかの様に『ゆっくり』がいた。今度は、ネリチャギを放たなかった。
テントの中で目に見えない正体不明の何かに怯え、膝を抱えてガタガタ震えるれみりゃに声をかけると、泣きながら縋り付いてきた。
この時、あやしてやる時間すら無いことを野生の直感で理解した僕は、彼女を抱き上げて一度だけ強く抱きしめた後、背中に背負い、元来た道を行きの倍ほどの速さで駆け下りた。
どうにもこの時、人間の限界をギリギリ超過するような動きをしていた気がする。父母に訪れた不幸を知ったのは、まさに家に辿り着き、不思議そうにしているれみりゃの側平で、酸欠と鋭い関節の痛みと全身の肉離れと云う三重苦に喘ぎ、白目を向いて口から血の泡を吹きのた打ち回っている時だった。
その後の経緯、特に語るべくもない。
僕では管理できそうもない畑を近所の親戚に売り払い、中学を卒業した後は、偶々求人の出ていたヨガのインストラクターを皮切りに、その時々に出来た伝から職を転々として、最終的に海外でプロボクサーになっていた。日本にヘビー級が無かったからだ。
尤も、それも一ヶ月ほど前までの話で、今は連盟とやらから追放されて無職だ。
やはりあれだろうか、世界ヘビー級なんちゃらとか云う大会の決勝戦で、咄嗟にチャンピオンの股間に放ってしまった裡門頂肘のせいだろうか。それまでの対戦相手とチャンピオンとのレベル差が開運と開脚の間にある壁ほどあったため、つい体が自然に動いてしまった。
未だに『美鈴先生の開運!! 八極拳』の罰が尾を引いているようだ。
僕では管理できそうもない畑を近所の親戚に売り払い、中学を卒業した後は、偶々求人の出ていたヨガのインストラクターを皮切りに、その時々に出来た伝から職を転々として、最終的に海外でプロボクサーになっていた。日本にヘビー級が無かったからだ。
尤も、それも一ヶ月ほど前までの話で、今は連盟とやらから追放されて無職だ。
やはりあれだろうか、世界ヘビー級なんちゃらとか云う大会の決勝戦で、咄嗟にチャンピオンの股間に放ってしまった裡門頂肘のせいだろうか。それまでの対戦相手とチャンピオンとのレベル差が開運と開脚の間にある壁ほどあったため、つい体が自然に動いてしまった。
未だに『美鈴先生の開運!! 八極拳』の罰が尾を引いているようだ。
それでも貯蓄は、それまでのファイトマネーが腐るほどあったので、僕とれみりゃとで週に一回くらい贅沢しても死ぬまでなら問題ないはずだった。
ところで、ドスパークと呼ばれる物の威力は、何故にああも誇張されてしまうのだろうか。
僕は、ドススパークの原理もビームの原理もよく知らないのだけれど、人間の体の頑丈さについては、少々詳しい。その経験側からして、人体を即座に破壊し得るようなものが至近距離から発射されれば、発射台も無事では済まない気がする。
そして、ドスまりさは、溶けない。つまり、そう云うことなのだろう。
父母はとても運が良かった。全身大火傷は、生死に関わるものだったらしいけれど、転職のノリで格闘選手になってしまう息子を生み出したDNAは、半端なかった。入院から五年後、後遺症も無く、リハビリも必要とせずに、突如として昏睡状態から舞い戻って来た。
自分達の畑が売り払われていたのには、大層驚いていたけれど、本来望んでいたベクトルと異なるものの一廉の人物になった僕を見て満足してくれた。
それで、気が抜けたのか、すっかり厳格さの無くなってしまった父母は、しょっちゅう二人で旅行に行くようになった。
僕は、ドススパークの原理もビームの原理もよく知らないのだけれど、人間の体の頑丈さについては、少々詳しい。その経験側からして、人体を即座に破壊し得るようなものが至近距離から発射されれば、発射台も無事では済まない気がする。
そして、ドスまりさは、溶けない。つまり、そう云うことなのだろう。
父母はとても運が良かった。全身大火傷は、生死に関わるものだったらしいけれど、転職のノリで格闘選手になってしまう息子を生み出したDNAは、半端なかった。入院から五年後、後遺症も無く、リハビリも必要とせずに、突如として昏睡状態から舞い戻って来た。
自分達の畑が売り払われていたのには、大層驚いていたけれど、本来望んでいたベクトルと異なるものの一廉の人物になった僕を見て満足してくれた。
それで、気が抜けたのか、すっかり厳格さの無くなってしまった父母は、しょっちゅう二人で旅行に行くようになった。
主に僕のお金で。
ただ、どう考えても両親がドスにやられたのは、突然家から走り去った僕のせいであることが解っているので、僕の口からは何も文句が言えない。
アナログな人達なので携帯も持とうとしないし、ホテルの予約もしない、旅銀が尽きて帰ってくることを除けば、こちらからは、もうどうやって連絡をとればいいのか分からない。
今もイタリア辺りで美味い物でも食っているのだろう。帰ってきたら、CQCっぽい動きを駆使して無言で拘束してやろうと固く心に誓った。
アナログな人達なので携帯も持とうとしないし、ホテルの予約もしない、旅銀が尽きて帰ってくることを除けば、こちらからは、もうどうやって連絡をとればいいのか分からない。
今もイタリア辺りで美味い物でも食っているのだろう。帰ってきたら、CQCっぽい動きを駆使して無言で拘束してやろうと固く心に誓った。
不意にれみりゃが動かないことに気付き、回想が途切れた。
うーうー言っていたれみりゃは、僕の腕に縋り付いたまま眠っていた。腹筋だけで笑いながら「ヘタレめ」と軽く頭を小突いてみると、今度は眠ったままうーうー言いだしたので、頭を撫でてまた落ち着かせた。
垂れてきた涎を拭ってやり、暫し、その顔を見つめてみる。あの頃からちっとも変わっていない。外見的に変わった所と云えば、お洒落を覚えたことぐらいだろうか。今日は、薄いピンク色のシャッツと白黒チェックのプリッツスカートを着て、胸の部分に黒字で「そこまでよ!!」と書かれた赤いエプロンを首から下げている。水色の髪に栄える桜の花の髪留めは、もう少し先の季節にした方がいいと思った。
ふと、今の僕にとって、彼女は何なのかと云う疑問が湧いてきたけれど、面倒なので考えるのをやめた。
うーうー言っていたれみりゃは、僕の腕に縋り付いたまま眠っていた。腹筋だけで笑いながら「ヘタレめ」と軽く頭を小突いてみると、今度は眠ったままうーうー言いだしたので、頭を撫でてまた落ち着かせた。
垂れてきた涎を拭ってやり、暫し、その顔を見つめてみる。あの頃からちっとも変わっていない。外見的に変わった所と云えば、お洒落を覚えたことぐらいだろうか。今日は、薄いピンク色のシャッツと白黒チェックのプリッツスカートを着て、胸の部分に黒字で「そこまでよ!!」と書かれた赤いエプロンを首から下げている。水色の髪に栄える桜の花の髪留めは、もう少し先の季節にした方がいいと思った。
ふと、今の僕にとって、彼女は何なのかと云う疑問が湧いてきたけれど、面倒なので考えるのをやめた。
開け放たれた、襖から心地よい秋風が吹き抜ける。より一層静まり返った部屋の中にれみりゃの寝息とテレビの音だけが響く。
第一次グンマー大戦を映していたテレビは、既にお偉いさんの会見に移っていた。どうやら、すかーれど・でびるの対応を国連軍の対ゆっくり特殊部隊に丸投げするらしい。
通称『首領ゆん』。首領こと、ユバルリッツ・テメーロンゲナゲーナ大佐率いる精鋭ゆっくりのみで構成された少数部隊。大佐のことが好き過ぎて他の人の言うことを全く聴かない問題児だらけの部隊でもある。過去のゆっくり関連の大戦において多大な戦火を上げた『超最強無敵素敵絶殺撲滅巫女』『光翼型蹂躙極殺惨戮鬼畜妹』を初めとする名だたる英ゆんもその名を連ねている。
どうやらグンマーは、本格的な修羅場になるらしい。戦士、悪魔、首領が終わりの無い三つ巴バトルを展開している未来しか目に浮かばない。
通称『首領ゆん』。首領こと、ユバルリッツ・テメーロンゲナゲーナ大佐率いる精鋭ゆっくりのみで構成された少数部隊。大佐のことが好き過ぎて他の人の言うことを全く聴かない問題児だらけの部隊でもある。過去のゆっくり関連の大戦において多大な戦火を上げた『超最強無敵素敵絶殺撲滅巫女』『光翼型蹂躙極殺惨戮鬼畜妹』を初めとする名だたる英ゆんもその名を連ねている。
どうやらグンマーは、本格的な修羅場になるらしい。戦士、悪魔、首領が終わりの無い三つ巴バトルを展開している未来しか目に浮かばない。
と云っても、まあ異国のことだ。僕には関係ない。
そう思い直すと、まだ中身が半分近く残っている土鍋を見据えた。
今僕がやるべきことは、やたらと体温の高い少女を左手に抱きながら、冷めてしまった薬膳粥を幸せと共に噛締め飲み下すこと、ただそれだけだ。
そう思い直すと、まだ中身が半分近く残っている土鍋を見据えた。
今僕がやるべきことは、やたらと体温の高い少女を左手に抱きながら、冷めてしまった薬膳粥を幸せと共に噛締め飲み下すこと、ただそれだけだ。
……。
ツクツクボウシが夏の終わりを告げる頃、僕の夕焼け色の青春は終わりを告げた。
友達がいたという事実を置き去りにして。
友達がいたという事実を置き去りにして。
そして、石楠花色の人生が幕を開けた。
今の彼女は……。
今の彼女は……。
完
どうも最後ら辺をうまーくまとめる能力が不足している。間違いなくプロットを作らないのが原因。
御詫び
此の度は、群馬県に対する誤解を増徴する様な表現を多様してしまいました件、謹んで御詫び申し上げます。
実在の群馬県は、日本と云う国が本来持つ失われつつある自然を残した美しい地域であり、感受性が強く、詩的で、慎み深い素晴らしい人間性を持つ県民様方が数多くおられることでも有名です。
自衛隊が山間部に容易く布陣できる程簡単に踏み込める様な場所ではないと、殊更に強く主張する所存です。サーセン
実在の群馬県は、日本と云う国が本来持つ失われつつある自然を残した美しい地域であり、感受性が強く、詩的で、慎み深い素晴らしい人間性を持つ県民様方が数多くおられることでも有名です。
自衛隊が山間部に容易く布陣できる程簡単に踏み込める様な場所ではないと、殊更に強く主張する所存です。サーセン