紅の使い魔 - (2007/09/09 (日) 16:29:13) の1つ前との変更点
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うまく寝付けない夜には、ルイズは使い魔のところにいく。
魔法学院の中庭には、ミスタ・コルベールが建ててくれた工房があり、ルイズの召喚した使い魔は毎日そこで作業をしているのだ。
寝巻きにマントを引っ掛けた格好で、ルイズはそっと階段を降り、中庭に出た。案の定、工房にはこうこうと明かりがついていた。
しゅ……しゅ……と、木に鉋をかける心地の良い音が聞こえてくる。ルイズはその音を聞きたくて、足しげく工房に通うのかもしれない。
ランプにぼんやりと照らし出されながら、ルイズの使い魔は作業をしていた。
入ってきたルイズに気がついて、使い魔が顔を上げた。
「……どうした。眠れねえのか」
「うん……ちょっとね」
「今夜は少し冷えるから、毛布でもかぶってな」
「……うん」
使い魔の差し出す毛布にルイズは包まった。使い魔の邪魔にならないように隅に腰を下ろし、ぼんやりとルイズは工房を見渡した。
大き目の掘っ立て小屋のような工房には、様々な木でできた部品が並べられている。ミスタ・コルベールが手伝って『錬金』で造った部品もたくさんあった。
溶接の作業には、最近すっかりルイズの使い魔と仲良くなったギーシュが担当しているようだった。
(……はじめは、決闘でワルキューレにぼこぼこに殴られていたのにね)
くす、とルイズは微笑む。小型のオークのような外見に反して、使い魔はからっきし弱くて、ギーシュのゴーレムにまったく勝てなかった。
顔を二倍ぐらいに腫らした使い魔のために秘薬を探したのも、今となってはいい思い出である。
黒いメガネをかけたキザな使い魔。なるほど、どこかギーシュに似てるかもしれなかった。
(それにしても……)
ルイズはあらためて使い魔の造っている『船』を見た。すらりとした船体はハルケギニアのそれとはずいぶん違っている。
火竜のブレスのように真っ赤に塗られているそれは、見れば見るほど奇妙だった。
何より、帆がない船なんてあるだろうか? 使い魔は、宝物庫で見つけた『えんじん』というのを使えば、必ず飛ぶと言うけれど。
ルイズは一息ついてタバコ(巻きタバコというらしい)を鼻からくゆらす使い魔に声をかける。
「ねえ、本当にこんな船が飛ぶの……? 風石も魔法もなしに浮かぶなんて、なんだか信じられないわ……」
「……俺の世界じゃ魔法がねえからな。みんなこうして造るのさ。前に……俺の戦闘艇を造ったのは、おまえさんと同い年の娘だったぜ、ルイズ」
「ふぅん……」
どんな子だろう、とルイズは毛布にあごを埋めた。自分と同い年でこんな船を造った娘がいる。
まだ自分は魔法一つ使えないのに。でも、使い魔の世界では魔法を使える人間はいないらしい。
「その娘もオークなの?」
何気なく聞いてみたのだが、使い魔は大きな口をあけて笑い出してしまった。なにやら見当違いのことを言ったらしい。ルイズの顔が赤くなる。
「はあっはっはっは……! フィ、フィオがオークだと……? はっはっはあ……! こりゃいい、フィオに聞かせてやりたいぜ……!」
「いいわよ……。何も笑わなくてもいいじゃない……」
すねるルイズに、使い魔はにやりと笑ってみせた。
「いいや……俺の世界でも人間は人間さ……魔法が使えない以外は全部こっちと同じだ。俺だけさ、魔法がかかってるのはな。
フィオは美人だ。おまえさんみたいにな、ルイズ」
「嘘ばっかり……」
使い魔が自分はオークではなく人間だというので、タバサに頼んで解除魔法をかけてもらったこともある。結果は変化なしだったが。
「人間の世界に飽きただけさ」と笑う使い魔は、どこまで本気かわからなかった。
今夜の仕事は終わりなのか、使い魔は道具をしまい、工房の窓を閉める。ルイズも毛布をかぶったまま立ち上がった。
使い魔は工房にベッドを作り、普段はそこで寝ているのだ。
工房を出るとき、ルイズは使い魔を振り返った。
「ねえ……その『飛行機』が完成したら、それで、本当に飛んだら……」
「飛ぶさ。飛ばねぇ豚はただの豚だ」
「……私も乗せてくれる? その『飛行機』に」
「もちろんだ」
使い魔はランプに手を伸ばした。火を吹き消そうとして、思いついたようにルイズを見つめた。
「だが……飛行機に乗せる前に、一つだけ約束だ、お嬢さん」
「なに……?」
「夜更かしはするな。睡眠不足はいい仕事の敵だ。それに美容にも悪いしな……。さ、もう寝てくれ」
「もう、また子供扱いして……」
「いいや、大人だからさ」
ルイズはぷっと頬を膨らませた。こういう仕草が子供っぽいのだと自分でも気がついているのだが。
使い魔は黒メガネを外し、ふっとランプを吹き消した。明かりが消える一瞬――使い魔の顔が、人間の顔に見えて、ルイズはごしごしと目をこする。
しかし、もう一度見てみると、そこにいるのは相変わらずの豚の顔なのであった。
「おやすみルイズ。いい夢をみな」
「……おやすみ、ポルコ」
ルイズはばたんと扉を閉めた。
おわり
うまく寝付けない夜には、ルイズは使い魔のところにいく。
魔法学院の中庭には、ミスタ・コルベールが建ててくれた工房があり、ルイズの召喚した使い魔は毎日そこで作業をしているのだ。
寝巻きにマントを引っ掛けた格好で、ルイズはそっと階段を降り、中庭に出た。案の定、工房にはこうこうと明かりがついていた。
しゅ……しゅ……と、木に鉋をかける心地の良い音が聞こえてくる。ルイズはその音を聞きたくて、足しげく工房に通うのかもしれない。
ランプにぼんやりと照らし出されながら、ルイズの使い魔は作業をしていた。
入ってきたルイズに気がついて、使い魔が顔を上げた。
「……どうした。眠れねえのか」
「うん……ちょっとね」
「今夜は少し冷えるから、毛布でもかぶってな」
「……うん」
使い魔の差し出す毛布にルイズは包まった。使い魔の邪魔にならないように隅に腰を下ろし、ぼんやりとルイズは工房を見渡した。
大き目の掘っ立て小屋のような工房には、様々な木でできた部品が並べられている。ミスタ・コルベールが手伝って『錬金』で造った部品もたくさんあった。
溶接の作業には、最近すっかりルイズの使い魔と仲良くなったギーシュが担当しているようだった。
(……はじめは、決闘でワルキューレにぼこぼこに殴られていたのにね)
くす、とルイズは微笑む。小型のオークのような外見に反して、使い魔はからっきし弱くて、ギーシュのゴーレムにまったく勝てなかった。
顔を二倍ぐらいに腫らした使い魔のために秘薬を探したのも、今となってはいい思い出である。
黒いメガネをかけたキザな使い魔。なるほど、どこかギーシュに似てるかもしれなかった。
(それにしても……)
ルイズはあらためて使い魔の造っている『船』を見た。すらりとした船体はハルケギニアのそれとはずいぶん違っている。
火竜のブレスのように真っ赤に塗られているそれは、見れば見るほど奇妙だった。
何より、帆がない船なんてあるだろうか? 使い魔は、宝物庫で見つけた『えんじん』というのを使えば、必ず飛ぶと言うけれど。
ルイズは一息ついてタバコ(巻きタバコというらしい)を鼻からくゆらす使い魔に声をかける。
「ねえ、本当にこんな船が飛ぶの……? 風石も魔法もなしに浮かぶなんて、なんだか信じられないわ……」
「……俺の世界じゃ魔法がねえからな。みんなこうして造るのさ。前に……俺の戦闘艇を造ったのは、おまえさんと同い年の娘だったぜ、ルイズ」
「ふぅん……」
どんな子だろう、とルイズは毛布にあごを埋めた。自分と同い年でこんな船を造った娘がいる。
まだ自分は魔法一つ使えないのに。でも、使い魔の世界では魔法を使える人間はいないらしい。
「その娘もオークなの?」
何気なく聞いてみたのだが、使い魔は大きな口をあけて笑い出してしまった。なにやら見当違いのことを言ったらしい。ルイズの顔が赤くなる。
「はあっはっはっは……! フィ、フィオがオークだと……? はっはっはあ……! こりゃいい、フィオに聞かせてやりたいぜ……!」
「いいわよ……。何も笑わなくてもいいじゃない……」
すねるルイズに、使い魔はにやりと笑ってみせた。
「いいや……俺の世界でも人間は人間さ……魔法が使えない以外は全部こっちと同じだ。俺だけさ、魔法がかかってるのはな。
フィオは美人だ。おまえさんみたいにな、ルイズ」
「嘘ばっかり……」
使い魔が自分はオークではなく人間だというので、タバサに頼んで解除魔法をかけてもらったこともある。結果は変化なしだったが。
「人間の世界に飽きただけさ」と笑う使い魔は、どこまで本気かわからなかった。
今夜の仕事は終わりなのか、使い魔は道具をしまい、工房の窓を閉める。ルイズも毛布をかぶったまま立ち上がった。
使い魔は工房にベッドを作り、普段はそこで寝ているのだ。
工房を出るとき、ルイズは使い魔を振り返った。
「ねえ……その『飛行機』が完成したら、それで、本当に飛んだら……」
「飛ぶさ。飛ばねぇ豚はただの豚だ」
「……私も乗せてくれる? その『飛行機』に」
「もちろんだ」
使い魔はランプに手を伸ばした。火を吹き消そうとして、思いついたようにルイズを見つめた。
「だが……飛行機に乗せる前に、一つだけ約束だ、お嬢さん」
「なに……?」
「夜更かしはするな。睡眠不足はいい仕事の敵だ。それに美容にも悪いしな……。さ、もう寝てくれ」
「もう、また子供扱いして……」
「いいや、大人だからさ」
ルイズはぷっと頬を膨らませた。こういう仕草が子供っぽいのだと自分でも気がついているのだが。
使い魔は黒メガネを外し、ふっとランプを吹き消した。明かりが消える一瞬――使い魔の顔が、人間の顔に見えて、ルイズはごしごしと目をこする。
しかし、もう一度見てみると、そこにいるのは相変わらずの豚の顔なのであった。
「おやすみルイズ。いい夢をみな」
「……おやすみ、ポルコ」
ルイズはばたんと扉を閉めた。
おわり
-「紅の豚」のポルコ・ロッソを召喚
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