ゼロのしもべ14 - (2007/07/15 (日) 19:45:58) の1つ前との変更点
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14話
トリステイン魔法学院は大混乱に陥っていた。
フーケが巨大化して分裂して完全武装集団になり略奪したというのはまだいいほうで、カクカク移動して至近距離で話しかけてくる4人組がさいごのかぎというマジックアイテムで開けて無許可で持ち出しただとか、空に浮かぶ雲まで盗むという元公儀お庭番・
伝説の盗賊『雲盗り暫平』が盗んだであるとか、オーバーマン『ジンバ』が盗んだであるとか、噂が噂を呼んでどれが真実であるか全く判断できぬというありさまであった。
さらにはそこに「幽霊を見た」「大塩平八郎が挙兵して大阪大炎上」「黒船に乗ってペリーが来た」「沈黙のコックが歩いていた」
「白面のものを見た」「身体が溶ける黒豹を見た」「沙耶かわいいよ沙耶」だのいうわけのわからぬ虚言妄言が飛び交い、現場はどんどん収拾がつかなくなっていっていた。
急遽収集された教師が揃っても混乱は収まらず、乳を揉まれるものや尻を触られるもの太股を舐められるもの襲われるものと、輪をかけて散々であった。というかこれは全部同一人物の仕業である。
しれっとした表情で、曖昧から覚醒し場を仕切るオールド・オスマンその人である。
彼の「とにかく実際に犯行を目撃した人間を呼んで来い!」という鶴の一声で、ルイズはじめキュルケ、タバサの3名が召喚された。
もっともバビル2世もいたのだが、使い魔ということで数には入れられていない。
「ふむ……、君たちか。」
興味深そうに、オスマンはバビル2世を見つめた。とても先ほどまで曖昧だったとは思えない。そんな老人にじろじろ見られ、バビル2世は困惑していた。困惑というか、迷惑であった。
『なぜぼくをじろじろ見ているのだろう?』
少年愛の気もあるのか!?偉い人は普通じゃ満足できなくなるって言うしなあ、と自衛のために心を読もうとすると、
「詳しく説明したまえ」
と抜群のタイミングで気を外された。
偶然だろうか?偶然でなければ、この老人は只者ではない。
ルイズが進み出て包み隠さず見たままを述べる。
現れたゴーレム。一撃で砕かれた塔。黒尽くめのメイジ。抱えていた何か。痕跡を残さず逃げたこと。
どよどよと教師がざわめく。それは盗みという行為にではなく、あの強固な魔法をかけた宝物庫の外壁を苦もなく破壊するようなゴーレムを操るメイジに対してのざわめきである。メイジであるからこそのざわめき、と言い換えてもよい。
「後を追おうにも、手がかりはナシというわけか…」
それからオスマンは気づいたようにコルベールに尋ねた。
「ときにミス・ロングビルはどうしたね?」
「それがその…、朝から姿が見えませんで」
「この非常時にどこへ行ったのじゃ?」
「どこなんでしょ?」
もっともオスマン以外のその場にいた人間は皆、あんたのセクハラから逃げるためにばっくれてんじゃないの?と思っていた。
正確には結構な人間がすでにいないことに気づいていたが不憫に思ってあえて触れていなかったのだ。
むしろ空気を読めジジイとさえ思っている人間すら居た。
そこに、まるで舞台袖で順番待ちをしていた若手漫才師のように、当のロング・ビルが現れた。
「ミス・ロングビル!どこに行ってたんですか!大変ですぞ!事件ですぞ!」
興奮した調子でまくし立てるコルベール。しかしロングビルは落ち着き払い、オスマンにこう告げた。
「遅れて申し訳ありません。急いで逃亡した土くれのフーケの調査をしていましたもので」
おお、とどよめく一同。
「仕事が早いの、ミス・ロングビル。」
「昼、突然ゴーレムが現れて宝物庫を破壊して悠々と逃げていくじゃありませんか。これはおそらく何者かが宝物庫から
何かを盗んだのと判断しまして、すぐに調査を開始しました。そして帰ってきてどうやら賊は土くれのフーケらしいと知ったのです。」
「で、結果は?」促すコルベール。声が裏返りそうだ。
「はい、フーケの居所が解りました」
「「「な、なんだってー!?」」」
並んで座る3人の教師が素っ頓狂な声を上げて驚く。ちなみに名前は…言う必要はないだろう。イニシャルはN、I、Tである。
「誰に聞いたんじゃね? ミス・ロングビル」
「はい。近在の農民に聞き込んだところ、近くの森の廃屋に入っていった黒ずくめのローブの男を見たそうです。恐らく彼はフーケで
廃屋はフーケの隠れ家ではないかと。」
ルイズが叫んだ。
「黒ずくめのローブ? それはフーケです! 間違いありません。」
オスマンが目を鋭くして、ロングビルに問うた。
「そこは近いのかね?」
「はい。徒歩で半日。馬で四時間といったところでしょうか」
「すぐに王宮に報告しましょう!」
コルベールが叫ぶ。それにオスマンが首を横に振ろうとしたところで……
「待ってください。」
と、バビル2世が手を挙げた。テレパシーと声を併用した、思わず振り返るような声であった。
「なにかの?」
と首を横に振りかけたオスマンが止まり、尋ねる。教師たちもバビル2世がおまけでついてきているということを忘れているようだ。
「先ほどから皆さんの意見を伺っていると、どうもフーケが単独犯だという前提で話を進められているように思うのですが。
もしも複数犯であったとしたらどうされるのでしょうか?」
あっと息を呑む一同。
「た、たしかに……」
「男か女かもわかっていない上、顔を隠しているのだ。入れ替わっていても見分けはつかない…」
「おまけに今までの犯行は、あるときは白昼堂々押し入ったり、またあるときはひそかに盗み出したりと一環性がないと言えばない。」
「もし、複数人がチームを組んで行っているとすれば、そのチームのカラーが犯行内容に影響を与えているとも考えられる。」
「ゴーレムにしてもそうだ。我々はヴァリエール嬢の証言を鵜呑みにし、上に乗っていた黒ローブこそがフーケだと考えていたが、それは囮であり、ゴーレムの術者自体は別にいて、盗む人間と破壊する人間というように役割分担をしていたとも考えられる。」
「そして複数ならば、学院に潜入して何食わぬ顔で情報を収集できる。その後実行犯が行動に移ればよいのだからな。」
「となりますと……」ロングビルが続ける。
「わたくしが手に入れた情報も怪しくなりますわね?」
ロングビル、すなわちフーケは内心ほくそ笑んでいた。会議はあの少年のおかげで思わぬ方向に転がっている。
このまま複数犯説が通れば逆に警戒を突破しやすくなる。突破すれば気づいたところで後の祭りだ。
ただ、心残りはあの少年である。バビル2世、とあの白仮面は呼んでいたが、いったい何者なのだろうか?
最後のボーナスは儲けそこなったが元々金はそんなに目的としていない。破壊の杖を手に入れただけでよしとしよう。
ほくそ笑むフーケは気づいていなかった。バビル2世の瞳が、燃えるように光っていたことに。
「その通りじゃな。近在の農民とやらがフーケ一味でないとは言い切れぬ。情報かく乱の可能性が高い。我々がそちらへ捜索隊を送りでもすれば逆方向から逃げられかねん。」
「もう一つ、憂慮すべきことがあります。」
「なんじゃね?」
素直にバビル2世の言葉に反応するオスマン。他の教師も誰一人として「使い魔のくせに口を出すな」などと言わない。
バビル2世が使い魔であるということなど皆忘れてしまったかのようであった。
「フーケが、本当にただの盗賊なのか――ということです。」
「な、なんじゃと!?」
素っ頓狂な声を上げるオスマン。全く想像していなかった台詞だったのだろう。他の教師も、ルイズやキュルケもざわざわと声をあげる。
それを制し、今度は落ち着いた声で問うオスマン。
「どういうことじゃな?」
「フーケの行動が、盗賊としてはあまりに腑に落ちない点があるということです。最後に挑戦的なメッセージを残していくのもそうですが、ゴーレムを使うことといい、まるで世間に自分を誇示しているような…。もっと言えばわざと世間の注目を集めようとしているような感じがするのです。盗賊にとって、目立つということにメリットなどないでしょう。掴まえてくれと言っているようなものです。」
ジッとバビル2世を見ているフーケ。こいつ、いったい何が言いたいのだ。
「逆に言えば、そうやって目立つということにメリットがあるということです。」
「うむ、そうとも考えられるの。では、そのメリットとは?」
「それについては、まず僕の質問に答えていただきたいんですが。オスマン院長、小耳に挟んだことですが、アンエリッタ姫殿下がこの学院に行幸されるというのは本当でしょうか?」
うっ、と息を呑むオスマン。なぜそのことを知っているのだ!?
「……たしかに、まだ予定も予定だが、ゲルマニアご訪問の岐路、光栄にも我が学院を見学されたい、という姫殿下の意思があると、内密にだが宮内庁から話があった。まあ、未定も未定、どうなるかまあったく、さあっぱりわかっていない、というやつじゃな。
うわっはっはっはっはっはっ。まあ、もし本決まりになれば、大変名誉なことじゃ。学院の全精力をもってこれに当たらねばならんだろう。」
豪快に笑ってごまかしながら、オスマンは激しい衝撃を受けていた。この話は朝早く、顔見知りのメイジからこっそり打診があったことで知るものはオスマンのほか数名もいない。そんな話をいつのまに得ていたのか。これもガンダールブの力だというのか。
ざわつきどよめく教師たち。当然だろう、まだ仮の仮段階とはいえ、この国の姫が来訪するかもしれないのだ。浮き足立つなと言うほうが無理である。ある意味でフーケの件よりもショックは大きい。
そしてその中でひときわ大きなショックを受けている少女がいた。
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールであった。
姫様が来るんだ。姫様が、姫様が……。浮かんでは消える懐かしい思い出と、姫様の顔。
もはや他のことなど完全に頭から飛んでしまっていた。フーケのことなど消えて片隅にもない。
全員が正気に戻されたのはオスマンの咳払いと、「この件は超極秘事項なので、他言は無用。誰かにしゃべると厳罰処分じゃ。」
という一言であった。
「―――で、それがどうしたというのじゃな?フーケとなんの関係が?」
「わかりませんか?もしぼくがフーケならば、この機会に間違いなく暗殺を企みます。」
思わず立ち上がるオスマン。椅子から転げ落ちそうなショックを受けている教師多数。ルイズに至っては……腰が抜けていた。
「考えてもみてください。フーケはわざと目立つ行動をとっている。警察や軍隊は威信にかけてもフーケを捕まえようとするでしょう。
となればフーケ捜索や逮捕のために人員を割く必要が出てきます。その分、王族への警備は薄くなります。」
真っ青になっている教師が数名。神に祈るような格好をしている教師が数名。キュルケは……いつもに似合わず神妙にしていた。
「仮に複数犯だとすれば、さらに犯行は容易になるでしょう。窃盗で目を引くチームと、暗殺チームに分かれておけばいいのです。
暗殺決行日前後に派手に暴れまわればそちらに嫌でも人間の目が向きます。その隙を突いて暗殺をする……。」
呆然と宙を見つめる教師がいる。タバサは……暗殺、という言葉に思うところがあるのか、いつにない表情をしていた。
「ひょっとすればフーケ一味の窃盗は全て今回の破壊の杖を盗むためにあったのかもしれません。破壊の杖だけを盗めばそれを使って暗殺や大規模テロを企んでいるのではないかと怪しまれるでしょう。
しかし、マジックアイテム狙いの盗賊という印象を世間に植えつけておけばよもや暗殺こそが真の目的であるとは誰も行き当たらないはず。
そう考えて今までの犯行をしていたとすれば恐るべき知能犯であると同時に、背後に大規模な組織が控えている可能性も指摘できます。」
「なんというやつらだ…」「カモフラージュのためにそこまでやるか」「お、恐ろしい…」という声が沸きあがる。
顔から血の気が完全に引き、土気色になったオスマンが苦しげに呟く。
「我が学院から盗まれたマジックアイテムで暗殺などされては、教員はおろか生徒すら存在が抹消されるかも知れん…」
場の空気が凍りつく。
「なんとしても破壊の杖を取り戻さねば!」
「いや、フーケ一味の誰か一人でもを捕らえて、拷問にかけ全貌を白状させるべきです!」
「なにはともあれ王宮に連絡を!」
怒号にも似た声が飛び交う中、フーケ本人は……半分死んでいた。
なぜ気づいたらこんなことに。いつのまにかただの盗賊が王族暗殺を画策するテロ組織の一員にされ、国家の大重犯罪人にされてしまっているじゃないか。
自分は暗殺などノミの足の先ほども企んだことがないのに、今にも縛り首が当然な扱い。
なんて理不尽なんだ。いや縛り首ですめばいいほうだ。この勢いだとのこぎり首にされてもおかしくない。それも拷問にかけられたあげくのことだ。
ああ、今すぐフーケはそんな大物じゃないですあくまでけちな小物の盗人に過ぎませんよ、と言ってやりたい。
しかしそんなことを言えば「……ング…」どうしてそんなことが言えるんだどうしてわ「……ロ…グビ……」かるんだと言われて即座にフーケとばれ「るだろうそうなったらあっとい「…ス…ロ…グビ……?」うまに捕まって弁解などで「ミス…ング…ル!…」
きずに拷問の末無理矢理白状させられて殺されるんだろう嫌だ死ぬのは嫌だ死ぬのは嫌だ考えなければいけない考えるんだ目で考える耳で考える鼻で考えるってこれは餓狼伝じゃないかなにをやっているんだ私は落ち着け落ち着くんだ落ち着かないといけ
「ミス・ロングビル!?」
「ああ、はい!丹波文七が脱糞しました!!」「な、何を言ってるんだ!?大丈夫ですか?ずいぶん苦しそうだっでしたが…」
フーケことロングビルが気づくと、全員の視線が集中してきていた。コルベールなど心配そうに下から覗き込んでいる。
「ずいぶん苦しそうでしたが、大丈夫ですか?」
「は、はい……あまりの事態に気が動転して……なんという恐ろしいことでしょう。」
よよよ、と崩れ落ちるロングビル。他人事ではなく恐ろしい。
コルベールがここぞとばかり近寄り、「大丈夫です!暗殺犯はかならず捕らえて見せます!」と息巻く。いや、捕まってしまうほうが恐ろしくてたまらない。
捕まえて欲しくない。つーか暗殺犯って、まだ何もして無いのにすでに実行したことになっているのはどういうことだ。
このハゲが、死ね!死んであの世でわび続けろ!毛を毟ってやろうかハゲ田ハゲ蔵が!
「……それで、ビッグ・ファイアくんと言ったね。きみはどうすべきだと思うかね。」
糞ジジイがこの現状の元凶に問いかけている。もうしゃべるな!というかしゃべらないでください!おねがい、何も言わないで!
「そうですね。フーケが学院内部に潜入していると仮定すれば、生徒や職員、教員の中に潜んでいる可能性が高いでしょう。」
ギョッとお互いの顔を見合わせる。フーケは泣きたくなった。
「ですから、この学園の内部を徹底的に洗いなおすことが先決ではないかと。それに、ぼくはフーケなら破壊の杖を学院内に隠すでしょう。警戒の目がなくなって悠々と運び出せばよいのですから。それにターゲットがやってくるかもしれない。
学院内はせまい通路もありますから、警備の数はさらに限定されます。持ち込む必要がなく事前に隠せる、さらに暗殺しやすい。
ならば逆に持ち出す前に破壊の杖を見つけ出し、その上で王宮にこのことを連絡すべきでしょう。」
「破壊の杖捜索は常に数名が固まって行うべきでしょうな。」
「それなら万一フーケが混ざっていても対処できるだろう。それで行こう。」
「王宮への使いはどうする?」
「定期連絡に伝えればよかろう。」
わいわいと今後の対策が練られていく。フーケは右から左に、上の空である。
「ところで――近くの森の廃屋とやらはどうする?」
誰かが思い出し呟いた。
全員が一斉にバビル2世を見る。促されるように、
「最少人数で偵察に行ってはどうでしょう?かならずしも欺瞞とは限らないですから。」
「誰か立候補は?我と思うものは杖を……と言うても、誰がフーケ一味かわからぬ現時点では、下手に外に出して杖を持ち出されでもすれば一大事…。ここは一つ、諸君に頼まれてくれるかの?」
オスマンが立ち上がり、ルイズたちの元へ寄って肩をたたく。
「で、ですが…その3名は生徒―――」
「じゃが事件発生時に学院外にいて、かつ事件を目撃というアリバイがあるのはこの3名のみ。心配ならば誰かが補佐についていけばよい。その上、ミス・タバサは若くしてシュヴァリエの称号を持つ騎士だと聞いているが?」
タバサは返事もせずにぼけっと突っ立っている。
教師達は驚いたようにタバサを見つめた。
「本当なの?タバサ」
キュルケも驚いている。爵位としては最下級であるが、タバサの年で与えられたというのはただごとではない。おまけにシュヴァリエは他の爵位と異なり、純粋な業績に対してのみ与えられる、いわば実力の称号なのだ。
「ミス・ツェルプストーはゲルマニアの優秀な軍人を数多く輩出した家系の出で、彼女自身の炎の魔法も、かなり強力と聞いているが?」
キュルケは得意げに髪をかき上げた。
さて次はルイズが自分の番だとばかりにかわいらしく胸を張る。オスマンは必死に褒める場所を探した。
こほん、と咳払いをし、目を合わさず、
「その……、ミス・ヴァリエールは数々の優秀なメイジを輩出したヴァリエール公爵家の息女で、その、うむ、なんだ、将来有望なメイジと聞いておる。 しかもその使い魔は!」
ここではたと気がつき、固まった。この会議を実質振り回し、決定してきたのは他でもないこの使い魔ではないか。
本当にガンダールブなのだろうか?むしろ孔明の間違いじゃないのか?
「…もはやなにもいうことはなかろう。諸君らも納得だと思うが。」
頷く一同。異論を唱えるものなどいなかった。一名を除いて。
「お待ちください、オールド・オスマン!」
ロングビルが立ち上がって叫んだ。
「ならば私が補佐として行きましょう。最初にこの話を持ってきたのは私です。最後まで責任を果たす必要があります!」
こうなってはあの小屋に隠してある破壊の杖をどうにかしなければ。ただ消滅させては延々捜査は続き気の休まる暇もないだろう。
ここは元に戻すのが最善策。どうせフーケ一味など存在しないのだ。自分は逃げられるに決まっている。
それに……。フーケはバビル2世を睨む。
あの男のせいでちびりそうになってしまったのだ。このお礼は必ずしてやる。そうだ、あの小屋に誘い込んでヴァリエールともども
踏み潰してやれば良い。他の二人はかわいそうだが道連れだ。シュヴァリエだというがビッグ・ゴールドに勝てるはずがない。
私をここまで怖がらせた罰だ。散々苦しんで死ぬが良い。
すっかり悪役な思考を放つようになったロングビルことフーケを、バビル2世は黙って見つめていた。
14話
トリステイン魔法学院は大混乱に陥っていた。
フーケが巨大化して分裂して完全武装集団になり略奪したというのはまだいいほうで、カクカク移動して至近距離で話しかけてくる4人組がさいごのかぎというマジックアイテムで開けて無許可で持ち出しただとか、空に浮かぶ雲まで盗むという元公儀お庭番・
伝説の盗賊『雲盗り暫平』が盗んだであるとか、オーバーマン『ジンバ』が盗んだであるとか、噂が噂を呼んでどれが真実であるか全く判断できぬというありさまであった。
さらにはそこに「幽霊を見た」「大塩平八郎が挙兵して大阪大炎上」「黒船に乗ってペリーが来た」「沈黙のコックが歩いていた」
「白面のものを見た」「身体が溶ける黒豹を見た」「沙耶かわいいよ沙耶」だのいうわけのわからぬ虚言妄言が飛び交い、現場はどんどん収拾がつかなくなっていっていた。
急遽収集された教師が揃っても混乱は収まらず、乳を揉まれるものや尻を触られるもの太股を舐められるもの襲われるものと、輪をかけて散々であった。というかこれは全部同一人物の仕業である。
しれっとした表情で、曖昧から覚醒し場を仕切るオールド・オスマンその人である。
彼の「とにかく実際に犯行を目撃した人間を呼んで来い!」という鶴の一声で、ルイズはじめキュルケ、タバサの3名が召喚された。
もっともバビル2世もいたのだが、使い魔ということで数には入れられていない。
「ふむ……、君たちか。」
興味深そうに、オスマンはバビル2世を見つめた。とても先ほどまで曖昧だったとは思えない。そんな老人にじろじろ見られ、バビル2世は困惑していた。困惑というか、迷惑であった。
『なぜぼくをじろじろ見ているのだろう?』
少年愛の気もあるのか!?偉い人は普通じゃ満足できなくなるって言うしなあ、と自衛のために心を読もうとすると、
「詳しく説明したまえ」
と抜群のタイミングで気を外された。
偶然だろうか?偶然でなければ、この老人は只者ではない。
ルイズが進み出て包み隠さず見たままを述べる。
現れたゴーレム。一撃で砕かれた塔。黒尽くめのメイジ。抱えていた何か。痕跡を残さず逃げたこと。
どよどよと教師がざわめく。それは盗みという行為にではなく、あの強固な魔法をかけた宝物庫の外壁を苦もなく破壊するようなゴーレムを操るメイジに対してのざわめきである。メイジであるからこそのざわめき、と言い換えてもよい。
「後を追おうにも、手がかりはナシというわけか…」
それからオスマンは気づいたようにコルベールに尋ねた。
「ときにミス・ロングビルはどうしたね?」
「それがその…、朝から姿が見えませんで」
「この非常時にどこへ行ったのじゃ?」
「どこなんでしょ?」
もっともオスマン以外のその場にいた人間は皆、あんたのセクハラから逃げるためにばっくれてんじゃないの?と思っていた。
正確には結構な人間がすでにいないことに気づいていたが不憫に思ってあえて触れていなかったのだ。
むしろ空気を読めジジイとさえ思っている人間すら居た。
そこに、まるで舞台袖で順番待ちをしていた若手漫才師のように、当のロング・ビルが現れた。
「ミス・ロングビル!どこに行ってたんですか!大変ですぞ!事件ですぞ!」
興奮した調子でまくし立てるコルベール。しかしロングビルは落ち着き払い、オスマンにこう告げた。
「遅れて申し訳ありません。急いで逃亡した土くれのフーケの調査をしていましたもので」
おお、とどよめく一同。
「仕事が早いの、ミス・ロングビル。」
「昼、突然ゴーレムが現れて宝物庫を破壊して悠々と逃げていくじゃありませんか。これはおそらく何者かが宝物庫から
何かを盗んだのと判断しまして、すぐに調査を開始しました。そして帰ってきてどうやら賊は土くれのフーケらしいと知ったのです。」
「で、結果は?」促すコルベール。声が裏返りそうだ。
「はい、フーケの居所が解りました」
「「「な、なんだってー!?」」」
並んで座る3人の教師が素っ頓狂な声を上げて驚く。ちなみに名前は…言う必要はないだろう。イニシャルはN、I、Tである。
「誰に聞いたんじゃね? ミス・ロングビル」
「はい。近在の農民に聞き込んだところ、近くの森の廃屋に入っていった黒ずくめのローブの男を見たそうです。恐らく彼はフーケで
廃屋はフーケの隠れ家ではないかと。」
ルイズが叫んだ。
「黒ずくめのローブ? それはフーケです! 間違いありません。」
オスマンが目を鋭くして、ロングビルに問うた。
「そこは近いのかね?」
「はい。徒歩で半日。馬で四時間といったところでしょうか」
「すぐに王宮に報告しましょう!」
コルベールが叫ぶ。それにオスマンが首を横に振ろうとしたところで……
「待ってください。」
と、バビル2世が手を挙げた。テレパシーと声を併用した、思わず振り返るような声であった。
「なにかの?」
と首を横に振りかけたオスマンが止まり、尋ねる。教師たちもバビル2世がおまけでついてきているということを忘れているようだ。
「先ほどから皆さんの意見を伺っていると、どうもフーケが単独犯だという前提で話を進められているように思うのですが。
もしも複数犯であったとしたらどうされるのでしょうか?」
あっと息を呑む一同。
「た、たしかに……」
「男か女かもわかっていない上、顔を隠しているのだ。入れ替わっていても見分けはつかない…」
「おまけに今までの犯行は、あるときは白昼堂々押し入ったり、またあるときはひそかに盗み出したりと一環性がないと言えばない。」
「もし、複数人がチームを組んで行っているとすれば、そのチームのカラーが犯行内容に影響を与えているとも考えられる。」
「ゴーレムにしてもそうだ。我々はヴァリエール嬢の証言を鵜呑みにし、上に乗っていた黒ローブこそがフーケだと考えていたが、それは囮であり、ゴーレムの術者自体は別にいて、盗む人間と破壊する人間というように役割分担をしていたとも考えられる。」
「そして複数ならば、学院に潜入して何食わぬ顔で情報を収集できる。その後実行犯が行動に移ればよいのだからな。」
「となりますと……」ロングビルが続ける。
「わたくしが手に入れた情報も怪しくなりますわね?」
ロングビル、すなわちフーケは内心ほくそ笑んでいた。会議はあの少年のおかげで思わぬ方向に転がっている。
このまま複数犯説が通れば逆に警戒を突破しやすくなる。突破すれば気づいたところで後の祭りだ。
ただ、心残りはあの少年である。バビル2世、とあの白仮面は呼んでいたが、いったい何者なのだろうか?
最後のボーナスは儲けそこなったが元々金はそんなに目的としていない。破壊の杖を手に入れただけでよしとしよう。
ほくそ笑むフーケは気づいていなかった。バビル2世の瞳が、燃えるように光っていたことに。
「その通りじゃな。近在の農民とやらがフーケ一味でないとは言い切れぬ。情報かく乱の可能性が高い。我々がそちらへ捜索隊を送りでもすれば逆方向から逃げられかねん。」
「もう一つ、憂慮すべきことがあります。」
「なんじゃね?」
素直にバビル2世の言葉に反応するオスマン。他の教師も誰一人として「使い魔のくせに口を出すな」などと言わない。
バビル2世が使い魔であるということなど皆忘れてしまったかのようであった。
「フーケが、本当にただの盗賊なのか――ということです。」
「な、なんじゃと!?」
素っ頓狂な声を上げるオスマン。全く想像していなかった台詞だったのだろう。他の教師も、ルイズやキュルケもざわざわと声をあげる。
それを制し、今度は落ち着いた声で問うオスマン。
「どういうことじゃな?」
「フーケの行動が、盗賊としてはあまりに腑に落ちない点があるということです。最後に挑戦的なメッセージを残していくのもそうですが、ゴーレムを使うことといい、まるで世間に自分を誇示しているような…。もっと言えばわざと世間の注目を集めようとしているような感じがするのです。盗賊にとって、目立つということにメリットなどないでしょう。掴まえてくれと言っているようなものです。」
ジッとバビル2世を見ているフーケ。こいつ、いったい何が言いたいのだ。
「逆に言えば、そうやって目立つということにメリットがあるということです。」
「うむ、そうとも考えられるの。では、そのメリットとは?」
「それについては、まず僕の質問に答えていただきたいんですが。オスマン院長、小耳に挟んだことですが、アンエリッタ姫殿下がこの学院に行幸されるというのは本当でしょうか?」
うっ、と息を呑むオスマン。なぜそのことを知っているのだ!?
「……たしかに、まだ予定も予定だが、ゲルマニアご訪問の岐路、光栄にも我が学院を見学されたい、という姫殿下の意思があると、内密にだが宮内庁から話があった。まあ、未定も未定、どうなるかまあったく、さあっぱりわかっていない、というやつじゃな。
うわっはっはっはっはっはっ。まあ、もし本決まりになれば、大変名誉なことじゃ。学院の全精力をもってこれに当たらねばならんだろう。」
豪快に笑ってごまかしながら、オスマンは激しい衝撃を受けていた。この話は朝早く、顔見知りのメイジからこっそり打診があったことで知るものはオスマンのほか数名もいない。そんな話をいつのまに得ていたのか。これもガンダールヴの力だというのか。
ざわつきどよめく教師たち。当然だろう、まだ仮の仮段階とはいえ、この国の姫が来訪するかもしれないのだ。浮き足立つなと言うほうが無理である。ある意味でフーケの件よりもショックは大きい。
そしてその中でひときわ大きなショックを受けている少女がいた。
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールであった。
姫様が来るんだ。姫様が、姫様が……。浮かんでは消える懐かしい思い出と、姫様の顔。
もはや他のことなど完全に頭から飛んでしまっていた。フーケのことなど消えて片隅にもない。
全員が正気に戻されたのはオスマンの咳払いと、「この件は超極秘事項なので、他言は無用。誰かにしゃべると厳罰処分じゃ。」
という一言であった。
「―――で、それがどうしたというのじゃな?フーケとなんの関係が?」
「わかりませんか?もしぼくがフーケならば、この機会に間違いなく暗殺を企みます。」
思わず立ち上がるオスマン。椅子から転げ落ちそうなショックを受けている教師多数。ルイズに至っては……腰が抜けていた。
「考えてもみてください。フーケはわざと目立つ行動をとっている。警察や軍隊は威信にかけてもフーケを捕まえようとするでしょう。
となればフーケ捜索や逮捕のために人員を割く必要が出てきます。その分、王族への警備は薄くなります。」
真っ青になっている教師が数名。神に祈るような格好をしている教師が数名。キュルケは……いつもに似合わず神妙にしていた。
「仮に複数犯だとすれば、さらに犯行は容易になるでしょう。窃盗で目を引くチームと、暗殺チームに分かれておけばいいのです。
暗殺決行日前後に派手に暴れまわればそちらに嫌でも人間の目が向きます。その隙を突いて暗殺をする……。」
呆然と宙を見つめる教師がいる。タバサは……暗殺、という言葉に思うところがあるのか、いつにない表情をしていた。
「ひょっとすればフーケ一味の窃盗は全て今回の破壊の杖を盗むためにあったのかもしれません。破壊の杖だけを盗めばそれを使って暗殺や大規模テロを企んでいるのではないかと怪しまれるでしょう。
しかし、マジックアイテム狙いの盗賊という印象を世間に植えつけておけばよもや暗殺こそが真の目的であるとは誰も行き当たらないはず。
そう考えて今までの犯行をしていたとすれば恐るべき知能犯であると同時に、背後に大規模な組織が控えている可能性も指摘できます。」
「なんというやつらだ…」「カモフラージュのためにそこまでやるか」「お、恐ろしい…」という声が沸きあがる。
顔から血の気が完全に引き、土気色になったオスマンが苦しげに呟く。
「我が学院から盗まれたマジックアイテムで暗殺などされては、教員はおろか生徒すら存在が抹消されるかも知れん…」
場の空気が凍りつく。
「なんとしても破壊の杖を取り戻さねば!」
「いや、フーケ一味の誰か一人でもを捕らえて、拷問にかけ全貌を白状させるべきです!」
「なにはともあれ王宮に連絡を!」
怒号にも似た声が飛び交う中、フーケ本人は……半分死んでいた。
なぜ気づいたらこんなことに。いつのまにかただの盗賊が王族暗殺を画策するテロ組織の一員にされ、国家の大重犯罪人にされてしまっているじゃないか。
自分は暗殺などノミの足の先ほども企んだことがないのに、今にも縛り首が当然な扱い。
なんて理不尽なんだ。いや縛り首ですめばいいほうだ。この勢いだとのこぎり首にされてもおかしくない。それも拷問にかけられたあげくのことだ。
ああ、今すぐフーケはそんな大物じゃないですあくまでけちな小物の盗人に過ぎませんよ、と言ってやりたい。
しかしそんなことを言えば「……ング…」どうしてそんなことが言えるんだどうしてわ「……ロ…グビ……」かるんだと言われて即座にフーケとばれ「るだろうそうなったらあっとい「…ス…ロ…グビ……?」うまに捕まって弁解などで「ミス…ング…ル!…」
きずに拷問の末無理矢理白状させられて殺されるんだろう嫌だ死ぬのは嫌だ死ぬのは嫌だ考えなければいけない考えるんだ目で考える耳で考える鼻で考えるってこれは餓狼伝じゃないかなにをやっているんだ私は落ち着け落ち着くんだ落ち着かないといけ
「ミス・ロングビル!?」
「ああ、はい!丹波文七が脱糞しました!!」「な、何を言ってるんだ!?大丈夫ですか?ずいぶん苦しそうだっでしたが…」
フーケことロングビルが気づくと、全員の視線が集中してきていた。コルベールなど心配そうに下から覗き込んでいる。
「ずいぶん苦しそうでしたが、大丈夫ですか?」
「は、はい……あまりの事態に気が動転して……なんという恐ろしいことでしょう。」
よよよ、と崩れ落ちるロングビル。他人事ではなく恐ろしい。
コルベールがここぞとばかり近寄り、「大丈夫です!暗殺犯はかならず捕らえて見せます!」と息巻く。いや、捕まってしまうほうが恐ろしくてたまらない。
捕まえて欲しくない。つーか暗殺犯って、まだ何もして無いのにすでに実行したことになっているのはどういうことだ。
このハゲが、死ね!死んであの世でわび続けろ!毛を毟ってやろうかハゲ田ハゲ蔵が!
「……それで、ビッグ・ファイアくんと言ったね。きみはどうすべきだと思うかね。」
糞ジジイがこの現状の元凶に問いかけている。もうしゃべるな!というかしゃべらないでください!おねがい、何も言わないで!
「そうですね。フーケが学院内部に潜入していると仮定すれば、生徒や職員、教員の中に潜んでいる可能性が高いでしょう。」
ギョッとお互いの顔を見合わせる。フーケは泣きたくなった。
「ですから、この学園の内部を徹底的に洗いなおすことが先決ではないかと。それに、ぼくはフーケなら破壊の杖を学院内に隠すでしょう。警戒の目がなくなって悠々と運び出せばよいのですから。それにターゲットがやってくるかもしれない。
学院内はせまい通路もありますから、警備の数はさらに限定されます。持ち込む必要がなく事前に隠せる、さらに暗殺しやすい。
ならば逆に持ち出す前に破壊の杖を見つけ出し、その上で王宮にこのことを連絡すべきでしょう。」
「破壊の杖捜索は常に数名が固まって行うべきでしょうな。」
「それなら万一フーケが混ざっていても対処できるだろう。それで行こう。」
「王宮への使いはどうする?」
「定期連絡に伝えればよかろう。」
わいわいと今後の対策が練られていく。フーケは右から左に、上の空である。
「ところで――近くの森の廃屋とやらはどうする?」
誰かが思い出し呟いた。
全員が一斉にバビル2世を見る。促されるように、
「最少人数で偵察に行ってはどうでしょう?かならずしも欺瞞とは限らないですから。」
「誰か立候補は?我と思うものは杖を……と言うても、誰がフーケ一味かわからぬ現時点では、下手に外に出して杖を持ち出されでもすれば一大事…。ここは一つ、諸君に頼まれてくれるかの?」
オスマンが立ち上がり、ルイズたちの元へ寄って肩をたたく。
「で、ですが…その3名は生徒―――」
「じゃが事件発生時に学院外にいて、かつ事件を目撃というアリバイがあるのはこの3名のみ。心配ならば誰かが補佐についていけばよい。その上、ミス・タバサは若くしてシュヴァリエの称号を持つ騎士だと聞いているが?」
タバサは返事もせずにぼけっと突っ立っている。
教師達は驚いたようにタバサを見つめた。
「本当なの?タバサ」
キュルケも驚いている。爵位としては最下級であるが、タバサの年で与えられたというのはただごとではない。おまけにシュヴァリエは他の爵位と異なり、純粋な業績に対してのみ与えられる、いわば実力の称号なのだ。
「ミス・ツェルプストーはゲルマニアの優秀な軍人を数多く輩出した家系の出で、彼女自身の炎の魔法も、かなり強力と聞いているが?」
キュルケは得意げに髪をかき上げた。
さて次はルイズが自分の番だとばかりにかわいらしく胸を張る。オスマンは必死に褒める場所を探した。
こほん、と咳払いをし、目を合わさず、
「その……、ミス・ヴァリエールは数々の優秀なメイジを輩出したヴァリエール公爵家の息女で、その、うむ、なんだ、将来有望なメイジと聞いておる。 しかもその使い魔は!」
ここではたと気がつき、固まった。この会議を実質振り回し、決定してきたのは他でもないこの使い魔ではないか。
本当にガンダールヴなのだろうか?むしろ孔明の間違いじゃないのか?
「…もはやなにもいうことはなかろう。諸君らも納得だと思うが。」
頷く一同。異論を唱えるものなどいなかった。一名を除いて。
「お待ちください、オールド・オスマン!」
ロングビルが立ち上がって叫んだ。
「ならば私が補佐として行きましょう。最初にこの話を持ってきたのは私です。最後まで責任を果たす必要があります!」
こうなってはあの小屋に隠してある破壊の杖をどうにかしなければ。ただ消滅させては延々捜査は続き気の休まる暇もないだろう。
ここは元に戻すのが最善策。どうせフーケ一味など存在しないのだ。自分は逃げられるに決まっている。
それに……。フーケはバビル2世を睨む。
あの男のせいでちびりそうになってしまったのだ。このお礼は必ずしてやる。そうだ、あの小屋に誘い込んでヴァリエールともども
踏み潰してやれば良い。他の二人はかわいそうだが道連れだ。シュヴァリエだというがビッグ・ゴールドに勝てるはずがない。
私をここまで怖がらせた罰だ。散々苦しんで死ぬが良い。
すっかり悪役な思考を放つようになったロングビルことフーケを、バビル2世は黙って見つめていた。
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