「ゼロの夢幻竜-07」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
ゼロの夢幻竜-07 - (2009/02/04 (水) 14:15:35) の1つ前との変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
#navi(ゼロの夢幻竜)
ルイズにとっては訳が分からなかった。
遅刻したらしいメイドが突然使い魔の声で話し出したら誰だって驚く。
それ以前に、使い魔が人語を解する点、そして尚且つ意思疎通できるという点でこの学院の人間は大方驚くとは思うだろうが。
取り敢えず人間に化けられるという事を前提にして説明を求めた。
それによると、シエスタというメイドと知り合いになった彼女は、洗濯を済ませた後食堂の位置を訊いて大急ぎでこの本塔へとやって来たとの事であった。
その話に一応は納得するものの、メイド姿のままでは流石に不味い。
そう思ったルイズはラティアスに、一旦外で元の姿に戻ってからここに来なさいと促した。
メイドことラティアスは上機嫌になって一旦外に出るが、数秒の後には元の姿に戻ってルイズの元に戻ってきた。
その時一瞬にして食堂にいる大方の者達がどよめく。
小型ながらにして風竜以上の飛行速度を誇るラティアスは、召喚された使い魔としては昨日の内に噂のネタになっていたからだ。
その様子に上機嫌のルイズは床に幾つかの料理の乗った一枚の皿を下ろす。
それを見たラティアスは喜んでそれに食べ始める。
その様子に昨日までの鬱屈とした日々への決別を感じたルイズであった。
食事が終われば授業が待っている。
ルイズはラティアスを連れてこの日最初の授業が行われる教室へと入る。
その瞬間、それまで雑談の声しか聞こえなかったそこは一転してしんと静まり返った。
その様子がルイズにとっては面白くて仕方が無い。
昨日までは何かと嘲笑が絶えなかったものだが今は違う。
こんな立派な使い魔を召喚出来たのだから、そうそう文句を言える者などいるまい。
そんなルイズの感情はお構い無しに、ラティアスはルイズを次々に質問攻めにした。
「ご主人様。私みたいにういているあの目の玉は何ですか?」
「あれはバグベアーって言うのよ。」
「じゃあ、あの生き物は?」
「あれはスキュア……ってラティアス、今はちょっと質問しないで。私一人が見えない誰かを相手に喋ってるみたいに見えるから。」
そうルイズに小声で言われ、ラティアスは慌てて閉口する。
だがその様子は既に数名の生徒に見られていたらしく、教室の何処かからくすくす笑いが起きていた。
ルイズが席の一つについたのと同時に、いかにも魔法使いといった雰囲気を纏った女性が教室に入ってくる。
優しい感じも覗かせる彼女は、生徒達のいる席をぐるっと見回してから満足そうに言った。
「皆さん。春の使い魔召喚は大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に様々な使い魔達を見るのが楽しみなのですよ。」
そこでシュヴルーズ女史の目はルイズの隣にいるラティアスへと行く。
「中でもミス・ヴァリエールは興味深い生き物を召喚しましたね。風竜か、或いは珍種の鳥か。何れにせよその翼の力は、私達の間でも噂になっていますよ。」
ルイズは澄ました顔をして少しだけ胸を張る。
「この子にはそれ以上の能力があります!」と言って変身や超能力見せたりするのを我慢するのが、当人にとってはかなりきつい事ではあったが。
その時教室の一角にいたマリコルヌが冷やかす様に口を開く。
「ゼロのルイズ!『フライ』も『レビテーション』も出来ないからって、まさかその都度その使い魔の厄介になるのかい?空を飛んで遠くへ速く飛ぶ事なんて風竜だって出来るぞ!」
その言葉が不味かった。ルイズは立ち上がり、長い桃髪を揺らしながら怒鳴る。
「違うわ!きちんと召喚して『サモン・サーヴァント』も成功出来たもの!それに只の使い魔よりずうっとこの子の方が役に立つもの!!」
「じゃあそのご自慢の使い魔は一体何の能力に長けてるんだよ?只の使い魔より役に立つんだろ、ずうっと!」
それを言われてルイズは黙るしか他無くなる。
その様子に教室のあちこちから笑いが起きた。
が、それは直ぐに全員の心にいきなり聞こえてきた怒鳴り声で瞬く間に収まる。
「ご主人様をバカにしないでっ!!」
しんと静まり返った教室の中では誰もがお互いの顔を見合わせた。
それから直ぐに多くの生徒が頭や耳の辺りをこんこんと叩き始める。
いきなり聞こえてきたそれはルイズにもしっかりと聞き取る事が出来た。
そして恐る恐る隣を見ると、床から数十サントの所で滞空しているラティアスが、教室にいる全員に向けて怒りの表情を向けていた。
「何やってるのよ!」という当惑の表情をラティアスに向けるが、彼女は全く気にする事も無く表情も変える事が無い。
それを見てルイズは初めて彼女に対して頭を抱えた。
やがて何時までもざわつきが収まらない生徒達に向かってシュヴルーズはぴしゃりと言い放った。
「静かになさい!何が起きたかは知りませんが、授業はとっくに始まっているのですよ!」
その言葉にほぼ生徒の全員がえっ?という表情で教壇に立つシュヴルーズを凝視する。
その視線にシュヴルーズは半瞬、何事?と思うが、直ぐにコホンと一つ咳払いをして言う。
「では、授業を再開します。」
その言葉を合図に授業は何の滞りも無く殆ど淡々と進行し始める。
魔法の四大系統の説明に始まり、『錬金』魔法の実演、そしてメイジのレベルを測る基準。
教室の生徒は皆それを真剣に聴いている……ようで内心は全く別の事に気を取られていた。
自分達の心に直接怒鳴り込んできたあの声は一体何なのか。
そして、何故ミセス・シュヴルーズは気づいていないのか。
その全ての答えはルイズのみが知っていた。
彼女にははっきりと分かる。
自分は勿論の事、自分に対してとてもよくしてくれている主人をも散々馬鹿にされた事に腹を立てたラティアスが、笑っていた教室内の生徒にだけ焦点を当てて怒鳴りつけたのだと。
ラティアスの気持ちが分からない訳でもない。
自分だってそれ相応に腹が立っていたからなのは言うまでも無い。
ただ幾らなんでも先程の行動は正直勘弁してほしかった。
意思疎通の事を話していない人間に対し、一方的にそれをされた場合における困惑の度合いは、ラティアスと初めて会った時に経験済みだからだ。
だが、ルイズは自分の心の裡で『意思疎通は二人だけの秘密』にしたい願望があったのかな、と薄ぼんやりと思う。
でなければ、教室にいる皆にそれを快く説明していたであろうからだ。
そう思っているとシュヴルーズから声がかかった。
「ミス・ヴァリエール!あなたにやって貰いましょう。」
「あ、えーと……すみません、何でしょうか?」
「私の話をきちんと聞いていたのですか?ここにある石ころを使って望む金属に変えてごらんなさい。」
困ったルイズが立ち上がれずにその場で戸惑っていると、ラティアスが意思疎通をしてきた。
「頑張って下さい、ご主人様!さっき笑った人達を見返すいい機会ですよ!」
その言葉に意を決し、ルイズは席を立って教壇に向かい歩き始めた。
が、直ぐに近くの席にいたキュルケが小声で咎める様に言った。
「ルイズ、お願いだからやめて!ミセス・シュヴルーズは今年初めて私達をもつのよ!あんたの爆発がどれ程危険か知らない……」
そこで彼女は言葉を切った。
自分に向けられている異様なまでの殺気を感じたからである。
ふとルイズが座っていた席の方を見ると、彼女の使い魔が愛らしい面立ちには似合わないほどの鋭い形相でキュルケを睨め付けていた。
その様子に彼女は気に喰わないわねと思いながらも、ふとある懸念を心に持った。
もしかして……さっきの声はあの使い魔が?
「馬鹿みたい、我ながら考えすぎね……」
そう呟き、ああ疲れたといった感じで髪を掻き上げる。
が、それは直ぐに自分の考え過ぎでない事が証明される。
何故か?答えがその本人から直接返って来たからだ。
「考えすぎな訳無いわ……熱そうなお姉さん。」
その言葉にキュルケはぎょっとしてもう一度ルイズの使い魔を見る。
相変わらず自分の方を見ていたが、気のせいか先程より鋭さが増した様にも思える。
それから周りを改めて見ると、今度は自分以外誰も反応していない。
冗談じゃないわ……まさか本当に?
キュルケはとかく気味が悪くなったので慌てて目を逸らした。
が、その声は彼女の意思を無視して更に続いた。
「目を逸らしてもちゃんと聞こえてるでしょう?惚けても駄目よ。」
「いい加減にして!」
そうキュルケが言い放つのと全く同時に黒板の前にある机が大爆発した。
その勢いは凄まじく前方にある机という机はひっくり返り、窓ガラスには小さくひびが入る。
教科書の類は空中を舞い、羊皮紙はあちこちへ飛んでいく。
また突如発生した爆発に、教室中の使い魔達がギャアギャアと暴れだした。
教室は阿鼻叫喚の様子を呈していた。
そして騒ぎを収める筈のシュヴルーズも仰向けになって気絶している。
その爆発の原因であるルイズは煙が晴れた後、所々衣服が破れている事も気にしていないのか懐からハンカチを取り出して煤を払いながら言う。
「ちょっと失敗したみたいね。」
さらっと放たれたその言葉に教室のあちこちから怒号が飛び出す。
「ちょっとじゃないだろう!ゼロのルイズ!!」
「いつだって成功の確率殆どゼロじゃないかよ!」
「ああ、もう!ヴァリエールは退学にしてくれよ!!」
「俺のラッキーが蛇に喰われたじゃないか!ラッキー!!」
纏める者がいない為に一向に騒ぎは収まる気配は無い。
そんな中、ラティアスはルイズの側まで飛んで行き優しく声をかける。
「ご主人様!大丈夫ですか?!」
その問いかけに彼女は小声で誰にも聞こえない様に答える。
「大丈夫よ。それよりさっき私の許し無しに勝手に意思疎通やったでしょ?みんなには私が上手く誤魔化しておくから、後でこの部屋の片付け私と一緒にやりなさいよ。いいわね?」
「は、はい……」
ラティアスはすっかりしょげかえる。
しかし遠くからその様子を見ていたキュルケは遂に確信した。
ルイズの使い魔は只の竜崩れの使い魔ではない事を……
#navi(ゼロの夢幻竜)
#navi(ゼロの夢幻竜)
ルイズにとっては訳が分からなかった。
遅刻したらしいメイドが突然使い魔の声で話し出したら誰だって驚く。
それ以前に、使い魔が人語を解する点、そして尚且つ意思疎通できるという点でこの学院の人間は大方驚くとは思うだろうが。
取り敢えず人間に化けられるという事を前提にして説明を求めた。
それによると、シエスタというメイドと知り合いになった彼女は、洗濯を済ませた後食堂の位置を訊いて大急ぎでこの本塔へとやって来たとの事であった。
その話に一応は納得するものの、メイド姿のままでは流石に不味い。
そう思ったルイズはラティアスに、一旦外で元の姿に戻ってからここに来なさいと促した。
メイドことラティアスは上機嫌になって一旦外に出るが、数秒の後には元の姿に戻ってルイズの元に戻ってきた。
その時一瞬にして食堂にいる大方の者達がどよめく。
小型ながらにして風竜以上の飛行速度を誇るラティアスは、召喚された使い魔としては昨日の内に噂のネタになっていたからだ。
その様子に上機嫌のルイズは床に幾つかの料理の乗った一枚の皿を下ろす。
それを見たラティアスは喜んでそれに食べ始める。
その様子に昨日までの鬱屈とした日々への決別を感じたルイズであった。
食事が終われば授業が待っている。
ルイズはラティアスを連れてこの日最初の授業が行われる教室へと入る。
その瞬間、それまで雑談の声しか聞こえなかったそこは一転してしんと静まり返った。
その様子がルイズにとっては面白くて仕方が無い。
昨日までは何かと嘲笑が絶えなかったものだが今は違う。
こんな立派な使い魔を召喚出来たのだから、そうそう文句を言える者などいるまい。
そんなルイズの感情はお構い無しに、ラティアスはルイズを次々に質問攻めにした。
「ご主人様。私みたいにういているあの目の玉は何ですか?」
「あれはバグベアーって言うのよ。」
「じゃあ、あの生き物は?」
「あれはスキュア……ってラティアス、今はちょっと質問しないで。私一人が見えない誰かを相手に喋ってるみたいに見えるから。」
そうルイズに小声で言われ、ラティアスは慌てて閉口する。
だがその様子は既に数名の生徒に見られていたらしく、教室の何処かからくすくす笑いが起きていた。
ルイズが席の一つについたのと同時に、いかにも魔法使いといった雰囲気を纏った女性が教室に入ってくる。
優しい感じも覗かせる彼女は、生徒達のいる席をぐるっと見回してから満足そうに言った。
「皆さん。春の使い魔召喚は大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に様々な使い魔達を見るのが楽しみなのですよ。」
そこでシュヴルーズ女史の目はルイズの隣にいるラティアスへと行く。
「中でもミス・ヴァリエールは興味深い生き物を召喚しましたね。風竜か、或いは珍種の鳥か。何れにせよその翼の力は、私達の間でも噂になっていますよ。」
ルイズは澄ました顔をして少しだけ胸を張る。
「この子にはそれ以上の能力があります!」と言って変身や超能力見せたりするのを我慢するのが、当人にとってはかなりきつい事ではあったが。
その時教室の一角にいたマリコルヌが冷やかす様に口を開く。
「ゼロのルイズ!『フライ』も『レビテーション』も出来ないからって、まさかその都度その使い魔の厄介になるのかい?空を飛んで遠くへ速く飛ぶ事なんて風竜だって出来るぞ!」
その言葉が不味かった。ルイズは立ち上がり、長い桃髪を揺らしながら怒鳴る。
「違うわ!きちんと召喚して『サモン・サーヴァント』も成功出来たもの!それに只の使い魔よりずうっとこの子の方が役に立つもの!!」
「じゃあそのご自慢の使い魔は一体何の能力に長けてるんだよ?只の使い魔より役に立つんだろ、ずうっと!」
それを言われてルイズは黙るしか他無くなる。
その様子に教室のあちこちから笑いが起きた。
が、それは直ぐに全員の心にいきなり聞こえてきた怒鳴り声で瞬く間に収まる。
「ご主人様をバカにしないでっ!!」
しんと静まり返った教室の中では誰もがお互いの顔を見合わせた。
それから直ぐに多くの生徒が頭や耳の辺りをこんこんと叩き始める。
いきなり聞こえてきたそれはルイズにもしっかりと聞き取る事が出来た。
そして恐る恐る隣を見ると、床から数十サントの所で滞空しているラティアスが、教室にいる全員に向けて怒りの表情を向けていた。
「何やってるのよ!」という当惑の表情をラティアスに向けるが、彼女は全く気にする事も無く表情も変える事が無い。
それを見てルイズは初めて彼女に対して頭を抱えた。
やがて何時までもざわつきが収まらない生徒達に向かってシュヴルーズはぴしゃりと言い放った。
「静かになさい!何が起きたかは知りませんが、授業はとっくに始まっているのですよ!」
その言葉にほぼ生徒の全員がえっ?という表情で教壇に立つシュヴルーズを凝視する。
その視線にシュヴルーズは半瞬、何事?と思うが、直ぐにコホンと一つ咳払いをして言う。
「では、授業を再開します。」
その言葉を合図に授業は何の滞りも無く殆ど淡々と進行し始める。
魔法の四大系統の説明に始まり、『錬金』魔法の実演、そしてメイジのレベルを測る基準。
教室の生徒は皆それを真剣に聴いている……ようで内心は全く別の事に気を取られていた。
自分達の心に直接怒鳴り込んできたあの声は一体何なのか。
そして、何故ミセス・シュヴルーズは気づいていないのか。
その全ての答えはルイズのみが知っていた。
彼女にははっきりと分かる。
自分は勿論の事、自分に対してとてもよくしてくれている主人をも散々馬鹿にされた事に腹を立てたラティアスが、笑っていた教室内の生徒にだけ焦点を当てて怒鳴りつけたのだと。
ラティアスの気持ちが分からない訳でもない。
自分だってそれ相応に腹が立っていたからなのは言うまでも無い。
ただ幾らなんでも先程の行動は正直勘弁してほしかった。
意思疎通の事を話していない人間に対し、一方的にそれをされた場合における困惑の度合いは、ラティアスと初めて会った時に経験済みだからだ。
だが、ルイズは自分の心の裡で『意思疎通は二人だけの秘密』にしたい願望があったのかな、と薄ぼんやりと思う。
でなければ、教室にいる皆にそれを快く説明していたであろうからだ。
そう思っているとシュヴルーズから声がかかった。
「ミス・ヴァリエール!あなたにやって貰いましょう。」
「あ、えーと……すみません、何でしょうか?」
「私の話をきちんと聞いていたのですか?ここにある石ころを使って望む金属に変えてごらんなさい。」
困ったルイズが立ち上がれずにその場で戸惑っていると、ラティアスが意思疎通をしてきた。
「頑張って下さい、ご主人様!さっき笑った人達を見返すいい機会ですよ!」
その言葉に意を決し、ルイズは席を立って教壇に向かい歩き始めた。
が、直ぐに近くの席にいたキュルケが小声で咎める様に言った。
「ルイズ、お願いだからやめて!ミセス・シュヴルーズは今年初めて私達をもつのよ!あんたの爆発がどれ程危険か知らない……」
そこで彼女は言葉を切った。
自分に向けられている異様なまでの殺気を感じたからである。
ふとルイズが座っていた席の方を見ると、彼女の使い魔が愛らしい面立ちには似合わないほどの鋭い形相でキュルケを睨め付けていた。
その様子に彼女は気に喰わないわねと思いながらも、ふとある懸念を心に持った。
もしかして……さっきの声はあの使い魔が?
「馬鹿みたい、我ながら考えすぎね……」
そう呟き、ああ疲れたといった感じで髪を掻き上げる。
が、それは直ぐに自分の考え過ぎでない事が証明される。
何故か?答えがその本人から直接返って来たからだ。
「考えすぎな訳無いわ……熱そうなお姉さん。」
その言葉にキュルケはぎょっとしてもう一度ルイズの使い魔を見る。
相変わらず自分の方を見ていたが、気のせいか先程より鋭さが増した様にも思える。
それから周りを改めて見ると、今度は自分以外誰も反応していない。
冗談じゃないわ……まさか本当に?
キュルケはとかく気味が悪くなったので慌てて目を逸らした。
が、その声は彼女の意思を無視して更に続いた。
「目を逸らしてもちゃんと聞こえてるでしょう?惚けても駄目よ。」
「いい加減にして!」
そうキュルケが言い放つのと全く同時に黒板の前にある机が大爆発した。
その勢いは凄まじく前方にある机という机はひっくり返り、窓ガラスには小さくひびが入る。
教科書の類は空中を舞い、羊皮紙はあちこちへ飛んでいく。
また突如発生した爆発に、教室中の使い魔達がギャアギャアと暴れだした。
教室は阿鼻叫喚の様子を呈していた。
そして騒ぎを収める筈のシュヴルーズも仰向けになって気絶している。
その爆発の原因であるルイズは煙が晴れた後、所々衣服が破れている事も気にしていないのか懐からハンカチを取り出して煤を払いながら言う。
「ちょっと失敗したみたいね。」
さらっと放たれたその言葉に教室のあちこちから怒号が飛び出す。
「ちょっとじゃないだろう!ゼロのルイズ!!」
「いつだって成功の確率殆どゼロじゃないかよ!」
「ああ、もう!ヴァリエールは退学にしてくれよ!!」
「俺のラッキーが蛇に喰われたじゃないか!ラッキー!!」
纏める者がいない為に一向に騒ぎは収まる気配は無い。
そんな中、ラティアスはルイズの側まで飛んで行き優しく声をかける。
「ご主人様!大丈夫ですか?!」
その問いかけに彼女は小声で誰にも聞こえない様に答える。
「大丈夫よ。それよりさっき私の許し無しに勝手に意思疎通やったでしょ?みんなには私が上手く誤魔化しておくから、後でこの部屋の片付け私と一緒にやりなさいよ。いいわね?」
「は、はい……」
ラティアスはすっかりしょげかえる。
しかし遠くからその様子を見ていたキュルケは遂に確信した。
ルイズの使い魔は只の竜崩れの使い魔ではない事を……
シュヴルーズが意識を取り戻す事無く医務室に担ぎ込まれる異様な形で、ルイズ達新二学年一発目の授業は終わった。
その後めちゃくちゃになった教室の後片付けはその場にいた生徒全員一致でルイズ一人がする事となった。
しかしその直後、キュルケが自ら後片付けメンバーの一人に加わると言い出した時、ルイズは内心で『あーあ……』と思ってしまった。
その後シュヴルーズ、そして他の生徒や全員教室から出たのを確認したキュルケは残されたルイズとその使い魔、ラティアスに対し一つの質問を投げかけた。
「舞台は整ったわね……さあ、説明してもらうわよ。私の心に一度ならず二度も三度も話しかけてきた可愛い声の持ち主はだあれ?」
そう言った後彼女は一旦あさっての方向を向き、それからラティアスの方を向き直し意地悪な微笑みを浮かべてこう言い直す。
「訂正。人の心をとーっても不愉快にした、不躾で可愛い声のあなたはなあに?」
本塔の最上階にある学院長室に急いで向かう一人の教師の姿が一つあった。
その教師の名はジャン・コルベール。
春の使い魔召喚の儀においてルイズ達を監督していた教師である。
専門分野は火系統。学院で奉職し始めてから今年で丁度20年は経つ中堅の教師だった。
今彼の心には自分が発見したある事実についての興奮が渦巻いていた。
ミス・ヴァリエールが召喚した使い魔の左手に彫られたルーンはやはり只のルーンではなかった。
スケッチした物を手懸かりに学院の図書館、それも教師のみが閲覧を許される区域でその正体を調べていると丁度その答えに当たったのである。
それは正に驚くべき真実という物に他ならなかった。
一刻も早く学院長であるオールド・オスマン氏にこの事を伝えなければ!
その衝動に突き動かされる彼の足は只ひたすらに速く動かされる。
「失礼します!オールド・オスマン!!」
学院長室に飛び込んだ彼はその場で一気に硬直してしまう。
というのも、その部屋の中ではオールド・オスマンの秘書、ミス・ロングビルが当の彼を蹴り続けていたからである。
大方使い魔を使ったいつもの下着覗きがばれたのだろう。
だが突然の闖入者に気づいた二人は定位置につき、何事も無かったかのよう落ち着き払った姿勢を見せる。
そしてオスマン氏は先程の事は何でも無かったという様に威厳に満ちた声で対応する。
「一体何事じゃ?そんなに慌てて。」
「た、た、た、大変です!」
「大変な事等何もありはせんわ。全ては小事じゃぞ。」
「ここ、これを見てください!小事どころではありません!」
コルベールは図書館から持ち出してきた書物のある一ページを拡げる。
「『始祖ブリミルの使い魔達』?やれやれ、こういった古臭い文献を読み漁っている暇があるのなら弛んだ貴族の親達からもっと学費を徴収する上手い手を考える事じゃ、ミスタ……」
「コルベールです!お忘れですか!」
「そうそう。そんな名前だったな。君はどうも早口でいかん。で、コルベール君。この書物がどうかしたのかね?」
「これも同時に見ていただければ私の慌て様も少しは分かっていただけるかと……とにかくこの文献と共にご覧になって下さい!」
コルベールはラティアスの左手に現れたルーンのスケッチを手渡す。
それを見た瞬間、オスマン氏の表情は急に真剣なものとなった。
「ミス・ロングビル。少しの間だけ席を外してくれんかね?」
そう言われるとミス・ロングビルは立ち上がり、一礼をした後で退室していった。
オスマン氏はその直ぐ後で一応『ディティクト・マジック』を使う。
そして自分とコルベール以外、学院長室の近辺には誰もいない事を確認するとゆっくりと口を開いた。
「確かにこれなら君がこれ程までに急ぐ理由も分かるのう。それでは、詳しい説明をして頂こうかの、ミスタ・コルベール?」
「はー。速く飛べるだけじゃないとは思っていたけど、まさかそんな力と素性があるなんてねえ。」
感心するキュルケを余所にルイズは未だぶすっとした表情のまま、メイド達に交じってデザート運びをやっているラティアスを遠くから見つめる。
知り合いになったシエスタに、折角お友達になったんだから何か手伝える事がありますかと訊いたところそうなったのだ。
ただ、例の意思疎通の問題がある故に、側にはシエスタが殆ど付きっきりという形になってしまっているが。
さて、めちゃくちゃになった教室の片付けを始める際、キュルケに問い詰められたルイズはラティアスの不始末と気づいていながらも最初の内はしらばくれていた。
が、どんどんと言い訳が出来なくなり、最終的にはラティアスの正直な申告もあって彼女にある程度の事実を話した。
キュルケは家同士の仇敵という事も忘れて、興味深そうにルイズに話しかける。
「そう考えたらラティアスって凄過ぎない?正直あまりよくは知らないけど韻竜と同じ位かそれ以上の能力の持ち主じゃなくて?ちょっとあんたには勿体無い位だわ。」
韻竜……その単語にルイズはほんの少しばかり興味を持つ。
学科試験はいつも良い成績を修められるようにしっかり勉強しているからこそ反応できたものだ。
因みに韻竜とは伝説の古代竜で強力な幻獣の一種とされている生き物だ。
知能が高く、言語感覚に優れ、先住魔法を操るという技能を持っていたとされる。
確かにラティアスは、あっという間にこちらの世界における最低限の知識を呑み込んでいった。
また口と声帯を使った音声機能を使って会話する事は出来ないが、それよりある意味上等な意思疎通術を使って心を許した者と心を継げる事も出来る。
韻竜以上の物を持っている事もまた事実だ。
本気を出せば現実に存在する風竜の何倍もの速度で飛ぶ事が出来るのは言わずもがな、今もしている人間形態への変身がそれに当たる。
ある程度の技量を持った水系統を操るメイジが、自分の姿を偽るという事はよく聞く話である。
だが大きさの違う別種の生き物に姿を変えるという芸当は聞いた事が無い。
スクウェアクラスのメイジでも匙を投げかねない事である。
おまけに普通は変身する相手そのままの姿にしか変身しか出来ない。
が、ラティアスの変身は幾つかの情報を処理し、自身で組み替え直す事によって全く新しい姿を仮の姿として相手に投影出来る点が一般の変身とは一線を画していた。
おまけに服まで構成できるそうなのでいちいち着替えるという事も無いのだとか。
魔法の如何についてはまだまだ未知数の域を出ないが、これ程の仕様があるのだからそれなりの力があると断じても悪くは無いだろう。
「勿体無い訳無いじゃない。あんたとそこにいるサラマンダーの組み合わせ以上に相応しいわよ!」
「ふふっ、あんたさ、それって遠回しに自分が失敗ばっかりだって自覚してるって事になるんじゃない?使い魔がとてつもなく優秀であんた自身がどうしようもない……」
『ゼロ』だと言おうとしてそれは無しになる。
キュルケの側に悲しさとほんの僅かな怒りを表情に織り交ぜた、人間形態のラティアスがいつの間にか立っていたからだ。
一応さっき彼女は自分の非礼を詫びたが、人間の言葉が分かる為に意思疎通を許したキュルケにとっては今のところちょっとした頭痛の種だった。
「ご主人様は勉強熱心でとても素敵な方です。私にとてもよくしてくれているご主人様を貶める事は私が許しません。」
静かに放たれるその言葉にキュルケはひらひらと手を振って応じる。
「ちょっと……少しは落ち着きなさいよ。冗談に決まってるでしょ、冗談!」
「……なら構いませんが……あなたともしお相手する時が来れば私は全身全霊を没頭させます。」
その発言にキュルケは『面白いじゃない』という表情を見せる。
ラティアスはその場から数歩歩み去ろうとする。
その途中首だけをくるりとキュルケの方に向け言い放った。
「あなたは相当な使い手……後れは取りません……」
あさっての方向を見て『ハイハイ』といい加減な返事をしていたキュルケはやや間があってからはっとした。
たった今ラティアスは自分の事を相当な使い手と言いきった。
自分の名前を教えはしたが、相当な‘魔法の’使い手だという事は教えてはいない。
事実彼女は火系統のトライアングルクラスだが、それを誰かに言った事は無い。
じゃあ何故ラティアスはそれに気づいたのか?
自分の力を予見した?だとしてもおかしい。
理由はラティアスに自分が魔法を使うところを見せていないからだ。
考えれば考えるほど思考のどん詰まりに行きそうになるので、キュルケは軽く片手で頭を支える。
「ルイズ。」
「何よ。」
そのあくまでもぶっきらぼうな物言いに、キュルケは溜め息一つを吐いて言った。
「あんた、本ッ当にトンでもないものを召喚してくれたわね……」
ラティアスはキュルケと向き合って心底機嫌が悪かったが、シエスタに促されて再び笑顔を取り戻した。
おまけにどこそこのテーブルに行けばその姿の可愛さを褒められる事がある。
喋らない事もその事を引き立てるのに一役かった。
彼女の可愛さに惚れ込んだ男子学生の数名が自分の専属にしようと躍起になっている様も確認できる。
その内、『彼女は酷い過去でも送って口がきけなくなってしまったのだろう。僕が何とかしてみせる!』と、勝手な事を想定して息巻く者達まで現れだした。
困ったなあ、と思いつつ空になった銀のトレイを持っていると、向こう側から数人の男子学生が歩いて来たのが見えた。
中心にいるのは金色の巻き髪をし、薔薇をシャツのポケットに挿している気障そうな少年―ギーシュだ。
ギーシュの周囲にいる者達が彼を次々に冷やかす。
「なあ、ギーシュ!お前、今は誰とつきあっているんだよ?!」
「誰が恋人なんだ?ギーシュ!」
その質問に当の彼は唇の前に指を立てつつ答える。
「つきあう?僕にその様な特定の女性はいないのだ。薔薇は多くの人を楽しませる為に咲くのだからね。」
その言葉にラティアスは悪い意味でぶるっと身震いをする。
雌の自分が見ていて、聞いていて恥ずかしくなる台詞のオンパレード。
例え自分が人間でも恋愛対象としては御免被りたい。
と、その時彼のポケットから何かが落ちる。
ガラスで出来た小壜らしく、中では目が覚めるほど鮮やかに煌く紫色の液体が揺れていた。
後で無くなった事に気づいたら流石に彼とて困るだろう。
ラティアスはその小壜を拾った後、近くにいたシエスタを意思疎通で呼んでからギーシュの側まで行く。
「これはこれは。何の用かなメイド君達?」
相変わらず気障な物言いだが、ラティアスは無言で小壜をギーシュの前に差し出した。
「あなたの落し物だそうです。」
シエスタはラティアスの口となり、彼女が思っている事を伝える。
するとギーシュの表情は途端に曇りその小壜を押しやる。
「これは僕のじゃないよ。他の誰かの物じゃないかな?」
だがラティアスはまたも無言で押しやられた小壜をギーシュにつき返した。
「この子があなたの服にあるポケットから落ちるのを見ていたようです。間違いないと。」
「僕のじゃないと言っている。と言うか右の君、どうして何も喋らないんだい?」
シエスタの言葉を少々イラついて答えるギーシュ。
その時、その小壜の出所に気づいたらしい彼の友人の一人が大声でそれを指摘した。
「おっ?!その香水はもしやモンモランシーの香水じゃないのか?」
「そうだ!その鮮やかな紫色は、モンモランシーが自分の為だけに調合している香水だぞ!」
「そいつが、ギーシュ、お前のポケットから落っこちたって事はつまり君の今のお相手は『香水』のモンモランシーだな?!」
「おいおい、君達。それは違う。彼女の名誉の為に言っておくが……」
途端にギーシュはつい言いよどんでしまう。
近くからつかつかとやって来た栗色の髪をした可愛い少女が、彼の眼前にやって来てぼろぼろと泣き出したからだ。
「ギーシュ様、やはりミス・モンモランシーと……」
「彼らは誤解しているだけだよ、ケティ。いいかい?僕の心に住んでいるのは君だけ……」
ギーシュはその先を言う事が出来なかった。
ケティと呼ばれた少女が先に返事をしたからである。
返事といっても平手打ちという痛い返事だったが。
「その香水があなたのポケットから出てきたのが何よりの証拠ですわ!さようなら!」
それを捨て台詞としたのか彼女は彼に背を向けてすたすたとその場を後にした。
しかし彼の痛い目がこれで終わった訳ではない。
ギーシュが頬をさすっていると、遠くの席から幾つもの金髪の巻き毛が映える少女が立ち上がり、鋭い踵の音を響かせながら彼の元までやって来る。
そして怒りの顔もかくやといった感じでギーシュを睨みつけた。
「誤解だ、モンモランシー。彼女とはただラ・ロシェールの森まで遠乗りしただけで……」
「ギーシュ……やっぱりあの一年生に手を出していたのね?!」
冷や汗を浮かべるギーシュだったが、怒りに燃える彼女の前では最早どんな言い訳も用を成さない。
「お願いだよ。『香水』のモンモランシー。咲き誇る薔薇の様な顔をその様な怒りで歪ませないでくれよ。僕まで悲しくなるじゃないか!」
そこでギーシュの弁明は終わりを告げた。
モンモランシーは手近にあった殆ど手のつけられていないワインの壜を握り、中身をギーシュの頭の上からかける。
中身が空を迎えた時、彼女はその壜をダンッと乱暴に近くに置き怒鳴った。
「嘘吐き!!!」
そして彼女もその場からさっさと立ち去っていった。
ギーシュは暫く呆然としていたが、直ぐに何も無かったかのようにハンカチを取り出してゆっくりと顔を拭く。
更に首を振りつつ、芝居がかかった口調でこんな事まで言い出した。
「あのレディ達は薔薇の存在の意味を理解していないようだ。」
一部始終を見ていたラティアスは流石に呆れてこう思う。馬鹿らしいと。
シエスタと一緒に仕事に戻ろうと厨房の方まで行く。
すると後ろから今しがたの騒ぎの原因、ギーシュに呼び止められた。
「待ちたまえ。右側のメイド君。君が軽率に香水の壜なんかを拾い上げたおかげで、二人のレディの名誉が傷ついた。どうしてくれるんだい?」
呼び止められたのが自分だと気付いたラティアスはシエスタの制止も聞かずにゆっくりと振り向きこう言った。
「何ですって?もう一度言ってごらんなさい。女の子泣かせさん!」
#navi(ゼロの夢幻竜)
表示オプション
横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: