時の使い魔-03 - (2010/03/07 (日) 01:54:28) の1つ前との変更点
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食堂に移動し、昼食を摂る。ルイズは相変わらず豪勢な食事だが、
時の君は朝と変わらず質素な食事なので食べ終わりにタイムラグが出る。
「時の君の食事ももうちょっと何とかしないとね。
まあ従順だし、ご主人様としてこれくらいのご褒美はあげないと。」
朝に聞いた生命力云々の話もそうだが、これからは魔法の事で教えを請わないといけない。
食事くらいちゃんとしてやらないと罰が当たりそうだ。
「そうか、…ん?」
そういうと時の君は立ち上がり、歩き出していく。
「ちょ、ちょっとどこ行くのよ?」
少し歩いたところで立ち止まり、しゃがみこむとすぐに戻ってきた。
「この壜が落ちていた。捨てた訳ではあるまい、誰か落としたんじゃないか?」
「ちょっと貸して。ん、この色はモンモランシーの香水ね、ほら、あそこに金髪で巻き
髪の子がいるでしょ?あの子のよ。渡してきてくれる?」
時の君へ壜を渡すと、モンモランシーの下へスタスタと歩いていった。
この間に食事を終わらせないと…時の君に術を見せてもらう約束がある。場所はどこがいいだろう?
ヴェストリの広場がいいだろうか?広さもあるし丁度いいだろう。
「落し物だ。」
モンモランシーが食事を摂っていると、目の前に妖魔と噂される男が現れ、何か液体の入った壜を突き出している。おもわず食事の手を止め、呆然とした。
「お前の物じゃないのか?落ちていたぞ。」
「へ?あ、ああ確かに私の壜だわ。あ、ありがとう。」
手渡すと、用はそれだけであったのだろう、すぐに目の前から立ち去っていく。
「びっくりした…ん?これ、ギーシュにあげた香水じゃない!落としたのかしら?しょうがないわね…」
折角私が作ってあげたものを落とすなんて…渡して一言注意してやろうと、ギーシュの方へ向かって行った。
ギーシュはほっとしていた。誤ってポケットから壜を落とした時は、回りに下世話な話が好きな友人達がいたので迂闊に拾えなかったが、ルイズの使い魔が壜を拾い上げ持
ち去っていった。ゴミだと思ったのか、盗んだのかは判らないが、後でルイズに返してもらえばいいだろう。
「おいギーシュ、お前は一体誰と付き合っているんだ?」
やはりだ。あの場で拾っていたら、ここぞとばかりに囃し立てられていただろう。別に隠したいわけではないが…色々と問題がある。
「何を言っているんだい?薔薇は多くの人を楽しませる為にあるんだよ。特定の人なんていないさ。」
よし。うまくかわせた。あとは、ルイズから香水を返してもらえば完璧だろう…その時、視界の端でルイズの使い魔がモンモランシーに何か渡している…モンモランシーが
立ち上がってこっちへ向かってきた…ふと、背中に嫌な汗をかく。
「ギーシュ!せっかくあげた物を落とすなんてもうちょっと注意して欲しいわね。拾ってくれた人がいたからいいものの、失くしたら大変よ。」
モンモランシーが、口を尖らせながら壜を渡してくる。
「ギーシュ…やっぱり、モンモランシーと…」
「やっぱりそうか!前から怪しいとは思ってたんだ!モンモランシーと付き合ってたんだな!」
突然のモンモランシーの襲来に、だんだん周囲のモブ達がヒートアップしてきた。
「い、いや…彼女の名誉の為に言っておくが…」
しどろもどろになりながら言い訳を始めるが、いつの間にか近くまで寄って来ていた
少女が言葉を遮った。
「ギーシュさま・・・やはり、ミスモンモランシーと…」
ボロボロと泣き出すが、目の前にモンモランシーがいる為、迂闊なことは言えない。
「ケ、ケティ…」
「何も聞きたくはありませんわ!さよなら!」
バチン!と威勢のいい音と共にケティと呼ばれた少女は足早に去っていく。
「ち、違うんだモンモランシー。誤解だ、彼女とは一緒にラ・ロシェールの森へ遠乗りへ行っただけで…」
「やっぱり、あの一年生に手を出していたのね?」
「お願いだよ。『香水』のモンモラシー、咲き誇る薔薇のような顔をそのような怒りでゆがませないでくれよ。僕まで悲しくなるじゃないか!」
ギーシュの言い訳を聞き終わると、モンモランシーはテーブルにあったワインを掴み、
ギーシュの頭へとぶちまけた。
「うそつき!」
と言い、モンモランシーもギーシュの下から去って行った。
「あのレディたちは、薔薇の存在の意味を理解していないようだね。」
苦し紛れの台詞を言いながら頭から浴びたワインを拭いていると沸々と怒りが沸いてきた。
「おい、そこのルイズの使い魔君。」
一連の流れを見ていたであろうルイズの使い魔に指をさす。
「君が軽率に香水の壜をモンモランシーに渡したせいで、二人のレディの名誉が傷ついた。どうしてくれるんだね?」
「はぁ!?何言ってるのよ、二股してたギーシュが悪いに決まってるじゃない!」
使い魔の代わりに答えたルイズに、周囲も賛同する。
「そりゃそうだ!」
「どう考えても、二股してたほうが悪いぜ!」
このままでは分が悪い。既に散々な目にあっている、せめて自分の名誉を回復しなければ…
「では、どっちが悪いか決闘で決めようじゃないか!これなら文句はあるまい。」
かなり苦しい、自分でも何を言っているか判らない。
「あるに決まってるでしょ!意味が判らないわ!」
もっともな事だ。やはり苦しすぎたか…ではどうするか…考えていると、ルイズの使い魔が口を開いた。
「いいだろう。」
「ちょっ!こんな訳の判らない茶番に巻き込まれないでよ!」
「いいや聞いた!逃げるなよ!ヴェストリの広場で待っているからな!」
何か言わせる前に足早に去っていく。決闘という一大イベントを起こせば二股を掛けていた件は薄れるだろう。万が一逃げられても、逃げた事を突付けば矛先はかわせる。
思わぬ幸運にほくそえみながらヴェストリの広場へと足を向けた。
「どうするのよ決闘なんか受けちゃって…もう皆広場に行っちゃったみたいだし、ここで逃げたら後から何を言われるか判らないわよ。」
思わぬ展開にルイズは混乱していた。
「術を見せる約束をしていたろう。丁度いいかと思ってな。」
「だからって決闘する事はないじゃない!あれでもギーシュはかなり優秀なのよ!」
ドットとはいえ、成績は上位である。まだ未知数の時の君より、よく見知っているギーシュの方が強さはよくわかっている。
「使い魔の主な任務は護衛なんだろう?生徒に負けているようでは、話になるまい。術が魔法に通用するかどうかをみるいい機会だ。」
時の君の冷静な態度を見て次第に落ち着いてくる。確かに、この私が教えを請うのだ。
ギーシュに負けているようでは、術の力もたかがしれているだろう。
「…自信はあるのね?」
「ああ。」
「わかったわ。やるからには完勝しなさい!こっちよ!」
そうだ。自分の使い魔を信じられないようでは御主人様として失格だろう。確かに未知数だが、この使い魔は何かやってくれそうな気がする。ふと、隅で顔を青くしていた
メイドが走り寄って来た。
「時の君!大丈夫なんですか!?」
「問題ない。」
「で、でも怪我でもしたら…」
「ちょっと…誰よ、このメイド…」
ウルウルとした瞳で時の君を見上げている。私以外の人が、時の君と仲良く(ルイズ
にはそう見える)話している姿を見るのは初めてだった。何か沸々と…
「今朝、洗濯場を教えてもらったシエスタだ。」
「そ、そう。時の君なら問題ないわ!何たって『私の使い魔』だもの!」
何故か私の使い魔の部分を強調してしまったが、そう信頼している証のようなものだ。
「そうですよね、大丈夫ですよね。私は仕事で見にいけませんが、くれぐれも怪我にはお気をつけて…」
「わかった。」
「じゃあ行くわよ!」
シエスタというメイドと別れ、ヴェストリの広場へ向かった。
ヴェストリの広場では、これから行われる貴族と妖魔との決闘を一目見るため、大勢の生徒が駆けつけて来ていた。
「僕は勇敢にも妖魔と決闘を行う!皆、万来の拍手で送り出してくれ!」
芝居調の台詞で、観客を沸かせる。この勝負に勝てば、名誉は挽回出来ようし、モンモランシーも惚れ直してくれるかもしれない。
「君は妖魔らしいね、ならば手を抜くわけにはいかない。僕は魔法を使わせてもらうよ。」
ギーシュも召喚の時、現場に居たのだが、この男が妖魔だとは考えていなかった。ルイズが妖魔など召喚できるはずがないという侮りと、人間にしか見えないせいである。
「ハンデとなってしまうが、もし僕が杖を落としたら負けを認めよう。それよりいいのかい?一度決闘が始まったらもう止まらないよ。」
「わかった。」
「やれやれ、メイジの実力というものをよく把握していないようだね。僕がしっかり教えてあげよう。では、決闘を開始しよう!」
そもそも本当に妖魔なら、何かの間違いで召喚されたのだとしても、黙ってゼロのルイズに従っているのはおかしいだろう。やはり、平民だ。などと考え、この決闘に勝ち、
名誉を挽回する為、杖を掲げ、振った。…はずだった。
「時術《タイムリープ》」※対象者の周りの時間を数秒間飛ばす。
現れるはずのワルキューレは影も形もない。時の君は、歩いて無造作にギーシュとの
距離を縮めていく。
「な、何だ!?くそっ!考え事で集中力が乱れてしまったか…これでは恥の上塗りだ!」
身に起こった異変には気付かず、また杖を振ろうとする…が。
「《タイムリープ》」
「ま、また!?この僕が二度も失敗するなんて…くそぉっ!」
周りの観客からは失笑が漏れ始めていたが、今は気にしている余裕はない。今度こそはと、俄然力の入った振り方をした。…つもりである。
「《タイムリープ》」
「何でだぁ!!うう…冷静に、冷静になるんだ…はっ!」
魔法が出ない事に気を取られている間に、時の君が目の前に来ていた。
「終わりだな。」
杖を振り上げた所を、一瞬で奪われてしまった。もはや手は何も握っていない。
「何よ。もう終わり?ギーシュって大したこと無いのね。魔法を出せてすらいないじゃ
ない。」
噂を聞き付け、キュルケとタバサは一緒に観戦していた。
「彼が何かしていた。」
実質、時の君が動きを止めていたのは最初だけだが、歩きながらも口が動いているのをタバサは見逃さなかった。
「へえ。じゃあ、彼がギーシュに魔法を使わせなかったの?妖魔らしいし、先住魔法かしら?」
「わからない、興味深い。」
魔法をキャンセルしているのだろうか…そんなことが出来るのか?だとしたらメイジ
はあの妖魔に勝つことは難しいだろう。タバサは、真剣な表情で勝負を見守った。
「いくら相手が妖魔だからって、緊張しすぎだろ!」
「魔法を出せないって…お!いい二つ名考えたぜ、ゼロのギーシュって言うのはどうだ?」
「それじゃ、ルイズと被る。でも、ルイズは一応爆発はするし、爆発のルイズ、ゼロのギーシュでいいか!」
観客達から、思い思いの失笑や嘲笑を浴びせかけられる。あまりの事態に思考停止していたギーシュだが、気を取り戻して声をあらげた。
「な、納得できるかぁ!」
「納得しろ。杖を奪えば勝ちなんだろう。」
「くっ、今のはちょっとしたお遊びさ!」
ギーシュは屈辱に顔を歪ませながら、時の君から杖を取り返す。
「さっきは油断したんだ!僕は、青銅、『青銅』のギーシュだ!僕は、ゼロではない!」
杖を振り、七体のゴーレムを出現させる。
「ちゃんと現れた…よし!先程の事は余興だ。もはや、逃げることは許されない。」
今のギーシュには全く余裕が無くなっている。観客からは野次が飛ぶが、耳には入っていなかった。
「ふむ、あれでは御主人様にも伝わりにくいか…もう少し解りやすくやるか。」
ギーシュやギャラリーの反応を見るに、確かに時を飛ばすだけでは何が起こったか解
らないかもしれない。
「…陰術《ハイドビハインド》」※対象者の背後に影を出現させ驚かせる。それだけ。
ルイズの学友に怪我を負わせる訳にもいくまい、そう考え隙を突く事にした。
「うわっ!何だ!?誰だ?」
ギーシュは、突然後ろから肩を叩かれ、驚き振り返った。
「秘術《剣》」※三本の魔法剣を出現させ、相手を串刺しにする。
ギーシュが後ろに気を取られている間に、ギーシュの周りに三本の剣が現れ、首寸前
で停止している。
「まだやるか?」
「ま、まいった。」
時の君は、ギーシュが杖を手放したのを見てから、剣を消滅させた。がっくりとうな垂れるギーシュには声をかけず、ルイズの元へと向かう。
「本当に圧勝じゃない…ギーシュ何も出来なかったわね。」
顔をひくつかせながら、ルイズが言う。
「勝つには、相手に何もさせない事が一番確実だからな。どうだ?護衛としては。」
「ま、まあまあね!一応、合格よ!」
「圧勝ですね…先住魔法とはすごいですな。」
コルベールは、時の君のルーンについてオールドオスマンに報告する為学園長室を訪
れた際、この決闘騒ぎが起こったので共に遠見の鏡で観戦していた。
「ふぅむ…先住魔法というのは精霊の力を借りる魔法と聞いていたがのう、ほれ先程の
剣が跡形もなく消えておる。」
「先住魔法ではないと?では、ガンダールヴの力ですか?」
「わからん…あらゆる武器を使いこなしたというのがガンダールヴじゃろう。確かに剣
は武器じゃが…何か引っかかるのう、それにいくらグラモンの馬鹿息子とはいえ、ああ
何度も魔法を失敗するのもおかしいじゃろう。やはりあの使い魔が何かしておったので
はないかの。」
「自分を下級妖魔と言っていたのでそこまで警戒はしていなかったのですが、やはり妖
魔というのは人間とは一線を画す存在なのですね。それに加えガンダールヴのルーンま
で…」
確かに召喚の儀式の時に、下級妖魔と言っていた。だがどうだろうこの手腕は、自分
でも勝てるかどうか…
「とりあえずこの件を王国へ報告して指示を仰ぎましょう!妖魔の力に加えガンダール
ヴとは大変な存在です!」
「ならぬ。この件を王宮のボンクラ共へ報告すれば、戦争の道具として利用されかねん。
それは君としても本意ではないじゃろう、ミスタコルベール。」
どこからか取り出した煙草を吸いながらオールドオスマンが答える。
「ははぁ、確かにやりかねませんね…」
「この件はわしが預かる。他言は無用じゃ。」
「はい、かしこまりました。」
「しかし、あれが全ての力ではあるまい…」
「そうでしょうね。随分手加減をして戦っているように見えました。ミスヴァリエール
には従順なようですし、下手に手出しをしなければ危険はないと思いますが…」
「しばらくは様子見じゃな。」
二人はしばらく時の君についての検証を行っていた。
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