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ヴァナ・ディールの使い魔-01 - (2011/04/16 (土) 16:42:17) の1つ前との変更点
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戦いを運命づけられた二柱の神。
その調和と混沌の力は決して混ざり合うことなく、
世界は果てしなく続く闘争のための舞台となり、
安定と崩壊の狭間に囚われ続けていた…。
調和の神コスモスに呼ばれた最初の戦士たち。
シャントット。
プリッシュ。
二人はコスモスを守る為に混沌の神カオスの戦士たちとの戦いに明け暮れていた。
そんなある日のこと。
プリッシュは訪れたカオスの神殿で1人の戦士と出会う。
名前も記憶も失った戦士はただ光の如く輝きを放っていた。
コスモスの元へとプリッシュは彼を連れて行く。
そして仲間にすることを提案した。
彼はそれを承諾し、共にカオスの戦士たちと戦う仲間となることをコスモスへと誓った。
それから更にいくらかの時を経て。
世界に突如鏡が現れる。
プリッシュはシャントットと共にその鏡を調べようとして、
二人とも鏡の中へと吸い込まれてしまう。
コスモスは二人の存在がこの世界から消失したことを感じ取ると、
二人の無事を強く祈った。
ここはトリステイン魔法学院。
今は春の使い魔召喚の儀式の真っ最中であった。。
二年生になった生徒達が使い魔を召喚していく中、一人の少女が思い詰めたような表情をしていた。
彼女の出番になると、周囲の生徒たちが次々と口を開く。
その言葉の多くは誹謗中傷であった。
頭頂部の禿げ上がった中年の男が咳払いと射抜くような視線で生徒たちを黙らせる。
どうやら、この儀式を執り行う教師のようである。
彼に促されると、少女は杖を取り出し一歩前に出て詠唱を行う。
すると、目の前で爆発が起きた。
その光景に周囲の生徒たちは笑い出す。
少女は羞恥と悔しさで顔を真っ赤にしながら、もう一度詠唱を行って杖を振る。
しかし、結果は再びの爆発であった。
そんなやり取りが暫く続くと、周囲の生徒たちもこの状況に飽きだしていた。
少女を嘲笑していた者たちも殆どがそれを止め、友人と話を始めたり、居眠りをしたりしていた。
途中から爆発した回数を数えることも止め、一心不乱に詠唱を繰り返していた少女もそろそろ限界が来ているようであった。
精神的にも肉体的にも疲労困憊である。
少女はこれが最後と決め、今まで以上に念を込めて詠唱を行った。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール…五つの力を司るペンタゴン!我の運命に従いし使い魔を召喚せよ!」
ルイズが詠唱を終えると、地面に光の柱が現れ、膨大なエネルギーがそこへ収束する。
ルイズは期待の眼差しでそれを見つめていた。
次の瞬間、無情にも爆発が起きる。
しかし、先程までとはその規模が明らかに違っていた。
爆風で周囲の生徒たちが使い魔ごと吹き飛ばされる。
教師は地面にどしんと腰を落とし、飛ばされないように踏ん張っていた。
ルイズはしっかりと自分の足で立ちながら注視していると、もくもくと上がる土煙の中に二つの影が現れる。
それを見つけた瞬間、ルイズの顔がパァァと輝いた。
「私の…使い魔!」
やがて土煙が薄くなり、中の様子もはっきりとしていくにつれて周囲の様子がざわついて来る。
「おい…あれって」
「まさか…」
煙が完全に晴れると、中から二人の人物が確認出来た。
片方は小柄な体型に浅黒い肌の少女。
もう片方はその少女よりも更に小柄で、まるで子供のような少女。
しかし、皆が注目したのはある一点だけであった。
二人に共通した特徴。
長く尖った耳。
「うわあああああああ!エルフだああああああ!」
「大変だ!ゼロのルイズがエルフを召喚したぞ!!!!」
「た、助けてくれ~~~~!!!!」
騒ぐ周囲を余所に、ルイズは放心していた。
メイジにとっては命の次に大事な杖を右手からするりと落としてしまうくらいに。
ルイズは呟いた。
「あんたたち…誰?」
#navi(ヴァナ・ディールの使い魔)
「いちち…ここ、何処だ?」
土煙が晴れ、視界が開けたのを確認すると、プリッシュは手で頭を押さえがら周りをキョロキョロと見回した。
すると、魔道士らしき格好をした少年少女たちが自分たちを取り囲むように立っているのが目に入る。
(人?俺とシャントットのオバさん以外に人がいるなんて…それに何か俺たちを見てびびってるみたいだし)
彼らのほぼ全員が自分たちに対して怯えの表情を見せているようであった。
その表情を見てプリッシュは一瞬眉を顰めたが、一先ず直前の出来事を思い出してみる。
(ええと…、確か俺とオバさんはいきなり現れた鏡の調査をしていて、俺がその鏡に触れようとしたら急にピカーって光った後、物凄い力で引きずり込まれて、それで…)
「ここへ出た、ということですわね」
突如背後から聞こえた声にプリッシュは思わずおののいた。
恐る恐る振り返ると、シャントットが目を半開きにしながらこちらを睨み付けている。
「オバ…じゃなくて、博士!?」
「プリッシュ!軽率な行動は慎みなさいと口が酸っぱくなるまで申し上げましたというのに、あなたという子は…」
「まー、まー、こうして二人とも無事なんだし、別にいいじゃねぇか!」
プリッシュが明るくそう言うと、シャントットは呆れたような顔で見つめる。
この見た目は小さな子供と変わらないシャントットは彼女たちがいたヴァナ・ディールという世界において、知る人ぞ知る伝説的存在であった。
どのくらい凄いかと言えば、下手すると彼女の機嫌一つで世界が崩壊しかねないくらいである。
シャントットの恐ろしさを理解しているプリッシュは口では軽く言っていても、内心は冷や冷やであった。
「…どうやら言って利かないあなたには何かしらお仕置きを与えるべきなのでしょうね。精神的にも肉体的にも!」
「ひぎぃっ!?」
プリッシュは思わず頭を抱えて、その場にしゃがみ込んだ。
その様子を見てシャントットはやれやれと肩をすくめる。
「…ところで、そこの頭の寂しい殿方。わたくしたちに杖を向けるなんて、紳士の淑女に対する行動とはとても思えませんわね」
「!!」
シャントットの背後で何者かが彼女の言葉に反応する。
そこには、男がシャントットへ杖を向けながら周囲の少年少女たちを庇うように立っていた。
禿げ上がって地肌を露わにした頭頂部に多量の汗を滲ませながら男は二人を睨みつけている。
シャントットはゆっくり振り返ると、男に尋ねた。
「わたくしたちに何か御用でも?」
「エルフ…!私の生徒たちには指一本触れさせない!」
男は敵意むき出しに答えた。
プリッシュが反論する。
「ハァ?おっさん、何言ってんだ?別に俺たち何もしてねえだろ?何かする気もねえし!」
「…すまないが、エルフの言うことを簡単に信用することは出来ない」
男は二人へと杖を向けたまま答える。
杖を向けているとは言っても、あくまで牽制だけで、攻撃を仕掛けようという素振りはまだ見せてはいない。
しかし、こちらが不審な行動を見せれば、すぐに男は攻撃に移るだろう。
シャントットは一度ため息を吐くと、またも肩をすくめてみせた。
「やれやれ…こちらの言葉を聞こうともしないだなんて、とんだ野蛮人ですわね」
「…人間に友好的なエルフなど見たことが無いのです。警戒するのは当然でしょう?」
「あらまあ!もしかして偏見と先入観だけでわたくしたちに杖を向けていますの?」
「生徒たちに何かあってからでは遅いのです…!」
「生徒を守ろうとするその殊勝な態度は教師としては立派ですわ。ですが、わたくしに杖を向けてただで済むと思ったら大間違いですわ!」
シャントットはそう言った後に「オーッホッホッホ!」と高笑いする。
男は彼女の笑い声に寒気を感じると、思わず振り返り彼の生徒たちへ叫んだ。
「早く学院の中へ入りなさい!ここに居ては危険だ!」
男の言葉に従い、彼らは一斉に大きな建物の中へと走って行った。
シャントットは男に声を掛ける。
「あなたもお逃げになったら如何ですの?今なら見逃してさしあげてもよろしいのですけれども」
「…生徒を守るのが教師の使命です」
男はそう言って改めてシャントットへ向き直ると、杖を構えた。
それを見て、シャントットは何処からか身の丈程ある杖を取り出して男へと向けた。
「よござんす!再びわたくしに杖を向けるその勇気に免じて、一瞬で終わらせてさしあげますわ!」
小さな体から放たれる圧倒的な覇気に、男は体の震えを隠せなかった。
思わず、その場からみっともなく逃げ去りたい衝動に駆られる。
しかし、この命に代えても生徒たちを守りたいという思いが彼の足をその場に踏み留めていた。
そこにはまるで戦場さながらの空気が蔓延していた。
「ちょっとアンタ!」
突如、甲高い声が辺りに響いた。
桃色がかった髪の少女が前へ出て来る。
少女は何やら怒っているような顔でシャントットたちを睨み付けていた。
「み、ミス・ヴァリエール!?」
男は青ざめた顔で少女を呼び止めた。
しかし、少女は止まらない。
「止めなさい!これは命令よ!」
「……」
シャントットは無言のまま横目でチラッと少女の顔を見た。
その後ろでは、プリッシュが「やっべー」と呟き、ゆっくりと後ずさっている。
男が必死の形相で少女に声を掛けた。
「ミス・ヴァリエール!下がりなさい!相手はエルフなんですよ!?」
「でも、私が呼び出したのだから、私の使い魔なんですよね?それならば主人である私が止めます!」
何処から出てくる自信なのか、少女はそうきっぱりと言い切った。
辺りに緊張が走る。
暫しの静寂の後、ようやくシャントットが口を開いた。
「…興が削がれましたわ。闘争の空気ではございませんわね」
シャントットは手にした杖を仕舞って、背を向ける。
男はホッとして、ついその場にへたり込んでしまった。
シャントットと対峙していた時間、彼は生きた心地がしていなかったのだ。
しかし、それでも警戒を緩めることはなく、視線をシャントットたちから逸らすことはしなかった。
そんな彼の苦労をつゆ知らず、少女は尊大な態度を崩さない。
「フン、分かればそれでいいのよ」
「おい、そこのちんちくりん!」
これ以上、シャントットを刺激すれば、何が起こるか分からない。
プリッシュは思わず声を掛けた。
少女はプリッシュの言葉に激昂する。
「だ、誰がちんちくりんよ!アンタだって私とそんな変わらないじゃない!…胸とか」
「胸のことは言うんじゃねえ!って、んなことはどうでも良くて…これ以上、オバさんに何か言うのは止めろよ!こっちの寿命が縮むだろ!」
「何よ!?いくらエルフでも、こんなチビがそんな凄いわけないじゃないの!」
「オバさんはエルフじゃねえっての!」
「なら余計によ!エルフでもないこんなチビを恐れる必要なんて無いわ!」
少女はそう言い切ると、腕を組んでシャントットを見下ろす。
シャントットはゆっくりと振り返ると、少女とプリッシュを交互に見やり、そして重々しく口を開いた。
「色々言いたいことはありますが…まずはプリッシュ」
シャントットはプリッシュを指差した。
「あなた、どさくさに紛れてわたくしのこと『オバさん』と何度も呼びましたわね?」
「あっ!」
プリッシュは一気に血の気が引いた。
シャントットは次に少女を指差す。
「そして、そこのあなた!」
「何よ!?」
「わたくしも鬼ではありません。無知な者が無知であるが故に愚かなことを口走っても、いちいち気になどしませんわ。でも…」
シャントットは先程仕舞った杖を再び取り出した。
「それでも我慢の限界ってものはありますの…わたくし、ブチ切れましたわ!!」
「うわあああああああ!!」
プリッシュの叫びが辺りにこだまする。
その日、世界は崩壊の危機に瀕した。
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