ゼロの皇帝5 - (2007/07/10 (火) 23:59:39) の最新版との変更点
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次の日の朝、ジェラールは目を覚まして周りを見渡し、これからはこの生活に慣れなければ無いことを
実感し活動を始める。ちなみに未だルイズは夢の中のようだ。まあ今までも一人でやってきただろうから
大丈夫と判断してジェラールは彼女の洗濯物を抱えて外へ出かけていく。自分でできない(ことにしている)
のだから、適当な人物を探すのが先である。まさかすべての使い魔が家事一般をこなせるとは思えないので、
使用人もちゃんといることだろう。そんなことを考えていると、向こうから昨日部屋にいた-キュルケといったか
-少女というよりも、ご立派な女性がこちらに向かってくる。
(アレで年は大して変わらないのだから、残酷だな…)
などとルイズにばれたらタダではすまないことを思っていると、キュルケもこちらに気付いたらしい。
「あら、おはよう。ジェラール…だっけ?」
「そうだよ、キュルケさん」
「キュルケでいいわよ、ジェラール。朝早いのね、あなたの主人とは大違い」
「やらなければならないことがあるからね。そうだ、コレを頼める人はどこにいるのか教えてくれないかい?」
「それならさっき向こうに一人メイドがいたから頼むと良いわ」
「ありがとう。そっちの…えーと名前は…」
「きゅうきゅう」
「ああフレイムだったね、君も元気そうで何より」
「あれ?私この子の名前説明したかしら?」
「今、彼?が教えてくれたじゃないか」
「ちょっと、何であなたがこの子の喋ってることが分かるの?」
「こういうことだよ。ゴホン、あーあー。グゴゴンゴン、グゴゴ、ゴングゴン」
「きゅう!?きゅきゅ、きゅう!」
「……あなた、なんなの?知り合いにサラマンダー評論家でもいるの?」
「実は…ひいじいさんがサラマンダーなんだよ。こっちと向こうでは微妙にアクセントが違うだけみたいだから会話に大した支障は無いみたい」
間をおいて、キュルケが笑い出す。
「あはははは!面白いこと言うわね!分かったわ、そういうことにしといてあげる。それにあなた、よく見ればかなり男前だしね。これからもよろしく、ジェラール」
「きゅう~♪」
そういうとキュルケとフレイムは去っていった。実際、ジェラールは嘘はついていないわけだが
いきなり先祖が爬虫類ですといって、信じろというほうが無理だろう。まだルイズのように
機嫌を悪くしないだけ有難い。
「ふう、物分りのいい人で助かる。いっそあっちが主人になって…う!」
そういった途端に左腕から力が抜けていく。まるでサルの妖怪が頭にはめている輪か、犬の半妖が
している首飾りのような効果が、このルーンにはあるようだ。
「主人がその場にいなくても効果が変わらない…遠隔操作型か?うぅ、とにかく本題に戻るから
もう勘弁してくれ」
ジェラールがそう言ってキュルケが教えてくれた方向に歩き出すと、そこに一人のメイドがいた。
どうやら彼女も他の貴族から頼まれた洗濯物を持っているが、あまりの量の多さにどうやって運ぶか
思案中のようである。
「あの、ちょっといいかい?」
「はい?」
彼女=シエスタが振り向くと、そこには見覚えの無い若い男が一人。見た目は貴族のようだが、わざわざ
貴族が自分で洗濯物を持ってくるはずはないし、来ているものは自分たちとそう変わらない(無論メイド服ではない)
そこでシエスタは昨日同僚から聞いた、あのゼロのルイズが召喚した使い魔の話を思い出した。
「あの、もしかしてミス・ヴァリエールさんが召喚した使い魔というのはあなたのことですか?」
「ああ、そのとおりさ。ちなみに名前はジェラール」
「あ、これは失礼しました。私の名前はシエスタといます。ところでご用件は何でしょうか?」
「コレを洗っておくように頼まれたんだけど、この手の生地はやったことがないんでね。できれば
お願いしたいんだけれど…」
「はい、わかりました。でも…これだけあるので多少時間がかかりますが、それでもよろしいですか?」
「もちろん。そうだ、せめて荷物運びぐらいは手伝うよ」
「そんな!大丈夫ですよ!」
「いいんだよ、これぐらい。それに女性が困っていたら手伝うのは当然だしね」
「あ、ありがとうございます…」
シエスタは、自分の顔が赤くなっている事に気付き、それがジェラールにバレていると思うと
余計に赤くなっていった。
(聞いた話と全然違ってすごくいい人じゃない…それにすごくカッコいいし、優しいし…こんな人が
あんな噂…デリカシーの無い人だなんて信じられないわ!どうせこの人の見た目に嫉妬した貴族の
誰かが嫌がらせで言っているのよね、きっと)
残念ながらシエスタ、噂通り自分の主人に対して暴言を吐き、フルボッコにされた阿呆は
君の目の前にいるその男で間違いないんだよ。
この後、ついついシエスタと談笑していたジェラールがルイズを起こすのを忘れてしまったり、
それと昨夜の事とが相まっていつもより寝坊したルイズがジェラールと揉めているのをキュルケに
笑われて豪快に廊下で喧嘩を始めたり、その間にジェラールとフレイムがお互いの世界の
サラマンダー事情について知識を深め合ったりしていたが、それはまた、別の、お話。
「はいジェラールさん、よければこれもどうぞ」
「ありがとう、シエスタ。でも、こんなに貰っていいのかい?」
「いいんですよ、貴族の人たちはお喋りに夢中でせっかくの料理を残したり、手をつけないことも
あるから料理長もむしろ喜んでくれていますよ」
「じゃあお言葉に甘えて。うん、このスープもうまい!後で料理長にも御礼を言っておかないと」
「そうですか、きっと喜びますよ、料理長。御礼を言われるなんてめったに無いことですから」
ここは食堂内、厨房の片隅。なぜこんな所にジェラールがいるのかというと、今朝の一件(自力で
起きれないルイズが悪いのだが)でルイズから朝食抜きといわれ途方にくれていたところ、シエスタに
「じゃあこっちへ」と言われ案内されたのが厨房だったというわけである。その頃ルイズは、
周りから昨日の召喚の儀式の件で冷やかされて口論の真っ只中であるが、そんな声が聞こえるほど
食事時の厨房は静かではない。仮に聞こえたとしても空腹のジェラールからしたら知ったことではない。
腹が減っては何にもできぬ、である。そこへ一人の体格のいい壮年の男がやってくる。
見たところ、この人が料理長のようだ。
「よお、兄ちゃん!どうだいここの料理は!なかなかうまいだろう?」
「ええ、とても美味しいです。特にこのスープ、コンソメはかなり手間のかかる物と聞いていますが、
この大人数に振舞うのは大変ではないですか?」
「おお、分かるかい兄ちゃん!確かにこれだけのコクと透明感を両立させるにはそれなりに手間がかかっちゃいるが、
貴族の連中はそんなことも知らずイチャモンばかりつけて、挙句の果てに一口も手をつけない奴までいやがる!
ったく、すこしは兄ちゃんを見習えってもんよ」
「いや、このレベルの料理を毎日食べているからこそ気付かないのかもしれませんよ。人はその環境に慣れていくのですから」
「はっはっは!兄ちゃん口もうまいねぇ、乗せられておくとするか。おいシエスタ、お前もなかなかいい人を
連れてきたじゃねえか、お前に頼まれて許可したが、最初は見た目にやられたのかと思ったぜ」
「ちょっ…料理長!」
「なんだシエスタ、顔が赤いぞ。当たらずとも遠からず、って所か?」
「なっ……ほ、ほらそろそろデザートの準備をしないと!料理長早く戻って!」
「はいはい、おっさんは戻るとするか。じゃあな兄ちゃん、ゆっくりしてけよ!」
そう言って料理長=マルトーはまた持ち場へ戻っていった。彼の表情からは久しぶりに
味の分かる相手に料理を作れたと言う満足感がにじみ出ていて、ジェラールも安心する。
「もう本当に…すいませんジェラールさん」
「いやいい人じゃないか、気さくな感じで。それと、シエスタが頼んでくれたんだね。どうも
ありがとう、何か御礼をしないとね」
「そんな…御礼だなんて…わたしはたいした事はしてませんから…あ、デザートを配る用意が
できたみたいです。すいませんこれで失礼します、後片付けは私がやりますからそのままでいいですよ」
そう言ってシエスタは小走りで向こうへと去っていく。しかし少しフラフラしていたり、
時折ボーッとしているようにも見受けられるが、その元凶はシエスタの予想とは異なり
まるで艶っぽくない事を考えていた。
(しかしああは言ったものの、今の私には物も金も無いしな…何か役に立ちそうな物は…
そうだ、一つ護身術でも教えてあげようか、少なくとも全くの無意味にはならないだろう。
それに体を動かせば息抜きぐらいにはなるだろうし)
このジェラールの行動と、数年後に悪徳貴族達
を襲撃する謎のメイド戦士との関連性については分からない。
その人物の決めゼリフが
「ジェラール様の名に誓い、すべての不義に鉄槌を…!」
というのも、偶然の一致である。…多分。
そうこうしている内に午前の授業の時間になった。
慌ててルイズとジェラールが教室に向かうと、まだ教師は到着して無いらしい。セーフだ。
ジェラールは使い魔ということで、先ほど仲良くなったフレイムや他の幻獣たちと一緒に後ろで見学する
ことになった。そして教師が到着し授業が始まると、さすがに教室の中も静かになり、授業に
集中しているようだ。内容はこの世界の魔法の在り方や属性と言った内容であり、昨日のタバサの
説明とそう変わるところは無かった。
(ふうん…あのタバサと言う少女はかなり優秀なようだね、おそらく実戦もかなりできるように
見受けられるし。まああれだけ読書が好きで、しかも栄養がほとんど脳みそに回っているような状態
なら当然、というのは言い過ぎかな。まさに知行合一、素晴らしいじゃないか)
ジェラールがそんなことを考えていると、教師-確かシュヴルーズと言ったか-が言った次の一言で
教室の空気は一変した。
「それでは実際に…そうね、ミス・ヴァリエールあなたにお願いするわ」
それを聞いたルイズ以外の生徒がいっせいに慌て始める。「先生、それは無理です」「勘弁して下さい」
「私が代わりにやります、いえ、やらせて下さいお願いします」等など。
しかし何を勘違いしたのか、シュヴルーズ先生は他の生徒をたしなめるように言った。
「みなさん、そういう冷やかしはいけませんよ。決して失敗は恥ずかしいことではないのです。
さあミス・ヴァリエール、お願いします」
そして結果は…賢明なる読者の皆様の想像通り、教室を灰燼に帰す功績の報酬としてルイズと
ジェラールは仲良く原状回復(後片付けとも言う)の最中である。
「ゴホゴホ…また派手にやったもんだね」
「ふん、ちょっっっと失敗しただけよ、次こそは成功するわ」
「いや、十分成功だと思うけど」
「…あんたバカにしてんの?」
「そうじゃなくて…もしかしてこっちには爆発呪文と言うのは存在しないのかい?」
「あるにはあるわよ、伝説上だけどね」
「じゃあそれじゃないのかい?」
「そんなのあくまで伝説、おとぎ話の話よ。実際にあるわけ無いじゃない。どーせわたしは
ゼロのルイズよ、ふん」
「ふう…分かったよルイズ、そのうち機会があれば見せてあげるよ、爆発を起こす術を」
「ん?今何か言った?」
「いやいやなにも。ところでそろそろ昼食の時間じゃないかい?これだけ体を動かした後なら
さぞかし美味しく感じるだろうね」
「もうそんな時間?そうね、今回は特別にちゃんと食事を上げるわ、感謝しなさいよ」
「それはそれはどうも。さ、行きましょうか、ご主人様」
二人が食堂に着くと、なにやら一角に人だかりができていた。周りの話を聞いて判断すると、
ある貴族の懐から落ちた香水をメイドが拾ったことでその貴族の二股がバレ、八つ当たり的に
メイドが怒鳴られているという状況らしい。しかしそこは二人とも肉体労働の後、まずは自分たちの
メシが最優先と言わんばかりに無視して席に着こうとしたが、メイドの姿を見た途端ジェラールが
そちらへと進んでいく。
「ちょっとどこ行くの?あんたも見物?」
「知り合いが窮地に立たされているときに見捨てるようでは皇…じゃなくてコサック兵は務まらないのでね」
「なんだね君は?ああ確かゼロのルイズの使い魔だったかな?僕に何のようだい?」
「ジェラールさん…!」
「ちょっとこちらのメイドとは知り合いでね、あまりにも理不尽な目にあっているのを見過ごす
わけには行かないから、ちょっと」
「ふん、何を言うんだい?彼女のおかげで僕は大いに名誉に傷をつけられたんだが。むしろこのくらいの
叱責で済ませる僕の慈悲深さこそ賞賛されるべきじゃないか?」
「君も貴族だろう?貴族なら領地や領民、弱者を護り、文化や芸術を庇護するべき立場なのでは?それを
自分の身の程もわきまえず二股をかけ、それがバレたら八つ当たりとは…みっともない」
いきなり主人(乙女)の名誉を思いっきり侮辱した男のセリフとも思えん。
「ほう…では君が代わりになってくれるようだね。よろしい、相手がレディだからそこまでする気は
なかったが、君なら問題ないね。貴族が名誉を回復するために何をするか知っているかい?」
「…決闘かな、ヘタレ」
「なっ!そうか、君はそんなに痛い目にあいたいようだね、よろしい!後でヴェストリ広場へ来たまえ!
格の違いと言う物をその体にたっぷりと叩き込んであげよう!!」
そういってヘタレとその友人が去って言った後、ルイズが慌てて飛んできた。
「あんたなにやってるのよ!あれでもギーシュはメイジなのよ!タダですむと思ってるの!?」
「ああ、あのヘタレはギーシュというのかい。分不相応な名前だね」
「私はあんたが心配で…!」
「心配してくれるのは有難いんだけど、あの程度の奴に負けるとでも思っているのかい、ルイズ。
それは哀しいことだね、少しは信用してくれてもいいんじゃないかい?」
「もう、勝手にしなさい!」
「あの…ジェラールさん…私のせいで…」
「君が気にすることじゃないよ、シエスタ。だからそんなに泣きそうにならなくてもいいんだよ」
「でも…!」
「心配しなくても、大丈夫だから。それよりヴェストリ広場?そこへ案内して欲しいんだけど」
「ジェラールさん……!」
まるで王子様を見つめるようなシエスタの表情と彼女の胸を見て、ルイズが思いっきりすねを
蹴飛ばしたり、結果的にそれが一番大きな怪我だったり、マルトーがこの決闘のトトカルチョで
給金全てをジェラールに賭け、大儲けしたりするのだが、それはまた、別の、お話。
「ねぇタバサ、あんたはどっちが勝つと思う?」
「…ジェラール。あの人、多分スクウェアクラスの使い手。それに」
「確かに昨日の魔法見たらね…しかしルイズに理解されていないのが不幸よねぇ、それになに?」
「魔法だけじゃなくて武器も使えるみたいだし」
「そういえば言ってたわね。結局、どう頑張ってもギーシュが恥かくのは決まりですか」
「…天罰。当然」
「…あんた結構毒舌よね」
次の日の朝、ジェラールは目を覚まして周りを見渡し、これからはこの生活に慣れなければ無いことを
実感し活動を始める。ちなみに未だルイズは夢の中のようだ。まあ今までも一人でやってきただろうから
大丈夫と判断してジェラールは彼女の洗濯物を抱えて外へ出かけていく。自分でできない(ことにしている)
のだから、適当な人物を探すのが先である。まさかすべての使い魔が家事一般をこなせるとは思えないので、
使用人もちゃんといることだろう。そんなことを考えていると、向こうから昨日部屋にいた-キュルケといったか
-少女というよりも、ご立派な女性がこちらに向かってくる。
(アレで年は大して変わらないのだから、残酷だな…)
などとルイズにばれたらタダではすまないことを思っていると、キュルケもこちらに気付いたらしい。
「あら、おはよう。ジェラール…だっけ?」
「そうだよ、キュルケさん」
「キュルケでいいわよ、ジェラール。朝早いのね、あなたの主人とは大違い」
「やらなければならないことがあるからね。そうだ、コレを頼める人はどこにいるのか教えてくれないかい?」
「それならさっき向こうに一人メイドがいたから頼むと良いわ」
「ありがとう。そっちの…えーと名前は…」
「きゅうきゅう」
「ああフレイムだったね、君も元気そうで何より」
「あれ?私この子の名前説明したかしら?」
「今、彼?が教えてくれたじゃないか」
「ちょっと、何であなたがこの子の喋ってることが分かるの?」
「こういうことだよ。ゴホン、あーあー。グゴゴンゴン、グゴゴ、ゴングゴン」
「きゅう!?きゅきゅ、きゅう!」
「……あなた、なんなの?知り合いにサラマンダー評論家でもいるの?」
「実は…ひいじいさんがサラマンダーなんだよ。こっちと向こうでは微妙にアクセントが違うだけみたいだから会話に大した支障は無いみたい」
間をおいて、キュルケが笑い出す。
「あはははは!面白いこと言うわね!分かったわ、そういうことにしといてあげる。それにあなた、よく見ればかなり男前だしね。これからもよろしく、ジェラール」
「きゅう~♪」
そういうとキュルケとフレイムは去っていった。実際、ジェラールは嘘はついていないわけだが
いきなり先祖が爬虫類ですといって、信じろというほうが無理だろう。まだルイズのように
機嫌を悪くしないだけ有難い。
「ふう、物分りのいい人で助かる。いっそあっちが主人になって…う!」
そういった途端に左腕から力が抜けていく。まるでサルの妖怪が頭にはめている輪か、犬の半妖が
している首飾りのような効果が、このルーンにはあるようだ。
「主人がその場にいなくても効果が変わらない…遠隔操作型か?うぅ、とにかく本題に戻るから
もう勘弁してくれ」
ジェラールがそう言ってキュルケが教えてくれた方向に歩き出すと、そこに一人のメイドがいた。
どうやら彼女も他の貴族から頼まれた洗濯物を持っているが、あまりの量の多さにどうやって運ぶか
思案中のようである。
「あの、ちょっといいかい?」
「はい?」
彼女=シエスタが振り向くと、そこには見覚えの無い若い男が一人。見た目は貴族のようだが、わざわざ
貴族が自分で洗濯物を持ってくるはずはないし、来ているものは自分たちとそう変わらない(無論メイド服ではない)
そこでシエスタは昨日同僚から聞いた、あのゼロのルイズが召喚した使い魔の話を思い出した。
「あの、もしかしてミス・ヴァリエールさんが召喚した使い魔というのはあなたのことですか?」
「ああ、そのとおりさ。ちなみに名前はジェラール」
「あ、これは失礼しました。私の名前はシエスタといます。ところでご用件は何でしょうか?」
「コレを洗っておくように頼まれたんだけど、この手の生地はやったことがないんでね。できれば
お願いしたいんだけれど…」
「はい、わかりました。でも…これだけあるので多少時間がかかりますが、それでもよろしいですか?」
「もちろん。そうだ、せめて荷物運びぐらいは手伝うよ」
「そんな!大丈夫ですよ!」
「いいんだよ、これぐらい。それに女性が困っていたら手伝うのは当然だしね」
「あ、ありがとうございます…」
シエスタは、自分の顔が赤くなっている事に気付き、それがジェラールにバレていると思うと
余計に赤くなっていった。
(聞いた話と全然違ってすごくいい人じゃない…それにすごくカッコいいし、優しいし…こんな人が
あんな噂…デリカシーの無い人だなんて信じられないわ!どうせこの人の見た目に嫉妬した貴族の
誰かが嫌がらせで言っているのよね、きっと)
残念ながらシエスタ、噂通り自分の主人に対して暴言を吐き、フルボッコにされた阿呆は
君の目の前にいるその男で間違いないんだよ。
この後、ついついシエスタと談笑していたジェラールがルイズを起こすのを忘れてしまったり、
それと昨夜の事とが相まっていつもより寝坊したルイズがジェラールと揉めているのをキュルケに
笑われて豪快に廊下で喧嘩を始めたり、その間にジェラールとフレイムがお互いの世界の
サラマンダー事情について知識を深め合ったりしていたが、それはまた、別の、お話。
「はいジェラールさん、よければこれもどうぞ」
「ありがとう、シエスタ。でも、こんなに貰っていいのかい?」
「いいんですよ、貴族の人たちはお喋りに夢中でせっかくの料理を残したり、手をつけないことも
あるから料理長もむしろ喜んでくれていますよ」
「じゃあお言葉に甘えて。うん、このスープもうまい!後で料理長にも御礼を言っておかないと」
「そうですか、きっと喜びますよ、料理長。御礼を言われるなんてめったに無いことですから」
ここは食堂内、厨房の片隅。なぜこんな所にジェラールがいるのかというと、今朝の一件(自力で
起きれないルイズが悪いのだが)でルイズから朝食抜きといわれ途方にくれていたところ、シエスタに
「じゃあこっちへ」と言われ案内されたのが厨房だったというわけである。その頃ルイズは、
周りから昨日の召喚の儀式の件で冷やかされて口論の真っ只中であるが、そんな声が聞こえるほど
食事時の厨房は静かではない。仮に聞こえたとしても空腹のジェラールからしたら知ったことではない。
腹が減っては何にもできぬ、である。そこへ一人の体格のいい壮年の男がやってくる。
見たところ、この人が料理長のようだ。
「よお、兄ちゃん!どうだいここの料理は!なかなかうまいだろう?」
「ええ、とても美味しいです。特にこのスープ、コンソメはかなり手間のかかる物と聞いていますが、
この大人数に振舞うのは大変ではないですか?」
「おお、分かるかい兄ちゃん!確かにこれだけのコクと透明感を両立させるにはそれなりに手間がかかっちゃいるが、
貴族の連中はそんなことも知らずイチャモンばかりつけて、挙句の果てに一口も手をつけない奴までいやがる!
ったく、すこしは兄ちゃんを見習えってもんよ」
「いや、このレベルの料理を毎日食べているからこそ気付かないのかもしれませんよ。人はその環境に慣れていくのですから」
「はっはっは!兄ちゃん口もうまいねぇ、乗せられておくとするか。おいシエスタ、お前もなかなかいい人を
連れてきたじゃねえか、お前に頼まれて許可したが、最初は見た目にやられたのかと思ったぜ」
「ちょっ…料理長!」
「なんだシエスタ、顔が赤いぞ。当たらずとも遠からず、って所か?」
「なっ……ほ、ほらそろそろデザートの準備をしないと!料理長早く戻って!」
「はいはい、おっさんは戻るとするか。じゃあな兄ちゃん、ゆっくりしてけよ!」
そう言って料理長=マルトーはまた持ち場へ戻っていった。彼の表情からは久しぶりに
味の分かる相手に料理を作れたと言う満足感がにじみ出ていて、ジェラールも安心する。
「もう本当に…すいませんジェラールさん」
「いやいい人じゃないか、気さくな感じで。それと、シエスタが頼んでくれたんだね。どうも
ありがとう、何か御礼をしないとね」
「そんな…御礼だなんて…わたしはたいした事はしてませんから…あ、デザートを配る用意が
できたみたいです。すいませんこれで失礼します、後片付けは私がやりますからそのままでいいですよ」
そう言ってシエスタは小走りで向こうへと去っていく。しかし少しフラフラしていたり、
時折ボーッとしているようにも見受けられるが、その元凶はシエスタの予想とは異なり
まるで艶っぽくない事を考えていた。
(しかしああは言ったものの、今の私には物も金も無いしな…何か役に立ちそうな物は…
そうだ、一つ護身術でも教えてあげようか、少なくとも全くの無意味にはならないだろう。
それに体を動かせば息抜きぐらいにはなるだろうし)
このジェラールの行動と、数年後に悪徳貴族達
を襲撃する謎のメイド戦士との関連性については分からない。
その人物の決めゼリフが
「ジェラール様の名に誓い、すべての不義に鉄槌を…!」
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