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ソーサリー・ゼロ第二部-20 - (2007/12/07 (金) 09:25:17) の最新版との変更点
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二九九
ウェールズ皇太子に死んでほしくはないという思いは、君もルイズと同様だ。
この実直でさわやかな青年は、王族の誇りなどという物のために、こんなところで命を散らしてよい人間ではない。
たとえ恥辱にまみれてでも、生き延びるべきだ―――国のため、民のため、そしてアンリエッタ王女のために。
そもそも、ウェールズは最後の突撃を行うなどと言っているが、王党派の軍はまだそこまで追い詰められているわけではないはずだ!
いくらかは余力があるのに、自暴自棄の集団自殺としか思えぬ闘いを挑もうとするなど、この理知的な青年には似つかわしくない行いだ。
平静なように見えはするが、父王ジェームズ一世の死が彼に与えた衝撃は大きかったのだろう。
彼の心のなかでは、父の命を奪った敵に対する復讐心と、父のように後方でひっそりと暗殺されてしまう前に戦場に出て、華々しく散ろうという虚栄心がないまぜになっているに違いない。
君はなんとしてもウェールズを説得しようと心に決める。
しかし、恋人であるアンリエッタ王女のために生きろと言っても無駄なことは、ルイズが証明済みだ。
王女は、同盟締結のためにゲルマニア皇帝のもとへ嫁ごうとしているのだから、ウェールズと彼女が結ばれる望みはほとんどないといってよい。
皇太子に生きようと考え直させるためには、別の事柄を持ち出さねばならない。
死ねばすべてが失われるぞと、恐怖を煽るか(三二六へ)?
残された国民はどうなるのだと言うか(二六五へ)?
それとも、王家の血筋を絶やしてはならぬと言うか(二七八へ)?
二六五
「…≪レコン・キスタ≫の輩とて、けだものではない。代々にわたって領民を守り、領地から富を生み出してきた貴族たちだ。民をいたずらに苦しめるような真似はするまい。
ハルケギニア統一の戦争を続けるために重税や労役を課すのは間違いないだろうが、その程度なら過去のアルビオン王たちもやってきたことだ」と言うウェールズだが、
その表情は苦しげなものに変化している。
ウェールズは、≪レコン・キスタ≫が平民の生命や財産など歯牙にもかけぬ連中であることを、君以上に知っているのだ。
傭兵どもの焼き討ちに遭い、女子供まで皆殺しにされた村を見たことも、一度や二度ではあるまい。
君がそのことを指摘すると、ウェールズはうつむいて
「なんにせよ、我らにもはや勝機はないのだ。民を、国土を敵の手から守ろうという貴族の義務も果たせぬ。ならば、王家に生まれた者としての義務だけでも果たさねばなるまい。
王族にふさわしい勇気と名誉を示すという義務だ」と小さな声でつぶやく。
「トリステインに亡命する以外にも、叛徒どもから逃れて落ち延びる方法はある。しかし、生き恥をさらすわけにはいかぬのだ。滅びゆく王家の最後の者として!」
話が振り出しに戻ってしまっため、君は小さく溜息をつく。
この、名誉や矜持によってがんじがらめになってしまった青年を説き伏せるには、理屈ではなく感情に訴えるほかないようだ。
国が滅びゆくさまを見るのが怖いのだろうと挑発してみるか(三五へ)?
無礼は承知で胸倉を掴み上げ、なにが名誉だと怒鳴りつけるか(九三へ)?
三五
君は軽蔑したように鼻を鳴らすと、冷たく言い放つ。
名誉、勇気、義務ときれい事を並べ立ててはいるが、現実逃避のために死のうとしている者に、勇気も名誉もあるものか、と。
君の不遜な物言いに、ルイズとギーシュはそろって息を呑む。
ウェールズが険しい表情で
「それはどういう意味だ、使い魔殿」と尋ねるので、
君は、皇太子は≪レコン・キスタ≫によって民が殺され、国土が破壊されていくさまをその眼で見ることに耐えられぬので、部下を巻き添えに自殺しようとしているだけの臆病者だ、と言ってやる。
ウェールズはその端正な顔を真っ赤にして、
「ぶ、無礼な!いかに命の恩人とはいえ、今の言葉は聞き捨てならぬ!取り消したまえ!」と叫ぶ。
「あ、あ、あんた、殿下に、な、なんてこと言うのよ!?謝って、取り消して!」
ルイズが立ち上がり、声を震わせて君を怒鳴りつける。
ギーシュは寝台から腰を浮かせて、おろおろと君たちの顔を見回す。
君は彼らに構わず言葉を続け、勇気や矜持という美名のもとに死のうとするお前たちと違って、平民たちは家族のため、愛する者のために、屈辱と苦痛にまみれながらも生きねばならぬのだ、と言う。
さらに、苦しむ民を見捨てて、自分たちだけ『名誉の戦死』を遂げて楽になろうとする者など腰抜けだ、貴族どころか男と呼ぶにも値せぬ弱虫だ、と罵る。
君の言葉に、皇太子の表情は怒りから狼狽のそれへと転じる。
「ち、違う!私は、私は…」
君は相手が動揺した機をのがさず、たたみかけるように言葉を浴びせる。
本当に違うというのならば行動で示してみろ、勇気を示したいのならば生きて苦しめ、絶望を味わい恐怖に震えながら生き延びろ、と。
戸惑うウェールズが、
「しかし、多くの部下たちを死なせて、私だけがのうのうと生きるわけには…」と言うのをさえぎり、
死んでいった者たちにすまぬと思うならば、彼らのことを毎日思い出すことこそがお前にできる手向けなのだ、と語る。
それに、ウェールズが生きている限り≪レコン・キスタ≫は王家の影に脅え続けることになり、他国に攻め入る余裕が失われ、離反者すら現れるかもしれぬのだ。
君は最後に、ウェールズの青く澄んだ瞳をじっと見つめて、国のため、民のため、お前は絶対に死んではならぬ身なのだと告げ、話を終える。九三へ。
九三
ルイズ、ギーシュ、そして君の三人は、うつむいて沈思黙考するウェールズ皇太子を見つめている。
三人とも緊張した面持ちであり、誰も言葉を発しようとはしない。
三分ほど経ったのち、ウェールズは重々しく口を開き、
「わかった。使い魔殿の言葉に従ってみよう。一日でも長く生き延び、≪レコン・キスタ≫の卑劣漢どもを翻弄してくれよう。父上が存命ならば、けっして許しはしなかっただろうがね」と言う。
その言葉を耳にし、ルイズの顔がぱっと輝く。
「殿下…!」
「ラ・ヴァリエール嬢。アンリエッタには、こう伝えてくれたまえ。たとえ卑怯者のそしりを受けようとも、私は生きる。生きてこの『白の国』でそなたの幸せを願い続ける、と」
そう語るウェールズの表情は悲痛なものだ。
本当ならば『生きて添い遂げると』言いたいところだろうが、彼の想い人は国を守るために、意に沿わぬ政略結婚を強いられているのだ。
やがて、ウェールズは気をとりおなしたように微笑むと、君に向かって、
「さて、使い魔殿。先ほどの言葉を取り消していただけるかな?」と言うので、
君はもう一度アルビオンに来て、彼の行いを見届けてから発言を取り消し謝罪をしよう、と返す。
青年は無邪気な笑顔を浮かべ、
「それはいい!君の謝罪を聞くときまで、私は死ぬに死ねぬわけだ」と君の肩を叩く。
「…昨日の昼に君たちも通った、あの地下通路を使えば脱出はたやすい。それが駄目でも、温存している船と風石がある。
城を抜けたあとは、少人数の集団に分かれて遊撃戦を挑むことになろう」
ガラスの杯にワインを注ぎながら、ウェールズはこれからの展望を語る。
君とギーシュは杯を片手に皇太子の話に聞き入っているが、ルイズは早々と寝台に倒れこみ、すやすやと寝息を立てている。
今日は―――厳密には昨日だが―――多くの出来事が矢継ぎ早に彼女を襲った。
傭兵どもとの闘い、ウェールズ皇太子との出会い、君を送還する手段が失われたこと、婚約者との再会と裏切り、明らかになったウェールズとアンリエッタの関係、ウェールズと君の口論…。
さんざん張り詰めていた緊張の糸が切れた今、眠りにおちてしまうのも無理はない。
「あのような隠れ家は君たちが見たほかにもいくつかあるし、食糧や秘薬のたくわえも数ヶ月ぶんはあるはずだ。この命が続く限り、奴らの悪だくみを邪魔し続けてやるさ。
あの『フッド卿』のように森に潜んで…ああ、君は異国人だからフッド卿の伝説を知らないのだな。平民たちのあいだで人気のある物語で、悪辣な領主に公然と反旗を翻した…」
やがてギーシュも眠気に耐えられなくなり、挨拶をすると部屋に引き揚げていくが、君とウェールズはすっかり意気投合したため、会話をさらに続ける。
話がはずむので、君は七大蛇について話を持っていくことに決める。一八二へ。
一八二
「あの化け物の噂は耳にしていた。≪レコン・キスタ≫の首魁であるオリヴァー・クロムウェルが、誰も見たことのない幻獣を使い魔として召喚したという噂だ―――この眼で見るまでは、信じられなかったが」
ウェールズによれば、その怪物に関する噂は一月ほど前から反乱軍のあいだでささやかれていたらしいが、それを直接に眼にしたのは一握りの≪レコン・キスタ≫幹部だけであるらしい。
クロムウェルはさまざまな能力をもつその怪物を操って、あるときは宮殿まで忍び込んだ暗殺者を返り討ちにし、またあるときは自身に反抗的な部下をむごたらしく抹殺したのだという。
「クロムウェルは一介の司教にすぎなかった。貴族の生まれですらない。しかし、内乱が始まると死者をよみがえらせるなどの怪しげな力を披露してみせ、たちまち≪レコン・キスタ≫の頭領にまで登りつめたのだ。
奴は自らの力を、伝説の失われた系統≪虚無≫だと称しているそうだが、それはにわかには信じられない―――もっとも、≪虚無≫がどのようなものなのかを知る者もいないのだがね。
あの醜い大蛇も、伝説の≪虚無≫の使い魔などではないのだろう?君はあれのことを知っているようだが」
君はうなずき、七大蛇について知っていることをすべて話す。
マンパンの大魔法使いによって作り出された最強の下僕であること、そのすべてが君によって倒されたこと、そしてそれが、理由はわからぬがクロムウェルの≪使い魔≫としてよみがえったことを。
七大蛇をよみがえらせたのもクロムウェルの≪虚無≫の力だというのだろうか?
そうだとするならば、死体も残さず打ち滅ぼされたものが大半の怪物どもを、どうやってこの世界に呼び出したのだろうか?
それに、君がルイズに召喚されたのは二十日ほど前のことだが、七大蛇がアルビオンに現れたのは一月以上は前のことだという。
君が最後の大蛇を殺したのは召喚される前日のことなのだから、計算が合わぬことになる!
君の疑問は深まるばかりだ。
スナタの森の魔女フェネストラによって、水晶玉に閉じ込められたままであろう日輪大蛇を除けば、生き残りの大蛇は土、風、時の三匹のはずだ。
彼らとふたたび遭遇したときのため、三匹の弱点をウェールズに説明すると、彼はしきりに助言に対する礼を述べる。
強運点を原点まで回復させよ。
その後も君たちの会話は途切れることなく、アルビオン皇太子と、アナランドの平民出身の魔法使い―――ふたりの語らいは、東の空が白むまで続く。五二〇へ。
#center{&color(green){[[前ページ>ソーサリー・ゼロ第二部-19]] / [[表紙へ戻る>ソーサリー・ゼロ]] / [[次ページ>ソーサリー・ゼロ第二部-21]]}}
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二九九
ウェールズ皇太子に死んでほしくはないという思いは、君もルイズと同様だ。
この実直でさわやかな青年は、王族の誇りなどという物のために、こんなところで命を散らしてよい人間ではない。
たとえ恥辱にまみれてでも、生き延びるべきだ――国のため、民のため、そしてアンリエッタ王女のために。
そもそも、ウェールズは最後の突撃を行うなどと言っているが、王党派の軍はまだそこまで追い詰められているわけではないはずだ!
いくらかは余力があるのに、自暴自棄の集団自殺としか思えぬ闘いを挑もうとするなど、この理知的な青年には似つかわしくない行いだ。
平静なように見えはするが、父王ジェームズ一世の死が彼に与えた衝撃は大きかったのだろう。
彼の心のなかでは、父の命を奪った敵に対する復讐心と、父のように後方でひっそりと暗殺されてしまう前に戦場に出て、華々しく散ろうという
虚栄心がないまぜになっているに違いない。
君はなんとしてもウェールズを説得しようと心に決める。
しかし、恋人であるアンリエッタ王女のために生きろと言っても無駄なことは、ルイズが証明済みだ。
王女は、同盟締結のためにゲルマニア皇帝のもとへ嫁ごうとしているのだから、ウェールズと彼女が結ばれる望みはほとんどないといってよい。
皇太子に生きようと考え直させるためには、別の事柄を持ち出さねばならない。
死ねばすべてが失われるぞと、恐怖を煽るか(三二六へ)?
残された国民はどうなるのだと言うか(二六五へ)?
それとも、王家の血筋を絶やしてはならぬと言うか(二七八へ)?
二六五
「……≪レコン・キスタ≫の輩とて、けだものではない。代々にわたって領民を守り、領地から富を生み出してきた貴族たちだ。
民をいたずらに苦しめるような真似はするまい。ハルケギニア統一の戦争を続けるために重税や労役を課すのは間違いないだろうが、
その程度なら過去のアルビオン王たちもやってきたことだ」と言うウェールズだが、
その表情は苦しげなものに変化している。
ウェールズは、≪レコン・キスタ≫が平民の生命や財産など歯牙にもかけぬ連中であることを、君以上に知っているのだ。
傭兵どもの焼き討ちに遭い、女子供まで皆殺しにされた村を見たことも、一度や二度ではあるまい。
君がそのことを指摘すると、ウェールズはうつむいて
「なんにせよ、我らにもはや勝機はないのだ。民を、国土を敵の手から守ろうという貴族の義務も果たせぬ。ならば、王家に生まれた者としての
義務だけでも果たさねばなるまい。王族にふさわしい勇気と名誉を示すという義務だ」と小さな声でつぶやく。
「トリステインに亡命する以外にも、叛徒どもから逃れて落ち延びる方法はある。しかし、生き恥をさらすわけにはいかぬのだ。滅びゆく王家の最後の者として!」
話が振り出しに戻ってしまっため、君は小さく溜息をつく。
この、名誉や矜持によってがんじがらめになってしまった青年を説き伏せるには、理屈ではなく感情に訴えるほかないようだ。
国が滅びゆくさまを見るのが怖いのだろうと挑発してみるか(三五へ)?
無礼は承知で胸倉を掴み上げ、なにが名誉だと怒鳴りつけるか(九三へ)?
三五
君は軽蔑したように鼻を鳴らすと、冷たく言い放つ。
名誉、勇気、義務ときれい事を並べ立ててはいるが、現実逃避のために死のうとしている者に、勇気も名誉もあるものか、と。
君の不遜な物言いに、ルイズとギーシュはそろって息を呑む。
ウェールズが険しい表情で
「それはどういう意味だ、使い魔殿」と尋ねるので、
君は、皇太子は≪レコン・キスタ≫によって民が殺され、国土が破壊されていくさまをその眼で見ることに耐えられぬので、部下を巻き添えに
自殺しようとしているだけの臆病者だ、と言ってやる。
ウェールズはその端正な顔を真っ赤にして、
「ぶ、無礼な! いかに命の恩人とはいえ、今の言葉は聞き捨てならぬ! 取り消したまえ!」と叫ぶ。
「あ、あ、あんた、殿下に、な、なんてこと言うのよ!? 謝って、取り消して!」
ルイズが立ち上がり、声を震わせて君を怒鳴りつける。
ギーシュは寝台から腰を浮かせて、おろおろと君たちの顔を見回す。
君は彼らに構わず言葉を続け、勇気や矜持という美名のもとに死のうとするお前たちと違って、平民たちは家族のため、愛する者のために、
屈辱と苦痛にまみれながらも生きねばならぬのだ、と言う。
さらに、苦しむ民を見捨てて、自分たちだけ『名誉の戦死』を遂げて楽になろうとする者など腰抜けだ、貴族どころか男と呼ぶにも値せぬ弱虫だ、と罵る。
君の言葉に、皇太子の表情は怒りから狼狽のそれへと転じる。
「ち、違う! 私は、私は……」
君は相手が動揺した機をのがさず、たたみかけるように言葉を浴びせる。
本当に違うというのならば行動で示してみろ、勇気を示したいのならば生きて苦しめ、絶望を味わい恐怖に震えながら生き延びろ、と。
戸惑うウェールズが、
「しかし、多くの部下たちを死なせて、私だけがのうのうと生きるわけには……」と言うのをさえぎり、
死んでいった者たちにすまぬと思うならば、彼らのことを毎日思い出すことこそがお前にできる手向けなのだ、と語る。
それに、ウェールズが生きている限り≪レコン・キスタ≫は王家の影に脅え続けることになり、他国に攻め入る余裕が失われ、離反者すら現れるかもしれぬのだ。
君は最後に、ウェールズの青く澄んだ瞳をじっと見つめて、国のため、民のため、お前は絶対に死んではならぬ身なのだと告げ、話を終える。九三へ。
九三
ルイズ、ギーシュ、そして君の三人は、うつむいて沈思黙考するウェールズ皇太子を見つめている。
三人とも緊張した面持ちであり、誰も言葉を発しようとはしない。
数分ののち、ウェールズは重々しく口を開き、
「わかった。使い魔殿の言葉に従ってみよう。一日でも長く生き延び、≪レコン・キスタ≫の卑劣漢どもを翻弄してくれよう。父上が存命ならば、
けっして許しはしなかっただろうがね」と言う。
その言葉を耳にし、ルイズの顔がぱっと輝く。
「殿下……!」
「ラ・ヴァリエール嬢。アンリエッタには、こう伝えてくれたまえ。たとえ卑怯者のそしりを受けようとも、私は生きる。生きてこの『白の国』で
そなたの幸せを願い続ける、と」
そう語るウェールズの表情は悲痛なものだ。
本当ならば『生きて添い遂げると』言いたいところだろうが、彼の想い人は国を守るために、意に沿わぬ政略結婚を強いられているのだ。
やがて、ウェールズは気をとりおなしたように微笑むと、君に向かって、
「さて、使い魔殿。先ほどの言葉を取り消していただけるかな?」と言うので、
君はもう一度アルビオンに来て、彼の行いを見届けてから発言を取り消し謝罪をしよう、と返す。
青年は無邪気な笑顔を浮かべ、
「それはいい! 君の謝罪を聞くときまで、私は死ぬに死ねぬわけだ」と君の肩を叩く。
「……昨日の昼に君たちも通った、あの地下通路を使えば脱出はたやすい。それが駄目でも、温存している船と風石がある。
城を抜けたあとは、少人数の集団に分かれて遊撃戦を挑むことになろう」
ガラスの杯にワインを注ぎながら、ウェールズはこれからの展望を語る。
君とギーシュは杯を片手に皇太子の話に聞き入っているが、ルイズは早々と寝台に倒れこみ、すやすやと寝息を立てている。
今日は――厳密には昨日だが――多くの出来事が矢継ぎ早に彼女を襲った。
傭兵どもとの闘い、ウェールズ皇太子との出会い、君を送還する手段が失われたこと、婚約者との再会と裏切り、明らかになったウェールズとアンリエッタの関係、
ウェールズと君の口論……。
さんざん張り詰めていた緊張の糸が切れた今、眠りにおちてしまうのも無理はない。
「あのような隠れ家は君たちが見たほかにもいくつかあるし、食糧や秘薬のたくわえも数ヶ月ぶんはあるはずだ。この命が続く限り、奴らの悪だくみを邪魔し続けてやるさ。
あの『フッド卿』のように森に潜んで……ああ、君は異国人だからフッド卿の伝説を知らないのだな。平民たちのあいだで人気のある物語で、
悪辣な領主に公然と反旗を翻した…」
やがてギーシュも眠気に耐えられなくなり、挨拶をすると部屋に引き揚げていくが、君とウェールズはすっかり意気投合したため、会話をさらに続ける。
話がはずむので、君は七大蛇について話を持っていくことに決める。一八二へ。
一八二
「あの化け物の噂は耳にしていた。≪レコン・キスタ≫の首魁であるオリヴァー・クロムウェルが、誰も見たことのない幻獣を使い魔として召喚したという噂だ――この眼で見るまでは、信じられなかったが」
ウェールズによれば、その怪物に関する噂は一月ほど前から反乱軍のあいだでささやかれていたらしいが、それを直接に眼にしたのは一握りの
≪レコン・キスタ≫幹部だけであるらしい。
クロムウェルはさまざまな能力をもつその怪物を操って、あるときは宮殿まで忍び込んだ暗殺者を返り討ちにし、またあるときは自身に反抗的な
部下をむごたらしく抹殺したのだという。
「クロムウェルは一介の司教にすぎなかった。貴族の生まれですらない。しかし、内乱が始まると死者をよみがえらせるなどの怪しげな力を披露してみせ、
たちまち≪レコン・キスタ≫の頭領にまで登りつめたのだ。奴は自らの力を、伝説の失われた系統≪虚無≫だと称しているそうだが、
それはにわかには信じられない――もっとも、≪虚無≫がどのようなものなのかを知る者もいないのだがね。あの醜い大蛇も、
伝説の≪虚無≫の使い魔などではないのだろう?君はあれのことを知っているようだが」
君はうなずき、七大蛇について知っていることをすべて話す。
マンパンの大魔法使いによって作り出された最強の下僕であること、そのすべてが君によって倒されたこと、そしてそれが、理由はわからぬが
クロムウェルの≪使い魔≫としてよみがえったことを。
七大蛇をよみがえらせたのもクロムウェルの≪虚無≫の力だというのだろうか?
そうだとするならば、死体も残さず打ち滅ぼされたものが大半の怪物どもを、どうやってこの世界に呼び出したのだろうか?
それに、君がルイズに召喚されたのは二十日ほど前のことだが、七大蛇がアルビオンに現れたのは一月以上は前のことだという。
君が最後の大蛇を殺したのは召喚される前日のことなのだから、計算が合わぬことになる!
君の疑問は深まるばかりだ。
スナタの森の魔女フェネストラによって、水晶玉に閉じ込められたままであろう日輪大蛇を除けば、生き残りの大蛇は土、風、時の三匹のはずだ。
彼らとふたたび遭遇したときのため、三匹の弱点をウェールズに説明すると、彼はしきりに助言に対する礼を述べる。
強運点を原点まで回復させよ。
その後も君たちの会話は途切れることなく、アルビオン皇太子と、アナランドの平民出身の魔法使い――ふたりの語らいは、東の空が白むまで続く。五二〇へ。
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