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眼つきの悪いゼロの使い魔-無謀編1 - (2007/12/06 (木) 00:44:11) の編集履歴(バックアップ)
王都トリスタニアのとある装飾品店。一等地と二等地の狭間のような立地。貴族が来店する
ことはないが、平民の富裕層はよく訪れるといった客層。総じて中の上という表現が適切と
思われる店があった。
その玄関から、一組の男女が現れる。どちらも若い。二十歳ほどに見える青年と、十代半ば
と思われる少女だ。青年はどこか気まずげにしており、少女は興奮の残滓を頬に乗せている。
青年の名はオーフェンと言い、少女の名はシエスタと言う。トリステインにおいて名高い
魔法学院――の、使用人であった。
首を回して肩のこりを解しながら、オーフェンは声を零す。
ことはないが、平民の富裕層はよく訪れるといった客層。総じて中の上という表現が適切と
思われる店があった。
その玄関から、一組の男女が現れる。どちらも若い。二十歳ほどに見える青年と、十代半ば
と思われる少女だ。青年はどこか気まずげにしており、少女は興奮の残滓を頬に乗せている。
青年の名はオーフェンと言い、少女の名はシエスタと言う。トリステインにおいて名高い
魔法学院――の、使用人であった。
首を回して肩のこりを解しながら、オーフェンは声を零す。
「つき合わせて悪かった、シエスタ。女物のアクセサリーの善し悪しなんてさっぱり分からん
から、助かったよ」
「いいえそんな、私こそ。あんな高そうなお店に入って商品を選べるなんて、みんなに自慢
できます」
から、助かったよ」
「いいえそんな、私こそ。あんな高そうなお店に入って商品を選べるなんて、みんなに自慢
できます」
追従ではなく本心からシエスタは言う。職場柄、高級品を眼にする機会は多いが、購入品を
選択する機会など彼女の給金では望むべくもない。
シエスタはちらりとオーフェンの手荷物に視線を走らせて、
選択する機会など彼女の給金では望むべくもない。
シエスタはちらりとオーフェンの手荷物に視線を走らせて、
「恋人さんへの贈り物ですか?」
「だと色気のある話しでいいんだけどな。残念ながら、姉貴の買い物の代理さ」
「お姉さんの?」
「そう。院長秘書の」
「だと色気のある話しでいいんだけどな。残念ながら、姉貴の買い物の代理さ」
「お姉さんの?」
「そう。院長秘書の」
シエスタは院長秘書の姿を脳裏に描こうとするが、曖昧にしか成功しない。そのぼんやりと
した姿を隣の青年へ重ねてみて、不意に沸き起こった感情に流され小さく微笑む。
した姿を隣の青年へ重ねてみて、不意に沸き起こった感情に流され小さく微笑む。
「お姉さん思いなんですね」
「勘弁してくれ」
「勘弁してくれ」
嫌そうに呻いてみせたが、彼女のくすくす笑いは止まらない。仕返しにサイトのことでから
かってみようかとも思ったが、世話になった直後にそんな真似をするのはいかにも大人げない。
結局、オーフェンは軽く肩をすくめるに留めておいた。
かってみようかとも思ったが、世話になった直後にそんな真似をするのはいかにも大人げない。
結局、オーフェンは軽く肩をすくめるに留めておいた。
その後、笑いを収めたシエスタが、帰る前に寄りたい所があると言ったため、オーフェンも
同行することとなった。シエスタは遠慮を見せたが、帰りの定期馬車の運賃を折半したほうが
お互いのためだというオーフェンの主張によるものである。
同行することとなった。シエスタは遠慮を見せたが、帰りの定期馬車の運賃を折半したほうが
お互いのためだというオーフェンの主張によるものである。
「それにこのへん、意外と治安が悪いしな」
「そうなんですか?」
「うむ。特に眼帯をした筋肉マッチョのパイロマニアみたいなのがやばい」
「……そんな見るからに危険な人には近づきませんけど」
「だよなあ。なんであいつ襲われてたんだ?」
「そうなんですか?」
「うむ。特に眼帯をした筋肉マッチョのパイロマニアみたいなのがやばい」
「……そんな見るからに危険な人には近づきませんけど」
「だよなあ。なんであいつ襲われてたんだ?」
ちぐはぐな会話を行いながら、彼らは歩を進めた。
目的地に辿り着き、看板を見上げてオーフェンは顔をしかめた。ティファニアより教わった
知識に間違いがなければ、看板には「魅惑の妖精亭」と書かれている。
看板から視線を外して、周囲を眺める。人気はほとんどない。時間帯によるものだろう。
つまりここは夜、それも深夜に賑わう類の区画だった。
知識に間違いがなければ、看板には「魅惑の妖精亭」と書かれている。
看板から視線を外して、周囲を眺める。人気はほとんどない。時間帯によるものだろう。
つまりここは夜、それも深夜に賑わう類の区画だった。
(娼館? 歓楽街? まあ、外れててもそう遠くはない外れだろうな)
ここに用があると言ったシエスタに対して、内心覚悟を決めておく。淋病の薬を貰いに来た
としても驚かないために(この手の精神的な用心を行うのは人生で二度目だった)。
としても驚かないために(この手の精神的な用心を行うのは人生で二度目だった)。
シエスタは慣れた様子で、少なくとも数回は訪れたことのある友人宅へ入る程度には慣れた
様子で亭内へ進む。居心地の悪さを抱えたまま、オーフェンはそれに続いた。
窓に嵌められた鎧戸のせいだろう。亭内は暗かった。目が慣れ視界が戻るのにしばらくかかる。
そして視界が完全に回復するよりも前に、二人へ声をかける者がいた。
様子で亭内へ進む。居心地の悪さを抱えたまま、オーフェンはそれに続いた。
窓に嵌められた鎧戸のせいだろう。亭内は暗かった。目が慣れ視界が戻るのにしばらくかかる。
そして視界が完全に回復するよりも前に、二人へ声をかける者がいた。
「あら、シエスタじゃない」
「ジェシカ? ずいぶん早いのね」
「今日は私が当番なの。開店前掃除の」
「ジェシカ? ずいぶん早いのね」
「今日は私が当番なの。開店前掃除の」
友人、というよりは姉妹のように彼女たちは会話を交わす。と、ジェシカと呼ばれた少女が
オーフェンを見て、若干驚いた声を上げる。
オーフェンを見て、若干驚いた声を上げる。
「彼が例の? なんだか聞いてたのと雰囲気ちがうけど」
「いや、俺はただの同僚だ。彼女の本命は別にいる」
「オーフェンさん!」
「いや、俺はただの同僚だ。彼女の本命は別にいる」
「オーフェンさん!」
慌てた様子でシエスタが叫ぶ。それを悪戯気に笑いながらもオーフェンは黙り、数歩後退して
みせた。
オーフェンはその後、彼女たちの会話に参加せずに亭内を眺めて時間を潰す。ただ、やはり
幾らかの声は耳に入ってきた。それによると、どうもシエスタはジェシカから借りていた本を
返すためにここへ来たらしい。先程の覚悟を内心詫びながら、それでもオーフェンはどこか
清々しい思いで佇んでいた。
みせた。
オーフェンはその後、彼女たちの会話に参加せずに亭内を眺めて時間を潰す。ただ、やはり
幾らかの声は耳に入ってきた。それによると、どうもシエスタはジェシカから借りていた本を
返すためにここへ来たらしい。先程の覚悟を内心詫びながら、それでもオーフェンはどこか
清々しい思いで佇んでいた。
唐突に召喚され、唐突に学院の用務員となった。だが、それにしてはずいぶんと安定した
生活を維持できている。安定した収入に安定した食生活。そしてなにより、まともな会話の成立
する同僚。これまでの人生でささくれ立っていた魂が洗われていくような心地さえする。
俺のいままでの人生が上手くいかなかったのは、やはり周りの連中のせいだったのだなと一人
頷いていた、その時。
生活を維持できている。安定した収入に安定した食生活。そしてなにより、まともな会話の成立
する同僚。これまでの人生でささくれ立っていた魂が洗われていくような心地さえする。
俺のいままでの人生が上手くいかなかったのは、やはり周りの連中のせいだったのだなと一人
頷いていた、その時。
突然現れた異声が、オーフェンの脳髄を引き裂いた。
「あーーらシエスタちゃんお久しぶりー! やっとウチで働く決心がついたのかしらー!?」
「ああ、ええと、お久しぶりです。スカロンさんもお変わりなく」
「ああ、ええと、お久しぶりです。スカロンさんもお変わりなく」
突然に、唐突に。大男が現れた。背丈はオーフェンより頭一つ上だろうか。また腕も胸元も
厚い筋肉に覆われているため、凄まじい威圧感がある。いや、威圧感の理由はそんなものでは
ない。岩を荒く削ったような顔に施された繊細かつ大胆な化粧、および妙にタイトな服装による
ものである。そしてさらに、
厚い筋肉に覆われているため、凄まじい威圧感がある。いや、威圧感の理由はそんなものでは
ない。岩を荒く削ったような顔に施された繊細かつ大胆な化粧、および妙にタイトな服装による
ものである。そしてさらに、
「……なに、それ?」
渋面を隠そうともせずに、ジェシカがぐったりと呻く。彼女の指し示した先には、スカロン
なる大男の太股があった。肌色が見えている。ミニスカ姿だったので。
なる大男の太股があった。肌色が見えている。ミニスカ姿だったので。
「ああこれ? いいでしょう! ほら、ウチの娘たちからダンスとかやってみたいって意見が
あったでしょ。その時の衣装にどうかなーって。あ、サンプルとして色違いのを四着作ってる
最中だから、もうちょっと待ってね」
あったでしょ。その時の衣装にどうかなーって。あ、サンプルとして色違いのを四着作ってる
最中だから、もうちょっと待ってね」
言いつつ、スカロンはくるりと可愛らしい仕草で(少なくとも仕草そのものは)一回転する。
ぎりぎりではためき、ぎりぎりで見えなかった。
さりげなく視線を逸らす少女達に気づいた様子もなく、スカロンは笑顔を向け――そこで、
ようやく見慣れぬ一人の男がいることに気がついた。
ぎりぎりではためき、ぎりぎりで見えなかった。
さりげなく視線を逸らす少女達に気づいた様子もなく、スカロンは笑顔を向け――そこで、
ようやく見慣れぬ一人の男がいることに気がついた。
「あら? あらあらあら!? やだぁ、だぁれこちらの殿方は? 野性味溢れた素敵な方
じゃない。シエスタちゃんのお友達?」
じゃない。シエスタちゃんのお友達?」
全ての声を聞き流しながら、オーフェンは、愛について考えていた。
愛。自己愛、家族愛、隣人愛。愛とはかくも崇高な概念である。だが、その内実を一言で
完全に表せた者はなく、定義もまた曖昧だ。これは多義的で複雑な概念であることの証左であり、
普遍的な定義が出来ないのも当然といえる。そしてアガペー、ストルゲー、フィーリア、エロス
といった愛の差異にまで思考が深まったあたりで正気に返った。
愛。自己愛、家族愛、隣人愛。愛とはかくも崇高な概念である。だが、その内実を一言で
完全に表せた者はなく、定義もまた曖昧だ。これは多義的で複雑な概念であることの証左であり、
普遍的な定義が出来ないのも当然といえる。そしてアガペー、ストルゲー、フィーリア、エロス
といった愛の差異にまで思考が深まったあたりで正気に返った。
「……し、」
「し?」
「し?」
スカロンが小首を傾げながら、オーフェンの唇から漏れ出た母音を繰り返す。その直後。
「死、ねぇぇぇぇぇぇ!!」
全力で叫びながら全力で駆け、全力で踏み込みつつ全力で固めた右拳を全力で突き出した。
悲鳴を上げる間すらなく、スカロンは滅茶苦茶に転がり壁にぶつかって停止する。静寂がしばし
世界を支配した。
その中で、ぽつりとオーフェンは囁く。
悲鳴を上げる間すらなく、スカロンは滅茶苦茶に転がり壁にぶつかって停止する。静寂がしばし
世界を支配した。
その中で、ぽつりとオーフェンは囁く。
「……悪は去った」
「何でよ!?」
「なにっ!!」
「何でよ!?」
「なにっ!!」
床に横たわったまま、顔だけを上げて叫ぶスカロンに、オーフェンは驚愕の声を返す。そして
顎下の汗を手の甲で拭いながら、構えた。いつもの自然体に近い構えではなく、重心を前方に
傾けた、完全な戦闘態勢だった。
顎下の汗を手の甲で拭いながら、構えた。いつもの自然体に近い構えではなく、重心を前方に
傾けた、完全な戦闘態勢だった。
「殺人打法、寸打による心臓打ちを受けてなお無傷とは――さすが、異世界の魔王」
「なんでいきなり魔王にされてんのよ私!」
「いまさら韜晦するとはな。俺は1年ほど前に魔王はスネ毛丸出しのミニスカ姿に違いないと
確信している」
「ぜんっぜん訳分かんないわよ! それにほら、見なさい!」
「なんでいきなり魔王にされてんのよ私!」
「いまさら韜晦するとはな。俺は1年ほど前に魔王はスネ毛丸出しのミニスカ姿に違いないと
確信している」
「ぜんっぜん訳分かんないわよ! それにほら、見なさい!」
スカロンが埃をはたきながら立ち上がり、びしりと自分の脛を指し示す。
「ほら、これを履くためにちゃんと剃ったんだから!」
「なにっ!!」
「なにっ!!」
再び驚愕の叫びを上げ、戦慄に背を濡らしながら後方へ小さく跳躍し、間合いを離す。
そしてしばらくの沈黙の後、
そしてしばらくの沈黙の後、
「つまり大魔王なわけだな」
「ちっがーーう!!」
「ちっがーーう!!」
ほとんど泣きそうになりながらスカロンが喚くが、オーフェンは一切構わない。
「そうか、きっと俺はこのために、この世界へ召喚されたんだ」
「なに悟ったみたいな顔してるのよ!? 全然意味が分からないけどそれ絶対勘違いだから!」
「……やかましい」
「なに悟ったみたいな顔してるのよ!? 全然意味が分からないけどそれ絶対勘違いだから!」
「……やかましい」
ぼそりと、それまでの熱に浮かされたような口調から一転して、怨念のこもった語気で
オーフェンは呟く。そしてそのままつかつかとスカロンの下へ歩み寄り、胸倉を掴み上げて、
オーフェンは呟く。そしてそのままつかつかとスカロンの下へ歩み寄り、胸倉を掴み上げて、
「ここでもか!? ここでもてめえみたいなのがいるのか!? 男が女言葉でしゃべるな
スカートを履くな手術するな女になるなぁ!! そういうのがやりたきゃきっちり死んで
生まれ変わってからやりやが――」
スカートを履くな手術するな女になるなぁ!! そういうのがやりたきゃきっちり死んで
生まれ変わってからやりやが――」
ごつんと、ひどく重々しい音が響いた一瞬後、オーフェンが崩れ落ちる。酔客の乱暴な扱いに
耐える頑丈な作りの椅子を両手で担ぎながら、ジェシカがシエスタへ話しかけた。
耐える頑丈な作りの椅子を両手で担ぎながら、ジェシカがシエスタへ話しかけた。
「なんというか、とてもユニークな同僚さんね」
「オーフェンさん、過去に何かあったのかしら?」
「オーフェンさん、過去に何かあったのかしら?」
オーフェンが意識を取り戻してから行った会合の後、オーフェンとスカロンの間で妥協点が
諮られることとなった。
諮られることとなった。
「ええー、今後俺の半径五メイル以内に近づくことを禁止します。近づく際は呼吸を止めて
体温を二十二度以内に抑えること。また、周囲の景観に体色を変化させるか、体細胞を変異させ
可視光線の反射角度を歪曲させた場合は可とします」
「あなた、最後まで私のこと人間扱いしないつもりね」
体温を二十二度以内に抑えること。また、周囲の景観に体色を変化させるか、体細胞を変異させ
可視光線の反射角度を歪曲させた場合は可とします」
「あなた、最後まで私のこと人間扱いしないつもりね」
日が没してから数刻ほど経た時間。オーフェンはマチルダの私室にいた。昼間に購入した
品々をマチルダから渡されていたリストと見比べながら、机の上へ並べていく。
品々をマチルダから渡されていたリストと見比べながら、机の上へ並べていく。
「ああ、ありがと。手間をかけたわね」
「気にするな。釣りが貰えると聞いたから厳選してきたぞ」
「気にするな。釣りが貰えると聞いたから厳選してきたぞ」
バイトを禁止されている子供みたいな台詞ね、と内心思いつつも口には出さず、視線を足元へ
落とす。ベットの上で肩膝をつきながら、彼女は足の爪を切っていた。ぱちりぱちりと規則的な
音が鳴る。
落とす。ベットの上で肩膝をつきながら、彼女は足の爪を切っていた。ぱちりぱちりと規則的な
音が鳴る。
「んー、よし、全部揃ってるな。じゃあ部屋に戻るわ」
「あ、ちょっと待って」
「あ、ちょっと待って」
怪訝そうに見返すオーフェンへ、
「それ。貸して」
爪切りを持ったままの手で示す先には、オーフェンが買ってきた品の一つがあった。耳飾や
指輪といった装飾品や化粧品の中では少し浮いている品である。それは、優美な白い鞘に収め
られた、一振りの短刀だった。
言われるままに柄を向けて渡すと、彼女は枕元へ放ってあった小さな杖を手に取り、何事か
呟き始める。呪文の詠唱ではあるのだろうが、何の魔法を発動させるためのものなのかは
オーフェンには分からない。
詠唱が止む。マチルダは短刀を再びオーフェンへ渡し返した。
指輪といった装飾品や化粧品の中では少し浮いている品である。それは、優美な白い鞘に収め
られた、一振りの短刀だった。
言われるままに柄を向けて渡すと、彼女は枕元へ放ってあった小さな杖を手に取り、何事か
呟き始める。呪文の詠唱ではあるのだろうが、何の魔法を発動させるためのものなのかは
オーフェンには分からない。
詠唱が止む。マチルダは短刀を再びオーフェンへ渡し返した。
「何をしたんだ?」
「固形化の魔法をかけたの。これでその短刀は錆びないし、多少心得がある程度メイジでは、
錬金することもできない」
「こっちの魔術は……なんというか、実に生活に優しいな」
「固形化の魔法をかけたの。これでその短刀は錆びないし、多少心得がある程度メイジでは、
錬金することもできない」
「こっちの魔術は……なんというか、実に生活に優しいな」
永続する魔術を人が扱えるということに、わずかな感慨を覚えつつ、オーフェンは片手で
短刀を玩ぶ。と、
短刀を玩ぶ。と、
「それ、あなたのよ」
「……?」
「……?」
不意打ちのように告げられた台詞に、短刀を玩んでいた手が止まる。数回目を瞬かせてから、
改めて短刀を眺めやる。
白い柄、白い鞘。鞘には控えめな、しかし繊細な銀細工が施されている。刀身は掌二つほど。
片刃である。優雅で女性的な、率直に言ってあまり自分にはふさわしくない代物だった。
改めて短刀を眺めやる。
白い柄、白い鞘。鞘には控えめな、しかし繊細な銀細工が施されている。刀身は掌二つほど。
片刃である。優雅で女性的な、率直に言ってあまり自分にはふさわしくない代物だった。
「ほらこの間、火使いのメイジに襲われた時に助けてくれたでしょ。そのお礼」
いつもより早い口調で告げるマチルダへオーフェンは顔を向けるが、彼女は爪きりの作業に
戻っていたため、視線は合わない。ぱちりぱちりと、規則的な音が再び狭い室内に鳴る。
その彼女の様子は、オーフェンの見間違いでなければ、
戻っていたため、視線は合わない。ぱちりぱちりと、規則的な音が再び狭い室内に鳴る。
その彼女の様子は、オーフェンの見間違いでなければ、
――どうも、照れているらしかった。