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モンハンで書いてみよう 砦蟹編 - (2007/08/09 (木) 12:15:35) のソース
私ことマザリーニ枢機卿は目の前に降臨するその物体に反応を返すことが出来なかった。 出来る事があるとすれば数日前に自分がした進言を撤回したいと思った事くらいである。 進言の内容は『アンリエッタ王女の使い魔召喚の儀式の実施』。 これは構想中のゲルマニアとの同盟や、アルビオンでの貴族共の反乱を睨んだ示威行動。 ドラゴン等の上級使い魔を殿下が召喚してくれれば、嫁がせる時の価値が少しでも高くつくと思ったからだ。 勘違いしないで貰いたいが、私は常にトリステインの事を考えて行動している。 普通の使い魔でも異国に旅立つ殿下の心の支えになるやも知れないと言う思いもあった。 「使い魔を持つのは子供の頃から憧れだったんですの」 殿下もこの進言に同意して頂き、王宮から程近い広い草原で行事の一つとして行われる運びとなった。 だが余り大きく宣伝してカエルか何かだったら物笑いの種に成りかねない。 故にお披露目は後に取っておき、衛士隊や一部の貴族のみが見守るしめやかな儀式になったのだ。 だと言うのに……こんな『巨大な』使い魔では誤魔化しようが無い。 広すぎるほど取られた草原の一角を埋め尽くすように広がる魔法陣。 それが強い光を放ち誰もが一瞬目を逸らし、再び目を向ければ……見たことが無いほど巨大なドラゴンの頭骨が落ちていた。 それだけでも異常事態だ。もちろん使い魔が骨と言う事も有ってはならないスキャンダルだろう。 だがそちらの方がまだ良かったのではないか?と私は若干考えないでもない。 なんと頭骨が動き出したのだ。正確に言えば頭骨を被っていた『モノ』が動き出した。 頭骨を動かすのは強靭な六本の節足。その長さは真中で折り畳まれていても圧倒的。 前の一対の足は大木でも両断できそうなハサミになっている。 背中に頭骨の口等が向いており、本来ならば脳などが収まっている空洞部分から辺りを見渡しているのはこれまた巨大な複眼。 口は何でも噛み砕き食べる事ができそうな恐ろしいサイズの顎脚。大きく伸びた触覚が辺りを興味深そうに窺っている。 「なんだ……これは?」 「あら? マザリーニはこれを知らないのですか?」 「私はこのような生物はトンと存じません……殿下はご存知で?」 私はこれでも博識で知られている。ドラゴンの鱗の数から街娘の流行歌まで目を光らせてきたつもりだ。しかしながらこんな巨大な生物は知識に無い。 それを知っているとは……私は姫殿下を甘く見すぎたのかもしれない。 「これは……『カニ』です」 「はぁ?」 笑顔で不思議なことを言い出した姫殿下に私は思わず礼儀を忘れた疑問の声を上げてしまった……コイツ、頭大丈夫だろうか? 「恐れながら殿下……カニは龍の頭骨など被っておりません。その前にあのような巨大な頭骨を被れるほど大きくないものと存じます」 「何を言っているのですか、枢機卿? 子供の頃ルイズと遊んだ小川に居たカニもこんな感じでしたよ?」 『そんな訳ねえだろうが!!』と叫んでしまうのを私は年よりも老けて見える顔を精一杯顰めて耐え抜いた。 これをカニだと信じて疑わない目の前の少女がこの国を背負っているのかと思うと、胃が痛くなってくる。 「しかしですな……小川にあのような大きさの生物は生息できないかと……」 「ならアレですね、海から来たんです。海は広いんですよ? マザリーニ」 ヤバイ……真面目にキレそう……このままでは見境無くこの愚かを通り越して不思議な王女殿下を正座させて説教してしまいそうだ。 そんな私の神経を逆撫でする様にカニ?が背負った頭骨が巨大な口を開き、咆哮を上げる。 咆哮? それは変だ……なにせ骨なのだ。動く筋肉も無ければ息を吸い込む器官も無い。 それが動いてなおかつ吼えるだと……本体の筋肉と癒着していて、背中には呼吸器系が……まさか一種の魔獣かナニカか? 「ギャ~! ハサミが~!」 「誰かが挟まれたぞ!」 「グリフォン隊のワルド子爵だ!」 「ルイズ……もし僕がカニから逃げられたら結婚しよう……グハッ!」 「ワルド~!! ワルドが食べられた!!」 グラグラ歪む視界の向こうで、覚えがいい部下がカニっぽい何かに挟まれて、その大穴のような口に放り込まれている。 彼は閃光の二つ名を持つこの国でも一二を争う腕利きメイジだ。それが何の抵抗もできずに餌になったと言うのか? この国が駄目なのか、あのカニっぽい何かが規格外に強いのか…… 「あらあら、皆さん楽しそうですわね」 ……駄目なのはコイツだ。先王には申し訳無いが、貴方の娘は色々と駄目です。 「じゃあコントラクト・サーヴァントをしてきますね?」 「……? ワルド子爵が口に放り込まれるのを見ていらっしゃらなかったですか?」 「見てましたよ? だからこそ契約するんです。今なら彼を吐き出してくれるかもしれません」 ……ついでに一番強いのもこのトンチンカンな王女殿下のようだ。もうこの人が何を言っているのか理解できない。 友達と遊びに行くようなスキップで巨大なカニ(もうカニと言う事で良い)に向かっていく彼女を留める前に、私は余りのストレスに意識が吹き飛んだ。 「むぅ……」 「あっ! 目を覚ましましたか? マザリーニ」 薄っすらと開いた目には私を心配そうに覗き込んでいる殿下の美しいお顔が映った。 背中に有るのは柔らかいベッドの感触、外から差し込むのはオレンジ色の光。何処かで見たことがある室内の調度品から、自室であることが推測できる。 「突然気を失ってとても心配したのですよ?」 「申し訳ありません、殿下。どうやら年には勝てんようです」 「もう! まだまだ貴方には頑張ってもらわなければな今日はゆっくり休みなさい」 周りには誰も居らず、倒れたことを心配して付いてくれていたらしい殿下に、思わず私の口調も砕ける。 何時に無く穏やかな雰囲気に安息を感じていたのだが、嫌なことを思い出して顔を顰めた。 無視するにはその存在は大きすぎ、私はおっかなびっくり殿下に聞いてみた。 「殿下、その……先程の巨大なカニらしき生物はどうなりました?」 「アァ、彼女でしたら……」 彼女?……あれはメスだっただろうか? むしろ何でメスだと解ったのだろう? 不意に姫殿下は大窓を開け放たれ、何かの名前を叫ばれた。 「トリエラ~」 その声に反応するのは、先程聞いた気がする骨を擦り合わせたような咆哮。 ヌッと伸びてきた人を千切れる程巨大なハサミ。そこには巨体に比例して大きな契約のルーンが浮かぶ。 さらに脚を伸ばしているのだろう、高い位置にあるこの部屋を悠々と見下ろす複眼まで覗く。 「トリエラったらお茶目さんで、中々ワルド子爵を吐き出してくれなかったんですのよ?」 殿下は差し出されたハサミを愛しそうに撫でまわし、さらにはチョコレートまで差し出す。 絶妙な力加減でチョコレートは壊れる事無く、ワルド子爵を飲み込んだ口へと運ばれた。 「□□□□□□□!!」 「まあ?……甘いモノが好きなのね? 今度はクッキーにしましょうか?」 喜びを表しているらしい呻き声に、殿下の楽しそうな声が重なり……私はもう一度意識を手放した。 ちなみにこの謎の巨大甲殻生物の名前はシェンガオレン。 歩くだけで地震を発生させ、背中に背負っているのは巨大な老山龍の頭骨。 ルートを決めて徘徊する性質があり、その進路上にあるものは村だろうと排除する。 だがそんな事はトリステインを纏めるマザリーニ枢機卿には関係が無く、問題はこの巨大生物の対処である。 『こんな巨大なカニっぽいものを連れた姫が嫁げるのだろうか?』 それが当面の間、彼の胃を痛める最大の要因と成った事は間違いない。 後に『カニの惨劇』と呼ばれた戦がある。 攻め入ってきたのは不沈と歌われたレキシントン号を中心とした空中艦隊・竜騎士隊に援護されたアルビオン レコン・キスタの上陸軍三千人。 相対するのは空中からの援護が受けられないトリステイン軍二千人……とアンリエッタの使い魔であるカニ……っぽい何か、名前はトリエラ。 アンリエッタがカニっぽい何かを召喚したと言う情報はアルビオンまで届いていた。 だがその正確な大きさまでは伝わっていなかったのだ。ただ普通のカニよりも『僅かに大きい』と言う事しか…… だが実物を見てようやくレコン・キスタは大きな過ちに気が付いた。それは余りにもデカ過ぎたのだ。 何時もは折っている足を伸ばせば山程ある巨体は、メイジの魔法も戦艦の大砲も受け付けない頑強な甲殻に覆われている。 歩くだけで地震を起こすソレが進んでくるだけで上陸軍は総崩れ。 振り上げられたハサミは低く飛んでいた空中戦艦を容易く捕らえて引き千切り、背負っている竜骨の口からは強力な酸を吐き出し全てを溶かす。 ある種の虐殺とも取れる地獄絵図の形成に両軍問わず、カニ恐怖症を発祥する者が溢れた。 それと同時にトリステインには砦蟹シャンガオレン トリエラを崇める宗教が起こったりしたが、まあそれはどうでもいい話。 この優秀すぎるカニ……使い魔のお陰でアンリエッタは同盟を維持したまま戦略結婚を解消でき、幸せに暮らしたそうな?