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ゼロの天使試験-6 - (2007/10/13 (土) 21:23:21) のソース
まだ朝のもやが晴れないような時間、ルイズ達は準備に取り掛かっていた。 ちょっとした食糧、傷薬、予備衣服。荷物は最低限にしなければならない。 その理由は、 「タバサ、準備いい?」 「もう来る」 問いに対する簡潔な答とともに、タバサが上を杖で指差す。風が巻き起こり、もやを吹き飛ばす。 そこに現れるは、風竜の幼生であり、タバサの使い魔シルフィード。これに乗って空から向かうつもりであった。馬より圧倒的に早いが、荷物を積むには少し向かないだろう。 ましてや6人も乗ることを考えると、負担は減らした方がよいかもしれない。 小さな竜が大地に降り立ち、一人二人とその背中に乗り込んでいく。 「あれ、ヒナはどこにいるのよ?」 「誰かに呼び出されてたみたいよ?」とキュルケが答えるが、 「おかしいわよ、それ」 「何でよ、ヴァリエール」 「ヒナミナは私達ぐらいしか知り合いがいないのよ? 後はシエスタかミスタ・コルベールぐらいだろうけど、今の時間を考えたらやっぱりおかしいわ」 と答えの無い問答になろうとしていた時、別の方向から答は飛んでくる。 「彼女なら、天界から呼び出しが来たとかで、後で追いつくから先に、って言ってたよ」 「ホントなの、ギーシュ?」 「何を言ってるのか意味が分からなかったけど、『そういえば分かります』ってね。 それでこれを君に渡すように言われた。『貴方は見えないでしょうから、絶対このまま指を離さないで下さい』って」 そうして見せられた、何かを掴んだような指の先には、一枚の真っ白な羽根があった。本人は何を掴んでいるか分かっていないようで、手にかかる力が心許無い。 「なるほど、そういう事ね」 「知ってるの、ユン?」 「天使の羽根は、その天使への意思伝達に使えるのよ。 持っていればその天使の状況が大体分かるし、遠くでも天使側からだけど会話が出来るようになるのよ。ただ、信頼してる相手しか渡さない」 「そう……じゃ、ギーシュ。預かっておくわ」 「何が何だかよく分からないけど、役に立てて何よりだよ」 やれやれと肩をすくめ、自分の座る場所へと移動するギーシュ。他の面々も移動し、いざ出発へ。 「目標、アルビオン! 行くわよ!」 「あんたが言ってどうするのよ、ヴァリエール!」 「……出発」 ただ一人マイペースなタバサの声にシルフィードは反応し、やがて翼を広げて大空へと駆け上って行った。 その姿を下から眺める、羽根帽子の男がいた。 幻獣グリフォンにまたがり、貴族達からその優雅さにほうとため息を吐かれるようなその様子を見せる男は、飛んでいった竜を見上げてやれやれと肩をすくめた。 「まさか置いていかれるとはね」 その名は魔法衛士隊隊長、ワルド子爵。アンリエッタよりルイズとの同行を頼まれていたのだが、生憎頼まれたのは姫がルイズに頼んだ後のこと。 彼女はやはり友人だけでは心配になったのだろうが、ルイズはこの追加の同行者など知らないし、姫や子爵もまさか空を飛んでいくとは予想外だった為、起こしたすれ違いだった。 竜の姿は既に見えない。仕方ないと言いながらグリフォンを走らせるその顔は、奥に何かの企みを隠していた。 ******************** ルイズ達が飛び立った同時期、雛水は一人、学院の人気の無い場所にいた。 呼ばれたまま向かった先に待っていたのは、天界とは関係無いだろう、と思わされるような男だった。 中性的でアルカイックスマイルを浮かべた美青年の整った姿は、天使と言ってもいいかもしれない。 だが、まず羽根が無い。そしてそれ以上に有り得ないことに、彼の衣服はとても奇怪なものだった。 天使が着る装飾華美なものではなく、この世界で貴族が着るものでもなく、ましてや平民が着る服でもない。それは、『我々の世界に』よくある、学生の制服のような衣服だった。 何者か分からない。怪しい。 「初めまして、と言うべきでしょうか、雛水さん」 更に怪しい。初対面のはずの相手に名前を言われ、いつでも剣を抜けるよう身構える。 「やっと、この世界に来る事が出来ました。遊羽の状態は、どうですか?」 「あなたは、何者ですか? 何故天界の事を?」 「失礼。僕は……アタラ。アタラと、お呼びください。 天界とは、関係ありますし……無いともいえます」 スマイルを微塵も崩す事無く、何を考えているか分からない顔のまま、彼は名乗った。 「何故、遊羽の事を?」 「そうですね……彼女が帰れなくなったのは、僕も少し責任がありますから。 まさか、他の世界に行っているとは思わなかった」 「他の世界?」 「うすうす気づいているでしょう。この世界が、我々の想像していた場所ではない事を」 それは雛水も考えていた。彼女は去年試験を受けて一発合格したのだが、その時の世界―――現代地球と今の世界とは違いすぎる。 「原因は、今回の試験直前にこの惑星が『入れ替わった』ことに対応出来なかった事ですね。 だから遊羽は、地球に行かずにこの、ハルケギニアに行ってしまった。天界との次元の壁が歪み、最近安定するまで帰還が出来なかった」 「入れ替わった?」 「はい、地球と、未来の地球―――いや、ハルケギニアが。 詳しい事は省略しておきます。何故なら、それがロマンティックだからだそうです」 意味が分からない。 「直接的には関係がありませんので、気に留めなくて結構です。 ところで、遊羽はもう1ヶ月経つと思いますが、大丈夫ですか?」 「……」 「警戒しなくても大丈夫です。僕も、天使の羽根の事は知っています。 そうですね……もし、彼女が黒い羽根になって苦しむ事があれば、これを飲ませてください」 と渡されるのは、一つの布袋。中にはよく分からない薬草が山ほどと、小瓶が一つ入っていた。 「薬草は、食後に一回、それで痛みは抑えられる筈です。ある程度なので、治すわけではありません。進行を抑えるだけです。 小瓶は、それだけしか作れませんでしたが、天使にも効く薬です。使い方は飲ませるだけです。 地上での名前は、エ…エ…エリ…エー…すみません、忘れました」 驚く。特に前者、今までそんな薬があるとは、聞いた事が無い。たとえ和らげるだけでも、そんな薬があったとは。 騙されているのか? いや、たかだか天使一人騙しても、利があるとは思えない。 何を、考えている……? そんな葛藤を見切ったのか、アタラは軽く微笑んで話す。 「安心してください、神に誓いましょう。僕は、遊羽の味方です。 神の名において、もう一度」 宣誓をする姿に少なくとも悪意は感じられない。その感覚を信じる事にした。 「もう一つ、いいですか? 本当に―――天界へ帰るつもりですか?」 「当然です。何か問題でも?」 「いえ……何もありません。 できれば、帰らないことをお勧めしたいのですが……」 後半の呟きは、雛水には届かなかった。 何を言ったのか疑問に思いながらも、雛水はアタラに別れを告げ、合流する為に空へ飛び立つ。 その様子を見ても彼は驚きすら見せない。本当に天使のことを知っているような彼は、姿を消しながら呟いた。 「神に誓う、か。僕が神に誓うのは、皮肉としか言いようが無いですね」 ******************** 「わぁ、この竜、ヒナよりはやーい!」 タバサやキュルケを除いて竜に乗る経験の少ないメンバーばかりだったが、中でも遊羽のはしゃぎっぷりは群を抜いていた。 「ヒナミナより速いって、どういう事?」 「昔、おんぶで空飛んでもらった事あるの。その時より速いって事よ」 「それは当たり前」 平坦に喋るタバサのツッコミが痛かった。 「人間のサイズで人間乗せて飛ばしたら、遅いに決まってるじゃない」 「むしろ飛んだ方が凄いわ」 「うん、それは重いね」 「総ツッコミって酷くない!?」 あたしの味方はいないの? と周囲に同意を求め直すが、皆あっちの方に視線を外す。こっち見て。 「さて、今回の目的を確認するわよ。ヴァリエールは後で何を頼まれたか知らないけれど」 ドキリと音が聞こえそうなぐらい分かりやすく動揺を隠さないルイズとギーシュを無視して、キュルケが仕切り出す。 「あたし達の当初の目的はアルビオンに上陸して、ユンとヒナミナを天界に帰す事。いいわね? まずは今日中にラ・ロシェールに到着、宿を取って、次の日に空からアルビオンへ。何か質問は?」 「ツェルプストー、天界って何だい? 僕とヴァリエールは―――」 「はいはい、そこらは後で説明してあげるわ。他には?」 「はぁい、キュルキュル先生!」 「先生は却下。はい次」 「何も聞かずにスルー!?」 「質問」 「はい、タバサ」 「もう一人、来るの?」 簡潔にまとめ過ぎた質問。つまりは、雛水は後から来ると言っていたが、どうやって追いついて来るのか、と長く友人をやっているキュルケは理解した。 が、本人も知らないので丸投げした。 「どうなの? ヴァリエール」 「一応、ラ・ロシェールとアルビオンまでの大まかな地図と予定を書いて渡したわよ。 空飛べるから、直線での道を教えたし」 「それだけじゃ、あたし達がどこにいるか分かんないでしょうが。予定は未定なんだから」 「あ、それなら大丈夫。ヒナぐらいの天使なら、他人の天使の波動を大体探知出来るから」 そうでもないと、一つ一つが広い世界の中で、試験者を探し当てて監督する事は出来ない。 尤も、街レベルは確実だが、そこから捜すのは苦労する必要がある。それを補正する為に、雛水は自分の羽根を探知機代わりにして渡した。 その説明に事情を知る者は納得し、続いて誰も質問を発しない事を確認し、目的の細部を詰めて行く。 「ユン、ちゃんとアルビオンに着いたら帰り方は分かるのね?」 「あたしは知らないし、出来ないのよ。ヒナ任せだから」 「じゃあ保留。ヴァリエール、あんた私達に隠して用事あるみたいだけど、何なのよ?」 再び動揺を隠せないルイズ。 言いたいのは山々だし、わざわざついて来てくれたキュルケ達に言わないのは筋違いだと思ってはいるのだが、一方友人であり姫でもあるアンリエッタから、他言無用と釘を差されている。 その葛藤を理解したのか、それとも先に話を進めた方が早いとしたのか、キュルケは比較的早く折れた。 「分かったわ、質問を変える。それは、ユンと同じくらい、大事な事なのね?」 縦に頷く。 「それは、言えないのね?」 縦に。 「両方ともやる気は、あるのね?」 気合いを入れて、縦に一回。 「それさえ分かればいいわよ、質問終了」 「……ごめん、ツェルプストー」 「いいわよ。むしろ素直に謝るあんたが不気味よ」 「それはどういう意味よ!」 「……やれやれ」 友人達の様子に肩をすくめるタバサに、竜はきゅいきゅい鳴くだけだった。 「ねぇ……ユン。結局試験って、どうなるのよ?」 「試験、かぁ……」 今の今まで考えてなかった、と言わんばかりで、遊羽は反芻する。 「正直、今回は失敗かもね。幸せが何なのかって問いには、答えは出せなかったし。 けど……」 遊羽は周りの視線が集まる中、じっと目を閉じ、胸に手を当てて少しずつ言葉を作って行く。 「あたしは、この世界に来て、良かったって思ってる」 「ユン……」 「キュルキュルは賑やかだし、タバサっちは物知りだし」 「結局直らなかったわね、そのあだ名」 「……」 「デルフーは面白いし、ギーシュはおっちょこちょいだし」 「相棒、さびしーぜ!」 「お、おいおい……」 「それに、ルイズっちは優しかったし」 「や、やめなさいよ。照れるじゃない」 「後、しーちゃんやレゥレゥ達にはお別れ言えなかったけど、それはお願いね」 瞳を開き、ゆっくりと、頭の中に皆の姿を刻み込むように見つめ続ける。 「本当はもっと、人間していたかったけど。必ずお別れはあるから。 あたし、みんなと会えて良かった。それが多分、あたしの幸せだと思う」 遊羽は泣かない。天使は、あまり泣くようには出来ていない。 その代わりのように、まずルイズが静かに涙を流す。 もらい泣きして、理由も知らずギーシュが大声で泣いた。 キュルケは落ち着かなさそうにふらふらして、タバサは俯いたり見つめたりを繰り返す。 全員多少なりとも、彼女との別れを惜しんでいた。 「わっ……泣かれても困るわよ。まだ、今別れるんじゃ無いんだし」 「そう……そうね。まだ最後じゃないんだし。 とことん、付き合うわ」 涙を拭い、前を向く。 皆の意志は、遠くアルビオンへと向かっていた。 ********************** ノンストップ休み無しで飛行した甲斐あり、夕焼けが青く塗りつぶされようとしている刻限に、ルイズ一行はラ・ロシェールに到着した。 「シルフィード、ご苦労様。ゆっくり休んで」 明日も頑張ってもらう風竜に各々が労いの言葉をかけ、とりあえずは高級な宿で一泊する事にした。 全員がここまでの予定通りの行程に安堵している。破滅が、ひたひたと足音を立てて迫り来るのも知らずに。 一旦各々は解散し、ルイズは遊羽と先に宿に入ることにした。 貴族や金持ち御用達の宿を正面から見上げ、その大きさと飾られた調度品、彫刻や顔が映りそうな床に遊羽は圧倒された。 「凄いわねぇ……」 「ラ・ロシェールはトリステインとアルビオンを繋ぐ玄関口だからね。 人の行きかう場所は、色々な物やお金が集まるしね。こういう高級建築も、少なからずあるわよ。 天界には、派手な建物は無いの?」 「偉い天使の人が働く所は凄いけど、普段の住居は小さな一軒家が普通だから。 天使は欲が少ないし、旅行がそもそもないから、大きな店とか宿屋ってのも無いし」 右端から左端まで自ら光を発しそうな存在感の宿に、珍しいものを見た遊羽は目を輝かせ、 ――――――あれ? 「さぁ、入るわよ、遊羽」 「…………」 「どーした、相棒?」 「……えっ? あ、うん、入ろっか」 少し怪訝な顔をしたものの、ルイズはやっぱり疲れたのかしら、と気にする事無くチェックインに向かった。 二人の少女が宿に入ったところを、白仮面の男は遠くから、誰も気に止めない雑踏から見つめていた。 それは偶然だったが、その偶然を利用するべく、見つめた。ただ何をするでもなく、見つめるだけ。 それが目的だとでも言うように、男は二人の少女―――特に桃色の髪の方を集中的に確認し、続いて宿の名を覚えた後、何もせず、何も残さぬまま、マントを翻して消えた。 去ったのでは無く、文字通り消えた。 空に日の光が消え、宿が一番賑わう夜が訪れる。一階の酒場で多くの酔っ払いが賑わう中、今更ながら疲れが出て来たルイズ達五人はクタクタの状態でくつろいでいた。 チェックインしただけのルイズと遊羽でそれだから、ショッピングに行ったキュルケとタバサ、ナンパをしにいったギーシュの元気の良さは何なんだと思わないでもなかった。 尤も、今は全員疲れていたが。 「今日は早く寝て、明日に備えましょうか」 のそのそとスープを運ぶキュルケの提案に、反対する者はいなかった。 「……遊羽?」 そんな中、ルイズは気付いた。全員大なり小なり食物を取っているのだが、遊羽が口に運ぶ様子が一切なかった。 「遊羽、どうしたのよ?さっきから全然食べてないじゃない」 「う、うーん……ちょっと食欲が無くて」 「少しは口に入れといた方がいいわよ」 「栄養は大切」 「そうね……じゃ、ちょっと食べ―――っ!」 一度は掴んだスプーンが手から滑り落ち、スープの中に飛び込む。仲間の視線を一身に受け、頭をかきながら遊羽は照れて頭をかいた。 「あらら……やっぱり疲れてるのかな」 「まだ寝るまで時間はあるから、慌てないでゆっくり食べなさい」とは言ったものの、じわじわとルイズは言い知れぬ不安が訪れるのを感じた。 それから30分ほど体をぼおっとさせ、周りが更に五月蠅くなった頃を機に、ようやく部屋に行くことを決心した。 フロントから鍵を持って来ていたギーシュが、立ち上がった皆に鍵を手渡して行く。 「キュルケとタバサが相部屋で、僕は男一人で一部屋。ルイズとユンも相部屋でいいよね」 「いいわよ」 「ふぅ……今日はさっさと寝ましょ。竜に一日中乗るだけでも、疲れるのねぇ」 それはその後ショッピングに行ったからじゃないのかと全員はキュルケに心中で突っ込むが、声を出す気力は無い。そんな事よりふかふかのベッドに飛び込みたい欲求が勝っていたのだ。 「タバサ、行きましょうか」 「ん」 「僕も失礼」 「私も……遊羽?」 順々に立ち上がり、酒場から出て行こうとして、相方の気配がついて来ないのに気付く。 振り返ると、遊羽は椅子から立ち上がってはいた。立ち上がったまま、立ち尽くして固まっていた。表情に色が無く、顔色が青を通り越して白ささえ感じる。 ルイズの中で、先程感じた不安が急速に膨れ上がった。 「ユン! ちょっとユン! 大丈夫なの!?」 「な、何?」 「どうしたんだ?」 駆け寄るルイズの尋常で無い様子に異変を読み取り、キュルケ達も踵を返して近寄る。 最も近くにいたルイズが遊羽の頭、首筋などを触るが、体温は変に熱かったり冷たかったりはしない。だが、冷や汗をかく姿はとても普通では無い。 「おい! 相棒! 相棒!?」 「ユン! 起きてる!? 意識ある!?」 何度かの呼び掛けに漸く気付いたように、遊羽はのっそりと瞳を主へと向け、 「……あ、ルイ、ズ――――――」 瞼を落とし、糸の切れた人形のように崩れ落ちた。 「ルイズ! 何があったの!?」 「分かんないわよ!」 「これは……やべぇ! やべぇぞ! 娘っ子!」 「そんなの、見たら分かるわよ!」 「ただのやばいんじゃねぇ! 『絶対に』やばいんだよ! 相棒!」 「絶対に……っ!?」 デルフの言葉に何か感づくモノがあったのか、ルイズは急いで遊羽の身体を裏返し、デルフをどけて―――持っていないときは背中で縛って固定していた―――背中を見ようとした。 何をしているのか? そこにいた全員の考えが一致する。 無理も無い。その中で、ルイズだけが知る事実が、そこにあるからだ。絶望かそうでないか、その分かれ道が。 「あ……」 果たして、道は決まった。 「あ……うぁ……そんな……」 思わず、呻き声となる。その場で叫んでしまいたかったが、不審に思われないが為に堪える事で、余計に苦しみを上げてしまった。 答えは、出てしまった。 『試験終了後も地上に残れるのです。しかし―――全てが、程無くして死にました』 『兆候は、羽根が真っ黒になります。そして、全身に痛みが走るそうです』 遊羽の背中には、ルイズしか見えない、見習い天使特有の小さな羽根があった。 絹のような白さは何処へ消えたか、夜の闇より暗い黒へと、色を変えていた――――――。