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マジシャン ザ ルイズ 3章 (7) - (2007/08/25 (土) 10:19:50) のソース
マジシャン ザ ルイズ (7)王の遺言 シルフィードを駆り、ガリア王国を目指したタバサ。 彼女が目的地に到着すると、出迎えたのは荒れ果て、いたる所に激しい戦いの傷を残す屋敷の姿であった。 傍目にも分かる屋敷の損傷以上に目を引くのは、本来なら花壇が在ったはずの中庭。 使用人達が手入れをしていた緑の庭はそこには無く、むき出しの地面と、すり鉢状のクレーターが残される惨劇の現場となっていた。 タバサが中庭を横切り、警戒しながら屋敷内部に侵入すると、幸いにすぐペルスランの姿を見つけることが出来た。 憔悴し、すっかりやつれてしまったペルスランであったが、タバサの姿を認めると幾ばくかの生気を取り戻したようであった。 「ど、どうか、お逃げください、お逃げくださいませシャルロットさまっ!」 「何があったのか、最初から話して」 「悪魔、あの悪魔の仕業でございます!」 ここ最近の出来事を支離滅裂に並べ始める老執事の言葉を、タバサは時に頷き、時に説明を求めながら根気良く聞いていく。 老執事ペルスランの話を要約すると以下のようなことが分かった。 まず最初に、ジョセフ王の知人を名乗る謎の男が現れた。 次に、彼を狙う北花壇騎士の刺客たちが次々に現れては、その男に倒されていった。 更には先日、巨大な人形と、エルフが現れ、その男に戦いを挑んだが、これも結局は敗れてしまった。 中庭の惨状はその際の爪痕であるらしい。 男はそれから暫く滞在していたが、今日の朝になって、ジョセフ王に会いにいくと言い残して姿を消した。 また、タバサの母とペルスランは無事で、使用人達は男が来て直ぐに暇を出したのでこれも無事とのことである。 「シャルロット様が、あの男の去った直後にお戻りになられたのは、きっと始祖ブリミルの加護にございます。 どうか!どうかシャルロットさま!あのような男を追いかけるのはお止めになり、今すぐトリステインにお戻りくだされ!」 「お姉さま、どうしたの?なんだかとっても怖い顔してるの、きゅいきゅい!」 タバサの使い魔、韻竜のシルフィードがタバサに問いかける。 現在、母とペルスランの無事を確認したタバサは、王都へと進路を向けていた。 「なんでもない」 勿論、何でもないわけが無い。 自分以外の北花壇騎士を全滅させ、あまつさえエルフを倒した男。 そんな恐ろしい敵を相手に、どのように戦えばいいのだろうか。 ペルスランの話の中に、何か攻略の糸口が無いかと淡い期待を持っていたのだが、戦いに関しての説明が抽象的で、参考に出来るものではなかった。 「悪魔………」 タバサは持てる知識を総動員し、シルフィードがリュティスのヴェルサルテイル宮殿に到着するまで考え続けた。 「父上はここにはいないわ」 ヴェルサルテイル宮殿、プチ・トロワ。 部屋へ通されたタバサにかけられたのは、プチ・トロワの主人にして北花壇警護騎士団長であるイザベラの、そんな言葉であった。 「あなた達を使うように命じたのは父上よ、詳しい話は私も知らないわ。 サン・マロンでもどこへでも行って、勝手に父上に聞くことね」 国王ジョセフは現在、プチ・トロワに隣接するグラン・トロワを留守にしており、海沿いの町サン・マロンに最近建造された『実験農場』を視察に行っているらしい。 タバサがイザベラから聞くことが出来たのは、その程度の情報だけだった。 イザベラ自身も、自分が長の立場をとっている騎士団が壊滅状態に陥っていることには不審を感じているらしい。 普段なら必ず行われているイザベラの熱烈な『歓迎』もなりを潜め、今は親指の爪を齧りながらタバサを苛ただしい目で睨むばかりである。 すぐさま取って返し、シルフィードを駆ってサン・マロンへ向かうタバサ。 先ほど同様、すぐに思考の世界に埋没する。 だが心に渦巻いたのは謎の男についてではない。 国王ジョセフ一世を『守る』ということについてである。 王ジョセフの命令で差し向けられた暗殺者、その悉くを葬り去り、そして今、正に王に迫ろうとする男の存在。 彼を倒すということは、それ即ちジョセフを『守る』ということになるのではないだろうか。 父を謀殺し、母に毒をあおらせた、憎むべき相手。 本当にそのような相手を守る価値があるのか。タバサの中で答えは出ている。 否、と。 もしも任務を放棄しようものなら、ジョセフの気まぐれで生かされている自分と母の命に危険が及ぶかも知れない。 だからと言って、それが仇であるジョセフを守る理由になるのか。 一方で、もしジョセフが殺された場合、自分と母の身はどうなるだろうか。 タバサはそれらのことを考えながら、サン・マロンへと急ぐのであった。 サン・マロン『実験農場』。 ワルドは目的地であるそこに、今まさに侵入者として立っていた。 ふらりと観光にでも来た様に、軽い足取りで正面から立ち入ろうとするワルド。 勿論、不審者を通さぬことを生業とする門番はこれを留めようとしたが 結果は一陣の血風となって現れた。 正面から正々堂々、力による侵略。 これがワルド打った、ガリア王への一手であった。 次々に現れる兵士達、それを一袖でなぎ倒しながら突き進む魔人。 風の槌、風撃、雷撃、鎌鼬。 それらが信じられないほどの凶悪さで荒れ狂い、壁を、柱を、人間を破壊し、精練された兵士達を無力化していく。 「な、何なんだあいつは…」 鍛え上げられた己の剣が弓が槍が、そして魔法が一切通じない。 「あ、あ、あああ、、、」 先ほどまで笑い合って話していた仲間の屍を踏み潰しながら、薄笑いを浮かべながら迫ってくる無傷の―――バケモノ。 「来るな、来るな、来るな、来るな来るな来るなくるなくるなああああああああああああああああああ!」 その狂景を目撃した、兵士の一人が恐慌状態に陥った。 いかに訓練された兵士達であろうと、最初の一人が恐慌状態に陥れば、それが全体に波及するのにそう長い時間を必要としなかった。 「は、はははははははははははははははは!!」 狂笑を撒き散らしながら、ワルドはガリア王に向かい一直線に突き進む。 開けた場所が、目の前に広がっている。 古代のコロシアムを思わせるような、円形のつくりであった。 その中心に一人の男、ワルドが立っている。 闘技場の全景を見渡せる貴賓席、そこには待ちくたびれた観戦者、ガリア王ジョセフ一世の姿があった。 「おお!!我が対局手よ!良くぞ来てくれた、ガリア国王ジョセフ一世は君を歓迎する!」 「これはこれは、このジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド、お招きに預かり光栄です」 貴賓席にあって両手を広げて歓迎するジョセフ、闘技場にあって大仰に貴族の礼をとるワルド、当事者にとってみればこれ以上無い茶番である。 「良くぞここまで辿り付いた、何なりと褒美を取らせよう! ワルドよ、貴君の望みを申してみよ。余の命か?王の椅子か?」 「いえ、ガリア王、そのような小さなものではございませぬ」 「ほう!そなたは余の命が小さいと申すか!それでは何が望みと申すのだ?」 ワルドは小さく笑うと、一言で答えた。 「土のルビー」 答えを聞いたガリア王が、一瞬唖然とした顔になる。 「土のルビーか!確かにこれは王家の秘宝であるが、まさかこれの為に余の命を狙おうとするものがいるとはな! 何と世界の広いことか! 良かろうジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド、見事余を楽しませたのなら土のルビー、自由に持って行くがいい!」 ガリア王が叫び、さっと手を一振りすると西と東に設けられた柵が開き、中から四体の剣士人形ヨルムンガンドが現れた。 ワルドの口元が猛禽類のように釣り上がり、口元から犬歯がむき出しになる。 「行くぞガリア王、これより見せるは冥土の土産、しかと目に焼き付けろ」 タバサがその場に到着した時、宴は最高潮を迎えていた。 火の玉を吐き出す爆炎の竜巻、それに巻き込まれるようにして翻弄される巨大な鉄のゴーレム。 それが目の前に広がる光景であった。 竜巻の中を飛ぶ米粒ほどに見える小さな何か、『それ』が飛び、取り付かれたゴーレムの腕が切断される。 そして『それ』が切断された巨大な腕を恐るべき力で持ち上げ、未だ荒れ狂う竜巻の中、別のゴーレムに叩きつける。 何という圧倒的な「パワー」。 サイズを超えた常識外の力がゴーレムを引き千切り、投げ飛ばし、貫き、砕き、破壊放題、壊しつくす。 あまりに埒外な出来事に目を奪われていたタバサだったが、一つの異変に気が付いた。 円形闘技場、先ほどまで何も無かった空中、そこに一つの火の塊が生まれていたのだ。 太陽のように恵みをもたらす火とは根本的に質を異にする不吉な火。 破壊の象徴としての火。 その火が地上に向かって放たれる瞬間、竜巻は消滅し、『それ』も飛びのいた。 残されたのは四つのゴーレム。 降るように現れた白い火の柱は、正確に対象物であるゴーレムだけを溶解させていく。 一瞬。 とても長く感じる一瞬の後、コロシアムには破壊の爪痕だけが残されていた。 次々に巻き起こる、理解不能の出来事。 それらに思考が追いつかず、その場にへたり込んでしまうタバサ。 しかし、憎むべき仇の声が彼女を現実に引き戻した。 開けた場所が、目の前に広がっている。 古代のコロシアムを思わせるような、円形のつくりであった。 その中心に一人の男、ワルドが立っている。 闘技場の全景を見渡せる貴賓席、そこには待ちくたびれた観戦者、ガリア王ジョセフ一世の姿があった。 「おお!!我が対局手よ!良くぞ来てくれた、ガリア国王ジョセフ一世は君を歓迎する!」 「これはこれは、このジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド、お招きに預かり光栄です」 貴賓席にあって両手を広げて歓迎するジョセフ、闘技場にあって大仰に貴族の礼をとるワルド、当事者にとってみればこれ以上無い茶番である。 「良くぞここまで辿り付いた、何なりと褒美を取らせよう! ワルドよ、貴君の望みを申してみよ。余の命か?王の椅子か?」 「いえ、ガリア王、そのような小さなものではございませぬ」 「ほう!そなたは余の命が小さいと申すか!それでは何が望みと申すのだ?」 ワルドは小さく笑うと、一言で答えた。 「土のルビー」 答えを聞いたガリア王が、一瞬唖然とした顔になる。 「土のルビーか!確かにこれは王家の秘宝であるが、まさかこれの為に余の命を狙おうとするものがいるとはな! 何と世界の広いことか! 良かろうジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド、見事余を楽しませたのなら土のルビー、自由に持って行くがいい!」 ガリア王が叫び、さっと手を一振りすると西と東に設けられた柵が開き、中から四体の剣士人形ヨルムンガンドが現れた。 ワルドの口元が猛禽類のように釣り上がり、口元から犬歯がむき出しになる。 「行くぞガリア王、これより見せるは冥土の土産、しかと目に焼き付けろ」 タバサがその場に到着した時、宴は最高潮を迎えていた。 火の玉を吐き出す爆炎の竜巻、それに巻き込まれるようにして翻弄される巨大な鉄のゴーレム。 それが目の前に広がる光景であった。 竜巻の中を飛ぶ米粒ほどに見える小さな何か、『それ』が飛び、取り付かれたゴーレムの腕が切断される。 そして『それ』が切断された巨大な腕を恐るべき力で持ち上げ、未だ荒れ狂う竜巻の中、別のゴーレムに叩きつける。 何という圧倒的な「パワー」。 サイズを超えた常識外の力がゴーレムを引き千切り、投げ飛ばし、貫き、砕き、破壊放題、壊しつくす。 あまりに埒外な出来事に目を奪われていたタバサだったが、一つの異変に気が付いた。 円形闘技場、先ほどまで何も無かった空中、そこに一つの火の塊が生まれていたのだ。 太陽のように恵みをもたらす火とは根本的に質を異にする不吉な火。 破壊の象徴としての火。 その火が地上に向かって放たれる瞬間、竜巻は消滅し、『それ』も飛びのいた。 残されたのは四つのゴーレム。 降るように現れた白い火の柱は、正確に対象物であるゴーレムだけを溶解させていく。 一瞬。 とても長く感じる一瞬の後、コロシアムには破壊の爪痕だけが残されていた。 次々に巻き起こる、理解不能の出来事。 それらに思考が追いつかず、その場にへたり込んでしまうタバサ。 しかし、憎むべき仇の声が彼女を現実に引き戻した。 「おれの、負けか………だが黄泉での語り草の種は手に入れた、これで満足して逝ける」 闘技場を見渡す貴賓席、そこに椅子に座ったままのガリア王ジョセフ、それを見下ろす形で謎の男の姿があった。 「随分と潔いのだな、ガリア王」 「はは、未練がないと言えば嘘になる。 だが、四匹の竜を戦わせるという、おれの目的よりも面白いものを見せつけられては、素直に退場する外あるまい」 「そうか、それがお前の望みか。…ならば望みを果たして逝くは本望か」 「その通り、この後にもっと面白そうな展開がありそうだが、そこにおれの席が無いんじゃあ、生きていても仕方が無いではないか」 静かに瞳を閉じるジョセフ、ゆっくりと手を持ち上げる人の姿をした悪魔。 「おっと、良ければ最後に聞かせてくれ。 ジャン・ジャック・ド・ワルド、君の望みはなんだい?」 持ち上がる手がその質問で止まる。 「僕の望み、…それは手に入れた力を使って聖地の回復すること。 そのついでにハルケギニアを支配してやってもいい」 「そうか、それは中々高い望みだ。…しっかりと頑張りたまえ!」 ニコリと少年のように無邪気な笑顔を浮かべるジョセフ。 ワルドの手の先に、白と黒の輝きが灯る。 「待っていろシャルル!おれも今からそちらにいくぞっ!」 そう叫んだ、ジョセフが内から 『咲いた』 紅い、花が咲いた。 憎い怨敵、ガリア王ジョセフ一世が、タバサの前で血塵となって消え去った。 父を殺し、母を狂わしめた仇敵。 それがタバサの前で、満足しながら、最高の笑顔で、死んだ。 タバサの中で、積もり積もったものが、少しずつ瓦解していくのを感じた。 すべての元凶の「死」、それがタバサから思考する力を奪っていた。 だから 「やあ、今のショーはどうだったかな? ゆっくりと感想を聞かせてもらえないかな、シャルロット・エレーヌ・オルレアン」 男が目の前に立つまで気付くことが出来なかった。 「!!」 完全に停止していた思考を再建し、今最も優先して行わなければならない行動を開始する――逃亡。 タバサはその小さな体の全力で来た道を走る、走る、走る。 振り向かない、振り返ればアレがいるかも知れないという恐怖で、体の芯が痺れる、構わずに走る。 「シルフィード!」 入り口で待機させていた使い魔は言いつけを守り、礼儀正しく座っていた。 「あ、お姉さま、早かったのね、あのねあのね、聞いてよお姉さま」 「早く!空!」 普段決して慌てない主人が息を切らせて背後を気にしている。 そして小さく震えている主人の手。 この段になって能天気な韻竜も、タバサの尋常ではない様子に気がついた。 「きゅいきゅい!しっかり掴まっててね!」 飛翔。 後先を考えない全力の逃走を開始する。 力の限り翼を打ち、速度を高めるシルフィード。 幼体とはいえその速さは、外の竜種であろうとも容易に追いつくことを許さぬ速度である。 だが、振り返ったタバサが見たのは、徐々に追いつこうとする小さな影の姿であった。 竜。 赤い竜。 火竜と思しきそれが、猛烈な速度で追いかけてきているのだった。 速度を上げるように催促しようとするタバサ。 しかしシルフィードがこれ以上無く、限界の速度で飛んでいるのを感じ、口をつぐんだ。 そうしているうちに、徐々に距離が縮まる。 500メイル、100メイル、50メイル、20メイル、5メイル。 そして真横にぴったりと寄り添った火竜。 そのシルフィードの倍はあろうかという巨体の背中に男がいた。 ごうごうを周囲の風が轟音を響かせる中、ワルドが大声で話しかけてくる。 「ははは、最近は逃げられてばかりだね! ミス・シャルロット、僕のことは覚えていてくれているかな。 ワルド、ルイズの婚約者ワルドだ! おっとそうだ、君も自己紹介をしたまえよ!」 誰に促したものか、ワルドが語りかける。 対して、それに答えたのはワルドが騎乗している火竜であった。 「(Z-->)90°-- (E--N2W)90°t = 1」 そう言った竜の額には、輝くルーンが刻まれていた。 こうして、後にハルケギニア戦役と呼ばれる大戦が動き出したのであった。 ―――ギーシュ回顧録第四篇