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ゼロのぽややん 9 - (2007/11/05 (月) 13:10:53) のソース
[[back>ゼロのぽややん 8]] / [[top>ゼロのぽややん]] / [[next>ゼロのぽややん 10]] 翌朝。 学院の秘宝、破壊の杖がフーケにより強奪されるの報により、教師陣を含めた上層部では、てんやわんやの大騒ぎになっていた。 責任追及から、果ては罪のなすりつけ合い。 ……醜いもんだ。 アオは、右手を左手で動かないように固定して、湧き上がる衝動を抑えながら、顔をしかめた。気を抜くと、目の前の汚物を一掃したくなる。 事の顛末の目撃者として待たされている身としては、ここを離れるわけもにもいかないのが辛かった。 せめて視線だけでもこの不快なものから逸らせようと、自分と同じように待たされている三人、ルイズ、キュルケ、タバサに目を向ける。 キュルケはそ知らぬ顔で、自分の髪をいじっている。 タバサは……いつもの無表情で、正直なにを考えているかわからない。 だが。 「ルイズ……」 下を向き、唇を噛み締めている主人に対し、かける言葉が見つからなかった。 「まったく、いい大人がそろいもそろってみっともない」 開口一番、呆れたように教師陣を見回しながら、オスマン氏が現れた。 オスマン氏の登場に、騒ぎたてていた者たちが、バツが悪そうに顔を見合わせる。 「オールド・オスマン!」 「ん?」 「すみません! わたしたちが至らなかったせいで、盗賊を取り逃がしてしまいました!」 思いつめた表情で頭を下げるルイズ。だが、オスマン氏はにこやかに笑いながら、ポンポンとその頭を叩いた。 「ミス・ヴァリエール。そう気負うもんではない。聞けばここに進入したのは、かの『土くれ』。 君ら生徒に怪我がなかったのを喜ぶべきじゃろ」 「でも」 「むしろ責任があるとすれば、この魔法学院が賊に襲われる事など無いと、高をくくって何の対策も講じなかった我らにこそある」 オスマン氏は、ジロリと教師たちを睨む。 「それでミスタ・コルベール。肝心の『土くれ』、フーケの足取りはどうなっておる?」 「それが、ミス・ヴァリエールたちの目撃証言と現場を徹底的に検証したのですが……残念ながら」 「手がかり無しというわけか……」 「いえ、手がかりならあります」 「おお、ミス・ロングビル」 全員の視線が、現れたミス・ロングビルに集まる。 「ミス・ロングビル! どこに行っていたんですか! それに手がかりって一体?」 「申し訳ありません。今朝早くにこの惨状を知り、調査していたんです。そして見つけました、フーケの居所を」 「おおなんと!!」 コルベールが素っ頓狂な声を上げて驚く。 「彼女は誰なの?」 事情がわからないアオが、ルイズに耳打ちする。 「ミス・ロングビル。オールド・オスマンの秘書よ」 「優秀なんだ」 「みたいね」 オスマン氏に報告するミス・ロングビルの堂々たる姿を、ルイズは羨望の眼差しで見ていた。 「さて、ミスロングビルのおかげで、フーケの居所も発覚した。 そこで私は捜索隊を編成したいと思う。我こそはと思う者は杖を掲げてほしい」 「まず王宮に報告して、応援を要請すべきでは?」 コルベールの言葉に、オスマン氏は目をむいて怒鳴った。 「なにを言っておる!! 事は緊急を要するのに、王宮からの応援など待っておったら、フーケに逃げられてしまうわ! なによりこれは我ら魔法学院の問題じゃ! 我らの手で解決するのが道理よ!」 その言葉を聞いてミス・ロングビルがうっすら笑ったのを見て、アオは目を細めた。 「さあ、フーケを捕まえて名を上げようという貴族はおらんのか!」 オスマン氏が皆を鼓舞するよう、声を上げる。 だが、誰も杖を上げない。皆、尻ごみしていた。 ルイズは考え込むように俯いていたが、オスマン氏の「貴族」という言葉に反応し、意を決して顔を上げた。 杖を掲げようとするが、しかし、アオの右手に押さえられた。 心外そうな顔をするルイズに対して、首を振るアオ。 「お願い」 真剣な目でアオを見るルイズ。 この目は、知っている。けっして折れず、諦めることのない目。 ああ、あの娘と同じ目だ。 アオは溜息を吐くと、手を引いた。 この目に、勝てる気がしない。 肩をすくめるアオに目配せしたあと、ルイズは高々と己の杖を掲げた。 魔法温存のために用意された馬車に揺られながら、捜索隊は一路、フーケのアジトを目指す。 捜索隊の顔ぶれは、ルイズ、アオ、キュルケ、タバサ、それに案内役のミス・ロングビルである。 ルイズが杖を掲げたあと、キュルケはルイズには負けられないとしぶしぶ、タバサは友達が心配だからと、それに続いた。 結局、教師たちの中から杖を掲げる者は無く、それどころか、やれ生徒だ、能力に不安だと、口だけ出す始末だ。 オスマン氏は教師たちを一喝し、 タバサは若くしてシュヴァリエの称号を持つ騎士、 キュルケは炎の魔法の強力な使い手、 ルイズは……まあその将来有望なんじゃない? と曖昧に、 そしてドットとは言えメイジを倒した使い魔のアオ(興奮したコルベールが「ガンダー……」と口走ろうとするの、慌ててオスマン氏が口を塞いだ。)、 その実力、素性を語り、反対意見を黙らせた。 「魔法学院は、諸君らの努力と貴族の義務に期待する」 こうして、ルイズたちは送り出されたのだった。 屋根の無い荷台のような馬車の御者台席にアオとミス・ロングビル、荷台側にルイズたち他三人が座る格好だった。 手綱は、ミス・ロングビルが握っている。 最初、アオも一緒に荷台にいたのだが、キュルケがしつこくちょっかいをだすため、ルイズに移動させられたのだ。 アオを背に、ルイズがキュルケに睨みをきかす。 つまらなそうにキュルケは、黙々と手綱を握るミス・ロングビルに話しかけた。隣にいるタバサは本を呼んでいるため、話し相手になってくれそうもなかったからだ。 「ミス・ロングビル……、手綱なんて付き人にやらせればいいじゃないですか」 その言葉にミス・ロングビルはにっこりと笑った。 「いいのです。わたくしは、貴族の名をなくした者ですから」 キュルケはきょとんとした。ルイズも意外そうな顔をし、タバサは本からわずかに顔を上げた。 「だって、貴女はオールド・オスマンの秘書なのでしょ?」 「ええ、でも、オスマン氏は貴族や平民だということに、あまり拘らないお方です」 「差しつかえなかったら、事情をお聞かせ願いたいわ」 ミス・ロングビルは優しい微笑を浮かべた。 だが目は、それを言うことを頑なに拒んでいる。 「いいじゃないの。教えてくださいな」 興味津々といった顔のキュルケ。 「よしなさいよ。昔のことを根掘り葉掘り聞くなんて」 咎めるルイズに、頷くタバサ。 キュルケは、自分一人が悪者のような雰囲気に憮然とすると、足を組んで空を見上げた。 途中で馬車を降り、徒歩で森を抜けた先、開けた場所が広がった。 真ん中に、元は木こり小屋だったのだろう、朽ちた廃屋がある。 「わたくしの聞いた情報だと、あの中にいるという話です」 ミス・ロングビルが廃屋を指差して言った。 「作戦」 タバサの言葉に、皆が首を縦に振る。 いや、一人だけ横に振った者がいた。 アオだ。 「その必要はないよ」 アオの言葉に不思議そうな顔をするタバサ。 「僕と」 がしっと、ミス・ロングビルの腕を掴む。 「え?」 「ロングビルさんとで様子を見てくるから、皆は周囲を見張っていて」 にっこり微笑みながら、有無を言わさずに引っ張る。 「え、え、えええ!?」 アオの見た目とは裏腹な力に、ミス・ロングビルは抵抗する事もできずに引きずられていった。 「……行っちゃった」 鼻歌を歌いながら、ミス・ロングビルを引きずるアオを、三人は呆然と見送った。 小屋の中は一部屋しかなく、床など所々に穴が開いていて地面が見えていた。他には崩れた暖炉とテーブル、その横にある大きめの箱―チェストだけだ。 「い、一体何のつもりですか!」 小屋の中にまで連れてこられて、ようやく開放されたミス・ロングビルが、掴まれていた箇所をさすりながら非難の声をあげる。 「すいません。どうしてもあなたと二人っきりになりたくて、ちょっと強引にやらせてもらいました」 アオは笑って頭をかきながら、後ろ手にドアを閉じた。 「ねえ、ロングビルさん……いや、フーケさんって言った方がいいかな」 「え? まさかそんな冗談を言うために、わたくしをここに?」 ミス・ロングビルは愛想のいい笑顔を浮かべながら、訳がわからないといった様に首を振る。 「別にしらを切ってもかまいませんよ。ただ、ここでロングビルさんとして死ぬだけですから」 冗談にしか思えないのだが、あまりに凄惨な言葉に、ミス・ロングビルの顔が引きつる。 「な、なに言ってるんですか、まったく! ……幸いフーケもいないようですし、皆さんを呼びましょう」 ドアに向かおうとした彼女の眼前を、何かが通り過ぎた。 切れた髪の毛が数本、宙に舞う。 ミス・ロングビルは、壁に突き立ったナイフを見て、凍りついた。 「そこから動かないでほしいな。あと大声もダメ。 わかるでしょ? この狭い空間なら、あなたが杖を取り出すよりも早く、このナイフが刺さる」 そう言ってアオは、袖口からナイフを取り出すと、ミス・ロングビルにその切っ先を向ける。 「な、なら証拠は? わたくしがフーケだという確たる証拠があるんですか!」 「証拠、ね。まあ、無くもないかな」 アオは、鞘から剣を抜くと、床に突き刺して自立させた。 「ねえデルフ。あの晩の盗賊はこの人かな?」 ミス・ロングビルが、剣に喋りかけるアオの行動に、眉をひそめる。 「あーどうかな」 「なっ!?」 剣から発せられる声に、ようやくその正体に気づく。 「インテリジェンスソード!?」 デルフは、しばらく考えをめぐらすように唸っていたが。 「わりぃ、相棒。こいつのような気もするんだが、なんせあん時の状態が状態だったからな。断言できね」 「そっか」 べつだん落胆する様子もなく、アオが頷いた。 ミスロングビルの声に怒気がこもる。 「まさかそんなあいまいな言葉が証拠だとでも言うつもりですか!」 「いや別に。もしかしたらって、今思いついただけだから。期待はしてなかった」 「ひでぇ!」 笑顔であっけらかんと言うアオに、デルフが泣きそうな声をあげる。 「さっきも言ったけどね。あなたが否定しようが、肯定しようが関係ないんだよ。 まあ、あえて言うなら……嘘つきの勘、かな」 アオが自嘲気味に笑う。 理屈じゃないって事かい。 ミス・ロングビルが諦めたように首を振ると、口調ががらりと変わる。 もうそこにいるのはミス・ロングビルではなく、盗賊のフーケだった。 「いつから私がフーケだと思ったのさ」 「あなたを初めて見た時からかな。うん」 「はっ! そんな最初から私だってお見通しだったて言うのかい。なら、なんでその時に、私を告発するなり捕まえるなりしなかった」 「それこそ、さっきあなたが言った通り、証拠なんて無かったんだ。 僕の言葉と、ロングビルさんとしてのあなたの言葉。信用されるのがどっちかなんて、言わなくてもわかるでしょ」 「ま、そりゃそうだわな」 デルフが相づちを打つ。 「それで、まあ、チャンスを待っていたんですけどね」 「まんまとお膳立てにのっちまったてわけか。私としたことが、やきがまわったね」 「おかげさまでこうやって二人きりになれた事だし、フーケの罠にかかって死んだ事にして、あなたを消そうと思っていたんですけど」 アオは言って困ったように肩をすくめる。 「私がこうやってまだ生きてる、って事は、どういう心境の変化だい?」 「あの馬車でのあなたの話。あれがどうしても気になって。あれだけが、嘘を感じなかった」 「はん、人の事情を詮索したいだなんて趣味が悪いね坊や……嫌だと言ったら」 「僕は、あなたに二つの選択肢を示しました。 言わずに死ぬか、言って万に一つでも生を拾うか。 選ぶのはあなただ」 「またずいぶんと、不自由な選択だな相棒」 「人生なんてそんなもんだよ、デルフ」 「ちげえねえ」 笑い合うアオとデルフ。 たく。なんなんだいこいつらは。 その選択を迫られている当の本人にとっては、笑う余裕などかけらも無かった。 目の前の男、あのルイズとかいう貴族の使い魔。 メイジを倒すほどの平民とは聞き及んでいたし、あの晩の動きから警戒もしていた。なのに道中の雰囲気からすっかり騙された。 こいつは、私が拒否すればためらい無く殺すだろう。 凄みも何も感じないのに、それだけがはっきりとわかった。 「……わかったよ。命には変えられないからね」 自らの過去を語る苦々しさに、フーケの顔がゆがむ。 だが、こんな所で死ぬわけにはいかなかった。 [[back>ゼロのぽややん 8]] / [[top>ゼロのぽややん]] / [[next>ゼロのぽややん 10]]