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サーヴァント・ARMS-04 - (2007/12/06 (木) 13:36:33) のソース
そもそものきっかけがあるとしたら、それは隼人が厨房で食事の世話になったお礼にケーキの配膳を手伝った事だろう。 短気ですぐ手が出るが、神宮隼人という少年は仲間思いで義に厚い人間だ。 だから寝床の世話になるからには不本意ながらも主人となったキュルケの身の回りの世話もするし、 食事の世話になった厨房で知り合ったシエスタという少女の手伝いも自分から申し出たのだ。 だがさっきも述べた通り、隼人は基本的に短気で、納得がいかないとすぐ噛み付くタイプだ。 だから親切心から拾った香水壜を持ち主だろう男子生徒に渡した事からその生徒が同級生と下級生の女の子と2股をかけていたことが発覚し、 その責任を生徒が隼人に押し付けようとした時も、隼人は容赦なく反論してみせたのである。 そしてそのまま双方引かず、今の『決闘』騒ぎに至る。 その男子生徒―――ギーシュ・ド・グラモンに(浮気がバレて平手打ちを食らったのは置いといて)1つ失敗があるとしたら、それは。 ……神宮隼人という少年を、容姿から『変わった服装のただの平民』だと判断した事だろう。 サーヴァント・ARMS:第4話 『決闘』デュエル 食堂での騒動から少し後の学院長室。 そこでは使い魔召喚の儀式に立ち会っていた色々と眩しいあの教師、ミスタ・コルベールが興奮した口調でオールド・オスマンに話していた。 「あの少年の左手に刻まれたルーンは、伝説の使い魔『ガンダールヴ』に刻まれていたモノとまったく同じであります!」 「で、君の結論は?」 「あの少年は『ガンダールヴ』です!それにですな、ミス・シェヴルーズによるとあの少年は『錬金』の講義でミス・ヴァリエールが爆発を起こした際、一瞬で自分の居た席からミス・ヴァリエールと自分を抱えて無事な場所まで運んでくれたそうです。 その身のこなしと速さは、疾風よりもなお速かったとか!」 「ふうむ・・・しかし彼は、ただの平民ではないのかね?」 オスマンが自慢の髭を撫でながらそう聞くと、コルベールの表情が鋭くなった。 その気配は大らかだが冴えない風貌の研究者肌の彼しか知らない他の生徒や教師達が見れば驚くだろう。 「いえ、それが医務室に運び込んだ際に左手のルーンのスケッチを取るのと一緒に『ディテクト・マジック』で彼を調べてみたのですが・・・」 ゴクリ、とつばを飲み込む。 「・・・彼らはおそらく、普通の平民ではありません」 「彼『ら』?それは彼の仲間だというミス・ツェルプストーとミス・タバサの召喚した少年達の事かの?」 「その通りです。いえ、彼らも私達と同じ人間なのは確かなのですし詳しい事は分かりませんが、何と言いましょうか。 我々の想像を遥かに超えた『何か』を、彼ら3人はその身体に宿しているのはまず間違いないかと」 「ううむ、そうなのか・・・」 唸ってそう呟く。普段の茶目っ気など『聖地』の果てまで吹っ飛んだ、重々しい唸り声だ。 深刻な雰囲気の沈黙が流れる。 そんな空気を、ドアのノック音が掻き消した。 オスマンの秘書のミス・ロングビルが入ってくる。 「何じゃ?」 「ヴェストリの広場で、決闘をしている生徒がいます。既に大騒ぎになっていて、教師だけでは止められないという事です」 深々と溜息を漏らす学院長。 「全く、暇を持て余した貴族ほど性質の悪い生き物はおらんわい。」 で、暴れとるのは誰じゃ?」 「1人はギーシュ・ド・グラモン。もう1人はミス・ツェルプストーの使い魔の少年だそうです」 一瞬でコルベールとアイコンタクト。 オスマンは頷くと、ロングビルに先を促した。 「教師達は決闘を止めるために『眠りの鐘』の使用許可を求めております」 「アホか。たかが子供のケンカを止めるのに秘宝を使う必要はあるまい。放っとけ」 「わかりました」 ロングビルが退出すると、2人は顔を見合わせてからオスマンは杖を振った。 壁にかかった大きな鏡にヴェストリ広場の様子が映し出され――――思わず、2人して仰け反った。 映し出された瞬間―――青銅で出来たゴーレムが、鏡いっぱいにどアップで飛来したからだ。 ヴェストリの広場は騒然としている。 今、一体何が起こった? 広場の中心でギーシュと平民が決闘を行っている。周りは観客の生徒達で溢れていた。 生徒達の大半は滅多に無い決闘を間近で見られる事に興奮し、魔法の使えない平民が貴族の魔法によって嬲られるだろう様にドス黒い期待を馳せていた。 そして始まる決闘。 平民の少年と対峙するギーシュが模造花の杖を振って青銅のゴーレム――ワルキューレを生み出す。 奇妙な構えを取って動かない平民に、ギーシュはワルキューレをまっすぐ向かわせて、持っていた剣を振りかぶり・・・ 次の瞬間にワルキューレは宙に舞い、頭から地面に叩きつけられて上半身を砕け散らせた。 平民には、傷ひとつ無い。 それは合気道の流れを組む、新宮流古武術の投げ技の1つ。 相手の動きと技の軌道を予測し、その動きと力を利用して数倍の威力で投げ飛ばす。 武術が殆ど発展も広まってもいないハルケギニアで、一目見てそれを理解できる人物はあまりにも少ない。 「何だ今の?」 「ギーシュのゴーレムが向かって行ったかと思ったら宙に舞ってて・・・」 「風の魔法?」 「でもアイツ杖なんて持ってないぞ?それに平民じゃないのか?」 混乱する観客。 何が起こったのか理解できない1人で歯噛みしているギーシュ。 そしてワルキューレを投げ飛ばした当の隼人は、グシャグシャに潰れたワルキューレを見てポリポリと頬を掻いていた。 「何でぇ、思ったより脆いじゃねーか」 「っく!舐めないでもらいたいね!まだこれからだ!」 再び杖を振ると、再び現れたワルキューレが今度は3体同時に襲い掛かる。 先頭のワルキューレが突き出した剣を半身で流すと、次に襲い掛かった2体目が剣を振り下ろす前に腕を掴み 足を払ってその勢いのまま1体目に背中から叩き付け、纏めて粉砕。 背後から襲い掛かる3体目。袈裟懸けに振り下ろされた剣を屈んで避けると足を払い、倒れた所で脚を振り下ろして頭部を踏み砕く。 この間、僅か3秒弱。 観客一同、唖然呆然としている。 「う、うあああああっ!」 自棄気味に叫んだギーシュが三度杖を振った。 今度のワルキューレは右手に長槍、左手には盾を持ったのが3体。 近寄って投げられるのなら、投げられないよう間合いの広い武器で近寄らせずに攻撃すれば良い。 槍を構えて並んで突っ込ませる。 それを見た隼人は――― 「うぉりゃあああぁっ!!」 ――――まっすぐ、ワルキューレよりも速く駆け出してから、跳んだ。 真ん中のワルキューレと空中で衝突間際、身体を反転させて後ろ回し蹴り。 直撃を食らったワルキューレは胴体から破片を撒き散らしながらもんどりうって倒れ、隼人が着地した時には左右の2体は空振って通り過ぎている。 今、隼人とギーシュの間に邪魔する物は何も無い。 隼人はすぐさまギーシュとの距離を詰めた。 ギーシュにこれ以上させない為だが、隼人の心配は杞憂である。 ギーシュが『錬金』で生み出せるワルキューレの数は7体が限度・・・今のギーシュの魔力はカラッケツだ。 隼人は知る由も無いが。 思わず尻餅をついたギーシュを隼人は胸倉を掴んで軽々と持ち上げる。 「言うべき事は分かってんだろうな?」 「ま、参った!参ったから許してくれ!」 情けない声でギーシュが叫ぶ。周りの視線が侮蔑のこもったものになるが、今はそんな事気にしている余裕などこれっぽっちも無いのだ。 隼人の目が怖い。怒っている。この目は明らかに怒っている。 だが今隼人が怒っているのは、ギーシュがケンカを売ってきた事に対してではない。 「それじゃあ―――ええっと、どこ行った?・・・あそこに居る泣かした子と、それからもう1人の子に謝って来い!」 「へ?」 隼人が指差した先には、観客に紛れて1人の少女の姿。 ギーシュの2股を知って泣いて去っていった下級生の子だ。 「たくよ、女なんか1人だけで充分だろーが。俺なんざ生まれてこの方色々あって彼女なんて作れた事ねーし、高槻なんか惚れた幼馴染救う為に外国まで一緒に追っかけてったってのによ・・・ ま、あれだな。彼女居ねー俺が言うのもなんだがよ、女作るなら2股なんてせずに1人だけに絞った方が良いぞ。でまあ、とことん大事にしてやるこった。わーったな?」 「わ、わかった・・・」 「うし、それなら今度また他に女作って泣かせた時は俺が鉄拳食らわせてやるからな!やるったらやるぞ!?」 「りょ、了解!!」 「なら良し!」 ようやく手を離す。 隼人が一部始終見て待ち構えていた涼達の下へやって来てから、ようやく決闘の終了を悟った観客が歓声を上げた。 「お疲れ様。でも隼人君、もう少しその短気な所どうにかした方が良いと思うんだけど・・・」 「わ、悪かったよ・・・でもま、楽勝だったぜ。エグリゴリの奴らの方が100万倍手ごわいっての」 「うーん、でもあれはあのギーシュって奴がそれぞれを全部自分で操ってたみたいだから、彼の指揮能力がもっと高かったら隼人も少しは手こずってたかもしれないな」 「ダーリンvv」 「うひゃあ!?」 素っ頓狂な声を上げる隼人。背後からキュルケに抱きつかれている。 いきなり抱きつかれたのに驚いたのであって、決して背中で押し潰されてる2つの温かくて普通よりも大きくて柔らかい物体の感触に驚いたのではない。 ……きっとそうだ。多分そうだ。 「な、なな何抱きついてんだ!?ってかダーリンてなんだ!?」 「凄かったわ!素手でギーシュを倒しちゃうなんて!痺れちゃったわ!そうよ、ハヤト、アナタに恋しちゃったわ!」 「ハア!唐突にんな事言われたって――ってだから離れろ!余計抱きつくな!うわ、服ん中に手ぇ突っ込んでんじゃねー!!」 「・・・大変そうだな、隼人」 「でも助けに行かないんだ・・・」 「いや・・・その、流石にああいうのは俺にもちょっと・・・」 「・・・色々と青い」 「青いのはアンタでしょうが」