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ゼロのロリカード-05 - (2008/07/26 (土) 23:37:26) のソース
#navi(ゼロのロリカード) 「待て」 アーカードはシエスタを庇うように金髪の少年の前へと立つ。 「なんだ、君は。給仕同士庇い合いかね?」 「そうだな、そういうことで構わん。たしか・・・ギーシュと言ったか」 不意に己の名前を呼ばれギーシュがまともに目をアーカードへと向ける。 「君みたいな平民に名を名乗った覚えはないが・・・」 と、そこで気付く。妙なメイド服を着ていてわかりづらいが、よくよく見ると召喚の儀と午前の講義とでニ度も見ている顔であった。 「ああ、ルイズの使い魔か。まったく、いよいよもって平民染みているようだねぇ、給仕なんてやらせるとは。 一体何を考えているんだか、でもプライドの高い彼女が自分の使い魔の平民らしさアピールするなんて考えにくいが・・・。 あはは、まさか内緒でやってるとかじゃないだろうね。平民とはいえ人間だ、ルイズには付き合ってられないとか? そりゃあそうだろうねえ、今日も教室を爆発させるしその後片付けをしていたんだろう。逃げ出したくなる気持ちも分からないでもないよ。 ルイズも見た目は悪くないんだが如何せん性格がね、生憎と僕の食指は動かない。 大体僕としては一人の女性だけを一途に愛するなんておかしいと思うわけさ、それは男としての器が足りていない証拠だ。 僕くらいになると女性の一人や二人、お付き合いしていて当然なのさ。そもそも慕ってくれる女性を無下に断るなんて僕が出来る筈が無いだろう。 モンモランシーもケティも僕は心の底から愛している、そこに偽りは存在しないのだよ。っと話が逸れてしまったな。 僕は早急に愛しのモンモランシーに弁解しに行かなくちゃいけない、ここで無駄な時間を喰っている暇はないのだ。 そもそもこれは僕とそこのメイドの問題であって君には関係な――っておい!!!」 アーカードはギーシュを無視し、シエスタから事情を聞いていた。 ギーシュは一人嘲笑の渦中、目を瞑って延々喋っていたので気付かなかった。 その様子が見ていて面白かったので他の皆は声を押し殺して笑っていたのである。 ギーシュが気付きそれにツッコむと、途端に笑い声が上がった。 「とりあえず、話を聞いた限りだと貴様の自業自得だろう。シエスタはただの親切心で壜を拾い上げただけなのだから」 アーカードはゆっくりとギーシュの目を見据えて理路整然と反論する。 周りからもそれに呼応して声が上がる。 「そうだそうだ」 「二股かけてるお前が悪いんじゃねーか」 ギーシュはプルプルと震えだす。アーカードはその様子を見て仕方が無いと言った面持ちでシエスタに告げる。 「仕方ない、善意とは言え迷惑を被るきっかけとなったのは事実。シエスタ、不本意かも知れんが今一度謝るんだ」 アーカードに促されシエスタは慌てつつも改めて謝罪をした。 「よし、これで解決だな。無駄な時間を過ごしてしまった、シエスタ残りを手伝――」 背を向けていたその肩を、ギーシュにグッと掴まれて強引に引き戻される。 「待ちたまえ」 「まだ何か用が?」 ギーシュは俯きながら笑い声をあげる。 「クク・・・君は貴族に対する礼を知らんようだな。平民の、それも使い魔の分際で。先刻僕を無視した挙句、あまつさえ勝手に話をまとめて終わらせようとは・・・。」 「これは失礼、しかし形はどうあれシエスタはけじめをつけた。そして貴様にも非はある。これ以上続けるのはナンセンスというものだ」 「そうだな。そこのメイドはもういい、だが僕はまだ君を許した覚えはない」 アーカードは嘆息をつき、ヒドく面倒臭そうに告げる。 「ケツの穴の小さい男だ」 その一言で尚一層周りから笑いが起こる。 「君には少し礼儀を教えてあげないといかないようだね。平民とはいえレディに手荒な真似はしたくはないが・・・僕にもプライドがある」 憤りを必死に体の内に抑え込みギーシュは告げた。その様子を見て思わずアーカードはニヤリと笑う。 「そうだな、少しばかり運動するのも悪くない。ついでに小僧に世間というモノを教えてやろう」 その様子を見ていたシエスタは怯えた表情でアーカードの服を引っ張る。 「ま・・・待ってください、元はと言えば私の所為です。アーカードさんには―――」 その言葉をアーカードが手で制し遮り首を左右に振る、ギーシュがそれに付け足すように言った。 「最早君は関係ないのだよ、給仕くん」 アーカードはその言葉に同意する。 「その通り。これは私の・・・そう、云うなればガキの喧嘩だ。今すぐ厨房の皆も呼んでくるといい、面白いものが見れるからな」 「いい度胸だ」 ギーシュもニヤリと笑う。 「クク・・・さぁ、おいで。遊んでやるよ坊や」 一触即発の空気になるが、ギーシュがそれを破り告げる。 「待て、貴族の食卓を平民に血で汚すわけにはいかない。ヴェストリの広場で待っている」 そういってギーシュは背を向け歩いていった。 やれやれといった面持ちでアーカードもそれに続こうとする、が遮られた。 「ちょっとアーカード!何やってんのよ」 ルイズが駆け寄ってきた、それに続きキュルケも。 ケーキは既に二人仲良く配り終えていたようだった。トレイとトングをアーカードの隣にいるシエスタへと渡す。 「見ての通りだ」 ルイズはうんざりとした表情を見せて呟く。 「勝手に決闘の約束なんかしちゃって・・・もう・・」 アーカードは顔を歪ませて笑う。 「安心しろ」 その表情と、その言葉に、異様な恐怖をルイズは覚えた。 そう、まるでアーカードを最初に召喚したときのソレであった。 ルイズはもしかしたら自分の杞憂はもっと別のところにあったんじゃないかと、この時半ば確信していた。 アーカード自身に危険が及ぶのではなく、それに相対する全ての存在に危険が及ぶのだと。 ◇ ヴェストリの広場は野次馬で溢れ返っていた。 食堂での騒ぎからの流れでそのまま来ている者、噂を聞きつけ現れた者、賑わっているのでとりあえず見に来た者。 それらが集まり大きな円を形作っていた。 「諸君!決闘だ!」 バラの花を投げ野次馬をギーシュは煽った。周囲から歓声が上がる。 いつの間にか普段着に着替え、腕を組み目を瞑っていたアーカードは、片目だけを開き問いかけた。 「決着は?」 「いずれかの戦闘不能か、降参の言葉を以て終了にしようじゃないか」 「りょーかい」 アーカードは指をポキポキと鳴らし、軽く構えを取る。 「そうそう、言っておくが僕はメイジだ。勿論魔法を使わせてもらうが・・・卑怯とは言うまいね?」 「私は一向に構わん」 ルイズは最前列で決闘の様子を見守っていた、近くにキュルケもいる。 「止めなくていいの?」 「もうここまできちゃったら、私が止めても聞かないわよきっと」 キュルケはそれ以上話しかけることはなかった。どちらを応援するでもなく、くだらないといった表情で見ている。 貴族と平民、彼我の実力差は火を見るより明らかだ。その根拠とは魔法の有無。 余程の技量差がない限り、平民はメイジには決して勝てない。 ギーシュと相対する少女が百戦錬磨の戦士か、と問われればそれは否だろう。 魔法がロクに使えないルイズが相手ならともかく、ギーシュがただの平民の少女に負ける道理はない。 野次馬連中もそれはわかりきっていた。求めるものは刺激、簡単な話、血が見たいのである。 人は群集心理でかくも簡単に狂気へと染まる。一方的な虐殺ショーは勉学に励む生徒達にとって絶好の刺激。 「僕の二つ名は『青銅』このワルキューレがお相手する」 そう言ってバラを振ると、青銅製と思しき戦士の形をしたゴーレムが7体出現した。 「ほぅ・・・」 感心していると一体のワルキューレが動き距離を詰めてきた、勢いを殺さずアーカードの腹に拳を叩き込む。 鈍い音と共に少女の体は軽々と吹き飛んだ。受身すら取らずアーカードはそのまま倒れ込む。 同時に歓声が上がった。ルイズはいたたまれない気持ちになる。 己の使い魔が打ちのめされる姿を見て気持ちいいわけがない。思わずアーカードの元へと駆け寄った。 「やぁルイズ、残念だったね」 キッっとルイズはギーシュを睨みつけた。 「大人気ないわよ、ギーシュ」 ギーシュは髪をかき上げながら告げる。 「決闘の場に大人も子供もないよ、全力で叩き潰すだけさ。」 と、アーカードは何事も無かったかのようにムクッと立ち上がる。 「・・・しかし本当に日差しが強いな、今日は」 苛立だしげに空を仰ぎ見、アーカードは呟いた。しかしその照りつけにすぐ顔を反らす。 「ほぉ、なかなか根性もあるようだね。このままではあまりにも可哀想だ、・・・これを使うといい」 ギーシュがバラを振って落ちた一枚の花びらが一本の剣へと変化した。ギーシュはそれをアーカードへと投げる。 ストンッと音を立てて近くに突き刺さった。 「これを抜いたらギーシュは本気でくるわ、やめるなら今よ・・・?」 アーカードは無言で剣を一瞥し、ルイズの頭にポンッと手を置いた。 心配無用と言ったように。ルイズの中にあった不安が霧散するかのように掻き消える。 「覚悟なさい、ギーシュ」 安堵したルイズはギーシュに警告する。ギーシュはやれやれといった感じで両手をあげ首を振っている。 「剣なら・・・自分のがあるさ」 そう言うとどこからともなくアーカードは剣を取り出した。 鞘におさまったオーソドックスな長剣。十字型で無駄な意匠はなく、ただ敵を撃滅するだけの鉄。 広場にいた誰しもがその光景を見ていたが、その瞬間はよくわからなかった。 否、体の中にある虚空から出したように見えたものの認識できなかった。 「な・・・!?一体どこから!?」 「少女の体には秘密が一杯詰まってるのさ」 くっくっくと笑いながら鞘を抜き捨て、長剣を右手の中で弄ぶ。 「・・・・しかし、折角出してもらったモノだ。こっちも使わせてもらおう」 そう言ってアーカードは突き立てられていた剣を左手で拾う。 右手で己の剣を、左手でギーシュの剣を持ち構える。 「くっ・・・まぁいい、もう手加減はしないぞ」 多少のイレギュラーに戸惑いながらもギーシュはワルキューレをけしかけた。 (むっ・・・?) 不思議な感覚にとらわれる。アーカードは自らが力が溢れている事に気付く。 (なんだ?) 疑問に思っている間にワルキューレがすぐそこまで迫っていた。 アーカードは左手に持ったギーシュの剣を、ただ無造作に、水平に、振った。 ただそれだけでゴーレムはゴシャッという音と共にバラバラに粉砕し、同時にギーシュの剣も呆気なく折れた。 その一瞬で起こった予想を裏切る出来事にアーカード以外の者達は絶句した。 たかが剣を二本持ったところで平民の少女が青銅のゴーレム、ワルキューレに敵う筈もない。 しかし大多数の予想を裏切り目の前で起こったそれは、ただただ見ている者の思考を停止させた。 「・・・・・は!?あ・・あはははは、そ・・・そうか!僕の剣だもの、あ・・・・当たり前さ」 乾いた笑いを上げながら、残ったワルキューレを突撃させる。 依然湧き出る不思議な力に疑問を抱きながら、アーカードはギーシュの破損した剣の柄を放り捨てた。 ギーシュの剣が原因ではないようだった。何らかの魔法が付与されていた、とかそういうわけでもないようである。 六体のワルキューレがそれぞれ順に突進してくる。 最初に近付いたゴーレムを右手に持った剣で下から上に斬りあげる。真っ二つに切断されたゴーレムはそのまますぐに動かなくなった。 続いて近付いてきた二体目の攻撃をスウェイバックだけで空振らせる。 アーカードはそのまま回転して後ろ回し蹴りを叩き込んだ。 吸血鬼の持つ強靭なパワーと神速のスピードで蹴り抜かれたゴーレムは、粉々に砕け散る。 次に近付いてこようとするゴーレムに向かい、剣を投擲する。 弾丸の如き速さでアーカードの手から撃ち出された剣は、一体のみに留まらず続いてきたもう一体も撃ち貫き破壊した。 五体目のゴーレムが繰り出す攻撃を、投擲したままの態勢で突き出た右手で難なく受け止め、掴み、放り投げる。 圧倒的な力で投げ飛ばされたゴーレムは、凄まじい勢いで外壁に激突し、沈黙した。 最後の一体へと向き直り、アーカードは右腕を弓のように引き絞る。そして間合いに入ると同時に貫手を放った。 弩よりも遥かに強力なその刺突は、正確にゴーレムの中心部、人間でいえば心臓の部分に綺麗な大穴を開ける。 さらに余波で残った体の部分は粉砕され吹き飛んだ。 その一つ一つが瞬きすれば見逃してしまうほどの時間。 ものの十数秒で全てを終わらせたアーカードは、ゆっくりとギーシュの前へと立った。 アーカードが足を払うとギーシュは無様に尻餅をついた。アーカードがその紅い瞳で冷たく見下ろす。 「ボーっとしてるなよ坊主」 ギーシュは呆然としていた。自分のゴーレム達が無残に破壊されるその圧倒的暴力が揮われた惨状と、それを実行した目の前の少女への畏怖で。 「お前みたいな顔色の悪い糞ガキが、この私に勝てるわきゃあ無えだろう!!」 その迫力にギーシュはガタガタと震えだす。周囲の野次馬も完全に沈黙していた。 ルイズも呆気に取られていた。その余りの強さに。 アーカードはポフッっと手をギーシュの頭に置く。 ギーシュの体が強張り、反射的に目を瞑った。己が召喚したワルキューレの末路が脳裏に浮かぶ。 あのパワーで以って投げ飛ばされるか、或いはこのまま頭を握りつぶされるのではないかと。 「な~んてな」 その少女の顔は、悪戯っ子のような笑みに変わっていた。 「ひぇ・・・?」 分相応な少女の笑顔にギーシュは我を取り戻す。しかしその瞬間にアーカードはギーシュの目を冷たく見据えた。 「まだ貴様には言うことがあるな?」 コクコクとギーシュは頷き、その言葉を紡ぐ。 「ま・・・参りました」 その言葉に満足気に頷いたアーカードは、踵を返しルイズの元へと向かう。 一拍置いた後、歓声が巻き起こった。ルイズは嘆息をつきつつも、その顔は嬉しそうだった。 気付くと湧き出るように溢れていた謎の力は、いつの間にか消えていた。 #navi(ゼロのロリカード)