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ゼロの花嫁-06 - (2008/01/17 (木) 18:41:21) のソース
以前に街で起こした騒ぎの事情聴取の為、コルベールとルイズ、それに燦の三人は衛士詰所へと赴いていた。 衛士長はメイジであり、ヴァリエール家の威光を恐れていた為、話は至極スムーズに進んだ。 衛士詰所に行くとすぐに応接室に通され、緊張しきった衛士長の、街中でヤクザが好き放題やっていた言い訳を延々聞かされた辺りで問題は起きなさそうだと予想出来たのではあるが。 良家の子女を多く抱える魔法学園の教師付きというのも、それを助長していたようだ。 心中思う所あっても、その程度の策は弄せるコルベール。 二人の話し合いは、お互いこの件を問題にはしないという事でまとまった。 しかし、問題は衛士長の側で控えていた女性衛士の一言から発生する。 全ての話が終わり、退室する三人を外まで送るよう衛士長から命じられたその女性衛士は、別れ際にぼそっと呟く。 「……貴族の道楽で街をこんなにされては堪らんな」 衛士達にとっては面白くない結果であろう。苦労して調査した結果が貴族の威光で全て無かった事にされるのだから。 それがわかっているコルベールは聞こえなかったフリをしてやれたのだが、実際に死にかけたルイズにはどうにもその一言は納得いかなかった。 「出来る事は愚痴るだけ? 街の治安も守れない衛士にはお似合いよね」 二人の視線が絡み合う。 それ以上の事は起こらなかったが、ルイズは聞こえよがしにコルベールに声をかける。 「今日はありがとうございましたミスタ・コルベール。私はこの後燦と買い物をしていくので、先に戻っていてください」 何やら不穏な気配を察したコルベールだったが、そう言ったルイズの表情は穏やかで、これからの燦との買い物を楽しみにしている女の子の顔であったので、ほっと胸をなでおろす。 「ああ、ご苦労様。ゆっくり楽しんできなさい」 燦はルイズの言葉に無邪気に喜んでいる。 以前来た時もそうだったが、女の子同士の買い物は彼女にとってかなり楽しいものらしい。 コルベールと別れ、二軒目の店を出た所でルイズ達は彼女と再び出会った。 嬉々とした顔で彼女を迎えるルイズ。 「やっぱり来たわね。そういう顔してたわ貴女」 現れた女性衛士は押さえきれない怒りを表情の端に滲ませながら、ルイズの前に立つ。 「先ほどの発言を取り消してもらおう。我々の努力も苦労も知らない箱入り貴族にふざけた事を言われるような仕事を我々はしていない」 口の中に含むように笑うルイズ。 「取り消す? 腕づくでやってみたら?」 ルイズの煽り口調に、女性衛士は拳を握って怒りを堪えながら答える。 「……それが望みなら」 「もちろんそのつもりよ。ケンカを売られて黙ってる程、私人間出来てないの」 燦はおたおたしながらルイズを止めに入る。 「る、ルイズちゃん。その、またケンカしたら先生に怒られるで」 「バレなきゃいいのよ、バレなきゃ。そこの貴女、何処か良い場所あるかしら?」 背格好は少女と呼んで差し支え無いルイズにこんな事を言われて、女性衛士もこれ以上忠告だけで済ませる気は失せてしまった。 「付いて来い」 街外れの草原、ちょうどうまい具合に木々が周囲を覆っているおかげで、街道からは近くまで寄らないとこちらの様子を見る事は出来ない。 草の高さも芝といって差し支え無い程度、これに足を取られる間抜けも居まい。 女性衛士がルイズ達を案内したのはそんな場所であった。 渋い顔をする燦からデルフリンガーを借り受けるルイズ。 凄い言いたい事があるらしく、無視されるのを覚悟でデルフリンガーは言う。 「……なあ、娘っ子よう……いや、もういいや好きにしてくれ」 デルフリンガー先端を地面に引きずりながら、女性衛士の前に立つルイズ。 「いいわよ」 ルイズが剣を持ち出した事で怪訝そうな顔になる女性衛士。 「貴族様が剣士の真似事か? 素直に魔法を使わんと後悔する事になるぞ」 痛い所を突かれたルイズは女性衛士をねめつける。 「人の心配より自分の心配したらどう? こっちはもう抜いてるんだから、そっちもさっさと抜かないと死ぬわよ」 「お構いなく」 剣を鞘に収めたまま見下すようにそう言う女性衛士。 「あ、そう」 重そうに剣を引きずるルイズを見て、誰が瞬速の踏み込みを予想出来ようか。 両手で剣を掴むと、長大な両手剣を真後ろから頭上へ振り上げながら女性衛士に向かい斬りかかる。 女性衛士もこの奇襲には驚き、即座に剣を抜いて振り下ろされるそれに合わせる。 金属同士が打ち合う甲高い音が鳴り、女性衛士の頭上でルイズの剣は止められる。 そのまま鍔迫り合いとなるが、背が低く不利なはずのルイズは一歩も引かずにその場で持ちこたえる。 「何よ、少しはやるじゃない」 「貴様……」 ルイズの言動に薄気味悪さを感じた女性衛士は、一度ルイズを突き飛ばして距離を取る。 もちろん、これでバランスを崩してくれれば一刀の元に勝負を決めてやれたのだが、ルイズにそんな隙は見出せなかった。 (コイツ、一体何なんだ?) 小柄で上品な顔立ち、ヴァリエール家の息女だという事だが、外見は正にその通りだ。 櫛が何の抵抗も無く通ってしまいそうな柔らかそうな髪も、清潔に整った身なりも、可憐で美しいその顔も、全てが前情報通り貴族の令嬢である事を表していた。 だがそんな彼女は、不意を打たれたとは言え、メイジではないが衛士として鍛えてきたこの自分、アニエス・ミランが受ける事しか出来ない速度で斬り付けて来たと思ったら、今度は鍔迫り合いまでやってのける。 天狗になっている貴族をこらしめる。そんな意図を持ってこの勝負に望んだアニエスであったが、どうやら自分の認識を改める必要があるようだ。 まるで訓練の時のような真剣な顔で、片手に持った剣を前に突き出し構えるアニエス。 今度は真横から薙ぎ払うように剣を振るうルイズ。 良く見れば予備動作も大きく、その動きを読む事は容易い。 だが、全体重をその一撃に乗せているのでは、と思えるその剣を捌くのに余裕は持てそうにない。 (そこまで勢いをつけたのなら、かわしてしまえば次は繋がるまい) その思い切りの良さは買うが、それだけで負けてやれるほどこちらも気前良くは無い。 切っ先の距離を見切り、ルイズが真横に振るう剣の上を右腕に握った剣ごと、そしてその切っ先は脇の下を通るよう少し下がりながらこれをかわす。 これならすぐに反撃に移れる。 かわした後に、一呼吸分の間が開くはず。そこで踏み込んで決着だ。 そう思い、左足を一歩前に出した直後、前に倒しかけた上体を後ろに仰け反らせながら剣を降ろす。 ルイズは全力で振るったはずの剣を、アニエスがかわしに来たと感じた瞬間に、全身を使って止めていたのだ。 左足を一歩前に踏み込み踏ん張り、一直線に伸ばしていた腕を肘の所で曲げて剣の向きを変え、腰を逆側に捻ってついた勢いを強引に殺す。 すぐさま剣の軌道を変え、下から掬い上げるように斬りあげるルイズ。 その剣をアニエスは上から振り下ろした剣で止める。 (早いし強いっ!?) 剣を跳ね上げられないので手一杯。つくづく読みを外してくれる女である。 (読み通り!) ルイズが振り上げた剣を、この女は剣を振り下ろして止めるしか手は無いはず。 そして僅かに浮いた女の肘を、剣から左手を離して押し上げる。 驚愕に歪む女の顔、それを確認する暇すら惜しんで懐に踏み込み、体のバネをいっぱいに使った跳び膝蹴りを腹に叩き込んでやる。 体をくの字に曲げてよろよろと後ろに下がる女、それでも剣を手放さないのは見上げたものだが、その切っ先に力は感じない。 それをこちらのデルフリンガーで絡めるように押さえながら、ルイズは追撃の後ろ回し蹴りを同じく女の腹にぶち込んでやった。 この蹴り方は、全身の力を込めやすいのでルイズのお気に入りでもある。 大きく後ろに飛ぶ女。何と驚くべき事か、女はこの期に及んでもまだ剣をその手から離していない。 (んじゃこれでトドメ!) 女は既にルイズの剣の間合いからは離れているにも関わらず、ルイズは剣を振り上げる。 (おりゃあああああ!!) その振り上げた剣を、ルイズは女に向かって全力で放り投げる。 縦に回転しながら女に襲い掛かるデルフリンガー。 かっ飛んでいくデルフリンガーの心境はいかばかりであろうか。 「……だからもう好きにしてくれていいって」 諦観の境地である模様。 女は完全に自分のペースを崩されている。 それでもすぐに体を起こしてデルフリンガーの直撃を避けるべく剣を構えるのは、その訓練の賜物であろう。 だが、それもルイズの読みの内。 デルフリンガーを弾いた直後、その眼前にまで踏み込んでいたルイズの狙い済ました蹴りにより、遂に剣を跳ね飛ばす事に成功した。 事ここに至ってアニエスは彼女を貴族として見るのを止める事にした。 出来るだけ傷を少なくだとか、顔は避けようだとか、そんな事はどうでもいい。 後でどんな目に遭おうと、ここでこの女に負けるのだけは絶対に嫌だ。 剣ごと蹴り飛ばされて痺れる右手を放っておき、残った左手をルイズの顔面に叩き込む。 もちろん拳でだ。 それをルイズは更に一歩踏み込み、何と額で受け止めてきた。 振りぬけなかった拳に激痛が走る。 ルイズは頭を捻ってその拳をすりぬけながら、こちらと同じく左の拳を握り、それをアニエスの顔面にぶち込んできた。 インパクトの瞬間目の前に火花が飛び、鼻の辺りに嫌な感覚が広がる。 すぐに後頭部に衝撃が来る。 上下左右の感覚が曖昧になっている。さっきの衝撃はどうやら自分が後ろに倒れて後頭部を地面にぶつけたという事らしい。 アニエスは我に返ると、足でルイズを蹴り飛ばして距離を開けさせ、その隙に立ち上がる。 (コイツッ!!) ルイズは自分で投げた剣を手にすべく走り出している。 自分も遅れる訳にはいかない。 都合の悪い事に、剣は二本が重なるように転がっていた。 どう考えても辿り着くのはルイズの方が早い。 ルイズは自分の剣を手に取ると、振り返ってその後を追うように走っていたアニエスに数歩踏み込みながら剣を振るってくる。 真横から得意の大振りでアニエスを狙ってきたが、それを、アニエスは頭から海に飛び込むようにして剣を飛び越えた。 このかわし方は予想外だったのか、ルイズも一瞬挙動が遅れる。 余りに大きい動きであった為、それでもルイズの斬り返しが間に合ったが、既に地面に転がっていたアニエスは靴の裏で受け止める。 靴底が切り裂かれるが、全ての動作に支障は無い。 更に後ろにあった剣を後ろ手に取り、膝立ちになりながらルイズの三回目の連続斬りを受け止める。 ルイズの特性は掴んだ。奇襲や対メイジには向いているやり方であるが、それ以上ではない。 剣同士で斬り合う事を前提に学んだアニエスの敵ではない。 ルイズは懐から杖を取り出して呪文を唱えだす。 (それもフェイクでしょう! 貴女の手は見切ったわ!) とにかく、どんな形でもいいからまず相手を崩す事を考える。 その上で崩れた相手に全力で剣を叩きつけ、その運動能力に任せての出た所勝負。 躊躇無く踏み込み、まっすぐに剣を振り下ろし、斬り上げ、薙ぎ払う。 ルイズは真っ当な剣技に対しての受け方が甘い。反射神経だけで受けきられる程、彼我の能力に差は無いのだ。 アニエスが攻勢に出てから数分後、ルイズの剣はアニエスによって天高く打ち上げられていた。 間髪居れずにその首元へ剣を突き付けるアニエス。 決着は付いた。 信じられないといった顔でこちらを見るルイズを他所に、アニエスは剣を鞘に納める。 「所詮は貴族の道楽。お話にならんな」 その視線だけで射殺さんとするかのごとく、アニエスを睨みつけるルイズ。 だが、どうやら負けたと理解出来るぐらいの冷静さと知性は残っているらしく、それ以上はつっかかってこない。 もうこの場に用は無い。 とびっきりの冷たい視線をルイズに送るアニエス。 「剣術ごっこも良いが、相手は選ぶ事だ。それと……」 最後に鼻で笑ってやる。 「何を勘違いしてるのか知らないが、お前に剣の才能は無い。さっさと結婚して家にでも引き篭ってるのがお似合いだ」 心の底からすかっとする。 こんなに爽快な気分は久しぶりだ。衛士首になるかもしれないが、知った事か。 調子に乗った貴族の鼻を明かしてやるのがこんなにも楽しいとは。 (このまま変な趣味に目覚めてしまいそうだ。今夜は最高の酒が楽しめそうだな) 全身を震わせて屈辱に耐える姿、頬は紅潮し、瞳は潤んでいる。 あんな大言を吐いた生意気な小娘と同一人物とはとても思えない。 ダメだ、ここで笑ってはいけない。この小娘にとって決して越えられない存在だと思い知らせてやらなければならないのだ。 もっとゆっくりこれを見ていきたかったが、断腸の思いで自重し、こちらを睨む二つの視線を背に受け広場を去って行った。 ルイズは今にも飛びかからんとする燦をその手で止める。 完全に負けたのだ。この上使い魔に頼って更なる無様を晒せというのか。 燦はルイズが止めなければ、間違いなくあの女性衛士につっかかっていただろう。 燦ならばあの手練相手でも負ける事は無いだろうが、それではルイズがあの女に勝った事にはならない。 『さっさと結婚して家にでも引き篭もってるのがお似合いだ』 こんな言葉をたかが平民、それも知性も教養も無いような衛士風情に言われて黙って引き下がる事など出来ようか。 怒りと屈辱に震えながら、それでも精一杯燦を気遣いつつ声をかける。 「燦、帰るわよ」 燦はルイズの言葉に逆らわず、無言でそれに付き従う。 何も言って来ない所を見ると、どうやら自分は感情をうまく殺せているらしい。何とか学園に戻るまでは爆発せずに済ませなければ。 絶対に燦に当たるような真似だけはしたくない。 アニエスは仕事を終えると、珍しく酒場へと繰り出す。 行きつけの店を作る程飲みにも行かないので、雰囲気の良さそうな店を適当に選びそこに入る。 もちろん一人だが、これでいい。男性ばかりの同僚など仕事以外では顔を見るのも嫌だ。 落ち着いた内装に、暗い中でもそれとわかるほど清掃の行き届いた店内。 アニエスはカウンターに座り、静かに酒をいただく事にする。 幸運な事に、アニエスが偶々入ったこの店には騒々しい客もおらず、ゆっくりと酒を楽しむ事が出来そうだ。 早速一杯目、上品なカクテルを一口口にする。 フルーツ系の口当たりの良さと、適度なアルコールが心地よい。 そして何より、昼のあの出来事がこの酒の味をえもいわれぬものとしてくれた。 (あの顔……今まで負けるような事も無かったのか。そんな無垢で無知で無思慮でプライドの高い貴族のお嬢様。今頃悔しさに歯噛みしてる事だろう、泣いているかもしれんな) 二口目は少し多めに流し込むつもりだったが、そのあまりの旨さに、つい全てを飲みきってしまった。 すぐに次を頼むが、これもあっという間に無くなってしまう。 何と酒の進む日であろうか。明日は非番だし、今日はもうこのまま飲めるだけ飲むとしよう。 そんな事を考え、景気良く酒を進めるアニエス。 「随分ご機嫌ね、何か良い事でもあったのかしら?」 不意に隣から声が聞こえてきた。 少し遠い場所、同じカウンターで席を二つ空けた先に座っていた緑髪の美しい女性が自分のグラスを振っていた。 見ず知らずの人間と、こんな場所でいきなり会話をするような生き方をしてきた覚えは無い。 少なくとも向こうに敵意は無いようだが、こんな時すぐに気の効いた切り替えしの出来ないアニエスは無言だ。 「いきなりごめんなさいね。ただ、あんまりにもおいしそうにお酒飲んでるものだからつい」 言われて赤面するアニエス、見ていてわかるぐらい楽しそうにしていたつもりは無かったのだ。 「……それは失礼した」 緑髪の女性は返事をもらえた事で、歩み寄りに成功したと思ったのか、席を一つ詰めてくる。 「何か景気の良い話でもあったの?」 彼女はこの店に慣れているようであるし、その彼女の作った流れに敢えて逆らう事も無かろうと当たり障りの無い程度で話をする。 「気分の良い事があった、それだけだ。ここは良い店だな」 緑髪の彼女は嬉しそうに頷く。 「そうね、私もこの店見つけた時は本当嬉しかったわ。少し値段は張るけど、こういう一人でも落ち着いて飲める場所って貴重よ」 「まったくだ。この雰囲気は本当に、悪くない」 基本的にそんな話す方ではないアニエスだったが、緑髪の彼女の話しやすさとこの店の雰囲気、そして酒のおかげでいつもより随分と口が回ってくれた。 何より、同世代の女性と話す機会など随分と無かったのだ。 そんな相手とお互い踏み込みすぎない程度に会話を交わすのは、とても楽しかった。 程なくして双方本来のペースを逸脱したアルコール量を摂取しはじめる。 「でね、そこの学園長ってのがまたスケベなジジイで……」 ロングビルと名乗った緑髪の彼女も、女一人で世間の荒波と戦ってきていた。そんな境遇も良く理解出来る。 「何処にでも居るものだ。私も似たような目に遭った事があるが、よっぽどその手ごと叩き斬ってやろうかと……」 二時間もすると、二人共数年来の友人であるかのように意気投合する。 衛士という仕事を女だてらに続けてきたアニエス、そして没落貴族という立場でありながら女手一つで妹の仕送りまでやっているロングビル。 背負う苦労も似た物が多い二人は、その気に食わない対象もそっくりだったのだ。 「だから~、貴族貴族って何が貴族よ~。何処にでもいるボンクラの集まりじゃない~、そんな甘ったれの面倒見ろなんて冗談じゃないわよ~」 それとなく出来上がってきているロングビル。アニエスもかなりキているので、ロングビルのろれつが回っていないのにも気付いていない。 「ああ、今日もそういうバカ貴族がケンカを売ってきたのでな、返り討ちにしてやった」 「ホントに~? 何処の何様よそのボンクラ~。きっちり殺してきたんでしょうね~」 「ヴァリエール家の令嬢という話だったな。泣きそうになりながらぶるぶると震えていた」 ケタケタと笑うロングビル。 「ああ知ってるわそいつ。学園の跳ねっかえり『ゼロのルイズ』でしょ。生意気にプライドばーっかり高くってさ、ロクに魔法も使えない癖に何よ偉そうに」 グラスを揺らして失笑するアニエス。 「なんだあいつ、魔法までヘボか。救いようが無いな」 アニエスの言いっぷりが気に入ったのかロングビルは机に突っ伏して笑い転げる。 「アニエス、アンタ最高よ。心配しなくてもいいわよ~、あのチビちゃんが何か仕掛けようとしたら、私が知らせてあげるから」 「そうか、それは頼もしいなロングビル。では……」 グラスを掲げるアニエス。ロングビルもそれに倣う。 「バカ貴族の絶滅を願って」 「あははははははは、アホ貴族が地獄に堕ちる事を願って」 『カンパーイ』 帰路も無言のまま学園へと辿り着くルイズと燦。 燦は、部屋で休むというルイズにかける言葉が見つからない。 ドアの前でどうしたものか悩んでいると、部屋の中から微かにすすり泣く声が聞こえてきた。 「悔しかったじゃろうなあ……許せなかったじゃろうなあ……」 時折聞こえてくる搾り出すような声を聞くと、自然とこちらまで涙が零れてくる。 「大丈夫じゃルイズちゃん、私が何とかしたる。絶対このままになんてしておかんきに!」 翌朝。 トリステイン魔法学園側にある丘の上に、二つのシルエットが見える。 日が昇ったばかりの早朝。 二つ並んだそのシルエットは微かに上下に揺れながらまっすぐ丘を降りてくる。 ちゃっちゃーちゃちゃちゃーちゃちゃちゃーちゃちゃちゃ♪ 【BGM:ロッキーのテーマ】 「ダッシュじゃルイズちゃん!」 「応っ!!」 汗を撒き散らしながら駆け出す二人、先行する燦の物凄い速さにもルイズは良く付いていっている。 Trying hard now♪ 木刀を構える燦に、右に左に斬りかかるルイズ。 「右! 左! 右! もっと早く! もっとシャープにじゃ!」 「っだああああああああああ!!」 it's so hard now♪ 背中に大きな石版を乗せ、体の下にはとげとげの付いた石版を置く。 その上で、猛烈な勢いで腕立て伏せをするルイズ。 「85! 86! 87! ルイズちゃんペース落ちてるで! 88! 顎は地面につけて! 89!」 「ぎゃああああああ棘が! 棘があああああっ!」 trying hard now♪ 腹筋するルイズの腹の上にぼすんぼすんと両手で抱える程の大きさの石を落とす燦。 「どないした!? もう終わりなんか!? あの女のボディはこんなもんじゃないで!」 「いや、ぼふっ! あの女ボディとか打たな、ごふおっ!」 Getting strong now♪ 坂道を一息に駆け上がるルイズ。休む間も惜しんで同じ坂を駆け下り、全速でまた駆け上がるを繰り返す。 「後二十往復じゃ! スピードが落ちてるで! もっと腿を上げるんじゃ!」 「おりゃあああああああああ!!」 won't be long now♪ 食堂で皆が注視する中、ルイズと燦は並んで物凄い量の食事を両手で次から次へと口に放り込んでいく。 「良く食べ! 良く寝て! 滅茶苦茶鍛えるじゃあああああ!!」 「ほごっ!(わかってるわ!)むごもごふご!(でもお行儀とかだけは守らせて貴族的に!)」 getting strong now♪ 剣を持ったままランニングするルイズ。時々立ち止まってはその場で剣を振り回す。 窓からその様子を見ていた下級生が手を振っている。 「応援してます! 頑張ってくださーい!」 笑顔で答えるルイズ。 「ありがとう!」 ちなみにその下級生のすぐ隣、窓の外からは見えない位置にキュルケが居て、その下級生を睨みつけている。 「……あの、これでいいんでしょうか」 「ええ、良く出来たわ。後はルイズがここ通る度に応援を忘れない事よ」 「は、ははははい!」 Gonna fly now♪ タバサが本を読みながら投げやりに呪文を唱えると、その本の前に氷の矢が現れ、ルイズ目掛けて一直線に飛んでいく。 「フットワークじゃ! 左右のフットワークをもっと細かく! 上半身の捻りも忘れたらアカンで!」 「あぶなっ!? ちょ! タバサ! あんたもうちょっと数減らし! っぎゃああああ刺さったあああああ!!」 flying high now♪ 剣を構えるルイズの周囲をギーシュのゴーレム七体が取り囲む。 「あの……幾らなんでもこれは……マズイんじゃない?」 弱気なギーシュの声を歯牙にもかけない燦。 「同時に七体が剣を振る! それをその場から動かずに全部捌くんじゃあああああ!!」 「かかってきなさいぎいいいいいいいしゅうううううううううう!!」 あっという間に袋叩きにされるルイズ。 「まだまだよっ!! こんなもので私が倒せるとでも思ってるの!?」 「じゃ遠慮無く」 お言葉に甘えて再度フルボッコにするギーシュ。 gonna fly, fly, fly……♪ 小高い丘の上に、ルイズと燦の二人は並んで立ち、両腕を大きく上に振り上げる。 「うおおおおおおおおおおおおっ!!」 「おりゃああああああああああっ!!」 二人の雄叫びを、キュルケは物凄い距離を置いた場所で呆れながら、タバサはその隣で本を読みながら聞いていた。 「さて、あの二人は放っておいて、私は行くとするわね」 タバサにそう断って立ち去ろうとしたキュルケだったが、タバサの目が何かを訴えかけているのに気付く。 慌てて手をぱたぱたと振る。 「別に変な事なんてしてないわよ。ミス・ロングビルの紹介で戦闘訓練の相手見つけてもらっただけだから」 尚もその視線はキュルケを射すくめたまま動かない。 「だーかーら、危ない事なんてしてないってば。そもそも先方の希望で火のメイジが良いって話だったんだし、相手はれっきとした軍人なんだから心配いらないわよ」 キュルケの言い訳を微動だにせず聞いていたタバサだったが、一応それで納得したのか視線を逸らした。 胸をなでおろしたキュルケはタバサに手を振って、丘を下っていく。 残されたタバサが再びルイズと燦に目をやると、二人はまだ何処かへと向かって吼え叫んでいる。 「問題無い……かな」 常識的な事全てに目を瞑り、とりあえず他に迷惑かける事は無さそうだと二人の奇行を容認するタバサであった。 特訓を終え、再挑戦とばかりに街に乗り込むルイズと燦の二人。 アニエスはパトロール任務中であった為、休憩時間にその相手をする事になった。 場所は前回と同じ野原だ。 セコンドの燦はルイズの顔を両手で包み込むように掴む。 「ルイズちゃんは強い!」 「私は強い!」 「ルイズちゃんは早い!」 「私は早い!」 「ルイズちゃんの剣は誰にも止められない!」 「私の剣は誰にも止められない!」 「ルイズちゃん最強!」 「私最強!」 「叩きのめしたるんじゃああ!」 「おっしゃああああああああ!」 とても女の子とは思えない雄々しい気合の声が終わると、デルフリンガーを手にアニエスの前へと進むルイズ。 「生きて帰れるなんて思って無いでしょうね」 アニエスは心底呆れている。 「……まあいい。やるぞ」 呆れてはいたが、同時に楽しみでもあったのだ。 ロングビルから再挑戦のつもりがあるらしい事は聞いていたが、まさか本当に来るとは思っていなかった。 (そういう根性のある奴は嫌いじゃない。……せめて、三十分は保ってくれよ。でないと無理をして時間を空けた甲斐が無い) 店のドアを開くと、強い木の香りが鼻をつく。 それは不快なものでは決して無く、この店を印象付ける良いアクセントになっている。 客の数も控えめ、いや、店主にはそもそも全ての席を埋めるつもりはないのだ。 その良い雰囲気に惹かれて客が増えると値段を上げてその足を調節するという徹底振りで、絶妙にコントロールされた店内の雰囲気は、いつ来ても彼女にとって好ましい場所であり続けていた。 既にカウンター席に付いている友人の隣に座ると、彼女は大人びた心安らぐ笑顔で迎えてくれた。 「今日、そっちにルイズ行ったでしょ。どう、楽しんだ?」 どうやらこちらの事はお見通しらしい。ひどい友人だ、人が驚かせてやろうと顔が笑ってしまうのを必死に堪えていたというのに。 まあいい、それならそれで。もう我慢しなくてもいいのだから。 「最高の気分だな」 表情を崩してそう言うと、友人ロングビルはいつものように声をあげて愉快そうに笑う。 彼女のこんな素直な笑顔が、私は大好きなのだ。 数杯重ねただけで、ロングビル、アニエスの二人共軽い酩酊状態となる。 店の雰囲気と、やはり気の許せる友人が一緒という事が大きな原因であろう。 六杯目を頼んだロングビルは、片肘をテーブルにつき、その手に自分の顎を乗せながらこちらを向いている。 眼鏡の奥の瞳はほどよくとろみがかっていて、桃色に薄く染まった頬と首筋が何より扇情的だ。 「随分と彼女達特訓してたみたいだけど、成果の方は出てたの?」 対するアニエスはアルコールの影響などまるで受けていないと言わんばかりにほぼ変化無し。 まっすぐに伸びた背筋を崩す事も無く、テーブルの上に置いた両手を組みながら僅かに首を傾けてロングビルを見つめる。 しかしその切れ長の目が僅かに揺れており、口元も注意深く見ればいつもより緩んでいるのがわかる。 「全然駄目だな。しぶとい所は認めてやるが、てんでなってない。特訓してあれなら、今後を考えるに今すぐ死んだ方が当人の為だ」 アニエスのこんな口調が大好きなロングビルは、テーブルを叩いて笑い転げる。 「あはははは、医務室に通い詰めになりながらの特訓も効果なしとは、そりゃ確かに死んだ方がいいわね」 一時間の激闘の末、魔法無しならば全治三ヶ月の重傷を負い再び敗北したルイズ。 彼女の特訓の成果が出ていないわけでは無論無い。 ただルイズの特訓はそのほとんどが地力を上げる為のものであり、そもそもの相性の悪さを解消する為のものではなかったのだ。 アニエスは正当な剣術と体術で、相手が剣ならば鉄壁の防御を誇る。 そこにルイズの変則的な剣のみで挑もうというのが、そもそもの間違いなのである。 少しでもまともな剣術を学んでいれば、その応用としてあの変則的な剣が活きてくるのだが、燦はルイズにそれをほとんど教えなかった。 ルイズの特性を殺す事になると考えての事だが、真正面から剣のみでやり合うという条件の付いた対アニエス戦においてそれは致命的な間違いであると言わざるをえない。 アニエスもロングビルに倣って六杯目を空け、次を頼む。 「今回私は剣でなく木刀を使った。何故だかわかるかロングビル」 アニエスから手加減を思わせる言葉が出てきたのが意外だったのか、不思議そうに問い返すロングビル。 「珍しいわね、アニエスは情けとか容赦とか全くしなさそうなのに」 喉の奥で含むように笑うアニエス。 「剣だと急所に当てたら殺してしまうだろう。木刀ならば、いくら打ち込んでもそうそうは死なん」 表情が引きつるロングビルを他所に、アニエスは楽しそうに語る。 「この選択は正解だったぞ。何度も何度も何度も何度も全力で打ち込んでやった。肉が裂け、骨が折れ、激痛に身をよじりながら立ち上がる奴を更に打ちのめし、その意思が潰えるのを見守るのは何物にも変えがたい愉悦だ」 友人、アニエスは友人、と自分に言い聞かせながら必死にどん引きする自分を戒めるロングビル。 「惜しむらくは、奴の心が折れる前に奴の体に限界が来た事だな。次はもう少し工夫して体への損傷を抑えつつ苦痛を与える方法を考えてみようと思う」 とても楽しそうにそんな事を言う友人に、つっこむ術をロングビルは持ち合わせていなかった。 「相手がロングビルでなければこんな話も出来ん。私はつくづく良い友人を持った」 マスターが出した七杯目のグラスを掲げるアニエス。 「私達の友情に」 このように時々ふっと漏らす可愛い所が、とても卑怯だと思うロングビルも、同じく七杯目のグラスを掲げる。 「(その矛先が私に向かない限り)永遠に続く友情に」 『乾杯』 ちんと鳴るグラスの音、アニエスもロングビルも得がたい友人を得られた喜びは、まだしばらく続いてくれそうであった。 トリスタニア魔法学園医務室に担ぎ込まれるルイズ。 街からここまでルイズを抱えて走ってきた燦は、部屋の外の長椅子にぶっ倒れている。 医務室内で医師はルイズの惨状を見て呟く。 「……今日は特にひどいな。あのゴーレム坊やかい?」 手術の準備を整え終わり、医師にメスを渡しながら女性医師は肩をすくめる。 「さあ、原因が何だろうと私達の手間にはさして変化はありませんよ」 「全くだ」 医師は治療に取り掛かるべく患者をゆっくりと観察する。 血に塗れたピンクの髪は、元々は美しくウェーブを描いていたのだろうが、今は乾燥した白色と黒色の何かが張り付き、まともに櫛も通らない有様となっている。 頭部にある裂傷は、おそらく鈍器のような何かを叩きつけられた痕であろう。 そこから噴き出したと思われる血が凝固して黒ずんでいるのはわかる。だがこの白い物は? 医師の脳内にどピンクな妄想が吹き荒れる。 いや、ピンクと言うには少々殺伐としすぎている内容であったが、それでも医師の滾る血流が、ここ数週間押さえつけていた欲求を蘇らせるに充分である。 看護婦はその気配に一早く気付く。 「落ち着いて下さい、この白い物はおそらく汗が固まった物でしょう。オールドオスマンが大人しくしてるおかげで、例の症候群も治まってるんですから無茶はいけません」 その目線だけで全てを察する看護婦の手腕は見事の一言。 医師も看護婦に励まされたおかげで自らを持ち直す。 「すまない、治療を続けよう」 性欲持余症候群、その段階によりL1~L5まで分類されるその病の、医師は経験者であった。 女王感染者(オールドオスマン)と呼ばれる一次感染者の動向にその精神を左右されてしまうという恐ろしい病気である。 医師は水の魔法により、重傷箇所から順に治療を施していく。 ここ数日は良くルイズもここに来ていたのだが、これまでは大事無く過ごせたのだ。今度もきっと大丈夫だと自らに言い聞かせる医師。 汗と血で張り付いた制服をゆっくりと切り剥がすと、その下にある地肌が大気に触れる。 今までは意識しないよう気をつけていたのだが、きっかけがあったせいでそれが難しくなっている。 年齢に比して明らかに幼いその体型、その代わりに瑞々しさと弾性を持ったその肌は、ルイズの荒い呼吸に合わせて微かに上下している。 衣服を切る為の鋏が腹部の上から、ゆっくりと上へと切り上がり、胸部に達する。 この辺りはほとんど損傷を受けていないせいか、美しい彼女に相応しい照り返すような光沢を放つ。 更に上、首周りまで切り進み、そこで鋏を置く。 後は切り裂かれた衣服を、彼女の傷口に影響しないようゆっくりと左右に引いて脱がせるのだ。 その下にあるはずの下着、可愛らしい薄ピンクの生地のそれをも一緒に剥がす予定だ。 少々惜しい気もするが、自らの逸る気持ちを考えるに、順に一枚づつ楽しむ余裕は無さそうだ。 上半身の後は下半身が待っているのだから。 相変わらず血色の良いその脚部、付け根の、その最奥の曲線を、早く、私に。 「ウッディ!!」 奇声と共に放たれた看護婦の一撃で医師は昏倒した。 「すみませーんL5発症でーす、代わりに三年生の女生徒誰か呼んできてくださーい」 看護婦の手には、赤黒い液体の滴る金属製の棒状の物体が握られていた。 目を覚ますなりルイズはベッドから跳ね起きる。 そして自らの敗北を思い出し、ひとしきり喚き散らした後、ベッドから飛び降りて医務室を後にする。 廊下の長椅子に寝ている燦を起こすと、燦は目を覚まし心配そうにルイズを労わるが、それをルイズはその表情で押し留める。 燃える様な瞳は、決して諦めない執念の証。 それに打たれた燦も自然と任侠モードに切り替わる。 二人が並んで歩く廊下に何処からか降り注ぐ桜の花吹雪。 学園生徒でこの二人の前に立つ勇気の持ち主は誰もおらず、無人の野を行くがごとく校舎を出る。 「二人共そこまで」 殺気立ったルイズと燦に声をかけられる人間はこの学園でも数少ない。 その内の一人、タバサがゆっくりと二人に近寄る。 ルイズに負けじとやる気の燦に感動するルイズ。 「ええ! 最高の舞台にしましょう!」 盛り上がる二人、それに水を差すようにキュルケは言った。 「で、何やる気なの?」 そのアイディアすら無い二人は、まずそこから始めるべく部屋へと走っていった。 その後姿に声をかけるキュルケ。 「ミスタ・コルベールが私達の芸見てくれるって言ってるから、後で相談に行ってらっしゃい」 聞こえたという合図なのか、後ろ手に手を振りながら宿舎へと向かって行った。 「さて、じゃ私達も準備始めるとしましょうか」 暢気にそんな事を言うキュルケを、タバサはじとーっと見つめる。 「私はもう終わってる。キュルケもさっき知ったばかりなんだから早くしないと手遅れになる」 ミス・ロングビルに紹介してもらった相手との戦闘訓練にうつつを抜かしていたキュルケも、実は品評会の事を忘れていたのだ。 「はいはい。んじゃそれなりに仕上がったらミスタ・コルベールの所に行けばいいのね」 こくんと頷くタバサ。 タバサは、二人共その気になってくれたようで胸をなでおろしていた。 実はコルベールから、二人の芸が完成したら一度自分の前で披露するよう言っておいてくれと頼まれていたのだ。 コルベールが心配するのも良くわかる。 王女を前にこの二人が暴走なんてした日にはフォローしきれない。 ただ、一つ納得いかないのが、タバサもコルベールの前で芸を披露するよう言われた事だ。 この二人程無茶をした覚えは無い。いつも一緒に居るからと自分も問題児扱いはあんまりじゃないかと思う。 だがもし、タバサはいい、と言われたらそれはそれで少し寂しいと思うかもしれない。 自分の事ながらその辺が少し複雑だ、などと愚にも付かない事を考えていた。 誰かさん達の起こした決闘騒ぎのせいで開催が遅れてしまった使い魔品評会は、何としても無事に終わらせなければならない。 そう意気込むコルベールの気持ちが痛い程良くわかるタバサは、あまり興味は無かったが、せめてそれっぽく見えるようにと、密かに練習をしておいてあげたのだった。 ----