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ワイルドの使い魔-8(2) - (2007/08/06 (月) 21:39:52) のソース
時間は、少し遡る。 「で、どんな剣がいいの?参考までに聞いてあげるわよ」 「・・・う~ん、剣じゃなければいけないって訳じゃないけど・・・使える武器なら何でもいいし・・・バス停とか」 (あら?あれはキタロー君・・・今日はミス・ヴァリエールと一緒に食べてるのね) シエスタは、朝の食堂でキタローと主のルイズの会話を偶然聞いた。 「バス停!?・・・って、なによそれ。武器屋に売ってる物なの?それ」 「多分、今日行くところには無いと思うけど・・・」 どうやら二人は買い物に出かけるらしい。そう察したシエスタは、少し落ち込んでしまう。 実はシエスタ、今日は虚無の休日と言う事もあり時間が取れるので、キタローに諸々の雑務を教えながら仲を深めたいと思っていたのだ。 先日の朝は少々勇み足過ぎたと反省もある。 『恋はゆっくり確実に』 そう教えてくれた母は、その実過去に旅の若者を一晩で篭絡して結ばれたと言う荒業を成し遂げて居たりするが。 とはいえ、今回ばかりはその教えを守った方が良さそうに思えたシエスタは、暫く考え込むと・・・ある決意を固めた。 (キタロー君が、不思議な力の持っているなら、私もあれを使ってもいいよね・・・) 「おう、シエスタ。厨房の方はもういいから少し休んでいいぞ」 「はい、マストーさん。少し休んできますね」 仕事の合間を見計らうと、人目の無い建物の影へと身を隠す。 そして、スカートをたくし上げると・・・ふとももに常に隠し持っている、あるモノを取り出す。 これは、かつて曽祖父が彼女の家にもたらしたものだと言う。 一見すると、奇妙な文様が刻み込まれた金属製の筒。その使い方を知るのは、今や彼女と彼女の母だけだ。 シエスタは、その奇妙な筒を指に挟むと、この近辺では聞きなれない言葉を連ねる。 キタローがこの場に居れば、流石に驚いただろう。 それは、いささか古めかしい表現ながら・・・紛れも無く『日本語』だった。 「・・・葛葉の約によりて此処に汝を召喚す・・・来て、私の友達!」 「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!」 シエスタの呼びかけに答えるように『筒』が蒼い輝きを放ち、次の瞬間、燐光を振りまく小さな妖精が姿を現した。 呼び出しが嬉しいのか、人懐っこくシエスタの周りを飛び回り、親しげに話しかけてくる。 「こんな昼間に呼び出すなんて珍しいじゃない!どうしたの?何か私に御用?」 「うん、ちょっとお願いがあるの。とっても大切な事なの」 「何その真剣な目~、どうしちゃったの?この前呼んでくれたときから何か在ったの?」 その小妖精・・・ピクシーにこの数日在ったことを一通り話すと、シエスタはピクシーへなにやら囁いた。 そして暫く後・・・キタローとルイズは町へと出発した。その馬の尾毛に、燐光振りまく何かが隠れている事を知らずに。 その日、トリステインの城下町を縄張りとする、総勢10人を数えるスリ集団『暗黒ヤング伝説』は、何の脈絡も無く壊滅した。 ある財布を狙ったのが、悲劇の始まりだった。 隙だらけの貴族の小娘をねらった何時もの仕事。 実際、ピンク色のその隙だらけの娘から、ずっしり重い財布をスリ取るのは簡単だった。 だが、その付き人らしい平民の子供は、盗まれた事を何故か一瞬で察すると、素早く間合いをつめ素手で盗んだ相手を叩きのめしたのだ。 「逃げる『手』を仕留めるのは慣れてるから」 などと意味不明の言葉を言いながら。 さらには、その捕まえた男から仲間の情報を良く判らない方法で聞き出し(終った後、男はなぜか衰弱状態だったと言う)残る構成員たちをあっさり捕縛してしまったのだ。 知らせを受けた衛視達が駆けつけた時には、何かトラウマでも出来たらしいスリたちが、 「処刑怖い処刑怖い処刑怖い処刑怖い処刑怖い処刑怖い処刑怖い処刑怖い処刑怖い処刑怖い処刑怖い処刑怖い処刑怖い処刑怖い処刑怖い処刑怖い」 「スリが悪いって知ってたさ・・・だからって、あんな・・・ううぅっ・・・」 「ホント、処刑・・・だったよね・・・・・・」 虚ろな瞳で力なく束になって縛られた状態で発見されたと言う。 件の捕縛した貴族の少女と平民の少年の姿は既に無く、人相を聞こうにも、スリたちは心に深い傷を負ったのか要領の得ない言葉が漏れるばかり。 それから暫く、トリステインの城下町ではスリを余にも恐ろしい方法で『処刑』する少年の噂が流れ続けたとか。 ちなみに、そのアジトからはかなりの額の金品が見つかった。しかしその殆どが元の持ち主不明であった為、暫くその元の持ち主を名乗る町の住人が殺到したという。 まぁ、それは余談である。 「それにしても、キタローってスリの早業も見破れるのね。それもそのペルソナの力なの?」 「そういうわけじゃないんだけど・・・確かに聞いたような気がするんだけどな~・・・『今のあいつ、財布盗んで行ったよ』って」 「ふ~ん・・・あと、あんな尋問どこで覚えたの?・・・流石にあれは私も引いたわ・・・」 「あ~・・・昔、同じ事されて・・・」 「・・・アンタ、その時一体何やったのよ。何すればあんなことされる訳!?」 一仕事を成し遂げたキタローとルイズは、紆余曲折あってようやく武器屋へと辿り着いていた。 「へいらっしゃい・・・お貴族様ですかい。うちは上に目を付けられるような商売してませんぜ?ええしてませんとも。 買値の倍の料金で売ったりとか、品揃えが悪いとか一切ありませんので。おまけに馴染みの客で無いと買値も安すぎるとかもありやしません」 入ってきたルイズとキタローを見るなり、カウンター奥の店主はぶっきら棒に言い放つ。 その物言いを何となく気になったキタローが、ルイズにたずねる。 「・・・ねぇ、この店の名前、看板に書いてあったんだよね?なんて書いてあった?」 「え?・・・たしかゴールドキンググループ、ボルダックル商店とか何とかだった気がするけど、それがどうしたの?」 「・・・・・・た、たぶん気のせいだから大丈夫」 「変なの・・・そんな事よりも、私は客よ。今日はこの子に持たせる武器を買いに来たの」 店の名前が何か不吉すぎるのを気にするキタローを放置して、店主に交渉を始めるルイズ。 今月は爆破で部屋と教室を少し壊した以外は大した出費は無いので、店主が持ってくるそれなりの値がつく武器も買いそうな勢いだ。 もっとも武器を扱うキタロー自身は。 (・・・やっぱり、モナドで拾ったレベルの武器は無いよねぇ・・・とりあえず、片手剣と両手剣、鈍器に槍にナックルに弓・・・一通りは欲しいかな) などと落胆しながら並んだ武器を一つ一つ手に取り具合を確かめていた。 一方、その様子を店外から眺める2対の視線があった。 ここまでずっと、キタローとルイズを追い続けていたキュルケとタバサだ。 「さっきのダーリン、凄かったわよねぇ・・・あの力を使わないであっさり10人以上のスリを捕まえちゃうんだもの」 「・・・彼は、生身の戦いも鍛え上げられている。不思議には当たらない。それに凄かったのは・・・」 「止めて!思い出させないでぇ!!」 なみだ目で目を閉じフルフル首を振るキュルケ。 実は、スリを捕まえだしたキタローを援護しようとしたのだ。が、一人目はそんな必要もなくあっさり捕縛。 二人目以降は・・・例の『処刑』を見てしまったキュルケが放心している間に全てが終っていたのだった。 (ちなみに、タバサは『処刑』を見ても平気だったが、キタローの戦いぶりを見たくてわざと出なかった) お陰で出所を見失い、今も尚遠巻きに眺めるしかなかったりする。 「・・・それにしても、ダーリンってどんな武器でも扱えるのね。あんな重たそうな斧を平気で振り回してるわよ」 今は丁度、大人でも持ち上げるのが大変そうな大型の斧を軽々手にし、バランスを確かめているようだ。 と、急にキタローの動きが止まる。壁の一点に視線を向け、其処から目を離さない。 「どうしたのかしら?」 「・・・片刃の剣?」 キタローの視線の先、其処にはある剣が飾られていた。それは・・・ 「日本刀!?」 「お、お前さんそいつの価値が判るのかい?そいつなら新金貨で9000ってとこだ」 壁に飾られた細身の片刃の剣。それはキタローもあの戦いで使ったことのある日本刀そのものだ。 興味津々のキタローに、店主が思わず嬉しそうな声を上げる。 (そいつはいい剣なんだが、誰も価値がわかんなかったからなぁ・・・此処で一気に売りさばいてやる) 「なに、それ!?あんな細くて脆そうな剣よりこっちの剣の方が立派じゃないの?どうしてそんなに高いのよ!!」 「いや、あれで切れ味がとんでもないんでさぁ。あれはタルブの村の・・・」 日本刀の事を知らないルイズが、カウンターに並べられた良くある両刃の長剣を指差す。 だが、キタローに言わせれば、それは予備かもしくはテレッテ向きの武器だ。 何より、此処・・・元の世界ではないこの場所で、日本刀を目にするとは・・・ 脈在りと見た店主とルイズの値段交渉を聞き流し、キタローは近寄り刀身を見つめる。 と、其処に銘が刻まれていた。 「『魔叉霧音』・・・マサムネ?」 「おお!?そいつの名を読めるのか!ボウズ、生っちょろいガキかと思ったら腕も立ちそうだし、なかなか面白い奴だな!」 キタローがその銘を読み上げると、不意に直ぐ傍から声が聞こえた。 不思議そうに周りを見回すと 「おいおい、どこ見てやがるんだ。こっちだこっち!」 どうも目の前の『1本金貨100枚均一ワゴンセール』との区分内にある剣、その中の一本が鍔を鳴らしながら声を発している。 丁度いい感じでふっかけようとしていた店主は、その声に出鼻をくじかれ八つ当たり気味にその剣へ怒鳴りつけた。 「デル公!こんな上客の時ぐらい静かにしやがれ!」 「インテリジェンス・ソードが喋りたい時に喋って何が悪い! 「何、あれ?」 「は、はぁ・・・ウチでも珍しいインテリジェンス・ソードでさぁ・・・いつもああやって五月蝿いんで困っていやして」 店主の言葉に興味を持ちつつ、キタローはその『デル公』を手に取った。 錆びて薄汚れてはいるが、バランスに強度は申し分無い。 軽く振ってみる。 柄がやや長めな為か、日本刀のように片手でも両手でも扱えそうだ。 「・・・悪くないかな」 「そんな古臭い剣止めておきなさいよ」 「武器は新しければ良い訳じゃないよ。この剣、使い勝手は悪く無さそうだし」 「おお!お前いい事言うな!・・・!?・・・ちょ、ちょっとまて・・・お前『使い手』か?よし!買え!俺を買え!!」 「使い手?」 急に興奮しだした話す剣。その中の気になる単語が気になりながらも、具合を確かめる為本気で一振りしてみる。 素人目には影さえも見えない速さで空気が切り裂かれる。 迫力のある一振りに、ルイズも圧倒される。 「・・・本当にそれでいいの?」 「もう少し静かなら、満点だとは思う。あと、この『魔叉霧音』も欲しい」 「そのデル公なら新金貨で100・・・いや、そっちの片刃剣をかうならオマケしときやすぜ!」 「その剣が幾らなのよ!」 「へぇ、さっきも言いやしたように10000で「増えてるじゃない!!」 再び始まった値段交渉を尻目に、飾られていた日本刀を手に取る。 瞬間、キタローはこの刀の本質を直感的に理解した。 (正宗が唯一人ならざるモノを斬る為に打った刀・・・魔叉霧音・・・って、何でこんな事が判るんだろう?) 同時に、あの戦い以来の名刀を手にした実感が湧く。 この二本は、この武器屋で手に入れられる武器の最上のものだろう。 両方欲しかった。 「あら、ダーリン!けちな主に困ってるのぉ?私なら貴方にその綺麗な剣かってあげるのに」 「確かに、その両方・・・いい剣」 そこへ更なる声が横合いから飛んできた。 無論、今までずっと出番待ちに甘んじてきたキュルケにタバサだ。 「キュルケさんにタバサちゃん・・・どうしてここに?」 「タバサ・・・ちゃん?」 「あ~ん。ダーリンたら、『さん』だなんて・・・キュルケって呼んで(はぁと)」 「なんでアンタ達がここに居るのよ~~!!」 混沌の度合いを増した武器屋。 (・・・デル公以外でこんなに賑やかなのは何時以来だろうなぁ) 店主はそんな事を思いながら、何となく傍観者に変わっていた。 下手に口を挟むと厄介になりそう・・・ある種の本能だったのかもしれない。 結局、『日本刀』(とオマケのデルフリンガー)はルイズが、キタローが興味を抱いていた他の武器 (鈍器:撲殺丸 槍:串刺し君 両手剣:釘バット 片手剣:ノコギリetc...) はキュルケがまとめて買う事になり、武器屋は突然の売り上げにホクホク顔だったという。 ・・・数日後、何故か当局の手入れを受け、業務停止処分を受けるまでは。 やはり上に目を付けられるような商売をしていたらしい。