「ときめきメモリアル0-2」の編集履歴(バックアップ)一覧に戻る
ときめきメモリアル0-2 - (2007/11/12 (月) 11:24:41) のソース
親愛なる藤崎詩織殿 拝啓 桜花爛漫の候、ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。 さて、わたくしこと小波は、今現在、ハルケギニアはトリステイン魔法学園において使い魔をさせて頂いております。ハルケギニアは魔法使いのいる非常に愉快な世界です。 ちなみに、わたくしのご主人様はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラヴァリエールと、ともすれば舌を噛んでしまいそうになる名前の少女です。 しばらくは元の世界に戻れそうもありません。 再び、貴女と相俟みれるのも、いつになることやら…。それだけが残念で仕方ありません。 では、いつか訪れる貴女との再会を夢見て…。 敬具 小波より愛を込めて 届く宛てのない手紙を綴った後、ぼくは大きく溜息をついた。 窓の外には月が二個怪しく光っている。 「まいったな…」 思わず呟くと、ぼくの頭に向け、枕が飛んできた。発射元には、眉間にシワを寄せたルイズがいる。今、ぼくがいるこの部屋の主であり、ばくの主でもあった。 「さっきから、ぶつぶつうるさいわよ。寝るんだから静かにして」 ぼくは、手紙にこう書き加えた。 追伸 ルイズは貴女に良く似た容姿を持つ女の子です。 ただ、残念な事に中身が別物でした。 翌日。 いつも思うのだが、魔法学院の教室は、大学の講義室のようである 今日も楽しい一日が始まる、と思うと笑みをこぼさずにはいられなかった。 なにしろ、この世界の授業といえば、『応用風系統魔法学』だの、『錬金学基礎Ⅱ』だの、異世界人であるぼくの興味を刺激するものばかりだったのだ。 教師から紡がれるファンタジックな言葉を聞いているだけで、映画を見ているような朗らかな気分にひたれた。 扉が開かれ、中年女性の教師が入ってくる。 丸みを帯びた顔がその教師の柔らかさを物語っていた。 ふいに、その教師がぼくの身体を注視する。 「おや。随分、変わった使い魔を召喚したものですね。ミスヴァリエール」 ぼくの命を賭けてもいい。彼女は、皮肉なしにその言葉を吐いたのだ。 使い魔として喚ばれるものは、ぼくの世界でいう、ドラゴンやサラマンダー、ゴーレムといった異形の生物が主だったものらしい。 つまり、ぼくのような、何の取り柄もない人間が召喚されるのは異例中の異例というわけだ。 この教師は、単純にその事実に驚いただけだった。 だけど、違う意味に捉えた生徒達が、どっと嘲笑をあげた。 「ゼロのルイズ!召喚魔法が出来ないからって、そこら辺を歩いてた平民を連れてくるなよ!」 ルイズが反論する。 「違うわ!ちゃんと召喚したもの!」 この言葉は事実だ。 ぼくが身を持って知っている。 しかし、周りの生徒達はげらげらと笑うだけだった。 ルイズは悔しそうに俯いたまま、何も語らない。 生徒達は、そんなルイズに向かって、さらに罵倒を浴びせ続けた。 良心ある教師がそれを制し、授業が始まった。 本日の錬金実験は、事前にルイズが行うと決まっていたらしく、彼女は教壇に向かった。 彼女が詠唱を始めたその瞬間、教壇を中心に激しい爆発が起きた。 爆風をもろに受け、教師は黒板に叩きつけられ、昏倒した。 「ちょっと、失敗したみたいね」 顔についた煤をハンカチで拭きながら、ルイズは淡々とした声で言った。 「ちょっとじゃないだろ!ゼロのルイズ!」 「もう!ヴァリエールを退学にしてくれよ!」 「なんで、あんなやつが、この学院にいるわけ!?」 「駄目にも、程があるだろ!」 はクラスメイトから、様々な怒号を喰らったルイズがしゅんとした。相当、傷ついたのだろう。 一人の生徒が、そんなルイズにとどめを刺す。 「成功の確率、ほとんどゼロだな!ゼロのルイズ!」 再び、教室が嘲笑の渦に巻き込まれる。 それに続くかの如く、沢山の侮蔑の言葉が、嘲笑う生徒達から、ルイズに向かって吐き捨てられた。 ぼくはというと、その光景を見つめているうちに、どす黒い澱のようなものが自身の心に溜まっていくのをはっきりと感じていた。 その時、ぼくの頭に三つの選択肢が浮かんだ。 一つは、『この光景をひたすら見守り続ける』だ。 もちろん、即座に却下した。今にも泣き出しそうなルイズを放ってはおけない。 二つ目は、『嘲笑う生徒達を宥めすかす』だ。 残念なことに、ぼくはそこまで大人じゃなかった。 消去法で三つ目を選んだぼくは、掌で机を思い切り叩きつけると、勢いよく立ち上がった。 教室に鳴り響く大きな音に驚いた生徒たちの視線がぼくに集まる。 ぼくは大きく息を吸い込んだ。 「人の失敗を笑うのが、そんなに楽しいのか!?なにが貴族だ!最低だよ、お前らは!!!」 ぼくはそれだけ言うと、乱暴に腰を下ろした。椅子がガタンと鳴る。 両腕を組み、ルイズを馬鹿にしたそいつらを睨み続けた。 どいつもこいつも、唖然としている。魔法も使えない平民に怒鳴り付けられるなんてことは、初めての経験なのだろう。 いい気味だ。 その時、床に倒れ込んでいた教師がよろよろと立ち上がった。 「ミス・ヴァリエールの使い魔のおっしゃる通りです。貴方達も貴族を名乗るなら、少しは口を慎むことを覚えなさい」