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帝王(貴族)に逃走はない(のよ)!-01 - (2009/01/15 (木) 02:25:51) のソース
&setpagename(第壱話「ゼロと帝王」) #navi(帝王(貴族)に逃走はない(のよ)!) 199X年 *世界は核の炎に包まれた! 地は裂け、海は枯れ、あらゆる生命体が絶滅したかにみえた…… *だが、人類は死滅していなかった!! その世紀末の世に築き上げられた巨大な陵墓に立つのは二つの極星。 北斗の救世主と南斗の帝王。 互いに奥義を尽くした中、力が上回ったのは北斗の男だった。 だが、勝負が決まったとはいえ南斗の帝王も退きはしない。 「俺は聖帝、南斗六星の帝王!ひ…退かぬ!!媚びぬ、省みぬ!」 自由を奪われた脚で一歩前に踏み出す。 男を支えている物は、愛と情けを捨て去ってきた己の生き様。 そして帝王としての意地とプライド。 司る星は将星。親も友も持たぬ独裁の星。 それ故に、ここで退けば己の全てを否定する事になる。 「帝王に逃走は無い!!」 そう咆哮をあげると、鎧を奪われ、翼をももがれた鳳凰が残された腕を使い天空へと飛んだ。 目指す獲物は胸に七つの傷を持つ男。 南斗聖拳と対をなす北斗神拳の正統伝承者にして、この帝王が対等と認めた唯一無二の相手。 両雄並び立たず。 二つの極星が激突した時、落ちていったのは南十字星だった。 受けた技は北斗有情猛翔破。 肉体の内部からの破壊を真髄とする北斗神拳において苦痛を生まぬ有情の拳。 その技を受けたからこそ、あえて聞いた。 愛や情けは哀しみしか生まぬ。それでも哀しみや苦しみを背負おうとする、と。 そして、北斗の男の言葉で今まで忘れ去っていた物を思い出した。 それと同時に完全に負けたと納得してしまったが、悔いなど微塵も無かった。 南斗乱るる時、北斗現れり。南斗の宿命を断ち切ろうとして、全身全霊を以ってして北斗神拳伝承者と闘い敗れたのだ。 だが、唯一悔いがあると言えば、あの大きなぬくもりをもう感じる事が出来ない事だろうか。 ――憑き物が落ちた。 巨大な陵墓の下で見守る、無数の兵士や子供達でさえそう感じたかもしれない。 死に行く場所へと歩く帝王の顔からは険が消え、まるで子供の顔のようだと言ったのは誰であったであろうか。 「お師さん…もう一度……ぬくもりを……」 消えていきそうな意識の中で思い出す事は、厳しくも優しかった南斗鳳凰拳先代伝承者オウガイとの修行の日々。 どんな辛い修行にも耐え、あの大きな手、大きなぬくもりに抱かれるために鳳凰拳を覚えたと言っても過言ではない。 15歳になった時のあの忌まわしき出来事以来、ずっとそれを忘れていた。 死の間際だからこそ思い出せたのかもしれない。だが、それも直に終わる。 せめて子供のころの記憶を持って、天に、我が偉大なる師オウガイの元に還ろう。 オウガイの元へ行けるのであれば、死ぬのも案外悪くは無い。 だが、闇に身を任せ、完全に同化させる寸前にその世界から引き戻されたような気がした。 第壱話『ゼロと帝王』 気が付けば無意識に身を起こしていた。 「………っぅ」 身を起こした時に僅かに上体に痛みが奔ったが些細な物だ。 身体を見回したが、北斗神拳奥義『天破活殺』によって浮き出た秘孔の位置も消えている。 驚くべき事は、自由を奪われたはずの脚が再び動くようになっていた事だろう。 額に違和感を感じ手を当ててみると包帯が巻かれていた。 確かに額から流血はしていたはずだが、そうなってくると誰かに手当てされたという事になる。 「……だが」 額の傷は別に問題ではない。問題なのは北斗有情猛翔破によって致命の秘孔を突かれたはずなのに、何故生きているかだ。 苦しみを生まぬとはいえ、身体を内部から破壊する必殺の北斗神拳を受けたのだ。 外科的処置では対応する事はできないし、対応するには北斗神拳しか無い。 「……まぁいい」 どちらにしろ、考えた所で分かりはすまい。 窓から差し込む日の光に釣られて外を見たが、世紀末の世では見られない光景がそこにはあった。 透き通るような青空と鬱蒼と茂る草原だ。 核の炎で消え去ったはずの、あの少年時代にオウガイと共に過ごしたような風景が。 ここが天かもしれぬ。 消し飛んだはずの光景と死んだはずの肉体が動いている事から、わりと本気でそう思いもした。 が、呼吸を整えてみると、紛れも無く生きている事が実感できる。 南斗聖拳も根の部分は北斗神拳と同じである。 流派によって多少の差異はあるだろうが、南斗鳳凰拳や南斗弧鷲拳は闘気よって手刀や突きの破壊力を増大させている。 闘気を用いれば鋼鉄すら引き裂く事が可能であるし、また同じように闘気でその鋼鉄をも引き裂く拳をも僅かな傷で防ぐことが出来る。 闘気とは言い換えれば生命エネルギーと言ってもいい。 とにかく、闘気を纏えるという事は死んではいないという事だ。 本調子とはいえない体で部屋の外に出てみたが、やはり見知った光景ではない事が容易に伺える。 日の入り具合からして、朝というところだろうか。 少なくとも、周りに人の気配は感じられない。 暗殺拳の使い手である以上、気配を消す術と察知する術には長けているが、これならば警戒する必要も無かろう。 もっとも、帝王がそのような事をするなどありえないので、元からするつもりもなかったが。 一通り歩いてみたが、どうやらこの建物は四つの子塔と一つの本塔。 合計すると五つの塔とそれを繋ぐ通路から構成されているようだった。 建築には興味は無いが、それでも西洋の、どちらかというと古い感じのする建物だという事は分かった。 それともう一つ。 「ふん……この場所は学校のようなものという事か。ならばなおの事、解せぬな」 歩きながら特に興味もなく言い捨てたが、半円形のホール状のような部屋と、その中心にある教壇と黒板を見てそう判断した。 幼少の頃から修行漬けだったので特に行く機会も無かった場所だが 彼にとっての教師とはオウガイであり、教室も自然の中という環境だったので、感慨という物は無い。 それよりも、何故学校などという場所に居るのかが問題だろう。 最後の本塔へと近づいたが、ここまで来るとさすがに人の気配を感じ始めた。 結構な数の使用人……メイドというやつだろうか。が忙しそうに働いている。 働いている者達を少し眺めてみたが、姿形自体は汚れているわけでもなく、そこそこ綺麗にされている。 世紀末のあの世界なら、使用人なぞボロ同然という風体なので、やはり何か決定的に違うのだろう。 とりあえず、聞きたい事は山ほどある。使用人程度からは大した事は聞けないかもしれないが最低限の事ぐらいは分かるはずだ。 答える気が無くとも答えさせるがな。と考えながら塔に入ろうとしたが、後ろから恐る恐るといった具合で声をかけられた。 「…ひょっとしてミス・ヴァリエールが召喚したという使い魔の方でしょうか?」 その声を受けて振り向くと、他の使用人と同じ服を着た黒髪の少女が立っていた。 少し怖がっているようにも見えるのは、筋肉質の男が上半身裸で(包帯を巻いてはいるが)居た事が原因だろう。 「知らぬな。だが、丁度良い。ここはどういった場所だ」 腕を組み見下ろしながら言ったが、そんな名の者は知らないのだから本当の事だ。 「え?ち、違うんですか?貴族の方たちがゼ…ミス・ヴェリエールが死に掛けの平民を召喚したと話していたもので……」 途中何かを言い直したようだが、特に関係ない要件だったので無視したが、どうも幾つか聞きなれない言葉があった。 「召喚だと?この俺をか?」 「えっと……その、ここはトリステイン魔法学院で、春の使い魔召喚の儀式で呼び出されたと聞きましたが……」 「クク……」 魔法?御伽噺の世界じゃああるまいし。 それも、この聖帝を呼び付けて使い魔……よく分からぬが奴隷かそれに類する事をしろだと? 「クハハハハハハハハハハ!」 「……あ、あのぅ?」 突如笑い出した男に少女が困惑した様子になったが、ああ、とある意味納得した。 召喚され、貴族の使い魔になれと言われたとあれば、笑うしかなくなるという事だ。 見知らぬ土地で知り合いもなく、貴族の使い魔にならなければならないのだから、そうなってしまうのも仕方ない。 いくら体付きが立派でも、魔法が使える貴族と、そうでない平民の間では意味を成さない。 貴族に逆らえないという事は、ここで働いている自分達が一番よく知っている。 「だ、大丈夫ですよ。生きてさえいれば良い事あります!わたし達もお手伝いしますから!」 少女の持ち前の優しさというやつもあるだろうが、そんな同情と励ましが混じった言葉は男にはあまり届いていない。 あまりにも馬鹿馬鹿しすぎて怒る気にもなれないというだけだ。 師のぬくもりを思い出したとはいえ、帝王は帝王である。 対等ならまだしも、帝王を使い魔などというものにしようなど、余程の愚か者か、身の程知らずである事は間違い無い。 「なるほど、俺の身体を治したのも魔法というやつか、クッハハハハ」 「そうみたいですね。秘薬の代金は全てミス・ヴァリエールが出したそうですよ」 少なくとも、天に還ったわけでもなく、死んでもいない。 魔法とやらで北斗神拳の秘孔に対応できるのか分からんが、生きているのだからそうなのだろう。 「まぁ、よかろう」 「少なくとも平民が出せる額ではないようなので…お礼を言っておいた方がいいと思います。…と、その前に食事がまだでしたらいかがですか?」 拳王あたりが見たら、目の秘孔を突きそうな、それぐらい似合わぬ少々和やかな会話だったが 少女―トリステインでは珍しい黒髪の持ち主と金髪の男との考え方には、その髪の色程の違いがあるという事にはまだ気付けていなかった。 本塔とは離れた学生女子寮の一部屋。 ベッドの上では桃色がかったブロンドの髪を少女がうずくまるように眠っていた。 彼女こそが、天上天下唯我独尊の塊ともいえる男を召喚したミス・ヴァリエールこと ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールである。 「…ぅ……ん」 目を覚まして部屋を見回してみたが、彼女が期待していた物はそこにはなかった。 「やっぱり……夢じゃないんだ……」 力無く呟きながら昨日起こった事を思い出す。 サモンサーヴァント―― トリステイン魔法学院の生徒が二年生の進級時に行われる春の使い魔召喚の儀式。 これによってメイジの系統が決まる大事な儀式だ。 今年から二年生に進級する彼女も当然それに臨み、幾度かの失敗を経て無事成功はした。 だが…… 風竜や、サラマンダーなんて高望みはしない。 猫や犬、鳥でもよかった。とにかく普通のメイジと同じ物さえ召喚できればなんでもよかった。でも―― 彼女が呼び出した使い魔は、二人。いや、正確には二体。 一体は地に座ったミイラで、もう一体も何故かそのミイラに縋り付き、血に塗れ、背中には七つの穴の跡があった。 周りが『ゼロのルイズが死体を召喚した』などと喚きたてているが、そんな声は彼女に届きはしない。 ――こんなのってない。どうしていつも自分だけこうなんですか……始祖ブリミル。 頭の中に浮かぶのは二人の姉の姿。 ヴェリエール公爵家において三人いる娘のうち、上の二人は優秀なメイジ。 だが、三女であるルイズは魔法が使えぬ『ゼロ』のメイジ。 その不名誉な二つ名を返上したいという思いがこのサモンサーヴァントにあったのだが 例え儀式をやり直せたとしても、死体を召喚したなどという事実は消すことはできない。 トリステイン魔法学校の長い歴史の中でも、死体を召喚したという珍事例は無いだけに、それが一層気分を落ち込ませていた。 地面に座り込んだルイズの後ろから心配そうに一人の男が近づいてきたが、ルイズはそれに気付く様子も無い。 「……大丈夫ですか?ミス・ヴァリエール」 「ミスタ・コルベール……はい、大丈夫です」 そうは言ったが、全然大丈夫でないのは誰が見ても明らかだろう。 はぁ、とため息を吐いて、若干寂しくなった頭を片手で押さえたが、どうしたものかと本気で悩んでいる。 本来使い魔召喚の儀式は神聖なものでやり直しはできない。 だが、この場合は話が異なる。使い魔の契約は使い魔が死ぬ事により解除される。 つまり、最初から死んでいるという事は、契約のし様が無いと考えてもいい。 だが、再召喚に成功したとしても……辛いな。彼女には。 炎蛇の二つ名を持つ学院の教師である彼も、ルイズが普段からゼロと呼ばれている事はよく知っている。 それも、何もしないからゼロではなく、人一倍努力を重ねている上でそう呼ばれている事もだ。 これを機に、昔の自分と同じ間違った道へ進まねばいいが、と考えたが、立ち止まったままというわけにもいかない。 「ミス・ヴァリエール。この場合は仕方ありません。再召喚の準備を、これはわたしがどうにかしましょう」 「……はい」 力無く杖を持つルイズを見て心配になったが、それより先に二体の死体の違いに目がいった。 一体はかなり古い物で、もう一体は新しい。というよりは召喚される直前までは生きていたのかもしれない。 どこかの遺跡に入った盗掘者が罠に掛かり死んだというところだろうか? それにしては、体躯に似合わぬ子供の面影を残す顔が不自然なところだ。 コルベールが少し触れてみたが、まだ身体にはぬくもりが感じられる。 まさかと思い慌てて脈を取ってみたが、かすかだが動いている事に気付き声を出した。 だが、その動きは一刻ごとに弱くなってきている。 「ミス・タバサ!召喚したばかりで悪いのですが、その風竜で彼を学院まで運んでいただきたい!」 タバサと呼ばれた青い髪の小さい少女が頷き、呪文を唱え身の丈程もある杖を振ると、男の身体が浮き上がり風竜の背中に乗った。 「ミス・ヴァリエール。一先ず再召喚は中止にします!非常に危険な状態ですが、処置すれば間に合うかもしれません!」 コルベールとタバサも風竜に乗り込むと、青い鱗の翼を羽ばたかせ風竜が猛スピードで学院へと飛んでいった。 「はぁ……」 ため息を吐くのは何度目かしら。 まだ起きて十数分しか経っていないのに、吐いた数は十を超えている。 あの後学院に戻ったが、コルベールから外傷は大した事ないが 原因は不明だが体内の水の流れを大きく狂わされており、秘薬を用いねば助からないだろう、と聞かされたのだ。 ついでにディティクトマジックで調べてみたが、何の反応も無かったので平民という事は間違い無いという事も。 秘薬という物は高い。公爵家の子弟とはいえ、学生の身分であるルイズにとっては間違いなく高価な代物だ。 それも召喚した平民に使うとあればなおさら高く感じてしまう。 事態が事態だったので使い魔契約の儀式こそしてはいないものの、召喚した事には違いはない。 大金を支払って助けても、平民の使い魔ができるだけ。再召喚も可能だ。 だが、助けなければ死体を召喚したという事は確定し語り草になってしまう。それに再召喚が成功するという補償も無い。 それに、ルイズは常に貴族であろうとしている。 魔法が使えないからこそ、人一倍その傾向が強い。 このまま見捨ててしまえば、貴族などと名乗っていいものかと心の隅でそう思っている。 結局自腹を切って秘薬代を出したのだが、手元に残ったのは百エキュー程だ。 百エキューと言えど平民からすれば大金だが、ルイズにとってこの出費は痛い。 次の仕送りまでかなり間があるし、訳を話すにしても『瀕死の平民を召喚したので、それを助けるために使いました』などと言えるはずがなかった。 ともあれ、授業には出ねばならないし、そろそろ朝食が始まる時間だ。 着替えを済ますと部屋の外に出たが、今現在、最高に見たくない顔と鉢合わせになった。 「おっはよ~、昨日は大変だったわねぇ。大丈夫かしら?ルイズ」 赤い髪が特徴的な、胸元の大きく開いた服を着た、ルイズとは対象的な美女が軽い感じに話しかけてきたが 朝一番から嫌な物見た。という具合に、これまた対象的に嫌そうに返した。 「あんたに心配されるほど落ちぶれてないわよ。キュルケ」 ほぼ同世代なのに、ここまで差が出るあたり、どこの世界にも格差というものは存在するらしい。 「そ、なら大丈夫ね。それで使い魔の平民ってのはどうなったのかしら?」 「ミスタ・コルベールに聞いたら、落ち着いたみたいね。いつ起きるかまでは分からないみたいだけど」 「やっぱり使い魔にするなら、こういうのがいいわよねぇ~。来なさい、フレイム」 そのキュルケの部屋からのっそりと、現れたのは存在するだけでその場に熱を放つ真紅のトカゲ。 身の丈は虎程もあり、尾の先は炎で出来ている異形の生物。 当然、ルイズはこの生物の正体は知っている。 「サラマンダーね。『微熱』のあんたにはお似合いじゃない」 メイジの実力を測るには使い魔を見よ。という言葉がある。 使い魔を見れば、そのメイジの属性と実力がどのぐらいか測れてしまう。 同じ学年で言えば目の前のキュルケと、昨日の風竜を召喚したタバサはツートップ的存在と言えた。 サラマンダーを呼び出したキュルケの属性が炎で、風竜のタバサが風になる。 ならば、死に掛けの平民を呼び出した自分は一体なんになるのだろうか。 考えれば考えるほど『ゼロ』の二つ名が嫌になってくる。 色々考えていたが、気が付けばキュルケとフレイムは既に居なかった。 「はぁ……あいつの自慢話も聞こえないなんて、なにやってるんだろ…わたし」 ため息のカウントをまた一つ増やすと、ルイズも食堂へと歩いて行った。 「騒がしいわね……」 朝食を摂るべく食堂に着いたルイズだったが、何やらやけに騒がしい事に気付いた。 食堂の入り口前に生徒達が集まって中を覗いているのである。 「ねえ、そこのあなた」 メイドなら何か知ってるかもしれないと思い、丁度近くにいた黒髪のメイドに声をかけたのだが、なにかやたら慌てている。 「は、はい!?ど、どど、どうかなさいましたか?ミ、ミス・ヴァリエール」 慌てているというより、声をかけられたから慌てだしたと言った方が正しいだろうか。 それでも一応の応対はしているのだから、さすがというべきだろう。 「なにかあったの?」 「え、っと………ミス・ヴァリエールの……」 やたら言いにくそうにしているが、ミス・ヴァリエールの、と言ったという事は自分に関わりがあるという事になる。 食堂に入っていないのだから、自身は関係無い。 なら他になにかあるかと思ったが、最高に嫌な予感がしてきた。入り口の方から『ゼロの…』とか『召喚…』とか聞こえてくるし。 恐る恐る食堂の中を除いてみたが、言いようの無い脱力感に襲われ思わずその場に座り込んでしまった。 \タタタ~ン♪タタタタタタタタタタッタタ~♪/ 今のルイズの頭の中には、そんなマーチ音が縦横無尽に鳴り響いている。 それもそのはず。昨日まで瀕死のはずだった男が、『貴族は魔法をもってしてその精神となす』をモットーとした 貴族の食卓にふさわしい貴族のための食卓で食事を摂っているからだ。 しかも、限りなく偉そうに、かつ悪びれる様子も無くである。 軽く三人前片付けた所でナイフを置いたが、脚を組み片手で頬杖を付くと、もう片方の手でグラスを取りワインを飲み始めた。 「フッ……悪くない」 グラスの半分を飲んだところでそう呟いたが、それに突っ込む物は誰一人として居なかった。 いや、居るには居るのだが、射抜くような眼光を飛ばされ、近付こうとする前に退散させられていたりする。 「な……なに、やってんのよ……」 あれ本当に昨日召喚したあれよね…?と自分に再確認させてみるが間違いなく本人だ。 本来、平民が入れるはずのない『アルヴィーズの食堂』で、あろうことか脚を組み頬杖を付きながらワイングラスを傾けゆったりしている。 貴族でもあそこまで偉そうにしているのは正直見たことが無い。 よろよろと立ち上がったが、さっきのメイドが心配そうに話しかけてきた。 「だ、大丈夫ですか……?」 「大丈夫じゃないわよ……なに?なんであいつは平民のくせにあんなに偉そうにしてるのよ!」 「い、いえ…わたしは、止めたんです、貴族様しか入れない場所だって。……そしたら、その」 「その?」 「『俺は聖帝。ナントロクセイの帝王。ならば帝王がこの場所に入る事になんの不都合もあるまい』っておっしゃられて……」 ……帝王? 「ナントロクセイって、聞いたことありませんが、どんな国なんでしょうかね」 半ば感心したようにメイドがそう言ったが、当のルイズは聞いちゃいない。 国王、皇帝、君主。言葉は違えど帝王って事はそれと同じ? ……一国の王を使い魔にするのって拙くない?下手すれば戦争よねこれ。 いえ、落ち着くのよルイズ……素数を数えて落ち着くのよ……2 3 5 7 11 13… ナントロクセイなんて国聞いたことないし、そもそもあれ平民だってミスタ・コルベールも言ってたし…… で、でも、そう言われて見ればあの態度も納得いくわね……。ああ、でも自称帝王かもしれないし……。 ひょっとして国家レベルでやらかしたかもしれないという思いと、やってない、まさかという思いが頭の中をぐるぐる回っていたが 食堂の中の方から聞こえてきた声によって、そんな考えを打ち消された。 「君、その席はモンモランシーの席だ。あまつさえ平民が、この食堂に入るなど言語道断だと思わないのかね」 芝居掛かった台詞が聞こえてきた方向を見ると、金髪の少年が腰に手を当て薔薇の杖を突きつけている。 『い、言った!』 『さすがギーシュ!俺達に言えない事を(空気も読めず)平然と言ってのけるッ!』 この状況の中、あえて言ってのけたギーシュに賛辞半分の言葉が送られたが、快く思っていない貴族がほとんどなのか追従する者まで出ている。 だが、帝王は一切動じず、頬杖を付いたまま面白い物でも見るかのような軽い笑みを浮かべて言った。 「デカイ口を利くな、小僧」 まさに傲岸不遜。完全に見下した態度にカチッときたのか、薔薇を持つ手が小刻みに震えている。 「き、聞こえなかったのかね!平民風情が入れる場所ではない、すぐに立ち去りたまえ!」 ギーシュと呼ばれた少年が声を荒げたが、相手は一向に意に介していない。恐らく道端の小石程度にしか思っていないのだろう。 「大方、そこの小娘にいいところを見せたいとでも考えているのだろうが、随分と浅はかだな」 グラスに残ったワインを飲み干し鼻で笑いながら言ったが、ギーシュは顔を赤くして小刻みに震えている。 「モ、モンモランシーは関係無い!僕は君に礼儀というものを……!」 「ハッハッハ……俺は小娘と言っただけだが?」 「なぁ……ッ!」 完全にやり込められたギーシュが言葉に詰まったが、入り口の方から一人の少女がギーシュに近付いてきた。 「ギーシュ様……」 「ケ、ケティ……ど、どうしたんだい」 「やっぱり、本当の想い人は、ミス・モンモランシーだったんですね……」 ケティと呼ばれた少女が声を落としなら言い、目に涙を浮かべたまま走り去って行ったが、次いで金髪縦ロールの少女がギーシュに近付いてきた。 ギーシュが狼狽し始めたあたり、それがモンモランシーだという事が見て取れる。 「やっぱり、あの一年生に手を出してたのねぇ~ギーシュ!」 「モ、モンモランシー!彼女とは馬でラ・ロシェールの森まで遠乗りをしたぐらいで……!」 必死に言い訳をするギーシュだったが、そこに思いもよらぬ追撃が飛び込んできた。 「男の心変わりは恐ろしいものよのぅ」 その言葉の鋭さは最早槍の切っ先と同等。お前どこの殉星だよと突っ込まれそうな言葉の出所は無論あの男。 「き、君!なにを言ってくれるんだ!いいかい?薔薇というものは多くの人を喜ばせるために咲く……あ」 言葉のあまりの鋭さにギーシュが我を忘れて反論したのだが、もう一つの存在を完全に忘れていた。 「つまり、あんたにとってのわたしも、多くの人の一人って事ね?よ~く分かったわ」 殺気混じりの声が食堂に響くと、ギーシュが冷や汗を滝のように流し始めた。 今が夜で世紀末ならば、七つの星の脇に燦然と輝く小さな一つの星がはっきりと見えている事、疑いの余地無しだ。 モンモランシーがポケットの中から瓶を取り出すと、その中身をギーシュにかけた。 辺りに、薔薇の香りが強く漂ってきた事から香水の類のようだ。 「今度、あんたのために香水じゃなくて、除草剤作ってきてあげるわ」 怖いぐらいの笑顔でそう告げると去ると食堂に沈黙が流れたが、そこに笑い声が聞こえてきた。 「クッハハハハ、己の力量を見誤った者の愚かな末路と言ったところか。中々に面白い見世物だったぞ、小僧」 ひとしきり笑うと頬杖を付いたまま、まるで蝿でも払うかのように手を二回振った。下がってもいい、という意味だ。 完全にギーシュに興味を失ったが、コケにされた方はそうもいかない。 「ま、待ちたまえ!」 「まだ居たのか。何の用だ?」 最早その目には何の感情も帯びてはいない。だが、あくまでも帝王の風格を崩さず、そして不敵にギーシュに問い返した。 「君が余計な事を言ってくれたおかげで、二人のレディの名誉が傷ついた。どうしてくれるんだね!?」 「知らぬな」 短く一言で済まされたが、いよいよ我慢ならなくなったのかキザったらしい仕草を取りながら叫ぶかのように言った。 「いいだろう…!確か、ゼロのルイズが召喚した死にぞこないの平民だったか。その態度も気に入らない、君に貴族の礼というものを教えてやろう!決闘だ!!」 「ほう……」 「祈る準備ができたら、ヴェストリの広場に着たまえ」 体を翻すとギーシュが立ち去ると、周りの生徒達の大半も後を追って行く。 教師達も一応は止めようと試みているようだが、あまり積極的ではなかった。 「ミ、ミス・ヴァリエール、あの方はメイジなんですか…?」 一連の流れによく付いていけないルイズが辛うじて首を横に振って答えたが頭の中は色んな考えが飛び交っている。 そもそもわたし、あいつの事何も知らないのにどういうなの事よこれ。 それに決闘って、普通もう少し授業とかのイベントをこなして起こるもんじゃないの? メタ発言的考えはおいておくとして、完全においてけぼりを食らっている事にさすがのルイズもいい加減怒りたくなってきた。 それとは対照的に、未だ椅子に座る続ける男は、依然として変わらぬ姿勢を取りながら『ふむ』と呟くと、メイドを呼んだ。 「シエスタだったな。酒が切れた、代わりを持て」 シエスタ――そう呼ばれルイズの傍にいたあの黒髪のメイドが走り寄って行ったが、男がメイジではない事を知ったせいか声が少しばかり上ずっている。 「だ、大丈夫なんですか?魔法が使えないのに貴族を本気で怒らせたりしたら……」 「三度は言わぬ。代わりを」 「は、はい!」 次はないと言わんばかりの口調に、シエスタが厨房の方へと走って行ったが、そこにルイズが駆け寄ってきた。 「こ、ここの平民!わたしに命助けてもらったくせに勝手になにやってんのよ!まずはわたしに言う事があるんじゃないの!?」 物凄い剣幕でルイズがわめき立てたが、テーブルを挟んで開かれた口から飛び出た言葉はルイズが全く予想しない言葉だった。 「誰だ貴様」 「あんたを召喚したご主人様!一度しか言わないからよく聞きなさい!ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ!」 ぜーぜー、と息を切らして一応自己紹介を済ませたが、長ったらしい名前の最後のヴァリエールという部分を聞いて男が思い出したかのように言った。 「ああ、俺を使い魔などというものにしようとした、身の程知らずか」 「身の程知らずはあんたよ!このバカ!いい?あんたがどれだけ偉かろうと、魔法も使えないやつはメイジには絶対勝てないの!」 「俺がわざわざ小僧と決闘をするだと?ふっ…冗談はよせ」 どこからか、『兄上も意外と甘いようで』とか聞こえてきたのは幻聴に違い無い。 「ああ、もう、とりあえず謝ってきなさい!わたしと契約するのはそれか……って、え、なんでよ?」 すっかり決闘をするつもりだと思っていたルイズも、これには怒りを忘れて思わず間の抜けた声で聞き返してしまった 「例えば……木に実った果実がある。お前ならどうする?」 「そ、それは、木に登るか、梯子を掛けたりして取るんじゃない?」 唐突にそう質問され、ごく一般的な当たり前の答えを言ったが鼻で笑われてしまった。 「な、なにが可笑しいのよ!」 「凡夫の考えだな。収穫などという事は他の者に任せておけばよい。居ながらにして果実を食うという物が帝王の姿という事だ」 口元を獣のように歪めながらぬけぬけと己の帝王学を語る姿にさすがのルイズも唖然としていたが そういえばこいつの名前も聞いていない事に今更ながら気付くと素性を問い質す。 「な、名前、あんた一体どこの誰よ!」 そう聞かれると、ゆっくりと手を掲げ指を天へと突き出すと名乗りをあげた。 「俺は聖帝サウザー。我が星は極星・南十字星。故に誰にも頭を下げぬし屈っしもせぬ」 帝王の名はサウザー。南斗聖拳総派百八派において、最強と評される一子相伝の南斗鳳凰拳の伝承者。 その力と身体の謎により、あの世紀末恐怖の覇者『拳王』ですら闘いを避けた非情の帝王。 だが、誰よりも愛深く、それ故に愛を捨て覇道を突き進んだ哀しい男。 ゼロの少女と、世紀末の帝王の初めての会合はこうして行われた。 #navi(帝王(貴族)に逃走はない(のよ)!)