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ゼロと魔砲使い-29b - (2009/11/17 (火) 15:28:43) のソース
#navi(ゼロと魔砲使い) &setpagename(第28話 烈風 前編) 今回、公爵達は前衛父、後衛母のシフトを引いてきたようだ。ルイズは見たことがなかったが、父は杖に水系統のものと思われる『ブレイド』の魔法を纏わせている。ということは母が一発大きなものを狙っているということだろう。 こちらはなのはがあまり動けない以上、それを止めるのは難しいということとだ。 だが、公爵達はここでなのはの持つ『魔導師』の利点を思い知らされることになった。 公爵の接近と同時に背後からカリーヌのエア・カッターが放たれてくる。牽制のそれをなのはは展開されたプロテクションで弾くと同時に、4つほど展開された光球で迎え撃つ。 「なにっ! 攻撃と防御を同時にこなすだと!」 「なるほど、こんな技が出来るのなら、自信のほども判りますね」 公爵とカリーヌは、驚くと同時になのはが自信を持っている理由を即座に理解していた。 先になのはがルイズに語っていたように、ハルケギニアにおいて魔法の複数同時使用が出来る人物は滅多にいない。それゆえにこちらの戦術はそれが出来ないことを前提に組み立てられている。 やがて接近してきた公爵が剣戟の間合いにしてはやや遠いところまで来たとき、何故か杖を振りかぶっていた。その動きにかつてフェイトが光刃を飛ばしてきたときの姿が重なるのをなのはは感じ、とっさにプロテクションを移動させる。 襲ってきたのは光刃ではなく、杖から伸びてきた水の鞭であった。しかもそれは複数に分裂し、多方面から一気になのはと背後のルイズに襲いかかる。 「ははは、全力でこれを振るうのは久しぶりだぞ!」 対するなのはもうまい、と思った。ハルケギニアの魔法はその性質的に複数の敵を個別に狙うのが難しい。打ちっ放しのものを連射するか、範囲攻撃でまとめて落とすようにするのが普通である。 つまり乱戦になると対処が難しい。だが公爵の水の鞭は、乱戦の中でも的確に複数の敵を狙い撃てる。鞭には多頭鞭という、複数の鞭を束ねたようなものがあるが、それだけに鞭を複数に分裂させるということも、剣などに比べて難しくなかったのだろう。 魔法にイメージが重要なのは、どこの世界でも変わらないようだ。 「これは、少しやっかいですね……」 なのはも小さく呟きながら、公爵の鞭をプロテクションとアクセルシューターで迎撃していく。ただ、現状では少し手数が足りなくなるのが問題だった。 実のところ、今のなのはにはある『枷』がはまっている。それは『カートリッジの不足』であった。 この世界に来たとき、なのはの手元にあったカートリッジは装着中のものを合わせてわずかに2ケース、12発しかなかった。そのうち6発はフーケ戦やアルビオン戦で使ってしまっている。残りは1ケース6発しかないのだ。 ちなみにエルフ戦の時には使っていない。 そしてカートリッジ抜きだと、今のなのはにはある問題が生じる。 魔法的な瞬発力の不足であった。 なのははカートリッジによる補助を得ないと、全般的に魔法の発動が遅いという弱点を抱えている。子供の頃と違い、魔力量的にはカートリッジによる補助抜きでも、かつては刃を合わせた仲間と同等に戦えるようになっている。 だが、戦闘時にそんなことを言ってはいられない。カートリッジを使用すれば『抜き打ち』的に使用できる魔法が、カートリッジ抜きだと発動まで数秒かかるというのではまるで話にならない。 必然的に彼女の戦闘スタイルは、カートリッジの使用を前提としたものに練り上げられていた。今使用しているアクセルシューターも、カートリッジを使用すれば瞬時に32発もの弾体を形成し、同時に完全制御できる。 だが、カートリッジ抜きで瞬時生成が出来るのは4発。そして生成するためには一旦制御を手放さないとならない。さすがになのはといえども弾体を制御するのと同時に生成していくのは不可能であった。 必然的に4発作ってはそれで戦い、減ってきたらまた作り直すという手順を踏まざるを得なくなる。この決定力不足がなのはにとっての懸念であった。 一応、カートリッジは装着されている。だか今ここにあるのが全てだと思うと、命のかかっていない模擬戦で使用するわけにはいかないのだ。 「さすがにあれだけの大言壮語を言うだけのことはあるな。しかし親をなめてもらっては困る!」 水の鞭は6本に分裂してなのはを襲う。さすがになのはの手がこちらにかかりきりになる。 背後ではカリーヌが大きいのを一発狙っているのが判るだけに、少し焦りが生じてくる。 ところが、思わぬことからこの状況が一転することになる。 魔法による牽制ではとうとう追いつかなくなり、ついには手にしたデルフリンガーで水の鞭を打ち落とさざるを得なくなるまで詰め寄られてしまった。 その時であった。 デルフリンガーで水の鞭を切ると言うよりたたき落とそうとしたその瞬間。 「え?」 「おっ?」 なのはとデルフリンガー、二つの声が重なっていた。 デルフリンガーが水の鞭に接触した瞬間、何か予想以上の衝撃のようなものをなのはは感じ、デルフリンガーのほうはその全身というか刀身に思わぬ力が漲るのを感じたのだ。 一方公爵のほうは、遂に刀を使わせるところまで行ったと思った瞬間、予期せぬ逆撃を喰らう形となる。 水の鞭が一本、その力を失って霧散したのだ。 「今の……AMF?」 なのはは、目の前の現象が、かつての戦いでさんざん苦しめられたAMF、魔法の構成式を分解して魔力の結合を解いてしまう、アンチ・マギリンク・フィールドに酷似していることに気がついた。 水の鞭が消えていく様が、遠方から魔力弾をAMF範囲内に撃ち込んだときにそっくりだったのだ。 一方デルフリンガーは、自分の力を一つ、はっきりと思い出していた。 「思い出したぜ姐さん! 俺の魔剣としての力は、『魔力吸収』だ! 続きもあった気がするが、それは後だ! いちいち撃ち落とすこたぁねえ、あの程度の水鞭なんざ、片っ端から切り落ととてやれ!」 「なんだとぉっ!」 目の前でいきなりそんな隠し球を持ち出された公爵は涙目だ。魔力吸収能力を持つ魔剣が相手では、『ブレイド』は無力である。打ち合うたびに打ち消されてしまう。 「カリン! まずい! すまんが攻守交代だ!」 後方の妻に、若かりし頃のような呼びかけをする公爵。そこに掛けられる妻の言葉。 「ちょうどいいタイミングですわ。行きます!」 それを聞いて慌てて離脱する公爵。何が来るのかが、よく判っていたせいだ。なのはもその様子を見て大技が来ると察知し、後ろのルイズに全方位型のオーバルプロテクションを張って自身は前に立つ。 「デル君……信じるよ。君の力」 「おうよ! と、言いたいが、あれ相手だとどこまで持つかはまだ判らんねえぜ!」 目の前から襲ってきたのは、内側に真空を内包し、触れる者すべてを切り刻みながら吹き飛ばす風のスクウェアスペル、カッター・トルネード。 それが真正面からなのはに叩きつけられた。 「いくよっ!」 なのははデルフリンガーを両手持ちにすると、恐れることなく真っ向からその刃を竜巻に叩きつけた。風の大半はその刃が触れると同時にほどかれていくが、真空の刃は物理現象と化しているため、容赦なくなのはの身を切り刻もうとする。 だが、信じられないことに、なのはの身体には全く傷がついていなかった。 「なんだ姐さん、平気なんかい?」 デルフリンガーが思わず呆れたような声を出す。 「バリアジャケットは、こういうタイプの打撃には強いの。かまいたちみたいなものには特に」 空を飛ぶ際の保護も兼ねているバリアジャケットである。気圧の変化にはめっぽう強い。 そんなわけで切り裂かれ、消滅していく竜巻。その途中、デルフリンガーは魔力をどん欲に呑み込んでいく中、再び古い記憶が刺激されるのを感じていた。 (うお、そういえば昔はさんざんぱらこうやって魔力を喰った気が……でも何かが違う。普通ならこんな大魔力喰えばそろそろ腹いっぺえの筈なんだが……) デルフリンガーが思い出していたのは、自分が魔力を吸収できることと、そのため込んだ魔力で使い手の体を動かせること。そこまではかつて何度も別の『担い手』の手の中でやったことだった。 だが、なのはは、今の『担い手』は何かが違った。 もっと古い、古い古いところの記憶が刺激される。それに加えて、これほどの魔力を喰らっているのに『満腹感』……吸収限界を感じない。まるで喰らった魔力が、片っ端から出て行っているかのように…… そのことを自覚したとたん、デルフの脳裏(?)にとてつもない衝撃が走った。 忘れていた、否、意識する必要のなかった『ある機能』を、唐突に思い出したのだ。 前もって『その言葉』を聞いていたのも大きかった。それがなかったら、思い出しはしても自分自身それがなんであるか判らず、混乱していただろうから。 そしてデルフは、そのことを思い出した喜びに、思わず鍔を鳴らして叫んでいた。 「思い出したぜ! 魔力は十分だ! 俺と『ユニゾン』しろ、ガンダールヴ! それがこの俺の本当の使い方だ!」 なのはは思わず呆けてしまった。確かに以前デルフリンガーを調べたとき、彼が『アームドユニゾンデバイス』じゃないかと推測した。けれども彼にはそんな自覚はなく、あくまでも偶然の一致的なもの、もしくは彼の知らないことだと思っていた。 だが今はっきりと彼は言った。自分と『ユニゾン』しろと。 それはユニゾンの意味するところを、彼自身が知らなければ言えない言葉だった。 「思い出したの!」 だが、なのはの声はデルフリンガーによって遮られる。 「ごたくは後だ! ユニゾンすりゃ判る!」 そう言われればいやはない。なのははためらわずに、親友がよく言っているキーワードを叫ぶ。 「ユニゾン・イン!」 見た目は変わらなかった。リィン達のように、中にその身が入ってくることもなかった。 だが、その一言は、なのはの中にあった、あるものにとてつもない影響を与えていた。 具体的には、その左手に刻まれた、ガンダールヴのルーンに。 ガンダールヴのルーンは、武器に触れることにより、その武器を効率よく振るうための身体強化と使用法を融合者に与える力を持つルーンである。 だが彼のルーンは、一体どこからその『武器の適切な使用法』を得ているのであろうか。 何しろ戦車や戦闘機までも使用可能にしてしまうルーンだ。どこかにマニュアルがあるとは考えられない。 ここで思い出していただきたいのが、虚無の魔法『リコード』である。 魔法によるサイコメトリ、物品の記憶を呼び覚ますことは、この世界では『可能』な技術である。全く未知の筈のものからその使用法を導き出せるのは、おそらくこれ以外にない。 そういう意味では、原作でこの地にある『未知の武器』が『使用済み』だったのは幸運かも知れない。ある程度術者の想像が及ぶものならともかく、まっさらの新品では、たとえば零戦の場合なら『機銃の癖』のようなものまでルーンが補正できたか怪しいものである。 ルーンの持ち主が『武器』に対してその使用法を認識しており、武器そのものにもその『認識』に従って使用された記憶がある。この二つがかみ合うのならば、ガンダールヴがあらゆる武器を使用可能に出来ても不思議ではない。 これは担い手が素手を武器として認識できないことへの説明にもなる。 そしてデルフリンガー、『知性』を持つ剣。 あちこちの二次創作でも言われていることであるが、剣に知性を持たせると言うことに、ファンタジー的なロマンを除けばなんの意味があるのであろうか。まず考えられるのは『マニュアル』としての意味である。 だが、剣自身に説明書としての意味だけで知性を付与するのはいささかオーバーな気がする。『録音』でもマニュアルとしての役割は十分に果たせるのであるから。 原作の場合は、緊急時の担い手保護の能力のためとも思われる。人に変わってその体を操るためには、確かに『知性』が必要だろう。 だがそれだけではない。デルフリンガーは、『忘れる』ことが出来るのだ。何かを『忘却』出来るということは、必然的に何かを『覚える』ことが出来るということだ。 これは知性としては当然の働きだ。だが、『マニュアル』にも『コントローラー』にも、そんな機能は不要である。むしろ有害とさえいえる。記載事項を忘れるマニュアルになんの意味があるというのか。現によく『駄剣』とののしられているし。 だが、『覚える』という機能に、ガンダールヴにあると思われる『武器からその使用法を引き出す』という機能が加われば一体何が起こるのか。 幾人もの『担い手』に振るわれたデルフリンガーの『記憶』 武器の使用法を武器の『物品記憶』より取り出すガンダールヴ。 この二つの『機能』が、『融合』により、全て『担い手』に直結された。 結果。 公爵は慄然とした。一体何があったというのか。 使い魔だといった女性が、『ユニゾン・イン』と叫んだ瞬間、その雰囲気が一変した。 それまで『優秀なメイジ』のものであった雰囲気が、いきなり『歴戦の武人』のものに切り替わったのだ。 それだけではない。 彼女の魔法で見た、あの高速移動。それが発動したかと思った瞬間、あまりにも見事な技と共に、公爵の杖が切り飛ばされていた。 さらにはそのままの勢いで、あのカリンに一合たりとも刃を合わせるを許さないまま、あっという間に剣を巻き上げ、その手からはじき飛ばしていた。 完敗である。 そう思った瞬間、彼女の背後にいたルイズが手を上げていた。彼女を覆っていた守りはなのはが動いたと同時に解けているため、その姿はよく見えている。 詠唱完了の合図。 戦いの終わりを告げる合図であった。 「さすがは伝説の使い魔、とでも言うべきなのかな?」 信じられない逆撃を喰らった公爵は、なのはに対して素直に語りかけた。 「まったくね。でもちょっと聞いていいかかしら。あんな技が使えるのなら、もっと楽に戦えたのではなくて?」 カリンも彼女を讃えつつも、不思議に感じたことを聞いていた。 一方なのはは少し申し訳なさそうだ。 「あの、実のところ、ラストの辺りは、公爵達と戦っているとき偶然に近い形で引き出されたものでして……」 隠す必要も感じなかったなのはは、デルフリンガーの覚醒とその能力について公爵達に説明する。 皆あっけにとられていたが、一番最初に立ち直ったのはルイズであった。 「驚いたわね。あなた、本当に六千年ものだったんだ」 「いや、それがな、どうも……」 あのルイズがほめたというのに、何故かデルフリンガーの反応が鈍い。 「? どうかしたの? まさか今更六千年ものじゃなかったとか言わないでしょうね」 「それが、その、まだ完全に思い出したわけじゃないんだが……」 「が?」 ずずいとルイズに詰め寄られて言葉の端々に焦りがにじるデルフリンガー。 ルイズに迫力がありすぎてなのはも公爵も黙ったままだ。カリーヌはかけらも動じていないが、むしろおもしろそうに成り行きを見守っている。 「どうも俺……六千年どころじゃない前からいたみたいなんだわ、これ」 「はあ?」 ルイズの呆けた声が辺りに響き渡っていた。 「まだ完全に思い出したわけじゃないんだがよ」 あのあとカリーヌの、「続きは食事の後にしましょう」という言葉に従って全員で朝食を取った後、場を変えて朝はいなかったカトレアも交え、ここにいないエレオノールを除く家族全員でデルフリンガーの話を聞くことになった。 エレオノールがいなかったのは幸いだろう。彼女がいたら、彼の運命は風前の灯火だったかも知れない。 そしてデルフリンガーは、戦いの中で思い出したことを訥々と語り出した。 「俺の能力が『魔力吸収』と『緊急時の担い手の保護』なのは確かだ。少なくとも初めて『担い手』に使われて以来、俺が使った力はその二つだけだ。けどよ、今回姐さんに使われてはっきり判っちまったんだ。 今までの担い手は全員『不完全な担い手』だってよ」 「不完全……ですか?」 カリーヌが問い掛ける。デルフリンガーは、かちかちと鍔をならしつつ、少し考えるような雰囲気を纏わせながら、言葉を続けた。 「ああ。俺の『本当の担い手』になるには、一つ欠けてるものがあったんだよ。姐さん」 そこにいた全員は、何となくだが、デルフリンガーの『視線』がなのはの方を向いたのを感じた。 「わたし?」 その雰囲気にとまどいつつも、なのはが返事をする。デルフリンガーは、その存在しない『視線』をなのはに固定したまま、さらに言葉を継いだ。 「信じられねえかも知れねえが、これは間違いなく俺の記憶にあったことなんだ……俺を本当に使いこなす『担い手』には、リンカーコアがないと駄目なんだよ」 「え……? あの、デル君、それ、私が説明したからじゃなくて?」 「そう言うことだ。俺は間違いなく、姐さんから姐さんの故郷のことを聞く『前』から、『リンカーコア』とか『ユニゾン』って言う言葉を知ってたんだよ、間違いなく」 ここにいた人物は、皆大変に賢い人達ばかりであった。デルフリンガーの言葉が意味するものを、皆はっきりと悟っていたのだ。 「それって……」 そして口火を切ったのはルイズであった。 「デルフリンガー……あなたは始祖以前の時代に、リンカーコアを持つ……つまり、このハルケギニアじゃなく、なのは達の世界で生まれたっていうこと?」 「いや、それはねえ。俺は間違いなくこの世界で作られてる。それは間違いないって俺自身が確信している」 「でも変じゃない。矛盾しているわよ。ここの世界の人って、リンカーコアないんでしょ?」 「いいえ、正確には『メイジはリンカーコアにレゾナンスコアがユニゾンしている』ですので、全くないわけではありません」 なのはがルイズの言葉を訂正する。 「でもデル君がいうには、この六千年、リンカーコアを持った『担い手』はいなかったのよね」 「おお、その通り。今回姐さんに使われてはっきりと判ったけど、間違いねえな。こんなことがあればいくらなんだって忘れやしねえ。少なくとも俺を使った奴は十人はくだらないし、全員が『ガンダールヴ』って訳じゃなかったが、リンカーコア持ちはいなかったぜ」 その言葉を受けてなのはは考える。この世界、六千年の時の中、メイジの血も拡散しているだろうが、メイジの血を受けていない魔力所持者……つまりリンカーコア所持者はほぼいないと見なしてよいレベルだと思われる。 第97管理外世界レベルであろうか。 だとしたらデルフリンガーの所持条件が厳しすぎる気がする。 「ね、他に覚えていることはないの?」 情報が少ないと感じたなのはは、デルフリンガーに聞いてみた。彼はまたかちかちと鍔を鳴らすと、「ん~~~~」と考え込むようなうなり声を発した。 存外に器用な奴である。 少しして、デルフリンガーはぽつりといった。 「よくは覚えてないんだが……俺が『ガンダールヴ』と対になって作られたのは間違いねえんだ。俺の能力は、ガンダールヴと組んで初めて全力を発揮できるんでな」 その場にいた全員が頷いていた。 「けどよ、ここがどうにも俺にもよく判んねえんだが……俺はどうも、『最強の剣士』のための武具だったような気がするんだよな。うろ覚えだが、昔誰かにそう言われた気がするんだ」 「まあ確かに『ガンダールヴ』は最強の剣士だけど……なんかすっきりしないわね」 ルイズが首をひねる。 「確かに……何かこう、ボタンを掛け間違えているような感じがするわ」 カリーヌも同じく疑問を呈した。 公爵やカトレア、さらになのはも首をひねるが、なかなか答えは出てこない。 と、そんな中で答えを出したのはカトレアであった。 「ねえ、デルフリンガーさん」 「お、なんだい?」 「いろいろ考えるから難しくなっちゃうけど、あなたは、その、『リンカーコアを持つ、ガンダールヴのルーンを宿す人』を、真の担い手にするのですよね」 「ん? ああ、そうなるな。今の姐さんみたいに」 「で、あなたは『最強の剣士』のための剣だったのですよね」 「それも多分間違いねえと思うぞ」 「そしてあなたはこの世界で生まれ、この世界で振るわれるための剣なのですよね」 「おお、それも間違いねえ」 「そして、始祖の使い魔としてのガンダールヴ、及びそれ以外の人も含めて、真の担い手はなのはさんまでいなかったのですね」 「ああ」 「だとすると……」 そこでカトレアは言葉を切る。その場の注目が、カトレアに集中した。 「始祖の時代より前には、このハルケギニアの地には、『リンカーコアを持った剣士さん』がたくさんいたわけですね」 一同が盛大にこけた。デルフリンガーまで、器用にも立てかけられていた柱からずれてこけている。 「ち、ちいねえさま」 ルイズが立ち上がりながらツッコミを入れる。 「そそそれがどうしたのよ」 だが、ルイズは甘かった。カトレアという人物をある意味なめていたともいえる。 ルイズのツッコミを意に介さず、彼女はその言葉を口にしたのだから。 「そして『ガンダールヴ』のルーンは、始祖ブリミル様の使い魔の証となる前から存在していたのですね」 今度こそ本当に場が凍った。カトレアのいう言葉に矛盾はない。デルフリンガーの言葉を素直に解釈していけば、自然とそう言う結論が出る。 だがその結論は、この世界において最大の不敬となる言葉であった。 「カトレア」 現に母から最大級のプレッシャーが次女に掛けられる。だが次女はそのプレッシャーを柳に風と受け流したまま、『微笑みつつ』母に言葉を返した。 「もちろん判っておりますわ。私もこの場にいる人の前以外ではこんな言葉を発したりはしません。 でも、この場にいる私たちは、たとえ不敬であっても真実を知っておく必要があると思いますわ、小さなルイズのためにも」 カトレアの言葉に思うところがあったのか、カリーヌのプレッシャーが霧散した。 「……あなたのいう通りね。たとえ不敬であっても、そこに真実があるのなら、ルイズを守るためには知っておく必要があるわ。下手をしたらこの事実は、教会にとって危険な何かかも知れませんもの」 カリーヌは知ってしまうと危険な知識に対して、知らずに済ますことが出来ない性格であった。知らずに見過ごすことより、知って後悔することを選ぶ。知って、傷ついて、胸の内に溜め込み、時には矛盾を呑み込み、時には全てを破壊して矛盾を解消する、そういう人間だった。 見て見ぬ振りが出来るくらいなら、あれほどの逸話を残すことにはならなかったはずだ。 「『ガンダールヴ』のルーンは始祖の使い魔の証。でもルーンそのものは、始祖以前からあった……つまり始祖は、そのルーンを何らかの形で手にし、それを使い魔の証に改変した、ということになりますわね。 そしてガンダールヴがそうだとしたら、それ以外の伝承のものも、同様と見なさざるを得なくなります」 それの意味することは何か。 始祖は約六千年前、世界に魔法をもたらし、今の世界の基礎を築いた。 だが世界には『それ以前』の何かがあったということになる。 そしてそれは、デルフリンガーが本来なのはの世界の言葉や概念である、『リンカーコア』や『ユニゾン』などを知っていることと合わせると、とんでもない結論が出かねない。 一同の間に沈黙が落ちた。 その沈黙を破ったのは、カリーヌであった。 ぱんぱん、と、沈黙を破るように手を鳴らし、一同の注目を集める。 「みんな、思うことはいろいろあると思うけど、一旦忘れましょう。こんなこと、理解してもなんの得にもなりませんわ。今はただ、あまりよけいなことを知られないようにする、それだけで十分でしょう」 「そうだな」 妻の言葉に公爵も頷く。 「それとルイズ」 公爵は話題を変えるようにルイズの方を見る。 「どうやらおまえは、いろいろと抜き差しならない問題に、どっぷりと浸かってしまったようだな。かくなる上はしかたがない。今度のアルビオン援助に関する諸問題、全力を挙げてラ・ヴァリエール公爵家はおまえのバックアップをすることにする」 「よ、よろしいのですか?」 突然の態度の急変に、わたわたとするルイズ。公爵はそんなルイズをいとおしげに眺めながら、何故か憮然とした口調でいった。 「どうやら今は領地に籠もっている場合ではなさそうだからな。今のおまえをほおって置いたらあの鳥の骨にいいように使われるのがオチだ。やむを得ん、娘のために、私も腰を上げる必要があると思っただけだ」 「あ、ありがとうございます、お父様」 思わず父に飛びつくルイズ。公爵も飛び込んできたルイズを力強く抱きしめた。 「決まりですわね。全く、これであなたの顔がにやけきっていなければ理想的だったのですけど」 妻に指摘され、顔が真っ赤になる公爵であった。 「それはそうと」 そんないい雰囲気を無視するかのように、カリーヌが言葉を続ける。 「なのはさん」 「はい」 返事をするなのは。この時、なのは本人は気づいていなかったが、公爵、カトレア、ルイズ、つまりカリーヌをよく知る家族達は目が飛び出さんばかりに驚いていた。 カリーヌが他人に対等の呼びかけをした。それがいかに珍しいことかを熟知しているが故に。 彼女は身分その他にきわめて厳格であり、上のものには敬意を払い、下のものは厳しく躾け、対等のものには一線を引く。こんなフレンドリーな呼びかけは、公爵が若き頃、彼女と共に暴れ回っていた時以来といってもよかった。 「あなたが娘のためになってくれる、信用できる人物であることはよく判りました。あなたになら娘を一時託すのもよいでしょう」 「ありがとうございます」 きちんと礼をするなのは。そんななのはに対して、カリーヌは今度はずいぶんと砕けた表情で語りかけた。 「それはそうとして、わたくし、久々に感動しました。全力を持ってしても打ち破れない相手を見たのは初めてといっても過言ではありません。若く未熟な頃は無謀な戦いをして一敗地にまみれたことはありましたけれども」 その言葉を聞いて、公爵は別の意味で冷や汗が流れるのを感じていた。 「ですが武勲を上げ、私自身の力がある程度完成してからというもの、まともに相手が出来る人も殆どいなくなってしまいましたの」 その言葉の裏がよ~く判る公爵は、申し訳なさそうになのはの方を見る……そして思いきり後悔した。 彼女に対しても申し訳ないなどと思ったことを。なぜなら彼女は…… 「よろしければこの後、私と改めて手合わせ願えないかしら。この年になって、さらに上を目指せるとは思ってもいませんでしたので」 「ええ喜んで。私にも勉強になりますし。それに最初もさっきも、ある意味偶然と無知につけ込むような形で勝利したわけですし。今度はきちんとお互いの能力を知った上でぶつかってみたいですから」 期待に溢れかえらんばかりの笑顔を浮かべていたのだから。 「そういうことならことの後早速」 「存分に胸をお借りさせていただきます」 バトルマニア要素全開の二人を見て、公爵とルイズは深々とため息をつき、カトレアはただ優しく微笑んでいた。 なお、この後公爵は、何も無い広場であったはずの練兵場を修繕する羽目になる。 平地だったはずの広場が、何故か無数の陥没と小山であふれかえっていたのだった。 #navi(ゼロと魔砲使い)