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「サイヤの使い魔-04」(2010/01/04 (月) 19:27:08) の最新版変更点
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#navi(サイヤの使い魔)
「タバサどうしたの? まだ体調が優れないの? ねえ、大丈夫?」
トリステイン魔法学院、教室。
それまで黙々と本を読んでいたタバサが、突然本を持ったままの体制で机に突っ伏した。
親友の異常事態にいち早く気がついたキュルケが付き添い、心配そうな様子で声をかけている。
本で顔を隠したまま、震える手で教室への出入り口を指差すタバサ。
「…あいつが来た」
「どいつ?」
タバサの指す方を見ると、遠くからでもよくわかる薄桃色のプラチナブロンドと、その後ろから白い輪を頭上に携えた男が教室に入ってきたところだった。
他の生徒たちも悟空に気付き始め、あちこちから声があがる。
「おい、ゼロのルイズが来たぞ」
「あの天使も一緒だ…」
「ゼロの使い魔の天使が来たぞ…」
「おい、お前ら愛想よくしろよ!」
実際にその姿を見たものは無く、本や伝承でしか存在を知らないそれが今、彼らの眼前を悠々と闊歩していた。
ルイズも視線には気付いていたが、使い魔の正体を明かすつもりなど更々無かった。
本当は天使ではなくただの平民の幽霊(ルイズ主観)だなんてことがバレたら、また以前のようにプライドと劣等感の板ばさみで押し潰されそうになる毎日が戻ってきてしまう。
でもこの使い魔を従えているだけで、いつも自分を小馬鹿にしているあいつらが、今はある種の畏怖の目で自分たちを見ている。それだけでルイズは上機嫌だった。
食堂で見せた怒りも何処へやら。
「なあなあ、あれがバグベアーってやつか?」
「そうよ。見たことないの?」
「オラあんなもん見るの初めてだ」
「へえ」
好奇の視線に晒された悟空が、他の生徒が従える使い魔を見て感嘆の息を漏らす。
悟空の知っている動物もいれば、見たこともない一つ目の化け物なんてのもいる。
それらをひとつひとつ、ルイズの知識と照らし合わせていく。
「しっかし世の中には色んな動物がいるもんだなー。オラおったまげたぞ」
「ちょっとよろしくて?」
キュルケが割り込んできた。
「おめえ…キュルケだな」
「あら、あたしをご存知? …ああ、ルイズに聞いたのね」
彼を知るものがこの場にいれば、今の一言にかすかな敵意が含まれているのを察知しただろう。
キュルケとお世辞にも仲がいいとは言えないルイズ。そのルイズフィルターを通して彼女の事を知った悟空。
乙女心というものを知らない彼は、昨夜の一騒動がなければ、彼女をルイズの敵だと認識していたからだ。
気は悟空に比べれば微々たる物だが、悟空がそうであるように、平常時は単に抑えているだけかもしれない。
「オラに用か?」
「用ってほどでもないんだけど…授業の後、ちょっと顔貸してほしいのよね」
「ちょっと! わたしを無視して勝手に話を進めないでよ! これはわたしの使い魔なのよ!!」
「すぐに返すわよ」
「そういう問題じゃない! 第一わたしの使い魔なんだからまずわたしに話を通すのがスジってもんでしょう!?」
「あたしが『使い魔貸して』って言ったら、あんた貸してくれるの?」
「んなわけないでしょ!」
「ならどっちにしたって一緒じゃない」
「コホン」
いつからいたのか、教壇の上には恰幅のいい中年の女性が立っていた。
そそくさと席に戻るキュルケ。
「みなさん始めまして。今年度からみなさんを教えるミセス・シュヴルーズと申します」
授業が始まった。
あんたはあっち行ってなさい、と悟空を他の使い魔のところへ追いやるルイズ。
キュルケがルイズからは見えない角度で手招きしているので、とりあえずそっちへ行った。
「何だ?」
「あそこにいるタバサって子、覚えてる?」
自分の名前が呼ばれているのに耳ざとく気付いたタバサは、本の陰からそっとキュルケの方を盗み見、彼女があの幽霊と内緒話しているのを見て、人知れず気を失った。
「ああ」
「でね、」
「気絶してっぞ」
「え゛」
キュルケが慌ててタバサの方を振り向くと、気丈にもタバサは顔を青ざめさせながらも、机に立てた本を支えにして授業に復帰しているところだった。
しっかりと革装丁の本に食い込んでいる爪が痛々しい。
「…で、でね、あの子に一言謝ってきて欲しいの」
「オラが驚かせちまったからか」
「まあそんなとこ」
親友の名誉のためにも、幽霊が死ぬほど怖いから、という理由は伏せておく。
「わかった」
「よろしくね」
ウインクを送り、悟空を開放する。
教室の隅に去っていく悟空を見送りながら、キュルケは、死んでいる事に眼を瞑れば案外いい男じゃない、と考えた。
何よりも貴族であるこの自分に媚びたり、むせ返るような色気に翻弄されたりする様子が微塵も無い。
これはかなりの難関ね。仮にもヴァリエールの使い魔、横取りしない手は無いわ。
ふと視線を感じたのでそちらを見ると、恋敵を盗られたような顔をしてこちらを睨むルイズと目が合った
(何よ)
視線で問いかける。
(わたしの使い魔に何吹き込んでたのよ)
とでも言いたそうな目つきが返ってきた。
(あたしの勝手でしょ)
(どうせまたわたしの悪口とか言ってたんでしょ、この色ボケ女)
(そういう発想しか出てこないなんて、ヴァリエールの女は胸だけじゃなくて頭の中も貧相なのね)
「ミス・ヴァリエール、ミス・ツェルプストー。授業中ですよ」
よそ見を咎められた。
流石に後半は身振り手振りが混じったので、気付かない方が不思議というものだ。
「元気が有り余っているのでしたら、二人とも前に出て今私が実演して見せた『錬金』の魔法をやってもらいましょう。ここにある石ころを、金属に変えてごらんなさい」
キュルケが血相を変えて抗議する。
「せ、先生、私はともかくルイズにそれをやらせるなんて無理です!無駄です!無謀です!ていうか危険です!」
「失敗を恐れていては何も始まりませんよ」
「いやそういう問題ではなくて」
「やります」
ルイズがとことこと前に出る。その視線はキュルケを捉えて離さない。
「わたしを焚きつけたこと、後悔させてやるわ」
「とっくにしてるわよ、『ゼロ』のルイズ」
ルイズが杖を振り上げたのを見て、キュルケも他の生徒に倣い、机の陰に隠れた。
生まれも育ちも山奥育ち、見知った野獣は数知れず。例え世界は違えども、ケモノの魂中身は同じ。
悟空は教室の隅で、さっそく目新しい使い魔たちと打ち解けていた。
言葉は通じないが、心は通じている。
そして使い魔の様子がおかしいのに気付き、悟空は教室が絶望と緊張感に包まれているのを感じた。
「何だ?」
次の瞬間、耳をつんざく爆音が轟いた。
ミセス・シュヴルーズが再起不能になったため、以後の授業は中止となった。
生徒たちは口々にルイズに対し罵詈雑言を浴びせながら教室を出て行く。
キュルケは「じゃあ後でお願いね」と悟空に言い残し、ルイズを鼻で笑って行った。
タバサは、ルイズが教壇に立った時点でさっさと授業をエスケープしていた。
現在ルイズと悟空はめちゃめちゃになった教室の後始末をしている。
(仙豆がありゃ、あのばっちゃんの怪我も治せるんだけどな~)
無いものをねだってもしょうがない。
ルイズは力なく机を拭いている。ボロボロの制服と相俟って、痛々しい。
その様子を「落ち込んでる」と思った悟空は、元気付けようとルイズに声をかけた。
「まあ気にすんなって。死ぬような怪我じゃなかったんだしよ」
「……何、言ってるのよ」
「魔法は失敗しちまったけどよ、修行して成功できるようにすりゃいいじゃねえか」
「…あんたにはわかんないのよ! 私が魔法を失敗することがどれだけ悔しいことか!!!」
思わず、ルイズは絶叫していた。
さっき、去り際に「ゼロのルイズ!」と罵倒していった生徒は少なくない。
何故自分が「ゼロのルイズ」よ呼ばれるのか、自分の記憶を探った悟空にはわかっているはずだ。
悟空が、自分が「ゼロ」である理由に触れないことで、彼なりに気を使ってるのだと嫌でも感じられた。
でも今は、尚のことそれが重荷に感じる。
ルイズは知らないが、勿論、当の悟空にそんなつもりは微塵も無い。
「まあ気にすんなって。修行すりゃそのうち身につくさ」
「やってるわよ、何度も何度も! 皆に馬鹿にされないように、一杯勉強して学年で1番の成績もとった!」
涙がこぼれる。
「でも魔法はいくらやっても爆発爆発爆発で、しまいには手の皮が裂けて骨が見えた事だってあったわ!!」
「……………」
「わかる!? わたしは落ちこぼれなの! いくら頑張ったって魔法が使えないメイジはただの落ちこぼれなのよ!!!!!」
エリートに生まれながらも、自身にとって最も重要な要素が欠落しているために感じる、耐え難いまでの焦燥感。
ルイズを苛んでいるのは、そんな自分自身への怒りにも似た絶望だった。
悟空は何故か、その姿に生涯最高のライバルの姿を重ね見ていた。
「わかるさ…。オラだって落ちこぼれだったんだ」
「え…?」
「でもよ…落ちこぼれだって必死に努力すりゃ、エリートを超えることがあるかもよ?」
それは悟空がかつて、その生涯最高のライバルに向けて放った言葉だった。
全宇宙一の強戦士族、サイヤ人。
産まれてすぐに戦士の素質を検査され、「下級戦士」と判断された結果、間引きによって地球へ送り込まれた悟空。
その実力は、仲間内で密かに『弱虫』と馬鹿にされていたラディッツにも劣るものだった。
だが、圧倒的な力の差にも、悟空は決して諦めることはなかった。
必死に努力し、修行を重ね、ついにはラディッツをも遥かに上回る力量を持つベジータですら圧倒するまでになった。
落ちこぼれがエリートを圧倒する。
ルイズの目の前にいるのは、正にそれを体現した存在だった。
「だからよ、これからも努力して魔法を使えるようになりゃいいじゃねえか。オラがおめえくらいの頃は、まだまだてんで弱かったぞ」
「…ふ、ふん! つ、使い魔が偉そうにご主人様に対して説教垂れるんじゃないわよ!」
ぐしぐしと涙を拭くルイズ。
「いや、オラそんなつもりで言ったんじゃねえんだけど…」
「だいたい、てんで弱かったって言っても、あんたがどのくらい強いのかわたし、知らないわよ」
「そういやそうだっけな。じゃあ、そのうち見せてやるよ」
「…どうだか……」
やがて、後片付けが終わった。
教室を出ると、悟空を待っていたキュルケに出くわす。
「はぁい」
「キュルケ!? 立ち聞きしてたの!?」
「何の話? 今来たところよ」
「な、何でもないわ…。で、何の用よ」
「さっき言ったでしょ。そちらの使い魔さんに用事があるの」
「駄目。どうしてもと言うなら用件を教えなさい、そしたら考えてあげてもいいわ」
「…タバサの件よ」
「あ…」
その一言で、ルイズも事情を呑み込んだ。
「彼に一言謝ってきて欲しかったの。どっちみち貴女にもこの事は教えるつもりだったんだけど、さっきはタバサもいたから……ね」
「……私も行くわ、それなら貸してあげる」
「交渉、成立ね」
図書館。
あれから扉の前で眠りこけていたコルベールは、重ねがけした「ロック」を解いて入ってきた司書から延々30分間に渡る小言を食らって頭皮に多大なストレスを与え、やや萎えた気合に活を入れ直してオールド・オスマンの元へ向かった。
コルベールと入れ違いにやってきたタバサは、書架から悪霊祓い関連の本をしこたま引っ張り出してきて、片っ端からそれを読み漁っていた。
親友も籠絡されてしまった今、あいつは自分ひとりで対処しなくてはいけない。
いずれ決着のときが来るだろう。
それまでに何とかして対処法を見つけなければ、この学院に安息の地は無い。
逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ。
―ピシュン
…今、聴くも忌まわしい音がしたのは幻聴だろうか、いやそうだと思いたい。
恐る恐る、タバサは音のした方を見た。
「オッス」
ゴクウ が あらわれた!
タバサ は にげだした!
しかし まわりこまれてしまった!!
#navi(サイヤの使い魔)
&setpagename(落ちこぼれ魔法使いルイズ)
#navi(サイヤの使い魔)
「タバサどうしたの? まだ体調が優れないの? ねえ、大丈夫?」
トリステイン魔法学院、教室。
それまで黙々と本を読んでいたタバサが、突然本を持ったままの体制で机に突っ伏した。
親友の異常事態にいち早く気がついたキュルケが付き添い、心配そうな様子で声をかけている。
本で顔を隠したまま、震える手で教室への出入り口を指差すタバサ。
「…あいつが来た」
「どいつ?」
タバサの指す方を見ると、遠くからでもよくわかる薄桃色のプラチナブロンドと、その後ろから白い輪を頭上に携えた男が教室に入ってきたところだった。
他の生徒たちも悟空に気付き始め、あちこちから声があがる。
「おい、ゼロのルイズが来たぞ」
「あの天使も一緒だ…」
「ゼロの使い魔の天使が来たぞ…」
「おい、お前ら愛想よくしろよ!」
実際にその姿を見たものは無く、本や伝承でしか存在を知らないそれが今、彼らの眼前を悠々と闊歩していた。
ルイズも視線には気付いていたが、使い魔の正体を明かすつもりなど更々無かった。
本当は天使ではなくただの平民の幽霊(ルイズ主観)だなんてことがバレたら、また以前のようにプライドと劣等感の板ばさみで押し潰されそうになる毎日が戻ってきてしまう。
でもこの使い魔を従えているだけで、いつも自分を小馬鹿にしているあいつらが、今はある種の畏怖の目で自分たちを見ている。それだけでルイズは上機嫌だった。
食堂で見せた怒りも何処へやら。
「なあなあ、あれがバグベアーってやつか?」
「そうよ。見たことないの?」
「オラあんなもん見るの初めてだ」
「へえ」
好奇の視線に晒された悟空が、他の生徒が従える使い魔を見て感嘆の息を漏らす。
悟空の知っている動物もいれば、見たこともない一つ目の化け物なんてのもいる。
それらをひとつひとつ、ルイズの知識と照らし合わせていく。
「しっかし世の中には色んな動物がいるもんだなー。オラおったまげたぞ」
「ちょっとよろしくて?」
キュルケが割り込んできた。
「おめえ…キュルケだな」
「あら、あたしをご存知? …ああ、ルイズに聞いたのね」
彼を知るものがこの場にいれば、今の一言にかすかな敵意が含まれているのを察知しただろう。
キュルケとお世辞にも仲がいいとは言えないルイズ。そのルイズフィルターを通して彼女の事を知った悟空。
乙女心というものを知らない彼は、昨夜の一騒動がなければ、彼女をルイズの敵だと認識していたからだ。
気は悟空に比べれば微々たる物だが、悟空がそうであるように、平常時は単に抑えているだけかもしれない。
「オラに用か?」
「用ってほどでもないんだけど…授業の後、ちょっと顔貸してほしいのよね」
「ちょっと! わたしを無視して勝手に話を進めないでよ! これはわたしの使い魔なのよ!!」
「すぐに返すわよ」
「そういう問題じゃない! 第一わたしの使い魔なんだからまずわたしに話を通すのがスジってもんでしょう!?」
「あたしが『使い魔貸して』って言ったら、あんた貸してくれるの?」
「んなわけないでしょ!」
「ならどっちにしたって一緒じゃない」
「コホン」
いつからいたのか、教壇の上には恰幅のいい中年の女性が立っていた。
そそくさと席に戻るキュルケ。
「みなさん始めまして。今年度からみなさんを教えるミセス・シュヴルーズと申します」
授業が始まった。
あんたはあっち行ってなさい、と悟空を他の使い魔のところへ追いやるルイズ。
キュルケがルイズからは見えない角度で手招きしているので、とりあえずそっちへ行った。
「何だ?」
「あそこにいるタバサって子、覚えてる?」
自分の名前が呼ばれているのに耳ざとく気付いたタバサは、本の陰からそっとキュルケの方を盗み見、彼女があの幽霊と内緒話しているのを見て、人知れず気を失った。
「ああ」
「でね、」
「気絶してっぞ」
「え゛」
キュルケが慌ててタバサの方を振り向くと、気丈にもタバサは顔を青ざめさせながらも、机に立てた本を支えにして授業に復帰しているところだった。
しっかりと革装丁の本に食い込んでいる爪が痛々しい。
「…で、でね、あの子に一言謝ってきて欲しいの」
「オラが驚かせちまったからか」
「まあそんなとこ」
親友の名誉のためにも、幽霊が死ぬほど怖いから、という理由は伏せておく。
「わかった」
「よろしくね」
ウインクを送り、悟空を開放する。
教室の隅に去っていく悟空を見送りながら、キュルケは、死んでいる事に眼を瞑れば案外いい男じゃない、と考えた。
何よりも貴族であるこの自分に媚びたり、むせ返るような色気に翻弄されたりする様子が微塵も無い。
これはかなりの難関ね。仮にもヴァリエールの使い魔、横取りしない手は無いわ。
ふと視線を感じたのでそちらを見ると、恋敵を盗られたような顔をしてこちらを睨むルイズと目が合った
(何よ)
視線で問いかける。
(わたしの使い魔に何吹き込んでたのよ)
とでも言いたそうな目つきが返ってきた。
(あたしの勝手でしょ)
(どうせまたわたしの悪口とか言ってたんでしょ、この色ボケ女)
(そういう発想しか出てこないなんて、ヴァリエールの女は胸だけじゃなくて頭の中も貧相なのね)
「ミス・ヴァリエール、ミス・ツェルプストー。授業中ですよ」
よそ見を咎められた。
流石に後半は身振り手振りが混じったので、気付かない方が不思議というものだ。
「元気が有り余っているのでしたら、二人とも前に出て今私が実演して見せた『錬金』の魔法をやってもらいましょう。ここにある石ころを、金属に変えてごらんなさい」
キュルケが血相を変えて抗議する。
「せ、先生、私はともかくルイズにそれをやらせるなんて無理です!無駄です!無謀です!ていうか危険です!」
「失敗を恐れていては何も始まりませんよ」
「いやそういう問題ではなくて」
「やります」
ルイズがとことこと前に出る。その視線はキュルケを捉えて離さない。
「わたしを焚きつけたこと、後悔させてやるわ」
「とっくにしてるわよ、『ゼロ』のルイズ」
ルイズが杖を振り上げたのを見て、キュルケも他の生徒に倣い、机の陰に隠れた。
生まれも育ちも山奥育ち、見知った野獣は数知れず。例え世界は違えども、ケモノの魂中身は同じ。
悟空は教室の隅で、さっそく目新しい使い魔たちと打ち解けていた。
言葉は通じないが、心は通じている。
そして使い魔の様子がおかしいのに気付き、悟空は教室が絶望と緊張感に包まれているのを感じた。
「何だ?」
次の瞬間、耳をつんざく爆音が轟いた。
ミセス・シュヴルーズが再起不能になったため、以後の授業は中止となった。
生徒たちは口々にルイズに対し罵詈雑言を浴びせながら教室を出て行く。
キュルケは「じゃあ後でお願いね」と悟空に言い残し、ルイズを鼻で笑って行った。
タバサは、ルイズが教壇に立った時点でさっさと授業をエスケープしていた。
現在ルイズと悟空はめちゃめちゃになった教室の後始末をしている。
(仙豆がありゃ、あのばっちゃんの怪我も治せるんだけどな~)
無いものをねだってもしょうがない。
ルイズは力なく机を拭いている。ボロボロの制服と相俟って、痛々しい。
その様子を「落ち込んでる」と思った悟空は、元気付けようとルイズに声をかけた。
「まあ気にすんなって。死ぬような怪我じゃなかったんだしよ」
「……何、言ってるのよ」
「魔法は失敗しちまったけどよ、修行して成功できるようにすりゃいいじゃねえか」
「…あんたにはわかんないのよ! 私が魔法を失敗することがどれだけ悔しいことか!!!」
思わず、ルイズは絶叫していた。
さっき、去り際に「ゼロのルイズ!」と罵倒していった生徒は少なくない。
何故自分が「ゼロのルイズ」よ呼ばれるのか、自分の記憶を探った悟空にはわかっているはずだ。
悟空が、自分が「ゼロ」である理由に触れないことで、彼なりに気を使ってるのだと嫌でも感じられた。
でも今は、尚のことそれが重荷に感じる。
ルイズは知らないが、勿論、当の悟空にそんなつもりは微塵も無い。
「まあ気にすんなって。修行すりゃそのうち身につくさ」
「やってるわよ、何度も何度も! 皆に馬鹿にされないように、一杯勉強して学年で1番の成績もとった!」
涙がこぼれる。
「でも魔法はいくらやっても爆発爆発爆発で、しまいには手の皮が裂けて骨が見えた事だってあったわ!!」
「……………」
「わかる!? わたしは落ちこぼれなの! いくら頑張ったって魔法が使えないメイジはただの落ちこぼれなのよ!!!!!」
エリートに生まれながらも、自身にとって最も重要な要素が欠落しているために感じる、耐え難いまでの焦燥感。
ルイズを苛んでいるのは、そんな自分自身への怒りにも似た絶望だった。
悟空は何故か、その姿に生涯最高のライバルの姿を重ね見ていた。
「わかるさ…。オラだって落ちこぼれだったんだ」
「え…?」
「でもよ…落ちこぼれだって必死に努力すりゃ、エリートを超えることがあるかもよ?」
それは悟空がかつて、その生涯最高のライバルに向けて放った言葉だった。
全宇宙一の強戦士族、サイヤ人。
産まれてすぐに戦士の素質を検査され、「下級戦士」と判断された結果、間引きによって地球へ送り込まれた悟空。
その実力は、仲間内で密かに『弱虫』と馬鹿にされていたラディッツにも劣るものだった。
だが、圧倒的な力の差にも、悟空は決して諦めることはなかった。
必死に努力し、修行を重ね、ついにはラディッツをも遥かに上回る力量を持つベジータですら圧倒するまでになった。
落ちこぼれがエリートを圧倒する。
ルイズの目の前にいるのは、正にそれを体現した存在だった。
「だからよ、これからも努力して魔法を使えるようになりゃいいじゃねえか。オラがおめえくらいの頃は、まだまだてんで弱かったぞ」
「…ふ、ふん! つ、使い魔が偉そうにご主人様に対して説教垂れるんじゃないわよ!」
ぐしぐしと涙を拭くルイズ。
「いや、オラそんなつもりで言ったんじゃねえんだけど…」
「だいたい、てんで弱かったって言っても、あんたがどのくらい強いのかわたし、知らないわよ」
「そういやそうだっけな。じゃあ、そのうち見せてやるよ」
「…どうだか……」
やがて、後片付けが終わった。
教室を出ると、悟空を待っていたキュルケに出くわす。
「はぁい」
「キュルケ!? 立ち聞きしてたの!?」
「何の話? 今来たところよ」
「な、何でもないわ…。で、何の用よ」
「さっき言ったでしょ。そちらの使い魔さんに用事があるの」
「駄目。どうしてもと言うなら用件を教えなさい、そしたら考えてあげてもいいわ」
「…タバサの件よ」
「あ…」
その一言で、ルイズも事情を呑み込んだ。
「彼に一言謝ってきて欲しかったの。どっちみち貴女にもこの事は教えるつもりだったんだけど、さっきはタバサもいたから……ね」
「……私も行くわ、それなら貸してあげる」
「交渉、成立ね」
図書館。
あれから扉の前で眠りこけていたコルベールは、重ねがけした「ロック」を解いて入ってきた司書から延々30分間に渡る小言を食らって頭皮に多大なストレスを与え、やや萎えた気合に活を入れ直してオールド・オスマンの元へ向かった。
コルベールと入れ違いにやってきたタバサは、書架から悪霊祓い関連の本をしこたま引っ張り出してきて、片っ端からそれを読み漁っていた。
親友も籠絡されてしまった今、あいつは自分ひとりで対処しなくてはいけない。
いずれ決着のときが来るだろう。
それまでに何とかして対処法を見つけなければ、この学院に安息の地は無い。
逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ。
―ピシュン
…今、聴くも忌まわしい音がしたのは幻聴だろうか、いやそうだと思いたい。
恐る恐る、タバサは音のした方を見た。
「オッス」
ゴクウ が あらわれた!
タバサ は にげだした!
しかし まわりこまれてしまった!!
#navi(サイヤの使い魔)
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