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「ゼロの看板に偽り有り-02」(2007/12/17 (月) 14:41:02) の最新版変更点
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ハルケギニアは狙われている。
それは、二つの月が交差する時に現われる魔。
はるかなる異界から次元歪曲路を通って現われる、超次元からの侵略者。
その不安定な存在を補うため、ハルケギニアの生命体と融合する事で出現する恐るべき寄生体。
その名はZONE(ゾーン)。
それは歴史上幾度と無く現われ、この地の住民達と苛烈な戦いを繰り広げ、辛くも退けられ続けた敵。
ブリミル以前の神話に語られる神々の戦いすら、彼等との戦いの記録の断片にしか過ぎない。
恐るべき破壊。恐るべき殺戮。時に恐るべき天変地異すら巻き起こす存在。
メイジの使う魔法の力では倒す事が困難な―――世界を滅ぼす者なのですヨ?
……てな話を、ルイズは目の前の変なのから聞いていた。
青くて透明でフワフワ浮く、なにやら液体っぽい二頭身の女の子のようなモノ。
ソレは自身を水の精霊、「ウンディーネ」と名乗っていた。
「と、ゆーワケで、ルイズちゃんには世界を守る魔法少女になってもらいたいのヨ?」
「えっと、どういうワケで?」
夕方、ドクロ仮面の姿にショックを受けて部屋に帰るなりベッドにつっ伏して眠ってしまったルイズ。
それが夜中に起こされたかと思うと、目の前には精霊を名乗る変なの。
更に加えて魔法少女。
ルイズが混乱するのも当然だと言える。
「アナタには力があるのですヨ? ハルキゲニアが生み出した外敵からの守りの力。
世界免疫機能……ソレがアナタに隠された<虚無>の魔法力ヨ?」
「虚無!? わ……私が?」
「その通りヨ? さあ、この水のルビーと魔法のステッキを持って呪文を唱えるのヨ!」
「わ、わかったわウンディーネ! エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ―――」
変なモノからとは言え、なんだか自分が凄いもののように言われて、ルイズは高揚した。
いい気分になった所で勢いに乗せられたルイズは、杖を手にポーズをとる。
くるくる回ってぴかぴか光りながら唱えるルーンは、なぜか胸の内から湧き出してくる。
これが自分の力。
感動を覚えながら、ルイズは両腕を複雑かつ優雅に動かして振り上げて―――
「ちょっとルイズー、アンタうるさい……わ……よ?」
ノリノリの姿を向かいの部屋から文句を言いに来たキュルケに目撃されてしまった。
杖を振り上げたアレなポーズで硬直するルイズ。
膝を曲げて爪先でチョンと床を突いたポージングの右足とかが地味に痛い。
その姿を正面から見ているキュルケも、言葉も無く固まっていた。
ちなみにウンディーネは素早くベッドの裏あたりに隠れている。
「…………………………」
「…………………………」
「…………………………」
「…………………………」
「…………………………」
「まぁその……使い魔召喚の儀式で契約しそこなってショックなのは分かるけどね……
ハジけるのは程々にしときなさいよ、アンタ慣れてないんだし。お休み」
パタンと閉じられる扉。
バツが悪そうなキュルケの言葉が印象的だ。
「ふー、あやうく姿を見られるところだったわヨ? って……ルイズちゃん?」
「……見られた。ツェルプストーに……しかも気を使われた……」
「ま、まぁ変身した所を見られたワケじゃ無いのヨ? だから安心して……」
「……もう寝る」
先程までの高揚した気分は何処へやら。
杖を机の上に投げると、制服のまま天蓋付きの大きなベッドに身を投げる。
「あ、あの、ルイズちゃん? 魔法少女の事は……」
「どっかテキトーにメモしといてよ。お休みー」
「あのその、世界が狙われてるのヨ?」
「ぐーぐーぐーぐーぐー」
かくしてフテ寝してしまったルイズと困っているウンディーネを、窓の外の二つの月だけが見下ろしていましたとさ。
<ゼロの看板に偽り有り>
その頃、トリステイン魔法学園・夜の中庭。
美しい月光の下でワインを傾けながら、一組の恋人達が逢引していた。
とは言っても、爛れまくった昼間のカップルとは違って健全なモンである。
「おおぅモンモランシー! キミの美しさはあの月すらも霞ませる!」
「ギーシュ……」
大げさなポージングでダダ甘なセリフを吐いているのはギーシュ・ド・グラモン。
ちょっとアレな言葉にも頬をポッと染めているのはモンモランシー・ド・モンモランシ。
双方名門貴族の子息息女にして、ちょっぴりユルいカップルである。
「ああギーシュ。貴方にこれを受け取ってもらいたいの」
「いったいなんだい、僕の愛しのモンモランシー?」
「私が作った特製の香水よ。これを私だと思って、いつも身に付けていてね?」
一瞬だけギーシュの笑顔が引きつった。
モンモン特製香水などいつも付けていたら、他の女の子を誘う時に困るではないか。
しかし美しき薔薇であるギーシュ・ド・グラモンに、女の子のお願いを断るという選択肢が無いのもまた事実。
「ありがとうボクの可愛いモンモランシー。この香水はいつも身に付けておくよ!」
ギーシュはモンモランシーの差し出す小瓶ごと彼女の手を握り、歯をキラリと輝かせて受け取った。
ただし香水を使用するとは決して言っていない。
いつも「持ち歩いて」おけば嘘をついた事にはならないはずだと、素早く考えたのである。
ギーシュは小瓶の蓋を外すと、その香りを軽く嗅いでから言葉を紡ぐ。
「モンモランシー! 『香水の』モンモランシー!!
この香りに包まれていると、まるでキミ自身に包まれているようだよモンモランシー!
ああ、こんなステキな贈り物を受け取る事ができるなんて、僕はなんて幸福な男だろう!」
もちろん舞台役者のようなポーズをとる事も忘れない。
一歩間違うと道化役者のようなポーズだと言うのは、言わぬが花だろう。
そのポーズで固定のまま、閉じていた目をチョロリと開いてモンモランシーの姿をチラ見するギーシュ。
彼の計算ではモンモンは感極まったように瞳を潤ませて自分を見ているはずなのだが……
残念ながら、彼女の視線はギーシュを通り越してその背後へ向けられ、
薔薇色になっている予定の頬は真っ青な血の気の引いた色に染まっていた。
「うん?」
不信に思ってその視線を追うギーシュ。
器用に首だけを回して視線の先、つまり自分の背後を見れば、そこに巨大なゴーレムが立っていた。
女の子がママゴトに使うようなお人形をそのまま巨大化させたゴーレムは、はっきり言って怖い。
特にその無表情かつツブラな瞳が、不気味極まりなかった。
しかもその身の丈20メートルはあろうかと言うゴーレムは、拳を高く振り上げている所だったりする。
「うひいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」
「っきゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
仲良く悲鳴をあげるカップル。
しかしギーシュとて腐ってもメイジ。
素早くモンモランシーを守るように抱きかかえて跳びながら、薔薇の造花を模した杖を振る。
舞い散る花びらから現われる7体のワルキューレ。
それらは一瞬で伍隊を組み、巨大ゴーレムに立ち向かうように槍を構えると……パンチ一発でヘコまされる。
「全然ダメだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「全然ダメじゃないぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
ご丁寧にも、異様になめらかな動きでワルキューレをグシグシ踏みつけるゴーレム。
7体のワルキューレは数十秒で青銅の金属板に変えられてしまった。
もっとも、そのおかげで逃げ出す時間を稼ぐ事ができたのも事実。
ギーシュとモンモンは手に手を取って、宿直の教師が居るはずの本塔を目指して走った。
だがしかし、ゴーレムは「中に人が入ってんじゃね?」と思わせる動きで大きくジャンプ。
ヒラリとギーシュ達の前方に飛び降りて立ち塞がった。
瞬間、ギーシュとモンモランシーは死を覚悟した。
青銅のワルキューレを一撃でひしゃげさせるパンチなど食らったら、自分達の死体すら残らないかもしれない。
それでもせめて、貴族らしく戦って散ろうと、魔力の切れたギーシュは造花の杖を掲げる。
背中に恋人を庇い、なんとしても彼女だけでも生き延びさせるのだと決意をもって。
その横顔に一瞬見惚れたモンモランシーもまた、恋人に倣って杖を掲げた。
水の壁でわずかなりとも拳を逸らせれば自分達が……それがダメならギーシュだけでも生き残らせる事ができるはずだと信じて。
振り上げられるゴーレムの右腕。
魔法によって生み出される水の壁。
それを易々と貫いて迫り来る巨大な拳に二人が目をつむった瞬間、中庭に閃光が走った。
否。それは閃光と見紛うほどの高速移動から放たれた掌打の一撃。
二人の前に飛び込んで来た赤いマントの怪人の手から放たれた一撃が、ゴーレムの拳を迎撃したのだ。
一瞬の拮抗。
それは異様な光景だったろう。
ガイコツを納める頭部ポットをもった怪人と言えども、その体格は尋常な人間のソレと変わりは無い。
にもかかわらず、その掌が20メートル級の巨大なゴーレムの拳を受け止めているのだから。
だが、そんな事など瑣末と思える異常事態がそこから起こった。
打ち付けられたドクロ仮面の掌打を中心に、ゴーレムの体表面に亀裂が入ったのだから。
右拳前面から手に、そこから更に腕にまで伝わった亀裂は、ついに胴体と頭部にまで達する。
そしてその亀裂から、内圧に耐え切れなくなったかのように砕け散るゴーレム。
ズシンと地響きを立てて、残った下半身と左腕が地面に倒れた。
「な、ななななななな……」
「―――危ない所だったな」
安堵からか腰を抜かしてヘタリ込むギーシュの前で、たのもしい背中に赤いマントをなびかせて振り返るガイコツ頭の怪人。
月光に照らされるその姿は、正直超コワイ。
「あ、あ、あ、あのっ―――」
「若者よ、夜の外出は危険が多い。気をつけるように。さらばだ!」
ギーシュの震える声には答えず、それだけ言ってドクロ仮面はその場を去った。
だってベホイミちゃんは明日もメイド仕事で早いので、さっさと寝たかったから。
「……な……なんだったんだろう…………今のは」
後に残されたギーシュとモンモランシーはしばらく呆然としていた。
昼間にルイズに召喚されたアレが何者なのか?
なんでイキナリ中庭にゴーレムが現われたのか?
わからない事だらけである。
やがて考えても仕方が無いかと頭を振って、ギーシュは恋人の方を振り向いた。
まるで敵わなかったとは言え、結構良い所を見せたかもしれないので、モンモランシーから惚れ直されているかもしれないと期待して。
だがしかし。
「ああっ、ドクロ仮面さま……」
恋する乙女の表情で、モンモランシーは怪人が消えた辺りを見つめていたり。
「なっ!? ちょっ、僕のモンモランシー!?」
「颯爽と現われて敵を倒して、お礼も言わせずに去るなんて……ステキ」
かくして命の危機が去ったものの、カップルには別の危機が訪れる。
あんまりな展開にギーシュが騒ぐものの、モンモランシーはこれっぽっちも聞いちゃいない。
負けるなギーシュ。がんばれギーシュ。君の恋敵は強大だぞ!
中身は性別・女だけどナー。
そんな風に騒いでいたから、二人とも気がつかなかった。
いつのまにか、自分達を襲ったゴーレムの残骸が消えている事に。
そしてその代わりに上半身が砕けた小人、アルヴィーズ人形が草むらの中に転がっていると云う事に。
第二戦
――●巨大アルヴィーズVSドクロ仮面○――決まり手は掌打
新感覚癒し系魔法少女ベホイミちゃん、第三話へ続く!
#navi(ゼロの看板に偽り有り)
ハルケギニアは狙われている。
それは、二つの月が交差する時に現われる魔。
はるかなる異界から次元歪曲路を通って現われる、超次元からの侵略者。
その不安定な存在を補うため、ハルケギニアの生命体と融合する事で出現する恐るべき寄生体。
その名はZONE(ゾーン)。
それは歴史上幾度と無く現われ、この地の住民達と苛烈な戦いを繰り広げ、辛くも退けられ続けた敵。
ブリミル以前の神話に語られる神々の戦いすら、彼等との戦いの記録の断片にしか過ぎない。
恐るべき破壊。恐るべき殺戮。時に恐るべき天変地異すら巻き起こす存在。
メイジの使う魔法の力では倒す事が困難な―――世界を滅ぼす者なのですヨ?
……てな話を、ルイズは目の前の変なのから聞いていた。
青くて透明でフワフワ浮く、なにやら液体っぽい二頭身の女の子のようなモノ。
ソレは自身を水の精霊、「ウンディーネ」と名乗っていた。
「と、ゆーワケで、ルイズちゃんには世界を守る魔法少女になってもらいたいのヨ?」
「えっと、どういうワケで?」
夕方、ドクロ仮面の姿にショックを受けて部屋に帰るなりベッドにつっ伏して眠ってしまったルイズ。
それが夜中に起こされたかと思うと、目の前には精霊を名乗る変なの。
更に加えて魔法少女。
ルイズが混乱するのも当然だと言える。
「アナタには力があるのですヨ? ハルキゲニアが生み出した外敵からの守りの力。
世界免疫機能……ソレがアナタに隠された<虚無>の魔法力ヨ?」
「虚無!? わ……私が?」
「その通りヨ? さあ、この水のルビーと魔法のステッキを持って呪文を唱えるのヨ!」
「わ、わかったわウンディーネ! エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ―――」
変なモノからとは言え、なんだか自分が凄いもののように言われて、ルイズは高揚した。
いい気分になった所で勢いに乗せられたルイズは、杖を手にポーズをとる。
くるくる回ってぴかぴか光りながら唱えるルーンは、なぜか胸の内から湧き出してくる。
これが自分の力。
感動を覚えながら、ルイズは両腕を複雑かつ優雅に動かして振り上げて―――
「ちょっとルイズー、アンタうるさい……わ……よ?」
ノリノリの姿を向かいの部屋から文句を言いに来たキュルケに目撃されてしまった。
杖を振り上げたアレなポーズで硬直するルイズ。
膝を曲げて爪先でチョンと床を突いたポージングの右足とかが地味に痛い。
その姿を正面から見ているキュルケも、言葉も無く固まっていた。
ちなみにウンディーネは素早くベッドの裏あたりに隠れている。
「…………………………」
「…………………………」
「…………………………」
「…………………………」
「…………………………」
「まぁその……使い魔召喚の儀式で契約しそこなってショックなのは分かるけどね……
ハジけるのは程々にしときなさいよ、アンタ慣れてないんだし。お休み」
パタンと閉じられる扉。
バツが悪そうなキュルケの言葉が印象的だ。
「ふー、あやうく姿を見られるところだったわヨ? って……ルイズちゃん?」
「……見られた。ツェルプストーに……しかも気を使われた……」
「ま、まぁ変身した所を見られたワケじゃ無いのヨ? だから安心して……」
「……もう寝る」
先程までの高揚した気分は何処へやら。
杖を机の上に投げると、制服のまま天蓋付きの大きなベッドに身を投げる。
「あ、あの、ルイズちゃん? 魔法少女の事は……」
「どっかテキトーにメモしといてよ。お休みー」
「あのその、世界が狙われてるのヨ?」
「ぐーぐーぐーぐーぐー」
かくしてフテ寝してしまったルイズと困っているウンディーネを、窓の外の二つの月だけが見下ろしていましたとさ。
<ゼロの看板に偽り有り>
その頃、トリステイン魔法学園・夜の中庭。
美しい月光の下でワインを傾けながら、一組の恋人達が逢引していた。
とは言っても、爛れまくった昼間のカップルとは違って健全なモンである。
「おおぅモンモランシー! キミの美しさはあの月すらも霞ませる!」
「ギーシュ……」
大げさなポージングでダダ甘なセリフを吐いているのはギーシュ・ド・グラモン。
ちょっとアレな言葉にも頬をポッと染めているのはモンモランシー・ド・モンモランシ。
双方名門貴族の子息息女にして、ちょっぴりユルいカップルである。
「ああギーシュ。貴方にこれを受け取ってもらいたいの」
「いったいなんだい、僕の愛しのモンモランシー?」
「私が作った特製の香水よ。これを私だと思って、いつも身に付けていてね?」
一瞬だけギーシュの笑顔が引きつった。
モンモン特製香水などいつも付けていたら、他の女の子を誘う時に困るではないか。
しかし美しき薔薇であるギーシュ・ド・グラモンに、女の子のお願いを断るという選択肢が無いのもまた事実。
「ありがとうボクの可愛いモンモランシー。この香水はいつも身に付けておくよ!」
ギーシュはモンモランシーの差し出す小瓶ごと彼女の手を握り、歯をキラリと輝かせて受け取った。
ただし香水を使用するとは決して言っていない。
いつも「持ち歩いて」おけば嘘をついた事にはならないはずだと、素早く考えたのである。
ギーシュは小瓶の蓋を外すと、その香りを軽く嗅いでから言葉を紡ぐ。
「モンモランシー! 『香水の』モンモランシー!!
この香りに包まれていると、まるでキミ自身に包まれているようだよモンモランシー!
ああ、こんなステキな贈り物を受け取る事ができるなんて、僕はなんて幸福な男だろう!」
もちろん舞台役者のようなポーズをとる事も忘れない。
一歩間違うと道化役者のようなポーズだと言うのは、言わぬが花だろう。
そのポーズで固定のまま、閉じていた目をチョロリと開いてモンモランシーの姿をチラ見するギーシュ。
彼の計算ではモンモンは感極まったように瞳を潤ませて自分を見ているはずなのだが……
残念ながら、彼女の視線はギーシュを通り越してその背後へ向けられ、
薔薇色になっている予定の頬は真っ青な血の気の引いた色に染まっていた。
「うん?」
不信に思ってその視線を追うギーシュ。
器用に首だけを回して視線の先、つまり自分の背後を見れば、そこに巨大なゴーレムが立っていた。
女の子がママゴトに使うようなお人形をそのまま巨大化させたゴーレムは、はっきり言って怖い。
特にその無表情かつツブラな瞳が、不気味極まりなかった。
しかもその身の丈20メートルはあろうかと言うゴーレムは、拳を高く振り上げている所だったりする。
「うひいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」
「っきゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
仲良く悲鳴をあげるカップル。
しかしギーシュとて腐ってもメイジ。
素早くモンモランシーを守るように抱きかかえて跳びながら、薔薇の造花を模した杖を振る。
舞い散る花びらから現われる7体のワルキューレ。
それらは一瞬で伍隊を組み、巨大ゴーレムに立ち向かうように槍を構えると……パンチ一発でヘコまされる。
「全然ダメだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「全然ダメじゃないぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
ご丁寧にも、異様になめらかな動きでワルキューレをグシグシ踏みつけるゴーレム。
7体のワルキューレは数十秒で青銅の金属板に変えられてしまった。
もっとも、そのおかげで逃げ出す時間を稼ぐ事ができたのも事実。
ギーシュとモンモンは手に手を取って、宿直の教師が居るはずの本塔を目指して走った。
だがしかし、ゴーレムは「中に人が入ってんじゃね?」と思わせる動きで大きくジャンプ。
ヒラリとギーシュ達の前方に飛び降りて立ち塞がった。
瞬間、ギーシュとモンモランシーは死を覚悟した。
青銅のワルキューレを一撃でひしゃげさせるパンチなど食らったら、自分達の死体すら残らないかもしれない。
それでもせめて、貴族らしく戦って散ろうと、魔力の切れたギーシュは造花の杖を掲げる。
背中に恋人を庇い、なんとしても彼女だけでも生き延びさせるのだと決意をもって。
その横顔に一瞬見惚れたモンモランシーもまた、恋人に倣って杖を掲げた。
水の壁でわずかなりとも拳を逸らせれば自分達が……それがダメならギーシュだけでも生き残らせる事ができるはずだと信じて。
振り上げられるゴーレムの右腕。
魔法によって生み出される水の壁。
それを易々と貫いて迫り来る巨大な拳に二人が目をつむった瞬間、中庭に閃光が走った。
否。それは閃光と見紛うほどの高速移動から放たれた掌打の一撃。
二人の前に飛び込んで来た赤いマントの怪人の手から放たれた一撃が、ゴーレムの拳を迎撃したのだ。
一瞬の拮抗。
それは異様な光景だったろう。
ガイコツを納める頭部ポットをもった怪人と言えども、その体格は尋常な人間のソレと変わりは無い。
にもかかわらず、その掌が20メートル級の巨大なゴーレムの拳を受け止めているのだから。
だが、そんな事など瑣末と思える異常事態がそこから起こった。
打ち付けられたドクロ仮面の掌打を中心に、ゴーレムの体表面に亀裂が入ったのだから。
右拳前面から手に、そこから更に腕にまで伝わった亀裂は、ついに胴体と頭部にまで達する。
そしてその亀裂から、内圧に耐え切れなくなったかのように砕け散るゴーレム。
ズシンと地響きを立てて、残った下半身と左腕が地面に倒れた。
「な、ななななななな……」
「―――危ない所だったな」
安堵からか腰を抜かしてヘタリ込むギーシュの前で、たのもしい背中に赤いマントをなびかせて振り返るガイコツ頭の怪人。
月光に照らされるその姿は、正直超コワイ。
「あ、あ、あ、あのっ―――」
「若者よ、夜の外出は危険が多い。気をつけるように。さらばだ!」
ギーシュの震える声には答えず、それだけ言ってドクロ仮面はその場を去った。
だってベホイミちゃんは明日もメイド仕事で早いので、さっさと寝たかったから。
「……な……なんだったんだろう…………今のは」
後に残されたギーシュとモンモランシーはしばらく呆然としていた。
昼間にルイズに召喚されたアレが何者なのか?
なんでイキナリ中庭にゴーレムが現われたのか?
わからない事だらけである。
やがて考えても仕方が無いかと頭を振って、ギーシュは恋人の方を振り向いた。
まるで敵わなかったとは言え、結構良い所を見せたかもしれないので、モンモランシーから惚れ直されているかもしれないと期待して。
だがしかし。
「ああっ、ドクロ仮面さま……」
恋する乙女の表情で、モンモランシーは怪人が消えた辺りを見つめていたり。
「なっ!? ちょっ、僕のモンモランシー!?」
「颯爽と現われて敵を倒して、お礼も言わせずに去るなんて……ステキ」
かくして命の危機が去ったものの、カップルには別の危機が訪れる。
あんまりな展開にギーシュが騒ぐものの、モンモランシーはこれっぽっちも聞いちゃいない。
負けるなギーシュ。がんばれギーシュ。君の恋敵は強大だぞ!
中身は性別・女だけどナー。
そんな風に騒いでいたから、二人とも気がつかなかった。
いつのまにか、自分達を襲ったゴーレムの残骸が消えている事に。
そしてその代わりに上半身が砕けた小人、アルヴィーズ人形が草むらの中に転がっていると云う事に。
第二戦
――●巨大アルヴィーズVSドクロ仮面○――決まり手は掌打
新感覚癒し系魔法少女ベホイミちゃん、第三話へ続く!
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