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「ゼロのアトリエ-21」(2010/11/24 (水) 18:17:22) の最新版変更点
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船員達の声と眩しい光で、ヴィオラートは目を覚ました。青空が広がっている。
舷側から下を覗き込むと、白い雲が広がっている。船は雲の上を進んでいた。
「アルビオンが見えたぞー!!」
鐘楼の上に立った見張りの船員が声を上げる。
ヴィオラートは眼下を覗き見るが、見えるのは白い雲海、どこにも陸地など見えはしない。
隣でやはり寝ていたらしい、ルイズが起き上がる。
「ねえ、どこに陸地があるのかな?」
ヴィオラートがそう問いかけると、ルイズが「あっちよ」と言って空中を指差した。
「ん?」
ルイズが指差す方向を振り仰いで、ヴィオラートは息をのんだ。
巨大な…まさに巨大としか言いようのない光景が広がっていた。
雲の切れ間から、黒々と大陸が覗いていた。大陸は遥か視界の続く限り延びている。
地表には山がそびえ、川が流れていた。
「驚いた?」
ルイズがヴィオラートに言った。
「うん。こんなの、見たことないよ…」
ヴィオラートは目を丸くして、呆然と空に浮かぶ大陸を眺めた。
「浮遊大陸アルビオン。ああやって、主に大洋の上をさ迷ってるわ。通称『白の国』」
「白の国?」
問うようなヴィオラートの視線に、ルイズは大陸を指差す。
大河から溢れた水が霧となって、大陸の下半分を包んでいる。
霧は雲となり、ハルケギニアの大地に雨を降らせるのだとルイズは説明した。
ゼロのアトリエ ~ハルケギニアの錬金術師21~
その時、鐘楼に登った見張りの船員が大声を上げた。
「右舷前方の雲中より、船が接近してきます!」
ルイズは言われた方を向く。なるほど、大きな黒い船が一艘近づいてくる。
舷側に開いた穴から、大砲が突き出ている。
「いやだわ…反乱勢、貴族派の軍艦かしら」
後甲板でワルドと並んで操船の指揮を取っていた船長は、見張りが指した方角を見上げた。
「アルビオンの貴族派か?お前達の荷を運んでいる最中だと教えてやれ」
見張り員は手旗を振った。しかし、何の返信もない。
副長が駆け寄ってきて、青ざめた顔で船長に告げる。
「あの船は旗を掲げておりません!」
「してみると、く、空賊か!」
「間違いありません!内乱の影響で、活動が活発化していると聞き及びますから…」
「逃げろ!取り舵いっぱい!」
船長は船を遠ざけようとしたが、時既に遅し。黒い船は脅しの一発を放った。
鈍い音がして、何発もの砲弾が雲の彼方へと消えてゆく。
「停船命令です、船長。」
船長は苦渋の決断を迫られた。この船だって武装はしているが、
あの黒い船に比べたら役立たずの飾りのようなものだ。
助けを求めるように、隣にたったワルドを見つめる。
「魔法は、この船を浮かべるために打ち止めだよ。あの船に従うんだな」
ワルドは落ち着き払って言った。
船長は「これで破産だ」と呟き、停船命令を下した。
「何だろう?」
ヴィオラートは急に現れた船に興味を抱き、身を乗り出して観察しようとする。
その時丁度、黒い船の脅しの一発が一斉に火を噴いた!
「うわっ!!」
思わず飛びのき、甲板にへたり込む。しばらく呆けた後もう一度、今度はおそるおそる顔を出すと…
黒い船の舷側に弓や小型火器で武装した男達が並び、二つの船の間にロープが張られ、
それを伝って刀剣を持った屈強な男達がやって来るのが見えた。
「ふー、びっくりした。あれは…盗賊さん達かな。この世界の盗賊さんってあんな船まで持ってるんだ」
盗賊の十や二十なら物の数ではないし、大砲や小火器の二~三斉射なら素で耐える自信はあるが
少しばかり人数が多すぎるし、何よりルイズ達がいる。
「とりあえずは…我慢かな。」
状況はヴィオラート達に不利だ。今の所は大人しく従うフリをしておいたほうがいい。
ヴィオラートはそう判断し、機会を待つことにした。
ロープを伝った男達が、ついに甲板に降り立つ。
「船長はどこでえ」
「わたしだが」
船長は震えながら、それでも精一杯の矜持を示しつつ手を上げる。
派手な男が大股で船長に近づき、抜いた曲刀で顔をぴたぴたと叩いた。
「船の名前と、積荷は?」
「トリステインの『マリー・ガラント』号。積荷は硫黄だ」
男はにやっと笑うと、船長の帽子を取り上げ、自分が被った。
「船ごと全部買った。代金はてめえらの命だ」
船長が屈辱で震える。それから男は、甲板に佇むルイズとヴィオラートに気付いた。
「おや、貴族の客まで乗せてるのか」
男はルイズとヴィオラートをじっくりと見比べた後、ルイズに近づき、顎を手で持ち上げた。
「こりゃあ別嬪だ。お前、俺の船で皿洗いをやらねえか?」
男達は下卑た笑い声を上げた。ルイズはその手をぴしゃりと撥ね付けた。
燃えるような怒りを込めて、男を睨みつける。
「下がりなさい、下郎」
「驚いた!下郎と来たもんだ!」
男は大声で笑った。ついで他の男達もおかしくてたまらないといった具合の笑い声を上げる。
「てめえら。こいつらも運びな。身代金がたんまり貰えるだろうぜ」
ルイズ達は杖を奪われ、船倉に閉じ込められることになった。
船倉には、酒樽やら穀物の袋やら火薬やら砲弾やらが雑然と積まれていた。
ワルドは興味深そうに、その積荷を見て回っている。
「さて…」
ヴィオラートは二つの赤いバッグを揺らして立ち上がった。
船倉に入る前、一応中身を見せろとは言われたものの、
ヴィオラートが計八本のやる気マンマンなにんじんを取り出し、バッグを逆にして振って見せ、
カロッテ村のにんじんの素晴らしさをこれでもかこれでもかと力説し始めると、
男達は大した興味も示さずにため息を一つついてワルドを調べに回ったのである。
誤魔化そうとした意図はあっても、ヴィオラートは半分くらい本気で語ったのだが…
まあそれはいつものこと。いつか語り合える同士が現れるさと、ヴィオラートは自分を慰めたのだ。
「そろそろ脱出しておいた方がいいよね」
ヴィオラートたちを狙っている兵器はなく、敵もせいぜい見張りが数人いるだけ。
アルビオンは目前で、ワルドは飛べるし、ホウキとフライングボードはバッグに入れてある。
ワルドに秘密バッグを知られてしまうのはちょっとあれだが、背に腹は変えられない。
フラムあたりで強引に壁をぶち破って、適当に爆弾をばら撒いた後混乱に乗じて逃げる。
と言った作戦が無難なところだろうか。
ヴィオラートがプランを説明しようとルイズの方へ向き直った時、扉が開いた。
「飯だ」
太った男が、スープの入った皿を持ってきたようだ。
扉の近くにいたルイズが受け取ろうとすると、男はその皿をひょいっと持ち上げる。
「質問に答えてからだ」
「言ってごらんなさい」
「お前達、アルビオンに何の用があるんだ?」
「旅行よ」
ルイズは腰に手を当て、毅然とした態度で言った。
「トリステイン貴族が、今のアルビオンに旅行?何を見物するつもりだ?」
「そんなこと、あなたに言う必要ないでしょ?」
「恐くて泣いていたくせに、ずいぶんと強がるじゃねえか」
空賊は笑うと、皿と水の入ったコップを差し出した。
空賊が去った後、三人は一つの皿から同じスープを飲んだ。飲んでしまうとする事がなくなる。
とりあえずヴィオラートはもう一度、プランを説明しようと二人に向き直るが…
もう一度、すぐに扉が開いた。今度は痩せぎすの空賊だ。
空賊は三人を見回すと、楽しそうに言った。
「おめえらは、もしかしてアルビオンの貴族派かい?」
ルイズ達は答えない。
「黙られるとわからねえんだが…だったら失礼した。俺達もまあ貴族派のお仲間だからな」
「じゃあ…この船は反乱軍の軍艦なわけ?」
「いやいや、協力関係っていう所だ。で、どうなんだ?貴族派なら、きちんと港まで送ってやろう」
ヴィオラートとワルドはほっとした。これで、港までは安全に運んでもらえる事になるだろう。
しかし、ルイズは首を縦に振らずに、真っ向からその空賊を見つめた。
「誰が薄汚いアルビオンの反乱軍なものですか」
空賊は、いや、ヴィオラートとワルドもあっけにとられて言葉を失った。
そして空賊は笑う。
「正直なのは結構だが、お前達ただじゃ済まないぞ?」
「あんたたちに嘘ついて頭下げるぐらいなら、死んだ方がましよ」
「…頭に報告してくる。その間にゆっくり考えるんだな」
空賊は苦笑しながら去っていった。
「ねえ、ルイズちゃん」
「なによヴィオラート。言っとくけど私諦めないわよ。最後の最後までね」
真っ直ぐにそう言うルイズが眩しかった。なので、頭を撫でてみる。
「な、なによ!子ども扱いしないで!」
「ルイズちゃん。いざってときは、空を飛んで逃げるからね?」
それだけ言うと手を離し、頷く。
ヴィオラートの真剣な目に、ルイズも思わず頷く。
そして、再び扉が開いた。先ほどの痩せぎすの空賊が、真剣な面持ちで告げる。
「頭がお呼びだ」
扉を開け、通されたのはこの船の船長室。最初に出会った派手な男が、どうやら船長であるらしい。
頭の周りでは、空賊たちがニヤニヤ笑ってルイズたちを見つめている。
「おい、お前達、頭の前だ。挨拶しろ」
しかし、ルイズはきっと頭を睨むばかり。頭はにやっと笑った。
「気の強い女は好きだぜ。子供でもな。さてと、名乗りな」
「大使としての扱いを要求するわ」
ルイズは、頭のセリフを無視して言った。
「王党派なのか?」
「ええ、そうよ」
「何しに行くんだ?」
「あんたらに言う事じゃないわ」
頭は、歌うように楽しげな声でルイズに言った。
「貴族派につく気はないかね?あいつらはメイジを欲しがってるぜ?」
「死んでも、嫌よ」
ルイズは胸を張った。
それを見た頭は耐え切れないといった様子で、低い笑い声を漏らす。
「くくっ、失敬。貴族に名乗らせるなら、まずこちらから名乗るのが礼儀だったな」
周りに控えた空賊たちが、一斉に直立不動の姿勢をとった。
「私はアルビオン王立空軍大将…いや、それよりはこちらの肩書きの方が通りはいいかな?」
頭はカツラを外し、ヒゲをはがす。現れたのは凛々しい金髪の若者。
「アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」
ルイズは口をあんぐりと開けた。ヴィオラートもぼけっとして、いきなり名乗った皇太子を眺める。
ウェールズはにっこりと魅力的な笑みを浮かべると、ルイズたちに席を勧めた。
「アルビオン王国へようこそ、大使どの。さて、御用の向きを伺おうか」
#navi(ゼロのアトリエ)
船員達の声と眩しい光で、ヴィオラートは目を覚ました。青空が広がっている。
舷側から下を覗き込むと、白い雲が広がっている。船は雲の上を進んでいた。
「アルビオンが見えたぞー!!」
鐘楼の上に立った見張りの船員が声を上げる。
ヴィオラートは眼下を覗き見るが、見えるのは白い雲海、どこにも陸地など見えはしない。
隣でやはり寝ていたらしい、ルイズが起き上がる。
「ねえ、どこに陸地があるのかな?」
ヴィオラートがそう問いかけると、ルイズが「あっちよ」と言って空中を指差した。
「ん?」
ルイズが指差す方向を振り仰いで、ヴィオラートは息をのんだ。
巨大な…まさに巨大としか言いようのない光景が広がっていた。
雲の切れ間から、黒々と大陸が覗いていた。大陸は遥か視界の続く限り延びている。
地表には山がそびえ、川が流れていた。
「驚いた?」
ルイズがヴィオラートに言った。
「うん。こんなの、見たことないよ…」
ヴィオラートは目を丸くして、呆然と空に浮かぶ大陸を眺めた。
「浮遊大陸アルビオン。ああやって、主に大洋の上をさ迷ってるわ。通称『白の国』」
「白の国?」
問うようなヴィオラートの視線に、ルイズは大陸を指差す。
大河から溢れた水が霧となって、大陸の下半分を包んでいる。
霧は雲となり、ハルケギニアの大地に雨を降らせるのだとルイズは説明した。
ゼロのアトリエ ~ハルケギニアの錬金術師21~
その時、鐘楼に登った見張りの船員が大声を上げた。
「右舷前方の雲中より、船が接近してきます!」
ルイズは言われた方を向く。なるほど、大きな黒い船が一艘近づいてくる。
舷側に開いた穴から、大砲が突き出ている。
「いやだわ…反乱勢、貴族派の軍艦かしら」
後甲板でワルドと並んで操船の指揮を取っていた船長は、見張りが指した方角を見上げた。
「アルビオンの貴族派か?お前達の荷を運んでいる最中だと教えてやれ」
見張り員は手旗を振った。しかし、何の返信もない。
副長が駆け寄ってきて、青ざめた顔で船長に告げる。
「あの船は旗を掲げておりません!」
「してみると、く、空賊か!」
「間違いありません!内乱の影響で、活動が活発化していると聞き及びますから…」
「逃げろ!取り舵いっぱい!」
船長は船を遠ざけようとしたが、時既に遅し。黒い船は脅しの一発を放った。
鈍い音がして、何発もの砲弾が雲の彼方へと消えてゆく。
「停船命令です、船長。」
船長は苦渋の決断を迫られた。この船だって武装はしているが、
あの黒い船に比べたら役立たずの飾りのようなものだ。
助けを求めるように、隣にたったワルドを見つめる。
「魔法は、この船を浮かべるために打ち止めだよ。あの船に従うんだな」
ワルドは落ち着き払って言った。
船長は「これで破産だ」と呟き、停船命令を下した。
「何だろう?」
ヴィオラートは急に現れた船に興味を抱き、身を乗り出して観察しようとする。
その時丁度、黒い船の脅しの一発が一斉に火を噴いた!
「うわっ!!」
思わず飛びのき、甲板にへたり込む。しばらく呆けた後もう一度、今度はおそるおそる顔を出すと…
黒い船の舷側に弓や小型火器で武装した男達が並び、二つの船の間にロープが張られ、
それを伝って刀剣を持った屈強な男達がやって来るのが見えた。
「ふー、びっくりした。あれは…盗賊さん達かな。この世界の盗賊さんってあんな船まで持ってるんだ」
盗賊の十や二十なら物の数ではないし、大砲や小火器の二~三斉射なら素で耐える自信はあるが
少しばかり人数が多すぎるし、何よりルイズ達がいる。
「とりあえずは…我慢かな。」
状況はヴィオラート達に不利だ。今の所は大人しく従うフリをしておいたほうがいい。
ヴィオラートはそう判断し、機会を待つことにした。
ロープを伝った男達が、ついに甲板に降り立つ。
「船長はどこでえ」
「わたしだが」
船長は震えながら、それでも精一杯の矜持を示しつつ手を上げる。
派手な男が大股で船長に近づき、抜いた曲刀で顔をぴたぴたと叩いた。
「船の名前と、積荷は?」
「トリステインの『マリー・ガラント』号。積荷は硫黄だ」
男はにやっと笑うと、船長の帽子を取り上げ、自分が被った。
「船ごと全部買った。代金はてめえらの命だ」
船長が屈辱で震える。それから男は、甲板に佇むルイズとヴィオラートに気付いた。
「おや、貴族の客まで乗せてるのか」
男はルイズとヴィオラートをじっくりと見比べた後、ルイズに近づき、顎を手で持ち上げた。
「こりゃあ別嬪だ。お前、俺の船で皿洗いをやらねえか?」
男達は下卑た笑い声を上げた。ルイズはその手をぴしゃりと撥ね付けた。
燃えるような怒りを込めて、男を睨みつける。
「下がりなさい、下郎」
「驚いた!下郎と来たもんだ!」
男は大声で笑った。ついで他の男達もおかしくてたまらないといった具合の笑い声を上げる。
「てめえら。こいつらも運びな。身代金がたんまり貰えるだろうぜ」
ルイズ達は杖を奪われ、船倉に閉じ込められることになった。
船倉には、酒樽やら穀物の袋やら火薬やら砲弾やらが雑然と積まれていた。
ワルドは興味深そうに、その積荷を見て回っている。
「さて…」
ヴィオラートは二つの赤いバッグを揺らして立ち上がった。
船倉に入る前、一応中身を見せろとは言われたものの、
ヴィオラートが計八本のやる気マンマンなにんじんを取り出し、バッグを逆にして振って見せ、
カロッテ村のにんじんの素晴らしさをこれでもかこれでもかと力説し始めると、
男達は大した興味も示さずにため息を一つついてワルドを調べに回ったのである。
誤魔化そうとした意図はあっても、ヴィオラートは半分くらい本気で語ったのだが…
まあそれはいつものこと。いつか語り合える同士が現れるさと、ヴィオラートは自分を慰めたのだ。
「そろそろ脱出しておいた方がいいよね」
ヴィオラートたちを狙っている兵器はなく、敵もせいぜい見張りが数人いるだけ。
アルビオンは目前で、ワルドは飛べるし、ホウキとフライングボードはバッグに入れてある。
ワルドに秘密バッグを知られてしまうのはちょっとあれだが、背に腹は変えられない。
フラムあたりで強引に壁をぶち破って、適当に爆弾をばら撒いた後混乱に乗じて逃げる。
と言った作戦が無難なところだろうか。
ヴィオラートがプランを説明しようとルイズの方へ向き直った時、扉が開いた。
「飯だ」
太った男が、スープの入った皿を持ってきたようだ。
扉の近くにいたルイズが受け取ろうとすると、男はその皿をひょいっと持ち上げる。
「質問に答えてからだ」
「言ってごらんなさい」
「お前達、アルビオンに何の用があるんだ?」
「旅行よ」
ルイズは腰に手を当て、毅然とした態度で言った。
「トリステイン貴族が、今のアルビオンに旅行?何を見物するつもりだ?」
「そんなこと、あなたに言う必要ないでしょ?」
「恐くて泣いていたくせに、ずいぶんと強がるじゃねえか」
空賊は笑うと、皿と水の入ったコップを差し出した。
空賊が去った後、三人は一つの皿から同じスープを飲んだ。飲んでしまうとする事がなくなる。
とりあえずヴィオラートはもう一度、プランを説明しようと二人に向き直るが…
もう一度、すぐに扉が開いた。今度は痩せぎすの空賊だ。
空賊は三人を見回すと、楽しそうに言った。
「おめえらは、もしかしてアルビオンの貴族派かい?」
ルイズ達は答えない。
「黙られるとわからねえんだが…だったら失礼した。俺達もまあ貴族派のお仲間だからな」
「じゃあ…この船は反乱軍の軍艦なわけ?」
「いやいや、協力関係っていう所だ。で、どうなんだ?貴族派なら、きちんと港まで送ってやろう」
ヴィオラートとワルドはほっとした。これで、港までは安全に運んでもらえる事になるだろう。
しかし、ルイズは首を縦に振らずに、真っ向からその空賊を見つめた。
「誰が薄汚いアルビオンの反乱軍なものですか」
空賊は、いや、ヴィオラートとワルドもあっけにとられて言葉を失った。
そして空賊は笑う。
「正直なのは結構だが、お前達ただじゃ済まないぞ?」
「あんたたちに嘘ついて頭下げるぐらいなら、死んだ方がましよ」
「…頭に報告してくる。その間にゆっくり考えるんだな」
空賊は苦笑しながら去っていった。
「ねえ、ルイズちゃん」
「なによヴィオラート。言っとくけど私諦めないわよ。最後の最後までね」
真っ直ぐにそう言うルイズが眩しかった。なので、頭を撫でてみる。
「な、なによ!子ども扱いしないで!」
「ルイズちゃん。いざってときは、空を飛んで逃げるからね?」
それだけ言うと手を離し、頷く。
ヴィオラートの真剣な目に、ルイズも思わず頷く。
そして、再び扉が開いた。先ほどの痩せぎすの空賊が、真剣な面持ちで告げる。
「頭がお呼びだ」
扉を開け、通されたのはこの船の船長室。最初に出会った派手な男が、どうやら船長であるらしい。
頭の周りでは、空賊たちがニヤニヤ笑ってルイズたちを見つめている。
「おい、お前達、頭の前だ。挨拶しろ」
しかし、ルイズはきっと頭を睨むばかり。頭はにやっと笑った。
「気の強い女は好きだぜ。子供でもな。さてと、名乗りな」
「大使としての扱いを要求するわ」
ルイズは、頭のセリフを無視して言った。
「王党派なのか?」
「ええ、そうよ」
「何しに行くんだ?」
「あんたらに言う事じゃないわ」
頭は、歌うように楽しげな声でルイズに言った。
「貴族派につく気はないかね?あいつらはメイジを欲しがってるぜ?」
「死んでも、嫌よ」
ルイズは胸を張った。
それを見た頭は耐え切れないといった様子で、低い笑い声を漏らす。
「くくっ、失敬。貴族に名乗らせるなら、まずこちらから名乗るのが礼儀だったな」
周りに控えた空賊たちが、一斉に直立不動の姿勢をとった。
「私はアルビオン王立空軍大将…いや、それよりはこちらの肩書きの方が通りはいいかな?」
頭はカツラを外し、ヒゲをはがす。現れたのは凛々しい金髪の若者。
「アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」
ルイズは口をあんぐりと開けた。ヴィオラートもぼけっとして、いきなり名乗った皇太子を眺める。
ウェールズはにっこりと魅力的な笑みを浮かべると、ルイズたちに席を勧めた。
「アルビオン王国へようこそ、大使どの。さて、御用の向きを伺おうか」
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