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「――ほんっと!一体、どういうことなのかしら!!」
そういう風に、ルイズおねえちゃんに言われると、ボクも困ってしまう。
「え、えっとー……」
夏休みの1日は、早起きしてがんばったお日さまが、
疲れて眠りにつくオレンジ色の光ですぎようとしていたんだ。
ゼロの黒魔道士
~第四十八幕~ 黄昏街の気だるい午後
ルイズおねえちゃんが困っているから、みんなで、思いだすことにしたんだ。
「――夏休みに入ったってんで、お姫さんに呼び出されたんだろ?」
そもそものきっかけは、デルフの言うとおり、アンリエッタ姫だったんだ。
トリステイン魔法学院が夏休みになったその日の夜にお手紙が届いて、
お友達に送る軽い手紙の内容の中に、会いに来てほしいってそれとなく書いてあったんだ。
「……うん、『街の人達の生の声が聞きたい』って言ってて……」
それに応じて、次の日すぐにトリスタニアの王宮に行ったら、任務を与えられたんだ。
即位して、間もないから街の中で色々不満とか、困ってることとか、みんな多分あるんだろうけど、
情報網がまだ少ないから、お姫さまの耳にまで入ってこないんだって。
だから、ルイズおねえちゃん達に調べてほしいって、そういう任務内容だったんだ。
「えぇ、そこまではいいわ。姫さまのお言葉ですもの。当然、私達はそれに従って任務を開始した」
ルイズおねえちゃんが、胸を張って『やります!』って言ったのを覚えている。
ルイズおねえちゃん、うれしそうだったなぁ……
「そんでよぉ?娘っ子が『金が足りねぇ』なんざ言いだして――」
お姫さまから、調査費用ってことで、金貨のいっぱいつまった袋を渡されたんだけど、
ルイズおねえちゃんによると、『全然足りないわ!』なんだって。
……こっちのお金って、ギルとは違うのかなぁ?
あれだけあったら、町で一番の装備だって揃えられそうだなぁって思ったんだけどなぁ。
ハルケギニアのお金の価値って、まだよく分からないや。
……でも調査に馬とか必要なのかなぁ……?
「……お姫さまにもらったお金が少なかったのが、そもそもの原因……?」
せめて、こっちのモンスターとかがお金を持っていたらなぁって思うんだ。
……もしくは、アイテムとか、ね。
「――おれっちとしちゃあ、娘っ子の思いつきが問題だったんじゃねぇかと睨んでんだが……」
……確かに、その後が問題だったのかなぁって、ちょっと思うんだ。
「っ、だ、だってほら!!ほ、他に稼ぐ手段なんて……」
でも、他に稼ぐ手段が無かったっていうのも、ホントのことなんだ。でも……
「ギャンブルって……難しいんだね、ホント……」
何にも知らないボク達が、選ぶべき方法だったのかなっていうのは、まだ良く分からないんだ。
「まぁ、娘っ子の賭け方はねぇわな。自棄になって1点賭けなんざ愚の骨頂だぜ?」
ルイズおねえちゃんの運が悪かったのか、ボクが止めれなかったのがいけないのかは分からない。
でも、立て続けに間違った方に、間違った方にルーレットで賭けちゃったんだ。
「う、うっさいわねぇ!!そうでもしないと勝ち目無かったでしょうが!!」
「……結局、勝てなかったね……」
最後の最後で「赤か黒か?」で半分の確立だったはずなのが、
よりによってどっちでもない「0」に玉が入ってしまったときに、
ルイズおねえちゃんの目がルーレットの台みたいにぐるぐる回ってしまって大変だった。
「んで、噴水前でうだうだやってたわけだ」
「『どうしよっか』、って話し合ったんだよね」
気を失いそうになったルイズおねえちゃんを引っ張って、噴水のところまで来たのがお昼をちょっと回ったぐらい。
お日さまは頭のほとんど真上で、一生懸命がんばっていたんだ。
噴水の水しぶきが、ちょっと涼しくて気持ちよかった。
お金が足りないはずだったのに、完全に無くなっちゃって、
これからどうしようって、話し合ったんだ。
……答えは、ちっとも出なかったけどね……
「――あんたのあの無礼な友達が見回り中に声かけたのよね、ルーネスとか言う……」
「う~ん……確かに、ルーネスはあんまり丁寧じゃないけど……」
タマネギ隊として見回りをしていたルーネスの、ちっとも丁寧じゃないけど、とっても元気な声を思い出す。
『なんだよ、ビビと貴族のねーちゃ……じゃねぇや!貴族のごれーじょーな?
とにかく、お前らどうしたよ?こんなトコでボサーっとしてさぁ?どこの物乞いかと思ったぜ?
暑い中、日陰も無ぇトコロでどーしたよ?元気出していこーぜ!!』
……あんな鎧を着てるのに、どうしてあんなに元気なのかなぁ、ルーネスって……
「けっこーイイ奴だぜ?宿と金稼ぎの方法、紹介してくれたしな!」
デルフの言うとおり、イイ子だとは思う。とっても。
『あぁん?金も無けりゃ宿も無い?おいおいおい、貴族さんが何を言って……
あー、いいや。うん。そうだな!事情なんざ関係無ぇよな!友達が困ってんだ!
理由なんてどーでもいいよな!そうだろ?よしっ!オレ、丁度良いとこ知ってんだ!』
困ってるボクらを無条件で助けてくれるなんて、とってもイイ子だと思うんだ。
……今度、ルーネスが困ってたら、何かを何とかしてあげたいなぁって思う。
「お店屋さんで、住み込みながら仕事って、結構良い条件だよね」
紹介されたお店は、ちょっと埃っぽいけど、ハシゴでとんとんとんって上った先に屋根裏部屋がついていて、
ベッドと十分な広さがあるから、贅沢さえ言わなければちゃんと寝れそうだなぁって思ったんだ。
もちろん、ルイズおねえちゃんが、ここの店長さんと話をしている間に、しっかり掃除はしたけどね。
クモの巣をはらったり、折れたベッドの足の下にお酒の瓶が入った木のケースを置いたり……
……でも、この部屋にボク達より前から住んでいるらしいコウモリまではどうにもならなかったんだ。
……かみついたりしない、よね?
「――はい、そこね。そこが最大の問題点ね」
……コウモリが一番の問題点、だったのかなぁ?
「んじゃあ他にどんな手があったっつーの?」
「うっ……」
「ボクも、お皿洗いとかなら、できるし……」
でも、お金を稼ぐためなら、そこまで贅沢は言えないと思うんだけどなぁ。
「ち、ちがうわよっ!私が問題にしてるのは、そんなことなんかじゃなくて!!」
……やっぱり、コウモリ、かなぁ?
「――まぁ、ちっと特殊な店じゃあったわな?」
「え、そうなの?」
それはとっても意外だったんだ。
お店の作りも、見た目も、ガイアやハルケギニアでよく見る酒場と同じだったから、
全然、変だ、とか、特殊だ、なんて思わなかったんだけど……
「特殊どころじゃないわよっ!何、このふ、ふ、ふ、服はっ!!!」
……あれ?服、なの?
「……?似合う、と思うけどなぁ……?」
真っ白で、つやつやして、ちょっと薄めの布でできている服。
フリルとかがヒラヒラしていて、とってもかわいらしいなって思うし、
コルセットって言うんだったっけ?それでお腹回りをおさえているからしゅっとして見えるし、
背中とか足とかが露出しているのは、これからの季節に涼しそうでいいと思うんだけど……
「う、うるさぁぁぁぁぁいっ!!!」
ルイズおねえちゃんが、真っ赤になって文句を言う。
……この服の、何が問題なんだろう……?
「……デルフ、ルイズおねえちゃん、何が不満なのかな?」
「……ま、あれだ。趣味の不一致ってぇヤツだわな」
趣味、かぁ……それじゃぁ仕方ないのかもしれない。
同じ形の服でも、色が違ったら良かったのかなぁ?
「あのタマネギ小坊主っ!今度会ったら炒めタマネギにしてやるわ!!」
「る、ルイズおねえちゃん、そこまでしなくてもっ!?」
ルーネスが次に会ったときには無事でいられるか、ちょっと心配になっちゃたんだ……
・
・
・
……夕方には、ボクもこのお店が『特殊』っていうのが、なんか分かる気がしたんだ。
「いいこと!妖精さん達!」
「はい!スカロン店長!」
「ちがうでしょおおおおおお!」
……店長さんがなんか……すごいんだ。
「店内では“ミ・マドモワゼル”と呼びなさいって言ってるでしょお!」
「はい!ミ・マドモワゼル!」
「トレビアン」
おっきな体の男の人なのに、女の人みたいな言葉づかいをするし、
男らしい胸毛や、お髭、髪型なのに、きっつい香水の匂いがする。
動作の1つ1つにはとってもキレがあって、腰の動きがやたらとクネクネしている。
おまけに、『ミ・マドモワゼル』って……
……なんていうか、すごい、としか言いようが無いんだ。
「さて、まずはミ・マドモワゼルから悲しいお知らせ。この『魅惑の妖精』亭は、最近売上が落ちています。
御存じのとおり、最近東方から輸入され始めた『お茶』を出す『カッフェ』なる下賎なお店の一群が、
私達のお客をうばいつつあるの……。ぐすん……」
「泣かないで!ミ・マドモワゼル!」
店員さん達はルイズおねえちゃんとほとんど同じ格好の色違いで、
(ルイズおねえちゃんもこっちだったら良かったのかもしれない。赤とかピンクとか)
そんな店長さんの『特殊』なところには何にも触れない。
……慣れている、のかなぁ?
こういうのに順応できるって、結構すごいと思う。
「そうね!『お茶』なんぞに負けたら、『魅惑の妖精』の文字が泣いちゃうわ!」
「はい!ミ・マドモワゼル!」
店員さん達に慰められて、勢いのついた店長さんが、テーブルの上にダンッと飛び乗り、激しくポーズをとった。
黒くツヤツヤしたお洋服とあいまって、なんか、コウモリっぽいなぁって思った。
あぁ、だから、屋根裏にあんなに住んでいた、のかなぁ?
「魅惑の妖精達のお約束!ア~~~~~~ンッ!」
「ニコニコ笑顔のご接待!」
うん、笑顔は大切だよね。
笑顔の店員さん達がお店にいると、入りやすくなったりすると思う。
「魅惑の妖精達のお約束!ドゥ~~~~~~ッ!」
「ぴかぴか店内清潔に!」
これも大事なこと。
お店が汚かったら、お客さんの気分も悪くなっちゃうもんね。
「魅惑の妖精達のお約束!トロワ~~~~~~ッ!」
「どさどさチップをもらうべし!」
……えっとー……こ、これも必要、かな?
お店をやる限りは稼がなきゃ……だよね?
「トレビアン」
「さて、妖精さん達に素敵なお知らせ。なんとまた今日も新しいお仲間ができます」
部屋の隅で、ボクの隣に立っていたルイズおねえちゃんが、緊張するのが伝わった。
……だけど、『また』って……?
「じゃ、紹介するわね!ルイズちゃん!いらっしゃい!」
緊張してガチガチのルイズおねえちゃんに『がんばって』って小さく言って、
その『また』の前の人を探してみることにしたんだ。
「ルイズちゃんはお父さんの博打の借金のかたに……」
店長さんが、ルーネスの考え出した設定をしゃべっている間、
ちょっとお店の中をキョロキョロすると、淡いブルーの服を着たメガネの女の人を見つけた。
そういえば、この人だけ、店長さんの行動を直視できていなかったし、
まだ全然慣れていないのかなぁって、思う。
うん、一緒にがんばっていけたらなぁって思った。
……でも、なんとなく見覚えのある気がするのはなんでだろう……?
「ルルル、ルイズです。 よよよ、よろしくお願いなのです」
「はい拍手!」
ボクも、その人も拍手をする。
気になることは色々あるけれど、しっかり稼がなきゃいけない。
それに、悪いことばっかりじゃない。
酒場って、情報の集まる場所だから、お姫さまの任務も果たせる。
「さあ、開店よ!」
羽扉がパタンって開いて、お客さんと黄昏のオレンジ色の光が、お店の中になだれこんできた。
しっかり、がんばろう。そう思ったんだ。
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ピコン
ATE ~Eyes On Me~
その少年は嘘つきとして知られていた。
平然とした顔で、大嘘を堂々と言ってのける、嘘つきだった。
「君にしばらく会えそうもなくてね」
だが、この言葉は本当になりそうであった。
この嘘つきの厄介な点として、虚実を織り交ぜて語るということが挙げられる。
10回に5回は真のことを言う、そういう嘘つきほど始末の悪い者は無い。
「まぁ、そんな」
だが、そんな危うさこそ、ジョゼットが最も好む点であった。
彼女は、恋に恋をしてしまうタイプであった。
つまり、恋愛の相手を好きになるというよりも、恋愛そのものを楽しむ性質なのだ。
修道院に暮らす彼女には、そうした恋愛の機会はそうそう訪れない。
ましてや、ここセント・マルガリタ修道院のように、
岩山と海に四方を囲まれた、ガリア北西部の僻地に存在するような場所ではなおさらだ。
だからこそ、ここ半年間、ロマリアから訪れる『竜のお兄さま』との逢瀬を、彼女は心の底から楽しんでいた。
もちろん、修道院だから恋愛は御法度であるし、彼女自身、恋をしたことなど未だ一度も無かったため、
これが恋愛なのか、あるいはただの親愛の情なのかは、全く見当もつかなかったが。
孤児であると院長に教えられ育ったジョゼットは、
親や家族といったものの愛情を知らない。そしてそうした俗世の縁に憧れていた節がある。
今も、唯一彼女と彼女を捨てた両親をつなぐらしい、自分の首から下がる聖具をしきりに触っていた。
あるいは、こうした家族愛のなりそこないを、兄と慕うジュリオに向けているだけかもしれない。
確実に言えることは、修道院の片隅で秘密裏に二人で話をする、というちょっとしたスリルに、彼女は酔っているのだ。
(当たり前だが、実際は『秘密裏』でない。ロマリアからの客など珍しい上に、この修道院には30人ぐらいしか修道女がいない。
必然、『秘密』とは公であることを指し示し、ジョゼットは向こう2週間はからかい尽くされるのだ)
「公務だからね、仕方がないんだ」
これは大嘘である。
月目の少年に与えられた公務など、存在しない。
「全く、宗教庁も人使いが荒くて困る」
これも大嘘だ。
この白金色の髪の毛の少年の地位は、確かに助祭枢機卿。
宗教庁には、彼にとって上の立場である人間はまだまだ存在する。
が、それはあくまでも表面上のこと。
彼を使える人間など、教皇聖下以外に存在しない。
それほどまでに重要な人物なのだ、彼は。
ただ、その事実すらも関係無い。
彼は、まったくのところ、彼自身の意志で活動しているのだ。
「それでも羨ましいですわ。外の世界が色々と見れるなんて」
純朴な修道女であるジョゼットは、そうした嘘など見抜こうとすらしていなかった。
大好きな『竜のお兄さん』に、ロマリアの高位の神官に、裏があるなどと一片たりとも思ったことがなかった。
「外の世界かい?君が思うほど素晴らしいものでは無いと思うよ」
これは事実である。
彼は、ジュリオ・チェザーレは、この世界に失望していた。
彼は、権力や財力のために、人が争うことに失望していた。
それを容認する、腐敗しきった国家や教会に失望していた。
「だから、君に会えると、僕の心は安らぐんだ」
これも事実だ。
いくら地位や力があったとしても、結局のところ、彼は少年にすぎない。
安らぎを、女性の温かさを求めるのは、当然のことと言えた。
だから彼は、右手をそっと、ジョゼットの雪のように白い髪の毛に伸ばし、そっとそれをなぜた。
シルクのような輝きと、ウールのような温かさを持つ、すばらしい銀髪に。
それは、どこか懐かしい香りがした。
「修道女の髪を触るなんて、地獄に落ちますわよ」
ワザとらしいツンとした表情で、ジョゼットが言う。
しばらく会えなかったし、これからしばらく会えないのだ。
これぐらいの不満を言ってもかまわないだろう。
「君のこの綺麗な髪を触って地獄に行くなら、本望だね」
これは真実とも嘘ともつかない。
彼女の綺麗な髪を触っていたいと思う反面、
やはり地獄なんぞに落ちるのはまっぴら御免だからだ。
「まあ! なんて罰当たりな言葉でしょう! 神官さまの言葉とは思えませんわ!」
流石に、ジョゼットもその言葉を冗談と受け止めたのか、
またこの少女らしい純朴な笑顔でこれを受け止めた。
「ひどいなぁ。これでも神官らしく、この世界をより良くするために働いているというのに!」
これは、ほぼ真実である。
彼は、世界をより良くするつもりであった。
誰一人として、悲しい涙を見せることの無い世界に。
彼には、その力があった。
彼には、動機があった。
決して、教会の思う通りにはさせない。
そのためにも、今はどんな嘘でもついてやる。
ガラス細工の笑顔の裏で、神の笛がうなりをあげる。
決して、ジョゼットを、泣かせたくない。
昔はともかく、今ではそう思うようになっていた。
ジョゼットは、そんな彼の月目を見て、こう思う。
立派なお仕事をなさっているのは結構で、
厳しく凛々しい眼差しももちろん素敵ではあるが、
私に少しでもその目を向けてくれればいいのになぁ、と。
それは修道女としてはあるまじき願いではあるが、
年頃の少女としては幼すぎるほど可愛らしい物だった。
その願いに応えるように、ジュリオの瞳がジョゼットを見つめる。
「また、来るよ。君に会いに」
わずかな温もりとその言葉を残して、彼はすたすたと礼拝堂を出て行ってしまった。
ジョゼットは、わずかに頬をふくらます。
もうちょっといてくださってもいいのに、と。
『また来る』。
その言葉が嘘になるか真になるかは、神様だけが御存じである。
それほどに、彼の双肩にかかる物は、重く強大であった。
黄昏に沈みゆく空と海の間を、断固たる決意をもって『神の笛』とその愛竜が飛んで行った。
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