エディが口を開いて――音声機能をオンにして――から約30分ほど。
「おお、スッゲエ!戦闘機が喋った!」と少年――サイトが喜色満面興味津々に顔を輝かせ。
少女――ルイズが「さし、しゃしゃしゃ喋った!?もしかして伝説の韻竜!?」と思いっきりテンパりだしたのを冷静に宥めながら。
少女――ルイズが「さし、しゃしゃしゃ喋った!?もしかして伝説の韻竜!?」と思いっきりテンパりだしたのを冷静に宥めながら。
エディはまず2人に名前を聞いてからルイズに自分達2人、否、1人と1機への状況説明を促した。
ここで普段のルイズなら「貴族の私が教えてあげるんだから感謝しなさい」などと一定以上の権力者特有の傲慢なセリフの1つでも言っていただろう。
しかしあっさり本題から入った辺り、パッと見得体の知れない物体からいきなり話しかけられて、まだ混乱が抜けきっていなかったのかもしれない。
しかしあっさり本題から入った辺り、パッと見得体の知れない物体からいきなり話しかけられて、まだ混乱が抜けきっていなかったのかもしれない。
ルイズ曰く、ここの地名はハルケギニア大陸に存在するトリステイン王国の首都トリスタニア、その近郊にあるトリステイン魔法学院。
曰く、ルイズはこの学院の生徒で由緒正しい貴族の三女。
曰く、サイトとエディは『コントラクト・サーヴァント』によって自分の使い魔として召喚された。
曰く、使い魔になった以上死なない限り解放される事はほぼ不可能。
最後の内容にサイトは唖然呆然愕然とショックを顔全体で表してみせたが、異世界から同時に召喚されたもう一方の人工知能はルイズに質問を重ねた。
もし彼が人間だったなら、不思議そうな顔で首を捻ってみせたに違いない。
もし彼が人間だったなら、不思議そうな顔で首を捻ってみせたに違いない。
「その使い魔というものは複数同時に召喚されるものなのですか?」
「分からないわよ、私だって『コントラクト・サーヴァント』をやったのは初めてなんだから。
それに今までいろんな学術書も読んできたけど、1度に複数の使い魔が召喚されたなんて事例何処にも載ってなかったもの!」
「分からないわよ、私だって『コントラクト・サーヴァント』をやったのは初めてなんだから。
それに今までいろんな学術書も読んできたけど、1度に複数の使い魔が召喚されたなんて事例何処にも載ってなかったもの!」
つまりこれは、今までまったくありえない筈の事態。
かつて盗聴した己の指揮官と生みの親である科学者の会話の時の2人の気持ちが、エディは理解できた気がした。
かつて盗聴した己の指揮官と生みの親である科学者の会話の時の2人の気持ちが、エディは理解できた気がした。
<<ありえない、こんな事はありえないんだ!!>>
エディのセンサー球体――彼の脳とも言うべき存在、いや彼の脳そのものは高速でこれから先の行動を想定しては即座に判断する作業を開始する。
…周辺に友軍基地の確認は不能。無人空中給油ステーションも同様。秘匿回線・一般回線両方での連絡も先刻から不能。
地理データもGPSも何もかも、表示されるのは『No Data』の羅列のみ。
唯一まともな情報収集の役目を果たしている機体内蔵の各種センサーにも限界がある。
地理データもGPSも何もかも、表示されるのは『No Data』の羅列のみ。
唯一まともな情報収集の役目を果たしている機体内蔵の各種センサーにも限界がある。
結局の所、エディ自身は結論はとっくに出していた。
目の前の少女の話し声からはほとんどウソの兆候は発見されなかった上、センサーはある物をしっかりと認識してみせていたのだから。
己の自由意思を持つ人工頭脳であったからこそ、単純に結論を出せなかっただけ。
己の自由意思を持つ人工頭脳であったからこそ、単純に結論を出せなかっただけ。
(月が『2つ』…ですか)
現在は晴天。
だがそれでも、エディの高性能センサーは地球上には1つしかない筈の月を『2つ』、確かに確認していた。
最初も自己診断プログラムで確認したがあえて言おう。彼の収集したデータに改ざんされた形跡は何処にもない。
だがそれでも、エディの高性能センサーは地球上には1つしかない筈の月を『2つ』、確かに確認していた。
最初も自己診断プログラムで確認したがあえて言おう。彼の収集したデータに改ざんされた形跡は何処にもない。
ある意味機械よりも遥かに複雑な機構を持つ人間であるサイトよりも、ここがいったい何処なのかハッキリ認識できたのは機械であるエディの方が先となった。
(ここは、私やギャノン大尉達が存在していたのとは違う、異世界)
「ああもう、とにかく学院に戻るから付いてらっしゃい!」
思考中断。
ルイズが遠くに見える建物の方へとズカズカ歩き出した。日もそろそろ地平線への向こうへと沈み始めている。
サイトも思わず慌てて後を追おうとしたが、「ん?」とふと足を止めて。
ルイズが遠くに見える建物の方へとズカズカ歩き出した。日もそろそろ地平線への向こうへと沈み始めている。
サイトも思わず慌てて後を追おうとしたが、「ん?」とふと足を止めて。
「そういや他の奴らって空飛んでってなかったか?お前も飛ばないの?」
ルイズの血圧の急激な上昇を探知―――へまをやらかしましたね、サイト。
「と、飛べないのよ私は…『フライ』も『レビテーション』も……」
「はあ?何だよそ「それでは、私に乗るのはいかがですか?」
「はあ?何だよそ「それでは、私に乗るのはいかがですか?」
無駄な騒動を省く為、サイトの声よりも大きな音量でエディが言葉を被せる。
「「へ?」」と同じタイミングで不思議そうにエディを見た2人の前で、センサー球体が収められたスペースへの部分が、下へと口を開けた。
アラスカの格納庫でギャノン大尉と共に脱出を試みた際、ギャノン大尉が乗り込んだ時と、ほとんど同じ様に。
「歩くよりは『少々』速く学院やらへと辿り着くかと思いますが、いかがです?」
トリステイン魔法学院の物干し場で、1人のメイドの少女が何十枚ものシーツ――なにせ貴族の生徒達だけで300人近く居る――を取り込んでいた。
彼女の名はシエスタ、魔法学院で働く16歳の少女である。
日も暮れ始めた夕方、朝に洗濯を終えて干していたシーツを取り込んでいた彼女はふと、夕焼け空の向こうに何かを捉えてシーツを取り込む手を止めた。
草原の広がる田舎育ちゆえか、視力はかなり良い。
だからこそ赤く染まりだした空にぽつんと浮かんだ動く黒点を捉える事ができた。
点はどんどん大きくなって近づいてくる。
竜か何かと思ったが、飛ぶ為に翼をバサバサ動かしている様子はまったく無い。
近づいてくる物体のすぐ後ろで、一瞬だけ何かが瞬いた。
だからこそ赤く染まりだした空にぽつんと浮かんだ動く黒点を捉える事ができた。
点はどんどん大きくなって近づいてくる。
竜か何かと思ったが、飛ぶ為に翼をバサバサ動かしている様子はまったく無い。
近づいてくる物体のすぐ後ろで、一瞬だけ何かが瞬いた。
刹那
…ィィィィイイイイイインッ!!!
爆音、疾風、振動。
物体が学院の建物を掠める様に、竜の何倍ものスピードで通り過ぎた瞬間。
籠に取り込んでおいた分やまだ干したままのシーツが全て、中庭などに植えられてある木々の木の葉と共に空へと高く舞い上がった。
籠に取り込んでおいた分やまだ干したままのシーツが全て、中庭などに植えられてある木々の木の葉と共に空へと高く舞い上がった。
余談だが、シエスタの為に言っておこう。
突風が吹き抜けた際にスカートも思いっきりまくれ上がったのだが、それは誰にも見られてなかったのは幸いだった。
突風が吹き抜けた際にスカートも思いっきりまくれ上がったのだが、それは誰にも見られてなかったのは幸いだった。
シエスタはまだ気づかなかったが、先ほど『何か」が通り過ぎた際の衝撃波で学院の窓ガラスの幾つかはヒビが入っている。
飛行の余波だけでそれだけの衝撃波を生み出せるだけの高速飛行が可能な生物は、少なくともトリステイン中どころかハルケギニアには存在しない。
だから、少なくない人物は建物のすぐそばを通り過ぎたものの正体を見て驚愕していた。
飛行の余波だけでそれだけの衝撃波を生み出せるだけの高速飛行が可能な生物は、少なくともトリステイン中どころかハルケギニアには存在しない。
だから、少なくない人物は建物のすぐそばを通り過ぎたものの正体を見て驚愕していた。
飛来した物体は、建物を1度旋回してから中庭へと降り立つ。
何事かと中庭に集まってきた生徒達の何人かは飛来した物体を新種の竜か何かと勘繰ったが、すぐに否定する事となった。
何事かと中庭に集まってきた生徒達の何人かは飛来した物体を新種の竜か何かと勘繰ったが、すぐに否定する事となった。
その物体…『ゼロ』のルイズが召喚した謎の鉄の塊は。
鳥や竜のように安定保持の為に羽ばたく事無く、垂直に地面へと着地してみせたのだから。
羽ばたく事無く高速で飛ぶ鉄の鳥、その嘴に似た部分が口を開けた。
自然と生徒達を包む緊張。彼方此方に開いた穴から噴出している風に土埃が舞って、ハッキリとした姿は見えない。
それでも止みつつある轟音の中に紛れて聞こえた足音に、緊張の度合いが1ランク上がる。
自然と生徒達を包む緊張。彼方此方に開いた穴から噴出している風に土埃が舞って、ハッキリとした姿は見えない。
それでも止みつつある轟音の中に紛れて聞こえた足音に、緊張の度合いが1ランク上がる。
そして砂埃が晴れて―――思わずその場に居た全員、脱力する事になる。
「うにゃああぁぁ、空がクルクル回ってる~~~~…」
「だ、大丈夫かよルイズ?ってか、あれぐらいで目ぇ回すのかよ?普通の飛行機と変わんねーぐらいじゃん、さっきの」
「2人とも専門の訓練を受けていないようなので少々押さえ気味に飛ばしてみましたが、おそらくこの世界ではあの程度で飛ぶ乗り物が存在していないので慣れていなかったのが原因と推測します」
「お母しゃま~、これ以上飛ばすのは止めひぇくらはい~…」
「だ、大丈夫かよルイズ?ってか、あれぐらいで目ぇ回すのかよ?普通の飛行機と変わんねーぐらいじゃん、さっきの」
「2人とも専門の訓練を受けていないようなので少々押さえ気味に飛ばしてみましたが、おそらくこの世界ではあの程度で飛ぶ乗り物が存在していないので慣れていなかったのが原因と推測します」
「お母しゃま~、これ以上飛ばすのは止めひぇくらはい~…」
どうやら、ルイズのトラウマを掘り起こしたらしい。
ちなみにサイトは今ルイズを横抱きに、つまりお姫様抱っこで抱えている。
どこからか、うっとりと憧れる様な溜息が聞こえた気が、した。
どこからか、うっとりと憧れる様な溜息が聞こえた気が、した。
その後医務室に運ばれて正気に返ったルイズが、生徒達の目の前でサイトにお姫様抱っこをされて運ばれたことを仇敵の少女に冷やかされ。
そして八つ当たり気味に、サイトがルイズの失敗魔法によって吹き飛ばされるのは。
本来よりも少々早いが、まあ良いという事にしよう。