真人とルイズが部屋から出たとき、偶然にも同じタイミングで隣の部屋から出た者がいた。
燃えるような紅い髪。
情熱的な黒い肌。
胸元の開いたブラウスから、ルイズとは比べ物にならないほどのご立派な二つの果実が君臨していた。
そしてこちらに気づいてルイズと目が合うと、にやっとした笑顔を向けてきた。
燃えるような紅い髪。
情熱的な黒い肌。
胸元の開いたブラウスから、ルイズとは比べ物にならないほどのご立派な二つの果実が君臨していた。
そしてこちらに気づいてルイズと目が合うと、にやっとした笑顔を向けてきた。
「おはよう。ルイズ」
「おはよう。キュルケ」
「おはよう。キュルケ」
ルイズは、不機嫌な感情を言葉に含みながら挨拶を返した。
「この人があなたの使い魔なのね」
「そうよ。なんか文句ある?」
「そうよ。なんか文句ある?」
ルイズは相変わらずムスッとした態度で答えるが、キュルケはお構いなしに真人を頭かつま先までじっくり観察していた。
「ちょ、ちょっと何よ? 人の使い魔をじろじろ見ないでくれる? ってあんたも見せつけるようなポーズとらない!」
ルイズはキュルケに注意を促しながら、ふっ! ふっ! と肉体を強調するような暑苦しいポーズをとっていた真人をやめさせた。
「あなた……えぇと……」
「井ノ原 真人。真人でいいぜ」
「そうだったわね。私はキュルケ・ツェルプストー。キュルケでいいわよ」
「おう。よろしくな。キュルケ」
「井ノ原 真人。真人でいいぜ」
「そうだったわね。私はキュルケ・ツェルプストー。キュルケでいいわよ」
「おう。よろしくな。キュルケ」
真人とキュルケはお互い自己紹介をしたあと、握手を交わした。
しかし、ルイズはそんなようすをどこか面白くなさそうに見ていた。
しかし、ルイズはそんなようすをどこか面白くなさそうに見ていた。
「ほらっ! 二人とも! さっさと行かないと、朝食に遅れるわよ」
そう言って一歩踏み出そうしたルイズの目に、真っ赤な何かの顔面どアップが映る。
「ひやあぁっ!」
ルイズは素っ頓狂な声を上げながら、後ろに尻餅をつく。
「な、ななな―――」
「あぁ、その子は私の使い魔。フレイムっていうのよ」
「あぁ、その子は私の使い魔。フレイムっていうのよ」
キュルケはそう言うと、自分の使い魔のもとへ行き、頭を撫で回した。
「でっけートカゲだなぁ……放し飼いにしといて大丈夫なのか?」
見たこともない大きさのトカゲ(?) に思わず少し後ずさりする真人。
「平気よ。契約を交わした使い魔は主人には絶対忠実。あと、トカゲじゃなくて火トカゲ(サラマンダー)よ」
キュルケは勝ち誇ったかのような顔で続ける。
「見て。ここまで鮮やかで大きい炎の尻尾は、間違いなく火竜山脈のサラマンダーよ? ブランドものよー。好事家に見せたら値段なんかつかないわよ?」
「そりゃよかったわね」
「そりゃよかったわね」
起き上がったルイズが、キュルケとフレイムを忌々しそうに見つめる。
「あら、タバサ」
そんなルイズなぞどこ吹く風でいたキュルケが、すぐ目の前の曲がり角からひょっこり現れたタバサに気づいた。
「どこ行ってたの? もうすぐ朝食の時間よ」
こんな時間までどこにいたのか、キュルケは気になって尋ねた。
「シルフィードにエサをやりにいっていた」
「あぁ、そういえば、あなたの使い魔は風竜(ウインドドラゴン)だったわね」
「あぁ、そういえば、あなたの使い魔は風竜(ウインドドラゴン)だったわね」
キュルケの言葉に、タバサは肯定の相槌をうった。
「紹介するわ。私の友人のタバサよ」
キュルケはタバサの肩をガッチリと掴んで、体の向きを二人の正面に合わせた。
「……タバサ」
小さな声で呟くように自己紹介をすませた。
どうやら本人からのアピールタイムはこれだけらしい。
どうやら本人からのアピールタイムはこれだけらしい。
「ルイズよ」
「井ノ原 真人だ」
「井ノ原 真人だ」
こうして四人で食堂へと行くことになった。
「うおー。すげー広いなぁ」
真人は食堂に着いたとたん、思わず感嘆した。
最初に目につくのは、広々とした部屋の先まで続く三列の長いテーブル。
ゆうに百人以上は座れるだろう長い列だ。
そしてその長いテーブルの上に乗っているのは、まるで高級レストランに出されるような、豪華な食事だった。
最初に目につくのは、広々とした部屋の先まで続く三列の長いテーブル。
ゆうに百人以上は座れるだろう長い列だ。
そしてその長いテーブルの上に乗っているのは、まるで高級レストランに出されるような、豪華な食事だった。
「ここは『アルヴィーズの食堂』よ」
口をぽかんと開けたまま驚いている真人に、ルイズがどこか嬉しげに語る。
「トリステイン魔法学院で教えるのは、魔法だけじゃないのよ」
人差し指をピンと立てたまま説明を続ける。
「メイジはほぼ全員が貴族なの。『貴族は魔法をもってしてその精神となす』のモットーのもと、貴族たるべき教育を、存分に受けるのよ。だから食堂も、貴族の食卓にふさわしいものでなければならないの」
「へー」
「ホントならあんたみたいな平民はこの『アルヴィーズの食堂』には一生れないのよ。それをこの私がと・く・べ・に・取り計らってあげたんだからね。感謝しなさい」
「へー」
「ホントならあんたみたいな平民はこの『アルヴィーズの食堂』には一生れないのよ。それをこの私がと・く・べ・に・取り計らってあげたんだからね。感謝しなさい」
偉そうに胸張るルイズ。
だが、他の三人はとっくに先のほうへ行っていた。
だが、他の三人はとっくに先のほうへ行っていた。
「ちょっと、無視しないでよ! とくにそこの使い魔! 主人をおいて行動しない!」
ルイズは声を少し荒げながら、三人の後を追った。
「……ねぇルイズ」
「なによ?」
「なによ?」
タバサを挟んで二つ隣の席に座っているキュルケに、フォークをとめたルイズがジト目で返答した。
「彼、いくらなんでもかわいそうじゃない?」
キュルケはそう言いながら視線を斜め後ろの床に向ける。
そこには床の上で正座になって、一枚の皿に乗った一つのパンと対面している真人がいた。
そこには床の上で正座になって、一枚の皿に乗った一つのパンと対面している真人がいた。
「…………………………」
まるで屍のように動かない。
顔から窺えるのは生気のない白く剥かれた目と、死んだ魚のように開きっぱなし口。
顔から窺えるのは生気のない白く剥かれた目と、死んだ魚のように開きっぱなし口。
「別に使い魔のしつけを他人に指摘される筋合いなんてないわ」
ルイズはフンと鼻をならしながらキュルケの進言と真人の惨状を無視した。
自分の食べる量を知らされた真人は、その瞬間から今まで、ずっとあの調子である。
豪勢な食事を目の前にして、空腹の自分はパン一つ。
その宣告は真人には些かショックが大きすぎたのだ。
自分の食べる量を知らされた真人は、その瞬間から今まで、ずっとあの調子である。
豪勢な食事を目の前にして、空腹の自分はパン一つ。
その宣告は真人には些かショックが大きすぎたのだ。
しばらく経ったあと、ゆっくりと真人が立ち上がったかと思うと、なにげない調子でルイズに話しかけた。
「なぁルイズ」
「…なに?」
「おまえ、確か鳥を飼い始めてから鶏肉が食えなくなったんだよな。代わりに鶏モモ食ってやるな。ピーちゃんは元気か?」
「…なに?」
「おまえ、確か鳥を飼い始めてから鶏肉が食えなくなったんだよな。代わりに鶏モモ食ってやるな。ピーちゃんは元気か?」
そう言って料理に伸ばした真人の手が、無言でルイズに叩かれた。
「なぁ西園……じゃなった。タバサはキャベツを飼い始めてからサラダが食えなくなったんだよな。代わりに食ってやるな。キャベツマンは元気か?」
今度はタバサに目標を変え、手を伸ばそうとしたら、本人と目が合った。
まるでプロの殺し屋が放つような殺気を受けた真人は、腕がぶった斬られそうになる前に、慌てて腕を引っ込めた。
そのサラダがタバサの好物『ハシバミ草のサラダ』だったとは、このときの真人には知る由も無い。
まるでプロの殺し屋が放つような殺気を受けた真人は、腕がぶった斬られそうになる前に、慌てて腕を引っ込めた。
そのサラダがタバサの好物『ハシバミ草のサラダ』だったとは、このときの真人には知る由も無い。
「なぁキュルケ。この際モズクでもキムチでもなんでもいいから恵んで―――」
「あぁもう! 仕方ないわね! ほら、これあげるから黙ってなさい!」
「あぁもう! 仕方ないわね! ほら、これあげるから黙ってなさい!」
自分の宿敵であるキュルケから物乞いをしそうになった真人に、ルイズは声に怒気を含めながら、彼の皿に鳥の皮を落とす。
「おぉ! サンキュ……肉は?」
「癖になるからダメ。言っとくけど、次にキュルケから物乞いしようとしたら、しばらくはご飯抜きにするから覚えておきなさい!」
「癖になるからダメ。言っとくけど、次にキュルケから物乞いしようとしたら、しばらくはご飯抜きにするから覚えておきなさい!」
真人は、うおおぉぉぉぉぉぉぉ! と叫びながら頭を抱え、自分への理不尽な待遇に落ち込んでいた。