少女は一人丘の上に立っていた。
彼方より迫り来る敵の大軍。その無数の篝火を見つめながら。
彼方より迫り来る敵の大軍。その無数の篝火を見つめながら。
それと戦うために。死ぬと解っていても。
ふといなくなった使い魔の事を思い出す。
ルイズは歓喜した。
春、使い魔召喚の儀式。
幾度もの失敗の末ルイズが呼び出したのは、小さな、しかし精悍な顔立ちの一匹の犬だった。
額に傷跡があり、左前脚にルーンの刻まれた使い魔。
日の光を浴びると銀色に輝く、その毛色からシルバーと名付けた。
春、使い魔召喚の儀式。
幾度もの失敗の末ルイズが呼び出したのは、小さな、しかし精悍な顔立ちの一匹の犬だった。
額に傷跡があり、左前脚にルーンの刻まれた使い魔。
日の光を浴びると銀色に輝く、その毛色からシルバーと名付けた。
ルイズは過剰なまでの愛情を使い魔に注いだ。
初めは彼女に警戒心丸出しだった使い魔も、やがて彼女に心を開くようになった。
初めは彼女に警戒心丸出しだった使い魔も、やがて彼女に心を開くようになった。
そんなある日、些細なことでギーシュと決闘することになった。
貴族の誇りをけなされては後には引けない。しかし、ゼロである自分に勝ち目はない。
その時、両者の間にシルバーが割って入った。
ルイズの制止も聞かず彼女をかばうようにワルキューレに立ち向かうシルバー。
ワルキューレがシルバーに襲いかかり、もう駄目かと思った時、不思議な事が起こった。
貴族の誇りをけなされては後には引けない。しかし、ゼロである自分に勝ち目はない。
その時、両者の間にシルバーが割って入った。
ルイズの制止も聞かず彼女をかばうようにワルキューレに立ち向かうシルバー。
ワルキューレがシルバーに襲いかかり、もう駄目かと思った時、不思議な事が起こった。
シルバーの体が一瞬増えたかと思うと、バラバラになって倒れたのはワルキューレの方だった。
さらに二体目のワルキューレに前脚を叩きつけると、内部からボロボロになって崩れ落ちた。
一体、また一体と撃破されていくワルキューレ。
シルバーは最後の一体を前にすると高く高く跳びあがった。
そして空中で回転を始めると、そのままワルキューレに突っ込んだ。
両者が交差した後、最後の一体は真っ二つに斬られていた。
さらに二体目のワルキューレに前脚を叩きつけると、内部からボロボロになって崩れ落ちた。
一体、また一体と撃破されていくワルキューレ。
シルバーは最後の一体を前にすると高く高く跳びあがった。
そして空中で回転を始めると、そのままワルキューレに突っ込んだ。
両者が交差した後、最後の一体は真っ二つに斬られていた。
そんな事があってから、ルイズはますますシルバーを溺愛した。
シルバーも彼女に従順によく仕えた。
まるで人の言葉が解るかのように頭がよく、
フーケの時には何をどうやったのか、器用に破壊の杖を操りさえした。
シルバーも彼女に従順によく仕えた。
まるで人の言葉が解るかのように頭がよく、
フーケの時には何をどうやったのか、器用に破壊の杖を操りさえした。
なにがあってもこの使い魔と一緒なら乗り越えられる、そう思っていた……
半月ほど前、ルイズはトリステイン軍の陣中にいた。
ある日突然、有利だった戦況が覆ったのを知った。
これから友軍は全力で撤退を開始する事、しかし、進軍速度からすると難しい事。
いくつかの部隊が後衛戦闘をするが、戦力差は歴然であること。
そんな事を聞かされたその夜、シルバーはいなくなった。
ある日突然、有利だった戦況が覆ったのを知った。
これから友軍は全力で撤退を開始する事、しかし、進軍速度からすると難しい事。
いくつかの部隊が後衛戦闘をするが、戦力差は歴然であること。
そんな事を聞かされたその夜、シルバーはいなくなった。
ルイズは必死になってシルバーを探したが、終にシルバーは見つからなかった。
悲観に暮れたが、今いる状況が彼女に悲しみに暮れる暇を与えてはくれなかった。
後衛の部隊は次々に壊滅し、それでもなお、あとわずかな時間が稼げないでいた。
幼馴染の親友を助けるために、彼女は殿になる事を決意した。
悲観に暮れたが、今いる状況が彼女に悲しみに暮れる暇を与えてはくれなかった。
後衛の部隊は次々に壊滅し、それでもなお、あとわずかな時間が稼げないでいた。
幼馴染の親友を助けるために、彼女は殿になる事を決意した。
それらの事を今更に思い出し、しかしこれで良かったのだと思いなおす。
頭のいいシルバーの事だ。あの時の話の内容を理解して逃げ出したのかもしれない。
頭のいいシルバーの事だ。あの時の話の内容を理解して逃げ出したのかもしれない。
…でも、それでいい。これであの子は死なずに済むのだから。
そう思えるほどルイズは使い魔に愛着を持っていた。思い入れをもってしまっていた。
そう思えるほどルイズは使い魔に愛着を持っていた。思い入れをもってしまっていた。
敵の篝火はいよいよもって近づいてくる。七万の大軍の行進は大地を揺らし、地響きがおきていた。
ルイズは恐怖に押し潰されそうになる心に鞭を入れ、震えだしそうになる脚に力をこめ、
砕けそうになる腰を叱咤して、必死になって立っていた。
いくら虚無の使い手とは言え、こんな状況で戦えるのか疑問を浮かべつつ、それでも彼女は立っていた。
ルイズは恐怖に押し潰されそうになる心に鞭を入れ、震えだしそうになる脚に力をこめ、
砕けそうになる腰を叱咤して、必死になって立っていた。
いくら虚無の使い手とは言え、こんな状況で戦えるのか疑問を浮かべつつ、それでも彼女は立っていた。
その時、不意に夜空に流れ星が走った。それを見上げるのと同時に、ルイズは違和感に気づく。
いつの間にか、前方だけでなく、後方からも地響きが近付いている……?
友軍が引き返してきたのかと振り向いたルイズの目に入ってきたのは、人ではない何かの大群。
大地を黒く埋め尽くすそれは、野犬の群れだった。
大地を黒く埋め尽くすそれは、野犬の群れだった。
そしてルイズはその先頭に、見た。
全身を泥で汚く染めつつも、双つの月の光りを浴びて銀色に輝く毛並みを。
その瞬間ルイズはシルバーがこの半月、何をしていたのかをおぼろげながら理解する。
その瞬間ルイズはシルバーがこの半月、何をしていたのかをおぼろげながら理解する。
シルバーはルイズの脇をすり抜けたあと、一回だけ振り向いてこちらを見ると、狼のような遠吠えを一つ、あげた。
黒い野犬の大軍は彼につき従い、前方の大軍に向かって行く。
黒い野犬の大軍は彼につき従い、前方の大軍に向かって行く。
犬達の動きは見事なものだった。
シルバーの率いる先頭部隊が疾風の様に敵の前衛に突っ込んで崩すと、
後ろに控えていた第二陣、第三陣が次々と波状攻撃をかけて遂に敵部隊に立て直す隙を与えなかった。
シルバーの率いる先頭部隊が疾風の様に敵の前衛に突っ込んで崩すと、
後ろに控えていた第二陣、第三陣が次々と波状攻撃をかけて遂に敵部隊に立て直す隙を与えなかった。
その日、七万の威風を放つ陣容はただの野犬達によって敗走を余儀無くされた。
レコンキスタ側の負傷者は多かったが、何故か死者は少なかった。むしろ野犬の側の方が多くの死骸を戦場に残した。
これは、野犬の側が攻撃の対象をメイジの杖や武器、そして篝火に集中させていた事が理由と思われた。
レコンキスタ側の負傷者は多かったが、何故か死者は少なかった。むしろ野犬の側の方が多くの死骸を戦場に残した。
これは、野犬の側が攻撃の対象をメイジの杖や武器、そして篝火に集中させていた事が理由と思われた。
そして、その日の戦場がルイズがシルバーを見た最後でもあった。
あの日を境に、ハルケギニアのあちこちで大群を率いた銀色の野犬が目撃されるようになる。
初めは恐れられていたが、その野犬が目撃された地域では逆に野犬による被害がぱったりと無くなる様になった。
そのためいつしか、その野犬は神の使いではないか、という噂が流れ始めた。
初めは恐れられていたが、その野犬が目撃された地域では逆に野犬による被害がぱったりと無くなる様になった。
そのためいつしか、その野犬は神の使いではないか、という噂が流れ始めた。
そして、その野犬の新しい噂を聞く度に、トリステイン学院で教師を務める、使い魔を持たない奇妙な若いメイジ。
彼女は目を細めるのだ。
彼女は目を細めるのだ。
(銀牙より熊犬・銀)