第八話 メイドの危機
前略、お袋様…俺は今日も異世界で使い魔生活を送っています
ルイズは可愛いけど嫌な奴で苦労が多いですが、クラースさんがいるのでそれ程苦ではありません
何時帰れるか解りませんが、帰れる事を願っています
願って…いますが……
ルイズは可愛いけど嫌な奴で苦労が多いですが、クラースさんがいるのでそれ程苦ではありません
何時帰れるか解りませんが、帰れる事を願っています
願って…いますが……
「動くな…動くと頭に風穴が空くぞ。」
俺は今、黒服の男に銃剣を突きつけられています…命の危機って奴です
何でこうなったのか…それは昼の事です
何でこうなったのか…それは昼の事です
……………
「えっ、シエスタが辞めた!?」
時間は遡って昼頃…王都から帰ってきて数日が経っていた
今日も才人はルイズを怒らせてご飯抜きになり、厨房にごはんを貰いにきていた
その最中に、マルトーからシエスタが学院のメイドを辞めた事を聞かされた
「何だ、シエスタから聞いてねぇのか…モット伯って貴族に仕える事になったんで、今朝迎えの馬車でいっちまったよ。」
「そんな、俺全然…それより誰です、そのモット伯って?」
「王宮の勅使で、時々用事で此処に来る貴族だ…運悪く、見初められちまったんだろうな。」
シエスタ、止めちまったのか・・・持っていたスプーンをテーブルの上に置く
彼女とはこの世界に来てから、随分と親しくなってきたのに…
「…でもまあ、もう二度と会えないって訳じゃないし。機会があれば会いに行きたいな。」
「そいつは無理な話だな。」
「どうしてですか?」
「モット伯は王宮の勅使を勤める大貴族だ、平民如きがシエスタに会う為だけに屋敷へ入れてくれる訳がねぇ。」
それにな…とそこまで言うが、マルトーはその先を言うのを渋る
「それにって…何かあるんですか?」
「ああ…モット伯は女に対して節操が無くて、気に入った平民の女を無理矢理屋敷に連れ込んでいるらしい。」
「ええっと…つまり?」
「つまりだな…モット伯はシエスタを自分の女にするつもりなんだよ、色んな意味でな。」
よく理解できなかった才人は、その言葉でようやくマルトーの言いたい事が理解できた
…色んな意味ってのは、つまりあんな事とかそんな事とかするんだよな…
そう言うのって、漫画の話だけかと思ったけど…
「…って、それって大変な事じゃないですか。何とか出来なかったんですか?」
「無茶言うな、コックの俺がとやかく言えるもんじゃねぇ…ま、所詮平民は貴族に適わねぇのさ。」
既に諦めた口ぶりと表情…そして溜息を残し、マルトーは仕事に戻っていった
そんな話を聞かされては、もうこれ以上食べる気も起きなかった
「シエスタ……と、取り合えずクラースさんに…。」
才人は食事を止めると、クラースに相談する為彼の元へと走った
今の時間なら、図書館にいる筈である
「(あの時…あんな顔をしていたのは、こういう事だったのか。)」
この前の王都で占いをしてもらった時の事を思い出す
今思えば、あの時既にモット伯の所に行くのは決まっていたのだろう
「(シエスタ、どうして…どうして何も言ってくれなかったんだよ。)」
あんな顔をしていたという事は、本当は行きたくなかったんだろうに
クラースなら良い知恵を出してくれると信じて、才人は図書室へ急いだ
時間は遡って昼頃…王都から帰ってきて数日が経っていた
今日も才人はルイズを怒らせてご飯抜きになり、厨房にごはんを貰いにきていた
その最中に、マルトーからシエスタが学院のメイドを辞めた事を聞かされた
「何だ、シエスタから聞いてねぇのか…モット伯って貴族に仕える事になったんで、今朝迎えの馬車でいっちまったよ。」
「そんな、俺全然…それより誰です、そのモット伯って?」
「王宮の勅使で、時々用事で此処に来る貴族だ…運悪く、見初められちまったんだろうな。」
シエスタ、止めちまったのか・・・持っていたスプーンをテーブルの上に置く
彼女とはこの世界に来てから、随分と親しくなってきたのに…
「…でもまあ、もう二度と会えないって訳じゃないし。機会があれば会いに行きたいな。」
「そいつは無理な話だな。」
「どうしてですか?」
「モット伯は王宮の勅使を勤める大貴族だ、平民如きがシエスタに会う為だけに屋敷へ入れてくれる訳がねぇ。」
それにな…とそこまで言うが、マルトーはその先を言うのを渋る
「それにって…何かあるんですか?」
「ああ…モット伯は女に対して節操が無くて、気に入った平民の女を無理矢理屋敷に連れ込んでいるらしい。」
「ええっと…つまり?」
「つまりだな…モット伯はシエスタを自分の女にするつもりなんだよ、色んな意味でな。」
よく理解できなかった才人は、その言葉でようやくマルトーの言いたい事が理解できた
…色んな意味ってのは、つまりあんな事とかそんな事とかするんだよな…
そう言うのって、漫画の話だけかと思ったけど…
「…って、それって大変な事じゃないですか。何とか出来なかったんですか?」
「無茶言うな、コックの俺がとやかく言えるもんじゃねぇ…ま、所詮平民は貴族に適わねぇのさ。」
既に諦めた口ぶりと表情…そして溜息を残し、マルトーは仕事に戻っていった
そんな話を聞かされては、もうこれ以上食べる気も起きなかった
「シエスタ……と、取り合えずクラースさんに…。」
才人は食事を止めると、クラースに相談する為彼の元へと走った
今の時間なら、図書館にいる筈である
「(あの時…あんな顔をしていたのは、こういう事だったのか。)」
この前の王都で占いをしてもらった時の事を思い出す
今思えば、あの時既にモット伯の所に行くのは決まっていたのだろう
「(シエスタ、どうして…どうして何も言ってくれなかったんだよ。)」
あんな顔をしていたという事は、本当は行きたくなかったんだろうに
クラースなら良い知恵を出してくれると信じて、才人は図書室へ急いだ
「では…初め!!」
図書室では、クラースの合図と共に二人の少女が羽ペンを動かしていた
ルイズとタバサ…二人はクラースから出された簡単な課題を解いている
今回は、アセリアの文章をハルケギニアの言葉に訳すというものだった
「………はい、終了。」
しばらくして時間が来た…二人は答えを書いた紙をクラースに渡す
クラースは二人が訳した文を見て、正しいかどうか確認する
「………ルイズ、五番目の所を口答で言ってみろ。」
「えっ、えっと…彼女の料理は最高に美味しかった?」
「残念だが、此処は『美味い』ではなく『不味い』だ。単語の綴りが似ているから気をつけろよ。」
ルイズに注意すると、今度はタバサの用紙を確認する
「タバサはちゃんと訳せているな。試しに最後の文を口答で言ってみてくれないか?」
「この世に悪があるとすれば…それは人の心。」
「そうだ、そういう意味になる…よく出来たな。」
「………。」
クラースがタバサを褒めるのを見て、ルイズはムッとなった
「(何よ、あれ位で…大体何でタバサと一緒に先生の授業を受けなきゃいけないのよ。)」
タバサと一緒に勉強するようになったのは昨日から…
クラースが別々に教えるよりも二人一緒の方がやりやすいという事でこうなった
彼女がクラースから師事を受けているのは、前から知っていた
だが、一緒に…となると話が違ってくる
「(クラース先生は私だけの先生で良いのに…。)」
彼女は人一倍プライドと独占欲が強い
今のようにタバサが自分よりも上手く課題をこなし、クラースに褒められる…
それがルイズの心を刺激し、このように不機嫌になるのだ
「ルイズ、そう怒るな…私はタバサだけでなく、君の事もちゃんと評価しているぞ。」
此処で、ルイズがふてくされる事に気付いたクラースのフォローが入る
「君が夜遅くまで勉強している事も魔法の練習をしている事も私は知っている…君は十分頑張っているさ。」
「でも…結果が出なきゃ、意味がないじゃない。」
でなければ、自分はゼロのルイズのまま…一生周囲から馬鹿にされ続ける
今度は自分のコンプレックスを意識し、落ち込みそうになるが…
「努力しても結果がすぐに出てくるとは限らん…ずっと出ないかもしれない。」
「………。」
「だが、諦めたらそれまでだ…自分を信じ、努力を続けていけば良い。」
結果は出ると信じて…クラースは最後の言葉に繋げる
…そういえば、クラース先生も努力したから召喚術を体得したって言ってたっけ…
…自分を信じて、結果は出ると信じて、か…
しばらく色々と考えた後、クラースに向けて顔を上げてルイズは答える
「……解ったわ。タバサと一緒でも、すぐに結果が出なくても、やってやろうじゃない。」
「そうだ、その調子だ…さ、話が纏まった所で次を…。」
「クラースさん、大変です!!」
その時、向こうから才人の声が聞こえてきた
何事かと三人が振り向くと、本棚の間を走って才人がやってくる
「ん、どうした才人?そんなに血相変えて…。」
「あんた、部屋の掃除はどうしたのよ。こんな所で油売ってる暇があるなら…。」
「そんな事してる場合じゃねぇんだよ!!!」
普段通りのルイズに対し、才人は大声で怒鳴った
それにルイズは驚き、周囲で読書をしていた生徒達も何事かと此方を見る
それでも、才人は気にせずに叫ぶようにしゃべりだした
「クラースさん、大変なんです。モット伯が学園を辞めて、シエスタに雇われて…。」
「才人、落ち着け…何を言ってるのか解らんから、まずは深呼吸しろ。」
「あっ…はい、すいませんでした。」
クラースの言葉に才人は一度大きく息を吸い…そして、吐き出す
何とか自身を落ち着かせると、先程厨房で聞いた事を話し出した
図書室では、クラースの合図と共に二人の少女が羽ペンを動かしていた
ルイズとタバサ…二人はクラースから出された簡単な課題を解いている
今回は、アセリアの文章をハルケギニアの言葉に訳すというものだった
「………はい、終了。」
しばらくして時間が来た…二人は答えを書いた紙をクラースに渡す
クラースは二人が訳した文を見て、正しいかどうか確認する
「………ルイズ、五番目の所を口答で言ってみろ。」
「えっ、えっと…彼女の料理は最高に美味しかった?」
「残念だが、此処は『美味い』ではなく『不味い』だ。単語の綴りが似ているから気をつけろよ。」
ルイズに注意すると、今度はタバサの用紙を確認する
「タバサはちゃんと訳せているな。試しに最後の文を口答で言ってみてくれないか?」
「この世に悪があるとすれば…それは人の心。」
「そうだ、そういう意味になる…よく出来たな。」
「………。」
クラースがタバサを褒めるのを見て、ルイズはムッとなった
「(何よ、あれ位で…大体何でタバサと一緒に先生の授業を受けなきゃいけないのよ。)」
タバサと一緒に勉強するようになったのは昨日から…
クラースが別々に教えるよりも二人一緒の方がやりやすいという事でこうなった
彼女がクラースから師事を受けているのは、前から知っていた
だが、一緒に…となると話が違ってくる
「(クラース先生は私だけの先生で良いのに…。)」
彼女は人一倍プライドと独占欲が強い
今のようにタバサが自分よりも上手く課題をこなし、クラースに褒められる…
それがルイズの心を刺激し、このように不機嫌になるのだ
「ルイズ、そう怒るな…私はタバサだけでなく、君の事もちゃんと評価しているぞ。」
此処で、ルイズがふてくされる事に気付いたクラースのフォローが入る
「君が夜遅くまで勉強している事も魔法の練習をしている事も私は知っている…君は十分頑張っているさ。」
「でも…結果が出なきゃ、意味がないじゃない。」
でなければ、自分はゼロのルイズのまま…一生周囲から馬鹿にされ続ける
今度は自分のコンプレックスを意識し、落ち込みそうになるが…
「努力しても結果がすぐに出てくるとは限らん…ずっと出ないかもしれない。」
「………。」
「だが、諦めたらそれまでだ…自分を信じ、努力を続けていけば良い。」
結果は出ると信じて…クラースは最後の言葉に繋げる
…そういえば、クラース先生も努力したから召喚術を体得したって言ってたっけ…
…自分を信じて、結果は出ると信じて、か…
しばらく色々と考えた後、クラースに向けて顔を上げてルイズは答える
「……解ったわ。タバサと一緒でも、すぐに結果が出なくても、やってやろうじゃない。」
「そうだ、その調子だ…さ、話が纏まった所で次を…。」
「クラースさん、大変です!!」
その時、向こうから才人の声が聞こえてきた
何事かと三人が振り向くと、本棚の間を走って才人がやってくる
「ん、どうした才人?そんなに血相変えて…。」
「あんた、部屋の掃除はどうしたのよ。こんな所で油売ってる暇があるなら…。」
「そんな事してる場合じゃねぇんだよ!!!」
普段通りのルイズに対し、才人は大声で怒鳴った
それにルイズは驚き、周囲で読書をしていた生徒達も何事かと此方を見る
それでも、才人は気にせずに叫ぶようにしゃべりだした
「クラースさん、大変なんです。モット伯が学園を辞めて、シエスタに雇われて…。」
「才人、落ち着け…何を言ってるのか解らんから、まずは深呼吸しろ。」
「あっ…はい、すいませんでした。」
クラースの言葉に才人は一度大きく息を吸い…そして、吐き出す
何とか自身を落ち着かせると、先程厨房で聞いた事を話し出した
「成る程、シエスタがモット伯という貴族に見初められ、学院を辞めた…というわけか。」
話を聞き終えて、クラースが簡潔に纏める
「シエスタって、あのメイドの…何か一大事かと思ったけど、その程度なわけ?」
もっと重大な事かと思ったので、才人の話を聞いてルイズは呆れた
タバサに至っては顔色を変える事なく、本を読んでいる
「そうなんです…どうしましょう、クラースさん。」
「そうだな…大抵、貴族の男が若い平民の女に手を出すという事は、妾になれっていう事だろうしな。」
元々頼りにしてないルイズよりも、クラースだけが頼りだった
きっと、クラースなら何か良い案を出してくれると信じていた才人だったが…
「………才人、こればかりはどうしようもない、諦めろ。」
「そんな…どうして!?」
しかし、返ってきたのは才人の期待を裏切る言葉だった
その返事に納得出来る筈もなく、すぐに理由を問いかける
「相手は王国の勅使を勤める大貴族だ…何かコネでもない限り、シエスタを学園に戻すのは不可能だ。」
「先生の言う通りね…諦めて、さっさと掃除に戻りなさい。」
ルイズが才人を見ずにそう告げる
その言葉にイラッと来たが、彼女の家の事を思い出して頼み込む
「なあルイズ、お前なら何とか出来ないのか…お前の家だって凄い貴族なんだろ?」
「馬鹿言わないで。たかだかメイド一人くらいでヴァリエール家が動くわけないでしょ。」
これもまた至極当然な意見である…が、やはり納得出来なかった
うーっと唸った後、彼はクラース達に背を向けて歩き出した
「才人、どうする気だ?」
「俺、モット伯って貴族の所に行きます…そんなに言うなら、俺一人だけでも…。」
そう言って、出て行こうとする…が、クラースは才人の腕を掴んだ
「クラースさん、何を…離してください。」
クラースの手から逃れようとするが、彼の握力が強くて振り切れない
「才人、無茶は止めろ…問題を起こせば君だけでなく、ルイズとルイズの家が危なくなるんだぞ。」
クラースの言葉に、才人は疑問を抱いて暴れるのを止める
その様子にクラースは一度才人の腕を放し、疑問に答える
「考えてみろ、大貴族の屋敷でルイズの使い魔である君が問題を起こせばどうなるか…。」
「運が悪ければ、その場で処刑…そして、ヴァリエール家にも厳正な裁きが下される。」
クラースの言いたい事を、本を読みながらタバサが答える
「今の私達の立場は、君が考えている以上に重いものだ…後先考えずに行動すれば、弊害が出る。」
「でも…このままじゃシエスタが…。」
「じゃあ、改めて聞こう…君は己の命を捨て、ルイズと彼女の家を危険にさらしてまでシエスタを救う覚悟があるのか?」
「そ、それは……。」
真剣な表情で問いかけられ、才人は言葉を失う
正直シエスタを助ける事しか考えていなかったので、そんな事になるなんて考えもしなかった
そんなの、即答出来る筈が無い…答えが出せないので、クラースは切り上げる
「ないのなら、諦めろ…今回は運が悪かったとな。」
「くっ…畜生!!!」
誰にもぶつけられない怒りを抱え、才人はそう叫んで走り去ってしまう
クラースは追いかける事無く、去っていく才人の後姿を見続けた
しばらく、そっとしといた方が良いだろう…そう判断したからだ
「珍しいわね…先生ならあいつの肩を持つと思ったのに。」
「どうにも出来ない事がある事くらい、分かっているつもりだ。」
そう答え、才人の姿が見えなくなるとクラースは椅子に座り込んだ
「…本当は先生だって、メイドの事が心配なんでしょ?」
「そりゃあ、彼女には世話になったからな…だが、こればかりはな。」
自分は英雄などと呼ばれるが、所詮はただの人間…
彼女の為に何も出来ない事で、改めてそれを思い知らされる
「考えても仕方ない…さ、続きをやるとするか。」
シエスタの件を割り切って、クラースは授業を再開する
その後、二人はこの件に関して何も言わずに、授業を受け続けた
話を聞き終えて、クラースが簡潔に纏める
「シエスタって、あのメイドの…何か一大事かと思ったけど、その程度なわけ?」
もっと重大な事かと思ったので、才人の話を聞いてルイズは呆れた
タバサに至っては顔色を変える事なく、本を読んでいる
「そうなんです…どうしましょう、クラースさん。」
「そうだな…大抵、貴族の男が若い平民の女に手を出すという事は、妾になれっていう事だろうしな。」
元々頼りにしてないルイズよりも、クラースだけが頼りだった
きっと、クラースなら何か良い案を出してくれると信じていた才人だったが…
「………才人、こればかりはどうしようもない、諦めろ。」
「そんな…どうして!?」
しかし、返ってきたのは才人の期待を裏切る言葉だった
その返事に納得出来る筈もなく、すぐに理由を問いかける
「相手は王国の勅使を勤める大貴族だ…何かコネでもない限り、シエスタを学園に戻すのは不可能だ。」
「先生の言う通りね…諦めて、さっさと掃除に戻りなさい。」
ルイズが才人を見ずにそう告げる
その言葉にイラッと来たが、彼女の家の事を思い出して頼み込む
「なあルイズ、お前なら何とか出来ないのか…お前の家だって凄い貴族なんだろ?」
「馬鹿言わないで。たかだかメイド一人くらいでヴァリエール家が動くわけないでしょ。」
これもまた至極当然な意見である…が、やはり納得出来なかった
うーっと唸った後、彼はクラース達に背を向けて歩き出した
「才人、どうする気だ?」
「俺、モット伯って貴族の所に行きます…そんなに言うなら、俺一人だけでも…。」
そう言って、出て行こうとする…が、クラースは才人の腕を掴んだ
「クラースさん、何を…離してください。」
クラースの手から逃れようとするが、彼の握力が強くて振り切れない
「才人、無茶は止めろ…問題を起こせば君だけでなく、ルイズとルイズの家が危なくなるんだぞ。」
クラースの言葉に、才人は疑問を抱いて暴れるのを止める
その様子にクラースは一度才人の腕を放し、疑問に答える
「考えてみろ、大貴族の屋敷でルイズの使い魔である君が問題を起こせばどうなるか…。」
「運が悪ければ、その場で処刑…そして、ヴァリエール家にも厳正な裁きが下される。」
クラースの言いたい事を、本を読みながらタバサが答える
「今の私達の立場は、君が考えている以上に重いものだ…後先考えずに行動すれば、弊害が出る。」
「でも…このままじゃシエスタが…。」
「じゃあ、改めて聞こう…君は己の命を捨て、ルイズと彼女の家を危険にさらしてまでシエスタを救う覚悟があるのか?」
「そ、それは……。」
真剣な表情で問いかけられ、才人は言葉を失う
正直シエスタを助ける事しか考えていなかったので、そんな事になるなんて考えもしなかった
そんなの、即答出来る筈が無い…答えが出せないので、クラースは切り上げる
「ないのなら、諦めろ…今回は運が悪かったとな。」
「くっ…畜生!!!」
誰にもぶつけられない怒りを抱え、才人はそう叫んで走り去ってしまう
クラースは追いかける事無く、去っていく才人の後姿を見続けた
しばらく、そっとしといた方が良いだろう…そう判断したからだ
「珍しいわね…先生ならあいつの肩を持つと思ったのに。」
「どうにも出来ない事がある事くらい、分かっているつもりだ。」
そう答え、才人の姿が見えなくなるとクラースは椅子に座り込んだ
「…本当は先生だって、メイドの事が心配なんでしょ?」
「そりゃあ、彼女には世話になったからな…だが、こればかりはな。」
自分は英雄などと呼ばれるが、所詮はただの人間…
彼女の為に何も出来ない事で、改めてそれを思い知らされる
「考えても仕方ない…さ、続きをやるとするか。」
シエスタの件を割り切って、クラースは授業を再開する
その後、二人はこの件に関して何も言わずに、授業を受け続けた
時間は過ぎて夕食…食堂に人が集まってきた
夕食を食べようと生徒や教師達が席に着き、クラース達も食堂に来ていた
「夕食に来ないなんて…何処で油を売ってるのかしらアイツ?」
床に置いてある才人用のご飯を見下ろしながら、ルイズは才人が来ないかとあちこち見回す
入り口からは何人かの生徒がやってくるのが見えるが、才人の姿はない
「昼の事があるからな…そうすぐには来ないとは思っていたが、遅いな。」
「全く…折角今日は少しだけ豪華にしてあげたのに。」
ルイズの足元にある才人の食事は、普段よりかはマシな物だった
それは、今日の事で傷ついているであろう才人への、彼女なりの気遣いなのだろう
「あら、クラース先生、こんばんは。」
そんな時、キュルケが二人の前へやってきた
彼女は配膳用のカートを使っており、そこには食事が幾つも並んでいる
「ああ、キュルケか…こんばんは。」
「ちょっと、私を無視するなんていい度胸じゃない。」
「あら、ルイズいたの?色々小さいから全然気付かなかったわ。」
ふてぶてしく言うキュルケに、ルイズは地団駄を踏む
「それよりキュルケ、才人を見かけなかったか?」
「見てないですわ。私もサイトの事探しているのですけど…。」
折角、ご飯用意したのに…と、持ってきた料理を見る
どうやら、才人の為にこうして持ってきたようだ
「ちょっと、あんた。勝手に人の使い魔に餌あげないでよ。」
「だって、貴方ったら彼にまともに食事を取らせないじゃない。」
「躾けよ、主人である私の事を敬わない使い魔はちゃんと躾けないと。」
「ゼロのルイズじゃ仕方ないんじゃない。」
「なんですって~~~!!!」
何時ものように口論…というより、ルイズが一方的に叫ぶ
やれやれと呆れると、クラースは立ち上がった
「少し、才人を探してくる…もしかしたら、部屋に戻っているのかもしれない。」
「じゃあ、私は不本意ながらルイズの相手をしながら待っていますわ。」
隣で叫ぶルイズの言葉を聞き流し、キュルケは微笑みながら手を振る
早速女子寮へ行こうと、クラースが食堂の出入り口へ差し掛かった
その時、外から来た生徒と軽くぶつかってしまう
「おっと、すまない…ああ、ギーシュか。」
「これはクラース先生…失礼しました。」
相手はギーシュで、自分がぶつかった非礼を詫びる
君にまで先生と呼ばれるとは…取り敢えず、才人の行方を尋ねてみる
「所でギーシュ、才人を見なかったか?昼間から姿を見せないのだが…。」
「サイト?彼なら一時間ほど前にホールの方で見かけましたが。」
「本当か?」
ギーシュは頷くと、その時の事を話し始める
「僕がモンモランシーと話している時に、『モット伯の屋敷は何処か』と尋ねてきましてね。」
「何だって!?」
だが、その内容はクラースに嫌な予感を抱かせるのに十分なものだった
大きな声を出したのでルイズとキュルケ、他の生徒達がどうしたと此方を見る
が、構わずにクラースはギーシュから続きを聞きだそうとした
「それで、どうしたんだ?」
「学園から少し離れた所に屋敷があると場所を教えたら、そのまま何処かに行ってしまいましたけど。」
「何という事だ…才人の奴、馬鹿な真似を。」
話を聞いたクラースは走り出し、外へ向かっていった
何をそんなに慌てているのだろう…事情を知らないギーシュは首を傾げる
「ギーシュ、クラース先生どうしたの?」
「何か走っていくのが見えたけど…。」
ルイズとキュルケがギーシュに駆け寄り、何があったのか尋ねる
ギーシュは先程、クラースに話した内容を二人に話した
夕食を食べようと生徒や教師達が席に着き、クラース達も食堂に来ていた
「夕食に来ないなんて…何処で油を売ってるのかしらアイツ?」
床に置いてある才人用のご飯を見下ろしながら、ルイズは才人が来ないかとあちこち見回す
入り口からは何人かの生徒がやってくるのが見えるが、才人の姿はない
「昼の事があるからな…そうすぐには来ないとは思っていたが、遅いな。」
「全く…折角今日は少しだけ豪華にしてあげたのに。」
ルイズの足元にある才人の食事は、普段よりかはマシな物だった
それは、今日の事で傷ついているであろう才人への、彼女なりの気遣いなのだろう
「あら、クラース先生、こんばんは。」
そんな時、キュルケが二人の前へやってきた
彼女は配膳用のカートを使っており、そこには食事が幾つも並んでいる
「ああ、キュルケか…こんばんは。」
「ちょっと、私を無視するなんていい度胸じゃない。」
「あら、ルイズいたの?色々小さいから全然気付かなかったわ。」
ふてぶてしく言うキュルケに、ルイズは地団駄を踏む
「それよりキュルケ、才人を見かけなかったか?」
「見てないですわ。私もサイトの事探しているのですけど…。」
折角、ご飯用意したのに…と、持ってきた料理を見る
どうやら、才人の為にこうして持ってきたようだ
「ちょっと、あんた。勝手に人の使い魔に餌あげないでよ。」
「だって、貴方ったら彼にまともに食事を取らせないじゃない。」
「躾けよ、主人である私の事を敬わない使い魔はちゃんと躾けないと。」
「ゼロのルイズじゃ仕方ないんじゃない。」
「なんですって~~~!!!」
何時ものように口論…というより、ルイズが一方的に叫ぶ
やれやれと呆れると、クラースは立ち上がった
「少し、才人を探してくる…もしかしたら、部屋に戻っているのかもしれない。」
「じゃあ、私は不本意ながらルイズの相手をしながら待っていますわ。」
隣で叫ぶルイズの言葉を聞き流し、キュルケは微笑みながら手を振る
早速女子寮へ行こうと、クラースが食堂の出入り口へ差し掛かった
その時、外から来た生徒と軽くぶつかってしまう
「おっと、すまない…ああ、ギーシュか。」
「これはクラース先生…失礼しました。」
相手はギーシュで、自分がぶつかった非礼を詫びる
君にまで先生と呼ばれるとは…取り敢えず、才人の行方を尋ねてみる
「所でギーシュ、才人を見なかったか?昼間から姿を見せないのだが…。」
「サイト?彼なら一時間ほど前にホールの方で見かけましたが。」
「本当か?」
ギーシュは頷くと、その時の事を話し始める
「僕がモンモランシーと話している時に、『モット伯の屋敷は何処か』と尋ねてきましてね。」
「何だって!?」
だが、その内容はクラースに嫌な予感を抱かせるのに十分なものだった
大きな声を出したのでルイズとキュルケ、他の生徒達がどうしたと此方を見る
が、構わずにクラースはギーシュから続きを聞きだそうとした
「それで、どうしたんだ?」
「学園から少し離れた所に屋敷があると場所を教えたら、そのまま何処かに行ってしまいましたけど。」
「何という事だ…才人の奴、馬鹿な真似を。」
話を聞いたクラースは走り出し、外へ向かっていった
何をそんなに慌てているのだろう…事情を知らないギーシュは首を傾げる
「ギーシュ、クラース先生どうしたの?」
「何か走っていくのが見えたけど…。」
ルイズとキュルケがギーシュに駆け寄り、何があったのか尋ねる
ギーシュは先程、クラースに話した内容を二人に話した
………
「はぁ、はぁ、はぁ…あの野郎、歩いて一時間だなんて、聞いてねぇぞ。」
一方、才人はモット伯の屋敷前まで来ていた
長い道のりに疲れ、傍の木にもたれかかって少しばかり休む
その背中には、クラースが武器屋で買ったデルフリンガーを背負っていた
「しかし、坊主…貴族様の屋敷まで来て、何をやろうってんだ?」
「坊主じゃねぇ、才人だ…当然、シエスタを助けるんだ。」
クラースにああ言われたが、やはりシエスタの事を諦めきれない
ギーシュからモット伯の屋敷を教わり、こうして乗り込もうとしている
「んで、何で俺っちなんかを連れてきたんだ?」
「仕方ねぇだろ、ロングソードはクラースさんが管理してるし…お前しかいなかったんだ。」
相手はメイジなので、万が一にと武器としてデルフリンガーを持ってきた
こんな調子では、本当にクラースの言ったように大事になりかねない
だが、この時才人は事態をそんなに真剣に考えず、楽観視していた
シエスタを助ければ、何とでもなるだろう…と
「んにしても、変だな…相棒だけでなくお前さんまで使い手なんてよ。」
「使い手?何だよ、それ?」
「忘れた…けど、お前さんが刻んでいるルーンは本来一人だけしか刻まれねぇ筈だ。」
そう言われて、才人はマジマジと自身のルーンを見つめる
自分とクラースに刻まれた、ルイズの使い魔の証を…
「こいつが…けど、そんなの今は関係ねぇし。早くシエスタを助けないと。」
「上手くいくのかねぇ、本当に。」
「もうお前黙ってろよ…行くぜ。」
それで話が終わり、才人は一歩前進して屋敷に入ろうとした…
「あ、坊主、待て。」
が、その直前にデルフがまた口(?)を開いた
出鼻を挫かれた事に苛立ちながら、才人はデルフに怒鳴る
「だから坊主じゃねぇって、才人だ…何だよ、待てって?」
「いや、それ以上動かねぇ方が良いぞ。」
「どうして?」
「いや、だってお前…後ろから狙われているから。」
え…と後ろを振り返ろうとするが、それは出来なかった
何故なら、後頭部を冷たい何かが触れていたからだ
「な、何だ…。」
「動くな…動くと頭に風穴が空くぞ。」
自分に触れる物と同じくらい、冷たい声が才人の耳に響く
才人の背後は完全に、何者かに奪われていた
一方、才人はモット伯の屋敷前まで来ていた
長い道のりに疲れ、傍の木にもたれかかって少しばかり休む
その背中には、クラースが武器屋で買ったデルフリンガーを背負っていた
「しかし、坊主…貴族様の屋敷まで来て、何をやろうってんだ?」
「坊主じゃねぇ、才人だ…当然、シエスタを助けるんだ。」
クラースにああ言われたが、やはりシエスタの事を諦めきれない
ギーシュからモット伯の屋敷を教わり、こうして乗り込もうとしている
「んで、何で俺っちなんかを連れてきたんだ?」
「仕方ねぇだろ、ロングソードはクラースさんが管理してるし…お前しかいなかったんだ。」
相手はメイジなので、万が一にと武器としてデルフリンガーを持ってきた
こんな調子では、本当にクラースの言ったように大事になりかねない
だが、この時才人は事態をそんなに真剣に考えず、楽観視していた
シエスタを助ければ、何とでもなるだろう…と
「んにしても、変だな…相棒だけでなくお前さんまで使い手なんてよ。」
「使い手?何だよ、それ?」
「忘れた…けど、お前さんが刻んでいるルーンは本来一人だけしか刻まれねぇ筈だ。」
そう言われて、才人はマジマジと自身のルーンを見つめる
自分とクラースに刻まれた、ルイズの使い魔の証を…
「こいつが…けど、そんなの今は関係ねぇし。早くシエスタを助けないと。」
「上手くいくのかねぇ、本当に。」
「もうお前黙ってろよ…行くぜ。」
それで話が終わり、才人は一歩前進して屋敷に入ろうとした…
「あ、坊主、待て。」
が、その直前にデルフがまた口(?)を開いた
出鼻を挫かれた事に苛立ちながら、才人はデルフに怒鳴る
「だから坊主じゃねぇって、才人だ…何だよ、待てって?」
「いや、それ以上動かねぇ方が良いぞ。」
「どうして?」
「いや、だってお前…後ろから狙われているから。」
え…と後ろを振り返ろうとするが、それは出来なかった
何故なら、後頭部を冷たい何かが触れていたからだ
「な、何だ…。」
「動くな…動くと頭に風穴が空くぞ。」
自分に触れる物と同じくらい、冷たい声が才人の耳に響く
才人の背後は完全に、何者かに奪われていた
「(…ってな感じで、俺ピンチな訳だけど…。)」
回想を終え、才人がゆっくりと後ろを振り返る
相手は自分より大きな男だった…黒服を身に纏い、長髪で手には銃剣のついたライフルを持っている
その先が、男の鋭い眼光と共に此方に向けられているのが解った
「全然気付かなかった…一体何処にいたんだ?」
「気配を殺して俺達の様子を見ていたんだろうぜ…こいつ、プロだ。」
お前さん以上にな…と、デルフが相手の力量を才人に教える
自分が弱いと言われた事にムッとなった才人だが、男がライフルを突きつける
「それ以上喋るな…命が惜しいなら、質問に答えるだけにしろ。」
その言葉に偽りは無かった…その事は才人でも相手の口調で解った
才人は口を閉ざし、デルフもそれ以上何も言わなくなった
少しばかりの沈黙が続いた後、男は口を開く
「最初の質問だ…貴様の名は?」
「えっと…才人、平賀才人…。」
「ヒラガサイト?変わった名だな…まあ、それはどうでも良い。此方を向け。」
男の指示に、才人はゆっくりと男の方へと振り向いた
改めて見ると、髭面で額に大きな傷のあるのが特徴の男だった
男は才人の事をその鋭い目でじっくりと見回し、何か確認を取り始める
「………『土くれのフーケ』ではなさそうだな、貴様の気配は素人そのものだったしな。」
「土くれのフーケって?」
「次の質問だ。何をしに此処に来た?剣を持って…此処が貴族の屋敷だとは知っているだろう?」
才人の質問を無視し、男は次の質問をしてきた
仕方なく、才人は此処にきた目的をこの男に話し始めた
回想を終え、才人がゆっくりと後ろを振り返る
相手は自分より大きな男だった…黒服を身に纏い、長髪で手には銃剣のついたライフルを持っている
その先が、男の鋭い眼光と共に此方に向けられているのが解った
「全然気付かなかった…一体何処にいたんだ?」
「気配を殺して俺達の様子を見ていたんだろうぜ…こいつ、プロだ。」
お前さん以上にな…と、デルフが相手の力量を才人に教える
自分が弱いと言われた事にムッとなった才人だが、男がライフルを突きつける
「それ以上喋るな…命が惜しいなら、質問に答えるだけにしろ。」
その言葉に偽りは無かった…その事は才人でも相手の口調で解った
才人は口を閉ざし、デルフもそれ以上何も言わなくなった
少しばかりの沈黙が続いた後、男は口を開く
「最初の質問だ…貴様の名は?」
「えっと…才人、平賀才人…。」
「ヒラガサイト?変わった名だな…まあ、それはどうでも良い。此方を向け。」
男の指示に、才人はゆっくりと男の方へと振り向いた
改めて見ると、髭面で額に大きな傷のあるのが特徴の男だった
男は才人の事をその鋭い目でじっくりと見回し、何か確認を取り始める
「………『土くれのフーケ』ではなさそうだな、貴様の気配は素人そのものだったしな。」
「土くれのフーケって?」
「次の質問だ。何をしに此処に来た?剣を持って…此処が貴族の屋敷だとは知っているだろう?」
才人の質問を無視し、男は次の質問をしてきた
仕方なく、才人は此処にきた目的をこの男に話し始めた
………………
「…ってな訳なんです、だからモット伯に会わせてくれませんか?」
「成る程、そういうわけか…。」
事情を聞き終え、ライフルを肩に背負いながら男は考える
これで、何とかなるかも…と思った才人だが、すぐに返事は返ってきた
「許可無き者は誰も通すなとの命令を受けている…お前を中に入れる事は出来ん。」
結果はノー…そう言われても、はいそうですかと才人は引き下がるわけにはいかない
「お願いです、ほんの少しだけで良いですから…。」
「すぐに立ち去れ。」
必死になって頼んだが、男は全く聞こうとしなかった
話は終わりだ、と男は才人に背を向けて屋敷に戻ろうとする
こうなったら…功を焦った才人はデルフリンガーを握った
「実力行使に出るか…止めておけ、怪我をするだけだぞ。」
後ろを向いていても、男は才人が何をしようとしているのかが解った
だが、男の忠告を受けても才人は止めようとはしない
「相手の言う通りだ…止めとけ、坊主。」
「才人だ…そんなの、やってみなくちゃわかんねぇだろ!!!」
デルフの制止も聞かず、啖呵を切る才人…その時、左手のルーンが輝きだした
「成る程、そういうわけか…。」
事情を聞き終え、ライフルを肩に背負いながら男は考える
これで、何とかなるかも…と思った才人だが、すぐに返事は返ってきた
「許可無き者は誰も通すなとの命令を受けている…お前を中に入れる事は出来ん。」
結果はノー…そう言われても、はいそうですかと才人は引き下がるわけにはいかない
「お願いです、ほんの少しだけで良いですから…。」
「すぐに立ち去れ。」
必死になって頼んだが、男は全く聞こうとしなかった
話は終わりだ、と男は才人に背を向けて屋敷に戻ろうとする
こうなったら…功を焦った才人はデルフリンガーを握った
「実力行使に出るか…止めておけ、怪我をするだけだぞ。」
後ろを向いていても、男は才人が何をしようとしているのかが解った
だが、男の忠告を受けても才人は止めようとはしない
「相手の言う通りだ…止めとけ、坊主。」
「才人だ…そんなの、やってみなくちゃわかんねぇだろ!!!」
デルフの制止も聞かず、啖呵を切る才人…その時、左手のルーンが輝きだした
デルフを抜くと同時に、才人は男に向かって一気に接近する
その素早さは、一瞬で相手との間合いを詰める
「でやっ!!」
一閃…デルフの峰の部分を男に向かって大きく振り下ろした
並の人間なら一撃で敗れる攻撃だが、男は後ろ向きにままで、横に避ける
「スピードは速いな…だが、それだけだ。」
「ちっ、くそ!!!」
続けてもう一閃…これもまた避けられる
焦った才人は我武者羅にデルフを振り回すが、男はそれを悉く避けた
無駄のない、最小限の動きによる回避である
「全然当たらねぇ。何でだ!?」
「そんな俄仕込みの剣術と焦りでは、当たらないのも当然だ。」
「うるせぇ!!!」
才人が渾身の力で横切りを放つと、急に男が視界から消えた
えっ…と思う才人だが、直後に足に衝撃が走り、視界が反転する
それは男が足払いを仕掛けたからで、才人は地面に倒れる
「くそ…わわっ!?」
悔しがる才人だが、それはすぐに焦りへと変わった
男がライフルを振り上げ、才人を銃剣で突き刺そうとしたからだ
才人は横に転がる事で回避し、すぐに立ち上がる
「だから言ったのに…坊主、お前じゃあいつに敵わねぇぞ。ここらで逃げた方が良いんじゃねーか?」
「才人だ。んな事出来るわけねぇだろ。」
才人はデルフを構えたまま、男の様子を伺う
男は自分から攻めるつもりはないらしく、ライフルを片手に持って立っている
「…あんた、何で撃ってこないんだ?それ、ライフルだろ?」
「騒ぎを大きくすると、後処理が面倒なのでな…それに、弾代が勿体ない。」
相手は本気を出していない…悔しいが、自分はそれ程の相手ではないという事だ
だが、相手が本気を出していない今の内に倒す事が出来れば…
「隙を突けば良いんだろうけど…どうやって隙を付けば…。」
「自分で作り出すって手もあるぜ。例えば相手が見た事のない手を出すとか…。」
デルフの助言を聞いて、才人の頭にある作戦が閃いた
そうだ、アレを使えば少しだけ隙が出来るんじゃないか…
「終わりか?なら、とっとと立ち去れ。今ならこの事は不問にしてやる。」
「んな事出来るかよ…これでも喰らえ!!」
才人は剣を大きく振りかぶり、剣圧を放った…魔神剣だ
男は少しばかり驚いたようだが、才人の魔神剣を簡単にかわす
だが、動きに隙が出来ている…それが才人の狙いだった
「いまだ!!!」
才人は一気に駆け出し、男に向かって突進する
これで決める…男の間合いを掴み、デルフを振り上げた
「これで!!」
「……瞬迅槍」
攻撃が当たる直前、男がライフルを突き出してきた
キィンと金属がぶつかる音が聞こえ…気が付けば手にはデルフが無かった
デルフは弾き飛ばされ、弧を描きながら地面に突き刺さる
「敵の意表をついての強襲…中々いい作戦だったが。」
「くっ…うわっ!?」
男は蹴りを放ち、腹部にもろに当たって才人は地面に仰向けに倒れた
すぐに起き上がろうとするが、眼前に銃剣を突きつけられる
「相手の力量を見誤っていたな…チェックメイトだ。」
男が涼しい顔で宣言する…才人の敗北を
その素早さは、一瞬で相手との間合いを詰める
「でやっ!!」
一閃…デルフの峰の部分を男に向かって大きく振り下ろした
並の人間なら一撃で敗れる攻撃だが、男は後ろ向きにままで、横に避ける
「スピードは速いな…だが、それだけだ。」
「ちっ、くそ!!!」
続けてもう一閃…これもまた避けられる
焦った才人は我武者羅にデルフを振り回すが、男はそれを悉く避けた
無駄のない、最小限の動きによる回避である
「全然当たらねぇ。何でだ!?」
「そんな俄仕込みの剣術と焦りでは、当たらないのも当然だ。」
「うるせぇ!!!」
才人が渾身の力で横切りを放つと、急に男が視界から消えた
えっ…と思う才人だが、直後に足に衝撃が走り、視界が反転する
それは男が足払いを仕掛けたからで、才人は地面に倒れる
「くそ…わわっ!?」
悔しがる才人だが、それはすぐに焦りへと変わった
男がライフルを振り上げ、才人を銃剣で突き刺そうとしたからだ
才人は横に転がる事で回避し、すぐに立ち上がる
「だから言ったのに…坊主、お前じゃあいつに敵わねぇぞ。ここらで逃げた方が良いんじゃねーか?」
「才人だ。んな事出来るわけねぇだろ。」
才人はデルフを構えたまま、男の様子を伺う
男は自分から攻めるつもりはないらしく、ライフルを片手に持って立っている
「…あんた、何で撃ってこないんだ?それ、ライフルだろ?」
「騒ぎを大きくすると、後処理が面倒なのでな…それに、弾代が勿体ない。」
相手は本気を出していない…悔しいが、自分はそれ程の相手ではないという事だ
だが、相手が本気を出していない今の内に倒す事が出来れば…
「隙を突けば良いんだろうけど…どうやって隙を付けば…。」
「自分で作り出すって手もあるぜ。例えば相手が見た事のない手を出すとか…。」
デルフの助言を聞いて、才人の頭にある作戦が閃いた
そうだ、アレを使えば少しだけ隙が出来るんじゃないか…
「終わりか?なら、とっとと立ち去れ。今ならこの事は不問にしてやる。」
「んな事出来るかよ…これでも喰らえ!!」
才人は剣を大きく振りかぶり、剣圧を放った…魔神剣だ
男は少しばかり驚いたようだが、才人の魔神剣を簡単にかわす
だが、動きに隙が出来ている…それが才人の狙いだった
「いまだ!!!」
才人は一気に駆け出し、男に向かって突進する
これで決める…男の間合いを掴み、デルフを振り上げた
「これで!!」
「……瞬迅槍」
攻撃が当たる直前、男がライフルを突き出してきた
キィンと金属がぶつかる音が聞こえ…気が付けば手にはデルフが無かった
デルフは弾き飛ばされ、弧を描きながら地面に突き刺さる
「敵の意表をついての強襲…中々いい作戦だったが。」
「くっ…うわっ!?」
男は蹴りを放ち、腹部にもろに当たって才人は地面に仰向けに倒れた
すぐに起き上がろうとするが、眼前に銃剣を突きつけられる
「相手の力量を見誤っていたな…チェックメイトだ。」
男が涼しい顔で宣言する…才人の敗北を
「ま、負けた………。」
自分が負けた事を自覚し、才人はそれ以上の闘志を失った
顔を上げて自分を負かした男を見る…相手は鋭い眼差しと共にライフルを此方に向けている
俺はどうなるんだろう…銃剣で突き刺されるか、弾を撃ち込まれるか
どちらにしろ、これだけやっておいて無事に帰れる筈がない
「(俺、何にも出来なかった…ごめん、シエスタ。)」
心の中でシエスタに謝り、才人は自分の最後を覚悟した
しかし…
「…ヒラガサイトと言ったな。己の愚行に懺悔する暇があるなら、最後の質問に答えてもらうぞ。」
男は引き金を引くことも銃剣を突き刺すことも無く、そう言った
才人が驚いて顔を上げたと同時に、男が最後の質問を口にする
「モット伯が連れてきたシエスタという女…貴様の何なんだ?」
「えっ、シエスタが俺の…。」
「さっさと答えろ、時間はそんなにはやらん。」
引き金に掛けている指が動く…慌てて才人は、自分の意見を率直に伝える
「え、えっと、出会って日は浅いんですけど同じ職場の仲間というか…仕事は全然違うんですけど。」
「知人レベルか…それ位でしかないというのに、お前は危険を冒してまで俺に挑んだのか?」
「だって、こんなのあんまりじゃないですか。シエスタが逆らえない事をいい事に、貴族の力を行使して…。」
才人は理不尽な事が許せない性質だった
貴族だから何をしても良い訳がない、こんなの間違っている…と
その思いが、才人をこうして突き動かしている
「だから、だから俺は……。」
そこまで言うと、才人はそれ以上何も言えなくなった
二人の間に沈黙が流れる…男は相変わらずライフルを構え、才人は動かない
それがしばらく続いた後、急に男がライフルを下ろして歩み寄ってくる
「………貴様の持っている鞘を渡せ。」
説明も無く、突然そう言われたので才人はすぐに対応できなかった
早くしろとの声に、慌てて才人は背中に背負っている鞘を外し、男に差し出す
男は才人から鞘を受け取ると、向こうに地面に突き刺さっているデルフに歩み寄る
手を伸ばすと、地面に突き刺さっていたデルフを引き抜いた
「お前、予想以上に強いな。それにこの感じ、普通の人間とは違う…。」
「お喋りな剣だ…少し黙っていろ。」
「えっ、おい、ちょ……。」
デルフの言葉を無視し、男は鞘にしっかりと刀身を納める
そして、近くの茂みに向かって放り投げ、デルフの姿は見えなくなった
「剣など持ったまま屋敷に入れるわけにはいかんからな…あの剣にはあそこにいてもらうぞ。」
「えっ、それって…。」
「貴様の思いに免じて、モット伯に取り次いでやる…会えるかどうかは保証出来んがな。」
その言葉に、才人はその意味を理解するのに時間が掛かった
やがて、屋敷に入れると解り、急に笑顔になる
「ほ、本当に…ありがとうございます、おじさん。」
「おじさんと呼ぶな、俺の名はリカルド・ソルダートという名がある。」
男、リカルドが訂正するが、そんなの才人にはどうでも良かった
色々あったが結果オーライだ…無茶をしたのは無駄ではなかったのだ
「だがな、ヒラガサイト…一つだけ忠告しておくぞ。」
「はい?」
そんな才人の思いを見透かしたかのように、再度リカルドは口を開く
「貴様の行動は無謀すぎる…何時までもそれでは、何時か命を落とす事になるぞ。」
それだけだ…そう言うと、リカルドは屋敷の方に向かって歩き出した
遅れないよう、才人は早足でその後に続く
この時、シエスタの事しか考えてない才人はリカルドの言葉を深く考える事は無かった
自分が負けた事を自覚し、才人はそれ以上の闘志を失った
顔を上げて自分を負かした男を見る…相手は鋭い眼差しと共にライフルを此方に向けている
俺はどうなるんだろう…銃剣で突き刺されるか、弾を撃ち込まれるか
どちらにしろ、これだけやっておいて無事に帰れる筈がない
「(俺、何にも出来なかった…ごめん、シエスタ。)」
心の中でシエスタに謝り、才人は自分の最後を覚悟した
しかし…
「…ヒラガサイトと言ったな。己の愚行に懺悔する暇があるなら、最後の質問に答えてもらうぞ。」
男は引き金を引くことも銃剣を突き刺すことも無く、そう言った
才人が驚いて顔を上げたと同時に、男が最後の質問を口にする
「モット伯が連れてきたシエスタという女…貴様の何なんだ?」
「えっ、シエスタが俺の…。」
「さっさと答えろ、時間はそんなにはやらん。」
引き金に掛けている指が動く…慌てて才人は、自分の意見を率直に伝える
「え、えっと、出会って日は浅いんですけど同じ職場の仲間というか…仕事は全然違うんですけど。」
「知人レベルか…それ位でしかないというのに、お前は危険を冒してまで俺に挑んだのか?」
「だって、こんなのあんまりじゃないですか。シエスタが逆らえない事をいい事に、貴族の力を行使して…。」
才人は理不尽な事が許せない性質だった
貴族だから何をしても良い訳がない、こんなの間違っている…と
その思いが、才人をこうして突き動かしている
「だから、だから俺は……。」
そこまで言うと、才人はそれ以上何も言えなくなった
二人の間に沈黙が流れる…男は相変わらずライフルを構え、才人は動かない
それがしばらく続いた後、急に男がライフルを下ろして歩み寄ってくる
「………貴様の持っている鞘を渡せ。」
説明も無く、突然そう言われたので才人はすぐに対応できなかった
早くしろとの声に、慌てて才人は背中に背負っている鞘を外し、男に差し出す
男は才人から鞘を受け取ると、向こうに地面に突き刺さっているデルフに歩み寄る
手を伸ばすと、地面に突き刺さっていたデルフを引き抜いた
「お前、予想以上に強いな。それにこの感じ、普通の人間とは違う…。」
「お喋りな剣だ…少し黙っていろ。」
「えっ、おい、ちょ……。」
デルフの言葉を無視し、男は鞘にしっかりと刀身を納める
そして、近くの茂みに向かって放り投げ、デルフの姿は見えなくなった
「剣など持ったまま屋敷に入れるわけにはいかんからな…あの剣にはあそこにいてもらうぞ。」
「えっ、それって…。」
「貴様の思いに免じて、モット伯に取り次いでやる…会えるかどうかは保証出来んがな。」
その言葉に、才人はその意味を理解するのに時間が掛かった
やがて、屋敷に入れると解り、急に笑顔になる
「ほ、本当に…ありがとうございます、おじさん。」
「おじさんと呼ぶな、俺の名はリカルド・ソルダートという名がある。」
男、リカルドが訂正するが、そんなの才人にはどうでも良かった
色々あったが結果オーライだ…無茶をしたのは無駄ではなかったのだ
「だがな、ヒラガサイト…一つだけ忠告しておくぞ。」
「はい?」
そんな才人の思いを見透かしたかのように、再度リカルドは口を開く
「貴様の行動は無謀すぎる…何時までもそれでは、何時か命を落とす事になるぞ。」
それだけだ…そう言うと、リカルドは屋敷の方に向かって歩き出した
遅れないよう、才人は早足でその後に続く
この時、シエスタの事しか考えてない才人はリカルドの言葉を深く考える事は無かった
それから…リカルドの進言もあって才人はモット伯に会える事になった
屋敷の中をリカルドの後を追って、モット伯の部屋へと向かう
「それにしても…何だか凄い警備ですね。」
此処に来るまでの間、何人もの武装した兵士達を見かけた
館の周りには、羽を生やした犬のような番犬が何匹もいたし…
「土くれのフーケがモット伯の宝を狙っているらしいからな…警戒が厳重になっている。」
「そう言えば、さっきも言ってたけど土くれのフーケって?」
「最近世間を騒がせているらしいこそ泥だ…貴族専門に盗みを働くと聞く。」
リカルドは傭兵として、モット伯に雇われて屋敷の警護をしていたらしい
そういう事情だったのか…大変な時に着ちゃったなと才人は思った
「ついたぞ、此処だ。」
やがて、二人は奥の部屋の前へと到着した
リカルドがドアをノックすると、奥から「入れ」と男の声が聞こえてきた
そして扉を開け…中に入ると、そこには二人の人間がいた
「貴様か、私に会いたいという平民は?」
一人は中年の男性で、自身が貴族である事を言っているような衣装をしており、杖を持っている
それに左手には、海の色をした宝石がついた指輪を嵌めている
この男がモット伯だ…もう一人は、そのモット伯の隣にいる
「シエスタ!?」
「サイトさん、どうしで此処に!?」
シエスタだった…学院のメイド服ではなく、この屋敷の物であろう赤いメイド服を着ている
そのシエスタは、才人が此処に来た事に驚いていた
「シエスタの知り合いだそうだが…こんな時間に平民が面会とは、何用で此処に…。」
「お願いします、シエスタを学院に返してください。」
モット伯が言い終える前に、才人がモット伯に向かって頼み込んだ
しかし、頼み方が不味かったらしく、モット伯は眉をひそめる
「無礼だぞ、貴様。リカルドが進言したので会ってやったというのに、いきなり私に頼みこむとは。」
「お願いします、シエスタを学院に返してくれるなら俺なんでもします、だから…。」
この機会を無くせば、もう二度とこんなチャンスは来ない
一歩も下がらずに、才人は必死になって頼み込んだ
「(サイトさん…私の為に…。)」
そんな才人の姿を、シエスタは悲痛な想いで見つめる
別れが辛くなるからと、彼には何も言わずに学院を去ったというのに
私の為に、才人さんは此処まで来て一生懸命頭を下げている…
「(ああ、神様……。)」
シエスタは胸につけている黒の宝石を握った…それは才人から貰ったブラックオニキスだ
ヒルダから言われたように肌身離さず付けているその宝石を手に、シエスタは祈った
私はこのままでも構いません、でも才人さんが何事も無く帰れますように…と
しばらく、沈黙が続く…その沈黙を最初に破ったのは、モット伯だった
「ふむ、何でもするとな…確かお前はシエスタと同じ学院に勤めているのだそうだな。」
「えっ…はい、まあ。」
モット伯は笑みを浮かべると、壁際にある本棚へ向かった
かなりの蔵書量で、幾つもの本が並べられている
「私は珍しい本のコレクションが趣味でね、例えばこの本などは…。」
「伯爵、用件は率直に言えばよろしいかと?」
「うん、そうか?残念だな、この本の素晴らしさを語れんのは。」
モット伯が本の薀蓄について語ろうとするのを、リカルドが阻止する
ただの傭兵にしては、リカルドは結構発言力があるらしい
気を取り直して、モット伯は本題に入る
「それで、私には欲してやまない本がある…『召喚されし書物』だ。』
「召喚されし書物?」
何処かで聞いたような…才人が記憶を辿ろうとする前に、モット伯が続きを喋る
「ある魔法使いが魔法の実験中に偶然呼び出したものらしいが…今はゲルマニアのツェルプストー家が家宝にしていると聞く。」
「ツェルプストーって……ああ、あれか!?」
才人は大声を出しながら、本の正体が解った
王都に行く前の夜、キュルケがクラースに差し出そうとしたあの本だと
屋敷の中をリカルドの後を追って、モット伯の部屋へと向かう
「それにしても…何だか凄い警備ですね。」
此処に来るまでの間、何人もの武装した兵士達を見かけた
館の周りには、羽を生やした犬のような番犬が何匹もいたし…
「土くれのフーケがモット伯の宝を狙っているらしいからな…警戒が厳重になっている。」
「そう言えば、さっきも言ってたけど土くれのフーケって?」
「最近世間を騒がせているらしいこそ泥だ…貴族専門に盗みを働くと聞く。」
リカルドは傭兵として、モット伯に雇われて屋敷の警護をしていたらしい
そういう事情だったのか…大変な時に着ちゃったなと才人は思った
「ついたぞ、此処だ。」
やがて、二人は奥の部屋の前へと到着した
リカルドがドアをノックすると、奥から「入れ」と男の声が聞こえてきた
そして扉を開け…中に入ると、そこには二人の人間がいた
「貴様か、私に会いたいという平民は?」
一人は中年の男性で、自身が貴族である事を言っているような衣装をしており、杖を持っている
それに左手には、海の色をした宝石がついた指輪を嵌めている
この男がモット伯だ…もう一人は、そのモット伯の隣にいる
「シエスタ!?」
「サイトさん、どうしで此処に!?」
シエスタだった…学院のメイド服ではなく、この屋敷の物であろう赤いメイド服を着ている
そのシエスタは、才人が此処に来た事に驚いていた
「シエスタの知り合いだそうだが…こんな時間に平民が面会とは、何用で此処に…。」
「お願いします、シエスタを学院に返してください。」
モット伯が言い終える前に、才人がモット伯に向かって頼み込んだ
しかし、頼み方が不味かったらしく、モット伯は眉をひそめる
「無礼だぞ、貴様。リカルドが進言したので会ってやったというのに、いきなり私に頼みこむとは。」
「お願いします、シエスタを学院に返してくれるなら俺なんでもします、だから…。」
この機会を無くせば、もう二度とこんなチャンスは来ない
一歩も下がらずに、才人は必死になって頼み込んだ
「(サイトさん…私の為に…。)」
そんな才人の姿を、シエスタは悲痛な想いで見つめる
別れが辛くなるからと、彼には何も言わずに学院を去ったというのに
私の為に、才人さんは此処まで来て一生懸命頭を下げている…
「(ああ、神様……。)」
シエスタは胸につけている黒の宝石を握った…それは才人から貰ったブラックオニキスだ
ヒルダから言われたように肌身離さず付けているその宝石を手に、シエスタは祈った
私はこのままでも構いません、でも才人さんが何事も無く帰れますように…と
しばらく、沈黙が続く…その沈黙を最初に破ったのは、モット伯だった
「ふむ、何でもするとな…確かお前はシエスタと同じ学院に勤めているのだそうだな。」
「えっ…はい、まあ。」
モット伯は笑みを浮かべると、壁際にある本棚へ向かった
かなりの蔵書量で、幾つもの本が並べられている
「私は珍しい本のコレクションが趣味でね、例えばこの本などは…。」
「伯爵、用件は率直に言えばよろしいかと?」
「うん、そうか?残念だな、この本の素晴らしさを語れんのは。」
モット伯が本の薀蓄について語ろうとするのを、リカルドが阻止する
ただの傭兵にしては、リカルドは結構発言力があるらしい
気を取り直して、モット伯は本題に入る
「それで、私には欲してやまない本がある…『召喚されし書物』だ。』
「召喚されし書物?」
何処かで聞いたような…才人が記憶を辿ろうとする前に、モット伯が続きを喋る
「ある魔法使いが魔法の実験中に偶然呼び出したものらしいが…今はゲルマニアのツェルプストー家が家宝にしていると聞く。」
「ツェルプストーって……ああ、あれか!?」
才人は大声を出しながら、本の正体が解った
王都に行く前の夜、キュルケがクラースに差し出そうとしたあの本だと
「知っているなら話が早い…召喚されし書物をもって来る事、それが交換条件だ。」
「よりによって、キュルケが持ってる本を持って来い…かよ。」
その後、学院までの道を走る才人の姿があった
キュルケの持っている召喚されし書物を手に入れる為に
「早くした方が良いんじゃねーか?貴族の気は変わりやすいっていうしな。」
「解ってるよ、そんなの。」
デルフにそう答え、才人はもっと早く走る
キュルケが易々と本をくれるだろうか、本を渡して本当にシエスタが帰ってくるのか…
上手くいくとは限らないが、折角掴んだチャンスだ、絶対に逃さない
そんな想いで走り続けていると、向こうから馬が走ってくる音が聞こえてきた
「ん、何だ…馬?」
「才人!!!」
此方から馬の姿が見えたと同時に、自分を呼ぶ声も聞こえてきた
馬には当然人が乗っているのだが、その搭乗者はクラースだった
「あっ、クラースさん!?」
「才人、無事だったか。」
学院の馬を借り、クラースは急いでモット伯の屋敷へと向かう途中だった
馬を落ち着かせると、クラースは降りて才人の下へと駆け寄る
「クラースさん、聞いてくださいよ。俺シエスタの為に…。」
才人がクラースにモット伯邸での事を報告しようとした矢先、突然頬に衝撃が走った
突然の事に対処が出来ず、才人はその場に尻餅をついてしまった
最初何があったか解らなかったが、やがて自分がクラースにぶたれた事に気付いた
「クラースさん?」
「この馬鹿、あれ程無茶をするなと言ったのに!!」
クラースは怒っていた…此処まで才人が考えなしに無茶をしたのだから
「それに、デルフを勝手に持ち出して…お前の耳は唯の飾りか、何の為にああも言い含めたと思っているんだ!?」
「で、でも、その無茶のお陰でシエスタが帰って来られるかもしれないんですよ?」
才人の言葉にクラースは才人の首元を掴み、無理やり立ち上がらせた
服が破けそうな勢いだったが、クラースは構わず言葉を続ける
「だからこれで良かったと本気で思っているのか?なら、私は君を軽蔑するぞ。」
「クラースさん………。」
クラースがこんなに怒ったのは初めてだった…その怒りの目が自分に向けられる事も
その様子に才人は何も言えなくなり、恐怖さえ感じた
しばらくしてクラースは首元から手を離し、その拍子に才人は地面にぺたんと再び尻餅をついた
「…なぁ、才人。私には責任があるんだ…君を召喚し、このような目に合わせてしまった責任が。」
クラースも地面に座り込み、同じ目線で才人に語りかける
先程のように怒りを含まず、落ち着いた口調だ
「だから、私は帰る方法を見つけなければならない…最悪、君だけでも元の世界に帰したい。」
「………。」
「だが、その前に君に万一の事があれば…私は君のご両親に何と言えば良いんだ?」
そうだった…この人は俺の為に、色々と手を尽くしてくれているんだ
なのに、俺はクラースさんに迷惑を掛けて…心配掛けさせて…
「ごめんなさい、クラースさん……ごめんなさい…。」
クラースの思いを知り、気付けば才人は涙を流していた
涙を流しながら謝り、それを聞いたクラースはポンと才人の頭の上に手を置く
「解れば良い…今度からは一人で勝手にこんな無茶はしないでくれよ。」
「…はい。」
「やれやれ、一時はどうなるかと思ったが、何とかなったみてぇだな。」
涙を拭う才人の背中で、デルフが一安心する
「デルフ…そもそもお前が才人の事をちゃんと止めてくれればよかったんだぞ。」
「俺は剣だからな…言葉は喋れても使い手を止めるってのはちょっと無理だな。」
「全く…まあいい、それよりモット伯の屋敷で何があったのか、報告を聞こう。」
クラースの言葉に、才人は改めてモット伯邸で何があったのかを話し始めた
その後、学院までの道を走る才人の姿があった
キュルケの持っている召喚されし書物を手に入れる為に
「早くした方が良いんじゃねーか?貴族の気は変わりやすいっていうしな。」
「解ってるよ、そんなの。」
デルフにそう答え、才人はもっと早く走る
キュルケが易々と本をくれるだろうか、本を渡して本当にシエスタが帰ってくるのか…
上手くいくとは限らないが、折角掴んだチャンスだ、絶対に逃さない
そんな想いで走り続けていると、向こうから馬が走ってくる音が聞こえてきた
「ん、何だ…馬?」
「才人!!!」
此方から馬の姿が見えたと同時に、自分を呼ぶ声も聞こえてきた
馬には当然人が乗っているのだが、その搭乗者はクラースだった
「あっ、クラースさん!?」
「才人、無事だったか。」
学院の馬を借り、クラースは急いでモット伯の屋敷へと向かう途中だった
馬を落ち着かせると、クラースは降りて才人の下へと駆け寄る
「クラースさん、聞いてくださいよ。俺シエスタの為に…。」
才人がクラースにモット伯邸での事を報告しようとした矢先、突然頬に衝撃が走った
突然の事に対処が出来ず、才人はその場に尻餅をついてしまった
最初何があったか解らなかったが、やがて自分がクラースにぶたれた事に気付いた
「クラースさん?」
「この馬鹿、あれ程無茶をするなと言ったのに!!」
クラースは怒っていた…此処まで才人が考えなしに無茶をしたのだから
「それに、デルフを勝手に持ち出して…お前の耳は唯の飾りか、何の為にああも言い含めたと思っているんだ!?」
「で、でも、その無茶のお陰でシエスタが帰って来られるかもしれないんですよ?」
才人の言葉にクラースは才人の首元を掴み、無理やり立ち上がらせた
服が破けそうな勢いだったが、クラースは構わず言葉を続ける
「だからこれで良かったと本気で思っているのか?なら、私は君を軽蔑するぞ。」
「クラースさん………。」
クラースがこんなに怒ったのは初めてだった…その怒りの目が自分に向けられる事も
その様子に才人は何も言えなくなり、恐怖さえ感じた
しばらくしてクラースは首元から手を離し、その拍子に才人は地面にぺたんと再び尻餅をついた
「…なぁ、才人。私には責任があるんだ…君を召喚し、このような目に合わせてしまった責任が。」
クラースも地面に座り込み、同じ目線で才人に語りかける
先程のように怒りを含まず、落ち着いた口調だ
「だから、私は帰る方法を見つけなければならない…最悪、君だけでも元の世界に帰したい。」
「………。」
「だが、その前に君に万一の事があれば…私は君のご両親に何と言えば良いんだ?」
そうだった…この人は俺の為に、色々と手を尽くしてくれているんだ
なのに、俺はクラースさんに迷惑を掛けて…心配掛けさせて…
「ごめんなさい、クラースさん……ごめんなさい…。」
クラースの思いを知り、気付けば才人は涙を流していた
涙を流しながら謝り、それを聞いたクラースはポンと才人の頭の上に手を置く
「解れば良い…今度からは一人で勝手にこんな無茶はしないでくれよ。」
「…はい。」
「やれやれ、一時はどうなるかと思ったが、何とかなったみてぇだな。」
涙を拭う才人の背中で、デルフが一安心する
「デルフ…そもそもお前が才人の事をちゃんと止めてくれればよかったんだぞ。」
「俺は剣だからな…言葉は喋れても使い手を止めるってのはちょっと無理だな。」
「全く…まあいい、それよりモット伯の屋敷で何があったのか、報告を聞こう。」
クラースの言葉に、才人は改めてモット伯邸で何があったのかを話し始めた
「…あっ、帰ってきた。」
魔法学院の門前…そこにルイズとキュルケの姿があった
クラースが飛び出してしまった後、此処で彼が帰ってくるのを待っていたのだ
そして今、クラースは才人を乗せて帰ってきた
「クラース先生、それに才人も…無事だったのね。」
事情はルイズから聞いていたキュルケは、二人が無事帰ってきた事に安堵した
二人が馬から降りると、真っ先にルイズが駆け寄ってくる
「この馬鹿犬、モット伯の屋敷乗り込むなんて何やってんのよ!?」
「ルイズ……ごめん。」
「ごめん、で済む問題じゃないでしょ!!!」
才人の行いにはルイズも怒っていた…謝る才人に、ルイズは手を上げようとする
敢えてそれを受けようとする才人…しかし、その手はクラースが間に入って止めた
「私がちゃんと言っておいたからな…それ以上は止めておいてやってくれ。」
「先生は甘いわ。主の言葉を守らない使い魔はキチンと御仕置きを…。」
そう言ってもう一度才人を見ると、彼の頬が赤くなっている事に気付いた
クラースの言葉が嘘ではない事が解ると、ルイズは手を引っ込める
「…まあ、クラース先生に免じて、私からのお仕置きは保留にしといてあげるわ。」
「すまんな…所でキュルケ、折り入って話があるんだが…。」
「私?」
クラースは才人から聞いたモット伯からの条件を、キュルケに話した
「………というわけで、すまんがあの本を渡してくれないだろうか?」
「あの本を…うーん、どうしようかしら?」
クラースの頼みに、キュルケは少し意地悪な笑みを浮かべる
すぐに返答を返さず、こうした態度を取るのが彼女の悪い癖である
「頼むよ、キュルケ…あの本がないとシエスタが…。」
「……嘘よ、そんな顔しないで。人助けだと思って貴方達にあげるわ。」
才人があまりに情けない顔で頼んだので、クスクス笑いながらそう答える
「すまんな、君の家の家宝を二つも貰う事になってしまって…。」
「気にしなくても良いですわ、どっちも私には不要なものですし。」
今すぐ取ってきますわ、そう言ってキュルケは女子寮の方へと向かった
十数分後、あのケースを抱えたキュルケが戻ってくる
「はい、どうぞ…それと鍵もね。」
「感謝する。」
差し出された『召喚されし書物』とその鍵をクラースが受け取る
クラースの横で、才人が珍しい物を見る目で見つめる
「あのヒヒ親父が欲しがる本か…一体どんな本なんだ?」
「確か男性の欲情をかき立てる効果があるらしいけど…何なら見てみる?」
「良いのか…なら、少しばかり拝見させて貰おうか。」
キュルケの言葉に、クラース自身も中身は気になっていたので鍵をケースに差し込んだ
鍵を開け、ケースを開くと中には一冊の本が入っていたのだが…
「なっ、これは…。」
「これが召喚されし書物って…マジかよ!?」
中身を確認し、才人とクラースは顔を見合わせる
本の中身は、二人が予想だにしないもので、二人が良く知っている物だったからだ
「…キュルケ、中身はこれで間違いないんだな。」
「ええ、そうですわよ。それが召喚されし書物ですわ。」
「ふむ…色々言いたい事はあるが、先にこれをモット伯に届けるか。」
召喚されし書物をケースに戻し、再び鍵を掛ける
クラースは再び馬に跨り、才人もその後ろに跨る
「では、ルイズ、キュルケ…行ってくる。」
「早く帰ってきなさいよ。」
「期待通りの成果が出る事を祈っていますわ。」
クラースは馬を走らせ、才人と共に再びモット伯の屋敷へと向かう
その姿を、見えなくなるまでルイズとキュルケは見送った
魔法学院の門前…そこにルイズとキュルケの姿があった
クラースが飛び出してしまった後、此処で彼が帰ってくるのを待っていたのだ
そして今、クラースは才人を乗せて帰ってきた
「クラース先生、それに才人も…無事だったのね。」
事情はルイズから聞いていたキュルケは、二人が無事帰ってきた事に安堵した
二人が馬から降りると、真っ先にルイズが駆け寄ってくる
「この馬鹿犬、モット伯の屋敷乗り込むなんて何やってんのよ!?」
「ルイズ……ごめん。」
「ごめん、で済む問題じゃないでしょ!!!」
才人の行いにはルイズも怒っていた…謝る才人に、ルイズは手を上げようとする
敢えてそれを受けようとする才人…しかし、その手はクラースが間に入って止めた
「私がちゃんと言っておいたからな…それ以上は止めておいてやってくれ。」
「先生は甘いわ。主の言葉を守らない使い魔はキチンと御仕置きを…。」
そう言ってもう一度才人を見ると、彼の頬が赤くなっている事に気付いた
クラースの言葉が嘘ではない事が解ると、ルイズは手を引っ込める
「…まあ、クラース先生に免じて、私からのお仕置きは保留にしといてあげるわ。」
「すまんな…所でキュルケ、折り入って話があるんだが…。」
「私?」
クラースは才人から聞いたモット伯からの条件を、キュルケに話した
「………というわけで、すまんがあの本を渡してくれないだろうか?」
「あの本を…うーん、どうしようかしら?」
クラースの頼みに、キュルケは少し意地悪な笑みを浮かべる
すぐに返答を返さず、こうした態度を取るのが彼女の悪い癖である
「頼むよ、キュルケ…あの本がないとシエスタが…。」
「……嘘よ、そんな顔しないで。人助けだと思って貴方達にあげるわ。」
才人があまりに情けない顔で頼んだので、クスクス笑いながらそう答える
「すまんな、君の家の家宝を二つも貰う事になってしまって…。」
「気にしなくても良いですわ、どっちも私には不要なものですし。」
今すぐ取ってきますわ、そう言ってキュルケは女子寮の方へと向かった
十数分後、あのケースを抱えたキュルケが戻ってくる
「はい、どうぞ…それと鍵もね。」
「感謝する。」
差し出された『召喚されし書物』とその鍵をクラースが受け取る
クラースの横で、才人が珍しい物を見る目で見つめる
「あのヒヒ親父が欲しがる本か…一体どんな本なんだ?」
「確か男性の欲情をかき立てる効果があるらしいけど…何なら見てみる?」
「良いのか…なら、少しばかり拝見させて貰おうか。」
キュルケの言葉に、クラース自身も中身は気になっていたので鍵をケースに差し込んだ
鍵を開け、ケースを開くと中には一冊の本が入っていたのだが…
「なっ、これは…。」
「これが召喚されし書物って…マジかよ!?」
中身を確認し、才人とクラースは顔を見合わせる
本の中身は、二人が予想だにしないもので、二人が良く知っている物だったからだ
「…キュルケ、中身はこれで間違いないんだな。」
「ええ、そうですわよ。それが召喚されし書物ですわ。」
「ふむ…色々言いたい事はあるが、先にこれをモット伯に届けるか。」
召喚されし書物をケースに戻し、再び鍵を掛ける
クラースは再び馬に跨り、才人もその後ろに跨る
「では、ルイズ、キュルケ…行ってくる。」
「早く帰ってきなさいよ。」
「期待通りの成果が出る事を祈っていますわ。」
クラースは馬を走らせ、才人と共に再びモット伯の屋敷へと向かう
その姿を、見えなくなるまでルイズとキュルケは見送った
「………。」
モット伯の屋敷の前には、門番をするリカルドの姿があった
煙草を吸いながら、空に浮かぶ二つの月を見る
「ふぅ…あのガキ、上手くやってくれるだろうな?」
煙を吐きながら、才人の動向を気にするリカルド
煙草の煙で、二つの月が曇ったように見える
「………来たようだな。」
向こうから馬の走る音が聞こえてくる…リカルドは煙草を地面に捨てて踏み潰した
丁度その時、クラースと才人を乗せた馬が彼の前に止まる
「早かったな…その様子だと、上手くやったようだな。」
「リカルドさん。」
二人は馬から下りると、リカルドの元へと歩み寄った
ライフルを肩に携えながら、リカルドは才人の隣にいるクラースを見る
「一人増えてるな…あんたは?」
「人の名を尋ねる前に、まずは自分の名を名乗るのが礼儀ではないか?」
「ふっ、これは失礼した…俺はリカルド・ソルダート、モット伯に雇われた傭兵だ。」
「私はクラース・F・レスター…家の才人が世話になった事、感謝している。」
初対面の二人は、簡単に自己紹介を行う
律儀に挨拶する二人にある意味才人は感心する。
「礼なら良い…そいつが上手くやったお陰でこっちは賭けに勝てたからな。」
「賭け?」
「貴様が上手くやれるか、警備の奴らと賭けをした…俺以外は全員失敗に賭けたがな。」
才人は目を丸くした…自分の必死の行動を賭けの対象にされた事に
そして、その事に怒った才人はリカルドを非難した
「ちょっと、俺の苦労を賭けの対象にするなんて、酷くないですか?」
「悪いな、こっちで色々やってく為には金が必要なんでな…貴様には一応感謝している。」
今度、機会があれば奢ってやる…と、怒っている才人をリカルドは宥めた
無駄話は此処までにして、そろそろ話は本題に入る
「で、問題のブツは何処だ?」
「ああ、此処にある。」
クラースは懐に入れていた召喚されし書物と鍵をリカルドに渡した
彼はそれを受け取ると、軽く確認を取る
「ふむ、これが…確かに持ってきた事は確認した、モット伯の所に案内しよう。」
「本当にシエスタを帰してくれるんですよね?」
「さあ、それは伯爵様次第だな…だが、あの男はそれなりに約束を守るから大丈夫だろう。」
そう言うと、リカルドは確認した召喚されし書物をクラースに返す
こうして、リカルドが二人を案内しようとした…その時だった
突然、予告もなく轟音が鳴り響き、三人を赤い光が照らした
「な、何だ!?」
音がした方を見ると、モット伯の屋敷から煙が上がっているのが見えた
続いて、二度目の爆発が起こる…屋敷の方も慌しくなっていく
突然の事に才人達は動きが止まっていたが、すぐにリカルドが口を開く
「ちっ、敵襲か…土くれのフーケの仕業か?」
館の方を苦々しく見つめるリカルド…傭兵として、敵襲を許した自分に腹を立てる
同じく煙の昇る館を見つめる才人は、焦燥に駆られる
「屋敷が…シエスタが危ない。」
「あ、おい、才人…一人では危険だ。」
才人はクラースの制止も聞かず、屋敷に向かって走り出した
無茶をするなと言ったのに…仕方なしにクラースもその後を追う
「本当に無謀な奴だな…だが、俺も此処で門番をやっている場合ではないようだな。」
リカルドは持っているライフルを調整し、すぐに戦闘準備を整える
先に行った二人を追って、彼も館の方へ走っていった
モット伯の屋敷の前には、門番をするリカルドの姿があった
煙草を吸いながら、空に浮かぶ二つの月を見る
「ふぅ…あのガキ、上手くやってくれるだろうな?」
煙を吐きながら、才人の動向を気にするリカルド
煙草の煙で、二つの月が曇ったように見える
「………来たようだな。」
向こうから馬の走る音が聞こえてくる…リカルドは煙草を地面に捨てて踏み潰した
丁度その時、クラースと才人を乗せた馬が彼の前に止まる
「早かったな…その様子だと、上手くやったようだな。」
「リカルドさん。」
二人は馬から下りると、リカルドの元へと歩み寄った
ライフルを肩に携えながら、リカルドは才人の隣にいるクラースを見る
「一人増えてるな…あんたは?」
「人の名を尋ねる前に、まずは自分の名を名乗るのが礼儀ではないか?」
「ふっ、これは失礼した…俺はリカルド・ソルダート、モット伯に雇われた傭兵だ。」
「私はクラース・F・レスター…家の才人が世話になった事、感謝している。」
初対面の二人は、簡単に自己紹介を行う
律儀に挨拶する二人にある意味才人は感心する。
「礼なら良い…そいつが上手くやったお陰でこっちは賭けに勝てたからな。」
「賭け?」
「貴様が上手くやれるか、警備の奴らと賭けをした…俺以外は全員失敗に賭けたがな。」
才人は目を丸くした…自分の必死の行動を賭けの対象にされた事に
そして、その事に怒った才人はリカルドを非難した
「ちょっと、俺の苦労を賭けの対象にするなんて、酷くないですか?」
「悪いな、こっちで色々やってく為には金が必要なんでな…貴様には一応感謝している。」
今度、機会があれば奢ってやる…と、怒っている才人をリカルドは宥めた
無駄話は此処までにして、そろそろ話は本題に入る
「で、問題のブツは何処だ?」
「ああ、此処にある。」
クラースは懐に入れていた召喚されし書物と鍵をリカルドに渡した
彼はそれを受け取ると、軽く確認を取る
「ふむ、これが…確かに持ってきた事は確認した、モット伯の所に案内しよう。」
「本当にシエスタを帰してくれるんですよね?」
「さあ、それは伯爵様次第だな…だが、あの男はそれなりに約束を守るから大丈夫だろう。」
そう言うと、リカルドは確認した召喚されし書物をクラースに返す
こうして、リカルドが二人を案内しようとした…その時だった
突然、予告もなく轟音が鳴り響き、三人を赤い光が照らした
「な、何だ!?」
音がした方を見ると、モット伯の屋敷から煙が上がっているのが見えた
続いて、二度目の爆発が起こる…屋敷の方も慌しくなっていく
突然の事に才人達は動きが止まっていたが、すぐにリカルドが口を開く
「ちっ、敵襲か…土くれのフーケの仕業か?」
館の方を苦々しく見つめるリカルド…傭兵として、敵襲を許した自分に腹を立てる
同じく煙の昇る館を見つめる才人は、焦燥に駆られる
「屋敷が…シエスタが危ない。」
「あ、おい、才人…一人では危険だ。」
才人はクラースの制止も聞かず、屋敷に向かって走り出した
無茶をするなと言ったのに…仕方なしにクラースもその後を追う
「本当に無謀な奴だな…だが、俺も此処で門番をやっている場合ではないようだな。」
リカルドは持っているライフルを調整し、すぐに戦闘準備を整える
先に行った二人を追って、彼も館の方へ走っていった