サモン・サーヴァントとは、メイジが一生の内に使えるために契約する使い魔を呼び出す神聖な儀式だ。神聖な事から、よほどの事が無い限り、やり直すなんてことはあってはならない。一度契約すれば主人が死ぬまでお仕えする事を破ることは出来ない。それでも、この結果は、あんまりではないか。
同級生が様々な使い魔を呼び出す中、ついに最後となった、メイジであるルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが呼び出した使い魔は、目の前で倒れている、一人の少女だった。
由緒正しき家筋の出のルイズが呼び出したのが、目の前の白衣で体を覆われ、被っていたであろう黒い帽子を地面に転がしている少女だ。杖らしきものは周りに見当たらない。マントも見えない。少女は平民だった。
これは悪夢なのか。否、これは現実である。それは、周りの同級生たちと一人の男性教諭からの冷たい視線を後ろから突き刺さる感触が生々しくて、現実以外に考えられない。
同級生が様々な使い魔を呼び出す中、ついに最後となった、メイジであるルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが呼び出した使い魔は、目の前で倒れている、一人の少女だった。
由緒正しき家筋の出のルイズが呼び出したのが、目の前の白衣で体を覆われ、被っていたであろう黒い帽子を地面に転がしている少女だ。杖らしきものは周りに見当たらない。マントも見えない。少女は平民だった。
これは悪夢なのか。否、これは現実である。それは、周りの同級生たちと一人の男性教諭からの冷たい視線を後ろから突き刺さる感触が生々しくて、現実以外に考えられない。
「……ミス・ヴァリエール。これは」
口を閉ざしていた男性教諭『ミスタ・コルベール』が口を開く。無理もないだろう。なにせ、人間を、それも『平民』をサモン・サーヴァントという人生の一大イベントの一つを担うこの場で呼び寄せてしまったのだから。
「ミスタ・コルベール。やり直させてください!」
頭が認識するよりも早くルイズはコルベールに懇願した。こんな異例な事態。いくら神聖な儀式とはいえ、やり直すことは出来るかもしれない。いや、出来る。そう考えなければ、再活動を始めた頭が再びフリーズしてしまい、壊れてしまいそうだった。しかし、コルベールはルイズの予想した言葉を発さなかった。
コルベールはルイズの横をすり抜けて、真っ先にルイズが呼び出した白衣姿の少女の元へ走り寄ったのだ。いったいどうしたのだ。ルイズの後ろに回ったコルベールへ向く。コルベールは倒れている少女の前で座っていると、あろうことか少女が着ている白衣を無理やり脱がしたのだ。いくら平民とはいえ、教諭が何をしているのか。ルイズは頭に血が上るのを直に感じ、怒鳴る。怒鳴ろうとする。しかし、それよりも早くにコルベールの言葉が、辺りに響くほどの大きさで紡がれた。
コルベールはルイズの横をすり抜けて、真っ先にルイズが呼び出した白衣姿の少女の元へ走り寄ったのだ。いったいどうしたのだ。ルイズの後ろに回ったコルベールへ向く。コルベールは倒れている少女の前で座っていると、あろうことか少女が着ている白衣を無理やり脱がしたのだ。いくら平民とはいえ、教諭が何をしているのか。ルイズは頭に血が上るのを直に感じ、怒鳴る。怒鳴ろうとする。しかし、それよりも早くにコルベールの言葉が、辺りに響くほどの大きさで紡がれた。
「今日の『春の使い魔召喚の儀式』は終了とします! 直ちに水のメイジは集合してください! それ以外は速やかに寮へ戻りなさい!」
こちらに向かってしゃべったコルベールの顔には、何処か焦りが見えていたように感じた。
幼い頃、魔法少女に憧れていた。可愛く、可憐で、美しくて、優しくて、困っている人の力になって、時には危険な目にも合っちゃうけど、それでも、やっぱり『みっちゃん』は魔法少女に憧れていた。
現在、みっちゃんは魔法少女に憧れる事がなくなった。なにせ、もう既に自分は『物知りみっちゃん』という魔法少女になってしまったのだから。それでも、こんなのは、幼い時に憧れていた魔法少女とは大きく違う。
異世界の『魔法の国』から魔法少女の力を授かり、『人事部門』の『汚れ仕事』をして生計を立て、毎日見るのはみっちゃんが殺した魔法使いか魔法少女の死体。こんなのは、とてもみっちゃんが描いていた魔法少女とは、百八十度違った。それでも、やり直すことなんで出来なかった。もう遅いからだ。
最後にみっちゃんの死地となった場所は、あの周りが田んぼに囲まれた畦道だ。『魔法の国』の三大派閥の内の一つの『プク派』の動向をいつも共に行動していたチームとは外れて観察していた時だった。あの『忍者モチーフの魔法少女』に襲われたのは。
『投げたものが百発百中』の魔法を持つと予想された魔法少女は玄人だった。殺意だけを向けられて、みっちゃんはそれに『魔法』を使って返した。
苦無を投げられれば、大岩や板で防ぎ、刀が振るわれればガトリング砲で弾いたりと、何とかしのいでいった。それでも、詰めが甘かった。
忍者に止めを刺そうとし、それが『忍者の策略』に陥ったことで状況は反転。最後にみっちゃんが意識を失う前にみた光景は、忍者の刀がみっちゃんの体に突き立てられようとする直前だった。
現在、みっちゃんは魔法少女に憧れる事がなくなった。なにせ、もう既に自分は『物知りみっちゃん』という魔法少女になってしまったのだから。それでも、こんなのは、幼い時に憧れていた魔法少女とは大きく違う。
異世界の『魔法の国』から魔法少女の力を授かり、『人事部門』の『汚れ仕事』をして生計を立て、毎日見るのはみっちゃんが殺した魔法使いか魔法少女の死体。こんなのは、とてもみっちゃんが描いていた魔法少女とは、百八十度違った。それでも、やり直すことなんで出来なかった。もう遅いからだ。
最後にみっちゃんの死地となった場所は、あの周りが田んぼに囲まれた畦道だ。『魔法の国』の三大派閥の内の一つの『プク派』の動向をいつも共に行動していたチームとは外れて観察していた時だった。あの『忍者モチーフの魔法少女』に襲われたのは。
『投げたものが百発百中』の魔法を持つと予想された魔法少女は玄人だった。殺意だけを向けられて、みっちゃんはそれに『魔法』を使って返した。
苦無を投げられれば、大岩や板で防ぎ、刀が振るわれればガトリング砲で弾いたりと、何とかしのいでいった。それでも、詰めが甘かった。
忍者に止めを刺そうとし、それが『忍者の策略』に陥ったことで状況は反転。最後にみっちゃんが意識を失う前にみた光景は、忍者の刀がみっちゃんの体に突き立てられようとする直前だった。
瞼がゆっくりと開かれる。瞳に少ない光が差し込まれる。ここは、いったいどこだろうか。
上半身を起こす。体に掛けられていた掛け布団がずり落ちる。……ベット?
違和感が頭に侵入してくる。どうして、自分がベットで寝ているか。そもそも、ここはどこなのだろうか。
ふと、自分の体に視線が移る。いつものコスチュームではない。いつも身に着けている梟型のポーチも見当たらず、着ているものはいつもの白衣ではなく、簡素な服。
心臓辺りに手を這わせる。痛みが無い。血も見当たらない。頭の側頭部にも手を這わせるが、血がついていない。これはいったいどういう事だろうか。
上半身を起こす。体に掛けられていた掛け布団がずり落ちる。……ベット?
違和感が頭に侵入してくる。どうして、自分がベットで寝ているか。そもそも、ここはどこなのだろうか。
ふと、自分の体に視線が移る。いつものコスチュームではない。いつも身に着けている梟型のポーチも見当たらず、着ているものはいつもの白衣ではなく、簡素な服。
心臓辺りに手を這わせる。痛みが無い。血も見当たらない。頭の側頭部にも手を這わせるが、血がついていない。これはいったいどういう事だろうか。
「――ん、ぅ」
「っ!?」
「っ!?」
いきなりうめき声が聞こえてきた。咄嗟に隣の机にある花瓶を手に持つが、すぐにそれは杞憂に終わった。
みっちゃんが寝ていたベットに寄り添うようにして眠っている、桃色のブロンド髪を肩に掛けた幼い少女。年齢は今のみっちゃんの外見年齢より少し上だろうか。顔が見れないが、恐らく日本人ではないだろう。
彼女はいったい誰か。その疑問が頭を埋め尽くし、それが今までの情報によって一つ一つ組解かれ、最終的には『彼女がみっちゃんの怪我を治してくれた少女』という結論に至った。
助けてくれたことに感謝したいが、今のこの状況をまずは何とかしなければならない。
少女を起こさないようにベットから抜け出し、この部屋――医務室だろうか――にある扉のドアノブに手を掛ける。鍵がかかっているわけでもなく、それはすんなりと回った。監禁されているようではないらしい。扉の隙間から外を覗く。西洋風の造りの廊下が見え、明かりが見当たらない。魔法少女は夜目が聞くため、明かりは必要ないが、人が通りそうな廊下からの逃走はあまり良い手ではない。
ならばと次に目につくのは、闇が立ち込める外へと続く窓。こんどはそっちに手を掛ける。鍵はついているが、一般的な内側から開錠が出来るタイプだ。これならと、みっちゃんは素早く鍵を外して窓を開け放った。
蒸し暑い空気が外へ逃げだし、涼しい風が中へと流れだす。後はこのまま外へ逃げだせば――
みっちゃんが寝ていたベットに寄り添うようにして眠っている、桃色のブロンド髪を肩に掛けた幼い少女。年齢は今のみっちゃんの外見年齢より少し上だろうか。顔が見れないが、恐らく日本人ではないだろう。
彼女はいったい誰か。その疑問が頭を埋め尽くし、それが今までの情報によって一つ一つ組解かれ、最終的には『彼女がみっちゃんの怪我を治してくれた少女』という結論に至った。
助けてくれたことに感謝したいが、今のこの状況をまずは何とかしなければならない。
少女を起こさないようにベットから抜け出し、この部屋――医務室だろうか――にある扉のドアノブに手を掛ける。鍵がかかっているわけでもなく、それはすんなりと回った。監禁されているようではないらしい。扉の隙間から外を覗く。西洋風の造りの廊下が見え、明かりが見当たらない。魔法少女は夜目が聞くため、明かりは必要ないが、人が通りそうな廊下からの逃走はあまり良い手ではない。
ならばと次に目につくのは、闇が立ち込める外へと続く窓。こんどはそっちに手を掛ける。鍵はついているが、一般的な内側から開錠が出来るタイプだ。これならと、みっちゃんは素早く鍵を外して窓を開け放った。
蒸し暑い空気が外へ逃げだし、涼しい風が中へと流れだす。後はこのまま外へ逃げだせば――
「――えっ」
後ろから声を飛び出してきた。振り向きそうになるも、これ以上顔を見られるわけには行かない。みっちゃんは、後ろからの声も気にも留めずに、その場から飛び降りた。