後悔先ニ立タズ、死ハイツモ身近ニ

14話 後悔先ニ立タズ、死ハイツモ身近ニ

殺し合いが始まって早二時間程が経過した。
まだ夜の帳は降りたままで、月明かりはあれど外は暗い。
田圃が広がる田園地帯のとある民家、車庫に止められた耕運機にもたれるように座るのは、
ジャッカル獣人の女性。
名前を李悠、字を徳曜。中国風国家から日本風国家に高校生の時留学生としてやって来た。
今では日本語も不自由無いレベルにまで上達し日本風国家での生活にもすっかり馴染んだ。
しかしまさか自分が殺し合いゲームに巻き込まれるなどとは夢にも思わなかった。
デイパックの中に入っていたランダム支給品は二種類。
一つはM67破片手榴弾。三個セットで入っていた。
内部に硬質鉄線が入っており殺傷能力が高く、その形状と梨地仕上げの本体の印象から、
「アップル・グレネード」「ベースボール」とも呼ばれる。
もう一つはパイプカッター。
その名の通り金属のパイプを切断するための工具。
工具はともかくM67破片手榴弾は人を殺傷出来る道具である。

(殺し合いなんてしたくないけど……したくないけど……)

李悠は本心では殺し合いをしたくは無かった。
だが首にはめられた爆弾付きの死の首輪で運営側に命を握られた上に制限時間が設けられたこの殺し合い。
名簿を見る限り知り合いもおらず一人ぼっち、そんな状況ではいつ命を狙われるか分からない。

(……やるしかない……)

結局李悠は、生き残るために殺し合いに乗る事を決心する。
そっと、塀の外の様子を伺ってみる。

(誰かいる……?)

家の隣の畦道を歩く人影が遠くに見えた。

◆◆◆

ウータ・ブルーンスは田圃の畦道を歩いていた。
右手には支給された高枝切鋏を装備している。

「暗い……やっぱりどこかで明るくなるのを待つべきかしら」

暗い中で懐中電灯を灯して歩けば目立ち、殺し合いに乗っている者の良い的になるのは自明。
月明かりで影が出来るぐらいには明るいので歩く分には問題無いとウータは判断したのだが、
やはり無理があったと、ウータは後悔する。

「私の他に、このゲームに抗おうとしている人って、いるのかしら……え?」

独り言を呟いていた時、夜空に何かが舞っているのが見えた。
それはウータのすぐ傍に落ちた。

「何これ?」

暗くて良く見えないそれを、ウータは覗き込む。

ドガアアアアン!!!

爆音が響き、一瞬閃光で周囲が明るくなった。
爆炎と土埃が舞い、「それ」が爆発した場所には50センチ程の深さの穴が空いていた。
そして、上半身がミンチ肉と化した少女の死体が残される。
残った下半身も破片でズタズタにされ内臓が飛び出している有様。
持っていた高枝切鋏も完全にひしゃげ、デイパックのみが黒く焦げながらどうにか原型を保っていた。
火薬と肉の焼ける臭いが辺りに漂い始めていた。

◆◆◆

「……うえ」

自分が人影に向かって投げ付けたM67破片手榴弾の威力を確かめに、
爆発場所へ向かった李悠は、嘔吐と共に自分の行動を猛烈に後悔する事となる。
「見に行った事」では無く「手榴弾を使って人を殺した」事にである。
先程まで歩いていた人――恐らく人間の女性――は、上半身は最早原型を留めておらず、
肋骨や心臓、脊椎までもが見えており、頭蓋骨を含めた頭部はどこにも見当たらない。
直視出来無いぐらいに凄惨な死体となっていた。
誰でも無い、自分がこの女性をこのような状態にしたのだと思うと、とてつも無い罪悪感に李悠は襲われる。

「私は、何て事を……私が、馬鹿だった……何て、何て事……ごめんなさい……ごめんなさい……」

泣きながら李悠は己の行動を悔やみ、ひたすらに女性に謝り続けた。
だがその謝罪は途中で強制的に中断させられる。
李悠の目の前が真っ白になり全身に凄まじい衝撃が走った。
そして急速に意識は遠のいていった。

◆◆◆

「おお、威力はそれ程落ちてはいない、か……だけどいつもより消耗が激しい、乱発は出来無い、か」

赤色のローブを着た白い獅子獣人の男は、
嗚咽を漏らしていたジャッカル獣人の女性に試した己の雷撃魔法の結果を見て思案する。
近付いて確認すると女性は鼻や目から血を流し白目を剥いて痙攣している、もう助からないだろう。
すぐ傍には先程の爆音の原因と思われる爆発に巻き込まれたのか上半身が挽肉になった人間女性の死体。
これを見てジャッカル女性は嗚咽を漏らしていたのだろうか、何故?
その理由は最早知る由は無いし獅子獣人――レジナルド・バークリーは知る気も無かった。

「魔法頼りだけで無く、これも使っていかないとな」

自分のデイパックから取り出したのは刀――村田刀。
切れ味が鋭く頑丈な工業刀である。
レジナルド自身は刀には慣れていなかったが、先程、いつもより魔法行使による消耗が大きくなっていると、
気付いたため使わない訳には行かない。
死んでいる二人の所持品を漁り、ジャッカル女性の死体から手榴弾二つとパイプカッター、
ミンチの女性死体のデイパックから、災害個人用救急セットを手に入れた。

「さて行くか」

もうここには用は無い、と、レジナルドは歩き始める。


【ウータ・ブルーンス  死亡】
【李悠  死亡】
【残り54人】


【黎明/E-4/田園地帯平野家周辺】

【レジナルド・バークリー】
[状態]健康
[装備]村田刀
[持物]基本支給品一式、M67破片手榴弾(2)、災害個人用救急セット
[思考]1:優勝し生き延びる。
    2:魔法と武器を使い分けて戦う。
[備考]※自分の魔法に制限が掛かっている事に気付いています。


《参加者紹介》

【名前】李悠(り ゆう)
【年齢】18歳
【性別】女
【職業】留学生(大学生)
【性格】思い切りが良いが後悔もし易い
【身体的特徴】ジャッカル獣人。貧乳
【服装】白いシャツにブラウンのズボン
【趣味】ツーリング
【特技】日本語が不自由無いレベルに操れる
【経歴】高校生の頃から日本風国家に留学している
【経歴】字は「徳曜(とくよう)」。李徳曜と名乗る事も。
    中国風国家から日本風国家にやって来た留学生

【名前】ウータ・ブルーンス
【年齢】20歳
【性別】女
【職業】冒険者
【性格】自分本位だが、優しい一面もある
【身体的特徴】青髪ツインテール、巨乳
【服装】白基調の上着に淡い茶色のスカート、ニーソに長靴
【趣味】不明
【特技】薙刀の扱いに長けている
【経歴】特筆事項無し
【経歴】特筆事項無し

【名前】レジナルド・バークリー
【年齢】28歳
【性別】男
【職業】薬師兼魔道士
【性格】独善的
【身体的特徴】白い獅子獣人。赤い瞳。痩せ気味
【服装】赤い魔道士ローブ
【趣味】友人とトランプ(ポーカー等)
【特技】炎、氷、雷系の魔法と、状態異常系の魔法、薬品の調合
【経歴】中流貴族の三男坊として生まれた。
    しかし貴族での長男以外への待遇は良く無いため16歳で家を出た
【備考】頭脳明晰だが狭量で、一度受けた恨みを決して忘れず報復に出る事が多い。
    魔法は一通り使えるが、特に得意なのが特技の項で書いた魔法。
    両性愛者だが最近は男とするのが多いとの事(掘られるのが好きらしい)


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最終更新:2013年09月09日 00:51