3話 遠く遥か向こう、ずっと見つめながら
ひまわり、オラの妹。
時々ケンカもしたけれど、大切な妹で、大好きな家族だった。
光る物が好きで、イケメンも好きで、母ちゃんに似てる所も有って。
――どうして、どうして死ななきゃいけなかったの?
――どうしてあの人達は、オラの妹を殺したの?
――ひまが、何をしたって言うの?
あんなに泣いて、オラ達に助けを求めていたのに、助ける事が出来なかった。
何も出来なかった。
ひまわり、ごめんね。
ごめんね――――。
……
……
深夜の森の中。
月明かりによって辛うじて辺りの様子は把握出来たがそれでも進むには何かしらの光源が必要な程の暗さ。
その中で、赤い上着に黄色い半ズボンを着た五歳児、野原しんのすけは泣いていた。
見知らぬ土地の見知らぬ森で独りきり、尚且つまだ五歳なら不安と恐怖で泣いてもおかしくない、が、
彼が涙を流しているのはそういった理由では無い。
この殺し合いの開催式において、彼の妹である野原ひまわりは首輪の威力を見せるための生贄として殺された。
それに対する悲しみ、妹を殺した者達への怒り、
助けを求めて泣いていた妹に何もしてやれなかった自分への怒り、遣る瀬無さ、悔しさ。
それが渦巻き、涙となって彼の目から溢れ出していた。
「……っ」
ふと、しんのすけは同じくこの殺し合いに呼ばれている自分の父、母、飼い犬の事を思い出す。
自分がこうやって悲しんでいるように、両親と飼い犬もどこかで悲しんでいるのだろう。
しんのすけは腕で涙を拭い、深呼吸をしてきっと前を見据える。
「父ちゃん、母ちゃん、シロを探さなくちゃ」
確かに、ひまわりを喪ってとても悲しい。まだ油断すれば涙が出そうになる。
だがいつまでも泣いていたってひまわりは返ってこないし、何も事は進まない現実も、しんのすけは分かっていた。
泣いている暇が有るのなら、どこかに居る筈の両親、飼い犬を捜し出して合流し、
このゲームからの脱出の方法を探すべきだと思った。
しんのすけは自分のデイパックを開けて、懐中電灯を取り出し、点灯させて名簿を見る。
読めない難しい漢字が沢山並んでいたが、自分の家族や友達の名前の字ぐらいならしんのすけも知っていた。
どうやら自分の家族以外に知り合いは居ないらしい。
次にランダム支給品を確認する。
「鉄砲だゾ……」
出てきた物を見て息を呑むしんのすけ。
それは大型のリボルバー拳銃。予備の弾もセットで入っていた。
S&W社が大昔に製造していた中折れ式の.45口径シングルアクションリボルバー「スコフィールド」。
しんのすけにはそこまでの詳細は分からなかったが、
手にしたそれが玩具等では無く人を殺せる本物の武器であると言う事は察する事が出来た。
本来ならば当たりに入る支給品なのであろうが。
「お、重い……大き過ぎるゾ」
しんのすけには重量、大きさ共に不適格でとても使えそうに無かった。
仕方無くしんのすけはスコフィールドをデイパックの中に戻した。
懐中電灯で辺りを照らす。
安物らしく余り明るく無かったがそれでも暗闇を照らす事が出来るだけ有難かった。
「ここはどこなんだろ……」
周りを見ても木、木、木ばかりの森。
どっちに行けば何が有るのか、それが特定出来そうな目印など何も見当たらない。
かと言って立ち止まっていても仕方が無いので、しんのすけは取り敢えず歩き始めた。
◆◆◆
「生きてるし、足も有る……」
森の中、少女、北沢樹里は自分が生きている事、自分の足が有る事を再確認する。
彼女は以前にも殺し合いに巻き込まれ、陸上選手を志していた彼女にとって命の次に大切な足を失い、
自暴自棄になり、クラスメイトの女子が付き合っていたとある男子を寝取ってしまい、
その女子の逆鱗に触れ、命を奪われる事となった。
だが今、樹里は生きている。
失った筈の足も有る。
これで「再び殺し合いに参加させられている」と言う状況でなければ、樹里はもっと素直に喜んでいたであろう。
「また殺し合いだなんて……」
自分が再び殺し合いゲームの参加者になっていると言う現実には落胆を隠せない。
そして名簿を見た限りでは、一緒に以前の殺し合いに巻き込まれていたクラスメイトも何人か居るらしい。
死んだ筈の者もそうでない者も。
自分の足を奪った愛餓夫、命を奪った倉沢ほのかも居るようだった。
「……」
これからの事について樹里は考える。
愛餓夫は出来れば再会などしたくない、再会してしまった場合は、相応の制裁は加えるつもりではあったが。
何しろ自分を絶望に叩き落とした張本人なのだから。
倉沢ほのか。
彼女とは餓夫とは別の意味で会いたくは無かった。
自分を殺したから、と言う理由も有るが、そうなってしまった経緯は、自分に原因が有ると、樹里は思っていた。
足が元に戻り、冷静な思考が出来る今だからこそ、こういう考えが出来るのだろう。
以前の殺し合いで足を失い自暴自棄になり、自分を介抱してくれた男子――海野裕也に当たり散らした挙句、
勢いで事に及んでしまい、それをほのかに見られてしまい、裕也共々激高し、錯乱したほのかに惨殺された。
あの時の自分はもしかしなくてもどうかしていたのだろう。
ほのかに対し、本当に済まない事をしたと、樹里は心の底から思う。
きっと、ほのかはこの殺し合いで自分と会えば、自分を殺そうとするだろう。
それ故に、樹里はほのかとは会いたく無かった、が、
自分がしてしまった過ちの事を詫びたいと言う気持ちも有った。
死にたくないから会いたくない、でも謝罪はしたい。
何とも自分勝手な、身の程知らずな考えか、と、樹里は自嘲する。
「どうしたら良いんだろ……」
考え込む樹里。
その時、視界にライトの光が踊った。
「!」
慌てて近くの太い木の幹に隠れる樹里。
だが、ライトの主は既に樹里に気付いていたようだ。
「誰か居る?」
聞こえたのは子供の声。どうやら男の子らしい。
記憶が正しければ開催式の時に見せしめの赤ん坊を取り返そうとしていた家族の一人の声と同じ。
確か、野原しんのすけ、だっただろうか。
もし同一人物ならば、家族の一人を主催に殺されて、それで殺し合いに乗ると言うのは考え難い。
可能性はゼロでは無かったが。
出て行ってコンタクトを取るべきか逃げるか迷ったが。
「今行くよ……」
結局出て行く事にした。
万一に備え、右手には支給品である出刃包丁を握り締める。
幹の陰から出た樹里にライトの光が当たり、眩しさで思わず左手を顔の前に翳す樹里。
「おお、綺麗なお姉さん」
少し喜んだ風な子供の声が聞こえる。
目が慣れてきてその子供の顔を見れば、少なくとも敵意は無い事は判断出来た。
【深夜/E-1森】
【野原しんのすけ@アニメ/クレヨンしんちゃん】
[状態]健康、目が少し腫れている
[装備]懐中電灯(基本支給品)
[所持品]基本支給品一式(懐中電灯装備中)、S&Wスコフィールド・リボルバー(6/6)@オリキャラ/エクストリーム俺オリロワ2ndリピーター、
.45スコフィールド弾(12)
[思考・行動]基本:殺し合いなんてしない。父ちゃん、母ちゃん、シロを探す。
1:綺麗なお姉さん(北沢樹里)と話をする。
[備考]※特に無し。
【北沢樹里@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル】
[状態]健康
[装備]出刃包丁@現実
[所持品]基本支給品一式
[思考・行動]基本:今の所殺し合う気は無い。
1:愛餓夫は会いたく無い。会ったら相応の制裁を加える。倉沢さんは……。
2:目の前の子供(野原しんのすけ)と話をする。
[備考]※本編死亡後からの参戦です。
※倉沢ほのかに対し謝罪したい気持ちが有るようです。
《支給品紹介》
【S&Wスコフィールド・リボルバー@オリキャラ/エクストリーム俺オリロワ2ndリピーター】
S&W社が1875年にM3リボルバーを元に開発した中折れ式シングルアクション回転式拳銃。
名前は開発に携わったジョージ・W・スコフィールド少佐に因んでいる。
出典元のロワにおいて沖元実沙に支給、その後コーディに渡り数人の参加者を撃ち殺す事になった。
【出刃包丁@現実】
和包丁の一つ。魚を捌くための包丁であり、現代では肉を切るにも使われている。
最終更新:2014年06月15日 01:36