0話 余りの惨劇に精神崩壊寸前!! 戦慄の殺人ゲームへようこそ……
学校の体育館「のような」広いホールに、50人近い人間、や、人外が集められている。
あくまで「体育館のような」場所。
体育館と言うには、バスケットボールのゴールやウィンチロープは愚か窓も扉も見当たらない異常な構造。
それでも「体育館のような」と言わしめているのは、正面にあるステージのせいである。
やがてステージの裾から二人の男が現れた。
黒いパンツ一丁の上にウェイターのようなベストと蝶ネクタイと言う異様な格好。
片方は背が高く肩に刺青らしき物が有り、もう片方は身長がやや低めで少し腹が出ていた。
「えー、皆様、こちらに、ンンッ、注目して下さい」
背が高い方の男がステージ上のマイクを使って話し始める。
お世辞にも滑舌が良いとは言えない上に大きく咳払いをするその様は人々に好印象は与えない。
「えー、皆様、突然集められて驚いていると思います。
集まって、えー、我々の主(あるじ)が、えー、皆様をここへご招待致しました。
なぜ招待されたのかと言いますと、皆様に、あるゲームをして頂くため、です」
「主」とは何か? 「ゲーム」とは何か?
多くの者が疑問を抱く。
そして男の口から「ゲーム」についての疑問に対する答えが明かされる。
「そのゲームとは、バトルロワイアル。
これから皆様には、殺し合いをして頂きます」
多くの人々が、男に対し「何を言っている」と言う視線を送る。
「申し遅れました、私、このゲームを司会進行を務めさせて頂く、じゅんぺいと申します」
「同じく司会進行させて頂きます、まひろと申します」
「以後お見知りおき下さいませ」
「おいお前ら!」
一人の男がじゅんぺいとまひろに向かって怒声を上げる。
「いきなり連れてきておいて、今度は殺しあえだと?
冗談じゃないぜ! ふざけんのも大概にしろ!」
「そうよ! 今すぐ家に帰しなさい!」
「とーちゃんとかーちゃん怒らせると恐いんだゾ!」
「アン! アン!」
男の妻と息子と思われる二人、飼い犬と思われる白い犬も一緒になって、じゅんぺいとまひろに向け抗議の声を上げる。
他の者達も概ね、親子と同じ気持ちのようだ。
それを見てじゅんぺいとまひろは顔を見合わせる。
「やはり、自分達の立場をお分かり頂けてないようですね」
「無理も有りません。丁度良いですし、首輪の威力を見せて差し上げるのが上策かと」
「そうだな、そうするか。
……えー、皆様の首、首輪がはめられていますよね?」
じゅんぺいの言う通り、人々の首には金属製と思われる黒い首輪がはめられていた。
何人かが首輪に触れてみるが外れそうには無い。
「その首輪は皆様に、ンンッ、確実に殺し合いをして貰う為の物です。
無理に外そうとしたり、逃げようとしたり、ゲームの邪魔をすれば、
その首輪は爆発する仕組みになっています」
爆発する――その言葉を聞いて、青ざめる人々。
首に仕掛けられた爆弾が爆発すれば死ぬと言うのは、火を見るよりも明らかである。
触れていた何人かはすぐに手を離した。
「我々がリモコンで操作して、爆破させる事も出来ます。
今から、えー、首輪の爆発を実演したいと思います。
皆様も、首輪が爆発すればどのような事になるのか、知りたいと思いますので。
ほら、お前、用意しろ」
「分かりました」
じゅんぺいの指示を受け、ステージの裾へ向かうまひろ。
そして程無くして、檻を乗せた台車を押しながらまひろが再びステージ上に現れる。
その檻の中には、不安気な表情を浮かべる、黄色い服を着た女の子の赤ん坊が入れられていた。
「「「ひまわり!?」」」
先程抗議していた親子が吃驚の声を上げた。
その赤ん坊は、夫婦の娘であり息子の妹であった。
「野原ひろしさん、野原みさえさん、野原しんのすけ君。そしてシロ君。
この子は、えー、見ての通り、あなた方の家族、野原ひまわりちゃんです。
この子の首にも首輪がはめられているのがお分かり、頂けるかと思います。
それではこれより、首輪の効果を見せたいと思います」
「やめろ!! ふざけるな!!」
「やめて!!」
「ひまを返せぇぇぇええ!!」
「アン! アン!!」
大切な娘を、妹を取り返そうと野原一家がステージに向かって走り出す。
だが、見えない壁により弾かれ、四人共床に倒れてしまう。
「びえええぇえええ!!」
恐怖と不安に耐えられなくなったのか、ひまわりが泣き始める。
その悲痛な泣き声に、野原一家以外の人々にも、憐憫の情を抱く者が何人か居た。
しかし、じゅんぺいは泣き声を聞いて耳障りだとでも言わんばかりにひまわりを睨み付ける。
まひろは特に表情を変えなかった。
変えなかったが、どこからともなく取り出したリモコンを、ひまわりに向ける。
「やめろぉおおおおお!!」
「嫌あああぁああああ!!!」
「ひまわりぃいいいぃいいいいいい!!!!」
「アン!!!」
野原一家が絶叫する。
そして、無慈悲に、リモコンのスイッチが押された。
ぱぁん、と言う炸裂音がホールに響き、泣き声も消えた。
野原一家の絶叫も消え、ホールは静寂に包まれた。
【野原ひまわり 死亡】
「これで首輪の威力は分かって、頂けましたでしょうか。
よし、それじゃ、片付けろ」
「はい」
落涙し放心する野原一家を尻目に、ひまわり「だった物」が入った檻が乗った台車をステージの裾へ持って行くまひろ。
そしてまひろがステージへ戻って来る。
「戻ったか。じゃあ、ルールの説明、頼んだぞ」
「任せて下さい」
殺し合いのルールの説明がまひろによって始められた。
「それでは殺し合いに移って頂く前にルールの大まかな説明をさせて頂きます。
この殺し合いは特別にご用意した会場の中で最後の一人になるまで行って頂きます。
最後の一人になった方のみが『優勝者』となり、家に帰れます。
また、好きな願いを一つだけ叶える権利を副賞として贈呈致します。
反則行為は一切ございません。会場に有る施設の利用及び破壊も自由でございます。
首輪について改めて説明致します。
首輪は無理矢理外そうとする、禁止エリアに侵入する、ゲーム進行を著しく妨害する行為を行う。
主にこの三つの禁止行為にどれか一つでも抵触すると、先程のように爆発します。
首輪は完全防水、耐衝撃性となっており、我々が持っている特別な鍵を使用するか、専用の信号を送らない限りは、
外す事は出来ません。禁止エリアにつきましては後程ご説明致します。
参加者の方々一人一人に、支給品の入ったデイパックをお渡しします。
このデイパックは、特殊な構造となっており、死体を含む参加者、著しく不定形な物、明らかに大き過ぎる物以外は、
何でも入れられ、重量も変化しません。
但し、デイパックが激しく損傷しますと収納物がばらけ使用不可能になりますので、ご注意下さい。
支給品は全参加者共通の物として、ルールの書かれた冊子、地図、名簿、コンパス、懐中電灯、懐中時計、
筆記用具、水と食糧が入っています。
この他に、武器や防具と言ったランダム支給品が一つ有ります。
ランダム支給品は役に立つ物とは限りません。これは男女、種族問わず、平等に優勝のチャンスを与える為の措置です。
つまり当たり外れが有りますので、必ずご確認頂きますようお願い致します。
0時、6時、12時、18時の一日四回、定時放送を行います。
内容は主に死者及び禁止エリアの発表となります。
禁止エリアについてですが、放送から一時間後に出現します。入ると首輪が作動しますのでご注意下さい。
また、地図の外及び上空100メートル以上も禁止エリアとさせて頂きます。
12時間、新たな死者が出なかった場合、その時点での生存者全員の首輪を爆破します。
優勝者は無し、ゲームオーバーとなります。
参加者が全員死亡しても同様です。
最後になりますが、特殊な能力を持っている方に関しましては、その効力を大幅に弱体化させて頂きます。
ゲームの破綻に繋がりかねない物に関しましては使用を不可能とさせて頂きますので、その点はご了承下さい。
ルールの説明は以上となります。
質問が有りましたら受け付けます」
「……ハイ」
「ガオガモンさん」
青と白の毛皮を持った、背中から赤い二つの触手が生えた大きな犬がまひろに質問する。
「優勝したら、本当に帰れるんですか?」
「帰れますよ。但し、最後の一人だけです」
「はい……」
「土井津仁君」
続いて、額の星印が特徴的な坊主頭の強面の少年が質問する。
「一つだけなら、どんな願いでも叶えられるんですか?」
「はい。死者の蘇生、大金が欲しい、等」
「……」
「他に質問は有りませんか?」
まひろが尋ねるが、もう質問する者は居ないようだった。
「それでは、ゲームの始まりとさせて頂きます」
じゅんぺいが開幕の宣言を行う。
直後、参加者達は猛烈な睡魔に襲われ次々と意識を失い倒れていった。
その中で、野原一家は、完全に意識を無くすその直前まで、まひろとじゅんぺいの事を、
涙を流しながら睨んでいた。
……
……
「ご苦労だった、二人共」
もう一人、男がステージの上に現れ、じゅんぺいとまひろに労いの言葉をかける。
長身で、どこか陰を感じさせる面立ち、そして甚平を着たその男に、二人は軽くお辞儀をする。
「こんな感じで大丈夫ですかね? 平野さん」
「ああ、上出来だじゅんぺい君。まひろ君も」
「ありがとうございます」
「さて、それでは始めようか……」
甚平姿の男――平野源五郎は、これから始まるゲームに期待を寄せ、笑みを浮かべる。
【GAME START】
最終更新:2015年02月18日 20:45