12話 信用する事の難しさ
「ひまわり、ひまわりぃ……」
男――野原ひろしは泣いていた。
長女である赤子、野原ひまわりを目の前で殺されたのだ。
愛する我が子を喪った悲しみ、何もしてやれなかった、助けてやれなかった自分への悔しさがひろしに涙を流させる。
同時に、何の躊躇いも無く小さな命を奪い去ったまひろとじゅんぺい、そしてこの殺し合いを開催した主催者への激しい怒りを覚える。
「くっ……」
腕で涙を無理矢理拭うひろし。
いくら泣いてもひまわりは戻って来ない。今出来る事を優先するべきだと自分を奮い立たせる。
この殺し合いには、長男のしんのすけ、妻のみさえ、飼犬のシロも居るのだ。
これ以上大切な家族を失う訳にはいかない、皆を探さなければ。
無論、殺し合いなど乗るつもりは無かった。
願いを何でも一つだけ叶える、死者を生き返らせる事が出来るなどとまひろは言っていたがそんなものは殺し合いを激化させる為の方便に決まっている。
願いならともかく、死人を蘇らせる事など出来る筈が無い。
ひろしはデイパックを開けて名簿を取り出す。
家族以外に知り合いが居ないかと心配したが、名簿を見る限り家族以外に知っている名前は無い。
しかし名簿にはざっと見て50人は名前が書かれている。
この殺し合いがいかに規模の大きい物かを物語っていた。
次にランダム支給品。
出てきた物は大型のナイフ。
鞘から取り出すと、鋭く研がれた刃が姿を現した。
玩具などでは無い、本物の人を殺傷出来る武器である。
当たりの部類に入る支給品ではあったが、これを使う機会が来ない事をひろしは願った。
「ここは何なんだ?」
辺りを見回すひろし。
コンクリートや配線、配管等が剥き出しになった壁や天井、床。
置きっ放しの工具や建築資材。
どうやら建設中の何かの建物らしい。
窓と思われる開口部から入る月明かりや、部分的に灯る作業灯のお陰でそれ程視界は暗くは無い。
それなりに規模が大きいようなので、自分以外にも参加者が居る可能性は高い。
それが自分の家族が否か、殺し合いに乗っている者か否かは分からないが。
「行くか……」
周囲に警戒しつつひろしは行動を始める。
◆◆◆
「また殺し合いをやる事になるなんて」
銀髪を持った同世代の女子と比べても小柄な少女、銀鏖院水晶は忌々しげに呟く。
彼女にとって――彼女に限った話では無いが――殺し合いは二回目となる。
一回目の殺し合いにおいて彼女は殺し合いに乗り、「愚民」と蔑むクラスメイト達を襲って回っていたが、
最終的にはその「愚民」の一人によって殺害された。
「認めないわ……私が『愚民』に劣るなんて絶対に……」
とある宗教の教祖の娘として生まれ育ち「神の娘」を自負する水晶は、
一回目の殺し合いでは「神の存在を知らしめる」事を目的として殺し合いに乗っていた。
そして今回の殺し合いにも乗る気で居る。但し目的は以前とは微妙に異なり、
「愚民と自分は違う、自分は愚民と同等それ以下では決してない事を優勝する事で証明する」と言う物。
だが、まずは武器を調達する必要が有った。
水晶に支給された物は、大きな兎のぬいぐるみ。
何の特殊な仕様も無い普通のぬいぐるみだった。
当然武器には成りえないし、水晶はぬいぐるみで遊ぶような年では無い。
完全に外れの支給品であったぬいぐるみを、水晶はもう既にその辺りに放り捨てていた。
どうやら現在自分が居るのは何かの建物の建設現場のようなので資材や工具で武器になりそうな物が見付かるかもしれない。
まずはそれを探そうと、水晶は探索を始めた。
程無くして、長さ1メートル程の鉄パイプが並べられている場所を発見する。
その内の一本を水晶は手に取った。
少し重いが、扱える範囲では有る。
当面はこの鉄パイプを武器にしようと水晶は決めた。
◆◆◆
「ん?」
ひろしは人影を発見する。
銀色の髪を持った少女。背の低さから小学生かと思ったが、学生服らしき物を着ているので、
中学生或いは高校生のようだった。
「!」
少女の方もひろしの存在に気付いたようで視線をひろしの方へ向ける。
「あ、えーと……」
思わず少女に語りかけようとするひろし。
その幼い外見から、殺し合いに乗っている事など想像出来なかったのだろう。
それ程警戒もせずに接触を試みた。
◆◆◆
「あ、えーと……」
水晶が遭遇したその男は、少しおどおどとしながらも、水晶に話しかけ始める。
慎重な様子が男の表情と口調から伝わってくるので、
全く警戒していない訳では無いようだが。
自分の容姿が幼いのを見て警戒心が薄らいでいるのだろうか。
そう思うと、自身の容姿に少なからずコンプレックスを抱いている水晶は不快な気持ちになった。
何にせよ、この殺し合いの中、やる気になっているかもしれない他参加者に容易に話しかける
この男の行動は褒められたものでは無いが。
そして実際、水晶はやる気になっている。
「誰ですか?」
「ああ、驚かせちゃったかな。俺は殺し合いには乗っていないよ」
「……」
男は殺し合いには乗っていないと言う。
それに対し水晶はしばし間を置いてから、
「私も乗ってません」
嘘を吐いた。
「そうか、そりゃ良かった……」
男は素直に水晶の言を信じてしまったようである。
やはり警戒心は薄いようだ。
それなら好都合だと水晶は心の中でほくそ笑む。
友好的な振りをして、隙を突いて殺してしまおうと画策した。
「俺は野原ひろし。君は?」
「銀鏖院水晶」
「ぎん、おう、いん、みきら?? か、変わった名前だね……」
「……野原ひろし……あなたは……確か」
男の名前を聞いて、水晶は思い出した。
見せしめで殺された赤ん坊の女の子、野原ひまわりの父親では無かったか。
わざわざじゅんぺいが家族全員の氏名を呼んだので記憶していた。
「開催式の時に見せしめで殺された子のお父さん……」
「あ、ああ……そうだ……あの子、ひまわりは俺の娘だった。
目の前で助けを求めて泣いていたのに、何も出来なかった……ぐっ……」
自分の心情を吐露し涙ぐむひろし。
実子を目の前で無残に殺されたのだからきっと辛いであろう。
それは水晶にも十分に察せる、察せた所で彼女にはどうでも良い事だったのだが。
「すまん、取り乱しちまった……」
「無理も有りませんよ」
「ありがとう……」
表面上はひろしを気遣う素振りを見せる水晶。
「……野原さん、あれ」
しかし次には、野原ひろしを亡き者にする為の行動を始める。
ひろしの後方を、何かが有るように指差す。当然何も無い。ひろしを陽動する為の虚言。
「ん? どうした?」
そしてひろしは水晶の思惑通り、彼女に背を向けてしまう。
水晶はひろしの背中目掛けて鉄パイプを振った。
「ぐあっ!?」
背中に一撃を食らったひろしは前のめりに倒れ込んだ。
「み、水晶ちゃん……!?」
「こうもあっさり引っ掛かってくれるなんて思いませんでした。
殺し合いの中で見ず知らずの人を簡単に信用するなんて……」
「殺し合いに乗っていないってのは嘘だったのか……!」
「目の前で娘さんに死なれたんですよね、でも大丈夫、すぐに会わせてあげますよ!」
水晶は鉄パイプを振りかぶった。
ダァン!
しかし、振り下ろす動作は突然の銃声によって中断される。
何事かと驚く水晶とひろし。
そして二人の視線は、いつの間にか部屋の入り口付近に現れた、黒猫の獣人の少年に向かう。
少年は右手に拳銃と思しき物を持っており、銃口を天井に向けていた。
「ラト?」
水晶はその黒猫少年に見覚えが有った。
以前の殺し合いで、首輪を爆破され殺された筈のクラスメイト、ラト。
「そこまでだ、銀鏖院さん」
穏やかな、澄んだ声で、ラトは凶行に走ろうとする水晶に向かって制止の言葉を掛ける。
「あなたも生き返ったのね」
「ああ……それより、君は、殺し合いに乗っているのかい」
「……そうよ」
「考えを改めるつもりは……無いだろうね」
「……」
ラトは拳銃の銃口を水晶に向ける、だが引き金は引かない。
「ここは大人しく退いてくれないかな」
水晶にそう提案するラト。
その口調はやはり穏やかだったが、言い知れぬ威圧感が有った。
少なくとも水晶が下手な事を起こせば、ラトは容赦無く引き金を引くであろう事は、水晶にも、
呆然と二人のやり取りを見詰めているひろしにも想像出来た。
悔しそうに顔を歪める水晶だったが、まだ殺される訳にはいかないと素直にラトの言う通りにする事にした。
「覚えてなさい……」
捨て台詞を残し、水晶は逃げ去って行った。
【深夜/A-6建設現場】
【銀鏖院水晶@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル】
[状態]健康
[装備]鉄パイプ(調達品)
[所持品]基本支給品一式
[思考・行動]基本:優勝し「愚民と自分は違う」事を証明する。
1:一先ず撤退。
[備考]※本編死亡後からの参戦です。
※野原一家の名前を記憶しています。
※能力の制限については今の所不明です。
※支給品の殴られウサギ@アニメ/クレヨンしんちゃんは放棄しました。
◆◆◆
「……大丈夫ですか?」
「あ、ああ、助かったよ」
自分を助けてくれた黒猫の少年に礼を言うひろし。
獣人の外見の彼に対し特に驚かなかったのは今まで家族と共に何度も大冒険をしてきた中で、
多くの人外と遭遇してきた為であろう。
「背中を殴られちまったけど、何とか……うっ」
「しばらくは休んでいた方が良いです」
「くそっ、家族を探さなきゃいけないのに……」
一刻も早く家族を探し出したいと言う気持ちが逸るひろしだったが鈍器で背中を殴られたダメージは無視出来なかった。
「ラトだったか? お前は殺し合いには……乗ってないよな?」
水晶の事もあってかラトに戦意について尋ねるひろし。
殺されかけていた自分を助けてくれたのに殺し合いをやる気になっているとは思えなかったが念の為に。
ラトからは当然と言うべきか、否定の答えが返ってきた。
「乗っていません。と言っても信じてくれるような証拠は出せませんが……」
「い、いや、信じるよ……命の恩人なのに疑うなんて何やってんだ俺」
「この状況なら仕方ありませんよ、警戒するのは当然です」
「悪いな……」
「ここは余り安全な場所では無いようですね、もし良ければ一緒に行きますか?」
「ああ、そうするよ」
ひろしはラトの申し出を受け入れ一緒に行動する事にした。
現在居る建設現場はお世辞にも安全な場所とは言えないので二人はまず「比較的」安全な場所を探し始める。
【深夜/A-6建設現場】
【野原ひろし@アニメ/クレヨンしんちゃん】
[状態]背中にダメージ
[装備]コンバットナイフ
[所持品]基本支給品一式
[思考・行動]基本:家族を探す。殺し合いには乗らない。
1:ラトと行動する。
[備考]※銀鏖院水晶を危険人物と認定しました。
【ラト@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル】
[状態]健康
[装備]ワルサーPPK/S(6/7)@パロロワ/現実
[所持品]基本支給品一式、ワルサーPPK/Sの弾倉(3)
[思考・行動]基本:???(少なくとも殺し合いに乗る意思は無い)
1:男性(野原ひろし)と情報交換をしたい。一先ず安全そうな場所を探す。
[備考]※本編死亡後からの参戦です。
※銀鏖院水晶を危険人物と認定しました。
※能力の制限については今の所不明です。
《支給品紹介》
【コンバットナイフ@現実】
頑丈で切れ味の鋭い大型の軍用ナイフ。
【殴られウサギ@アニメ/クレヨンしんちゃん】
桜田ネネ及びその母親が過度のストレスを感じた時に殴り付けている大きなウサギのぬいぐるみ。
【ワルサーPPK/S@現実】
ドイツのワルサー社が1929年に開発した小型自動拳銃「PP」、それを1931年に小型化した「PPS」を、
1968年に当時の輸出先の一つであるアメリカの銃規制に合わせて改良したモデル。
大型のPPのフレームにPPKのスライドとバレルを組み込んでいる。「S」は「Special」の意味。
即応性と安全性を両立した、開発された当時としては最も完成度の高い自動拳銃だった。
最終更新:2014年07月26日 01:23