血と炎のカーニバル

33話 血と炎のカーニバル

時計塔には現在四人の参加者が依っている。
MUR、貝町ト子、アルジャーノン、鈴木フグオの四人。
いずれも殺し合いには乗っていない。

「首輪のサンプルねぇ……」
「キャプチュー」

ト子から首輪解除に関する話を聞かされたアルジャーノンとフグオ。
首輪のサンプルが有れば首輪を解除する方法が見付かるかもしれない、解除出来れば、
脱出への糸口が見える、と言うト子の説明にアルジャーノンとフグオは生還への希望を抱かずには居られない。

「実際に中身を見てみないと何とも言えん。だから、私から言うのも何だが、過度な期待はしないでくれ」

それを見越して二人に釘を刺すト子。
解除出来るか否かは彼女が言った通り実際に首輪の中身を見てみなければ判断出来ない。

「ああ分かった……」
「分かったプリー」
「あ、そうだ(唐突)、外の様子を見てくるゾ」

唐突にMURが自分の武器であるStg44を持って外の様子を見に出掛けた。
時折唐突な行動に出る彼に他の三人は困惑しつつも今では慣れたようだった。
MURは正面玄関の扉を開け、時計塔正面に広がる庭園を見渡す。
少しずつ夜明けが近付き段々と明るくなりつつあるとは言えまだまだ暗い。
夜明け前の外の空気は肌寒さを感じさせる。

「うーん、ちょっと寒いゾ……でも、特に異常は……」

異常は見当たらないとMURが判断しようとした、が、庭園の一部、暗がりになっている場所に視線を移した時、MURの表情が変わる。
その暗がりの所で何かが動いたような気がした。
最初は目の錯覚かと思ったが、よく見ると、そこには確かに何かが居た。
そして「それ」は全身が漆黒で、闇に紛れている――――そこまで分かった時「それ」は暗がりがら跳び上がり、
MURの目の前へと着地した。

「何だコイツ!?」

驚きの声を上げるMUR。
「それ」は、黒い身体を持った大きな犬だった。
しかし、全身が光沢を放つラバーのような質感の甲殻的な物で覆われ所々に筋繊維と思しき物が露出し、
四本の足にまるでナイフのような鋭い爪が付いたその姿は、MURが知る犬のそれとは余りにかけ離れていた。

「獲物見ーつけた……君の他にもこの建物の中に何人か居るみたいだね?
ニオイがするから分かるよ……?」

黒い巨犬は人間の言葉を発した、が、既に喋る馬と会っているMURはそこには特に突っ込む事はしない。

(そう言えば、フグオ君やアルジャーノンが言ってた黒い犬って……もしかしてコイツか?)

先刻にフグオとアルジャーノンから聞かされていた話を思い出すMUR。
もし目の前の犬がフグオとアルジャーノンを襲った犬だとすれば、間違い無く殺し合いに乗っている。

「お前は、殺し合いに乗っているのか?」

確認の為、黒い巨犬に問うMUR。
返答は彼の予感通り、肯定であった。

「そうだよ。思う存分殺しが出来るんだ。こんな良い機会、逃す手なんか無いだろ?」
「くっ……!」

MURは持っていたStg44を構えようとした。
しかし、黒犬がMURに強烈な体当たりを喰らわせる方が早かった。
背後の玄関扉はぶち破り、ホール内をバウンドした挙句壁に激突し、うつ伏せにMURは倒れたまま、ピクリとも動かなくなった。

「人間ってホントに脆いなぁ……うーんこの程度じゃまだまだ気持ち良くなれないや」

MURが死んだと思った黒犬――――ケルベロモンは、
時計塔内へと足を踏み入れ、内部に居るであろう他参加者を探し始める。

程無く、目的の物は向こうから現れてくれた。


◆◆◆


尋常では無い大きな物音が聞こえ、ト子達三人はエントランスホールへ飛び出した。
そこで見た物は、壁際でうつ伏せのまま動かないMUR、
破壊された玄関扉、そして黒い身体の巨大な犬。

「居た居たぁ~、うっふふふ」

ト子達の姿を認め、獲物を見付けた時のそれと同じような嬉しそうな表情を浮かべる黒犬。
その様子を見て、三人は更に黒犬が激しく危険な思想を持っていると判断する。

「ん? あれ? そこのおデブちゃんと馬は……また会ったねぇ」
「な……? お前、まさかあの時の!?」
「僕達を襲った大きな黒い犬キャプ……!?」

黒犬の言で、アルジャーノンとフグオはこの黒犬が数時間前に自分達を襲撃した巨犬と同一人物だと知った。

「また会えて嬉しいなぁ……今度は逃がさないよぉ!」

歓喜の声と同時に、黒犬はト子達に飛び掛かった。

その牙が捉えたのは、アルジャーノンの首。

黒犬は三人の中でまず彼を選んだ、彼は運が無かった。

瞬く間に首の骨をへし折られ、アルジャーノンは呆気無く、そして二度目となる死を迎えた。


【アルジャーノン@オリキャラ/エクストリーム俺オリロワ2ndリピーター  死亡】

【残り  40人】



「ああ、アルジャーノン……!」

目の前でアルジャーノンが惨殺されるのを見て戦慄するト子。

「はぁぁぁ……ん……やっぱり……イイね」

ブルブルと身体を震わせ、目を細め口から血の混じった涎を垂らし天井の方を向く黒犬。

「!?」

ト子は信じがたい光景を見る。
黒犬の股間から、赤い肉の竿がそそり立ち、それが脈打って床に白い液を飛び散らせていた。
それが何なのかは、良く考えなくても分かった。

(嘘……!?)

一体なぜこの黒犬は性的絶頂に達しているのかはト子には分からなかった。分かる筈が無い。
だが、殺しをしておいて精を撒き散らすこの黒犬が異常であると言う事は理解出来、ト子は嫌悪感を覚える。

「もっと、もっと気持ち良くなりたいんだぁ……! 次は君だよ……?」
「!!」

黒犬は次の標的をト子に定める。
牙をにいっと覗かせ嗤うその様は正に狂気を湛えるとしか言いようが無い。

「ああ、名乗っておこうかなあ。俺はケルベロモン……君はとても可愛いから、じっくり引き裂いて――――」

ケルベロモンと名乗った黒犬が嬉々として弁舌をしていた時。

ダァン!! ダァン!! ダァン!!

「ガアアアァアッ!?」

三発の銃声が響き、ケルベロモンが悲鳴を上げた。
何が起きたのかすぐには理解出来なかったト子だったが、ケルベロモンの脇腹から血が噴き出しているのが確認出来、
先程の銃声と状況を掛け合わせてケルベロモンが銃撃されたのだと悟る。

「そこまでだゾ……!」

怒りに満ちた男の声。
ト子とケルベロモンが声の方向へ顔を向ける。
そこには突撃銃を構えるMURの姿が有った。

「MURさん!」
「くっ、生きていたのか……!」
「空手部で鍛えた身体が役に立ったゾ……よくもアルジャーノンを殺したな! 銃殺も辞さない!」

仲間を殺された事により激しい怒りを下手人であるケルベロモンに向けるMUR。

「……人間風情が、舐めるなよ……この子は後だ、今度こそお前の息の根を止めてやる!!」

先程までの甘ったるい口調から一転し、本気の怒号と共にケルベロモンは口から火炎を吐き出した。
ケルベロモン種の必殺技の一つ「ヘルファイアー」である。
地獄の業火を表すその名の通り、人間等一瞬で消し炭にしてしまう程の火力を持った炎がMUR目掛けて吐き出されたのだ。

しかし、MURは紙一重でその炎を躱す。
それでもかなりの熱を感じたもののMURの動きを止めるには至らない。
MURはStg44を構え直し、狙いを定め、引き金を引いた。

ダァン!!

銃口から放たれたその一発の銃弾は、真っ直ぐにケルベロモンの首元へ飛んでゆき、

「ッ!?」

首筋を抉った。

「ガ、ア……! このぉお!! ……う、う?」

なおもMURに向かって行こうとしたケルベロモンだったが、
身体から力が抜け、ガクンと腰を落としてしまう。
意識がどんどん薄れていく。
首の傷口から鮮血がどばどばと溢れ出し、床に赤い水溜りが出来上がっていく。

「え? う、嘘、俺……死ぬの? こんな、こんな、人間なんかに」

ケルベロモンは人間などすぐに壊れる脆弱な存在だと思っていた。
だが、その人間に致命傷を負わされ、彼の命は消えようとしている。
その現実は、彼には受け入れがたい物だった。

「やだ……やだ……俺は、まだ……もっと……気持ち……よ……く」

思考は幾ら拒絶しようと、身体は血液の大量喪失によりその生命維持活動を続ける事が出来なくなり、
やがてケルベロモンはその巨体を横たえ血溜まりの中で動かなくなった。


【ケルベロモン@ゲーム/デジタルモンスターシリーズ  死亡】

【残り  39人】



「ト子ちゃん、大丈夫か?」

MURがト子の元に駆け寄る。

「ああ、私は大丈夫だ……MURさんこそ大丈夫なのか?」
「空手部で鍛えていたからな、ちょっと痛いけど」
「痛いで済むような状況にも見えなかったが……そうだ、フグオ!」
「あっ、倒れてるゾ!」

床に仰向けに倒れているフグオの所へ向かう二人。

「怪我はしてないみたいだな。気を失ってるだけみたいだゾ」
「あんな化物に襲われて目の前で同行していたアルジャーノンが咬み殺されたんだ、無理も無いだろう」
「アルジャーノン……悲しいなぁ……」

仲間の死を悼むMUR。
涙をも流す、が、かなり有り得ない軌道を描いて流れ落ちて行った。

「悲しんでばかりも居られないゾ……アルジャーノンの分も俺達は生きなきゃ(使命感)」
「そうだな……MURさん、今、アルジャーノンと黒犬の死体が有る。
首輪を手に入れるなら今じゃないか……?」
「お、そうだな」

MUR達が欲する首輪のサンプル。
今、死体が二つ有り、ト子の言う通り首輪を手に入れるなら今が絶好の機会だろう。

「アルジャーノンの首を切るのは気が引けるけど……やむを得ないゾ。
でも切断する道具はどうすっかな~」
「確か、アルジャーノンが肉切り包丁を支給されていた筈……使わせて貰おう。取ってくる」

ト子は休息に使っていた部屋へ、アルジャーノンの支給品である肉切り包丁を取りに向かった。

「ん?」

漂ってくる焦げ臭さ。
見ればホールの一角から火の手が上がっている。
先程ケルベロモンが放ったヘルファイアーによる物だ。

「まずいな、消火器は……有った」

置かれていた消火器を手に取り消火を試みるMURだったが。

「……使い方が分からないゾ」

以前学校の防火訓練か何かで消防署の職員が消火器の使い方をレクチャーしていたような気もするが、
もうかなり前の話なのでよく覚えていない。

「えーと、これを、こうで、こうして……」

本体に記された手順を読みながらどうにか消火器を使おうとするMUR。
しかしその間に火の手はどんどん広がっていく。

「よし! じゃあぶち込んでやるぜ!」

ようやく準備が整い、MURは炎に向け消火剤を散布する。

しかし、既に消火器で消せるレベルの炎では無くなってしまっていた。

「……」

空になった消火器を持ったまましばし立ち尽くすMUR。
炎はどんどん燃え広がり、ホールの天井にまで達しようとしている。

「やべぇよ……やべぇよ……」
「MURさん、持ってきたぞ。ついでにフグオの荷物も……うわ! 燃えてる!」

戻ってきたト子が火災に驚く。

「消火器使ったけど間に合わなかったゾ……さっさと用を済ませてここから逃げよう」

一刻も早く首輪を回収して時計塔から避難しなくては。
MURはト子から肉切り包丁を受け取り、ケルベロモンの死体の元に向かう。
先にケルベロモンにしたのは、仲間として行動していたアルジャーノンの死体を損壊するのにまだ抵抗感が有った為である。
肉切り包丁を鋸のように使い、ケルベロモンの首を切断していく。
既に息絶えており、大量の血液が流出した後の為か、もうそれ程血は噴き出さなかった。
包丁越しからでも伝わる嫌な感触を堪えつつ、MURは手を動かし続けた。

ゴリッ、ブチッ。

そして生々しい音と共にケルベロモンの首と胴体が離れる。
それと同時に、念願の首輪を手に入れた。
包丁と首輪に付着した血液を、床に敷かれた絨毯で拭き取るMUR。
その頃には火災はいよいよのっぴきならないレベルになっていた。
煙も充満し始め、熱も凄まじく、ガラスが割れる音も聞こえる。
もはやアルジャーノンの首輪まで回収する余裕は無かった。

「このままじゃ焼け死ぬゥ! もう駄目だ、ここを出るゾ! フグオ君は俺がおぶるゾ!」
「分かった!」

未だ気絶したままのフグオを背負うMUR。
肥満体であるフグオの体重はかなりの負担であったがだからと言って見捨てる訳には行かない。
扉が壊され開放された玄関へとフグオを背負ったMURとト子は向かう。



【黎明/B-6時計塔】
【MUR@ニコニコ動画/真夏の夜の淫夢シリーズ/動画「迫真中学校、修学旅行へ行く」】
[状態]全身にダメージ(行動に支障は無し)、鈴木フグオを背負っている
[装備]ハーネルStg44(26/30)@現実
[所持品]基本支給品一式、ハーネルStg44の弾倉(5)、肉切り包丁@現実、ケルベロモンの首輪
[思考・行動]基本:殺し合いには乗らない。クラスメイトと合流したい。
       1:ト子ちゃん、フグオ君と行動。
       2:時計塔から避難する。
[備考]※動画本編、バスの中で眠らされた直後からの参戦です。
    ※貝町ト子のクラスメイト、鈴木フグオの知人の情報を得ました。

【貝町ト子@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル】
[状態]健康
[装備]トンファーバトン@現実、鈴木フグオのデイパック
[所持品]基本支給品一式
[思考・行動]基本:殺し合いはしないが、必要な時は戦うつもりでいる。
       1:MURさん、フグオと行動。
       2:テトと会ったらどうする……?
       3:太田とその取り巻きには会いたくない。他のクラスメイトとも余り会いたくない。
       4:時計塔から避難する。
       5:首輪を解析したい。
[備考]※本編死亡後からの参戦です。
    ※薬物中毒は消えています。
    ※MURのクラスメイト、鈴木フグオの知人の情報を得ました。

【鈴木フグオ@漫画/浦安鉄筋家族】
[状態]気絶、MURに背負われている
[装備]???
[所持品]基本支給品一式、???
[思考・行動]基本:殺し合いなんてしたくない。小鉄っちゃん達に会いたい。
       1:(気絶中)
[備考]※少なくとも金子翼登場から彼と親しくなった後からの参戦です。
    ※MURのクラスメイト、貝町ト子のクラスメイトの情報を得ました。
    ※アルジャーノンが殺害される所を見て気絶しました。


※B-6時計塔にて火災が発生、消火されなければ時計塔は全焼します。
※アルジャーノンとケルベロモンの死体は時計塔エントランスホールに放置されています。


《支給品紹介》
【肉切り包丁@現実】
その名の通り肉を切る為の包丁。牛刀包丁とも言われる。


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最終更新:2014年09月13日 23:34