16話 バトロワ・脱出の裏技
B-6エリアに存在する時計塔。
修道院としての役割も担っていたのか、礼拝堂や食堂、寝室、図書室等も存在していた。
一階談話室にて、坊主頭の青年、MURはこれからどうするべきか考えていた。
「殺し合いなんて出来る訳無いゾ……」
殺し合いに反抗する意思を述べるMUR。
泣き叫ぶ赤ん坊を家族の目の前で首を吹き飛ばして殺すような者達の言いなりになどなりたくなかった。
そもそも、元々クラスで修学旅行に出掛けた筈なのに、どうしていきなり殺し合いをしなければならないのか。
「野獣やKMR、他にもクラスメイトの奴が何人か居るようだし……。
探し出して合流するゾ。他にも殺し合いする気の無い人が居れば良いんだけどな」
クラスメイトの捜索、及び殺し合いに乗っていない参加者を発見する事を当面の目的と定め、
支給品であるハーネルStg44突撃銃を装備しMURは行動を始めた。
……
……
ジャージ姿の少女、貝町ト子は、時計塔一階の図書室にて目を覚ました。
「……私は生き返ったのか」
自分の身体を一通り見回し、独りごちる。
ト子は一度、別の殺し合いに巻き込まれそこで命を落とした身の筈だった。
ミサイルで上半身を粉々に吹き飛ばされて、生きていられる筈が無い。
だが、今こうして生きている。
それだけでも信じ難い事だったが、何より驚いたのは、死ぬ前は有った筈の薬物への依存心が、
今は微塵も感じられないと言う事だった。
「一体どうして……主催の連中の仕業なのか?」
自分を蘇生させたのも、薬物依存を消し去ったのも、
恐らく、と言うより間違い無くこの殺し合いの主催一派が絡んでいるだろうとト子は考える。
まひろとじゅんぺいにそんな芸当が出来るとはとても思えないが、
考えられるなら二人の言っていた「主」だろうか。
何にせよ、大規模な殺し合いを開催し、人を生き返らせ薬物中毒を消滅させられるだけの技術と財力が有る、
とんでもない人物である事は疑いようが無いだろう。
ともあれ、薬物依存が無くなっていると言う事はもう太田太郎丸忠信の言いなりになる必要も無いと言う事。
自分の行動を妨げる物は何も無いと言う事だ。
「……」
もしもあの時――テトを太田達に売ったあの時より前にこうなっていれば、
テトもあんな目には遭わなかった筈だと、ト子は思う。
(いや、そんなのはただの言い訳だ。私は自分の勝手の為にテトを太田達に売ったんだ。
その事実は変わらない……私は――――)
ガチャ。
「!」
過去を省みていたト子の思考は扉が開く音によって中断させられた。
音のした方向に目をやると、扉を開けた状態でこちらを見ている坊主頭の男の姿を発見する。
「誰だ?」
「待つんだゾ。俺は殺し合いには乗っていないゾ」
男は戦意を否定した。しかし、ト子からすれば簡単に信じる訳には行かない。
「本当か?」
「本当だゾ。その言い方からすると、君も乗っていないのか?」
「……今の所はな。でも、自分の身が危なくなったら、戦う気では居る」
「つまり、積極的に誰かを襲うつもりは無いって事か?」
「ああ……あんたは信じても良さそうだな。私は、貝町ト子」
ト子は警戒を解き、自己紹介をする。
「俺はMURって言うんだゾ。名簿にはアルファベットで載ってるゾ。何でか分からないけど」
続いて男も自分の名前を述べた。
早くも殺し合いに乗っていない参加者を見付けられたのは幸運だとMURは喜ぶ。
貝町ト子と言う少し変わった名前の少女。
エントランスホールへ移動して、彼女と情報の交換を行い始めるMUR。
MURが自分は中学生だと言う事を話すと、ト子はかなり驚いた。
「中学生!? ……いやいやちょっと待て、どう見ても私より年上だぞ」
「何年か留年してるんだゾ……確かにト子ちゃんより年上だけど、まだ中学生なんだゾ」
「そ、そうなのか……」
「クラスメイトも何人かこの殺し合いに呼ばれているから、何とか見付け出して合流したいと思ってるゾ」
「私も……クラスメイトが何人か居るな」
名簿を見ながらト子が言う。
その表情からは何か思う所が有る様にMURには感じられた。
互いの知り合いの情報を簡潔に交換した後MURがト子に尋ねる。
「ト子ちゃんはこれからどうするつもりなんだゾ?」
「この首輪をどうにかして外したいと思っている」
自分の首の首輪に触れながらト子が自分の考えを述べた。
「本気か? 下手に弄ってもこの首輪は爆発するってまひろが言ってたゾ。
ト子ちゃんだって見ただろ? あいつらが赤ちゃんの首を吹き飛ばすのを」
「ああ……だけど、この殺し合いを潰すにしても、この首輪をどうにかしなければならないだろう。
私達参加者の命は、この首輪によって主催の連中に握られているんだから」
「確かにそうだけど……」
ト子の言う通り、殺し合いに本気で反旗を翻す気なのであれば、運営が参加者達の生殺与奪を握る鍵となっている、
参加者全員の首にはめられた首輪を排除する必要が有るだろう。
何しろ運営は好きな時に首輪を起爆させられるし、逃げようとしても同様に起爆するのだから。
しかし、下手に弄っても同じく起爆するこの首輪をどうやって外すと言うのか、そんな方法が存在するのか。
MURは疑問に思う。
「外すって言ってもどうするつもりなんだゾ?」
「私は機械弄りには自信が有るんだ」
ト子には首輪の内部構造さえ分かれば、首輪を解除出来る自信が有った。
自室のパソコンや音響機器を自作する程の工学的知識と、一度見た機械の構造を決して忘れない記憶能力を、
彼女は有していた。
「首輪の内部構造さえ分かれば……」
「成程。となると……首輪のサンプルが必要になるって事だな?
それも、破損が無い完全な状態での」
「そうだ、察しが良いな。MURさん」
内部構造を調べるには完全な、破損の無い状態で首輪を手に入れるのが望ましい。
しかし無理に外そうとすれば爆発するのにどうやって無傷のまま入手するのか。
しばらく考えた二人は同じ結論に達する。
「首を切り落とすでもしない限り不可能だろうな……死体、最悪は殺し合いに乗ってる奴を倒してでも」
「考えたくは無いけど俺もそれしか方法が思い付かないゾ……」
死体の首を切断して手に入れる、最悪の場合は殺し合いに乗っていて尚且つ説得も望めない者を斃してでも。
それ以外に二人は首輪を手に入れる方法は思い付かなかったし、恐らく存在しないだろう。
だが、脱出の為とは言え、人の首を切断すると言う行為に多大な抵抗感が有るのは言うまでも無い。
例えそれが死体であったとしてもだ。
しかし不可避であろう事も二人は分かっていた。
「……首輪についての話は一先ずここまでにしよう。
あっ、そうだ(唐突)、俺の支給品はこの突撃銃だったけどト子ちゃんは何なんだ?」
「私は……」
ト子はデイパック内を探り、自分のランダム支給品を取り出す。
それはトンファーバトンであった。
「上手く使えるだろうか」
「武器じゃない物を支給されるよりは良いと思うゾ……ん?」
MURが何かに気付き、玄関大扉の方に視線を向ける。
「どうした?」
「外から物音が聞こえたゾ。話し声も……誰か来るゾ」
「それは本当か?」
「多分な。取り敢えず、隠れて様子見しよう。
ト子ちゃん(玄関の方)見てないでこっち来て」
MURとト子はホールの、玄関付近が見える物陰へと移動し、様子を窺う。
しばらくして、玄関扉が開いた。
中に入ってきたのは、茶色の馬と帽子を被った太った少年だった。
「広いキャプー」
「誰か居そうだな」
(子供と馬……あの馬喋ってる!? いやまあ獣人が居る位だし喋る馬が居ても別におかしくは無いか……)
(馬が喋るのか……(困惑) いやそれより、あの二人は安全なのかどうか)
心の中で同じ事に対して驚きながらト子とMURは訪問者二人に対し様子見を継続する。
馬と少年が安全な人物であるか否かを判断する為。
見た目や雰囲気、複数行動を取っている等の状況証拠から二人が殺し合いに乗っている可能性は低く見えたが、
まだ確証を持つには至らない。
「さっきの黒犬野郎みてぇな奴は本当に勘弁だぞ……殺し合いに乗ってない奴なら大歓迎だ」
「小鉄っちゃん達居ないかなぁ」
発言の内容から、馬と少年はここに来るまでに何物かに襲撃され命からがら逃げてきた事、
そして殺し合いに乗っていない参加者と合流したがっている事、
更に帽子を被った太った少年の方はこの殺し合いに友人が呼ばれており会いたがっている事――が読み取れた。
つまりあの二人は殺し合いに乗っている可能性は低い――MURとト子はそう判断する。
そして、二人に接触する事を決意した。
◆◆◆
謎の黒犬の襲撃から逃れ、辿り着いた時計塔。
茶色の牡馬、アルジャーノンとその背中に乗る太った少年、鈴木フグオは時計塔の中へと足を踏み入れた。
彼らを出迎えたのは広々としたエントランスホール。
二階へ上がる階段、テーブルと椅子が有り、壁や床、天井は綺麗に掃除され、装飾が施された美しい内装だった。
そして多少の会話をアルジャーノンとフグオが交わした直後。
「おーい」
ホール内に男の声が響き、アルジャーノンとフグオはびくりと反応する。
物陰から、坊主頭の青年とジャージ姿の少女が現れる。
「驚かせて済まない。俺達は殺し合いには乗っていないゾ」
坊主頭の青年は戦意が無い事をアピールする。
「ほ、本当か? 俺達も乗っていないけど……ずっと隠れてたのか?」
「あんたらが安全かどうか様子を窺っていたんだ。
会話を聞かせて貰った……その内容からあんたらは殺し合いには乗っていないと思ったんだ」
アルジャーノンの疑問に少女が答えた。
正直アルジャーノンとフグオはまだ疑念が捨てきれなかったが、
疑ってばかりでも仕方無いと思い、坊主頭青年とジャージ少女の事を信用する事にした。
「俺はMURって言うゾ」
「私は貝町ト子」
「俺はアルジャーノン……」
「鈴木フグオキャプ」
四人はそれぞれ自己紹介をする。
情報交換をする為、四人はエントランスホール西から通じる食堂へと向かった。
特にMURとト子が気になっていたのはアルジャーノンとフグオが襲われたと言う黒い犬であった。
危険人物の事は知っていた方が後々遭遇した時に対処の幅も広がると言う事だ。
「黒いでかい犬だった。鋭い爪と牙を持ってて、いきなり俺達に襲いかかってきたんだよ。
間違い無く殺し合いに乗っているよ。恐怖で錯乱してるって訳では無くてはっきりと俺らを殺す気で来てた」
襲撃された時の事を出来るだけ詳しくMURとト子に話すアルジャーノン。
しかし、月明かりが有ったとは言え深夜の暗い中でしかも切羽詰まった状況だった為、
「黒い犬」の詳細な特徴までは伝えられなかった。
「ごめんな……あんま詳しい姿は分からないんだ」
「いや、十分だゾ。ありがとう……逃げ切れて良かったな」
「やはり殺し合いに乗っている奴は居るんだな……そうだ、フグオだったか?
お前はこの殺し合いに友達が居るのか」
「うん」
ト子がフグオに彼の友達の事について尋ねる。
フグオは名簿を見ながら自身の友達と担任教師の事を話した。
「小鉄っちゃん、のり子、仁、金子先生、春巻先生……あ、金子先生は『先生』ってついてるけど、
あだ名みたいな感じで、小鉄っちゃん達と同じ僕のクラスメイトキャプ」
「そうか……会いたいだろう」
「うん……みんな無事だと良いんだけど」
心配そうな表情を浮かべるフグオ。
突然殺し合いに巻き込まれ、同行者が居るとは言え心細いフグオは友人達との再会を強く願っていた。
「気持ちは分かるゾ。お兄さんも、フグオ君と同じようにクラスメイトが沢山この殺し合いに呼ばれてるんだゾ」
「私も……だ」
「そうなのかプー。MURのお兄さんも、ト子のお姉さんも、友達に会いたいキャプ?」
「お、そうだな。会いてぇなぁ……」
「……ああ」
MURに比べ、ト子はどこか後ろめたそうな感じに言った。
その様子にアルジャーノンが気付いたが特にその理由を尋ねる事はしなかった。
もう少し話をしようと思ったMURとト子だったが、アルジャーノンとフグオの疲労の色を滲ませた表情を見て、
一度休ませた方が良いと判断する。
「疲れてるだろう二人共。確か寝室が有る筈だから、休むと良いゾ。
話の続きはその後でも良いだろう」
「そうするよ……」
「分かったキャプ」
「案内する」
アルジャーノンとフグオはト子に連れられて寝室へと向かった。
◆◆◆
「ただいま」
「おお、おかえりト子ちゃん」
アルジャーノンとフグオを寝室へ送り届けてきたト子がMURの元へと戻る。
「しばらくあの二人を休ませてその後、首輪の話をしよう(提案)」
「そうだな、そうするか」
「しかしだ……あの二人が言っていた黒い犬以外にも、殺し合いに乗っている奴は大勢居るんだろうな……。
その中にクラスメイトが居ないと思いたいけど、多分、そうもいかないゾ」
「……」
ト子は自分のクラスメイトの事――特に、テトの事を思い浮かべる。
この殺し合いで彼女に再会したとしたら、自分はどうすれば良いのだろうか。
謝るのは当然だ。だがきっと謝ったって許しては貰えないだろう。
自分を殺しにかかるかもしれない。
罪の意識が有るのなら黙ってテトの手に掛けられた方が良いのかもしれないが――――。
その前に首輪は何とかしたい。
自分は助からなくても、行動を共にしているMUR達や他の参加者、そしてテトの首にはめられた死の枷を外して、
彼らが生き残れる望みを少しでも大きくしたい。
それは、自分なりの罪滅ぼしの方法、なのかもしれない。
椅子に座って天井を見上げながらぼんやりとト子は思った。
【深夜/B-6時計塔一階食堂】
【MUR@ニコニコ動画/真夏の夜の淫夢シリーズ/動画「迫真中学校、修学旅行へ行く」】
[状態]健康
[装備]ハーネルStg44(30/30)@現実
[所持品]基本支給品一式、ハーネルStg44の弾倉(5)
[思考・行動]基本:殺し合いには乗らない。クラスメイトと合流したい。
1:ト子ちゃん、アルジャーノン、フグオ君と行動。
2:首輪を手に入れる。
[備考]※動画本編、バスの中で眠らされた直後からの参戦です。
※貝町ト子のクラスメイト、鈴木フグオの知人の情報を得ました。
※黒い犬(ケルベロモン)の情報を得、危険人物と判断しました。
【貝町ト子@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル】
[状態]健康
[装備]トンファーバトン@現実
[所持品]基本支給品一式
[思考・行動]基本:殺し合いはしないが、必要な時は戦うつもりでいる。
1:MURさん、アルジャーノン、フグオと行動。
2:テトと会ったらどうする……?
3:太田とその取り巻きには会いたくない。他のクラスメイトとも余り会いたくない。
4:首輪を手に入れ解析したい。
[備考]※本編死亡後からの参戦です。
※薬物中毒は消えています。
※MURのクラスメイト、鈴木フグオの知人の情報を得ました。
※黒い犬(ケルベロモン)の情報を得、危険人物と判断しました。
【深夜/B-6時計塔一階寝室】
【アルジャーノン@オリキャラ/エクストリーム俺オリロワ2ndリピーター】
[状態]肉体疲労(中)
[装備]???
[所持品]基本支給品一式、???
[思考・行動]基本:殺し合いはしない。
1:フグオ、MUR、ト子と行動する。
2:時計塔寝室で少し休む。
[備考]※本編死亡後からの参戦です。
※MURのクラスメイト、貝町ト子のクラスメイト、鈴木フグオの知人の情報を得ました。
※黒い犬(ケルベロモン)の姿は詳細には覚えていません。
【鈴木フグオ@漫画/浦安鉄筋家族】
[状態]健康
[装備]???
[所持品]基本支給品一式、???
[思考・行動]基本:殺し合いなんてしたくない。小鉄っちゃん達に会いたい。
1:アルジャーノンさん、MURさん、貝町さんと行動する。
2:時計塔寝室で少し休む。
[備考]※少なくとも金子翼登場から彼と親しくなった後からの参戦です。
※MURのクラスメイト、貝町ト子のクラスメイトの情報を得ました。
※黒い犬(ケルベロモン)の姿は詳細には覚えていません。
《支給品紹介》
【ハーネルStg44@現実】
第二次世界大戦後期にドイツで開発されドイツ軍で運用された実用的な物としては世界初の突撃銃。
先輩BB劇場においてたまにMURが装備している。
【トンファーバトン@現実】
沖縄の古武道において使用される武器の一つで、
大人の腕より一回りほど大きくした棒の片方の端近くに、垂直になるように短い棒(握り)を取り付けたもの。
アメリカにおいては警棒として使われている。
最終更新:2014年07月19日 22:19