41話 BAD COMMUNICATION
柏木寛子と西川のり子の二人は、D-3エリア南端部に存在する、D-4エリア市街地へと続く橋を渡っていた。
病院にて触手獣人少年による襲撃を受け、同行者だったレナモンが命懸けで二人を逃がした。
レナモンの安否を気にしつつも、彼女の意思を無駄にしない為に寛子とのり子は前に進む。
「街中なら、隠れられそうな場所も多いでしょ」
「せやな。もうウチ足疲れてもうたわ……早く隠れられる場所探そ、寛子ねーちゃん」
「そうね」
二人は市街地へと足を踏み入れる。
幾つか車が路肩に停められ、店舗はシャッターが閉じられている所も有れば開店時同様の状態で放置されている所も有った。
とても静かな、不気味な表通りを寛子とのり子は歩いて行く。
その二人を、路地の物陰から窺う男が居た。
図書館にてクラスメイトとその同行者を殺害しようとしたが、返り討ちに遭い殺し損ねた、ひでである。
襲った二人を取り逃がした後、しばらく図書館内を彷徨いていたひでだったが、
図書館にはもう誰も居らず、また他に人が来る気配も無かった為、図書館を後にし市街地へと向かった。
そして今に至る。
(よーし、今度はあの人達だ……)
装備しているFN P90を携え、ひでは路地裏を飛び出し、足音を立てないようにして二人に背後から近付く。
路肩に幾つも停められた自動車に隠れながら、少しずつ、確実に銃弾が当てられる距離まで接近する。
この時、寛子の少し前方をのり子が歩くような形になっていた。
そして、ひでが適度な距離まで近付き、いよいよ二人に向けて銃口を向ける。
後は引き金を引くだけだ。ひではそう思った。
殺人への抵抗感など最早全く沸き起こらなくなっていた。
「あっ、そうや寛子ねーちゃ……」
のり子が何らかの話を振ろうと寛子の方に振り向いた。
その時、表情が凍り付いた。
寛子の背後に、車の陰から銃と思しき物を構える男の姿が見えたのだ。
「のり子?」
のり子の異変に気付いた寛子が声を掛けた。
直後、のり子は寛子の身体を押し退けた。そして手に持っていた自分の支給品である手斧をその男に向かって投げ付けた。
それと同時に、男――ひでが引き金を引いた。
どうして自分がこんな行動を取ったのか、のり子は自分自身でも分からなかった。
考えるよりも先に身体が動いていたのだ。
その気になれば、寛子を見捨てて自分だけ逃げる事だって出来た筈、だがその気にならなかったからこの行動を取った。
元々縁もゆかりも無い他人だったにも関わらず殺し合いと言う状況下で一緒に行動してくれたと言う事実が、
自分だけ逃げると言う選択肢を咄嗟の判断でのり子に取らせなかったのかもしれない。
結果、放たれた銃弾の雨に、のり子は晒された。
胸と首と頬と左目の辺りに穴が空き、肉片と鮮血がアスファルトに飛び散り、のり子の意識は消えた。
一方のひでも無傷では済まなかった。
のり子が投げ付けた手斧が彼の額に当たる。
「あ゛っ!!」
その衝撃で後ろに倒れるひで。銃撃も弾が切れた事により中断される。
手斧は刺さりはしなかったものの、額が割れドクドクと血が溢れ出す。当然激しい痛みも伴った。
「……のり、子」
のり子に命を救われる結果となった寛子はしばし状況が飲み込めず呆然としていたが、やがて状況を把握すると、
持っていたTNOKの拳銃(通称)を、のり子を撃った男の方に向けて構えた。
「よくものり子を!!」
怒声を発し、寛子は引き金を何度も引いた。
ダァン! ダァン! ダァン! ダァン! ダァン! ダァン!
「痛い!!」
一発がひでの右肩に命中し、悲鳴を上げるひで。
逆に言えばシリンダーに装填されていた六発全て撃ったのに一発しか当たらなかった。
痛みに喚き散らしながら、ひでは路地裏に逃げ込んで行ってしまった。
寛子はひでを追撃しようとして、思い止まる。
のり子をこのままにしてはおけなかった。
寛子は仰向けにアスファルトの上に横たわったのり子の元へ近付く。
「……っ」
ついさっきまで明るい関西弁で喋っていた少女は、今や左目の部分にぞっとするような穴の空いた、
物言わぬ屍と化し、アスファルトの上に赤黒い水溜りを作っていた。
開いたままの残った右目は虚空を見詰めている。
のり子は自分を助けてくれたのだ、元々は赤の他人に過ぎない、少しの間行動を共にしただけの自分を。
あの襲撃者に先に気付いたのはのり子だったのだから、のり子だけ逃げる事だって出来ただろう。
だがそれをせず、のり子は捨て身で自分を助けてくれた。
(私が、先にあいつに気付いていれば、もしかしたら)
自分が先にあの男に気付いていれば、のり子も死なずに済んだかもしれないと、寛子は悔やむ。
その場合自分が殺されていたかもしれなかったが。
何にせよ、のり子は死んだ。
いくら後悔した所で、どうにもならない事は寛子にも分かっていた。
【西川のり子@漫画/浦安鉄筋家族 死亡】
【残り 36人】
【早朝/D-4市街地】
【柏木寛子@オリキャラ/自由奔放俺オリロワリピーター】
[状態]疲労(中)、悲しみ
[装備]TNOKの拳銃(0/6)@ニコニコ動画/真夏の夜の淫夢シリーズ
[所持品]基本支給品一式、.38SP弾(12)
[思考・行動]基本:殺し合いをするつもりは無い。憲悦とは会いたくない。
1:のり子……。
2:どこか隠れられそうな場所を探す。
[備考]※本編死亡後からの参戦です。
※小崎史哉の外見のみ記憶し、彼を危険人物と判断しました。
※ひでの外見は余り把握出来てません。
◆◆◆
「ねぇもうほんと痛い……」
裏路地に逃げ込んだひでは、額と右肩の傷の痛みに苦しんでいた。
無視できない量の血液が傷口から流れ落ち、ひでの衣服や地面を汚す。
手当てが必要な事はひでにも分かった。
「ふざけんなよぉ……どこかで手当てしなくちゃ……」
悪態をつきながら、ひでは手当て出来る場所と道具を探し始めた。
【早朝/D-4市街地】
【ひで@ニコニコ動画/真夏の夜の淫夢シリーズ/動画「迫真中学校、修学旅行へ行く」】
[状態]後頭部に打撲、背中に軽い打撲、額に傷(出血多し)、右肩に盲管銃創(出血多し)
[装備]FN P90(0/50)@現実
[所持品]基本支給品一式、FN P90の弾倉(5)
[思考・行動]基本:殺し合いに乗り、優勝を目指す。
1:クラスメイトと会っても容赦しない。葛城蓮(虐待おじさん)に対しては特に。
2:傷の手当てをする。
[備考]※動画本編、バスの中で眠らされた直後からの参戦です。
※稲葉憲悦、柏木寛子の容姿のみ記憶しました。
《支給品紹介》
【手斧@現実】
小型の斧。片手で扱えるサイズ。「ちょうな」とも。
最終更新:2014年10月07日 21:58