そうです僕は馬鹿なんです

31話 そうです僕は馬鹿なんです

「おいひで、焼きそばパン買ってこいよ。勿論お前の金でな」
「ええ……何で僕が」
「お前あれー……口答えすんだな? お前、今日から……サンドバッグだな」
「やだ! やだ! ねぇ小生やだ! わかったわかったわかったよ、もう!」

「買ってきたよ……」
「おう……エェッ!? ふざけんじゃねぇよオイ! 何でスパゲティパン買ってきてんだおいオラァ!」
「焼きそばパン売れ切れちゃってたんだよぉ」
「本気で怒らしちゃったねぇ! 俺のことねぇ! 本気で怒らせちゃったねぇ!」
「や、やだやだ! やだ! やだちょ、痛い痛い痛い! あああああああああああ!!」

……
……

葛城蓮に虐められていた時の事を思い返すひで。
反抗しても力づくでねじ伏せられていたが、今はサブマシンガンと言う強い武器を持っている。
蓮だってきっと簡単に倒せる筈、ひではそう思っていた。
今の自分なら何も怖い物など無い、とも。

「ん……」

そしてひでは前方に建物を発見する。
それなりに大きな建物で、内部の明かりは灯っているようだ。

「行ってみよっと」

ひではその建物目指し再び歩み始めた。


◆◆◆


遠野と稲葉憲悦は図書館を訪れていた。
館内は照明が灯っており明るかったが、受付にも読書スペースにも人の姿は無い。
規模はそれなりで本は一通りジャンルは揃っているようだった。

「結構広いですね……」
「奥の方も見ておこうぜ。誰か隠れているかもしれないしな」

遠野と憲悦は、警戒しつつ図書館内を見て回る。
遠野はモーゼルKar98kライフル、憲悦は自動車用緊急脱出ハンマーを装備している。
それぞれの支給品だ。
本棚と本棚の間の通路を一列一列確認する二人。
他に、書庫や事務室、学習室、朗読室、視聴覚コーナー、裏口付近も回る。
人影は見当たらなかった。

「どうやら誰も居ないみたいですね」
「そうみてぇだな、ニオイもねぇし……ちっと休もうぜ」
「はい」

安全だと判断した遠野と憲悦は読書スペースに戻って休息する事にした。

「今の所、殺し合いに乗った人とは遭遇してはいませんけど……さっきの白い犬の事も有るし、
乗っている人もそれなりにいるんでしょうね」
「そりゃあ52人も居るんだからな。一人や二人ではきかないだろ」
「僕のクラスメイトにも乗っている人が出てるんだろうか……」
「そういやクラスメイトがこの殺し合いに居るって言ってたなお前」

この図書館にやって来るまでの道中、
歩きながら遠野と憲悦は互いの知り合いについて軽くでは有るが情報を交換し合っていた。

「はい。稲葉さんは、確か柏木さんと言う人を捜してるんでしたっけ?」
「ああ」
「まだ詳しい事伺って無かったんですけど、彼女さんですか?」
「性奴隷」
「は?」

思わず聞き返す遠野。

「だから俺の性奴隷だよ。柏木寛子は」
「え、そう言うプレイとかでは無くて?」
「マジモンだ。親が仲悪くて家出してきたとか何とかで、金が欲しいから身体買ってくれって言ってきたんだ。
可愛かったし丁度玩具欲しかったから、上手く騙して拉致って性奴隷にしたってワケ」
「えぇ……(ドン引き)」
「前の殺し合い……あ、そういや話してなかったな。
俺、殺し合い二回目なんだ。前の殺し合いで一回死んでるんだよ」
「え、何それは」

唐突な新事実の告白に遠野は今度は驚きの表情を浮かべる。

「だから、俺も驚いてるんだよな。死んだと思ったらこうして普通に生きているんだから。
寛子の奴も前一緒の殺し合いに居て、俺は一度会ったきりだったんだけど、あいつも死んだらしいんだよなぁ。
つまり俺も寛子も一度死んで生き返った、って事になるな」
「本当ですか……」
「信じらんねぇか? 無理もねぇけどな、流石にこんな事冗談で言わねぇよ」
「いえ、信じますよ……あの、やっぱりその柏木さんと会ったら」
「無論、ヤるつもりだ。溜まっちゃってさぁ。あいつはきっと嫌がるだろうが、そんなの関係ねー」
「そ、そうですか……会えると、良いですね」

引き攣り気味の笑みを浮かべる遠野。憲悦の話の内容に引いているのは明らかだったが。
当の憲悦は特に遠野の反応は気にしていないようだった。

「……?」

ふと、憲悦の耳が微かに動く。

「どうかしましたか?」
「玄関のドアが開く音が聞こえた」
「え? 僕には何も……」
「俺はワーウルフだからな、人間より耳は良いんだ……誰か来たな」
「本当ですか……」

半信半疑の遠野も、足音がはっきり聞こえてきてようやく憲悦の言う通りだと思った。
いざと言う時の為に二人は武器をいつでも取れる態勢を取る。
そして、彼らの前に、一人の少年が現れた。

「! ひで君? ひで君じゃないか!」

遠野はその少年を知っていた。
少年は彼のクラスメイトの一人――ひでだったのである。

「お前のクラスメイトか?」
「はい」
「遠野君……?」
「ひで君、無事だったんだね良かった。大丈夫だよ。僕達は殺し合いには乗ってないから」

クラスメイトに会えて安心したのか、用心する事も無くひでに話し掛ける遠野。
しかし次の瞬間には、ひでは遠野が全く想像していなかった行動に出る。
持っていた銃を遠野と憲悦に向けたのだ。

「!?」
「……」

瞠目する遠野、身構える憲悦。

「ひで君何をするんだ!」
「見れば分かるでしょ? これから君達を殺すんだ」
「てめぇ、乗ってやがんな」

睨み付けながら憲悦がひでに訊く。

「そうだよ。僕はこの殺し合いに乗ってる。みんな殺して、優勝して、僕だけ生きてお家に帰るんだ!」

白い歯を剥き出しにし目を大きく見開いた狂気そのものの笑顔で、ひでが叫ぶ。

「そんな、どうしてそんな事!」
「うるさいな! そんな事どうだって良いだろ!」

遠野が殺し合いに乗る理由を尋ねてもひではまともに答えようとはしない。
ひでが脅しで言っているのでは無いと言う事は遠野も憲悦も感じ取っていた。
このままでは二人共命は無い、何とか切り抜けなければ。

(一か八か……!)

遠野は意を決し、かなり古典的な方法で切り抜ける事を考え、実行した。

「あ! あれは何だ!?」

遠野はひでの後ろを指差す。
勿論、何も無いのだが。

「えっ?」

ひではあっさりと引っ掛かりまんまと後ろを向いてしまった。

「今です逃げましょう!」
「よし……」

その隙を突いて遠野と憲悦は先程図書館内を探索していた時に見掛けた裏口へ走る。

「あ! 逃げるなぁ!!」

二人の逃走に気付いたひでは激高し持っているP90を二人の方向へ向けて乱射し始めた。

ダダダダダダダッ!! ダダダダダダダッ!!

無数の5.7ミリの銃弾が図書館内の壁や本棚に穴を空け、破れた本の紙が舞う。
しかし肝心の遠野と憲悦には一発も当たらなかった。

「ああああ逃げちゃやだああああ!!」

喚き散らしながら二人の後を追おうとするひでだったが、
床に散らばる本の破片である紙切れで、盛大に滑って、仰向けに転んだ。

「痛い!! 痛いんだよもぉ~……あ……逃げられちゃった……」

床に強か身体を打ち付けた痛いに悪態をつきながら立ち上がると、もう既に二人の姿はどこにも無かった。

「ちぇっ、もう良いや……」

二人の追撃は諦め、ひでは別の獲物を探す事にした。


【黎明/D-3図書館】
【ひで@ニコニコ動画/真夏の夜の淫夢シリーズ/動画「迫真中学校、修学旅行へ行く」】
[状態]後頭部に打撲、背中に軽い打撲、狂気
[装備]FN P90(10/50)@現実
[所持品]基本支給品一式、FN P90の弾倉(5)
[思考・行動]基本:殺し合いに乗り、優勝を目指す。
       1:クラスメイトと会っても容赦しない。葛城蓮(虐待おじさん)に対しては特に。
[備考]※動画本編、バスの中で眠らされた直後からの参戦です。
    ※稲葉憲悦の容姿のみ記憶しました。


◆◆◆


「はぁ、はぁ……ここまで来れば、大丈夫かな……」
「ハァ……ハァ……」

遠野と憲悦は図書館を脱出し、必死に走った末に、
D-3エリア南端の市街地へ続く橋の所まで来ていた。
振り返って確認するがひでは追ってきてはいないようだ。

「遠野、お前ライフル持ってんだから撃っちまえば良かったのによ」
「無理ですよ、構える前に撃たれます。
それに……幾ら殺し合いに乗っているとは言え、クラスメイトをそんな簡単に殺すなんて……」

悲しげな表情で語る遠野。
ひでとは特別友好的だった訳では無い、だが、昨日までクラスメイトとして一緒だった者が、
明確な殺意を持って襲いかかってくると言う出来事は、遠野に大きなショックを与えていた。
ここまで恐ろしく、悲しい事なのか、と。

「まあ気持ちは分かっけどな……殺されちまったら元も子も無ぇぜ。
その内、嫌でもクラスメイトとやり合わなきゃならなくなるかもしれねぇ……覚悟は決めといた方が良い」

口調こそ軽くはあったものの、遠野の甘さを鋭く指摘する憲悦。

「……」

遠野は無言で頷くのみだった。


【黎明/D-3南端市街地への橋付近】
【遠野@ニコニコ動画/真夏の夜の淫夢シリーズ/動画「迫真中学校、修学旅行へ行く」】
[状態]疲労(中)
[装備]モーゼルKar98k(5/5)@現実
[所持品]基本支給品一式、7.92mmモーゼル弾(10)
[思考・行動]基本:殺し合いはしない。
        1:先輩やクラスメイトを探す。
        2:稲葉さんと行動する。
        3:ひで君……。
[備考]※動画本編、バスで眠らされた直後からの参戦です。
    ※野原一家の容姿と名前を把握しています。
    ※ひでを危険人物と認定しました。

【稲葉憲悦@オリキャラ/自由奔放俺オリロワリピーター】
[状態]疲労(中)
[装備]自動車用緊急脱出ハンマー@現実
[所持品]基本支給品一式
[思考・行動]基本:積極的に殺し合う気は無い。寛子を探す。
        1:遠野と行動する。
[備考]※本編死亡後からの参戦です。
    ※野原一家の容姿と名前を把握しています。
    ※ひでを危険人物と認定しました。


《支給品紹介》
【モーゼルKar98k@現実】
第二次世界大戦時にドイツ軍が制式にしていたボルトアクション小銃。
構造、信頼性、命中精度等、当時の小銃としては優秀な性能を誇っていた。
BB先輩シリーズにて遠野がこれを持っているBB素材が有り至る所で使われている。

【自動車用緊急脱出ハンマー@現実】
交通事故や水没事故などで自動車内に閉じ込められたときに、
ウインドーガラスを割って車外に緊急脱出するために使用するハンマー。
今回登場する物は100円ショップで売られている安物。


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最終更新:2014年08月17日 02:30