Exists onry sever lonesome and cruel reality

42話 Exists onry sever lonesome and cruel reality

土井津仁はF-4エリアに存在する警察署を訪れた。
このバトルロワイアルの会場内で唯一確認出来る法執行機関だが、今はその役割は失って久しい。
それなりに大きく目立つ施設なので、内部に誰か居る可能性は高かった。

「行くか」

仁は警察署の玄関を潜って中に入った。
当然かもしれないが、今署内に警官の姿は無い。
今の所は他の参加者の姿も見当たらない。
調達した鉄パイプを右手に持っているが、もし通常の警察署で同じ格好をしていれば、
間違い無く御用となるだろうと仁は思った。

「誰か居るかな」

警察署内の探索を仁は始めた。

◆◆◆

「があああああああああ……があああああああああ……」

宿直室、春巻龍は敷いた布団の上でいびきをかいて寝ていた。
大口を開けて涎を垂らし鼻提灯まで膨らませているその様は殺し合いの下に居ると言う緊張感は微塵も感じられない。
布団の周囲には空になった食物の包装や容器、飲み物のペットボトルや缶、漫画本に雑誌、携帯ゲーム機等が散乱している。

フラウと別れてから、春巻は警察署に籠っていた。
同じく殺し合いに呼ばれている教え子達は放置して自分の身の安全を優先したのである。
これだけ聞けば教師失格の人間の屑がこの野郎……と言う風になるのだが、
「教え子達はタフだから大丈夫だろう」と言うある種の信頼を寄せての行動だったので、
一概にそうは言えない訳無いだろいい加減にしろ!

兎にも角にも、春巻は見付けた宿直室を根城にし、
支給品の食糧や宿直室の冷蔵庫や戸棚等から見付けた食品、飲料を飲み食いしたり、
署員の私物と思われる漫画本や雑誌、携帯ゲーム機を発見しては持ち込んで読んだり遊んだりと、
割と悠々自適な時間を過ごしていた。

そしていつしか彼は眠ってしまった。
無人とは言え警察署で自分の家のように寛いだ末に殺し合いの最中に関わらず眠れるのは、
彼が経験してきた数々の遭難で培われた異常な程の適応能力のおかげか。

そんな春巻の居る宿直室を、一人の参加者が訪れる。

◆◆◆

宿直室から響いてきたいびきに誘われ仁は宿直室の中に足を踏み入れる。
そしていびきの主が自分の良く知る人物であった事に息を呑んだ。

(春巻先生! ……まだ生きていたのか)

仁や、小鉄、のり子、フグオ、金子先生の担任教師、春巻龍。
知人と図らずも再会した仁だったが嬉しさは無い。
自分は殺し合いに乗っている。
例え知人と再会出来ても殺さなければならないのだ。
とは言っても、春巻が相手では、例え殺し合いに乗っていなかったとしても余り喜びはしなかっただろうが。

見れば彼が寝ている布団の周りには食べ物飲み物のゴミやら雑誌やらが散乱し、ここで自由な時を過ごしていた事が窺えた。
仁は春巻が既に死んでいる事も想定していたがどうやらずっとこの場所に留まり生き延びていたらしい。

(いつも通りだなぁ、春巻先生……僕達を捜そうなんて思いもしなかったんだろうな……。
別に全然期待なんてしてなかったけど……)

ぶれない春巻に苦笑いを浮かべる仁。

しかしその笑みもすぐに消え、冷徹な表情へと変わる。
春巻は完全に熟睡している――――今なら容易く始末出来る。
仁は春巻の頭部を見下ろせる位置まで移動し、そこで、春巻の頭部に狙いを定めて鉄パイプを振りかぶった。
このまま鉄パイプを何度も振り下ろせば、簡単に殺せる筈だ。

「ごおおおお……むにゃむにゃ……」
「……」

今まさに命の危機に瀕している事など露知らず、気持ち良さそうに眠っている春巻。

そして、仁は、パイプを振り下ろせずにいた。

(何してるんだ僕……今更迷うなよ)

イベントホールで女子高生を殺した時も、廃城で男子高生を相手に戦った時も、
抵抗なんて無かったのにどうして今更躊躇うのか。
普段煙たがっているとは言え、多くの時を一緒に過ごしてきた事には変わり無い、だからここに来て迷うのか。

(優勝目指すんだろ? 小鉄っちゃん達も、先生も、殺すって……決めただろ!)

心の中で自身を叱咤し、迷いを振り払おうとする仁。
しかし、もたついていたせいで仁にとってまずい事が起きてしまう。

「ん……ん?」
「!」

春巻が目を覚ましてしまった。

安眠から目覚めた春巻龍の視界に映った物は、見覚えのある顔。
坊主頭に額に星印の有る、強面の少年。

「仁……?」

寝ぼけ眼ながらも、春巻はそれが教え子の一人、土井津仁である事を認識した。

「何やってんだちょ……ん?」

同時に、仁が寝ている自分の頭上で、鉄パイプと思しき物を振りかぶっている事にも気付いた。
それを確認した途端、春巻の眠気が急速に覚めていった。

「うおおあああああああ!!」

次の瞬間、仁が絶叫しながら、鉄パイプを春巻目掛けて振り下ろした。
全力で身体を横に転がせる春巻。
そしてほんの一瞬前まで春巻の頭が有った辺りに鈍い音を立てて食い込む。

「何すんだホイ!? 仁!?」
「死んで、貰います」

息を荒げながら、春巻を睨んで仁が殺意を剥き出す。
その表情には殺意のみならず、どこか辛さが籠っていた。

これ以上は、春巻と会話する訳にはいかない。
これ以上躊躇っていれば、自分は春巻を殺せなくなってしまうだろう。
迷いは捨てろ。心を鬼にしろ。友達だろうが、担任だろうが、殺さなければならないのだ。

仁は必死に自分に言い聞かせていた。

「死ね!」

そしてなりふり構わず、春巻に向かって鉄パイプを振り回す。

「うわあああぁあああ!!」

悲鳴を上げながら、紙一重で鉄パイプによる殴打を避ける春巻。
しかし、このままでは間違い無く殺されてしまうだろう。
仁は本気で殺しに掛かっている。何とかしなければ。
そうだ、あれが有る――――春巻はゴミの中に手を突っ込み「それ」を取り出した。
「それ」は、春巻の支給品であり、ゴミに埋もれていた為、仁は気付かなかったのだ。

大型自動拳銃、オートマグ。

これを使えば切り抜けられる。殺されずに済む。
だがそれが意味する事に、この時の春巻は考えを巡らせるだけの余裕が無かった。
両手でそれを構え、引き金を引いた。

ドォン!!

狭い部屋の中、爆発音にも似た音が響き、銃など撃った事も無い春巻は余りの反動に引っくり返って壁に頭をぶつけてしまう。
そして、仁は。

「あ゛っあ゛っあ゛っあ゛っ」

右手の手首から先が無くなり傷口から噴水のように血液が噴き出し、それを驚愕と苦悶が混ざった表情で仁が見詰めていた。
床に転がった鉄パイプに握られたままの手が殆ど肉塊のようになってこびり付いている。
オートマグの強力な.44AMP弾の弾丸は、子供である仁の右手など簡単に吹き飛ばしてしまったのだ。

「あ゛あ゛あ゛ーーーーーー!!?」

今まで感じた事の無いような激痛に半狂乱になり床に転がってのたうち回る仁。
止めど無く噴き出す血は部屋中を赤く汚していく。
春巻はそれをブルブルと震えながら見守る事しか出来なかった。

「あはっ、あはは」

突如、仁が笑い出す。
明らかに笑える状態でないのに笑い出したと言う事は、彼が壊れてしまった事を意味していた。

「てく、び、手首、無くなっちゃったあははははははははははははっ、
あはははははははははっハハハはははははっあは、あははは、はは、は――――」

狂った笑いを一頻り上げた後、仁は自分の血と春巻の出したゴミですっかり汚くなった布団の上に崩れ落ち、
ピクン、ピクンと何度か痙攣を起こし、そして、動かなくなった。

「あ……あ」

震えたまま呆然としている春巻。
彼が仁を撃った事自体は恐らく正当防衛であろう。
しかし、理由や状況がどうあれ、彼には「教え子を、知人を殺した」「人を殺した」と言う現実が重くのしかかった。

「ヴッ……ア゜エ゛エエエエエエエエエエエエエエエ!!!!」

漂ってくる濃厚な血臭に、春巻は強烈な吐き気を催し、抑える間も無く嘔吐した。
寝る直前まで飲食していた為に吐瀉物は多く、長く苦しむ事になる。
何度も何度も嘔吐を繰り返し、胃液すらも吐き尽くす。
血の臭いに加え吐瀉物の悪臭まで加わり宿直室は最早その役割をもう二度と果たせないであろうレベルにまで汚濁していた。

「あっ……かっ……あ゛っ……」

ようやく嘔吐を終えた春巻の目には涙が滲んでいた。
幾度もえずいたせいでの涙も勿論有った。
だが、実際は、教え子を殺してしまった事への罪悪感からの涙であった。


【土井津仁@漫画/浦安鉄筋家族  死亡】

【残り  35人】



【早朝/F-4警察署一階宿直室】
【春巻龍@漫画/浦安鉄筋家族】
[状態]後頭部に軽いコブ、吐き気、罪悪感、悔恨
[装備]オートマグ(6/7)@現実
[所持品]基本支給品一式(食糧全て消費)、オートマグの弾倉(2)
[思考・行動]基本:自分が生き残る事を優先する。でも一応小鉄達の事も心配ではある。
       1:仁……どうして……。
[備考]※少なくとも元祖!にて再び小鉄達の担任となった後からの参戦です。
    ※フラウのクラスメイトについての情報を得ました。


《支給品紹介》
【オートマグ@現実】
1969年に発表、1970年より発売された世界初のマグナム弾を使用する自動拳銃。
構造や素材、弾薬に問題が有り動作不良が多く商業的には成功しなかったが、
独特の美しいデザインから人気は高い。
本ロワの物は.44AMP弾仕様の最も生産されたモデル。


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最終更新:2014年09月18日 22:50