52話 人間の屑がこの野郎……
油谷眞人はF-5エリア住宅街のとある民家にてしばらく休憩した後、E-4エリアの市街地方面へと出発した。
近くに二人の参加者が民家に隠れ乳繰り合っていたのだが彼は気付かなかったようだ。
そしてE-4エリア市街地の、東端部に当たる場所に差し掛かった時、第一回目の放送の時間となった。
『えー、ン゛ン゛ッ、現在生き残ってる方々、どうも、お久しぶりです。じゅんぺいです。
えー、午前6時となりましたので、第一回放送を開始したいと思います』
「相変わらずひでぇ滑舌……」
開催式の時と同じく滑らかで無いじゅんぺいの弁舌に苦笑する眞人。
放送ではまず禁止エリアが発表される。
午前7時、つまり今から一時間後にA-6、B-3、C-1、F-5の四つのエリアが禁止エリアになるとの事。
先述の通りF-5エリアは眞人が休憩していた場所であり、出発して正解だったと眞人は安堵した。
続いて死亡者の発表になり、19人の名前が呼ばれた。
現在の生き残りは自分を含め33人。
眞人にはこの殺し合いに知人は居ないので重要だったのは死んだ人数と残りの人数だ。
『我々の主が、非常に良いペースだと喜んでおり、ました。
ので、この調子で生き残っている皆様、ン゛ッ、更に奮闘して下さい。
それでは、次の放送は昼の12時になります。
これにて、第一回目の放送を終了致します』
放送が終了し、再び会場が静けさに包まれる。
「残りは俺入れて33人か……今の所は特に問題らしい問題は無いな。
……前の時みてぇに、運営の連中が妙な気まぐれ起こさなきゃ良いが」
以前の殺し合いでも眞人は生き残る為に殺し合いに乗り、キルスコアを稼いでいた。
だが、運営の狼獣人の男が気まぐれを起こし、生き残り全員を集めて男とのジャンケンで生存者を決めると言うルールに変更された。
眞人の奮闘は全て無駄に終わり、その上、眞人は男とのジャンケンに負け、一度目の死を迎えた。
彼が危惧するのはそうした気まぐれを今回の殺し合いの運営が起こさないかどうか。
優勝し生き延びる為に殺し合いに乗り、戦っているのだからそれらが無駄になるような真似だけはしないで欲しいと眞人は願った。
◆◆◆
市街地の路地裏、飲食店のゴミ置き場脇に有る裏口の小さな階段に、春巻龍は腰掛けていた。
表情は暗く沈んでおり、いつもの彼が浮かべている能天気さは微塵も感じられない。
警察署にて、正当防衛だったかもしれないが、春巻は自分の教え子の土井津仁を死に至らしめた。
その後、何をどうしたのか、良く覚えていない。
気が付いた時春巻は市街地の路上に立っていた。
警察署を出て市街地までやって来たのだろうが、教え子を殺害したショックによる錯乱のせいか、
道中の記憶が殆ど欠落してしまっていた。
今までどんな問題行動、犯罪行為をしでかしてきても、
彼は大して罪悪感を感じなかった(彼に悪意が一切無い、遭難して追い詰められていたなど一応それなりの理由が有るのだが)。
しかし、教え子の殺害と言う行為は、春巻にかつて無い程の、それこそ押し潰されてしまいそうな程の罪悪感を感じさせていた。
そして第一回放送にて、彼は仁と同じく教え子の西川のり子が死んだと知らされる。
「のり子、死んでしまったのかホイ……」
馬鹿で元気な、この殺し合いにも呼ばれている大沢木小鉄と並ぶ活発かつタフな関西娘、西川のり子。
春巻も幾度となく彼女からの鉄拳制裁を受けたりした。
しかし小鉄らと共に引越しを手伝ってくれたり、優しい面も持っていた。
そんな彼女が死んだ、とじゅんぺいは言っていた。
どこで、どういう最期を遂げたのかは分からないが。
「……今まで、どんな目に遭っても生き延びて、きたけれど……」
数々の遭難を乗り越えてきた春巻だったが、今回ばかりはもう生きて帰れないかもしれないと悲観する。
突然殺し合いに巻き込まれ、仁に殺されそうになり、その仁を殺した事で、彼はすっかり精神的に参ってしまっていた。
「俺はどうすれば……」
弱った思考力なりに彼は考える。
死にたくない。
殺し合いには乗りたくない。
一人は淋しい。
怖い。
助けて欲しい。
頭を抱え、ガクガク震えながら、春巻が導き出した結論は。
「みんなを、捜すちょ……!」
生き残っている生徒――――小鉄、フグオ、金子翼を捜し出し、仲間にして貰う事だった。
仁を殺した自分を受け入れてはくれないかもしれない。
だがそれでも春巻は教え子達を捜し出したかった。
孤独はもう今の彼には耐えられそうに無かったから。
誰かと一緒になりたい。教え子で無くても良い、殺し合いに乗っていない者と会って一緒に居させて欲しい。
あの時――――警察署でフラウと別れるんじゃなかった。
あの時一緒に行っていれば、こんな淋しい思いも、仁を殺す事だって無かっただろうに。
春巻はフラウと別行動を取った事を、今になって激しく後悔した。
「行くホイ……」
春巻はゆっくりと立ち上がり、身を潜めていた裏路地から、表通りへ出た。
「あぁ? おい」
「え……」
出た直後に、一人の少年と鉢合わせになる。
中高生と思しき、黒い学ラン姿の長身の少年で、抜き身の剣を装備していた。
「あ、あの……」
春巻はその少年が殺し合いに乗っていない可能性に賭けて、彼に話し掛けた。
しかし、その賭けは失敗に終わる。
少年は無言で、春巻に向け持っていた剣を振ったのだ。
ヒュンッ
風を切る音と同時に、春巻の左肩から腹にかけて、浅く致命傷には至らないものの袈裟型の傷が出来、赤い液体が滲み出た。
「……あああああぁああぁああ!!?」
傷の痛み、突然に向けられた殺意、精神的ショックで、春巻は絶叫した挙句尻餅を突く。
この少年が殺し合いに乗っている事はもはや明らかであった。
少年は春巻を睨みにがら剣を右手ににじり寄って来る。
このままでは間違い無く殺される。
死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。
「やめてくれぢょ!! 嫌だ!! やだああああぁああああああぁあ!!! やだあああ!!」
恐怖に駆られた春巻は少年を一瞬驚かせるぐらいの大声で悲鳴を上げながら逃げようとした。
だがすぐに足がもつれて倒れ込んでしまう。
春巻は自分の支給品である大型自動拳銃を所持しデイパックの中に入れていたが、この時彼はその事を完全に失念してしまっていた。
涙と鼻水で顔をくしゃくしゃにして、春巻は土下座して命乞いを始めた。
「お願いじます!! 殺さないでぐだざいぢょ!! 命だけは!! 命だげは勘弁じでぐれホイ!!!」
アスファルトに額を擦りつけ、大粒の涙を流し鼻水と涎を垂らし、小便まで漏らし震えながら、春巻は命乞いをした。
このような必死の命乞いなど、彼の人生の中で生まれて初めてであっただろう。
「……チッ」
余りに情けない春巻の姿に、苛立ったのか少年が舌打ちをした。
「おい、おっさん」
「ひっ!!」
「行けよ。見逃してやるよ」
「え? い、良いのかチョリソー?」
あっさりと命乞いを受け入れてくれた少年に驚き、思わず聞き返す春巻だったが。
「テメェなんか殺す気にもなれねぇよ。俺がやんなくたって野垂れ死ぬわ!
余計な体力使いたくねーんだよこっちだってよ! オラとっと失せろや!! ウゼーんだよクソが!!」
「うっ、あ、ああぁああっ!!」
少年に凄まじい罵声を浴びせられ、春巻は漏らした小便を垂らしながら走り出した。
普段から周囲に迷惑ばかり掛けている厄介者で。
教え子を殺してしまって。
命乞いして醜態を晒して敵に情けを掛けられて。
泣きながら、小便を漏らしながら逃げて。
自分は、生きている価値など少しでも有るのか。
「あああぁああ、ああぁああああああぁあ……」
嗚咽を漏らし、小便を路上に垂らし、
傷心しきってかつて無いぐらい精神が追い詰められた哀れな男は宛も無く走り続ける。
【朝/E-4市街地東部】
【春巻龍@漫画/浦安鉄筋家族】
[状態]精神的疲労(極大)、中程度の錯乱状態、後頭部に軽いコブ、
上半身前面に浅い袈裟の傷、嗚咽、失禁、宛も無く走っている
[装備]無し
[所持品]基本支給品一式(食糧全て消費)、オートマグ(6/7)@現実、オートマグの弾倉(2)
[思考・行動]基本:自分は……生きている価値なんて有るのだろうか。
1:助けて欲しい。
[備考]※少なくとも元祖!にて再び小鉄達の担任となった後からの参戦です。
※フラウのクラスメイトについての情報を得ました。
※油谷眞人の外見のみ記憶しました。
※かなり精神的に追い詰められています。正常な判断が下せるか怪しいです。
◆◆◆
裏路地から出てきた男を、油谷眞人は殺そうとした。
しかし、男は泣き叫び失禁までしながら眞人に命乞いをした。
それでも殺そうと思えば殺せたのだが、男が見せるあまりに情けない見苦しい有様に、眞人は虫唾が走り、
殺す価値も無いと見做して逃がした。
その際散々に罵った所、泣きながら男は逃げて行った。
「……ったく、殺す気も失せるわ、あんな奴……前の殺し合いでもあんな奴居たなそういや」
似たような光景を眞人は以前の殺し合いでも見ていた。
同行者を眞人に殺され、更に顔を殴られた雄の妖犬が、今の男のように必死に命乞いをし、
結果、今の男と同じように眞人は呆れてその犬を見逃した。
もっとも、その時は今の男程、罵声を浴びせなかったし、その犬も結局眞人が去った後死んでしまったようだが。
「まあ良いか、さて、他の奴捜すか」
眞人は気持ちを切り替え、索敵に戻る。
逃がした男が、深夜に古城にて交戦した少年の担任教師である事など、彼は知る由も無い。
【朝/E-4市街地東部】
【油谷眞人@オリキャラ/
俺のオリキャラでバトルロワイアル3rdリピーター】
[状態]健康
[装備]古びたショートソード(調達品)
[所持品]基本支給品一式、メリケンサック@現実
[思考・行動]基本:生き残る為に殺し合いに乗る。
1:他参加者の捜索。
[備考]※本編死亡後からの参戦です。
※土井津仁、春巻龍の容姿のみ記憶しました。
最終更新:2014年10月26日 23:17