66話 Sacrifice Of The Vision
夜明け前と第一放送後しばらくして行われた戦闘によって、D-3エリアに存在する図書館の内部はすっかり荒れ果てていた。
床に散らばる無数の紙切れ、テーブルや壁に無数に空いた銃痕。
ドミノ倒しの如く連なって倒れた本棚にそれの下敷きとなって血を流して死んでいる灰色のガーゴイル獣人の男。
ただ、直接の死因は首の刺し傷のようだったが。
「こいつ、あの時の怪物じゃないの……」
図書館を訪れた野原みさえがガーゴイルの死体を見付ける。
それは紛れも無く、C-2エリアのガソリンスタンドにて、自分を気絶させて武器を奪っていった張本人だった。
「あはは、ざまあないわねぇ、あんだけ偉そうな事言っておいて、あっさり死んでるじゃないの……。
……私の武器が有る筈、どこなの……」
ガーゴイルの死を嘲笑った後、みさえは彼に奪われたであろう自分の武器がどこか探し始める。
しかし見付からない。どうやら彼と一緒に本棚の下敷きになっているらしかった。
本棚をどかすのはみさえの力以前に一人ではほぼ不可能に等しい。
「折角見付けたのに……これじゃどうにもならないじゃない」
武器を取り返せると思っていたみさえは落胆する。
尤も彼女のサーベルはガーゴイルを殺した者が持ち去ってしまっていたのだが、彼女が知る由も無い。
「……!」
落胆していたみさえの耳に、玄関方向から物音が届く。
誰かがやってきたらしい。
今持っている武器はガソリンスタンドでくすねたモンキーレンチのみ、真正面から挑むのは今のみさえでも無謀だと判断出来た。
やむを得ず、みさえは奥の方にある通路へと向かい身を潜めた。
◆◆◆
工場を出発して図書館へとやってきた、虐待おじさんこと葛城蓮、シルヴィア、ガルルモン、北沢樹里の四人。
そこで彼らが見付けたのは、荒れ果てた館内の惨状と、ガーゴイル獣人の無残な死体。
「これは酷いな、首を何度も刺されている。
状況から見て、本棚の下敷きになって、身動きが取れない所を滅多刺しにされたんだろうな」
「酷いね……それに、この有様。何度かここで戦闘が有ったみたいだね。いや、一回だけかもしれないけど」
死体や、図書館内の様子を見てそれぞれ感想を述べる蓮とシルヴィア。
「まだ奥が有るみたいだけど、誰か居たりしないかな」
図書館の奥の方を見ながら、樹里が他に隠れている者が居ないか懸念する。
それを聞いた蓮はガルルモンに様子を見てくるよう言った。
「ガルルモンちょっと見てこい」
「俺一人?」
「あ、言う事聞かないのか……」
「ヤーキクキク!」
「まあ確かに一人は危ないね、私も行くよ。蓮と北沢は待っててくれ」
シルヴィアがガルルモンと一緒に様子を見に行く事になる。
ガルルモンは少し安心しているようだった。
倒れた本棚達を乗り越え、ガルルモンとシルヴィアは奥の通路の中へ入る。
小さな個室が幾つか並んでいる、どうやら学習室のようだった。
扉のガラス窓からシルヴィアが中を覗くと、テーブルと向かい合うように置かれたパイプ椅子が有る質素な部屋が見えた。
「私はこっちを見てくから、アンタは反対側見てってくれ」
「あ、ああ」
ガルルモンは向かって左、シルヴィアは右の個室を見て行く。
個室は全部で八つ有り、何れも同じような構造と内装だった。
(ここ、来る時に見たけど辺りに何も無い、凄く辺鄙な場所なのに、わざわざ町から遠いここまで、
勉強しに来る人なんて居たんだろうか)
そんな事を考えながら、シルヴィアは右側の四つ目、つまり最後の個室の扉を開けて中に入った。
ドゴッ
「う゛あっ」
入った直後、シルヴィアは後頭部に衝撃を感じ、意識が遠のいてその場に倒れ込んだ。
(な……襲撃……!?)
そう思った直後に再び後頭部に衝撃が走り、シルヴィアの意識は途絶えてしまう。
「ここにも居ないか……あれ?」
通路に出たガルルモンは異変に気付く。
奥の個室の入口付近にシルヴィアの足が見える。
十中八九、倒れているようだった。
何故倒れている? 何か有ったからに決まっている。
「シルヴィア!?」
ガルルモンがシルヴィアの元へ駆け寄る。
しかし辿り着く直前に、個室から見知らぬ人間の女性が飛び出してきた。
驚いて立ち止まるガルルモン、それが命取りとなる。
女性はガルルモンの首に何かを素早く巻き付け、思い切り締め上げた。
「がっ!? ア゛ッ、ゲウウッ!? ヴッ!」
一気に呼吸困難になったガルルモンは必死に逃れようと暴れるが、女性は全く離そうとしない。
息苦しさに足をばたつかせ、助けを呼ぼうとしても声は出ず、口から泡が吹き出し目は充血して涙が溢れる。
「グッ、グッ、グッ、ヴッ」
白目を剥き、身体が痙攣し、いよいよ死が近い事をガルルモンは悟る。
(俺、死ぬの!? 死んじゃうの? 嫌だ!)
自分が死ぬと言う現実を受け入れられないガルルモンだったが、彼の意思と相反して、
彼の身体は生命維持活動を停止させていく。
(嫌だ、嫌だよ、こんな所で死にたくないよぉ!
こんな、訳の分からない、ゲームで、まだ、一度も、女とヤってないのに、ぃ!
ヤ、だ、たすけて、蓮さん、樹里、シルヴィ、ア、だれでもいいから、やだ、や、だ、しにた、く、な――――)
彼の願いは届く事は無く、ビクッ、ビクッ、と大きく身体が震えたのを最後にガルルモンは脱力し、死んだ。
【ガルルモン@ゲーム/デジタルモンスターシリーズ 死亡】
【残り 27人】
◆◆◆
巨大な犬が動かなくなったのを確認すると、みさえは彼を首り殺すのに使った自転車のチェーンを解いた。
今しがた殴って倒した猫耳少女から奪い取った物だ。
他にも自動拳銃と予備のマガジンを回収した。
銃を使っても良かったがそれだと大きな音が鳴るだろうし、そうなると残りの二人もここへやって来て数的に不利になる。
それに限り有る弾薬は節約したい。
(ああでも、この犬結構暴れたからもう気付かれたかも)
みさえの危惧はすぐに現実の物となる。
「おいお前!」
読書スペースの方から残りの二人、男と少女がやって来たのだ。
「ガルルモンが! シルヴィアさんは!?」
「お前がやったのか!」
「……」
みさえは二人と会話するつもりなど毛頭無く、自動拳銃を二人に向け発砲した。
ダンッ! ダンッ!!
「うおっ!」
「く……」
二人は銃撃を避ける為死角に隠れる。
それを見たみさえはこのまま押し切れるのではと思ったが、直後、少女からの銃撃を受ける。
ダァン!! ダァン!!
幸い銃弾は当たらなかったが、力押しは無理だと判断し、
武器も手に入れたのだからさっさと逃げようと考えたみさえは奥に見える窓に向かって走ろうとした。
しかし、先程の猫耳の少女が意識を取り戻しており行く手を阻んだ。
「待て……!」
「邪魔よ」
怒りの形相で向かってくる猫耳少女に向かってみさえは引き金を引く。
ダンッ!!
「がはっ……」
銃弾は少女の胸に命中し、血飛沫が上がり猫耳少女は再び倒れた。
これ幸いとみさえは窓を目指して走る。
「シルヴィアさん!」
「ふざけんじゃねぇよオイ! 何やってくれてんだオラァ!」
背後から聞こえる怒声も無視し、窓に辿り着くとみさえはそれを開けて外に飛び出し、全力で図書館から離れた。
彼女が襲撃した四人の内の一人が、息子を看取った本人である事などみさえは知らない。
【午前/D-3図書館周辺】
【野原みさえ@アニメ/クレヨンしんちゃん】
[状態]精神に異常、左肩に擦過銃創、全身にダメージ、図書館から離れるべく走っている
[装備]デトニクス スコアマスター(7/7)@現実
[所持品]基本支給品一式、スコアマスターの弾倉(3)、自転車のチェーン@オリキャラ/自由奔放俺オリロワリピーター、モンキーレンチ(調達品)
[思考・行動]基本:優勝してひまわりを生き返らせる。
1:他参加者を捜し出して殺す。
2:しんのすけ、ひろし、シロはひまわりと一緒に生き返らせる。
[備考]※幾分落ち着いたようですが正常な思考は出来ません。
※ソフィア、呂車、虐待おじさん、北沢樹里の容姿のみ記憶しました。
※
第一放送を聞き逃しました。しんのすけ、シロの死を知りません。
◆◆◆
全員で行くべきだったと、蓮は自分の判断を悔やんだ。
ガルルモンは死に、シルヴィアも虫の息になっている。
「シルヴィアさん! しっかりして!」
「シルヴィア!」
「う……う……」
胸に空いた銃創からは夥しい量の血液が溢れており、致命傷である事を二人に示す。
止血出来そうな道具はどこにも無く、出来たとしてもその後の処置が出来ない、詰みの状態であった。
「くそっ……こんな所で……! 折角生き返れたって言うのに……ガハッ!」
「喋るなシルヴィア!」
「いいさ、蓮……もう、助からないよ……はは、前よりは、マシな死に方かな……」
既に死を覚悟していたシルヴィアは以前の殺し合いの時の死に方と今回の最期を比べ、乾いた笑いを浮かべた。
「ガルルモン、は」
「死んだわ……」
「そう、か……なぁ、二人共」
シルヴィアの言葉に二人は耳を傾ける。それはきっと遺言であろうから。
「生き残れよ、絶対に……蓮、あんたは、強いし頼れる、から……生きて、他に殺し合いに反抗している奴らと、
協力して……この殺し合いを、潰してくれよ……」
「ああ、必ずやってやるよ」
「……北沢、前の殺し合いであんたが何やらかしたのかは……知らないけど、
もし申し訳無いって思うのなら、生きな……生きて罪を償うんだ……」
「分かった、分かったよ」
「……」
もうシルヴィアには二人の顔も良く見えず、音も遠い。
そろそろか。
シルヴィアは最期の台詞を口にした。
「……サーシャに、会ったら……私の事……伝えて、おいて……私は……もう……眠……る……から……さ……」
「「!」」
シルヴィアの目が閉じられた。
そして、もう開く事は無かった。
「シルヴィア……くそっ……!」
「……」
やり場の無い怒りと悲しみ、悔しさが、生き残った蓮と樹里の心中に渦巻いていた。
二人を殺した女性こそが、自分が看取った野原しんのすけの母親、野原みさえなのだが、
突然の事態だった故に、樹里はまだその事に気付いていなかった。
【シルヴィア@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル 死亡】
【残り 26人】
【午前/D-3図書館学習室区画連絡通路】
【北沢樹里@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル】
[状態]悲しみ
[装備]S&Wスコフィールド・リボルバー(4/6)@オリキャラ/エクストリーム俺オリロワ2ndリピーター、
[所持品]基本支給品一式、出刃包丁@現実、.45スコフィールド弾(12)
[思考・行動]基本:殺し合いには乗らない。
2:……。
3:もし、しんのすけの両親に会ったらどうする?
[備考]※本編死亡後からの参戦です。
※野原一家の詳しい特徴をしんのすけから聞いています。但し襲撃者が野原みさえだと言う事にはまだ気付いていません。
【虐待おじさん@真夏の夜の淫夢シリーズ/動画「迫真中学校、修学旅行へ行く」】
[状態]悲しみ
[装備]無し
[所持品]基本支給品一式、手榴弾(2)@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル
[思考・行動]基本:クラスメイト(特にひで、KBTITこと拓也)や殺し合いに乗っていない参加者を集め、殺し合いを潰す。
1:シルヴィア、ガルルモン……。
2:襲い掛かってくる者には相応の対処をする。
[備考]※動画本編、バスの中で眠らされた直後からの参戦です。
※元動画準拠なので、本名は「葛城蓮」、平野源五郎とは面識が無い設定です。
※シルヴィアのクラスメイトの情報を当人から得ました。
※シルヴィアが一度死んだ事、殺し合いが二回目である事、以前の殺し合いに乗っていた事を知りました。
※野原みさえの外見のみ記憶しました。
最終更新:2015年01月24日 23:00