(……サーシャさんにシルヴィアさんの事言わないと)
樹里は、かつて共に行動していたシルヴィアの事をまだサーシャに話していない事を思い出し、サーシャの元へ向かう。
「あ、サーシャさん」
「ん?」
「話しておきたい事が有って……」
工場にて虐待おじさんこと葛城蓮、ガルルモンと一緒に居たシルヴィアと遭遇し、そこからしばらく共に行動した事、
図書館にて野原みさえの襲撃を受け、ガルルモンと共にシルヴィアが殺害された事、
シルヴィアが死の間際、自分の事をサーシャに伝えて欲しいと言い残した事を、樹里はサーシャに話した。
「……ありがとう」
悲しげな表情を浮かべながら、サーシャは樹里に礼を述べた。
樹里もまた用事は済んだので、サーシャから離れる。
普段からサーシャがシルヴィアに良く接触し、気に掛けていたのは知っていた。
この殺し合い、前回の殺し合いでもそうだろうが、さぞ心配していた、会いたかったであろう。
彼女の心情は察するに余り有った。
樹里より、シルヴィアの行動、最期の様子について聞かされたサーシャ。
この殺し合いに反抗し、最期の時に名前を出す程度には自分の事を気に掛けていた、と言う。
(殺し合いに乗らないで、頑張ってたんだね、シルビー……)
前回の殺し合いで彼女がどう言うスタンスを取っていたかは分からないが、
少なくとも今回の殺し合いでは、仲間と協力しゲームに抗っていた。
もし、生きて自分達と合流出来ていたのならきっと心強い味方になってくれたに違い無い。
いやそれよりも何よりも会って話をしたかったな、とサーシャは思う。
……
……
MURはラトに、野原ひろしについての話を聞く。
かつてラトと共に行動していた筈の野原ひろしは、
第二放送で妻のみさえと一緒に死者としてその名を呼ばれた。
ラトはこうして生きてはいるものの腹に大怪我を負い、何かが有った事は明白。
MURはそれを知りたかった。
「一体何が有ったんだゾ?」
「……あの後……イベントホールから出た後……」
ラトは野原ひろしと共にイベントホールから出発した後から今に至るまでの出来事を語る。
市街地へ向かい、そこで同行者を喪い単独行動していた北沢樹里と出会った事。
程無くして、ひろしの妻、みさえと遭遇し、ひろしは喜んだが、矢先にみさえはひろしを銃撃しラトも同様に撃ち抜いた事。
「何だそれは……どうして奥さんが夫を」
「みさえさんは殺し合いに乗っていました。既に正気を失っていたと思います。
『優勝して、見せしめに殺された娘を、それまでに死ぬであろう家族を生き返らせて、家族みんなでまた暮らす』と言っていました」
「……」
MURは余りの事に言葉を失う。
開催式の惨劇、家族の悲痛な叫びは今も良く覚えている。
その家族の一人、殺された赤子の母親が、正気を失ったとは言え、自分の娘を殺した連中の言いなりになって殺し合いに乗るとは。
家族みんなでまた一緒にと言いながら自分の夫を撃つ矛盾に気付かない程狂って居た、と言うのか。
「北沢さんも撃たれそうになった時、野原さんがみさえさんを後ろから刺しました」
「……っ」
「そのまま、二人一緒に息絶えたんです」
「……何て事だゾ」
悲劇と言う他無い、とMURは思う。
野原ひろしは捜し求めていた愛妻に裏切られ、撃たれ、そして恐らくはこれ以上の妻の凶行を止めようとして刺殺し、自分も果てた。
平和に暮らしていただろう一家が、この馬鹿げた殺し合いに巻き込まれ、一家全滅と言う結末を迎えたのだ。
改めてMURは、殺し合いの運営連中への怒りが込み上げ、いつしか拳に力を込めていた。
「以上、です」
「ありがとう……大変だったな」
「いえ……」
MURはラトを労い、話は終わった。
「そう言えば、ノーチラス君はどこに」
「ノーチラス君なら、見張りをやってくれているゾ」
……
……
イベントホールの玄関で、村田銃を携えノーチラスは見張りに立つ。
それまではMURが担っていたが、ノーチラスが折角仲間になったのだから見張り位やると言って引き受けたのだ。
一応、交代の時間は決めては有る。
「静かだな……」
ノーチラスの立つ位置からは車一つ無い駐車場、そして川、遠くに会場を囲む断崖絶壁、彼から見て東北に、
現在は禁止エリアになり進入出来ないレジャー施設の有る丘が見える。
風と、風にざわめく草の音がノーチラスの耳に入る。
静かであった。
何気無く、ノーチラスは立っている位置から、左寄りの方角へ視線を向けた。
「何も無いよな」
そして視線を右に移そうとしたその時。
即頭部に冷たい物を押し当てられる。
「はい止まってぇ」
「……!」
「言っとくけどぉ今当ててんの本物だからね」
視界には入らないが自分の右手側に居るであろう、声から察するに自分と同年代もしくは年下の少女が、
間延びした口調では有るがはっきりと警告を発する。
即頭部に当てられているのは、恐らく銃口。
もしかすれば少女が脅しの為に嘘を点いていて銃では無いのかもしれないが、何にせよ下手には動けなかった。
恐らく建物の外壁沿いに玄関に接近してきたのだろう、植え込みのスペースが有るので、上手く身を隠しながら。
見晴らしが良いと思って油断していた――――ノーチラスは己の迂闊を後悔するも最早後の祭りである。
「ねえちょっと聞いても良い?」
「な、何だ?」
「見張りしてるって事は、中にお仲間居るの?」
「……」
正直に答えるべきか否か迷うノーチラス。
いきなり陰から銃を突き付けてくる者が友好的とは全く考えられない。
「ねぇ、ねぇってば? ……さっ、私、殺し合う気は無いよん」
「え?」
意外な言葉に少し驚くノーチラスだったが、簡単に信じる訳には行かないと気を取り直す。
「そんなの信じられると思うか?」
「じゃあ銃下ろすからぁ、こっち向いてお話しよーよ」
「……っ」
その言葉通り、即頭部の冷たい感触が消えた。
恐る恐るノーチラスは右手方向を向く。
そこには自分達や沙也のとは別の学校の制服に身を包んだ、犬か狼族の少女の姿。
小柄な体躯に似合わぬ物々しい散弾銃を所持しており、先程まで即頭部に当てられていたのはあれだったのかと、
ノーチラスは肝を冷やした。
「私は
原小宮巴。巴でいーよ。おにーさんは?」
「の、ノーチラスだ」
少女に続き自己紹介するノーチラス。
しかし巴の格好を良く見れば、白っぽい粉やら、血痕らしき物でかなり汚れており、
殺し合いに乗ってないと言う言葉に説得力を感じない。
しかし、現在のノーチラスに発言権は与えられていないようで巴が質問を続ける。
「ノーチラスさぁん、仲間居るの? ねぇ」
「……ああ、居るよ」
結局正直に答えてしまう。
心の中で中に居る仲間達に申し訳無いと思ったが、下手に逆らって機嫌を損ねると自分の身が危険だとノーチラスは判断したのだ。
巴は口調は無邪気だったが、言い知れぬ不気味さが有った。
「あっ、そっかぁ……あのさ、私と一緒に居る人がお腹痛い痛いになっちゃってて」
「? 仲間が居るのか?」
「うん」
巴が後ろに振り向き指を差す。そこには確かに外壁にもたれ掛かって座り込む男の姿が見える。
仲間を連れて居るなら、先程の殺し合いに乗っていないと言うのも信憑性が高まるとノーチラスは思う。
優勝出来るのは一人故、乗る気の者が徒党を組むのは考え難いからだ。
巴と共にその男の元へと向かうノーチラス。
「おーイッテェ……オイ、キッツイな……」
「タクヤさん、オッケーだってさ」
「いやまだ何も言って……ん? あんた、もしかして、MURさんと遠野さんのクラスメイトか?」
「何? 知ってんのか……?」
タクヤと言う名前を聞いて、MURと遠野から名簿に「KBTIT」として載っているクラスメイト「拓也」の事を思い出しノーチラスが尋ねると、
男は反応を示す。どうやら同一人物で間違い無いようだ。
(二人は、拓也は信用出来るって言っていた、なら、大丈夫か……?)
KBTITの人となりは聞かされているノーチラスは、先程思考した複数行動の事と合わせ、
この時点で巴及びKBTITは殺し合いには乗っていないと完全に警戒を解く。
いや、巴に関してはまだ完璧には心を許していなかったが。
「中に二人が居る。きっと喜ぶよ。肩を貸そう」
「漏らしちゃ駄目だよー」
「悪ぃな、二人共……」
余程苦しいのか既に一人で立ち上がる事もままならない様子のKBTITにノーチラスと巴が肩を貸し、
イベントホールの玄関へとゆっくり向かって行った。
◆◆◆
腹痛が一段また一段と悪化するにつれ、KBTITこと拓也はこの腹痛が便意の類の物では無いのではと思い始めていた。
確証は持てなかった故に巴にも、やって来たノーチラスにも何も言っていなかったが。
いや、怖かったのかもしれない。
腹痛はひでを倒した後、出現した謎の虫が体内に入り込んでから現れた。
あの虫が腹痛の原因となっている事は間違い無い、ただ、巴が言ってたように腹の中を食い荒らしている、
と言う訳では無いだろう、そうなっていれば今生きてはいまい。
やはり虫が毒を持っていたのだろうか。
なら、トイレに行く程度でどうにかなる物では無いのではないか?
なら、なら、自分は――――。
KBTITは内心、怖くて怖くて堪らなかった。
巴とノーチラスがKBTITを両側から支える形でイベントホールの中へと入る。
「拓也さん!?」
遠野が三人を見付け、KBTITの本名を呼ぶ。
「遠野か……」
「どうしたんですか? 大丈夫ですか」
「貴方、タクヤさんのクラスメイトさん?」
巴が遠野に訊く。
「はい、遠野と言います」
「ああ遠野さんね、タクヤさんから聞いてる。
タクヤさん、お腹痛くて大変なのよ。トイレ、どこに有る?」
「あっちの方に……」
トイレの場所を聞かれそれを指差して教える遠野。
とは言っても、もう目と鼻の先でわざわざ聞くまでも無い状況になっていたが。
三人は男子トイレの中に入って行く。
巴は言うまでも無く女子だがこの状況で男子トイレに女子が~などは気にするつもりは無かった。
「MURさんに知らせなきゃ(使命感)」
遠野は酷く苦しそうなKBTITの様子が心配になりつつも、MURにKBTITと巴がやって来た事を知らせに向かう。
「うっ……ぐおお、お」
男子トイレに入った途端、KBTITの腹痛は最高潮に達し、遂に動きを止めてしまう。
それと同時に、彼は意識が急激に揺らぐのを感じる。
余りの激痛のせいだろうか、いや、これは違う――――?
「おい、大丈夫か?」
「もう少しだよ? 後1メートルだよ?」
呻いて床にへたり込んでしまったKBTITにノーチラスと巴が声を掛ける。
しかしこの時のKBTITにはもう、二人の声は届いていなかった。
意識が、全ての音が、感覚が消えて行く。
何者かの声が、頭の中に響く。
――――そろそろだ。
――――本当に、本当に時間が掛かったが、そろそろ、支配が完了するぞ。
「……あ……何だ……お前……何、だ……」
「? え?」
「おい、どうした? おい?」
聞こえてきた「何者か」の声に、掠れるような声で問い掛けるKBTIT。
しかし、「何者か」の声が聞こえる筈も無い巴とノーチラスには、
突然彼が独り言を言い始めたようにしか聞こえず困惑する。
――――さあ、お前はもう必要無い。
――――肉体を、寄越せ。
「……―――――ッ」
その声が何者なのか、KBTITには分からなかったし、もう理解する為の思考力も無かった。
一気に闇に飲まれていくKBTITの意識。
それでも、自分の身に「何か」が起きて、これから良くない事が起こるのは辛うじて分かったから、
両脇に居る筈の二人に、精一杯の力を振り絞って伝えた。
「巴、ノーチラス、おれ、から、はな、れ、ろ――――」
そう二人に告げた直後、KBTITは完全に床に倒れ伏した。
「おい! 拓也さん! おい!」
「あらら」
トイレの床の上にうつ伏せに倒れ意識を失ってしまったKBTITを心配するノーチラスと、
面倒臭そうな表情を浮かべる巴。KBTITの意識を失う直前の言葉は二人には届いていたものの、
二人には何を意味する事か分からず結局言葉には従わなかった。
「離れろって、うんち漏らすからかな?」
「茶化してる場合か。まずいな、MURさん達に言った方が……」
ノーチラスがそう言いかけた時。
ビクッ
KBTITの身体が大きく揺れ動いた。
「ん?」
「……拓也さん?」
意識を取り戻したのかと二人は思った。その二人の目の前でゆっくりとKBTITは起き上がる。
しかし二人の声に反応する気配は全く無い。
「どしたの?」
巴が再び声を掛けるがやはり返事は無かった。
返事の代わりにある事が起きた。
KBTITの身体のあちこちから、皮膚を突き破り黒っぽい触手が生えた。
「「は?」」
突然の、予想だにしていなかった事態に巴とノーチラスの二人が間の抜けた声を出す。
その姿に二人は見覚えが有る――――巴の時とノーチラスの時で宿主に違いは有ったが、
紛れも無く、かつて戦った触手の怪物と同じ様相に、KBTITはなっていた。
「……あ゛あアあ……」
歪んだ声色で唸りながらゆっくりとKBTITは二人の方へ向き直る。
ゴーグルのせいで分かり難いが、自我はもう消え去っていると言う事は二人はすぐに察した。
察して、とにかく一旦狭いトイレから出た方が良いと判断し、巴とノーチラスは出口へと走る。
廊下に飛び出すと、遠野と彼から報告を受けKBTITに会いに来たMURがすぐ近くに居た。
トイレから必死な様子で飛び出した巴とノーチラスに、遠野とMURは戸惑いの表情を見せる。
「どうしたんだゾ?」
「何か有ったんですか? あれ、拓也さんは」
「はぁ、はぁ、た、拓也さん、が」
「まさかあんな事になるなんて」
巴とノーチラスがMURと遠野に状況を説明しようとした。
しかし、それはトイレの入口から黒い触手が何本も伸びてきた事により中断させられる。
変わり果てたKBTITの姿にMURと遠野は一瞬言葉を失った。
「こ、これは」
遠野が呻く。
KBTITがかつて戦ったひでと同じ、触手の怪物と成り果ててしまった事実に衝撃を隠せない。
一体何故、彼がこんな事になってしまっているのか。
余りの事態に、四人全員逃げる事を忘れ「それ」を考える事に気を取られてしまう。
「ウオア゛ァ゛アアア゛ア゛!!!」
すぐにそれどころでは無い事を四人は思い出した。
雄叫びを発しながらKBTITが四人目掛け突進してきたのだ。
かつて「触手の怪物」と呼称された小崎史哉とひでのように、右手から触手の束を出現させ、それを四人目掛け振り下ろす。
長く飛び出た触手の束は天井ボードを抉り、配線やダクトを破壊しながら、四人の居る位置の床に派手な音を立てて直撃した。
グシャアッ!!
幸いにも四人は二人ずつ分かれる形で左右に回避する事が出来た。
直撃した部分の床は大きく凹み、威力を物語る。
しかし。
「サイごのいっパツ、くれテヤルヨオラァアアア!!」
「「「「!!」」」」
脈絡の無い言葉を発しながら、KBTITは触手の束を左右に思い切り振り回した。
振り下ろし程では無いにしろ、太く重い触手の束は四人を軽く吹き飛ばしそれぞれ壁に強か身体を打ち付けてしまう。
四人のダメージはかなり大きく、痛みですぐには身動きが取れない。
「何? どうしたの……うわっ」
尋常ならざる音に、何事かと様子を見に来た沙也が惨状を目の当たりにして驚きの声を発する。
彼女だけでなく、サーシャ、フグオ、小鉄、ト子もやって来ていた。
MUR達にとっては最悪この上無い状況と化してしまう。
「みんな、来ちゃ駄目だゾ! 逃げ……」
逃げろとMURが叫ぼうとしたが、もう手後れで、KBTITは沙也達に向かって、勢い良く触手を伸ばした。
鋭利な槍の如き触手の先端が、とても生々しく嫌な音を立てて、二人の肉体を刺し貫く。
被害者は、フグオと沙也。
「キャ……プ……?」
「か、は……嘘……」
フグオと、沙也の胸元からそれぞれの肉体を貫いた触手に呆然とするフグオと沙也。
じわりじわりと、刺された場所から赤黒い染みが広がり床に同じく赤黒い液体が垂れ落ちる。
避ける事に成功した小鉄、サーシャ、ト子は、その様を見て、絶句した。
ずるりと、フグオと沙也の身体から触手が引き抜かれ、傷口から鮮血がどばっと溢れ出た。
「小鉄っ、ちゃ、ん」
血を吐きながら、フグオは小鉄の名前を彼の目を見ながら言い、崩れ落ちて、死んだ。
沙也もほぼ同時に、全て悟って諦めたような表情のまま、同じように崩れ落ちて、息が絶えた。
【鈴木フグオ@漫画/浦安鉄筋家族 死亡】
【君塚沙也@オリキャラ/自由奔放俺オリロワリピーター 死亡】
【残り 10人】
「フグオ、フグオ……この野郎!!」
友人を眼前で殺され、小鉄が激高した。
MURやサーシャが制止の声を上げるが、聞き入れず、怒りに任せKBTITに突進していく。
その目には涙が滲んでいた。悪乗りして良く虐めていたが、フグオは大事な友達だったのに、よくも、よくも――――!
KBTITの触手を持ち前の健脚で避け、彼の懐に潜り込んだ小鉄は、持っていたドスを貧相な左太腿へと思い切り突き刺した。
「ぐおおおオオオおオ!!」
大きく悲鳴を上げよろめいたKBTIT。しかし動きを完封するには至らず、KBTITの右手が小鉄の首根っこを掴んだ。
ぐしゃり。
「あっ」
目と鼻の先で、小鉄が頭から壁に叩き付けられ、頭部が四散する様を見せられ、MURが口を開いたまま絶句する。
ノーチラス、遠野、サーシャ、ト子も、同様の反応を示した。
【大沢木小鉄@漫画/浦安鉄筋家族 死亡】
【残り 9人】
KBTITが何故怪物化したのかは分からない、だが、今の彼はもう元の彼では無く、
例えその命を奪ってでも止めなければ、自分達は皆殺しにされてしまうと言う事は分かる。
「拓也さん、止めろぉ!(建前) 止めろぉ!(本音)」
身体の痛みを堪えてMURは立ち上がり、Stg44突撃銃をKBTITに向け発砲する。
「サーシャ、ト子! 壁に寄れ!」
続いて立ち上がったノーチラスが、銃撃に巻き込まれないよう二人に命令した。
サーシャとト子は言う通りにしつつ、サーシャはローバーR9自動拳銃、ト子は遠野から譲り受けた、
コルト オフィシャルポリス回転式拳銃にて加勢。
ノーチラス、巴もそれぞれ持った銃で続く。
「これは……」
「何これ!?」
ラトと、彼を肩で支える樹里も駆け付けた。
「あれって……」
総攻撃を浴びている触手の生えた男に樹里が釘付けになる。
触手の様はかつて同行者の蓮を殺した時のひでやその傍に転がっていた小崎史哉の死体と同じだが、
今前方に居るのは全く別の男だ。どうなっているのか。
いや、そんな事よりどうやら今はあの男を全員で倒さなければならないらしい。
ラトと樹里は程無く状況を把握し、銃を構えMUR達に加勢した。
「ヴオオオオオオオオオ!!」
全身に拳銃弾、散弾、小銃弾を満遍無く浴び、血肉を飛散させ、苦鳴を上げるKBTIT。
だがそれでもまだ彼の動きを止めるには至らない。
「寄生虫」の力によりその生命力、耐久力は異常な程高まっていた、そのせいである。
「モウユるさねェからナぁ!!」
KBTITは矛先を樹里に向ける。彼女に向けて触手の槍を伸ばす。
「危ない!!」
ラトが叫び、樹里を突き飛ばした。
樹里の代わりに、ラトが串刺しとなった。
包帯を巻いた腹部に、更なる穴が空く形となり、ラトは大量に吐血し悶絶の表情を浮かべる。
「ラト!!」
「ラト君!!」
サーシャとMURが叫ぶ。
ラトの身体から触手が引き抜かれ、その小柄な体躯がボロ切れのように床に投げ出される。
そしてKBTITは間髪入れず、身体を捻り、次の標的――――遠野に向け、ラトと同じく触手の槍を突き刺した。
「あっ……ぐぁ……」
「遠野!!」
「遠野さん!!」
悲痛な声を上げる、MURと樹里。
「……もう、もう……やめて、下さい……拓也、さん!!」
串刺しになったその体で、遠野はKar98Kを構え、薬室に残った最後の一発を発砲した。
「ウグ、ア」
その最後の一発は、KBTITの心臓部分を撃ち抜いた。
頭を撃ち抜く事も出来た、だが、やはり今までクラスメイトとして共に過ごしてきた人物の顔を吹き飛ばす勇気は出なかったのである。
例え、自分に致命傷を与えた張本人だったとしても。
その一撃が止めになったのか、遂にKBTITはその動きを止め、がくりと両膝をついて床に倒れた。
同時に、触手に貫かれたままの遠野も床に伏す。
――――まさか、こんなに早く壊れてしまうとは。
――――役立たずめ、さっさと次の肉体を――――
KBTITのズタズタになった傷口から、鮮血に塗れた虫が這い出てくるのを、巴が見付けた。
「あっ」
「どうしたゾ巴ちゃん」
「それ、タクヤさんの身体に入った虫が」
「……! 確か、拓也さんの様子がおかしくなったのは」
「うん、あの虫が身体に入ってから」
巴からそれを聞いて、MURは閃き、叫ぶ。
「その虫が元凶だゾ! 潰せ!!」
その声に、ト子が応えた。
床に赤い痕を残しながらずりずりと這うその虫を、思い切り、何度も何度も踏み付けた。
――――な、何? 何だと?
――――まさか、そんな、おい、やめろ、やめろ
――――ヤメロ、ヤメロ、ヤメ、ヤメロ、ヤ――――メ――――
生物の肉体に入り込みそれを支配すれば絶大な脅威となる「寄生虫」も、何も無い素の状態では、
単なる虫と大差無く、呆気無く潰されてしまった。
こうして、触手の脅威はようやく終わりを告げた。
「……う……ぁ……俺は……」
「タクヤさん? まだ生きてるの? って言うか元に戻ったの?」
KBTITはまだ辛うじて息が有った。
触手の怪物では無い、元の彼としての意識を取り戻していた。
ラトも、遠野も、まだ息が有る。
だが、三人共、もう長くは無い事は明らかだった。
KBTITと遠野の元にMURと巴、ラトの元にノーチラス、サーシャ、ト子、樹里が寄り添う。
「お、俺は……」
「悪い虫に身体を操られてたんだゾ……」
「あの時の虫、か……少し、だけ……がはっ……記憶が、有るんだ……俺は、何て、事を……」
フグオ、沙也、小鉄を殺した時の事、ラトと遠野に致命傷を負わせた時。
操られていた時の記憶が、それも嫌な場面ばかりピンポイントで、KBTITには僅かながら残っていた。
「拓也、さん、貴方は……ゲホッ、ゴホッ!」
「喋っちゃまずいよ遠野さん」
「良いんです、言わせ、て、下さい……拓也さ、ん、貴方は悪く、ありません……あな、たは、はぁ、はぁ、
操られていただけ、です……」
「遠野……」
操られていたとは言え、最早助からぬ傷を負わされたのにも関わらず、遠野はKBTITの事を気遣った。
それを聞いたKBTITは「本当に人間の鑑だ」と遠野の優しさに感謝し、ふっと笑みを浮かべる。
また、仲間を殺し、傷付けた罪悪感から、少し、ほんの少しだけ救われたような気がした。
「MUR、遠野、みん、な……俺、を……人間に戻して、くれて……あり、がと、ナス……」
「拓也さん!」
「タクヤさん……おやすみ」
怪物と化した自分を「人」に戻してくれた仲間達に感謝しながら、KBTITは逝った。
【KBTIT@ニコニコ動画/真夏の夜の淫夢シリーズ/動画「迫真中学校、修学旅行へ行く」 死亡】
【残り 8人】
「……MUR、さん……僕も、もう……」
「遠野……!」
遠野の命もまた、もうすぐ潰えようとしていた。
血に塗れた口で、最期のメッセージをMURに伝える。
「どうか、この殺し合い、から……生きて、脱出、して下さい」
「ああ、当たり前だよなぁ?」
「先輩に、怒られて、しまうかもしれ……ません、が……僕は……せん、ぱいの……ところ……に……――――」
「……遠野」
台詞が言い終わる事無く、遠野の息は絶えた。
これで愛する野獣の元へ行けると思い、安心したからか、その死に顔はとても安らかで、
口元の血が無ければ眠っているようであった。
MURは、声を押し殺して泣いた。
巴はその様子を黙って見ていた。
【遠野@ニコニコ動画/真夏の夜の淫夢シリーズ/動画「迫真中学校、修学旅行へ行く」 死亡】
【残り 7人】
そして、ラト。
彼の傷もまた、手の施しようが無く、クラスメイト達が見守る中ゆっくりと命が消えて行く。
「ラト……」
「サーシャさん……また、会えたのは、本当に、嬉しかった……」
「私も……だよ」
これで最期だと言う事を察した話し方が、サーシャはとてもとても悲しかった。
以前の殺し合いで、ゲームが始まる前に死別して、何の因果かお互いに蘇生し、この殺し合いにて再会した。
しかし、また今ここで彼と死に別れようとしている。
これは神様の悪戯なのだろうか、死なないで、死なないで――――サーシャは泣き叫びたかったが、
そんな事をしてもどうにもならない事位、分かっても居る。
「皆……どうか……生きて……く……れ……」
ラトもまた、力尽きた。
サーシャは、彼の身体に顔を埋め、嗚咽を漏らした。
他の三人も、沈痛な面持ちを浮かべ、ラトの、いや、死んでいった仲間達を悼む。
突如起きた騒乱は、大きな爪痕を残し、沈静した――――。
【ラト@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル 死亡】
【残り 6人】
【午後/D-5イベントホール】
【MUR】
【貝町ト子】
【ノーチラス】
【サーシャ】
【北沢樹里】
【原小宮巴】
【生存者 残り6人】
最終更新:2015年04月13日 23:03