88話 感傷リフレクト

KBTITの突然の怪物化により巻き起こった戦闘、その末に、イベントホール内は死屍累々の有様となった。
鈴木フグオ、君塚沙也、大沢木小鉄、ラト、遠野、KBTIT、元々有った吉良邑子の死体と合わせると、
実に七体もの死体が一つ屋根の下に転がっていると言う惨状。
必然的にホール内には死臭が漂う。

「死体だらけだねぇ」
「おっ、そうだな……」

巴がMURに話を振り、それに静かに返すMUR。

「拠点を移動した方が良いんじゃないか?」

ト子がMURの元にやって来て提案する。
死体は片付けきれない。何より、仲間の死体をいつまでも目にしていては皆の精神衛生的にも好ましく無かった。
死臭も充満してきておりイベントホールは最早、拠点として使うには厳しい状態に有った。

「他の皆……ノーチラス君と、サーシャちゃんと、樹里ちゃんは」
「もう是非は聞いてきた。三人共、承諾してくれたよ。勿論、割り切れている様子じゃ無かったが」
「そうか……」

仲間達の死体をそのままにするのは、気が引けても仕方無いだろうとMURは思った。
ト子は元々「クラスメイトとは余り仲は良くない」と言っていたように、特に感傷的になっている風では無かったが。
一応、MURは巴にも確認を取り、イベントホールを離れる事に同意を得られた。
死んでいった仲間達の荷物から必要な物を回収した後、六人はイベントホールを後にする事に決める。

「……あ、そう言えば」

気になっていた事が有った事を思い出した樹里が、ト子に声を掛けた。

「貝町さん、あの」
「何だ?」
「何か、分解してたみたいだけど……むぐっ」

台詞の途中で、樹里はト子に口を塞がれる。
ト子はもう片方の手の人差し指を自分の口の前で立て、静かにするように樹里に命じる。
何事かといった表情を浮かべるノーチラス、サーシャ、巴。
MURはト子の行動の理由が分かっていた。MURとト子はアイコンタクトを取り、自分達が今まで調べてきた事を、
他のメンバーに話す時が来たと判断する。

「あー、みんなこっちに来てくれ」

ホールの奥、死臭も余り漂っていない場所にMURとト子は他のメンバーを集めた。
二人は鉛筆とノートを取り出して、他四人に筆談する事を要請する。
戸惑う四人であったが、重要な事には違い無いとすぐに察し、それぞれ鉛筆とノートを取り出した。

〈みんな、ト子ちゃんの分解していた物が何か気になるだろう〉

そう書いてMURが四人にノートを見せる。
最初にト子に訪ねた樹里を始めノーチラス、サーシャが頷くが、巴はクエスチョンマークを浮かべる。
巴はメンバーの中では新参さった上、ト子の分解していた物も気にしてはいなかった。

〈あっ、そっかぁ……巴ちゃんにもこれからちゃんと説明するゾ〉
〈一体何なの?〉

巴が催促する返事を書き、ト子がいよいよ核心を四人に説明し始める。

自分が分解していたのは参加者の首にはめられた首輪であり、それを解析し、解除法をどうにか編み出した事。
ただ、その方法が本当に会っているのかどうか、最初の希望者で試さなければいけない事。
最初に首輪解除を望む者は言わば「実験台」であり、失敗して死ぬ事を覚悟しなければならないという事――――を、
ト子は筆記して四人に伝えた。

四人は素直に、ト子への賛辞の言葉をノートに書いた。
不確定要素がまだ強いにしても、参加者を殺し合いに縛り付ける首輪について解除方法の目星を付けられるまでに調べ上げる等、
誰でも出来る事では無い。ト子が機械に強いと言う事は、ノーチラス、サーシャ、樹里も知っていたが、
ここまで優秀だったとはと、ト子を褒め称えた。

ト子は少しだけ顔を赤らめつつ、次に筆談の理由について書き綴る。

〈筆談の理由についてだが、首輪の中に盗聴器が仕掛けられているからだ。
参加者同士の会話は全て運営に筒抜けになっていたらしい〉
〈成程ね、運営に首輪外そうとしている事がばれたら、マズイもんねぇ〉

巴がノートに書いてト子とMURに見せる。
他の三人も、巴と同様の思考に至っているようだ。

〈そうだよ、巴ちゃん。遠隔操作されて首輪起爆されちゃうヤバイヤバイ……〉

MURが返事を書く。
ここで、サーシャがト子とMURに質問する。

〈だけど、どうやって首輪を手に入れたの?〉

解析に使った首輪の入手経路についての質問であった。
無理矢理外そうとすれば爆発する首輪をどうやって手に入れたのか、ノーチラス、樹里、巴も気になっていた。
その質問にはMURが答える。
B-6時計塔にて、ケルベロモンと言う巨大な犬に襲われ、その時同行していたアルジャーノンを殺害されるも、
返り討ちにしてその首を落として手に入れた事、それをノートに書いて四人に伝えた。
また、その時から、厳密にはアルジャーノンが目の前で殺されるのを目の当たりにしてから、フグオが塞ぎがちになってしまった事も一緒に書く。

〈アルジャーノンが目の前で殺されてから、フグオ君はずっと落ち込んでいたんだゾ。
目の前で一緒に居た仲間が酷い殺され方をしたんだから無理も無いとは思うが……。
小鉄君と再会した時のフグオ君は本当に嬉しそうでほっこりしたゾ〉
〈小鉄君も嬉しそうだった〉

フグオの友人小鉄と行動を共にしていたサーシャも、MURと同じように二人が再会した時の事を思い返す。
だが二人はもうこの世には居ない。
フグオは触手によって刺殺され、小鉄に至っては頭部が破壊され死に顔すら無いのだ。

〈話が逸れちゃったゾ……とにかく、首輪の入手経緯についてはそう言う事なんだゾ〉

首輪の入手経路についての話が終わった所で、ト子が本題を切り出す。
最初に首輪を解除して欲しい者は誰か四人に尋ねる。
ノーチラス、サーシャ、樹里、巴は互いに顔を見合わせた。
先に説明された通り、最初に首輪の解除を希望する者は、失敗による死の危険性がかなり高いのだ。
もっとも、解除失敗による死の危険は全員平等に孕んでいるとも言えたが。

〈待つんだゾト子ちゃん〉

しかし、突然MURがト子に物言いを行う。

〈MURさん?〉
〈まだみんなに選択させるのは早い気がするゾ。
これから拠点を移動しようとしていた所なんだから、もう少し考える時間を作った方が良い〉
〈そうか〉
〈みんな、今すぐに結論を出してくれとは言わない。今から移動もする事だし、考えておいてくれないか〉

首輪について説明したばかりでいきなり誰から解除すると言うのを聞くのは拙速であると考えたMURは、
四人に考える時間を与える事にした。
いざと言う時はMUR自ら最初の首輪解除試験者になるつもりではあったが。

〈一旦ここで首輪については話を終わろう。MURさんの言う通り、考える時間が必要だろうからな。
筆談はここで終わりだ、これからは首輪の話題は避けつつ、普段通りに喋ってくれ〉

ト子が四人にそう伝え、首輪についての筆談は一旦切り上げとなった。

「……移動するにしても、どこへ向かうんだ?」

ノーチラスがMURに尋ねる。
MURは自分の地図を取り出し、次の行き先の目星を全員で協議する。

結果、現在位置の南、D-6エリアの廃ビルに、次の行き先を決める。

荷物を纏め、準備が出来次第、六人は出発する事にした。
日は傾き、既に夕方に差し掛かっていた。


【夕方/D-5イベントホール】

【MUR】
【貝町ト子】
【ノーチラス】
【サーシャ】
【北沢樹里】
【原小宮巴】
【生存者 残り6人】


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最終更新:2015年04月28日 11:10