90話 SWORDSMEN IN THE PLAIN
MUR、貝町ト子、ノーチラス、サーシャ、、北沢樹里、
原小宮巴の六人がそれまで拠点として使っていたイベントホールを離れ、
南下して廃ビルへとやって来てから程無くの頃、午後の六時を回り、第三回定刻放送が始まった。
放送主は
第一放送と同じじゅんぺい。相も変わらず酷い滑舌で放送内容を読み上げていた。
禁止エリアは四つとも、廃ビルの有るD-6エリアからは外れていた。
しかし、三回の放送を経て、禁止エリアの数は実に12エリアとなり、会場のほぼ三分の一を占める有様。
確実に行動可能な範囲は狭まっていた。
そして、死者の発表。ここでMUR達は、このゲームにおいて、最早自分達しか生き残っていない事を知る。
放送終了後、廃ビル二階の、元は会議室として使われていたと思われる、
古びた長テーブルと錆の浮き出たパイプ椅子が置かれた広い部屋で、六人は暫く無言だった。
「生き残っているのはもう俺達だけになってしまったのかゾ……」
最初に言葉を発したのはMUR。顔を両手で覆い、落胆した様子であった。
生存者が自分達だけになってしまった、と言う事も有るが、
自分のクラスメイトはもう誰一人として生き残っていないと言う現実も、彼に重く伸し掛った。
「もう私達しか居ないとなると、時間切れとの戦いになるな」
ト子が懸念を述べる。開催式でまひろが言っていた「制限時間」の事だ。
12時間、新たな死亡者が出なかった場合は、生存者全員の首輪を爆破し、優勝者は無しとなる。
最早この殺し合いには殺し合う気の無い六人しか居ないのだから、このまま何も無ければ、いずれ全員死ぬ運命に有る。
ト子が自分のノートと鉛筆を取り出す。
鉛筆の芯がかなり丸くなっていた為、樹里からナイフを借りて削り尖らせる。
そしてノートに文を書く。全員がそれに注目した。
〈そろそろ結論を出さなければならん、最初に首輪の解除を試したい奴は誰だ〉
一度保留となっていた、首輪解除方法の最初の希望者の話。
時間切れが迫る今、保留にしておく事は出来ない、結論を出さなければとト子が文面で宣告する。
そして、樹里が挙手をした。
〈良いのか?〉
ト子が念を押す。樹里はト子を見据えて頷いた。
自分はかつて大罪を犯し、一つのカップルを不幸に陥れた。
そんな自分が今更危険を避けて安穏とする、などとは思わない。
例え、失敗して死ぬ事になろうともそれは自分への罰として受け入れよう――――樹里は翻意するつもりは一切無かった。
〈みんな、異論は無いか?〉
MURがノーチラス、サーシャ、巴に尋ねる。
三人とも、異論は無いようだった。
〈よし、始めよう〉
そう書いてト子が締め括った後、いよいよ解除方法を試す時がやってきた。
樹里をパイプ椅子に座らせ、ト子が工具を手に樹里の傍に立ち、少し離れた位置で、他のメンバーが見守る。
ト子が樹里に合図を送った後、作業が始まった。
ト子が工具を持つ両手に全神経を集中させる。
目を瞑り、じっと待つ樹里。待った先に有るのは首輪の呪縛からの解放か、死か。樹里の運命はト子に委ねられている。
会議室の中には、首輪と工具が擦れる細かい金属音、六人の呼吸音の二種類の音が響いていた。
「……っ……」
自分でも知らない内に、樹里は両膝の上に置いた両手拳を強く握り締めていた。
心臓の鼓動も尋常では無い位早まっている。いつも陸上競技で走った後で感じる心地よいそれとは全く別物の気持ちの悪い鼓動の早さ。
――――恐い。とても恐い。
先程の覚悟をいとも容易く上塗りし潰してしまう程の恐怖が樹里の心の奥底から這い出て、蝕む。
大声で叫んでしまいたいがそれも出来ない。
(駄目、駄目、恐い……! 恐怖を、抑えきれない!)
死ぬ事になろうとも、などと決心しておいて情けないとは樹里も思ってはいたが、それでも恐怖はどうしようも無かった。
最初の死の時にはろくに感じなかった死の恐怖を樹里は今まざまざと実感する。
早く終われ。早く終われ。早く終われ。耐えられない。心が張り裂ける。早く終われ――――。
目を固く閉じた暗闇の中、樹里は心の中で叫び続け、恐怖と必死に戦った。
そして、勝利の女神は。
樹里に、いや、この場に居る全員に微笑んだ。
床に転がる、それまで樹里の首に付いていた筈の、死の首輪。
以前の殺し合いの時からずっと有った首元の感触が消え、樹里が目を開ける。
「あ……」
首元に手をやると、もう、首輪はどこにも無かった。
解除に成功したのだ。
全員が歓声を上げようとして、慌てて口を塞いだりしてそれを抑える。
〈落ち着け、落ち着け……まだ声を出すのはマズイ、分かるな?〉
ト子がノートに書いて全員に見せる。一番声を出して喜びたかったのは他でも無いト子だったのだが。
自分の知識と技術が間違いでは無かったと証明出来たのだから。
最早躊躇う理由は無く、MUR、サーシャ、巴、そしてト子自身と、あっと言う間に全員が首輪の呪縛から解放された。
今度こそ歓声を上げようとした一同だったが、MURが制した。
急いでノートに一文を書き全員に見せる。
〈首輪が全員解除された事で運営がどう動くか気にならないか?〉
「確かに」とMURに賛同する一同。
運営側が参加者の動向や生死を把握するのに首輪を使っているのは想像が付くが、
首輪が解除された場合は運営にはどう伝わるのか。
今となっては時間切れも遠隔操作による爆破も気にする必要は無い。
なら、運営がこれからどう動くのか様子を見ようではないかとMURが提案した。
全員がそれに賛成し、息を潜めて様子を窺い始める。
どこに有るのか分からない、運営本部の場所を知る手掛かりにも成りうる。
終結の時は確実に近付いていた。
どのような結末を生存者6人は迎えるのか。
【夜/D-6廃ビル二階会議室跡】
【首輪全員解除】
【MUR】
【貝町ト子】
【ノーチラス】
【サーシャ】
【北沢樹里】
【原小宮巴】
【残り 6人】
最終更新:2015年05月24日 23:24