22話 死ぬのか生きるのか淵を行ったり来たり
銃撃された腹からは止めどなく血が流れ落ちる。
止血しないといけないのは分かっているがそんな道具はどこにも無い。
ふらふら、ふらふらと、生気の抜けた顔で看護師の女性、南遊里は森の中を歩いていた。
先刻同行者を殺した猫の少年からは逃げられたようだがこのままでは出血多量で死ぬ。
「はぁ、はぁ……」
目が霞む、足に力が入りにくくなってきている。
確実に血が失われている。
ばた。
遊里は転んで倒れ込んでしまう。
「お、起きなきゃ……」
起き上がろうとするが上手く身体に力が入らない。
立ち上がれないのだ。
意識も遠のいているような気がする。
ああ、ここで死ぬのか、と遊里は諦念を抱いていた。
それもいいかもしれない、無残に殺されるよりはここで眠るように逝く事が幸せかもしれない、とも思っていた。
「う……う……」
夜勤明けで疲れきって酷く眠い時の感覚に似ていた。
このまま眠ればこの殺し合いからも解放されるだろうか。
遊里はそのまま目を瞑り意識を手放した。
倒れた遊里の傍に一人の影が立ったのだが彼女はそれには気付かなかった。
◆◆◆
「……?」
遊里は目を覚ます。
どうやらまだ自分は生きているらしい。
非常に気だるく頭がぼーっとするが、とにかくまだ命はあるようだった。
「気が付いたか」
「あ……」
見上げると、黒い毛皮の獅子獣人の男が立っていた。
白衣を着ているがその下は軍服だ。
記憶が確かなら、海軍の士官制服だったと思うが。
「一応、止血処置をして包帯は巻いておいた。だが、まだ安静にしてた方が良い」
「あ、ありがとうございます……あの、あなたは……」
「……添津武吉。海軍で軍医をやっている」
「軍医……」
「君の名前は?」
「南遊里です、看護師をやっています」
「そうか……君の傷は銃創だが、何があったのか良ければ聞かせて貰えないだろうか」
「はい……」
自分を治療してくれたのだから信用しても良さそうだ、と、遊里は今までの経緯を武吉に話す。
石清水成道と言う猫の少年に遭遇し、その少年が殺し合いに乗っていて同行していた竜錬アイが殺害され、
自分も重傷を負わされたがどうにか振り切ってきた事。
竜錬アイの友人の狐閉レイナと言う人が機械に詳しいらしく、もしかしたら首輪を外せるかもしれないと言う事。
――実を言うと、もしかしたら最初に撃たれた時点ではアイはまだ生きていたかもしれないが、
自分は恐怖に駆られアイを置いて逃げ出してしまった。あの状況でアイが生き延びられた可能性は限りなく低いだろう。
非難されるのを恐れて遊里は余り正直には話せなかった。
「そんな事があったのか……災難だったな」
「はい……」
「私もこの殺し合いを潰したいと思っているんだ、良ければ一緒に行かないか」
「そ、添津さんが良ければ」
「分かった……ところで、武器になりそうな物を持っていないか?」
「武器、ですか? いえ、私の支給品、ゴボウだったんで」
「ゴボウ」
「10本入ってます、バッグに」
「……」
確認してみると確かに太いゴボウが10本、遊里のデイパックに入っていた。
叩かれれば痛いだろうが致命傷は到底負わせられないだろう。
主催者はこんな物を渡して一体どうしろと言うのか。
「私の支給品は君を治療するのにも使った医療キットだったからな、武器になる物が欲しいと思ったんだが」
「すみません……」
「いや、君が謝る事じゃないが……何にせよ君はしばらく動かせない、しばらくここにいよう」
「はい……」
処置したとは言え遊里はまだ下手には動かせない状態だった。
もうしばらく様子を見る必要がある。
武吉と遊里は危険ではあったが今は森の中でじっとするしか無かった。
【E-6/森/早朝】
【南遊里】
[状態]腹部に被弾(処置済)、貧血気味、精神疲労(中)、地面に寝かされている
[装備]無し
[持物]基本支給品一式、ゴボウ(10)
[思考]
基本:殺し合いはしない、生き残りたい。
1:添津さんと一緒にいる。
2:首輪を外せそうな人を捜す。狐閉レイナさんを特に。
[備考]
※狐閉レイナの情報を得ました。
※石清水成道を危険人物と認識しました。
【添津武吉】
[状態]健康
[装備]無し
[持物]基本支給品一式、医療キット
[思考]
基本:殺し合いはしない。脱出手段を探す。
1:南遊里を保護。
[備考]
※狐閉レイナの情報及び石清水成道の外見の情報を得ました。
《人物紹介》
【添津武吉】 読み:そえづ・たけよし
海軍軍医少佐。40歳。黒い毛皮の獅子獣人で眼鏡をかけている。
冷静かつ穏やかな性格で医術の腕も確かなため信望は厚い。
既婚で娘が二人いる。
最終更新:2013年03月20日 17:19