@ミストラルシティ…の地中奥深く
???「ようやく回収が終わった。まさか数年もかかるなんて…」
彼の手に握られた短剣に埋め込まれた鉱石が光り輝く。
その光が周辺を照らし出す。
ここはミストラルシティの地下に広がる空間。
自然に生成されたものか,それとも…
いずれにせよ,彼の眼前にそびえる建造物は明らかに人の手によるものだ。
もっともこの地下空間に建造物を建てることが人為的に可能かどうかは想像もつかない。
???「俺はいったんメルディアシールに戻る。後の手配はわかってるよな」
指示を出した先にいた小柄な女は小さく頷いた。
次の瞬間,短剣を持った男は忽然と姿を消した。
一瞬の間に!まるで…魔法のように!
小柄な女「さてと」
彼もまた歩き出す。そして気付く。
小柄な女「どうやってここから出ようか…やっぱり不幸だー!」
@数日後
喫茶店「かざぐるま」本店は,今日も静かな朝を迎えていた。
にろく「…」
マスターであるにろくもまた,静かなひと時に思いを重ねていた。
Nとの戦いを経て,世界は大きく変わった。
俺も,秘密諜報部とのつながりが断ち切れて,本当の人生がスタートしたと感じている。
しかしなぜだろう,この満たされない感情は…
俺にはなにか足りないものがある…いや,えてして人は充実した毎日を平凡ととらえ,それ以上を望んでしまうもの。
そうではいけない,俺には俺の大切な毎日がある。
…
……いや待てよ。やっぱり欠けてるものがあるじゃないか!!
にろく「…なるがいない!」
@モゴラ大陸内陸部
にろく「日が暮れそうだ…急ぐぞ」
ディック「ねぇ!まだつかないの!もうへとへとだよぉ...」
二人は今、火の国アルバンダムを目指し歩いていた。
にろく「前にキノから聞いた情報。ナルが異国の者とミストラルシティにいた話から推測した結果」
ディック「その異国の者が来ていた服の紋様がタウガス共和国の伝統的な織物にある意匠に似ていたと」
にろく「ナルの行方不明とその者の因果関係は定かではないが、他に有力な情報がない今、調査する意義は高い」
モゴラ大陸は文化的な特徴から東と西に分けられる。
近代的な発展を遂げた東部、そして今もなお古の生活様式が残る西部。
火の国アルバンダムはその境目、モゴラ大陸の中央に位置しているのだ。
タウガス共和国は大陸の西部、そのすべてを占めている。
にろく「まずはアルバンダムで情報収集だ。タウガスに入国するには、アルバンダムを経由する必要があるからな」
@火の国アルバンダム~職人街~
その通りには数多くの武器や道具が並べられた露店が連なっていた。
奇妙な刀身をした剣、七色に変わる光玉、絶えず形状が動き続けるマント。
ディック「へぇ、この街面白いものがたくさんあるね」
にろく「ディック、ビンゴだ」
にろくが指さす先、そこには鍛冶屋があった。
相応の歴史を抱えたことが想像できる石造りの建物は、長年にわたり武器を鍛えてきたことが窺える。
カーン、カーンと熱く輝く鉄をたたく音が聞こえてくる。
にろく「失礼、あなたに聞きたいことがあるのですが…」
煤だらけの男「ちょっと待っておれ。今打ち込み中じゃ」
にろく「なら、その奥に座っているお前、ちょっといいか?」
ディック「え!?お前って…」
ボルク「あれ、にろくにディック。うちの店に何か用?」
@火の国アルバンダム~大刀剣鍛冶屋『スープレックス』~
ボルク「ナルを探しにねぇ…そんな目撃情報だけでよくここまできたね」
ディック「ほんとだよ、それに付き合ってる俺の身にもなってくれ」
にろく「それで、聞きたいんだが、この紋様に心当たりはないか?」
ボルク「どれどれ。んー確かにタウガス様式の特徴はあるけど…」
ディック「けど?」
ボルク「見慣れない紋章だよ…」
ディック「ボルクでもわからないなんて…って別にボルク専門家じゃないよね」
ボルク「あぁ!」
すると鉄の打ち込みが終わったのだろう、煤だらけの男がのそっと近寄ってきた。
ボルク「でも親方ならわかるかも!なんせ今年で三百歳になるんだもの!」
親方と呼ばれた男が覗き込んできた。
煤だらけの男「馬鹿もん!まだ二百九十九歳じゃ……っと、これは魔導の民の紋章じゃないか。今時珍しいのう」
ディック「…え、三百歳って化けもんやんけ…」
にろく「おい!ドワーフの長命者だぞ!失礼な言葉を使うな!」
ディック「ほげぇ」
にろく「魔導の民とはいかなるものか、どうか教えていただけないでしょうか」
煤だらけのドワーフ「よかろう。まずは…」
二人のやり取り見守るディックとボルク。
ディック「あのおっさん、偉い人だったの?」
ボルク「知らなかったよ。鍛冶の腕は確かなんだけどボケてるのかと…三百歳ってのも嘘じゃないんだ、きっと」
ディック「長生きしてるだけあって物知りなんだね。そっか、
にろくはあの爺さんを訪ねにきたのか」
そうこうしているうちにににろく達の会話が終わったようだ。
にろく「ありがとう。早速出発することにします」
煤だらけのドワーフ「ちときつい道中になるじゃろう。ボルク、せっかくじゃ彼らと共にさせてもらうんじゃ」
ボルク「親方の命令とあれば…了解した!」
@タウガス共和国~ドゥリンバイ・グリン平原
ボルク「アルバンダム出国から3日…お前ら気をつけろよ、最近タウガスでは未元獣の生き残りが出現するって噂だ」
にろく「ああ、それにしてもお前がこんなに頼りになるなんて思いもしなかった」
ディック「いつだか俺の命を狙いに来たってこと、忘れてないからな!」
ボルク「おいおい、あの時のことは前に謝っただろ」
ディック「冗談だよ、俺も頼りにしてるぜ暗殺者さん♪」
ボルク「勘弁してくれよ…それにしても、アルバンダム出国から3日…お前ら気をつけろよ、最近…」
にろく「…」
ボルク「…」
ディック「いつだか俺の命を狙いに来たってこと、忘れてないからな!」
にろく「いつからだ…?」
ボルク「…感覚的には数十回…この平原の光景もかなり前から変わっていない…ような…」
ディック「冗談だよ、お前も頼りにしてるぜ暗殺者さん♪」
ループしている、その事実に気づいた一行(一人を除く)。
ディック「いつだか俺の命を狙いに来たってこと、忘れてないからな!」
ディック「冗談だよ、お前も頼りにしてるぜ暗殺者さん♪」
ボルク「誰かの能力か…?」
周囲に気を張るも、ここにいる三人以外の気配は感じ取れない。
にろく「…そうか!これがドワーフの親方から聞いたトラップだ!」
ボルク「どういうことだ?」
にろく「俺たちが向かう目的地までには侵入者を阻む障害が備えられているって話だ」
ボルク「精神操作系のトラップってことか。俺たち自身の意識にかかったのは自力で解除できたが、おそらくこの平原からの脱出するには根本的な解決が必要だろう?どうやって解除する?」
にろく「そうだな…ディック、出番だぜ」
ディック「冗談だよ、お前も頼りにしてるぜ暗殺者さん♪」
ボルク「…まずはこいつを正気に戻さなきゃな」
ディック「冗談だよ、お前も」ドカッ!
ディック「っは!俺は何をしていたんだ!」
にろく「お前の能力が必要だ」
ボルク「一発かましてくれよ!」
ディック「…状況が見えないけど、やればいいんだね!」
果倉部流の構えをとり、精神を集中する。
ディック「俺に掴まって…『ディスコネクト』!」
ディック、にろく、ボルク達と外界との関係が一時的に遮断された。
それにより、平原に仕組まれていた”果啼きの草原”が三人には作用しなくなった。
ディック「あ!あっちに森が見える!さっきまではずーーっと平原が続いていたのに!」
ボルク「ふぅ…どうやら」
にろく「ここのトラップは突破できそうだな」
三人は草原の先に向かって再び歩き出した。
〇〇「へぇ…”果啼きの草原”を攻略するくらいの力はあるのか…」
小柄な女は、平原を見下ろす丘の上から三人の動向を窺っていたのだ。
〇〇「あの能力…トラップと相性が悪いな…”黒の館”…”燃ゆる天花”…うーん」
〇〇「よし、メルディアシールまで先回りしよう…これは幸運の兆しだ!」
小柄な女は右足のかかとを左足のかかとに二度ぶつける。
そうした後、彼女は脱兎のごとく走り出したのであった。
@時同じくしてとある街…
白衣に身を包んだ長身の男。無精ひげを撫でながらひとり呟く。
トキシロウ「なるほど...力を求める...ならば...」
彼の手には白表紙のぶ厚い本が抱えられていた。
そして卓上には大小さまざまな紙が散らばり、それらすべてに細かな文字と図が描かれ、文鎮代わりの虹色の鉱石がおかれていた。
そして一番大きな紙にはこう記されていたのだ。
『バトルグランプリ』…と。
トキシロウ「これで...世界は...僥倖の萌しに...」
大会の開催は…ほど近い。
最終更新:2017年05月07日 14:18